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病的バリアントとは?意味と5段階分類、遺伝子検査の結果の読み方

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

遺伝学的検査の結果報告書には、「Pathogenic(病的)」「Likely Pathogenic(病的の可能性が高い)」「VUS(臨床的意義不明)」といった言葉が並びます。このうち前の2つをまとめて呼ぶのが病的バリアント(pathogenic variant)です。ただし、この言葉は「必ず病気になる」という意味ではありません。「そのバリアントが病気の原因である確からしさ」を、国際的な基準に沿って判定した結果を示すものです。この記事では、病的バリアントの定義と5段階分類、結果を読むときの要点、分類が変わりうる理由を、遺伝学的検査の結果の読み方という観点から解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 病的バリアント・VUS・ACMG/AMP分類
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. 病的バリアントとは何ですか?まず結論だけ知りたいです

A. 病的バリアントとは、病気の原因となる、あるいは発症リスクを大きく高めると判断された遺伝子の配列の違いです。国際的な分類基準(ACMG/AMP 2015)の5段階のうち、「Pathogenic(病的)」と「Likely Pathogenic(病的の可能性が高い)」がこれにあたり、医学的管理ではこの2つを「陽性」としてまとめて扱います。一方で、病的バリアントがあっても、必ず発症するとは限りません。発症するかどうかは浸透率という別の問題であり、分類そのものも新しい証拠によって見直されることがあります。

  • ➤定義 → 5段階分類のPathogenic(P)とLikely Pathogenic(LP)を合わせた呼び方
  • ➤用語の変遷 → 「変異」「多型」は誤解を招くため、2015年以降は中立的な「バリアント」に統一
  • ➤likelyの意味 → 病気の原因である確からしさが90%を超えるという取り決め(発症確率ではない)
  • ➤臨床での扱い → 陽性(P/LP)・陰性(B/LB)・VUSの3群で考える
  • ➤発症との関係 → 浸透率・表現度によって、発症の有無や重さには幅がある
  • ➤再分類 → 分類は固定ではなく、特にVUSは証拠の蓄積で見直される

病的バリアントの意味とバリアント分類を解説するインフォグラフィック

1. 病的バリアントとは

病的バリアントとは、国際的な分類基準で「Pathogenic(病的)」または「Likely Pathogenic(病的の可能性が高い)」と判定された遺伝子のバリアントを指す、実用上の呼び方です。もともとは、1つの遺伝子の変化で起こる単一遺伝子疾患(メンデル遺伝病)について使われる用語です。以下では、定義、関連する用語との違い、「病的遺伝子」という言い方の位置づけの順に説明します。

病的バリアントの定義(PとLPを合わせた呼び方)

まず「バリアント(variant)」とは、ある人の遺伝子の塩基配列が、基準となる配列(参照配列)と異なっている箇所のことです。参照配列は「正常な配列」ではなく、比較のための物差しにすぎません。そのため、バリアントという言葉自体は良い・悪いを含まない中立的な言葉です。その大多数は健康に影響しない個人差で、ごく一部の「病気に関わるもの」を見分けることが解釈の中心になります。

この見分け方を国際的に標準化したのが、米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)と分子病理学会(AMP)が2015年に公表したガイドラインです。このガイドラインは、メンデル遺伝病の原因遺伝子で見つかったバリアントを、pathogenic(病的)、likely pathogenic(病的の可能性が高い)、uncertain significance(臨床的意義不明)、likely benign(良性の可能性が高い)、benign(良性)の5つの標準用語で表すよう推奨しています[1]。このうち上位2つ、PとLPが、日本語でいう「病的バリアント」にあたります。臨床の場ではPとLPを同等に扱うため、両者をまとめて「病的バリアント(P/LP)」と表記することが一般的です[2]。

見落とされやすい点として、病原性の判定は「どの病気について、どの遺伝形式で」とセットで意味を持ちます。ACMG/AMPは、病原性を主張するときは疾患名と遺伝形式を併記するよう推奨しており、たとえば「c.1521_1523delCTT(p.Phe508del)、病的、嚢胞性線維症、常染色体潜性(劣性)」のように報告します[1]。同じバリアントでも、別の病気に対しては病的とはいえない場合があるためです。

