目次
- 1 1. IMAGe症候群とは ─ 病名に込められた4つのサイン
- 2 2. 4つの主症状と、体に現れるそのほかのサイン
- 3 3. 原因遺伝子CDKN1C ─ 細胞のブレーキをつくる設計図
- 4 4. 「機能獲得」の仕組み ─ ブレーキが効きすぎる病気
- 5 5. 遺伝のかたち ─ 「母親から」のときだけ発症する
- 6 6. 命に関わる副腎不全 ─ 新生児期に最も警戒すべきこと
- 7 7. 診断と検査 ─ 何をどう調べるか
- 8 8. 似た病気との区別 ─ 鑑別が管理方針を決める
- 9 9. 治療と生涯にわたるケア
- 10 10. 遺伝カウンセリング ─ 家族にとって知っておきたいこと
- 11 よくある質問(FAQ)
- 12 参考文献
📍 クイックナビゲーション
IMAGe症候群は、生まれる前からの強い発育の遅れと、命に関わる副腎の機能低下を主な特徴とする、たいへん稀な遺伝性の病気です。典型的なIMAGe症候群の主な原因はCDKN1C遺伝子という「細胞の増えすぎを抑えるブレーキ」の設計図に生じた特殊な変化で、そのブレーキが効きすぎてしまうことで全身の組織が育ちにくくなります。この記事では、病名の由来となった4つの主症状、原因遺伝子のはたらき、母親由来のときだけ発症するという独特の遺伝のかたち、そして新生児期にもっとも警戒すべき副腎不全への対応までを、遺伝専門医の視点からやさしく解説します。
Q. IMAGe症候群とはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです
A. 典型的なIMAGe症候群は、CDKN1C遺伝子の特定の変化によって「細胞の増殖を止めるブレーキ」が効きすぎ、胎児期から全身の発育が強く抑えられる希少疾患です。病名は4つの主症状の頭文字をとったもので、重度の子宮内発育遅延・骨の異形成・先天性の副腎低形成・男児の外性器の異常を指します。もっとも注意すべきは新生児期に急に現れる副腎不全で、早期の発見とホルモン補充が命を守るうえで決定的に重要です。
- ➤病名の意味 → I(子宮内発育遅延)・M(骨幹端異形成)・A(先天性副腎低形成)・Ge(外性器異常)の頭文字
- ➤主な原因遺伝子 → 11番染色体にあるCDKN1C。ブレーキ役のタンパク質p57が壊れずに溜まり続ける「機能獲得」型
- ➤遺伝のかたち → 母親から変化を受け継いだときだけ発症。父親からのときは無症状の保因者になる
- ➤最大の脅威 → 新生児期の副腎不全(副腎クリーゼ)。ステロイドとミネラルコルチコイドの補充が生涯必要
- ➤似た病気との区別 → シルバー・ラッセル症候群、POLE関連、MIRAGE症候群との鑑別が管理方針を左右する
🧬 IMAGe症候群の基本情報
各項目の根拠と詳しい解説は、本文の該当セクションをご覧ください。
1. IMAGe症候群とは ─ 病名に込められた4つのサイン
IMAGe症候群は、内分泌(ホルモン)の系統と骨格の系統に深刻な影響が及ぶ、多系統にわたる遺伝性の希少疾患です。病名の「IMAGe」は、この病気を特徴づける4つの主要な所見の頭文字を並べたもので、具体的には重度の子宮内発育遅延(Intrauterine growth restriction)、長い骨の端の部分がうまく育たない骨幹端異形成(Metaphyseal dysplasia)、命に関わる先天性の副腎低形成(Adrenal hypoplasia congenita)、そして男児にみられる外性器の異常(Genital anomalies)を指します。この病気は1999年に初めて「IMAGe association(IMAGe連合)」という臨床的なまとまりとして報告され、その後に分子レベルの原因が突き止められたことで、独立した「症候群」として概念が確立しました[1]。
かつては「子宮内発育遅滞(intrauterine growth retardation)」という言葉が使われていましたが、現在は医学的により正確な「子宮内発育遅延(intrauterine growth restriction)」という表現が国際的に推奨されています。どちらも略語は同じ「IUGR」ですが、赤ちゃんが本来育つはずだった大きさに届かない、という状態を指す言葉です。
