目次

てんかんの多くは親から子へ単純に伝わるものではありませんが、1つの遺伝子の変化が原因で起こるてんかんもあります。原因の遺伝子がわかると、避けたい薬や効きやすい治療、使える制度が具体的になり、ご家族や次のお子さんのことも考えやすくなります。生まれ持った遺伝子は一生変わらないので、一度の検査でわかったことは、この先ずっと使える情報になります。このページでは、てんかんの原因として報告されている1,057の遺伝子をまとめて調べる「てんかん包括的遺伝子パネル検査」でわかること・わからないことを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
てんかんの原因として報告されている1,057の遺伝子に、病気の原因となる変化がないかを1回で調べます。新生児期・小児期・思春期以降に始まるてんかんや、進行性ミオクローヌスてんかんに関わる遺伝子をまとめて含んでいます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
原因のわからないてんかんの方、とくに乳幼児期に始まった方、発達の遅れを伴う方、薬が効きにくい方、ご家族にてんかんの方がいる方です。米国の遺伝カウンセラー学会の指針は、原因のわからないてんかんの方には年齢を問わず遺伝学的検査を強く勧めています。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は330,000円(税込)、結果までは2〜3週間です。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。検体は血液・唾液・口の内側の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因が見つかれば、治療の見直しや、ご家族の検査・次の妊娠への備えを考えられます。意義がまだわからない変化(VUS)が見つかることもあり、その扱いもご説明します。
\ 原因の名前がわかると、次の一手が決まります /
検査の前に臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、結果も臨床遺伝専門医が直接ご説明します。
1. てんかんは遺伝する?遺伝子が原因のてんかんとは
てんかんの多くは、親から子へ単純に伝わる病気ではありません。けれども、1つの遺伝子の変化が原因で起こるてんかんがあり、その場合は原因の遺伝子と遺伝のしかたによって、ご家族への影響が決まります。「家系に関係するか」は、てんかん全体ではなく、一人ひとりの原因ごとに考える必要があります。
てんかんとはどんな病気か
てんかんは、脳の神経細胞が一時的に過剰に興奮することで、発作をくり返す病気です。国際抗てんかん連盟(ILAE)の実用的な定義では、次のどれかに当てはまるとてんかんと診断します[1]。
- ●24時間以上あけて、誘因のない(または反射性の)発作が2回以上起きた
- ●誘因のない発作が1回でも、その後10年間の再発の危険が、2回起きた場合と同じくらい高い(60%以上)と考えられる
- ●てんかん症候群と診断された
国際的な研究をまとめた解析では、活動性のてんかん(いま治療や発作がある状態)の有病率は1,000人あたり6.38人と推定されています[2]。決してまれな病気ではありません。発作の形はさまざまで、全身がけいれんする発作だけでなく、数秒間ぼんやりする発作、体の一部がぴくつく発作、意識を保ったまま感覚がおかしくなる発作などがあります。
治療の中心は抗てんかん薬です。英国グラスゴーで、新たにてんかんと診断され治療を始めた1,795人を追った研究では、追跡の終わりの時点で63.7%の方が1年以上発作のない状態でした。最初の薬だけで1年以上発作が止まった方は50.5%で、薬を変えるごとに新たに発作が止まる見込みは小さくなっていました[3]。裏を返せば、薬で発作が止まりにくい方も少なくありません。こうした方で原因を探す手段のひとつが、遺伝子検査です。
「遺伝子が原因」と「親から伝わる」は同じではない
ILAEの分類(2017年)では、てんかんの原因(病因)を6つのグループに分けて考えます。原因によって治療が変わりうるため、原因を見きわめることが大切だとされています[4]。その原因のひとつが遺伝子です。
ただし、「遺伝子が原因」であることは、「親から受け継いだ」ことと同じではありません。たとえばドラベ症候群では、原因となるSCN1A遺伝子の変化を調べた調査で、95%(80人中76人)はご両親にはなく、お子さんで新しく起きた変化でした[7]。このように、ご本人の代で新しく起きた変化を新生(de novo)変異といいます。
遺伝子が原因になりやすいてんかんの特徴
米国の遺伝カウンセラー学会(NSGC)の診療指針は、脳の外傷や感染などの後からの原因がない「原因のわからないてんかん」の多くは、遺伝的な原因によると考えられるとしています[5]。とくに次のような場合は、遺伝子の変化が見つかることがあります。