⚠ 多因子疾患の「リスクアレル」とは区別する

ACMG/AMPの5段階分類は、単一遺伝子疾患を想定した枠組みです。2型糖尿病や高血圧のような多因子疾患に関わるありふれたリスク変化については、ガイドライン自身が「pathogenic」「likely pathogenic」という用語は適切でないとし、「リスクアレル(risk allele)」などの別の呼び方で区別するよう求めています[1]。日本語の解説では多因子疾患にも「病的バリアント」が使われることがありますが、国際基準に沿うなら両者は分けて理解するのが正確です。

バリアント・変異・多型の違い

結論からいうと、「変異(mutation)」と「多型(polymorphism)」は、どちらも現在は「バリアント(variant)」に置き換えるのが国際標準です。ACMG/AMP 2015は、変異を「塩基配列の恒久的な変化」、多型を「集団の中で頻度が1%を超えるバリアント」と定義したうえで、この2語は長く使われてきた結果、それぞれ「病的」「良性」という誤った思い込みを生みやすいと指摘しました。そのため、どちらも「variant」に置き換え、病的・良性の程度は5つの修飾語で表すよう推奨しています[1]。

📘 旧来の用語と現在の用語

旧来の言葉 もともとの定義 何が問題だったか 現在の表し方
変異(mutation) 塩基配列の恒久的な変化 「病気の原因」と思い込まれやすい バリアント+5段階の修飾語
多型(polymorphism) 集団内の頻度が1%を超えるバリアント 「無害」と思い込まれやすい バリアント+5段階の修飾語
病的変異 病気の原因となる変異(旧称) 上記の「変異」と同じ問題を含む 病的バリアント(P/LP)

※定義はACMG/AMP 2015[1]による。日本語の「変異」は現在も一般向けの説明や古い文献で広く使われています。

つまり、頻度が高いか低いかと、病気に関わるかどうかは別の軸です。頻度が高くても病的なバリアントはありうるし、まれでも良性のバリアントは多数あります。頻度は判定の材料の一つにすぎず、最終的な分類は複数の証拠を組み合わせて決まります。バリアントという言葉そのものの意味や、一塩基の違い・欠失・重複といった種類については遺伝子のバリアントとはで、頻度の高い一塩基の違いについてはSNP(一塩基多型)で詳しく解説しています。

「病的遺伝子」「病的変異」という言い方について

「病的」と判定されるのは遺伝子そのものではなく、その遺伝子に生じた個々のバリアントです。ひとつの遺伝子の中には、病的なバリアント、良性のバリアント、意義がまだ分からないバリアントが混在しています。ACMG/AMPも、病原性の判定はバリアント単位で、報告されたすべての症例と証拠をまとめて1つの結論を出すべきだとしています[1]。

このため、「病的遺伝子」という言い方は日常会話では通じても、正確な用語ではありません。遺伝子を指すなら「○○病の原因遺伝子」、その遺伝子の特定の変化を指すなら「○○遺伝子の病的バリアント」と言い分けるのが適切です。「BRCA1遺伝子が病的」なのではなく、「BRCA1遺伝子に病的バリアントがある」と表現します。

「病的変異」は、「病的バリアント」の旧称にあたります。英語でも、かつては deleterious(有害な)などの表現が使われていました。日本遺伝カウンセリング学会が医療者向けにまとめた用語集では、Pathogenic の類似表現として Deleterious や Disease causing、Likely Pathogenic の類似表現として Suspected Deleterious、良性側では Polymorphism や Neutral が挙げられています[3]。古い報告書や論文では、これらを現在の5段階に読み替えて理解します。

2. バリアントの5段階分類(ACMG/AMP 2015)

ACMG/AMP 2015では、見つかったバリアントを、病原性を支持する証拠と良性を支持する証拠を強さごとに重み付けし、決められた組み合わせのルールでP・LP・VUS・LB・Bの5段階に分類します。判定には、集団での頻度、計算による予測、機能解析の結果、家系内での疾患との共分離(一緒に受け継がれているか)など、性質の異なる証拠が使われます[1]。

