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Baraitser-Winter症候群タイプ2(BRWS2)|ACTG1遺伝子変異による希少先天性疾患を臨床遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。2025年国際誌『Global Woman Leader』表紙抜擢など、世界基準の出生前診断と遺伝カウンセリングを提供。

Baraitser-Winter症候群タイプ2(BRWS2/OMIM 614583)は、17番染色体長腕のACTG1遺伝子に生じるミスセンス変異によって引き起こされる、極めて稀な常染色体顕性(優性)遺伝の先天性多発奇形症候群です。両眼開離・眼瞼下垂・コロボーマなどの特異的な顔貌、厚脳回や滑脳症などの大脳皮質形成異常、進行性の感音難聴を主な特徴とし、世界での報告例は2024年時点でわずか113例ほどに留まる超希少疾患です。

この記事でわかること
📖 読了時間:約18分
🧬 ACTG1遺伝子・多発奇形・臨床遺伝
臨床遺伝専門医監修

Q. Baraitser-Winter症候群タイプ2とはどのような病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. 細胞の骨組み(細胞骨格)を作るタンパク質「γ-アクチン」をコードするACTG1遺伝子に生じた変異が原因の、生まれつきの希少な多臓器疾患です。胎児期の脳発達で神経細胞がうまく移動できず、脳の表面に正しいシワが作られないため、厚脳回や滑脳症といった大脳皮質の形成異常を起こします。さらに特徴的な顔つき・進行性の難聴・眼の異常・知的障害・てんかんなどを伴います。

  • 疾患の定義 → OMIM 614583、世界で約113例の超希少疾患、ACTG1遺伝子変異が原因
  • 分子メカニズム → 機能獲得型のミスセンス変異が神経細胞の遊走を阻害し脳形成異常を引き起こす
  • 主な症状 → 大脳皮質形成異常83%、難聴35〜83%、てんかん50%、コロボーマなど眼異常30%
  • タイプ1との違い → ACTB変異のBRWS1は顔貌・骨格が重篤、ACTG1のBRWS2は脳と難聴が重篤
  • 診断・管理 → トリオ全エクソーム解析と多診療科連携による生涯にわたる先制的管理

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1. Baraitser-Winter症候群タイプ2とは:疾患の定義と歴史

Baraitser-Winter症候群タイプ2(BRWS2)は、すべての細胞に存在する「細胞質γ(ガンマ)アクチン」というタンパク質を作るACTG1遺伝子のミスセンス変異が原因で起こる、生まれつきの先天性多発奇形症候群です。OMIM登録番号は614583、Orphanetでも独立した希少疾患として登録されています。

💡 用語解説:常染色体顕性(優性)遺伝とは

人は両親から1本ずつ染色体をもらい、性別を決める「性染色体」以外を「常染色体」と呼びます。「顕性(優性)」とは、ペアになっている2本の遺伝子のうち片方に変異があるだけで症状が現れる遺伝の仕方です。つまり1か所の変異で発症します。BRWS2もこの遺伝形式ですが、後で詳しく説明するように、ほとんどの患者さんでは両親には変異がなく、お子さんで初めて新しく生じた変異(新生突然変異/de novo変異)として発症しています。

1988年の発見から現代の疾患統合まで

1988年、英国の臨床遺伝学者M.バライツァー(Baraitser)とR.M.ウィンター(Winter)の両博士が、虹彩のコロボーマ・眼瞼下垂・両眼開離・知的障害を呈する3名の患者について報告したのが疾患の出発点です。当時は原因が不明でしたが、その後の次世代シーケンサーの普及とともに、2012年にACTBおよびACTG1という2つのアクチン遺伝子の新生ミスセンス変異が原因として特定されました。

興味深いのは、それまで別々の疾患として扱われていたFryns-Aftimos症候群・大脳眼顔面リンパ症候群(COFL)・大脳前頭顔面症候群(cerebrofrontofacial syndrome)といった重篤な多発奇形症候群が、すべて同じACTB/ACTG1遺伝子変異による同一スペクトラムであることが判明したことです。現在ではこれらを統合した「Baraitser-Winter cerebrofrontofacial syndrome(BWCFF)」という包括的な疾患概念として整理されており、ACTB変異によるものをタイプ1(BRWS1)、ACTG1変異によるものをタイプ2(BRWS2)と区別しています。