- ●新生児期・乳児期など、とても早い時期に発作が始まった
- ●発作に加えて、発達の遅れや後戻り(退行)がある。発作と発達の問題が同じ原因から起こる病気を発達性てんかん性脳症(DEE)といいます
- ●いくつかの薬を試しても発作が止まりにくい
- ●ご家族に、てんかんや熱性けいれんの方が複数いる(熱性けいれんと遺伝的要因)
- ●乳児期にくり返す特徴的な発作(点頭てんかん/West症候群)など、てんかん症候群と診断された
親から子への伝わり方
「母親から伝わるか、父親から伝わるか」「子どもに伝わる確率は何%か」は、原因の遺伝子の遺伝形式によって決まります。原因がわからないうちは、一つの数字で答えることはできません。
🧬 原因の遺伝子がわかったときの、伝わり方の考え方
| 遺伝のしかた | お子さんへの伝わり方の考え方 |
|---|---|
| 常染色体顕性(優性)遺伝 | 変化をもつ親から、お子さん1人ごとに2分の1の確率で受け継ぐ。母親からも父親からも同じように伝わる。受け継いでも発作が出ない方がいる(浸透率が100%でない) |
| 常染色体潜性(劣性)遺伝 | ご両親がともに保因者(発症しない変化の持ち主)のとき、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症する |
| X連鎖遺伝 | X染色体にある遺伝子の変化。母親が保因者かどうか、お子さんの性別によって考え方が変わる |
| 新生(de novo)変異 | ご両親にはなく、お子さんで新しく起きた変化。次のお子さんの確率は低いが、ゼロではない(下の「モザイク」を参照) |
※常染色体顕性遺伝で2分の1、受け継いでも発作が出ない方がいることは、SCN1A関連てんかんの解説[7]による。どの遺伝のしかたに当たるかは、原因の遺伝子と変化ごとに判断します。
また、同じ遺伝子の変化をもつ家族の中でも、発作の重さや始まる年齢が人によって大きく違うことがあります(表現型の多様性)。「親が軽かったから、子どもも軽い」とは言えないことを知っておいてください。
⚠️ 「新しく起きた変化だから、次は大丈夫」とは言い切れません
お子さんの変化が「新しく起きたもの」に見えても、親御さんの体の一部の細胞にだけ同じ変化がある「モザイク」のことがあります。発達性てんかん性脳症などで新しく起きたと考えられた変化をもつお子さんとご両親120組を調べた研究では、10組で親御さんのどちらかがモザイクでした[10]。卵子や精子のもとになる細胞(生殖細胞)に変化がある「性腺モザイク」では、その細胞からできる卵子・精子は2分の1の確率で変化をもちます。生殖細胞のうちどれくらいが変化をもつかは、実際の診療ではわかりません。血液で測ったモザイクの割合も、生殖細胞の割合の目安にはなりません。そのため、次のお子さんへの確率は「最大で2分の1」と考えます。
2. てんかんの遺伝子検査でわかること
てんかん包括的遺伝子パネル検査は、血液・唾液・口の内側の粘膜などの検体1回で、てんかんの原因として報告されている1,057の遺伝子に、病気の原因となる変化がないかを調べる検査です。見つかれば、それがてんかんの原因の候補になります。
1,057の遺伝子を1回で調べる理由
てんかんの原因になる遺伝子はとても多く、同じような発作でも原因の遺伝子が違うことがあります。症状から1つの遺伝子を選んで調べ、見つからなければ次の遺伝子を調べる、という方法では、何回も検査を重ねることになります。この検査は、新生児期・小児期・思春期以降に始まるてんかんと、進行性ミオクローヌスてんかんのパネルに含まれる遺伝子をすべて含み、脳症・発作・けいれんを症状としてもつ病気に関わる遺伝子をまとめて調べるように設計されています。調べる方法は次世代シークエンサーによる遺伝子の配列の解析です(遺伝子検査の基本は遺伝学的検査とはで解説しています)。
米国の遺伝カウンセラー学会の指針(2023年)は、原因のわからないてんかんの方には年齢を問わず遺伝学的検査を強く勧め、最初に行う検査として、全エクソーム・全ゲノム解析、または25を超える遺伝子のパネル検査を挙げています。あわせて、検査の前後に適切な遺伝カウンセリングを行うことも強く勧めています[5]。
原因がわかると何が変わるか
原因の遺伝子がわかると、避けたい薬・効きやすい治療・気をつけたい合併症・使える制度が具体的になります。代表的な例をあげます。
💊 原因の遺伝子で治療の考え方が変わる例
| 原因の遺伝子・病気 | 治療の考え方 |
|---|---|
| SCN1A(ドラベ症候群など) | カルバマゼピン、ラモトリギン、ビガバトリンはミオクロニー発作を起こしたり増やしたりすることがあり、フェニトインは発作を悪くすることがある、とされています[7]。避けたい薬がわかります |