集団頻度、機能解析、家系内共分離、計算予測など複数の証拠を統合し、遺伝子バリアントをACMG/AMPの5段階に分類する仕組みを示した模式図

遺伝子バリアントの病原性は、1つの情報だけで決まるものではありません。集団での出現頻度、遺伝子・タンパク質への機能的影響、家系内での疾患との共分離、計算予測など複数の証拠を組み合わせ、Pathogenic、Likely Pathogenic、VUS、Likely Benign、Benignの5段階に分類します。なお「Likely」の90%超は病原性または良性である確からしさを示す分類上の基準であり、保有者が発症する確率を意味するものではありません。

検査でバリアントを検出
▶
頻度・機能・家系などの証拠を収集28の基準で重み付け
▶
5段階に分類P/LP/VUS/LB/B
▶
臨床では3群で判断陽性/VUS/陰性

判定基準の一つひとつや、証拠の組み合わせ方の詳細はACMGガイドラインの判定基準の解説にまとめています。ここでは、結果を読む側が知っておきたい要点に絞って説明します。

5段階の一覧と、それぞれの臨床的な扱い

病原性側の証拠は「非常に強い(PVS1)」「強い(PS1〜4)」「中等度(PM1〜6)」「支持的(PP1〜5)」、良性側の証拠は「単独で良性と判断できる(BA1)」「強い(BS1〜4)」「支持的(BP1〜7)」の強さに区分され、合計28の基準があります。どちらの基準も満たさない場合や、病原性と良性の証拠が相反する場合は、VUSになります[1]。それぞれの分類が医療でどう扱われるかを、ガイドラインの記載をもとに整理すると次のようになります。

🧬 ACMG/AMPの5段階分類と臨床的な扱い

分類 意味 臨床判断での扱い 血縁者の検査
Pathogenic(P)
病的
疾患の原因であると判断するのに十分な証拠がある 臨床判断に使える。ただし唯一の根拠にせず、他の臨床情報と合わせて用いる リスクのある血縁者の検査を検討する対象になる
Likely Pathogenic(LP)
病的の可能性が高い
病的である確からしさが90%を超える 他の証拠と組み合わせて臨床判断に使える。Pに確定させるための追加の検討が推奨される Pと同様に検討する対象になる
VUS
臨床的意義不明
証拠が不十分、または病的と良性の証拠が相反する 臨床判断に使ってはならない。医学的管理は本人と家族の病歴に基づいて行う 発症前診断の目的では行わない。分類を確定させるための情報収集として行うことはある
Likely Benign(LB)
良性の可能性が高い
良性である確からしさが90%を超える 他の情報と合わせて、疾患の原因ではないと判断できる 対象にしない
Benign(B)
良性
良性と判断するのに十分な証拠がある 疾患の原因ではないと判断できる 対象にしない

※臨床判断での扱いはACMG/AMP 2015[1]の「医療者はこのガイドラインをどう使うか」の記載による。LB・Bを結果報告書に記載するかどうかは、検査施設の方針によって異なります。

大切なのは、Pであっても検査結果だけで診断を確定させないという点です。結果は、症状、家族歴、ほかの検査所見と組み合わせて初めて医学的な意味が定まります[1]。

「Likely(可能性が高い)」は90%超の確実性

Likely PathogenicとLikely Benignの「likely」は、病気の原因である(または良性である)確からしさが90%を超えることを意味する、と定義されています。ACMG/AMP 2015は、検査施設ごとにばらばらだった「likely」の使い方をそろえるため、恣意的ではあるが共通の定義として90%を提案しました[1]。国際がん研究機関(IARC)の指針は95%を基準にしていましたが、臨床医と患者はもう少し高い誤りの可能性を許容できるという判断から、90%に決まった経緯があります[1]。

その後、この基準を確率の考え方(ベイズ統計)で数式化した研究では、Pathogenicを病的である事後確率が99%を超えるもの、Likely Pathogenicを90〜99%のものと位置づけています[4]。ただしACMG/AMP自身も、ほとんどのバリアントには確からしさを数値で割り当てるだけのデータがまだないと断っており[1]、90%や99%は分類の考え方を示す目安と理解するのが適切です。LikelyとついたP・Bの違いについてはLikely PathogenicとLikely Benignの解説でも詳しく扱っています。

⚠ 90%は「発症する確率」ではありません

Likely Pathogenicの「90%超」は、そのバリアントが病気の原因であることの確からしさを表しています。「このバリアントを持つ人が90%の確率で発症する」という意味ではありません。病的バリアントを持つ人がどのくらいの割合で発症するかは、浸透率という別の数字で表され、遺伝子や疾患ごとに大きく異なります(次の章で説明します)。

