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MASA症候群(SPG1)とは?症状・経過・遺伝のしかたとL1症候群との関係を遺伝専門医が解説

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

MASA症候群(マサしょうこうぐん、OMIM 303350)は、X染色体にあるL1CAM(エルワンカム)遺伝子の病的バリアントで起こる「L1症候群」のうち、比較的軽い側の表現型です。知的障害、ことばの遅れ、足のつっぱり(痙性対麻痺:けいせいついまひ)、親指が手のひら側に入り込む内転母指(ないてんぼし)が主な特徴で、SPG1(エスピージーワン)やCRASH(クラッシュ)症候群という名前で呼ばれることもあります。原因遺伝子の働きはL1CAM遺伝子のページで、重症側にあたる水頭症はX連鎖性水頭症(L1症候群)のページで解説しています。この記事では、名称の整理、症状と経過、X連鎖性脳梁部分無形成(OMIM 304100)との関係、遺伝のしかたの要点をまとめます。

この記事でわかること
📖 読了時間:約13分
🧬 L1CAM・Xq28・X連鎖性
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. MASA症候群とはどんな病気ですか?

A. L1CAM遺伝子の病的バリアントによるL1症候群のうち、軽症側の表現型です。知的障害、ことばの遅れ、痙性対麻痺、内転母指が組み合わさって現れます。同じ家系の中に重い水頭症の人から軽い人まで現れうるため、診断名だけで重症度は決まりません。

  • ➤名前の由来 → Mental retardation(知的障害)・Aphasia(ことばの遅れ)・Shuffling gait(すり足歩行)・Adducted thumbs(内転母指)の頭文字
  • ➤別名との関係 → SPG1はMASA症候群に含めて扱われ、CRASH症候群はL1CAMによる病気全体をまとめた頭字語
  • ➤OMIM 304100 → 脳梁の形成異常が前面に出る表現型で、同じスペクトラムの一部
  • ➤遺伝のしかた → X連鎖性(X連鎖潜性)。女性保因者は通常無症状だが、軽い所見が出ることがある
  • ➤重症度 → 家系内でも幅があり、胎児のバリアントが分かっても重症度は予測できない

MASA症候群(SPG1)の言葉の遅れ・歩行の特徴、成長に伴う脚のつっぱり、L1CAM遺伝子とX連鎖性の遺伝を示す図

図:MASA症候群の主な症状・経過・遺伝の概要。症状の組み合わせや重症度には個人差があり、同じ家系でも異なることがあります。

1. MASA症候群とは?L1症候群の中での位置づけ

MASA症候群は、L1CAM遺伝子の病的バリアントによって、知的障害・ことばの遅れ・下肢の痙性・内転母指が組み合わさって現れる病気です。ほぼ男性にみられ、X連鎖性(X連鎖潜性)の遺伝形式をとります[1]。L1CAM遺伝子はX染色体の長腕の端(Xq28)にあり、神経細胞の表面で細胞どうしをつなぐ「L1」というタンパク質の設計図になっています[1]。

現在は、L1CAM遺伝子による病気をまとめて「L1症候群」と呼びます。米国の専門家向け解説であるGeneReviewsは、L1症候群を重症から軽症まで連続したスペクトラムとしてとらえ、中脳水道狭窄を伴うX連鎖性水頭症(HSAS)、MASA症候群(SPG1を含む)、X連鎖性複雑型脳梁無形成の3つの表現型を挙げています[1]。MASA症候群はこのうち軽症側にあたります。重症側のHSASでは生まれたときから重い水頭症がみられますが、軽い側では水頭症が目立たず、発達の遅れをきっかけに画像検査をして初めて脳室の拡大が見つかることがあります[1]。

最初に押さえておきたいのは、この3つが別々の病気ではないという点です。同じ家系の中に、重い水頭症の人と、MASA症候群にあてはまる人の両方がいることがあります[1]。MASA症候群という名前は「その人に現れている症状の組み合わせ」を表す言葉であって、家系全体の重症度を決める言葉ではありません。L1症候群の全体像と3つの表現型の比較は、X連鎖性水頭症の関連ページで詳しく扱っています。

🧬 L1症候群の3つの表現型(男性の発端者での目安)

所見 X連鎖性水頭症(HSAS) MASA症候群(SPG1を含む) X連鎖性複雑型脳梁無形成
水頭症 100%(中脳水道狭窄の有無は問わない) 第三脳室の拡大がさまざまな程度でみられる みられない
脳梁の無形成・低形成 あり(水頭症に伴う) 一部にあり 100%
知的障害 重度 軽度〜中等度 軽度〜中等度
ことばの遅れ あり あり あり
下肢の痙性 あり あり さまざま
内転母指 約50% 50%未満 50%未満

※GeneReviews「L1 Syndrome」の比較表[1]をもとに作成。3つの表現型は同じ家系の中に混在することがあります。

どのくらいの頻度でみられるか

MASA症候群だけの頻度について、明確なデータは示されていません。L1症候群のうち重症側のHSASは、遺伝性の先天性水頭症として最も多く、およそ3万人に1人と推定されています。非症候性の先天性水頭症の男性のうち、約5〜10%を占めるとされます[1][2]。

一方で、知的障害などを伴う痙性対麻痺(複雑型)の男性のうち、L1症候群がどのくらいを占めるのかは分かっていません[1]。2021年更新のGeneReviewsには、L1CAM遺伝子の病的バリアントが確認された人は280人を超えると記載されていますが[1][3]、この数字は検査を受けて診断がついた人の数であり、実際の患者数を表すものではありません。軽症側の頻度を示すには、今後のデータの蓄積が必要です。