この病気は極めて稀で、正確にどれくらいの人に起こるのかは今もわかっていません。正確な有病率は不明で、GeneReviewsでまとめられた時点では、世界中でわずか19家系・31人の患者さんが報告されているにすぎません[2]。ただし、症状の似た別の病気があること、そして新生児期に副腎不全で早くに亡くなってしまい診断がつかないままの例もあると考えられることから、実際にはもっと多くの見逃されている患者さんがいる可能性が指摘されています。
💡 用語解説:先天性副腎低形成とは
副腎は、左右の腎臓の上に乗っている小さな臓器で、体を維持するために欠かせないホルモン(コルチゾールやアルドステロンなど)をつくっています。先天性副腎低形成とは、この副腎が生まれつき十分に育たず、必要なホルモンをつくれない状態です。副腎の「低形成(うまく育たない)」は、副腎が過剰に大きくなる「先天性副腎過形成(CAH)」とは正反対の状態で、この違いは診断の重要な手がかりになります。
2. 4つの主症状と、体に現れるそのほかのサイン
IMAGe症候群の症状の幅はとても広く、生まれる前から成人期にかけて、いくつもの臓器に合併症が及びます。4つの主症状(IUGR、骨の異形成、副腎低形成、外性器異常)は、確実に診断された例のほとんどで認められますが、その重さには個人差があります[2]。ここでは、それぞれの所見を順に見ていきます。
① 成長・発育 ─ 生まれる前から続く強い低身長
成長の遅れは、この病気でもっとも普遍的にみられる特徴です。生まれたときの体重・身長はともに著しく小さく、標準からマイナス2〜4.5SD(標準偏差)ほど下回ることが多いとされます。特徴的なのは、体は極端に小さいのに頭のまわりの大きさ(頭囲)は比較的保たれる点で、そのため相対的に頭が大きく見えます。これは、脳の組織では母親由来と父親由来の両方のアレルからCDKN1Cが発現している可能性があり、脳の成長が比較的守られていることが理由だと考察されています。出生後も強い低身長が続き、一部の患者さんでは成長ホルモン(GH)の分泌が低下していることも確認されています。
② 骨格 ─ 長い骨の端が育ちにくい
骨の異常は、長い骨(腕や脚の骨)が伸びていく現場である「成長板」での、軟骨細胞のふるまいの異常に由来します。X線写真では、骨の年齢が実年齢より遅れていること、骨の端(骨幹端)が不規則に広がったり硬くなったりしていること、長い骨が細いことなどが観察されます。加齢とともに、股関節がうまく育たない股関節形成不全や、背骨が曲がる側弯症が進行することもあります。
③ 内分泌 ─ 命に直結する副腎の機能低下
4つの主症状のなかで、もっとも生命に直結するのが副腎の機能低下です。多くは新生児期に急性の副腎不全(副腎クリーゼ)として現れ、血液中のナトリウムが下がり、カリウムが上がり、血糖が極端に低下します。副腎を刺激するホルモンであるACTHは、副腎が反応できないために非常に高くなります。この副腎不全については、後ほど第6章で詳しく解説します。
④ 泌尿生殖器 ─ 男児にみられる外性器の所見
外性器の異常は、男児にみられます。停留精巣(精巣が陰嚢まで降りていない状態)、小陰茎、尿道下裂などが報告されており、胎児期の精巣のはたらきの低下や、男性ホルモン(テストステロン)をつくる力の低下が背景にあると考えられています。
💡 用語解説:4つの主症状のほかにみられる所見
4つの頭文字に含まれない所見もいくつか知られています。顔つきの特徴としては、額の突出、耳の位置が低いこと、鼻すじが平坦なこと、あごが小さいこと(小顎症)などが、診断の視覚的な手がかりになります。
また、血液中のカルシウムが高くなる高カルシウム血症や、尿にカルシウムが多く出る高カルシウム尿症、腎臓にカルシウムが沈着する腎石灰化もしばしば報告されます。この高カルシウム血症がなぜ起きるのか、直接の仕組みは完全には解明されていません。副腎不全の治療として塩分(食塩)を補充することが、二次的に関係している可能性も指摘されており、現時点では明確なデータが十分には示されていない領域です。
3. 原因遺伝子CDKN1C ─ 細胞のブレーキをつくる設計図