臨床では「陽性・陰性・VUS」の3群で考える

結論として、医学的管理の上ではPとLPは同等に「陽性」、BとLBは同等に「陰性」として扱い、これにVUSを加えた3群で考えます。日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)のHBOC診療ガイドライン2024年版は、検査機関はACMG/AMPに従って5つに分類するが、医学的管理の選択ではPとLP、BとLBは臨床上同等に扱われ、陽性・陰性・VUSの3グループに分類されると明記しています[2]。

一方で、ACMG/AMPはLikely Pathogenicについて、追加の検査などで証拠を集め、Pathogenicに再分類できるよう努めることを推奨しています。また出生前の場面で、遺伝学的検査の結果が唯一の証拠である場合には、Likely Pathogenicの意味を家族に慎重に説明する必要があるとしています[1]。つまり「LPは陽性と同じか」という問いへの答えは、「医学的管理の上では同等に扱うのが原則。ただし、取り返しのつかない判断の前には、LPであることの意味を個別に確認する」となります。

3. 検査結果に「病的バリアント」とあったら

病的バリアントが見つかったときに確認すべき点は、①発症するかどうかは確率的であること、②生まれつきのもの(生殖細胞系列)か、がん組織だけのもの(体細胞)か、③血縁者にどう関わるか、の3つです。ここでは、代表例として遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)のBRCA1/2も取り上げます。

必ず発症するわけではない:浸透率と表現度

病的バリアントを持っていても、必ず発症するとは限りません。病的バリアントを持つ人のうち実際に発症する人の割合を浸透率(penetrance)といい、100%に満たない場合を「浸透率の低下(不完全浸透)」と呼びます。また、発症しても症状の種類や重さには幅があり、これを表現度の多様性(variable expressivity)といいます。ACMG/AMP 2015も、多くのバリアントが幅のある表現型を示し、発症の確率が100%とは限らないことを明記しています[1]。

さらにガイドラインは、症状や家族歴のない人に偶然見つかった病的バリアントについて、患者として見つかった人のデータから予測される浸透率よりも、実際の浸透率ははるかに低い可能性があると注意を促しています[1]。これまでの浸透率の推定値の多くは、すでに病気を発症した人やその家系から集められたデータに基づいているためです。

具体的な数字の一例として、BRCA1/2の病的バリアントを持つ女性を追跡した国際的な前向きコホート研究があります。この研究では、80歳までの乳がんの累積リスクはBRCA1で72%(95%信頼区間65〜79%)、BRCA2で69%(同61〜77%)、卵巣がんの累積リスクはBRCA1で44%(同36〜53%)、BRCA2で17%(同11〜25%)と推定されました[5]。同じ研究では、乳がんと診断された一次・二次近親者の数が多いほど乳がんのリスクが高くなっていました[5]。

💡 集団の数字と個人のリスク

上記は研究に参加した集団から得られた推定値です。「72%」は「あなたが72%の確率で発症する」という意味ではなく、個人のリスクは家族歴、年齢、生活要因などによって変わります。

生殖細胞系列か、体細胞(がん組織)か

「生殖細胞系列の病的バリアント」は生まれつき全身の細胞に存在し、血縁者と共有している可能性があります。これに対し、がん組織だけに生じた体細胞バリアントは、原則として親から子へは受け継がれません。がんの治療選択のために行われる遺伝子パネル検査では、主に後者を調べます。両者は分類の枠組みも異なります。

🔬 生殖細胞系列バリアントと体細胞バリアント

項目 生殖細胞系列(germline) 体細胞(somatic)
存在する場所 生まれつき全身の細胞 がん組織など一部の細胞
血縁者との関係 血縁者と共有している可能性がある 原則として受け継がれない
主な分類の枠組み ACMG/AMP 2015の5段階(P/LP/VUS/LB/B)[1] AMP/ASCO/CAP 2017のTier I〜IV(臨床的意義の強さ)[6]
主な用途 遺伝性疾患の診断、発症リスクの評価、血縁者の検査 治療薬の選択、診断、予後の予測