なぜ神経の症状が出るのか

L1タンパク質は、脳や脊髄がつくられる時期に、神経細胞から伸びる長い突起(軸索:じくさく)が正しい方向へ伸び、束になるのを助けています。GeneReviewsは、L1が軸索の伸長と束形成、神経細胞の移動や生存に関わるとし、L1症候群はこのタンパク質の働きが失われる機能喪失によって起こると説明しています[1]。

左右の大脳半球をつなぐ脳梁(のうりょう)や、大脳から脊髄へ下りて手足の運動を伝える錐体路(すいたいろ)は、いずれも長い軸索の束です。L1症候群の画像検査で脳梁の形成異常や延髄の錐体の欠如がみられること[1]、そして足のつっぱりや手の使いにくさが症状として出ることは、この働きから理解できます。軸索が目的地へ導かれる仕組みは軸索誘導のページで、タンパク質の構造や分子レベルの詳しい説明はL1CAM遺伝子のページで扱っています。

💡 用語解説:表現型とスペクトラム

表現型とは、遺伝子の変化が実際の体の特徴や症状として現れた姿のことです。スペクトラムは「連続した幅」という意味で、同じ遺伝子の変化でも、重い人から軽い人まで切れ目なくつながっている状態を指します。MASA症候群やX連鎖性水頭症は、L1症候群という一つの幅の中の位置を表す名前です。遺伝子の情報と症状の関係は遺伝子型と表現型のページで解説しています。

2. 名称の整理:MASA・SPG1・CRASH症候群の関係

MASA症候群、SPG1、CRASH症候群、L1症候群は、いずれもL1CAM遺伝子による同じ病気のまとまりを、時代や着目点の違いによって呼び分けた名前です。病名が複数あると別々の病気のように見えますが、原因遺伝子は一つです。ここでは、それぞれの名前がいつ、どのような意味で使われるようになったかを順に整理します。

MASAの頭文字の意味

MASAは、4つの主な所見の英語の頭文字を並べた頭字語です。1974年にBianchineとLewisが、3世代にわたって男性6人と女性1人に同じ特徴がみられたメキシコ系アメリカ人の家系を報告し、Mental retardation、Aphasia、Shuffling gait、Adducted thumbsの頭文字からMASA症候群と名づけました[4][5]。

Mental retardationは当時の用語で、現在は「知的障害」と呼びます。Aphasiaは直訳すると「失語」ですが、脳卒中などで一度身についたことばを失う失語とは異なり、ここではことばの発達が遅れることを指しています。GeneReviewsもAphasiaに「delayed speech(ことばの遅れ)」と添えています[1]。Shuffling gaitは足を床にするように歩く「すり足歩行」、Adducted thumbsは親指が手のひら側に入り込む「内転母指」です。

最初の報告では、水頭症がないことがX連鎖性の中脳水道狭窄との違いとされていました[5]。ところが1994年、MASA症候群の患者でL1CAM遺伝子のバリアントが相次いで見つかります。Vitsらは血縁関係のないMASA症候群の患者8人を調べて3種類のバリアントを報告し[6]、Jouetらは、MASA症候群、SPG1、X連鎖性水頭症の家系でいずれもL1遺伝子にバリアントがあることを示して、3つが一つの臨床スペクトラムをなすと結論づけました[7]。

SPG1(X連鎖性複雑型痙性対麻痺1型)との関係

SPG1は、MASA症候群を「痙性対麻痺」という分類の側から見たときの呼び名で、別の病気ではありません。SPGは遺伝性痙性対麻痺(spastic paraplegia)の病型に付けられる記号です。痙性対麻痺とは、両足の筋肉がつっぱって動かしにくくなる状態を指します。痙性対麻痺だけがみられる型を純粋型、知的障害など他の症状を伴う型を複雑型と呼び、SPG1は複雑型に入ります。

OMIMは、SPG1が通常はMASA症候群と呼ばれていると記載しています[5]。GeneReviewsも、3つの表現型の一つを「MASA症候群(SPG1を含む)」と表記しています[1]。どの症状に着目するかによって呼び名が変わっても、原因と遺伝のしかたは同じです。遺伝性痙性対麻痺の全体像は遺伝性痙性対麻痺(総論)のページにまとめています。

CRASH症候群という総称の由来

CRASH症候群は、L1CAM遺伝子による病気全体を一つの名前でまとめるために、1995年にFransenらが提案した頭字語です。Corpus callosum hypoplasia(脳梁低形成)、Retardation(知的障害)、Adducted thumbs(内転母指)、Spastic paraplegia(痙性対麻痺)、Hydrocephalus(水頭症)の頭文字を並べています[8]。同じ家系の中にも水頭症、MASA症候群、SPG1、脳梁の形成異常が混在するほど症状の幅が大きいことが、提案の背景にありました。

現在は、原因遺伝子の名前をとった「L1症候群」が総称として使われることが多くなっています[1]。CRASH症候群という名前は、過去の論文や一部の資料で目にすることがあります。

⚠️ 注意:「挫滅症候群」ではありません

CRASH syndromeを「挫滅症候群」と訳している資料がありますが、これは誤りです。CRASHは上の5つの所見の頭文字を並べた頭字語で、「衝突」「つぶれる」という意味はありません。外傷に関連して使われる挫滅症候群は英語でcrush syndromeと書き、つづりも内容も異なる別の病態です。