典型的なIMAGe症候群の主な原因は、CDKN1C遺伝子という1つの遺伝子に生じる特殊な変化です。この遺伝子は11番染色体の短腕の先のほう(11p15.5)にあり、この病気の原因を突き止めたのは、2012年に発表された研究でした[3]。ある家系で発育遅延と副腎不全が代々みられることに着目し、原因となる場所を染色体上で絞り込んでいったところ、CDKN1C遺伝子に変化が見つかったのです。
CDKN1Cがつくるタンパク質は「p57Kip2(p57)」と呼ばれ、細胞が増えすぎないようにブレーキをかける役目を持っています。細胞は分裂して増えるとき、いくつもの段階を順に進みますが、p57はその途中で強力に「待った」をかけ、細胞をG1期という段階で止める、いわば増殖のブレーキ役です。このタンパク質は3つの機能的な部分(ドメイン)からできており、なかでもC末端側にある「PCNA結合ドメイン」という部分が、この病気を理解するうえで重要な鍵になります。
💡 用語解説:ミスセンス変異とは
遺伝子は、タンパク質という「部品」をつくるための設計図です。ミスセンス変異は、その設計図のなかの1文字が別の文字に置き換わり、その結果、タンパク質を構成するアミノ酸が1個だけ別のものに入れ替わるタイプの変化です。CDKN1C関連IMAGe症候群で見つかっている変化は、このミスセンス変異で、PCNA結合ドメインを構成するわずか数個のアミノ酸(272番目から279番目あたり)に極端に集中していることが大きな特徴です[2]。
この「PCNA」というのは、DNAをコピーするときに必要な補助的なタンパク質で、p57はふだんこのPCNAと結びつくことをきっかけに、役目を終えると速やかに分解されて片付けられます。ところがCDKN1C関連IMAGe症候群の変異では、p57とPCNAの結びつきが妨げられてしまいます[3]。次の章で見るように、この「結びつけない」という一点が、病気の本質につながっていきます。
4. 「機能獲得」の仕組み ─ ブレーキが効きすぎる病気
遺伝子の変化には、大きく分けて2つのタイプがあります。ひとつはタンパク質が壊れて働かなくなる「機能喪失型」、もうひとつは働きが異常に強まってしまう「機能獲得型」です。IMAGe症候群がとても興味深いのは、これが「機能獲得型」の病気だという点です。つまり、ブレーキ役のp57が壊れるのではなく、逆にブレーキが効きすぎてしまうことで病気が起こります。
その仕組みは、2013年に発表された研究で明快に示されました[4]。通常、p57はPCNAと結びつくことをきっかけに目印がつけられ、細胞のなかの「分解装置(プロテアソーム)」で速やかに処理されます。ところがIMAGe症候群の変異では、PCNAと結びつけないために、この分解のきっかけが失われます。その結果、本来は役目を終えて片付けられるはずのブレーキ役が、分解されずに細胞のなかに異常に溜まり続けてしまうのです。実際、タンパク質の合成を止める薬(シクロヘキシミド)を加えても、変異したp57はほとんど分解されず、非常に安定していることが確認されています。
なぜ発育が抑えられるのか ─ 分解されないブレーキ
PCNAと結合
分解される
適切に増える
PCNAと結合できない
溜まり続ける
全身の発育が抑制
ブレーキ役のタンパク質が細胞内に溜まり続けることで、細胞が増えるのを止める信号が過剰に働き続けます。これが全身の発育不全、骨の成長板での軟骨細胞の早すぎる成熟、副腎の極端な低形成の根っこにある仕組みです。
この「ブレーキが効きすぎる」現象を、別の研究は細胞周期の言葉で裏づけています。変異したp57を持つ細胞では、DNAの複製が始まるS期という段階に細胞が進めなくなり、増殖が止まってしまうことが示されました[5]。胎児の全身で、また骨の成長板や副腎皮質で、細胞が増えるべきときに増えられない。これがIMAGe症候群の発育不全の分子レベルの正体です。
5. 遺伝のかたち ─ 「母親から」のときだけ発症する
CDKN1C関連IMAGe症候群の遺伝のかたちは、少し独特です。CDKN1C遺伝子は、11番染色体の「ゲノムインプリンティング」と呼ばれる特殊な制御を受ける領域にあります。ふつう遺伝子は父親由来・母親由来の2つのコピーがともに働きますが、インプリンティングを受ける遺伝子では、どちらの親から受け継いだかによって、働くか働かないかが決まっているのです。