疫学:世界的に分子遺伝学的に確定診断された症例は2024年時点で約113例のみと、極めて稀な疾患です。ただし軽症例では他疾患と誤診されたり未診断のまま見過ごされている可能性が高く、実際の有病率はもっと多いと推定されています。

2. 原因遺伝子ACTG1と分子病態のメカニズム

BRWS2を理解するうえで欠かせないのが、原因遺伝子ACTG1がコードする「γ-アクチン」というタンパク質の役割と、変異がどのように細胞レベルで機能を狂わせるのかという点です。

💡 用語解説:アクチン細胞骨格とは

細胞は柔らかいゼリーのような構造ですが、その内部には「細胞骨格」と呼ばれる繊維状のタンパク質ネットワークが張り巡らされ、細胞の形を保ったり、動かしたり、分裂させたりしています。その主役の1つがアクチンです。アクチンには筋肉用(α)と、すべての細胞に存在する細胞質型(β・γ)があり、ACTG1がコードするγ-アクチンは特に神経細胞や内耳の有毛細胞など特定の細胞で重要な働きをしています。

ACTG1遺伝子の位置と機能

ACTG1遺伝子は17番染色体長腕(17q25.3)に位置し、375個のアミノ酸からなるγ-アクチンを作ります。同じ細胞質アクチンであるβ-アクチン(ACTB)とは99%という極めて高いアミノ酸配列の一致を示しますが、それでも生体内では完全に交換可能ではありません。マウスの実験では、ACTG1を欠失させると聴覚障害と特有の筋症を示すことから、γ-アクチンが特定の細胞——とりわけ神経細胞と内耳の有毛細胞——で代替不可能な役割を担っていることが分かっています。

機能獲得型変異が神経細胞の遊走を妨げる

💡 用語解説:ミスセンス変異と機能獲得型変異

ミスセンス変異とは、DNAの1か所の塩基変化によって、設計図のアミノ酸が別のアミノ酸に置き換わるタイプの変異です。タンパク質の形や機能に影響を与えます。

機能獲得型(Gain-of-Function)変異は、単に機能を失う「機能喪失」とは違い、変異したタンパク質が異常な働きをして正常なタンパク質まで邪魔するタイプです。BRWS2の変異はすべてミスセンス変異であり、機能獲得型または優性阻害型として働くことが分かっています。タンパク質を欠失させるナンセンス変異の患者は1人も報告されていないことが、この特殊なメカニズムを裏付けています。

変異は特定のアミノ酸(例:Ser155、Thr203、Arg254、Arg256など)に集中して報告されており、変異の61%がわずか2か所のアミノ酸に集中するという「ホットスポット」が知られています。この異常なγ-アクチンは、アクチンフィラメントの束化・重合・他のタンパク質との相互作用を阻害し、結果として細胞の正常な動きが障害されます。

胎児期の脳発達では、神経細胞(ニューロン)が脳の深い部分から表面に向かって長距離を移動して、複雑な層構造と脳のシワ(脳回)を形作ります。ACTG1の機能獲得型変異によって細胞骨格の動きが乱れると、この移動プロセスが途中で止まり、神経細胞が正しい場所にたどり着けず、脳の表面に正常なシワが作られなくなります。これがBRWS2でしばしば認められる厚脳回や滑脳症という大脳皮質形成異常の正体です。

遺伝形式:ほとんどが新生突然変異

BRWS2は常染色体顕性(優性)遺伝の形式をとりますが、報告されている症例の圧倒的多数は新生突然変異(de novo変異)による孤発例です。新生突然変異とは、両親には変異がないのに、精子・卵子が作られる過程または受精直後に新しく生じた変異のことを指します。これは環境要因や両親の生活習慣によるものではありません。