📘 L1CAM遺伝子に関連する名称の整理

名称 何を指すか 位置づけ
L1症候群 L1CAM遺伝子による病気全体 現在よく使われる総称
X連鎖性水頭症(HSAS、OMIM 307000) 生まれつきの重い水頭症が中心 重症側の表現型
MASA症候群(OMIM 303350) 知的障害・ことばの遅れ・痙性・内転母指 軽症側の表現型
SPG1 X連鎖性の複雑型痙性対麻痺 MASA症候群に含めて扱う
X連鎖性脳梁部分無形成(OMIM 304100) 脳梁の形成異常が前面に出る 水頭症を伴わない表現型
CRASH症候群 5つの所見の頭文字による総称 1995年に提案された呼び名

※OMIM[5]、GeneReviews[1]、Fransenら[8]による。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【病名は「いま見えている姿」を表す言葉です】

遺伝性の病気では、原因遺伝子が分かる前に付けられた病名が、そのまま残っていることがよくあります。MASA症候群、SPG1、CRASH症候群もその例で、診察した診療科や時代によって呼び名が違っているだけです。

臨床遺伝専門医として文献を読むと、L1症候群は「病名」と「家系の中で起こりうること」を分けて考える必要がある病気だと分かります。病名はその人のいまの症状を表し、遺伝の説明は家系全体を対象にします。この2つを混ぜないことが、正確な理解の出発点になります。

3. MASA症候群の症状と経過

主な所見は、軽度から中等度の知的障害、ことばの遅れ、乳児期の筋緊張低下から痙性対麻痺への移行、内転母指の4つです。ただし、4つすべてがそろうとは限りません。GeneReviewsは、MASA症候群の所見として、軽度から中等度の知的障害、ことばの出始めの遅れ、筋緊張低下から痙性対麻痺への進行、内転母指(ある場合)、さまざまな脳MRI所見を挙げています[1]。

知的障害とことばの遅れ

MASA症候群では軽度から中等度の知的障害が典型的で、GeneReviewsには軽度の目安としてIQ 50〜70、中等度の目安としてIQ 30〜50が記載されています。重症側のHSASでは知的障害が重度になることが多く、この点が軽症側との大きな違いです[1]。知的障害とは、理解する、判断する、学習するといった知的な働きと、日常生活への適応の両方に、発達期から制約がある状態を指します。重症度はIQの数値だけで決めず、日常生活で必要な支援や適応機能も含めて評価します。

知的障害の程度は、頭の大きさや水頭症の重さと必ずしも一致しません。頭囲が正常でも重い知的障害がある男性が報告されています[1]。画像で脳室の拡大が軽いからといって、発達の見通しをそれだけで判断することはできません。ことばの遅れはL1症候群の3つの表現型すべてにみられる所見で[1]、MASA症候群では発達の遅れに気づく最初のきっかけになることがあります。知的障害と発達の遅れの全般的な考え方は、神経発達障害と知的障害のページで解説しています。

筋緊張低下から痙性対麻痺へ

足の症状は、乳児期には筋肉の張りが弱い「筋緊張低下」として始まり、生後数年のうちにつっぱりの強い「痙性」へ変わっていきます。GeneReviewsは、男児では最初に下肢の筋緊張低下がみられ、それが生後数年の間に痙性へ移行すると記載しています[1]。診察では、膝やアキレス腱をたたいたときの反射が強く出ること、足の裏をこすると親指が反り返る反応(伸展性足底反射)がみられることが、痙性の手がかりになります[1]。

痙性が続くと、下肢の筋肉がやせ、関節が固まる拘縮(こうしゅく)が起こり、この2つが合わさって足を床にするように歩くすり足歩行になります[1]。成人の男性では痙性がやや進行する傾向があるとされますが、多数の患者で確かめられたものではありません[1]。歩行の見通しには個人差があり、現時点では、年齢ごとの経過を示す明確なデータは示されていません。

乳児期下肢の筋緊張低下
▶
生後数年痙性へ移行
▶
小児期以降筋萎縮・拘縮、すり足歩行
▶
成人期やや進行する傾向

💡 用語解説:痙性対麻痺(けいせいついまひ)

痙性とは、筋肉を伸ばそうとしたときに強い抵抗が出て、つっぱった状態になることです。対麻痺は両足の運動機能が障害された状態を指し、程度は人によって異なります。大脳から脊髄へ運動の指令を伝える錐体路の働きが十分でないときに起こります。筋肉のつっぱりに加えて、筋力の低下を伴うこともあります。筋緊張が高いことは、筋力が保たれていることを意味しません。

内転母指(ないてんぼし)

内転母指は、親指が手のひら側に曲がって入り込み、握った指の下に隠れるような形になる所見です。英語ではadducted thumbsまたはclasped thumbsと呼ばれます。GeneReviewsは、親指を伸ばしたり外へ開いたりする筋肉が生まれつき十分につくられないことが原因と説明しています[1]。

MASAの頭文字の一つになっているため必ずみられる所見と思われがちですが、実際の頻度は高くありません。HSASで約50%、MASA症候群では50%未満です[1]。内転母指がないからといって、MASA症候群やL1症候群を否定することはできません。反対に、内転母指は他の病気でもみられるため、この所見だけで診断がつくわけでもありません。

