目次
ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群(Jervell and Lange-Nielsen syndrome:JLNS)は、生まれつきの両耳の重い難聴と、心電図のQT時間の著しい延長をあわせ持つ、常染色体潜性(劣性)遺伝の病気です。原因はKCNQ1(ケーシーエヌキューワン)またはKCNE1(ケーシーエヌイーワン)という遺伝子の、両方のアレルに起きた変化です。治療をしないと半数以上が15歳までに亡くなると報告されている一方、早く見つけて治療と生活の注意を続けることで、危険を下げられます。この記事では、症状、原因遺伝子のしくみ、遺伝のしかたと再発率、寿命と予後、診断と治療、ご家族の検査と妊娠について、臨床遺伝専門医の立場から解説します。
Q. ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群とは、どんな病気ですか?
A. 生まれつきの両耳の高度な難聴と、QT延長症候群(心臓の電気の回復が遅れ、危険な不整脈が起きやすくなる状態)が一緒に起こる遺伝性の病気です。耳と心臓の両方で同じカリウムの通り道(IKsチャネル)が働かなくなることが原因です。両親はふつう保因者で、きょうだいが同じ病気になる確率は25%です。難聴だけと思われているお子さんでも、心電図でQT延長が見つかることがあります。
- ➤症状 → 両耳の高度難聴・ストレスや運動での失神・突然死の危険・鉄欠乏性貧血
- ➤原因遺伝子 → KCNQ1(約90%)、KCNE1(10%未満)の両アレルの病的バリアント
- ➤遺伝 → 常染色体潜性。きょうだいの発症25%、保因者50%
- ➤治療 → β遮断薬・植込み型除細動器(ICD)・左心臓交感神経切除術・人工内耳

1. ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群とは(難聴を伴う先天性QT延長症候群)
ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群は、先天性QT延長症候群のうち、生まれつきの高度な難聴を伴う型です。米国の遺伝性疾患の総説GeneReviewsでは、先天性の両側高度感音難聴と、多くは500ミリ秒を超えるQTc(心拍数で補正したQT時間)の延長を特徴とする病気と定義されています[1]。感音難聴とは、音の振動を電気信号に変える内耳や、その先の神経の働きが原因で起こる難聴のことです。
日本語では「ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群」のほか、「ジャーベル・ランゲ・ニールセン症候群」と書かれることもあり、英語ではJervell and Lange-Nielsen syndrome、略してJLNSと呼ばれます。心臓と耳の症状がそろうことから、cardioauditory syndrome(心聴覚症候群)、surdo-cardiac syndrome という古い呼び名もあります[1]。病名は、1957年に難聴とQT延長を伴う子どもたちを報告したノルウェーの医師、アントン・ジャーベル(Anton Jervell)とフレッド・ランゲ-ニールセン(Fred Lange-Nielsen)にちなみます[3]。
💡 用語解説:QT時間とQTc
心電図のQ波の始まりからT波の終わりまでをQT時間といい、心室が電気的に興奮してから元の状態に戻るまでの時間を表します。QT時間は心拍数で変わるため、心拍数で補正した値をQTc(補正QT時間)と呼びます。GeneReviewsでは、QTcの正常は男性で440ミリ秒未満、思春期以降の女性で460ミリ秒未満とされ、JLNSでは500ミリ秒を超えるのが典型です[1]。
ロマノ・ワード症候群との違い