ごく稀な事例として、軽症の親から子への遺伝や、性腺モザイク(親の生殖細胞の一部だけに変異がある状態)に起因する同胞発症例も報告されています。エクソーム解析の普及によって、40代・60代になって初めて知的障害の精査から分子診断された成人の同胞例も最近報告されており、本症候群が決して致死的な小児期限定の疾患ではないことが分かってきています。

3. 主な症状と多臓器への影響

細胞質アクチンは全身のあらゆる細胞に存在するため、BRWS2の症状も中枢神経・頭蓋顔面・感覚器・内臓・骨格と多岐にわたります。各症状の頻度を下のグラフで示します。

📊 BWCFF症候群における主要症状の出現頻度

脳奇形(厚脳回・滑脳症など)83%
てんかん50%
小頭症50%
中等度の低身長44%
泌尿生殖器異常41%
胃腸機能障害41%
心血管異常38%
難聴(感音性/伝音性)35%
視覚異常(コロボーマ等)30%
骨格系の特徴20%
神経筋異常20%
悪性腫瘍<5%

出典:NCBI GeneReviews. Baraitser-Winter Cerebrofrontofacial Syndrome.

特徴的な頭蓋顔面の所見

特徴的な顔つきは本症候群の最も一般的なサインです。具体的には両眼開離(眼と眼の間が広い)、眼裂が大きく下斜め、先天性の眼瞼下垂、高く弓なりに上がった眉、広く短い鼻と球状または平坦な鼻先、平坦で長い人中、外反した下唇などが見られます。前頭部の正中線に沿った隆起(メトピックリッジ)により三角頭蓋のような頭の形になり、側頭部の狭窄を伴うことがあります。耳介はしばしば小さく後方に傾き、折れ曲がった厚い耳輪などの耳介奇形を伴います。

特筆すべき点として、乳児期は比較的丸く平坦な顔立ちであるのに対し、小児期後期から成人期にかけて顔貌が徐々に粗造化(coarsening)し、鼻唇溝が深くなりより症候群らしい特徴が目立ってくる、という年齢による変化が報告されています。

中枢神経系の所見:脳形成異常とてんかん

💡 用語解説:厚脳回・滑脳症とは

正常な脳の表面には複雑なシワ(脳回と脳溝)があり、限られた頭の中に広い大脳皮質を収納する役割を果たしています。厚脳回(pachygyria)はこのシワが少なく異常に厚くなった状態、滑脳症(lissencephaly)はシワがほとんどなく脳表面が滑らかになった状態です。

どちらも胎児期の神経細胞の遊走(移動)がうまくいかなかったことが原因で、知的障害・てんかん・運動発達遅滞の重要な要因になります。BRWS2では特に前頭部優位の厚脳回が典型的で、後頭部に向かって帯状異所性灰白質に融合するパターンもよく見られます。

大脳皮質形成異常は約83%の患者に認められ、BRWS2の中核症状です。これらの構造異常を直接反映して、約50%の患者がてんかん発作を発症し、脳形成異常の重症度に比例して薬剤抵抗性となるケースもあります。脳梁の異常(無発生・低形成)は約20%、小頭症は約50%に認められ、出生時には正常下限でも生後徐々に進行する出生後小頭症のパターンが多く見られます。発達遅滞・知的障害は事実上すべての患者に存在し、その程度は構造的脳異常がない患者の軽度学習障害から、重度滑脳症に伴う最重度の知的障害まで様々です。

感覚器の所見:眼と耳

💡 用語解説:眼コロボーマ(Coloboma)

胎児期、眼の組織が形成される段階で「眼杯裂」というスリットが閉じることで眼球が完成します。この閉鎖がうまくいかないと、虹彩・網膜・視神経などに「裂け目」が残ってしまいます。これがコロボーマです。BRWS2では患者さんの約30%にこの眼コロボーマや小眼球症が認められ、診断の重要な手がかりになります。視覚への影響は範囲によって異なり、視神経や黄斑(視覚の中心)が保たれている場合は早期からの眼鏡矯正と弱視訓練で良好な視力を維持できるケースが報告されています。