脳の画像検査でみられる所見

MASA症候群の脳MRI所見は人によってさまざまで、第三脳室の拡大がいろいろな程度でみられます。L1症候群全体では、脳梁の無形成や低形成、小脳の低形成、脳幹が小さいこと、錐体(錐体路が通る延髄の盛り上がり)の無形成が知られています[1][9]。

このうち、両側の錐体が欠けている所見は、MRIや病理検査で確認された場合に、L1症候群をかなり強く示す所見とされています[1][10]。ただし、MASA症候群でこの所見がどのくらいの割合でみられるかについて、明確なデータは示されていません。また、中脳水道狭窄はL1症候群に必ずあるわけではありません[9]。画像で中脳水道が開いていることは、L1症候群を否定する理由になりません。軽度から中等度の脳室拡大は、長期の生存と両立するとされています[1]。水頭症全般については先天性水頭症(総論)のページをご覧ください。

ヒルシュスプルング病を伴うことがある

L1症候群の一部で、ヒルシュスプルング病を合併した例が報告されています。ヒルシュスプルング病は、腸の壁にある神経節細胞が生まれつき欠けているために、腸がうまく動かず、重い便秘や腸閉塞を起こす病気です。L1CAM遺伝子の病的バリアントをもち、L1症候群とヒルシュスプルング病の両方がみられた人は、少なくとも16人報告されています[1]。

ここで誤解しやすいのは、L1CAMがヒルシュスプルング病の原因遺伝子だという理解です。現在の考え方では、L1CAMはヒルシュスプルング病に関わる別の遺伝子の影響を強める修飾遺伝子として働くと考えられており、L1CAMの病的バリアントだけではヒルシュスプルング病は起こらないとされています[11][12]。GeneReviewsは、L1症候群と診断された人に便秘の経過がある場合、ヒルシュスプルング病の評価を行うよう勧めています[1]。病気そのものの解説はヒルシュスプルング病のページにあります。

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4. X連鎖性脳梁部分無形成(OMIM 304100)とは

X連鎖性脳梁部分無形成には複数の原因があります。L1CAM遺伝子が原因の場合は、脳梁の形成異常が前面に出るL1症候群の表現型として扱われ、GeneReviewsの比較表では水頭症を伴わない型として整理されています。OMIMでは「Corpus callosum, partial agenesis of, X-linked」という見出しで304100番に登録されており[13]、GeneReviewsでは「X連鎖性複雑型脳梁無形成」という名前で、L1症候群の3つの表現型の一つに数えられています[1]。

脳梁は、左右の大脳半球をつなぐ神経線維の大きな束です。生まれつき脳梁の全部がつくられない状態を無形成、一部がつくられない状態を部分無形成、形成されていても十分に発達せず小さい状態を低形成と呼びます。脳梁の役割や、形成異常の一般的な原因については脳梁欠損・形成不全のページで解説していますので、ここではL1症候群との関係に絞って説明します。

どのような所見がみられるか

所見は、脳梁の形成異常、軽度から中等度の知的障害、さまざまな程度の痙性対麻痺の3つが中心です。GeneReviewsは、この表現型の男性にみられる所見として、程度に幅のある痙性対麻痺、軽度から中等度の知的障害、脳梁の異形成・低形成・無形成を挙げています[1]。比較表では、脳梁の所見が100%、水頭症はなし、内転母指は50%未満とされています[1]。

この内容をMASA症候群と比べると、知的障害の程度、ことばの遅れ、内転母指の頻度がほぼ同じで、所見が大きく重なっていることが分かります。違いは、脳梁の形成異常が必ずみられることと、水頭症がみられないことの2点です。MASA症候群でも一部に脳梁の形成異常がみられるため[1]、2つの間にはっきりした境界線を引くことはできません。

これまでの主な報告

304100番のもとになったのは、X連鎖性の遺伝が考えられる脳梁形成異常の家系報告です。1964年にMenkesらは、女性を介してつながる2世代の男性5人に脳梁の部分無形成がみられた家系を報告しました[14][13]。1983年にはKaplanが、精神運動発達の遅れ、両側の内転母指、ヒルシュスプルング病、脳梁の完全な無形成がある2歳の男児と、重い精神運動発達の遅れと脳梁無形成がある母方のおじを報告しています[15]。

2006年にはBasel-Vanagaiteらが、脳梁の形成異常と軽度の知的障害がある兄弟2人でL1CAM遺伝子のバリアントを報告しました。論文の抄録では、兄弟の脳梁所見は低形成と記載されています。この兄弟には、水頭症、内転母指、発語の欠如のいずれもみられませんでした[16][13]。L1CAM遺伝子の変化が、水頭症も内転母指もない形で現れうることを示した報告です。Kaplanの例で内転母指とヒルシュスプルング病がみられている点も、L1症候群の他の表現型との重なりを示しています。

「同じスペクトラムの一部」とはどういうことか

L1CAM遺伝子が原因と分かった場合は、脳梁の所見が中心であっても、遺伝の説明はL1症候群として行います。L1症候群では、すべての表現型が同じ家系の中に現れうるためです[1]。ある人に脳梁の形成異常と軽い知的障害しかなくても、同じバリアントを受け継いだ別の男性に水頭症が現れる可能性があります。