| ALDH7A1(ピリドキシン依存性てんかん) | ビタミンB6(ピリドキシン)の大量投与で治療します。発作が止まっても発達の遅れが残ることが多く、リジンを控える食事やアルギニンの補充を組み合わせることがあります[8] |
| SLC2A1(グルコーストランスポーター1欠損症) | 脳がブドウ糖をうまく取り込めない病気で、ケトン食療法が標準的な治療とされています。診断には症状、髄液の糖の低下、SLC2A1遺伝子の変化の確認を用います[9] |
※治療の判断は、主治医(てんかんの専門医)が症状・検査とあわせて行います。遺伝子の結果だけで薬を変えることはありません。
治療が変わらない場合でも、病名がわかると、その病気で起こりやすい合併症に前もって備えたり、同じ病気の方の情報や支援につながったりできます。さらに、指定難病などの制度の対象かどうかを考える手がかりにもなります(第7章)。
原因が見つかる割合
遺伝子パネル検査で原因が見つかるのは一部の方で、全員に見つかるわけではありません。米国でてんかん・神経発達症の8,565人に70遺伝子のパネル検査を行った研究では、原因がわかったのは15.4%で、最も多かったのはSCN1AとKCNQ2でした[6]。この研究は対象の選び方も、調べた遺伝子の数もこの検査とは違うため、この数字がそのまま当てはまるわけではありません。原因が見つからなかったときに次にできることは、第6章でご説明します。
それでも、原因がわからないまま病院を回る時間を、1回の検査で短くできる可能性があります。わかったことは一生変わらない情報として、ご本人の治療だけでなく、ご家族の将来の計画にも使えます。
3. この検査を受けるとよい方
原因のわからないてんかんで、発作が早い時期に始まった、発達の遅れを伴う、薬が効きにくい、ご家族にてんかんの方がいる、のどれかに当てはまる方に向く検査です。見た目や家族歴だけでは判断できないことが多いので、迷ったら遺伝カウンセリングで状況をお聞かせください。
受けるとよい場面
- ●発作をくり返していて、脳の画像検査などで原因がわからない
- ●新生児期・乳児期に発作が始まった、または薬を変えても発作が止まりにくい
- ●発作に加えて、発達の遅れ・知的障害・自閉スペクトラム症などがある
- ●原因のわからない脳症と診断された
- ●ご家族(ご両親・きょうだい・お子さん)にも、てんかんや熱性けいれんの方がいる
- ●ほかの遺伝子検査を受けたが、原因がわからなかった
お子さんのてんかんの原因を知りたいご両親にとって、この検査は「なぜこの子に」という問いに答える手がかりになることがあります。原因がお子さんで新しく起きた変化だとわかっても、それはご両親の行動や育て方が原因という意味ではありません。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。
ご家族にてんかんがある方・結婚や妊娠を考えている方
結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。ご自身やご家族にてんかんがあり、お子さんへの影響が気になる方は、まず発作のあるご本人で原因の遺伝子がわかっているかどうかが出発点になります。ご本人で原因がわかっていれば、ご家族はその変化をもっているかを確かめられ、妊娠したときの出生前診断まで計画できます。
一方で、見た目や家族歴だけでは、ご家族のリスクは判断できません。当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。どなたが、どの検査を受けるとよいかは、遺伝カウンセリングでご説明します。
原因が常染色体潜性(劣性)遺伝の病気だった場合、パートナーの方も同じ遺伝子の変化をもっているかが大事になります。妊娠の前にご夫婦で調べる拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子・男性版714遺伝子、さらに女性版1009遺伝子・男性版911遺伝子)があります。てんかんの原因の遺伝子が対象に含まれるかは、遺伝子一覧でご確認ください(入口は遺伝子ブライダルチェック)。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血して受けるご夫婦の保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」(女性787遺伝子・男性714遺伝子)もあります。単独では受けられません。当院のNIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。
この検査より別の検査が向いている場合
発作の始まった時期や疑われる病気がはっきりしているときは、より目的をしぼった検査が向くことがあります。反対に、症状が広くて病気をしぼれないときは、全エクソーム検査が向くことがあります。比べる相手は検査の種類です。