聴覚障害はBRWS2において特筆すべき強い関連性を持っています。進行性の感音難聴または伝音難聴が患者さんの35%から最大83%に認められ、BRWS1(ACTB変異)の約50%よりも有意に高頻度です。これはACTG1変異が、症候群を伴わない常染色体顕性進行性感音難聴であるDFNA20/26の独立した原因遺伝子としても知られていることに関係します。内耳の有毛細胞にある不動毛(ステレオシリア)という微細構造の維持にγ-アクチンが不可欠で、変異により有毛細胞が変性し、典型的には高音域から低音域へと進行する難聴が起こります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【ACTG1の難聴は人工内耳が極めて有効】

BRWS2における進行性感音難聴は、患者さんとご家族の生活の質に大きく影響します。ここで知っておいていただきたいのは、ACTG1変異による難聴の主な障害部位が「内耳の有毛細胞」であり、聴神経や脳幹レベルの上位構造は比較的保たれているケースが多いという事実です。

そのため、補聴器で対応が難しくなった進行例・高度難聴例においても、人工内耳(Cochlear Implants)による電気刺激が極めて有効に機能し、言語獲得やコミュニケーション能力が大幅に向上したという報告が複数あります。難聴があるからとあきらめず、聴覚専門医との早期連携が大切だと考えています。

骨格系・内臓器官・消化器症状

青年期から成人期にかけて、関節拘縮(関節がかたくなる)・肘や膝の伸展制限・肩帯筋肉の萎縮が進行する例が約20%で報告されています。特徴的な姿勢(肩を前に突き出し肘膝を屈曲)や翼状頸、幅広い母指・母趾も見られます。乳児期に筋緊張低下を示しその後下肢痙縮へ移行するケースもあります。成人期には約44%の患者が中等度の低身長を呈します。

心血管系では先天性心疾患(動脈管開存症など)が38%、泌尿生殖器系では水腎症や腎奇形を含む異常が41%に認められます。消化器症状も41%と頻度が高く、慢性便秘・胃食道逆流症・摂食障害・成長不良などが生活の質を大きく低下させる要因となります。一部の重症例では経管栄養や胃瘻造設が必要になります。

新たな注目点:強迫性障害(OCD)の合併

2022年にGöbelらが発表した症例報告は、BRWS2の精神医学的プロファイルに新しい視点をもたらしました。ACTG1関連BRWS2の患者さんに洗浄・清掃に関する深刻な強迫症状(OCS)が認められ、MRI所見上、強迫性障害の病態に関与する「皮質-線条体-視床-皮質ループ」の機能障害と一致するパターンが確認されたのです。この発見は、BRWS2が単なる構造的脳奇形と知的障害の症候群ではなく、特定の精神疾患への脆弱性を内包している可能性を示唆しており、長期フォローアップにおけるOCDのスクリーニング検討が今後の課題となっています。

4. 鑑別診断:BRWS1(ACTB変異)との臨床的相違

同じBaraitser-Winter症候群スペクトラムでも、ACTBによるタイプ1(BRWS1)とACTG1によるタイプ2(BRWS2)には、症状の重症度や影響を受ける臓器に明確な傾向の違いがあります。臨床現場では、まずこの2つのサブタイプを正確に区別することが、患者さんの予後予測や生涯にわたる管理計画の立案に直結します。

臨床的側面 BRWS1(ACTB変異) BRWS2(ACTG1変異)
頭蓋顔面異常 極めて重篤。経年的な顔貌粗造化が著しい。かつてFryns-Aftimos症候群と診断された重症例の大半はACTB変異。 特異的顔貌は存在するが、BRWS1に比べ相対的に軽度。非特異的と評価される患者もいる。
大脳皮質異常 厚脳回は見られるがACTG1変異例より軽度傾向。ただし重度小頭症を伴う無脳回の稀な報告あり。 極めて重篤。前頭葉優位厚脳回から広範な滑脳症まで及ぶ。重度皮質形成異常例の多くがACTG1。
聴覚障害 約50%で難聴。主要初発症状にならないこともある。 約83%と高頻度。高度・進行性感音難聴が多い。DFNA20/26の独立原因遺伝子でもある。
知的障害・てんかん 画像上の脳構造異常が軽度でも広範な発達遅滞を認めることが多い。 皮質形成異常の重症度に比例し、最重度の知的障害・難治性てんかんを合併するリスクが高い。