💡 用語解説:ゲノムインプリンティングとは
ゲノムインプリンティングは、同じ遺伝子でも「父親から来たもの」か「母親から来たもの」かによって、はたらき方に差がつく現象です。CDKN1Cの場合、父親由来のコピーはあらかじめスイッチが切られており(サイレンシング)、原則として母親由来のコピーだけが働きます。この「母性発現・父性インプリンティング」という性質が、CDKN1C関連IMAGe症候群の遺伝のかたちを決めています。
この仕組みのために、CDKN1C関連IMAGe症候群は病気を起こす変化が1つあれば発症しうる常染色体顕性(優性)の形式をとりながらも、実際に発症するのは「母親から変異を受け継いだ場合」だけという、独特のパターンになります。変異を父親から受け継いだ子どもは、そのコピーがもともとスイッチを切られているため、症状の出ない「無症候性の保因者」になります[2]。実際、ある大きな家系の解析では、母親から変異を受け継いだ人だけが発症し、父親から受け継いだ人は全員が無症状だったことが確認されています[3]。
6. 命に関わる副腎不全 ─ 新生児期に最も警戒すべきこと
IMAGe症候群において、直接的に命を左右するのが副腎不全です。この病気の副腎は、組織の構造そのものは正常に保たれたまま、全体が極端に小さい「小型成人型」と呼ばれる低形成を示すのが特徴です。副腎がホルモンをつくれないために、生後まもなく深刻な状態に陥ることがあります。
発症のしかたは劇的です。多くの症例で、生後1か月以内、しばしば生後数日のうちに、急性の副腎不全(副腎クリーゼ)として現れます[2]。嘔吐、哺乳がうまくいかない、脱水、強い血圧低下などに続いて、血液中のナトリウムが著しく下がり、カリウムが上がり、血糖が極端に低下します。副腎を刺激するACTHというホルモンは、副腎が応えられないために非常に高くなります。まれではありますが、胎児期に副腎の機能がある程度残っていた場合には、新生児期を無症状で乗り越え、小児期や若い成人期になってから、感染症などの体へのストレスをきっかけに初めて副腎不全が表面化する例も報告されています。
💡 ここが大切:新生児マススクリーニングでは見つかりません
日本で行われている新生児マススクリーニング(かかとの採血で行う検査)は、先天性副腎過形成など一部の病気を対象にしていますが、IMAGe症候群を検出するようには設計されていません。そのため、この病気は「スクリーニングで安全が確認された」わけではなく、生後まもなくの副腎クリーゼで初めて気づかれることが少なくありません。ご家族が症状のサイン(哺乳不良、ぐったりする、嘔吐、けいれんなど)を知っておき、いざというときにすぐ受診できるようにしておくことが、とても重要です。
7. 診断と検査 ─ 何をどう調べるか
IMAGe症候群の診断は、臨床的な特徴、ホルモンや電解質などの血液検査、画像所見を総合的に評価し、最終的に遺伝子検査によって確定します。公式に定まった臨床診断基準はまだありませんが、前述の4つの主症状がそろっていることが強い手がかりになります。
画像検査 ─ 副腎が「小さい」ことを確認する
副腎の画像検査では、先天性副腎過形成(CAH)で典型的にみられるような副腎の腫大は認められず、低形成で小さな副腎が確認されることが鑑別のポイントです。骨のX線検査では、骨年齢の遅れ、骨幹端の異形成、長い骨が細いことなどを確認します。
遺伝子検査 ─ 母親由来の変化を確認する
確定診断には、CDKN1C遺伝子を対象にした遺伝子解析(標的シークエンシング)や、より広く調べる遺伝子パネル検査・全エクソーム解析を用います。とくにPCNA結合ドメイン内に、母親由来のアレルで病気を起こす変化があるかどうかを確認することが重要です[4]。なお、IMAGe症候群の臨床的な特徴がそろっていても、必ずしもCDKN1Cに変化が見つかるとは限らず、後述するように別の遺伝子が原因である可能性も考えていきます。
💡 用語解説:出生前診断と出生後診断