ACMG/AMP 2015は、体細胞バリアントには生殖細胞系列とは異なる分類カテゴリーが必要であり、あるバリアントが本当に体細胞性かどうかは生殖細胞系列のDNAを調べて確認するとしています[1]。体細胞バリアントについては、その後AMP/ASCO/CAPが、臨床的意義の強さに応じてTier I(強い臨床的意義)からTier IV(良性または良性の可能性が高い)に分ける別の指針を示しました[6]。がん組織の検査で見つかった変化が、生まれつきのものかどうかは、その結果だけでは判断できない場合があります。両者の違いは体細胞変異と生殖細胞系列変異のちがいで詳しく解説しています。

血縁者への影響と血縁者検査

生殖細胞系列の病的バリアントは、遺伝形式に応じて血縁者と共有されている可能性があります。どの血縁者にどのくらいの確率で受け継がれるかは、遺伝形式によって決まります。常染色体顕性(優性)遺伝の病気であれば、病的バリアントを持つ親から子へ受け継がれる確率は1回の妊娠ごとに50%です。常染色体潜性(劣性)遺伝の病気では、片方のアレルにだけ病的バリアントを持つ人は通常発症せず、保因者と呼ばれます。

両親のどちらからも受け継いでいない、新たに生じたde novo変異(新生突然変異)の場合もあります。ACMG/AMPは、de novoの確認や、家系内で疾患とバリアントが一緒に受け継がれているか(共分離)の確認が、分類そのものの重要な証拠になるとしています[1]。血縁者の検査は、本人のバリアントの意味を確かめる情報にもなります。

まだ発症していない血縁者が、家族で見つかった病的バリアントを持っているかを調べる検査は、発症前(予測的)遺伝学的検査にあたります。日本医学会の「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」は、すでに発症している患者の遺伝学的検査でも、血縁者に影響を与える可能性を含めて検査の意義を説明し、同意を得てから実施するよう求めています[7]。また、遺伝学的検査で得られた個人の遺伝情報は守秘義務の対象であり、本人の同意なく血縁者を含む第三者に開示すべきではないとしています[7]。血縁者に結果を伝えるかどうか、どう伝えるかは、本人の意思を前提に検討される事項です。

具体例:BRCA1/2の病的バリアントとHBOC

BRCA1とBRCA2の生殖細胞系列の病的バリアントは、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の原因となります。

日本人のデータとしては、理化学研究所などのグループが、日本人の乳がん患者7,051人と対照の女性11,241人について、11の遺伝性乳がん関連遺伝子を解析した研究があります。病的バリアントは患者全体の5.7%に見つかり、その割合は40歳未満で診断された人で15%、80歳以上で3.2%と、診断時の年齢によって大きく異なりました。見つかった病的バリアントの3分の2はBRCA1/2でした[8]。

また、日本のバイオバンクに登録された14種類のがんの患者63,828人と対照37,086人を解析した研究では、従来知られていた乳がん・卵巣がん・前立腺がん・膵がんに加えて、BRCA1の病的バリアントと胆道がん、BRCA2と食道がん、BRCA1/2と胃がんとの関連が示されました[9]。ただし、これらの追加のがん種は、診療ガイドライン上の管理対象としてはまだ十分な根拠が確立していない段階であり、「関連が報告されている」ことと「検診が推奨される」ことは別です[9]。

BRCA1/2の病的バリアントは、治療の選択にも直結します。日本では、BRCA1/2の遺伝学的検査がPARP阻害薬による治療のコンパニオン診断(治療薬の適応を決める検査)として保険診療で用いられています[10]。病的かVUSかによって、受けられる治療が変わりうるのです。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「病的」は「原因である確からしさ」の言葉です】

「病的バリアント」という言葉は、どうしても「病気が決まった」という響きを持ちます。しかし分類の中身は、そのバリアントが病気の原因であることを示す証拠の強さの評価です。発症するかどうか、いつ、どの程度かは、浸透率や表現度、家族歴、年齢といった別の情報を重ねて考える必要があります。

結果を受け取ったときには、「原因としての確からしさ」「発症の見込み」「血縁者への関わり」「分類が今後変わる可能性」を分けて整理することが大切だと考えています。1枚の報告書の中に、性質の異なる情報が同時に書かれているからです。