同じKCNQ1やKCNE1の変化でも、片方のアレルだけの場合は難聴を伴わないQT延長症候群(ロマノ・ワード症候群)になり、両方のアレルの場合はJLNSになります。ロマノ・ワード症候群(Romano-Ward syndrome)は、常染色体顕性(優性)遺伝で心臓の症状だけが出るQT延長症候群の総称です。GeneReviewsによると、ロマノ・ワード症候群とJLNSの両方に関わることがわかっているのは、KCNQ1とKCNE1の2つの遺伝子だけです[1]。
つまりJLNSは、ロマノ・ワード症候群の原因遺伝子の変化を「2つ重ねて」持った状態と考えると理解しやすくなります。片方のアレルだけなら耳の働きは保たれますが、両方が働かなくなると耳の中のカリウムの流れが止まり、難聴が起こります。心臓への影響も重くなり、JLNSはQT延長症候群の中で最も重い型とされています[6]。
どのくらいまれな病気か
JLNSは、世界全体では100万人あたり1.6〜6人と推定されるまれな病気です[2]。ただし頻度は地域によって大きく異なり、ノルウェーでは少なくとも20万人に1人と報告されています[1]。スウェーデンの全国調査では13家系19人が見つかり、思春期前の子どもで20万人に1人を超える頻度でした。8種類のKCNQ1変異のうち、p.R518X(518番目のアミノ酸の位置で止まる変異)が24アレル中12を占めていました[5]。
このように特定の地域に同じ変異が集まる現象を「創始者効果」といいます。昔のある一人の祖先が持っていた変異が、人の移動が少ない地域で多くの子孫に受け継がれた結果です。スウェーデンの研究では、変異の83%が創始者効果で説明できるとされました[5]。また、先天性の難聴の子どもに占める割合は1%未満とされていますが[4]、トルコで先天性難聴の子ども350人を調べた研究では175人に1人がJLNSでした[1]。血のつながった両親(血族婚)が多い地域では頻度が上がると考えられます。日本でもKCNQ1の新しい変異を持つ家系が報告されています[1]。
2. 症状:難聴・失神・突然死・貧血
JLNSの典型的な姿は、「耳の聞こえない子どもが、ストレスや運動、驚いたときに意識を失う」というものです[1]。症状は耳と心臓が中心ですが、胃と血液にも影響が出ます。身体の診察では、難聴以外に目立った所見がないのも特徴です[1]。
両耳の高度な難聴(生まれつき)
遺伝子検査で確定したJLNSの方は、全員が生まれつきの両側の高度な感音難聴を持っています[1]。補聴器で音を大きくしても言葉を聞き取りにくい程度の難聴で、多くは人工内耳の対象になります。難聴そのものは生まれた時点で完成しているため、新生児の聴覚検査や、言葉の遅れをきっかけに見つかります。
また、スウェーデンの研究では、難聴のあるJLNSの14人全員に前庭(体のバランスを感じる耳の部分)の機能低下が見つかりました[1]。内耳のカリウムの環境が、聞こえと平衡感覚の両方を支えているためです。歩き始めが遅い、ふらつくといった様子の背景に、この前庭の働きの低下が関わることがあります。
失神・けいれん・突然死
QT時間が長いと、トルサード・ド・ポアント(torsade de pointes)という危険な心室頻拍が起こりやすくなり、失神や突然死につながります。世界各地の186人を集めた研究では、86%に心臓のイベント(失神・心停止・突然死)があり、50%は3歳までに症状が出ていました。平均のQTcは557ミリ秒で、発作のきっかけの95%は感情の高ぶりか運動でした[6]。GeneReviewsは、最大で95%が成人するまでに心臓のイベントを経験するとしています[1]。
💡 用語解説:トルサード・ド・ポアント(TdP)
フランス語で「先端のねじれ」という意味の、心室頻拍の一種です。心電図の波形が、基線を軸にねじれるように大きさを変えながら続くことから名づけられました。短時間で自然に止まれば失神で済みますが、続くと心室細動に移り、心臓が血液を送り出せなくなって突然死の原因になります。QT時間が長いときに起こりやすい不整脈です。