🔍 症状に合わせた検査の選び方
| こんなとき | 向いている検査 |
|---|---|
| 発作の始まった時期や病気がしぼれない/発作に脳症・発達の遅れを伴う | このページの検査(1,057遺伝子) |
| 新生児期に発作が始まった | 新生児てんかんNGSパネル遺伝子検査 |
| 2歳以降に発作が始まった | 小児てんかんNGS遺伝子パネル検査 |
| 思春期・成人になって発作が始まった | 思春期・成人発症てんかん遺伝子検査 |
| ミオクローヌスと、だんだん進む神経の症状がある | 進行性ミオクローヌスてんかんNGS遺伝子パネル検査 |
| ドラベ症候群を強く疑う | ドラベ症候群NGS遺伝子パネル検査 |
| 治療につながる遺伝子にしぼって調べたい | アクショナブルてんかんNGSパネル検査 |
| 結節性硬化症・神経セロイドリポフスチン症・レット症候群などが臨床的に明らか | 結節性硬化症/神経セロイドリポフスチン症/レット・アンジェルマン症候群の各パネル検査 |
| 脳の画像で脳の形づくりの異常が見つかった | 大脳皮質形成異常NGSパネル遺伝子検査、滑脳症NGS遺伝子パネル検査 |
| 発達の遅れ・知的障害が中心で、発作は一部 | 発達障害・学習障害・知的障害遺伝子検査 |
| てんかん以外の症状も多く、病気をしぼれない | 全エクソーム検査(WES) |
| 染色体の大きな欠失・重複が疑われる | マイクロアレイ染色体検査(CMA) |
※どの検査が合うかは、症状・診察所見・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングでご説明します。
\ 人生に一度の遺伝子検査を、これからの計画に /
原因の遺伝子がわかれば、次の妊娠での羊水検査・絨毛検査まで院内で受けられます(2025年6月から産婦人科を併設)。
4. 調べる遺伝子(1,057遺伝子)
この検査では、てんかんの原因として報告されている1,057の遺伝子を調べます。代表的なてんかん症候群の原因遺伝子も含まれています。遺伝子や病気の名前からは、それぞれの詳しい解説ページに進めます。
主なてんかん症候群と原因の遺伝子
🧬 主なてんかん症候群と、この検査に含まれる原因遺伝子
| 病気・症候群 | この検査に含まれる主な原因遺伝子 |
|---|---|
| ドラベ症候群 | SCN1A |
| 発達性てんかん性脳症4型 | STXBP1 |
| 発達性てんかん性脳症7型/良性家族性新生児てんかん1型 | KCNQ2 |
| 発達性てんかん性脳症11型/良性家族性乳児けいれん3型 | SCN2A |
| 発達性てんかん性脳症13型/良性家族性乳児けいれん5型 | SCN8A |
| 発達性てんかん性脳症14型/夜間前頭葉てんかん5型 | KCNT1 |
| 発達性てんかん性脳症2型(CDKL5欠損症) | CDKL5 |
| 発達性てんかん性脳症94型 | CHD2 |
| 発達性てんかん性脳症27型 | GRIN2B |
| 発達性てんかん性脳症19型 | GABRA1 |
| ピリドキシン依存性てんかん | ALDH7A1 |
| グルコーストランスポーター1欠損症 | SLC2A1 |
| 結節性硬化症 | TSC1、TSC2 |
| レット症候群 | MECP2 |
| 滑脳症3型 | TUBA1A |
| 神経セロイドリポフスチン症(3型・5型・8型) | CLN3、CLN5、CLN8 |
※遺伝子は当院の検査の遺伝子リストに含まれるものだけを記載。遺伝のしかたや症状は病気ごとに違うため、各病気のページでご確認ください。
1,057遺伝子の一覧
この検査で調べる遺伝子をすべて、アルファベット順に載せています。当サイトに解説ページがある遺伝子は、名前からそのページに進めます。
5. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、調べた遺伝子の小さな変化と、一部の欠失・重複です。陰性でも、てんかんが遺伝子と関係ないとは言い切れません。受ける前に、限界を知っておいてください。
わかる変化
- ●遺伝子の配列の変化:遺伝子の文字(塩基)が1つ変わる変化や、小さな挿入・欠失。遺伝子のタンパク質をつくる部分(エクソン)と、その境目(スプライス部位)を調べます
- ●欠失・重複:1つの遺伝子がまるごと欠けたり増えたりしている変化(口の内側の粘膜・血液)と、2つ以上続くエクソンの大きさの変化(血液のみ)。1つのエクソンだけの欠失・重複は、見つかることもありますが、ふつうは検出されません。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します(コピー数の変化)
- ●読み取りの質が低い部分:サンガー法という別の方法で確かめます
わからない変化
- ●染色体の組み換え(転座・逆位)