他の似た疾患との見分け方

Noonan症候群との鑑別

乳児期は両眼開離・眼瞼下垂・低身長・心疾患などが似ており、初期に誤診されるリスクがあります。

鑑別ポイント:BRWS2では大脳皮質形成異常(厚脳回)が高頻度に認められる点が決定的に異なります。

Kabuki症候群との鑑別

特異的顔貌と多発奇形という観点から鑑別に挙がりますが、症状のパターンが異なります。

鑑別ポイント:KMT2D/KDM6A遺伝子の解析と、BRWS2に特徴的な皮質形成異常の画像所見によって区別します。

孤発性滑脳症との鑑別

LIS1・DCX変異などによる孤発性滑脳症とは画像所見が部分的に重なります。

鑑別ポイント:BRWS2では特徴的な顔貌・コロボーマ・難聴を伴います。遺伝学的確定診断が必須です。

SPECC1L関連症候群との鑑別

眼瞼の形状や両眼開離の様子がBRWSと類似しているため、鑑別に挙がります。

鑑別ポイント:SPECC1L遺伝子の解析と、BRWS2に特徴的な脳形成異常の有無で区別します。

5. 診断アプローチと遺伝子検査の進め方

BRWS2は希少疾患で表現型の多様性が大きいため、確立された国際的な臨床診断スコアリングシステムは存在しません。臨床所見・画像所見の組み合わせから疑い、分子遺伝学的検査で確定する流れが標準的です。

出生後の確定診断:分子遺伝学的検査

💡 用語解説:トリオ全エクソームシーケンス(Trio-WES)

WES(全エクソームシーケンス)とは、遺伝子のタンパク質をコードする領域(エクソン)全体を網羅的に解析する次世代シーケンス手法です。「トリオ」とは患者本人だけでなく、両親も含めた3名で同時解析することを指します。BRWS2のように多くが新生突然変異(de novo変異)で起こる疾患では、両親と比較することで「子だけに新しく生じた変異」を効率よく検出でき、極めて強力な診断ツールとなります。実際、ACTG1の代表的な変異(例:p.Ser155Phe)は、網羅的解析によって後から特定されたケースが多くあります。

最終的な確定診断は、ACTBまたはACTG1遺伝子にヘテロ接合性のミスセンス変異を同定することで行われます。臨床的にBRWSの疑いが極めて強い場合は、これら2つの遺伝子だけを対象としたサンガーシーケンスや、先天性奇形・難聴向けのNGSパネルでも到達できます。一方、発達遅滞・小頭症・非特異的な知的障害などが前面に出る非定型例では、患児と両親のゲノムを同時に解析するトリオ・エクソーム解析が最も強力です。

出生前診断について

胎児超音波や胎児MRIで脳回形成の異常パターン(滑脳症など)が出生前に検出されることがあります。すでに家系内で特定のACTG1変異が同定されている場合(罹患親からの遺伝リスクがあるケースなど)には、絨毛検査や羊水検査を用いた分子レベルでの出生前診断が可能です。

ただし、BRWS2のほとんどは新生突然変異による孤発例のため、健常なご両親における次のお子さんの再発リスクは性腺モザイクを考慮しても約1%程度と低いと考えられています。侵襲的検査の選択は、専門的な遺伝カウンセリングを通じて、ご家族の価値観に沿って慎重に検討すべきものです。

6. 治療と長期的な管理

現時点でACTG1の変異を直接修復するような根治的治療は確立されていません。治療の主眼は、各専門医による多診療科連携(小児神経科・眼科・耳鼻咽喉科・整形外科・遺伝診療科など)を通じた対症療法と、進行性合併症の予防・管理に向けた長期的スクリーニングに置かれます。

🧠 神経学的・発達的介入

てんかんは小児神経科医による抗てんかん薬治療が基本ですが、皮質形成異常に起因するため薬剤抵抗性となるケースも少なくありません。発達遅滞には早期から理学療法・作業療法・特別支援教育が推奨され、発語障害が重い場合は言語聴覚士による介入や代替拡大コミュニケーション(AAC)も有効です。