出生前診断は、赤ちゃんが生まれる前に行う検査です。ご家族にすでに原因となる変化が判明している場合には、羊水検査や絨毛検査で得た胎児のDNAを調べ、その変化があるかどうかを確認することが技術的には可能です。
出生後診断は、生まれた後に血液などから遺伝子を調べる検査です。IMAGe症候群のように原因となる遺伝子の変化がはっきりしている病気では、血液を用いた遺伝子解析が診断の中心になります。どの検査が適しているかは、ご家族の状況によって異なるため、遺伝カウンセリングのなかで一つひとつ確認していきます。
8. 似た病気との区別 ─ 鑑別が管理方針を決める
🔍 関連記事:ベックウィズ・ヴィーデマン症候群/MIRAGE症候群
発育の遅れと副腎不全を主な特徴とする病気は、IMAGe症候群のほかにもいくつかあり、遺伝子解析の技術が進んだことで、それぞれの原因遺伝子が次々と明らかになってきました。似た病気を正しく見分けることは、免疫の管理や腫瘍の見守りなど、生涯にわたる医療の計画を立てるうえで欠かせません。
表現型が正反対 ─ ベックウィズ・ヴィーデマン症候群
まず驚くべきなのは、同じCDKN1C遺伝子の変化が、変化の種類と場所によって、まったく正反対の病気を引き起こすという事実です。IMAGe症候群が機能獲得型で成長抑制(発育不全)を起こすのに対し、PCNA結合ドメインの外に生じる機能喪失型の変化は、細胞のブレーキを失わせて過剰な成長を引き起こします。その結果として発症するのが、ベックウィズ・ヴィーデマン症候群(BWS)で、体の過成長、巨舌、臍帯ヘルニア、そして小児がん(ウィルムス腫瘍など)のリスク上昇を特徴とします[6]。同じ1つの遺伝子が、発生における成長と分化のバランスを握る中心的な因子であることがよくわかります。
副腎不全を伴わない ─ シルバー・ラッセル症候群
シルバー・ラッセル症候群(SRS)は、子宮内発育遅延、相対的な頭の大きさ、突き出た額、体の左右差などを特徴とする病気です。主な原因は11p15の低メチル化や7番染色体の母性ダイソミーですが、興味深いことに、CDKN1CのPCNA結合ドメインにある特定のミスセンス変化(279番目のアミノ酸をめぐる変化など)は、IMAGe症候群ではなく、副腎不全を伴わない家族性のSRSを引き起こすことが判明しています[7]。同じ遺伝子の同じ領域の変化でありながら、「副腎の機能に問題が出るかどうか」で病気が分かれるという現象は、タンパク質の働きが量的なバランスの上に成り立っていることを示唆しています。
免疫不全を伴う ─ POLE関連 IMAGe-I 症候群
DNAの複製を担うポリメラーゼεの触媒サブユニットPOLE1をコードするPOLE遺伝子に、両アレル性の機能喪失型の変化があると、IUGR・骨の異形成・副腎低形成といったIMAGe症候群とよく似た所見を引き起こします。IMAGe症候群との決定的な違いは、リンパ球の減少を伴う免疫不全を合併する点で、この病気はIMAGe-I症候群(免疫不全を伴うIMAGe)と呼ばれます[8]。免疫の弱さは感染症の管理方針を大きく変えるため、この区別はとても重要です。
造血の異常を伴う ─ MIRAGE症候群
MIRAGE症候群は、SAMD9遺伝子の機能獲得型の変化によって起こる病気で、骨髄異形成、重症感染症、成長遅延、副腎低形成、生殖器の所見、腸の病気を特徴とします[9]。IMAGe症候群よりもさらに多くの臓器にわたる重い症状を示し、とくに血液をつくる系統への影響が目立ちます。実際、IMAGe症候群を疑われた乳児が、詳しい遺伝子検査によって最終的にMIRAGE症候群と診断された例も報告されており、両者の見分けは慎重に行う必要があります。
9. 治療と生涯にわたるケア
IMAGe症候群の医療は、1つの診療科だけで完結するものではありません。小児内分泌科、整形外科、泌尿器科、臨床遺伝の専門家からなる多職種のチームが連携する、集学的なアプローチが基本になります。
副腎不全の管理 ─ 急性期と慢性期