- ●同じ配列の繰り返しが長くなる変化(リピート伸長)
- ●遺伝子の働きを調節する部分(プロモーターなど)の多くや、エクソンから20塩基以上離れた遺伝子のすき間(深部イントロン)の変化
- ●体の一部の細胞にだけ変化がある状態(モザイク)や、がんの組織などで後からできた変化(この検査はこれらを見つけるためのものではありません)
- ●この検査に含まれていない遺伝子の変化、まだ原因として知られていない遺伝子
- ●よく似た配列がほかにある部分(偽遺伝子など)では、変化を見つけにくいことがあります
意義がまだわからない変化(VUS)と、二次的所見
遺伝子の変化が見つかっても、それが病気の原因かどうか、今の知識ではまだ判断できないことがあります。これをVUS(意義がまだわからない変化)といいます。VUSは、それだけで診断を確定したり、ご家族の発症リスクを判定したりするためには使いません(VUSの臨床的な取り扱い)。また、調べた目的とは別の病気の原因が見つかること(二次的所見)もあります。扱い方は、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。
6. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけを先にお送りすることはありません。原因が見つかったとき・見つからなかったとき・VUSのときで、次にできることが違います。
原因が見つかったとき
病名がはっきりすると、治療の見直し(第2章の例)や、合併症への備え、主治医との今後の相談が具体的になります。結果は、てんかんの主治医と共有して治療に役立てていただけます。
あなたの1回の検査が、ご両親・きょうだい・お子さんが自分の状態を知る手がかりになります。ご本人で原因がわかっていれば、ご家族は同じ変化をもっているかどうかを確かめられます。ご両親を調べることで、変化が受け継いだものか、新しく起きたものかもわかります。症状のないご家族の検査は、知ることの意味を遺伝カウンセリングで十分に考えてから行います。未成年のご家族の検査は、未成年者の遺伝学的検査に関するガイドラインの考え方を踏まえてご相談ください。
次のお子さんのリスクと、次の妊娠への備え
原因がわかれば、次のお子さんで同じことが起こる可能性がどれくらいあるか、そして次の妊娠でどう備えられるかを、具体的に考えられるようになります。
- ●お子さんで新しく起きた変化だった場合:次のお子さんの確率は低いものの、ゼロではありません。親御さんがモザイクのことがあり(第1章)、次のお子さんへの確率は「最大で2分の1」と考えます
- ●常染色体潜性(劣性)遺伝だった場合:ご両親がともに保因者で、次のお子さん1人ごとに4分の1の確率で発症します。ほかのお子さん(きょうだい)が将来、結婚や妊娠を考えるときに、保因者かどうかを知る手がかりにもなります
- ●X連鎖遺伝だった場合:お母さんが保因者かどうかで、次のお子さんの見通しが変わります
- ●常染色体顕性(優性)遺伝で、親御さんも同じ変化をもっていた場合:次のお子さん1人ごとに2分の1の確率で受け継ぎます
原因の遺伝子の変化がわかっていれば、次の妊娠で、赤ちゃんがその変化をもっているかを調べる出生前診断を計画できます。原因がわからないままでは、出生前に何を調べればよいかを決められません。当院では、羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。妊娠を考えている段階からご相談いただけます。
原因が見つからなかったとき
原因が見つからなくても、てんかんが遺伝子と関係ないとは言い切れません(第5章)。症状に合わせて、次のような検査を考えます。
- ●全エクソーム検査(WES):遺伝子のタンパク質をつくる部分(エクソーム)をまとめて調べます。ご両親もあわせて調べる方法(トリオWES)もあります
- ●マイクロアレイ染色体検査(CMA):染色体の小さな欠失・重複を調べます
米国の遺伝カウンセラー学会の指針も、遺伝子の配列を読む検査に続けてマイクロアレイ染色体検査を行う流れを示しています[5]。研究が進めば、今は原因とわかっていない遺伝子が、のちに原因とわかることもあります。
VUSが見つかったとき
VUSは、それだけで診断や、ご家族・出生前の検査に使うことはありません。ご両親を調べると判断の手がかりになる場合があるため、必要に応じて遺伝カウンセリングでご説明します。
7. 日本の制度(2026年10月時点)
遺伝子が原因のてんかんの中には、国の指定難病に含まれる病気があります。難病情報センターの一覧で、次の病気が指定難病として掲載されていることを確認しました(2026年10月時点)。
📋 てんかんに関わる主な指定難病
| 告示番号 | 病名 |
|---|---|
| 138 | 神経細胞移動異常症(滑脳症などを含む) |
| 140 | ドラベ症候群 |