注意したいのは、脳に血液が届かなくなった結果、手足をつっぱるけいれんが起こることです。そのため、JLNSの子どもがてんかんと診断され、抗てんかん薬で治療されていた例が報告されています[1][7]。難治性のてんかんとして治療されていたお子さんが、シュワルツの診断基準と先天性難聴からJLNSと診断された報告もあります[7]。
🩺 院長コラム【「耳の聞こえない子のけいれん」は心電図から考える】
難聴とけいれんがそろったとき、まず脳や神経の病気を考えるのは自然な流れです。けれども、JLNSのけいれんは脳の病気ではなく、心臓が止まりかけたことによる脳の血流不足が原因です。抗てんかん薬では防げず、診断が遅れるほど危険が続きます。
生まれつきの高度な難聴があり、驚いたときや泣いたとき、運動中に意識を失うお子さんでは、脳波より先に心電図を一度とることが大切だと考えています。心電図は短時間で終わる検査で、QT延長の有無はそこでわかります。
鉄欠乏性貧血・胃の症状
KCNQ1が原因のJLNSでは、鉄欠乏性貧血と、ガストリン(胃酸の分泌をうながすホルモン)の高値がよくみられます[1]。スウェーデンのKCNQ1両アレル変異の14人を調べた研究では、12人に鉄欠乏性貧血の既往があり、13人に何らかの胃腸の症状がありました。ガストリンは9人中7人で高く、ガストリンの高さと貧血・鉄不足には関連がありました。内視鏡検査を受けた5人のうち3人で、胃の粘膜の過形成や異形成(細胞が増えたり形が乱れたりした状態)が見つかっています[8]。
理由は胃酸です。KCNQ1は胃の壁細胞(胃酸をつくる細胞)でも働いていて、胃酸が出にくくなります。食べ物の鉄は胃酸の助けで吸収されやすい形に変わるため、胃酸が少ないと鉄が吸収されにくくなります。胃酸が少ないことを体が感知してガストリンを出し続けるため、ガストリンが高くなります。研究者は、高ガストリンが将来の消化管のがんの危険因子になりうるとして、貧血とガストリンの定期的な確認を提案しています[8]。実際に、成人のJLNSの女性で、ガストリンが基準値(6〜55 pmol/L)を大きく超える943〜1,570 pmol/Lに上がり、胃に複数のカルチノイド腫瘍(神経内分泌腫瘍)が見つかった報告があります[9]。
一方、同じ研究では、KCNQ1の変異を片方だけ持つ10人のガストリンはすべて正常で、QT延長症候群が重い人でも同じでした[9]。ガストリンの高さは、両方のアレルが働かないことを反映する値で、不整脈の重さを測る目安ではありません。
3. 原因遺伝子KCNQ1・KCNE1と、心臓・耳・胃で起こること
JLNSの原因は、KCNQ1またはKCNE1のどちらか一方の遺伝子で、両方のアレルに病的バリアント(病気の原因となる遺伝子の変化)があることです。GeneReviewsによると、KCNQ1が約90%、KCNE1が10%未満を占め、臨床的にJLNSと考えられた人の94%で、どちらかの遺伝子に病的バリアントが見つかっています[1]。1997年に、近親婚の家系の解析からKCNQ1が最初の原因遺伝子として見つかり[4]、同じ年にKCNE1の変異でも同じ病気になることが報告されました[10][11]。
🧬 JLNSの2つの原因遺伝子
| 項目 | KCNQ1(JLNS1型) | KCNE1(JLNS2型) |
|---|---|---|
| JLNSに占める割合 | 約90% | 10%未満 |
| 染色体の位置 | 11p15.5-p15.4 | 21q22.12 |
| つくるたんぱく質 | IKsチャネルの本体(αサブユニット、膜を6回貫く) | IKsチャネルの調節役(βサブユニット、130アミノ酸) |
| JLNSを起こす変異 | 500以上の報告のうち約30がJLNSに関係 | 4種類(すべてミスセンス) |
| 傾向 | 鉄欠乏性貧血・高ガストリンが多い | 症状が比較的軽い例が多い |
※GeneReviews[1]による。
IKsチャネルとは:心臓と耳で同じ「カリウムの通り道」