一方で、X連鎖性の脳梁形成異常がすべてL1CAM遺伝子によるわけではありません。OMIMは、X連鎖性脳梁部分無形成の「一部の症例」がL1CAM遺伝子のバリアントによる、という根拠でこの項目を記載しています[13]。脳梁の形成異常には多くの原因があるため、画像所見だけで原因を決めることはできず、遺伝学的検査で確かめる必要があります。

5. 原因:L1CAM遺伝子のバリアントと重症度の幅

原因はL1CAM遺伝子の病的バリアントです。バリアントの種類によって重症度に傾向はありますが、同じ家系の中でも幅があり、バリアントだけで重症度を言い当てることはできません。この章では、傾向として分かっていることと、その限界の両方を説明します。

バリアントの種類と重症度の傾向

L1タンパク質のどの部分が、どのように変わるかによって、重症度に傾向があることが知られています。L1タンパク質は、細胞の外に出ている部分(細胞外ドメイン)、細胞膜を貫く部分、細胞の内側にある短い部分(細胞質ドメイン)からできています[1]。Yamasakiらは1997年に、バリアントを3つのクラスに分けて重症度との関係を整理しました[17]。

🔬 Yamasakiらによるバリアントの3分類(1997年)

クラス バリアントの内容 重症度の傾向
クラス1 細胞質ドメインだけに影響するもの 3つの中では軽い傾向
クラス2 細胞外ドメインのミスセンスバリアント クラス1より重く、クラス3より軽い傾向
クラス3 細胞外ドメインで早期に終止コドンが生じ、タンパク質が途中で切れるもの 重い水頭症や早期の死亡につながりやすい

※Yamasakiら[17]による。資料によってはクラスの番号を逆に記載しているものがあるため、番号ではなく内容で確認してください。

ミスセンスバリアントは、タンパク質をつくるアミノ酸が1つだけ別のものに置き換わる変化です。ナンセンスバリアントやフレームシフトは、それぞれ早期の終止コドンを生じさせる変化、読み枠をずらす変化で、多くはタンパク質の短縮やmRNAの分解につながります。このような変化は切断型として扱われます。Weller と Gärtner の総説も、細胞外ドメインのミスセンスや細胞質ドメインの変化は、細胞外ドメインが途中で切れる変化やL1タンパク質が検出されない場合よりも、軽い表現型になるとまとめています[18]。

Vosらは2010年に、病的バリアントが確認されたL1症候群の33人を統計的に調べました。3歳までに亡くなった割合は、切断型のバリアントをもつ子どもで52%、ミスセンスバリアントをもつ子どもで8%で、この差は統計的に意味のあるものでした[3][1]。MASA症候群のような軽い表現型は、ミスセンスバリアントや細胞質ドメインのバリアントをもつ人に多い、という傾向はここから読み取れます。

同じ家系でも重症度が違う

こうした傾向があっても、L1症候群の症状は同じ家系の中で軽症から重症まで幅があります。GeneReviewsは、遺伝子型と表現型の関係についての一般的な傾向を示したうえで、家系内でも臨床像に幅があることから、バリアント以外の要因が症状に影響しているはずだと述べています[1][2]。

同じバリアントをもっていても症状の重さが人によって違うことを、遺伝学では可変的表現度と呼びます。他の遺伝子の違いが症状を強めたり弱めたりする場合、その遺伝子を修飾遺伝子と呼びます。考え方は修飾遺伝子と可変的表現度のページで解説しています。L1症候群で具体的に何が重症度を左右しているのかについて、現時点では明確なデータが示されていません。

💡 用語解説:浸透率と表現度の違い

浸透率は「病的バリアントをもつ人のうち、症状が出る人の割合」、表現度は「症状が出た人の中での重さや現れ方の違い」です。L1症候群では、病的バリアントを受け継いだ男性は発症するとされています。一方で、どのくらい重くなるかという表現度には大きな幅があります。浸透率の考え方は浸透率のページで解説しています。

⚠️ 「MASA症候群の家系」という言い方について

ある家系でこれまでに生まれた男性がMASA症候群だったとしても、次に生まれる男性が同じように軽症であるとは限りません。同じバリアントを受け継いだ男性に、重い水頭症が現れることがあります。家系の中でみられた症状は、将来の重症度を保証する情報にはなりません。

6. 遺伝のしかた(要点)

MASA症候群を含むL1症候群は、X連鎖性(X連鎖潜性)の遺伝形式をとります。以前はX連鎖劣性と呼ばれていた形式です。ここでは要点だけをまとめます。保因者の確認の進め方、再発率の考え方、出生前診断や着床前診断の詳しい説明は、X連鎖性水頭症(L1症候群)のページに記載しています。

X連鎖性(X連鎖潜性)とは

X連鎖性とは、原因遺伝子がX染色体にある遺伝形式です。男性はX染色体を1本しかもたないため、そのX染色体のL1CAM遺伝子に病的バリアントがあると発症します。この状態をヘミ接合と呼びます。女性はX染色体を2本もつので、片方に病的バリアントがあっても(ヘテロ接合)、もう片方の働きによって通常は症状が出ません。この状態の女性を保因者と呼びます。

父親は息子にY染色体を渡すため、父から息子へL1CAM遺伝子のバリアントが伝わることはありません[1]。家系図では、母方のおじ、母方のいとこの男性など、女性を介してつながる男性に同じ症状がみられることが手がかりになります。X連鎖の遺伝全般はX連鎖遺伝のページで、遺伝形式の全体像は遺伝形式のページで解説しています。