新生児期の副腎クリーゼを乗り越えることが、まず何より重要です。低血圧・低ナトリウム血症・高カリウム血症に対しては、点滴でのヒドロコルチゾン投与、生理食塩水の輸液、ブドウ糖による低血糖の補正を、ただちに行う必要があります。急場を脱したあとの慢性期では、グルココルチコイド(ヒドロコルチゾンなど)とミネラルコルチコイド(フルドロコルチゾン)を生涯にわたって補充し、あわせて経口の食塩も補います。内分泌学会のガイドラインでは、ヒドロコルチゾンを1日2〜3回に分けて投与することが勧められています[10]。
ここで難しいのが、量の調整です。グルココルチコイドが多すぎると、医原性の成長の遅れ(低身長の悪化)や、クッシング症候群のような副作用が出ます。逆に少なすぎると、命に関わる副腎クリーゼのリスクが高まります。成長を妨げずに、しかし副腎の機能をしっかり支えるという絶妙なバランスを保つことが、内分泌の専門医の腕の見せどころになります。
💡 とても大切:シックデイ・ルール
感染症、発熱、全身麻酔を伴う手術など、体に強いストレスがかかるときには、グルココルチコイドの量を平時の2〜3倍に増やす「シックデイ・ルール(ストレス時の増量)」が欠かせません[2]。体調を崩したときにステロイドを増やせるかどうかが、副腎クリーゼを防ぐ分かれ目になります。ご家族や介護にあたる方への十分な教育と、緊急時にどう動くかの取り決めが、この病気の管理では命綱になります。緊急時に備えて、ステロイド補充を受けていることを示すカードや情報を携帯しておくことも役立ちます。
低身長への対応 ─ 成長ホルモンの効果には限界がある
目立つ低身長に対する成長ホルモン(GH)補充の効果については、データが限られており、専門家のあいだでも意見が分かれています。一部の患者さんではGHの分泌低下が併存しており、GH製剤の投与で成長率の改善がみられたという報告もあります[1]。しかしIMAGe症候群の成長障害の根っこは、下垂体でのGH分泌の低下ではなく、標的となる細胞(骨の成長板の軟骨細胞など)の内部で、CDKN1Cが過剰に働いて細胞の増殖が止まっていることにあります。細胞のなかで強くブレーキがかかっているため、外からGHを入れても組織が反応しにくく、効果は限定的なことが多いのです。導入にあたっては、詳しい内分泌評価に基づいて適応を慎重に判断し、開始後は成長の速さと骨の成熟をよく見ながら進めていきます。
整形外科・泌尿器科の継続的なケア
男児にみられる停留精巣や尿道下裂に対しては、泌尿器科による定期的な評価と、発達段階に応じた適切な時期での外科的な対応が検討されます。思春期に向けては、性腺の機能低下がある場合、年齢に応じてテストステロン補充を段階的に始め、二次性徴を促し、骨の密度を保つことを図ります。整形外科の面では、側弯症や股関節形成不全の進行を防ぐため、定期的なX線での見守りを行い、必要に応じて装具や手術を検討します。早い時期からの理学療法や作業療法は、筋緊張の低下の改善や運動発達の後押しに役立ちます。
長期の見通しと成人期への移行
IMAGe症候群の患者さんが小児期の急性の合併症を乗り越え、成人期に達したあとの長期的な経過については、この病気が稀であるために、まだ限られた情報しかありません。ただし、大半の患者さんで認知機能や知能は正常に発達するとされており、適切な身体的ケアと教育的な支援によって、社会的に自立できる可能性が高いことを示しています[2]。一方で、近い関係にあるシルバー・ラッセル症候群の成人期の追跡からは、耐糖能の異常や高血圧といった代謝面の問題が出やすいことが示唆されており、生涯にわたるグルココルチコイド補充の影響とあわせて、成人以降も心血管・代謝の見守りを続けることが望まれます。
10. 遺伝カウンセリング ─ 家族にとって知っておきたいこと
🔍 関連記事:遺伝カウンセリングとは/臨床遺伝専門医とは
CDKN1C関連IMAGe症候群は母性発現・父性インプリンティングという特殊な遺伝のかたちをとるため、次の妊娠や家族への影響を考えるうえで、遺伝カウンセリングの役割がとても大きくなります。変異を保因する女性が妊娠した場合、児へ変異が伝わる確率は1回の妊娠あたり50%ですが、実際に発症するのは母親由来として受け継いだ場合に限られます。母親から受け継いでも父親から受け継いでも確率は同じ50%ですが、その意味合いはまったく異なります。