4. 分類は変わりうる:VUSと再分類

バリアントの分類は固定されたものではなく、新しい証拠が集まるたびに見直されます。特にVUSは再分類の主な対象です。ACMG/AMP 2015も、大規模な集団の頻度データが利用できるようになったことで、多くのVUSが良性に再分類されたと述べています[1]。

VUSは「グレー」ではなく判断の保留

VUS(臨床的意義不明のバリアント)は、「やや危険寄り」という意味ではなく、現時点では病的とも良性とも判断できるだけの証拠がない、という判断の保留です。JOHBOCのガイドラインは、VUSは腫瘍の病理診断で良性と悪性の中間に置かれるような「いわゆるグレー」ではなく、再分類によって今後いずれかのグループに分類されるバリアントであると説明しています[2]。

そのためACMG/AMPは、VUSを臨床判断に使ってはならないとし、病的か良性かを確定させる努力を続けるよう求めています。その間、対象となる病気について患者を慎重に経過観察することは妥当であるともしています[1]。日本医学会のガイドラインのQ&Aも、病的意義が不明なバリアントが検出された場合は、病的意義が確定するまで診断や医学的管理に検査結果を用いないとしています[7]。

VUSは珍しい結果ではありません。ACMGは、遺伝学的検査の報告書の30%を超えるものにVUSが含まれるとしています[11]。ただしこの割合は、調べる遺伝子の数や対象者によって大きく変わります。VUSと言われたときの具体的な対応についてはVUSの臨床的取り扱いで解説しています。

再分類の実例

再分類の多くは、VUSが良性の方向へ見直されるものです。米国の単一の商業検査機関で遺伝性腫瘍の遺伝学的検査を受けた約145万人のデータを解析した研究では、当初PまたはLPと分類されたバリアントが別の臨床区分へ変わったのは0.7%、BまたはLBからの変更は0.2%とまれでした。一方、VUSは7.7%が再分類され、そのうち91.2%が良性・良性の可能性が高いへの下方修正、8.7%が病的・病的の可能性が高いへの上方修正でした[12]。同じバリアントを複数の人が持つため、報告件数ベースでは報告されたVUSの24.9%が再分類されていました[12]。

💡 この数字を読むときの注意

上記は、単一の商業検査機関で、遺伝性腫瘍の遺伝子を対象に行われた検査のデータです。対象者の大部分は女性でした。論文自身も、他の検査機関に当てはまるかどうかは今後の検討が必要としています[12]。「VUSのほとんどは良性になる」と一般化することはできず、個々のVUSがどちらに再分類されるかは、事前には分かりません。

日本人に特有のバリアントが、VUSから病的へ見直された例もあります。BRCA2遺伝子のc.7847C>T(p.Ser2616Phe)は、日本人の家系でのみ繰り返し見つかり、長くVUSとされてきたバリアントです。2023年には、機能解析などをもとに「病的の可能性が高い」とする報告がなされました[13]。さらに2026年の研究では、全国の登録データから35家系44人の保有者を集め、家系内での共分離の定量解析(尤度比はおよそ60)、複数の機能解析、ファンコニ貧血の症例などの証拠を、BRCA1/2に特化したClinGen ENIGMA専門家パネルの枠組みで統合しました。その結果、合計10点、病的であるオッズがおよそ895対1となり、Pathogenicの基準を超えることが示されました[10]。前述のとおり日本ではBRCA1/2検査がPARP阻害薬のコンパニオン診断であるため、この分類は治療の選択に直接関わります[10]。

再分類は、根拠となる情報がデータベースで共有されることで進みます。ACMG/AMPは検査機関にClinVarなどのデータベースへの登録を推奨しています[1]。また、VUSを含む報告書については、医療者が定期的に分類の更新を確認することを推奨しています[1]。

分類基準そのものも改訂中

2015年のACMG/AMPガイドラインは現在も広く使われていますが、分類基準そのものも改訂が進められています。2015年版の作成時には、各基準に点数を割り当てて合計で分類を決める点数制も検討されました。しかし当時は、各基準に点数を割り当てることは科学的に裏づけられた定量的理解を前提にしてしまうとして、採用されませんでした[1]。

その後、基準をベイズ統計で数式化する研究が発表され[4]、先ほどのBRCA2の例のように、証拠を点数で合算する方法が専門家パネルで使われています[10]。ACMGは、ACMG/AMP/CAP/ClinGenによる新しい分類基準(SVC v4.0)が近く公開予定であり、VUSを病原性の見込みによって細分化する枠組みを含むと説明しています(2026年9月時点)[11]。新しい基準が公開されると、同じバリアントの分類や報告書の書き方が変わる可能性があります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 病的バリアントとは何ですか?