🦻 聴覚的介入

進行性感音難聴に対しては定期的なオージオメトリでの進行モニタリングが必須です。軽〜中等度には補聴器、高度進行例には人工内耳が極めて有効で、言語獲得・コミュニケーション能力の大幅改善が報告されています。乳幼児期の中耳炎による伝音難聴も重複するため早期評価が重要です。

👁️ 視覚的介入

コロボーマや小眼球症に伴う視力低下・斜視に対する眼科的介入が行われます。眼鏡矯正と弱視訓練を継続することで機能的視力を維持できます。重度眼瞼下垂が視覚発達を妨げる場合は眼科形成外科手術が必要です。二次性緑内障の長期リスクがあるため生涯にわたる眼圧検査が不可欠です。

🦴 骨格・内臓管理

関節拘縮や脊柱側弯症の進行を遅らせるための継続的な理学療法と整形外科的モニタリングが重要です。難治性便秘・逆流症に対する薬物療法、摂食嚥下障害に対する栄養介入も必要です。先天性心疾患・腎奇形に対しては診断時の心エコー・腎超音波評価と必要な治療を行います。

長期管理上の新たな注意点:悪性腫瘍のリスク

近年、BWCFF症候群の長期管理において、血液悪性腫瘍(白血病・リンパ腫)のリスクが新たな注目点として挙げられています。ACTB変異を持つ患者で、8歳や19歳でのリンパ腫・急性リンパ性白血病・皮膚リンパ腫などの発症例、急性骨髄性白血病(AML)の発症例が報告されています。

がんゲノムデータベースの解析では、孤発性のがんにおいてもACTB・ACTG1の体細胞変異が血液・リンパ系悪性腫瘍で高頻度に観察されることが分かっており、生まれつきこれらの変異を持つ患者ではリスクが想定されます。現時点では明確な「がん素因症候群」として認定されているわけではないため一律の強力スクリーニングは義務付けられていませんが、定期的な血液検査や身体所見の確認時には初期兆候を見逃さないよう留意すべきです。

7. 遺伝カウンセリングの役割

BRWS2の確定診断後、ご家族への丁寧な遺伝カウンセリングが必要です。臨床遺伝専門医が以下のような内容を、ご家族の状況に合わせて整理してお伝えします。

  • 遺伝形式と再発リスク:多くは新生突然変異であり両親への遺伝はありません。次のお子さんの再発リスクは性腺モザイクを考慮しても約1%と低いと考えられます。一方、患者本人が子どもを持つ場合の遺伝確率は理論上50%です。
  • 予後情報の提供:BRWS2は重症度のばらつきが極めて大きく、軽症例では成人期に達して自立的な生活を送る方もいれば、重度滑脳症で生命予後が深刻な方もいます。MRI所見と遺伝子変異の部位が予後予測の参考になります。
  • 出生前診断の選択肢:家系内に既知の変異がある場合、絨毛検査・羊水検査での出生前遺伝子診断が選択肢としてあります。ただし侵襲的検査の是非は、ご家族の価値観と医学的状況を踏まえた中立的な対話が必要です。
  • 心理社会的サポート:希少疾患であるため国内外の患者団体・レジストリの情報は限られています。長期的な自然歴蓄積に向けた医療機関との継続的な連携が大切です。
仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「孤発例」という言葉の重み】

遺伝子診断の結果、お子さんに新生突然変異(de novo変異)が見つかったご両親に「ご両親には変異はありません」とお伝えするとき、私はその一言の重みをいつも考えます。多くのご両親が長い間「自分の家系のせいかもしれない」「妊娠中の何かが原因だったのではないか」と自分を責めてこられたからです。

新生突然変異は、誰の責任でもありません。精子や卵子が作られる過程、あるいは受精直後の細胞分裂で、偶然に生じた変異です。環境や生活習慣が原因ではないのです。「孤発例」という臨床用語の裏には、そう伝えてご両親の長年の自責の念を解いていく、というプロセスが含まれていると私は考えています。