KCNQ1がつくるたんぱく質と、KCNE1がつくるたんぱく質は、組み合わさって「IKs(遅延整流カリウム電流の遅い成分)」を流すチャネルになります。チャネルとは、細胞の膜にあいたイオンの通り道のことで、IKsチャネルはカリウムイオンを細胞の外へ出します[1]。このチャネルは心臓だけでなく、内耳の血管条(けっかんじょう:内耳の外側の壁にある、内リンパ液をつくる組織)にも存在します[4]。
心臓では、心筋が興奮したあと元の状態に戻る「再分極」に、カリウムを外へ出すIKsが使われます。IKsが働かないと再分極が遅れ、心電図のQT時間が長くなります。とくに交感神経が高ぶって心拍数が上がる場面では、ふつうはIKsが強まって再分極を早めますが、それができないため、運動や驚きのときに不整脈が起こりやすくなります。発作のきっかけの95%が情動か運動だったという結果は、このしくみと合っています[6]。
内耳では、聞こえの細胞(有毛細胞)が浸っている内リンパ液のカリウム濃度を高く保つ必要があります。音が来ると、内リンパ液のカリウムが有毛細胞に流れ込んで細胞が興奮し、聴神経に信号が伝わります。この高カリウムの内リンパ液は、血管条にあるIKsチャネルがつくっています[1]。両アレルが働かないと内リンパ液がつくれず、聞こえの仕組みそのものが成り立たなくなります。ノルウェーのJLNSの方の側頭骨の病理では、血管条とコルチ器(聞こえの細胞が並ぶ器官)の高度な萎縮がみられました[1]。
片方のアレルだけなら聞こえが保たれるのは、残った正常なアレルがつくるチャネルで内リンパ液をつくれるためと考えられます。一方、心臓は片方が働かないだけでも影響を受けることがあり、これがロマノ・ワード症候群です。耳と心臓で「何割のチャネルがあれば足りるか」が違うことが、同じ遺伝子で2つの病気が生まれる理由です。
マウスの研究からわかったこと
KCNQ1を働かなくしたマウスは、音にまったく反応しない完全な難聴になり、ぐるぐる回る・転ぶといった平衡障害を示しました。内耳では血管条が萎縮し、内リンパ液の入る空間がつぶれていました[12]。さらに胃が重さで約3倍に大きくなり、胃酸がほとんど出ず(胃の中のpHが6〜7)、ガストリンが高くなっていました[12]。ヒトのJLNSでみられる難聴・胃の過形成・高ガストリンと同じ変化です。
一方、このマウスの心電図ではQT延長がみられませんでした。成人のマウスの心臓ではIKsがほとんど働いておらず、別のカリウム電流が再分極を担っているためと考えられています[12]。動物で起こらないことが、ヒトでも起こらないとは限らないという、遺伝子の研究を読むときの大事な注意点です。
また、KCNQ1の遺伝子がある11p15.5は、親から受け継いだどちらの遺伝子が働くかが決まっている「インプリンティング」の領域で、ベックウィズ・ヴィーデマン症候群(体が大きく育つ病気)の患者さんの染色体の組み換えがこの遺伝子の中に起きていることもわかっています[12]。KCNQ1を働かなくしたマウスでは、別の遺伝子の変化で腸に腫瘍ができやすいマウスと掛け合わせると、腸の腫瘍が増えることも報告されています[13]。ただし、これはマウスでの研究で、JLNSの方の腸のがんが増えるかどうかは確かめられていません。
4. 遺伝のしかたと再発率
JLNSは常染色体潜性(劣性)遺伝です。お子さんがJLNSのとき、両親はふつう、それぞれ片方のアレルに病的バリアントを持つ保因者です。まれに、片方の親だけが保因者で、もう一方の変化はお子さんに新たに起きた新生突然変異のこともあります[1]。
両親とも保因者の場合、きょうだいが受精した時点でJLNSになる確率は25%、保因者になる確率は50%、どちらの変異も受け継がない確率は25%です[1]。この確率は妊娠のたびに同じで、「1人目がJLNSだったから、2人目は大丈夫」ということはありません。片方の親だけが保因者で、お子さんの変異の一方が新生突然変異だった場合は、きょうだいがJLNSになる確率は上がりませんが、半数が保因者になる可能性があります[1]。
保因者は「症状のない家族」とは限らない
