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サイレント変異(同義的バリアント)は無害ではない

サイレント変異とは

サイレント変異(同義的変異とも呼ばれる)は、遺伝子のDNA配列に変更が生じても、その変異がタンパク質のアミノ酸配列に変化をもたらさない種類の変異です。具体的には、DNAの塩基配列が変わっても、同じアミノ酸をコードする別のコドンに置き換わるため、タンパク質の構造や機能に影響を与えません。このような変異が「サイレント」または「無音」と呼ばれるのは、タンパク質のレベルで可視化される効果がないためです。

遺伝暗号は冗長性を持っており、多くのアミノ酸が3つの塩基(コドン)によって指定され、そのうちの複数が同じアミノ酸をコードすることがあります。たとえば、セリンをコードするコドンはUCU、UCC、UCA、UCG、AGU、AGCの6つあります。この冗長性により、DNA配列の一部に変異が生じても、コードされるアミノ酸が変わらない場合があります。

サイレント変異は従来、機能的な影響がないと考えられてきましたが、近年の研究では、これらの変異がmRNAのスプライシング、mRNAの安定性、タンパク質の翻訳効率、タンパク質のフォールディングに影響を及ぼすことが明らかにされています。したがって、サイレント変異が必ずしも機能的に無害であるとは限らず、特定の条件下で疾患の原因となる可能性があることが認識されています。

サイレント変異が引き起こす疾患

同義的変異(サイレント変異)とは、DNAの塩基配列の変異が起きても、アミノ酸の配列が変わらない変異を指します。従来、これらの変異はタンパク質の機能に影響を与えないと考えられていましたが、近年の研究で、一部の同義的変異が病気の原因となることが示されています。これは、変異がmRNAのスプライシング、mRNAの安定性、またはタンパク質の折りたたみや翻訳効率に影響を与えることにより起こります。

1. CFTR遺伝子の同義的変異と嚢胞性線維症:

嚢胞性線維症は、CFTR(Cystic Fibrosis Transmembrane Conductance Regulator)遺伝子の変異によって引き起こされる遺伝性の疾患です。CFTR遺伝子のc.1648G>A変異(p.Gly550Gly)は、アミノ酸配列に変化をもたらさない同義的変異ですが、この変異はmRNAのスプライシングに影響を与え、機能的なCFTRタンパク質の生成が妨げられることが知られています。

2. MAPT遺伝子の同義的変異と神経変性疾患:
MAPT遺伝子における同義的変異であるc.1216C>T変異(p.Ser372Ser)は、家族性前頭側頭型認知症のリスクを高めることが示されています。この変異は、mRNAのスプライシングパターンを変えることで、タウタンパク質のアイソフォームのバランスを乱し、疾患の進行に寄与します。

3.DPYD遺伝子の同義的変異と薬剤感受性:
ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)欠乏症は、がん治療薬であるフルオロウラシル(5-FU)への過敏症を引き起こす原因となります。DPYD遺伝子のc.1236G>A(p.Gln412Gln)同義的変異は、mRNAの安定性に影響を与え、DPD酵素の活性低下を引き起こし、5-FUへの感受性を高めます。

4. COL1A1遺伝子と骨形成不全症
骨形成不全症: COL1A1遺伝子における同義的変異c.870G>A(p.Gly290=)は、mRNAスプライシングの異常を引き起こし、骨形成不全症の一因となります。この疾患は、骨の脆弱性が特徴で、非常に軽微な外傷で骨折が起きやすくなります。

5. SCN5A遺伝子と心疾患
ブルガダ症候群: SCN5A遺伝子における同義的変異c.5457G>A(p.His1819=)は、ナトリウムチャネルタンパク質のゲーティング異常を引き起こし、心臓のリズム障害であるブルガダ症候群の原因となり得ます。この変異は、タンパク質の機能に直接影響を及ぼし、致命的な心疾患リスクを高めます。

6. GJB2遺伝子と難聴
遺伝性難聴: GJB2遺伝子の同義的変異c.79G>A(p.Val27Val)は、コネキシン26タンパク質の発現低下に関連し、遺伝性の難聴に関与します。GJB2遺伝子の変異は、先天性難聴の一般的な原因の一つです。

7.IKBKAP遺伝子と家族性自律神経失調症
家族性自律神経失調症: IKBKAP遺伝子の同義的変異c.2204C>T(p.Ala735Ala)は、この遺伝子のmRNAスプライシングに影響を及ぼし、神経発達障害であるファミリー性ジスオートノミアを引き起こします。この疾患は、自律神経系の機能障害が特徴です。

これらの例からもわかるように、同義的変異が疾患の発生にどのように関与しているかを理解することは、疾患の診断や治療戦略の開発において非常に重要です。同義的変異の影響を評価するためには、遺伝子発現の解析、タンパク質の機能試験、mRNAスプライシングの研究など、多方面からのアプローチが必要となります。

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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