8. よくある誤解

誤解①「Baraitser-Winter症候群は1つの病気」

同じBWCFFスペクトラムでも、ACTB変異のタイプ1とACTG1変異のタイプ2は症状の傾向が異なります。タイプ2は顔貌が比較的軽度な一方、脳形成異常と難聴が重い傾向があり、長期管理計画も変わってきます。

誤解②「親に同じ症状がないなら遺伝病ではない」

BRWS2は常染色体顕性遺伝の疾患ですが、報告例の大多数は新生突然変異です。両親には変異がなくても、お子さんで新たに変異が生じて発症します。「家族歴がない=遺伝とは無関係」ではありません。

誤解③「滑脳症があると必ず重症」

脳形成異常の重症度は患者により異なります。広範な滑脳症は重度の知的障害・難治性てんかんを伴いますが、構造的脳異常が軽度〜なしの患者では成人期まで自立的な生活が可能なケースもあります。一律に判断できません。

誤解④「難聴はあきらめるしかない」

ACTG1変異による難聴は内耳の有毛細胞レベルの病変であり、聴神経や脳幹は比較的保たれています。そのため人工内耳が極めて有効に機能し、言語獲得が大幅に改善する報告が複数あります。早期の聴覚専門医への相談が大切です。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【正確な分子診断が、家族の未来を開く】

BRWS2は世界で約113例という極めて稀な疾患であり、ご家族が「同じ病気の方の話を聞きたい」と思っても国内では患者会が確立されていない状況です。だからこそ、正確な分子診断にたどり着くこと——「あなたのお子さんの病気には名前があり、世界中に研究者と他のご家族がいる」と伝えられることが、ご家族にとってどれほど大きな意味を持つかを、私は遺伝医療に従事してきた中で何度も実感してきました。

特にACTG1変異の場合、「人工内耳が驚くほど効く」「皮質形成異常が軽度なら成人期まで自立可能」「眼鏡矯正と弱視訓練で良好な視力が維持できる」など、希望につながる介入の余地が多くあります。正確な診断は、その先の希望ある道筋を開く扉です。世界基準の遺伝医療を東京の小さなクリニックから届けることを、私はこれからも続けていきます。

よくある質問(FAQ)

Q1. Baraitser-Winter症候群タイプ2は遺伝しますか?

常染色体顕性(優性)遺伝の疾患ですが、報告例の大多数は新生突然変異(de novo変異)によるもので、両親には同じ変異が存在しません。健常なご両親における次のお子さんの再発リスクは性腺モザイクを考慮しても約1%と低いと考えられています。一方、患者本人が将来子どもを持つ場合の遺伝確率は理論上50%です。

Q2. BRWS1(タイプ1)とBRWS2(タイプ2)はどう違いますか?

原因遺伝子が異なります。BRWS1はACTB遺伝子の変異、BRWS2はACTG1遺伝子の変異が原因です。傾向としてBRWS1は顔貌・骨格の異常が重篤で、BRWS2は脳の形成異常と進行性難聴がより重篤に出やすいという臨床的相違があります。ただし両者は同一スペクトラムの疾患であり、症状には大きな重なりがあります。

Q3. どのように診断されますか?

両眼開離・眼瞼下垂・コロボーマなどの特徴的顔貌、MRI上の厚脳回や滑脳症、進行性難聴などの組み合わせから臨床的に疑い、分子遺伝学的検査でACTG1遺伝子のヘテロ接合性ミスセンス変異を同定することで確定診断となります。非定型例ではトリオ全エクソームシーケンス(両親含む3名同時解析)が極めて強力な診断ツールとなります。

Q4. 難聴に対してできることはありますか?

ACTG1変異による難聴は、内耳の有毛細胞レベルでの障害が主体で、聴神経や脳幹は比較的保たれていることが多いため、人工内耳が極めて有効に機能するケースが複数報告されています。軽〜中等度の段階では補聴器、進行例では人工内耳という選択肢があります。早期の聴覚評価と聴覚専門医との連携が、言語獲得とコミュニケーション能力の維持につながります。

Q5. 出生前に診断できますか?