| 145 | ウエスト症候群 |
| 146 | 大田原症候群 |
| 154 | 睡眠時棘徐波活性化を示す発達性てんかん性脳症及びてんかん性脳症 |
| 157 | スタージ・ウェーバー症候群 |
| 201 | アンジェルマン症候群 |
| 309 | 進行性ミオクローヌスてんかん |
※難病情報センターの五十音別索引で確認(2026年10月)。このほかにも、てんかんを症状にもつ指定難病があります。医療費の助成を受けるには、病気ごとの認定基準を満たし、申請する必要があります。
また、ドラベ症候群、グルコーストランスポーター1欠損症、結節性硬化症、レット症候群、アンジェルマン症候群、PCDH19関連症候群などでは、条件を満たせば保険で受けられる遺伝学的検査があります(日本人類遺伝学会の保険収載検査の一覧〔2026年9月27日更新〕で確認)。保険の検査は、病気をしぼって行うものです。病気をしぼれないときや、より多くの遺伝子をまとめて調べたいときは、このページの検査のような自費の検査を考えます。どちらが合うかは、遺伝カウンセリングでご説明します。
認定の基準や申請の方法は、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
8. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は330,000円(税込)、結果までは2〜3週間です。唾液や口の内側の粘膜なら、オンライン診療で受けることもできます。
💴 費用・日数・検体
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 検査費用 | 330,000円(税込)。塩基配列の解析、欠失・挿入の解析を含みます |
| 結果までの期間 | 2〜3週間 |
| 至急(オプション) | 55,000円(税込)。結果までの期間が約7日短くなります |
| VUS除外(オプション) | 無料。内容は遺伝カウンセリングでご説明します |
| 遺伝カウンセリング料 | 30分22,000円(税込)※検査費用とは別 |
| 検体 | 血液(EDTA採血管4mL×2本)、抽出したDNA(3μg)、口の内側の粘膜(頬粘膜スワブ)、唾液 |
| オンライン診療 | 唾液・口の内側の粘膜・血液のいずれでも可能です。血液の場合は、全国の提携医療機関で採血していただきます。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。 |
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
オンライン診療では、ビデオ通話で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただきます。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。ご自身で先に検体を採らないでください。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える状態で届けていただくためです。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
\ 一生変わらない遺伝子を知って、ご家族とこれからの計画に /
唾液・口の内側の粘膜なら、オンライン診療でも受けられます。結果は臨床遺伝専門医が直接ご説明してからマイページにアップします。
9. 院長コラム
🩺 院長コラム【検査をしないと、何も言えない】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。てんかんは、同じ遺伝子の変化でも発作の重さが人によって違い、新しく起きた変化に見えても親御さんがモザイクのことがある病気です。だからこそ、「家族に同じ病気の人はいないから」「自分は軽かったから」という見た目の印象だけで、将来を決めてしまわないでほしいと考えています。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。たとえば、きょうだいのお子さんの病気をきっかけに念のため検査を受けた方に、まったく別の遺伝子の病的な変化が、体の一部の細胞だけにある状態(モザイク)で見つかったことがあります。ご本人は発症していませんでしたが、卵子や精子のもとになる細胞にもその変化があれば、お子さんが発症することがある病気でした。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。原因がわかれば、治療を考える手がかりにも、ご家族や次の妊娠を考える手がかりにもなります。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. てんかんは遺伝しますか?