👪 母親が保因者の場合に、妊娠ごとに起こりうること

お子さんの性別 バリアントを受け継ぐ確率 受け継いだ場合
男の子 50% L1症候群を発症する。重症度は予測できない
女の子 50% 保因者になる。通常は無症状だが、軽い所見が出ることがある

※GeneReviews[1]による。確率は妊娠ごとに独立しています。

女性保因者にみられること

女性保因者は通常は無症状ですが、内転母指や軽い知的障害などの軽い所見が出ることがあり、まれに重い例も報告されています。GeneReviewsは、ヘテロ接合の女性に内転母指や軽度の知的障害がみられることがあるとし、L1症候群のすべての特徴がそろう女性はまれだとしています。一方で、重い水頭症がみられたヘテロ接合の女性も報告されています[1][19][3]。

女性で症状の出方に差が出る理由の一つに、X染色体不活化があります。女性の細胞では、2本のX染色体のうち1本が働かないように調節されており、どちらが働くかは細胞ごとに決まります。病的バリアントのあるX染色体が多くの細胞で働く側に偏ると、症状が出やすくなると考えられています。GeneReviewsには、中脳水道狭窄、内転母指、軽い知的障害がある女児で、この偏りが確認された例が紹介されています[1]。仕組みはX染色体不活化のページで解説しています。

家系で1人だけの場合と再発率

L1症候群の男性の約40%は、家系の中で1人だけが発症している例です。この場合、母親が保因者である、本人に初めて生じた新生突然変異である、母親の卵子のもとになる細胞の一部だけにバリアントがある(生殖細胞系列モザイク)、という3つの可能性があります[1][3]。どれにあたるかで次の妊娠の再発率が変わるため、GeneReviewsは母親の遺伝学的検査を勧めています[1]。

注意が必要なのは、母親の血液の検査でバリアントが見つからなかった場合です。このときも、きょうだいの再発率は一般の集団より高くなります。母親の生殖細胞系列モザイクは血液の検査では分からないためで、実際に、2人目の男児の胎児にも同じバリアントが見つかった家系が少なくとも1つ報告されています[1][3]。

罹患した男性が子どもをもうけた場合、娘は全員がバリアントを受け継ぎ、息子には伝わりません。GeneReviewsは罹患男性が子どもをもうける例は一般的ではないとする一方、症状がごく軽い男性に娘がいる家系を紹介しています。娘はバリアントを受け継いでいると推定されますが、娘の遺伝学的検査による確認は行われていません[1][20]。

誤解①「MASA症候群の家系なら、次の子も軽症」

同じ家系の中に、重い水頭症から軽症まで、すべての表現型が現れることがあります。これまでの家族の症状から、次の子の重症度は予測できません。

誤解②「内転母指がなければMASA症候群ではない」

内転母指がみられるのは、MASA症候群で50%未満です。この所見がなくても、L1症候群を否定することはできません。

誤解③「CRASH症候群は挫滅症候群のこと」

CRASHは5つの所見の頭文字を並べた頭字語です。外傷に関連する挫滅症候群(crush syndrome)とは別のものです。

誤解④「女性の保因者には症状が出ない」

通常は無症状ですが、内転母指や軽い知的障害がみられることがあり、まれに重い水頭症の例も報告されています。

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7. 診断と検査:出生後と出生前

診断は、症状・画像所見・家族歴からL1症候群を疑い、遺伝学的検査でL1CAM遺伝子の病的バリアントを確認して確定します。GeneReviewsは、3つの表現型のいずれかにあてはまる所見や画像所見があり、家族歴がX連鎖性に合う場合にL1症候群を疑うとしています。家族歴がないことは、診断を否定する理由になりません[1]。遺伝学的検査の基本は用語ページで解説しています。

出生後の診断

男性では、L1症候群を示す所見があり、L1CAM遺伝子にヘミ接合の病的バリアントが見つかった場合に診断が確定します。女性での診断はまれですが、発達の遅れや水頭症がある女性でヘテロ接合の病的バリアントが見つかれば、診断が成立します[1]。

検査の進め方は、症状がどのくらい特徴的かによって変わります。L1症候群が強く疑われる場合は、L1CAM遺伝子の塩基配列を読むシークエンス解析を行い、見つからなければ遺伝子の一部や全体が欠けたり重複したりしていないかを調べる欠失・重複解析(MLPA法など)に進みます。GeneReviewsによると、病的バリアントのうちシークエンス解析で検出されるものが約99%、欠失・重複解析で検出されるものが約1%です[1]。

知的障害や痙性対麻痺は多くの病気に共通する症状です。症状だけではL1症候群に絞り込めないときは、複数の遺伝子をまとめて調べるパネル検査や、遺伝子全体を広く調べるエクソーム解析が使われます[1]。当院では、L1CAM遺伝子を含む検査として、遺伝性痙性対麻痺(HSP)遺伝子検査パネル、X連鎖知的障害NGS遺伝子パネル検査、発達障害・学習障害・知的障害遺伝子検査を扱っており、より広く調べる場合には全エクソーム検査があります。

検査の結果、病気との関係がまだ判断できないバリアント(VUS:臨床的意義不明のバリアント)が見つかることもあります。GeneReviewsは、VUSが見つかっただけでは診断を確定することも否定することもできないとしています[1]。この場合は、家族の検査や症状との照らし合わせを通じて、時間をかけて評価します。結果の解釈は臨床遺伝専門医が行います。