また、変異を保因する女性自身が妊娠すると、体へのストレスが増すことで副腎不全が悪化するリスクがあり、妊娠後期にはヒドロコルチゾンの増量など、ステロイドの緻密な調整が必要になります。強力なステロイドであるデキサメタゾンは胎盤で不活化されず胎児に影響しうるため、妊娠中は避けるべきとされています[10]。胎児が発症した場合には、重いIUGRや、母体の低身長による分娩時のリスクなども考えられるため、産科と内分泌科が緊密に連携するハイリスク妊娠としての管理が求められます。こうした一つひとつの選択を、ご家族が納得して進められるよう、情報を整理してお伝えするのが遺伝カウンセリングの役割です。
なお、当院の仲田は成人を診療する臨床遺伝専門医であり、小児期に発症するこの病気そのものを直接診療するわけではありませんが、遺伝形式や再発の可能性、次の妊娠に向けた備えといった、遺伝にまつわるご相談には臨床遺伝専門医の立場からお応えすることができます。
よくある質問(FAQ)
Q. IMAGe症候群は遺伝しますか?
CDKN1C関連IMAGe症候群では、CDKN1C遺伝子の変化が常染色体顕性(優性)の形式で伝わります。ただし発症するのは母親から変化を受け継いだ場合だけで、父親から受け継いだ場合は無症状の保因者になります。保因する女性が妊娠したとき、児へ変化が伝わる確率は1回あたり50%です。
Q. なぜ「機能獲得」なのに発育が抑えられるのですか?
CDKN1C遺伝子は、細胞が増えすぎないようにブレーキをかける役目を持っています。CDKN1C関連IMAGe症候群の変化では、そのブレーキ役のタンパク質が分解されずに溜まり続け、ブレーキが効きすぎてしまいます。その結果、全身の細胞が増えるべきときに増えられず、発育が強く抑えられます。
Q. 新生児のスクリーニング検査で見つかりますか?
日本の新生児マススクリーニングは、IMAGe症候群を検出するようには設計されていません。多くは生後まもなくの副腎クリーゼで初めて気づかれます。ご家族が症状のサインを知っておき、いざというときにすぐ受診できるようにしておくことが大切です。
Q. 知的発達に影響はありますか?
大半の患者さんで、認知機能や知能は正常に発達すると報告されています。適切な身体的なケアと教育的な支援によって、社会的に自立できる可能性が高いと考えられています。
Q. 成長ホルモン治療は効きますか?
効果については専門家のあいだでも見解が分かれています。一部の患者さんでは改善の報告がありますが、この病気の発育不全は細胞の内部でブレーキがかかっていることが原因のため、外からホルモンを入れても反応しにくいことが多く、効果は限定的とされています。適応は詳しい評価に基づいて慎重に判断します。
遺伝性疾患や遺伝の可能性についてご相談を希望される方へ
発育や遺伝形式、次の妊娠に向けた備えなど、遺伝にまつわるご相談は、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングのなかでお受けしています。ご家族の状況に応じて、必要な情報を整理してお伝えします。
本記事は情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療方針を示すものではありません。グルココルチコイドやミネラルコルチコイドの用量調整をはじめとする具体的な医療については、必ず専門の医療機関にご相談ください。
参考文献
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- [3] Mutations in the PCNA-binding domain of CDKN1C cause IMAGe syndrome. Nat Genet. 2012. [PubMed: 22634751]
- [4] Increased protein stability of CDKN1C causes a gain-of-function phenotype in patients with IMAGe syndrome. PLoS One. 2013. [PubMed: 24098681]
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