病気の原因となる、あるいは発症リスクを大きく高めると判断された遺伝子の配列の違いです。国際的な分類基準(ACMG/AMP 2015)の5段階のうち、Pathogenic(病的)とLikely Pathogenic(病的の可能性が高い)がこれにあたります。もともとは単一遺伝子疾患について使われる用語で、病原性は「どの病気について、どの遺伝形式で」とセットで判定されます。

Q2. 「変異」と「バリアント」は何が違いますか?

指している現象は同じです。「変異(mutation)」は病気の原因と、「多型(polymorphism)」は無害と思い込まれやすいため、2015年のACMG/AMPガイドライン以降、どちらも中立的な「バリアント(variant)」に置き換え、病的・良性の程度を5段階の修飾語で表すのが国際標準になりました。「病的変異」は「病的バリアント」の旧称にあたります。

Q3. Likely Pathogenicは陽性と同じですか?

医学的管理の上では、PathogenicとLikely Pathogenicを同等に「陽性」として扱うのが原則です。Likelyは、病気の原因である確からしさが90%を超えることを意味します。ただし、Likely Pathogenicは追加の証拠によってPathogenicに確定させる努力が推奨されており、特に取り返しのつかない判断の前には、その意味を個別に確認する必要があります。

Q4. 病的バリアントがあると必ず発症しますか?

必ず発症するとは限りません。病的バリアントを持つ人のうち実際に発症する人の割合(浸透率)は、遺伝子や疾患ごとに異なり、100%に満たないことも多くあります。発症しても症状の重さには幅があります。BRCA1/2の例では80歳までの乳がんの累積リスクが約7割と推定されていますが、これは集団の推定値で、個人のリスクは家族歴などで変わります。

Q5. 家族も検査を受けるべきですか?

生殖細胞系列の病的バリアント(PまたはLP)が見つかった場合、血縁者も同じバリアントを持っている可能性があり、血縁者の検査が検討の対象になります。ただし、遺伝情報を血縁者に伝えるかどうかは本人の同意が前提であり、検査を受けるかどうかも血縁者それぞれが決めることです。VUSの場合は、発症前診断を目的とした血縁者の検査は行いません。

Q6. 分類が変わることはありますか?

あります。特にVUSは再分類の主な対象です。米国の大規模なデータでは、再分類されたVUSの約9割が良性の方向へ見直された一方、病的へ見直されたものもありました。日本人に特有のBRCA2のバリアントが、VUSから病的へ見直された例もあります。VUSと言われた場合は、分類が更新されていないか、定期的に確認していくことが推奨されています。

まとめ

病的バリアントとは、ACMG/AMP 2015の5段階分類でPathogenic(病的)またはLikely Pathogenic(病的の可能性が高い)と判定されたバリアントであり、医学的管理ではこの2つを「陽性」として扱います[1][2]。「変異」「多型」という言葉は誤解を招くため、現在は中立的な「バリアント」に統一されています[1]。

分類が示しているのは、そのバリアントが病気の原因であることの確からしさです。「病的バリアントがある」ことと「必ず発症する」ことは別であり、発症の見込みは浸透率や表現度、家族歴などを合わせて考えます[1][5]。生まれつきのものかがん組織だけのものか、血縁者にどう関わるかも、結果を読むうえで欠かせない視点です。そして分類は固定されたものではなく、特にVUSは証拠の蓄積によって見直されていきます[12][10]。

参考文献

  • [1] Richards S, Aziz N, Bale S, et al. Standards and guidelines for the interpretation of sequence variants: a joint consensus recommendation of the American College of Medical Genetics and Genomics and the Association for Molecular Pathology. Genet Med. 2015;17(5):405-24. [PubMed 25741868]
  • [2] 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)編. 遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン2024年版. 遺伝BQ6「遺伝学的検査の結果が病的意義不明のバリアント(VUS)であった場合にどのように対応するべきか?」 [JOHBOC]
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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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