出生前の診断

家系の中でL1CAM遺伝子の病的バリアントが特定されている場合は、出生前検査で胎児が同じバリアントをもつかどうかを調べることができます。ただし、重症度は予測できません。GeneReviewsは、家系のバリアントが分かっていれば、出生前検査や着床前の検査が可能だとしたうえで、男の胎児に病的バリアントが見つかっても表現型を正確に予測することはできないと明記しています。同じ家系の中に、すべての表現型が現れうるためです[1]。

胎児のバリアントを調べるには、絨毛検査や羊水検査で胎児由来の細胞を採取します。検査の内容は単一遺伝子疾患の出生前診断と羊水検査・絨毛検査のページに記載しています。受精卵の段階で調べる方法については着床前遺伝学的検査(PGT-M)のページと、着床前診断だけが選択肢ではない理由を解説したコラムをご覧ください。

超音波検査にも限界があります。GeneReviewsは、超音波検査だけでL1症候群を確実に診断することはできないとしています。水頭症の診断には繰り返しの検査が必要なことが多く、妊娠20〜24週より前、場合によっては妊娠後期になるまで確認できないことがあります。リスクのある妊娠で超音波の所見が正常に見えても、L1症候群を否定することはできません[1]。超音波検査で分かること・分からないことは胎児超音波検査のページで、胎児の脳室が大きいと指摘された場合の考え方は胎児脳室拡大のページで解説しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【出生前に分かること、分からないこと】

出生前の遺伝学的検査で分かるのは、胎児がご家系のバリアントを受け継いでいるかどうかです。L1症候群では、その先の「どのくらい重くなるか」までは分かりません。ここを区別せずに結果を受け取ると、判断の前提がずれてしまいます。

遺伝学的検査の結果を説明するときには、「何が確定し、何が確定していないか」を分けて伝えることが欠かせません。L1症候群はその区別が特に必要な病気です。出生前検査では、バリアントの有無が分かっても重症度の不確実性が残ることを理解したうえで、検査を受けるかどうかを検討します。

見分ける必要がある病気

発達の遅れがあり、乳児期の筋緊張低下が小児期に痙性対麻痺へ変わっていく男性では、L1症候群以外にも多くの病気が候補になります。GeneReviewsは、この組み合わせの鑑別には多数の病気が含まれるとし、2021年更新時点で複雑型の遺伝性痙性対麻痺だけでも約50の遺伝型があるとしています[1]。主なものを表にまとめます。

🔍 MASA症候群と見分ける必要がある主な病気

病気・グループ 似ている点 見分けるときの手がかり
ほかの複雑型遺伝性痙性対麻痺 痙性対麻痺と知的障害 SPG11遺伝子やZFYVE26遺伝子(SPG15)などが原因で、常染色体潜性(劣性)遺伝のため女性にもみられる
PLP1遺伝子による病気 X連鎖性で男性に痙性対麻痺がみられる 原因遺伝子がPLP1遺伝子であり、遺伝学的検査で区別する
ほかのX連鎖性知的障害 母方の男性に知的障害がみられる家族歴 非特異的X連鎖性知的障害やPettigrew症候群(AP1S2遺伝子)など、原因遺伝子が多数ある
脳性麻痺 下肢の痙性と運動発達の遅れ 出生前後の経過、母方の男性の家族歴、内転母指、脳画像の所見を合わせて考える
関節拘縮を主とする病気 生まれつきの親指や関節の拘縮 知的障害や痙性対麻痺を伴うかどうか。関連検査は関節拘縮症遺伝子検査パネル

※似た症状でも原因は異なります。原因の確定には遺伝学的検査が必要です。

脳性麻痺と診断されている人の中に、遺伝性の病気が含まれていることがあります。脳性麻痺と遺伝の関係は脳性麻痺は遺伝するかを解説したコラムで扱っています。母方の男性に似た症状の人がいる場合や、内転母指や脳梁の形成異常がある場合は、L1症候群を含む遺伝性の病気を考える手がかりになります。

8. 管理と支援

L1症候群の原因そのものを治す治療は確立しておらず、症状ごとの対応を複数の専門職が連携して行います。GeneReviewsは、小児科、小児神経、脳神経外科、リハビリテーション、臨床遺伝の専門家が関わる体制が望ましいとしています[1]。MASA症候群では、水頭症への対応よりも、運動機能・手の機能・ことば・学習への長期的な支援が中心になります。

診断時の評価と定期的な確認

診断がついた時点で、脳の画像検査、発達の評価、神経学的な診察、親指の状態の確認を行います。GeneReviewsは、脳の画像検査にはMRIが望ましいとし、便秘の経過があればヒルシュスプルング病の評価を加えるよう勧めています[1]。あわせて、病気の性質、遺伝形式、家族への影響を理解するための遺伝カウンセリングが勧められています。

その後は、水頭症、発達、痙性対麻痺のそれぞれについて、神経学的な評価を定期的に行います。間隔は一人ひとりの状態に応じて決めます[1]。MASA症候群では水頭症が目立たないことがありますが、頭の中の圧が高くなっている場合には、髄液を別の場所へ流すシャント手術が行われます[1]。

運動機能と手の機能への対応

痙性対麻痺に対しては、理学療法を中心に、関節の拘縮や変形を防ぎながら移動の力を保つことを目指します。痙性対麻痺全般の管理では、移動能力を保ち、関節の拘縮や姿勢の変形を防ぐために理学療法を行います。必要に応じて、装具、歩行器、車いすなどを使います[1][21]。