てんかんの多くは、親から子へ単純に伝わるものではありません。一方で、1つの遺伝子の変化が原因で起こるてんかんもあり、この場合は原因の遺伝子と遺伝のしかたによって、ご家族への影響が決まります。ドラベ症候群では、原因となるSCN1A遺伝子の変化の多く(ある調査では95%)が、ご本人で新しく起きたものでした。遺伝子が原因であることと、親から受け継いだことは同じではありません。
Q2. てんかんは母親・父親どちらから遺伝しますか?
どちらからか、は原因の遺伝子の遺伝のしかたで決まります。常染色体の遺伝子であれば、母親からも父親からも同じように伝わりえます。X染色体にある遺伝子では、母親が保因者かどうかが大事になります。また、ご両親のどちらも持っていない変化がお子さんで新しく起きることもあります。どれに当たるかは、原因の遺伝子がわかってはじめて言えます。
Q3. 親がてんかんだと、子どもがてんかんになる確率は?
原因によって大きく違うため、一つの数字ではお答えできません。1つの遺伝子の変化による常染色体顕性(優性)遺伝のてんかんでは、お子さん1人ごとに2分の1の確率で変化を受け継ぎますが、受け継いでも発作が出ない方もいます。原因の遺伝子がわかると、ご家族ごとの具体的な見通しを考えられるようになります。
Q4. 原因の遺伝子がわかると、治療は変わりますか?
変わることがあります。たとえばSCN1A遺伝子の変化によるてんかんでは、ナトリウムチャネルに働く一部の薬(カルバマゼピンなど)で発作が増えることがあり、避けたい薬がわかります。ALDH7A1遺伝子の変化によるピリドキシン依存性てんかんではビタミンB6(ピリドキシン)の大量投与が、SLC2A1遺伝子の変化によるグルコーストランスポーター1欠損症ではケトン食療法が治療の中心になります。
Q5. 検査で何も見つからなければ、遺伝子と関係のないてんかんですか?
そうとは言い切れません。この検査で調べていない遺伝子や、この検査では見つけにくい種類の変化(繰り返し配列の伸長、染色体の組み換え、遺伝子のすき間の変化など)が原因のこともあります。てんかん・神経発達症の方8,565人に70遺伝子のパネル検査を行った研究で原因がわかったのは15.4%で、多くの方では見つかりません。症状に合わせて、全エクソーム検査やマイクロアレイ染色体検査を考えます。
Q6. 発作のある本人が受けられない場合、家族だけで検査できますか?
ご家族の検査はできますが、症状のある方で原因の遺伝子がわかっている場合と、わかっていない場合とでは、結果から言えることが大きく違います。症状のある方で原因がわかっていれば、ご家族は同じ変化があるかを確かめられます。当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。どなたが、どの検査を受けるとよいかは、遺伝カウンセリングでご説明します。
Q7. 結果はいつ、どのように伝えられますか?
結果までの期間は2〜3週間です。結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけを先にお送りすることはありません。意義がまだわからない変化(VUS)が見つかった場合の考え方も、その場でご説明します。
Q8. 保険は使えますか?
このページの検査(1,057遺伝子のてんかん包括的パネル検査)は自費診療です。費用は330,000円(税込)で、遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。なお、ドラベ症候群など一部の病気では、条件を満たせば保険で受けられる遺伝学的検査があります(2026年10月時点で確認)。
🧬 一度の検査で、ご自身とご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。てんかんの原因の遺伝子がわかれば、治療を考える手がかりになるだけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では、検査の前後の遺伝カウンセリングを臨床遺伝専門医が行い、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
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