家系内に既知のACTG1変異がある場合(例:罹患親からの遺伝リスクがあるケースなど)には、絨毛検査や羊水検査を用いた分子レベルでの出生前診断が可能です。胎児期の超音波検査やMRIで滑脳症などの脳形成異常が発見されることもあります。ただし大多数のBRWS2は新生突然変異による孤発例であるため、家族歴のない方への一律のスクリーニングは推奨されていません。詳細は臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングをご利用ください。

Q6. 知的障害は必ずありますか?

発達遅滞・知的障害は事実上すべての患者さんに認められますが、その程度は構造的脳異常がない患者さんの軽度学習障害から、重度滑脳症に伴う最重度の知的障害まで非常に幅広いのが特徴です。MRIでの脳形成異常の重症度と、知的障害の程度には相関があるとされています。早期からの療育・特別支援教育・代替コミュニケーション手段の導入が、お子さんの可能性を最大限に引き出すために重要です。

Q7. 大人になっても症状は変化しますか?

はい、年齢とともに変化する特徴がいくつかあります。顔貌は乳児期の比較的丸く平坦な姿から、小児期後期〜成人期にかけて徐々に粗造化(coarsening)します。難聴は進行性であり成人期に向けて悪化する傾向があります。関節拘縮や肩帯筋萎縮も青年期以降に進行することが多く、生涯にわたる多診療科でのフォローアップが必要です。最近では40代・60代で初めて分子診断された成人の同胞例も報告されており、決して小児期限定の疾患ではないことが分かってきています。

Q8. 悪性腫瘍のリスクはあるのですか?

近年、BWCFFスペクトラムの患者で血液悪性腫瘍(白血病・リンパ腫)の発症報告が複数あり、注目されています。細胞質アクチンは免疫細胞の動態や細胞分裂の制御にも深く関与しているため、生物学的に妥当な仮説です。ただし現時点では明確な「がん素因症候群」として国際的に認定されているわけではなく、一律の強力スクリーニングは義務付けられていません。定期的な血液検査や身体所見の確認時に注意するというのが現実的な対応です。

🏥 希少疾患の診断・遺伝カウンセリングについて

Baraitser-Winter症候群タイプ2をはじめとする希少遺伝性疾患に関するご相談は、
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原因遺伝子ACTG1遺伝子:変異と関連疾患の詳細解説γ-アクチンをコードするACTG1遺伝子の機能と関連する疾患をまとめて解説。関連疾患Baraitser-Winter症候群タイプ1(BRWS1)ACTB変異によるタイプ1の特徴とBRWS2との臨床的相違を詳しく解説。関連疾患DFNA20/26:ACTG1関連の常染色体顕性難聴同じACTG1遺伝子の変異が引き起こす非症候群性の進行性感音難聴。検査滑脳症NGS遺伝子パネル検査ACTG1を含む15遺伝子を網羅した滑脳症パネル。脳形成異常を疑う方に。検査大脳皮質形成異常NGSパネル遺伝子検査厚脳回・帯状異所性灰白質を含む42遺伝子の包括的パネル検査。検査難聴遺伝子検査パネル症候群性難聴を網羅する遺伝子パネル。ACTG1関連難聴の検査にも対応。

参考文献

  • [1] Verloes A, Drunat S, Pilz D, et al. Baraitser-Winter Cerebrofrontofacial Syndrome. GeneReviews®. University of Washington, Seattle. [NCBI Bookshelf]
  • [2] Online Mendelian Inheritance in Man. Baraitser-Winter Cerebrofrontofacial Syndrome 2; BRWS2 (#614583). Johns Hopkins University. [OMIM 614583]
  • [3] Orphanet. Baraitser-Winter cerebrofrontofacial syndrome. ORPHA:2995. [Orphanet]
  • [4] Rivière JB, van Bon BW, Hoischen A, et al. De novo mutations in the actin genes ACTB and ACTG1 cause Baraitser-Winter syndrome. Nat Genet. 2012;44(4):440-444. [PMC3677859]
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  • [9] Göbel A, Nickel K, Frase L, et al. Obsessive-compulsive symptoms in ACTG1-associated Baraitser-Winter cerebrofrontofacial syndrome. Front Psychiatry. 2022. [PMC9550762]
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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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