筋肉のつっぱりが強い場合には、バクロフェンやチザニジンといった飲み薬、ボツリヌス毒素の注射、整形外科的な処置について、痙性対麻痺全般の管理に基づき専門医と検討します[21]。どの方法が合うかは年齢や症状によって異なります。

内転母指には、親指を開いた位置に保つスプリント(装具)が役立つことがあります。手術は一般には適応にならないとされていますが、症状が軽い一部の人では、腱を移す手術で親指の機能が改善することがあります[1]。食事、着替え、書字など細かい動作の難しさには、作業療法が勧められています[1]。

ことばと学習への支援

ことばの遅れに対しては、言語療法に加えて、話しことば以外の伝達手段を早い時期から取り入れることが勧められています。絵カードから音声を出す機器まで、さまざまな方法を含む拡大・代替コミュニケーション(AAC)がこれにあたります。GeneReviewsは、ことばで表現することが難しい人についてAACの評価を検討するよう勧め、AACの使用は話しことばの発達を妨げず、むしろ支えると説明しています[1]。

発達の遅れや知的障害に対しては、一人ひとりに合わせた教育計画が必要です。発達の見通しには個人差があるためです[1]。GeneReviewsに書かれている具体的な制度は米国のもので、国内で利用できる療育や福祉の制度は、お住まいの自治体や主治医のいる医療機関で確認してください。

研究段階の治療については、GeneReviewsにL1症候群を対象とした具体的な記載がなく[1]、現時点では明確なデータが示されていません。

よくある質問(FAQ)

Q1. MASA症候群とSPG1は別の病気ですか?

別の病気ではありません。どちらもL1CAM遺伝子の病的バリアントによる同じ表現型を指しており、SPG1は遺伝性痙性対麻痺の分類での呼び名です。GeneReviewsでは「MASA症候群(SPG1を含む)」と表記されています。

Q2. 家系にMASA症候群の人がいる場合、次に生まれる男の子も軽症ですか?

軽症とは限りません。L1症候群では、同じ家系の中に重い水頭症から軽症まで、すべての表現型が現れることがあります。これまでの家族の症状から、次のお子さんの重症度を予測することはできません。

Q3. CRASH症候群とは何ですか?

L1CAM遺伝子による病気全体をまとめた呼び名で、脳梁低形成、知的障害、内転母指、痙性対麻痺、水頭症を表す英語の頭文字を並べた頭字語です。1995年に提案されました。外傷に関連する挫滅症候群(crush syndrome)とは別のものです。

Q4. 女性の保因者に症状が出ることはありますか?

通常は無症状ですが、内転母指や軽い知的障害などの軽い所見がみられることがあります。すべての特徴がそろう女性はまれですが、重い水頭症がみられた女性の報告もあります。

Q5. 内転母指がなければMASA症候群ではありませんか?

いいえ。内転母指がみられるのは、MASA症候群で50%未満とされています。内転母指がなくても、MASA症候群やL1症候群を否定することはできません。

Q6. 出生前診断で赤ちゃんの重症度は分かりますか?

分かりません。家系の病的バリアントが特定されていれば、胎児が同じバリアントをもつかどうかは調べられますが、症状がどのくらい重くなるかは予測できません。超音波検査で異常が見えない場合も、L1症候群を否定することはできません。

Q7. X連鎖性脳梁部分無形成(OMIM 304100)は、MASA症候群とは別の病気ですか?

L1CAM遺伝子が原因の場合は、別の病気ではなく、L1症候群という同じスペクトラムの一部です。脳梁の形成異常が必ずみられ、水頭症を伴わない点が特徴で、知的障害や内転母指などの所見はMASA症候群と大きく重なります。

まとめ

MASA症候群(OMIM 303350)は、L1CAM遺伝子の病的バリアントによるL1症候群のうち、軽症側の表現型です。軽度から中等度の知的障害、ことばの遅れ、乳児期の筋緊張低下から痙性対麻痺への移行、内転母指が主な所見ですが、すべてがそろうとは限らず、内転母指は50%未満にしかみられません。SPG1はMASA症候群に含めて扱われ、CRASH症候群はL1CAMによる病気全体をまとめた頭字語です。X連鎖性脳梁部分無形成(OMIM 304100)も、L1CAM遺伝子が原因の場合は同じスペクトラムの一部です。

遺伝形式はX連鎖性(X連鎖潜性)で、女性保因者は通常無症状ですが、軽い所見が出ることがあります。同じ家系の中に重症から軽症まで現れうるため、家族の症状や胎児のバリアントから重症度を予測することはできません。診断の確定、保因者かどうかの確認、出生前診断の検討には、L1CAM遺伝子の遺伝学的検査と、結果の意味を整理する遺伝カウンセリングが必要です。重症側の表現型と遺伝の詳しい説明はX連鎖性水頭症(L1症候群)のページを、遺伝子の働きはL1CAM遺伝子のページをご覧ください。

🏥 L1CAM遺伝子の検査・保因者の確認・出生前診断を検討されている方へ

ミネルバクリニックでは、L1CAM遺伝子を含む遺伝子検査、拡大版保因者スクリーニング、単一遺伝子疾患の出生前診断を行っています。検査の前後には、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、結果から分かること・分からないことを整理します。正確な診断に基づいて、次の選択を考えていきます。

参考文献

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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