JLNSの保因者は聞こえは正常ですが、QT延長症候群(ロマノ・ワード症候群)を持っていることがあります。保因者の中には、QT延長も失神も一生起こらない人がいる一方、QT延長と失神、突然死が常染色体顕性の形で受け継がれている家系もあります[1]。GeneReviewsによると、JLNSを起こす病的バリアントの約67%は、片方だけでもQT延長症候群を起こすことが知られています[1]。
スウェーデンで多いp.R518Xは、片方だけ持つ人が推定2,000〜4,000人に1人と多い一方、片方だけの人では症状が比較的軽いことが報告されています[14]。同じ「保因者」でも、変異の種類によって心臓への影響が異なるということです。このため、JLNSのお子さんの両親やきょうだいは、聞こえが正常でも、QT延長症候群に詳しい医師による心電図検査を受けることが勧められています[1]。
🩺 院長コラム【潜性遺伝の病気でも、親の心電図が大事な理由】
常染色体潜性遺伝の病気では、保因者は「症状が出ない人」と説明されることが多いと思います。けれどもJLNSでは、保因者の持つ1つの変異が、それだけでQT延長症候群を起こすことがあります。お子さんの診断が、ご両親やおじ・おばの心臓の危険に気づくきっかけになる病気だと考えています。
お子さんの遺伝子検査で2つの変異が見つかったら、それぞれがどちらの親から来たかを確かめ、その親の血縁者にも心電図をすすめる。家系の中で誰を調べるかを順に決めていくことが、臨床遺伝専門医の大切な仕事の1つだと考えています。
JLNSの方がお子さんを持つとき
JLNSの方のお子さんは、必ず片方の病的バリアントを受け継ぐため、全員が保因者になり、QT延長症候群の可能性があります。パートナーが同じ遺伝子の保因者であれば、お子さんがJLNSになる確率は50%です[1]。また、JLNSのお子さんの両親のきょうだい(おじ・おば)も、50%の確率で同じ変異を持っている可能性があります[1]。
5. 寿命と予後:危険を高める因子
治療を受けていないJLNSの子どもの半数以上が、15歳までに亡くなると報告されています[1]。ただし、これは病気そのものの重さを示す数字で、治療を受けた場合の寿命を示すものではありません。成人してから何度か失神を経験しながら生活している方や、難聴以外の症状がないまま50歳まで過ごした方の報告もあり、重症の人ほど報告されやすい偏りがあることも指摘されています[1]。
一方で、治療しても危険が残ることも事実です。186人の研究では、β遮断薬(交感神経の刺激が心臓に伝わるのを抑える薬)を飲んでいても51%に心臓のイベントが起こり、27%が心停止または突然死に至りました[6]。GeneReviewsは、β遮断薬だけで治療したJLNSの方で5年間に35%が亡くなり、86%に心臓のイベントがあったという別の研究も紹介しています[1]。
⚠️ 心停止・突然死の危険を高める因子
※ハザード比は、ある条件の人の危険が基準の人の何倍かを示す値です。0.54は、女性の危険が男性の約半分であることを意味します。
これらの因子は、治療の強さを決めるための目安です。QTcが長い、乳児期に失神した、といった因子がある人は、薬だけでなく植込み型除細動器(ICD)などの追加の治療を早めに検討します。逆に、因子が少ないからといって危険がないわけではありません。JLNSでは、すべての方に生活の注意と治療が必要です。
6. 診断:心電図・シュワルツスコア・遺伝子検査
JLNSは、①生まれつきの高度な感音難聴、②QTcの延長(500ミリ秒超)という2つの所見から疑い、KCNQ1またはKCNE1の両アレルの病的バリアントが見つかることで確定します[1]。症状がはっきりしない場合ほど、遺伝子検査が診断の決め手になります。
心電図とシュワルツスコア
QT延長症候群の診断では、心電図、症状、家族歴を点数にしたシュワルツスコア(LQTSリスクスコア)が使われます。3.5点以上で「可能性が高い」と判定され、QTcが480ミリ秒以上で3点、ストレスでの失神で2点、先天性の難聴で0.5点が加わります[15]。JLNSでは、QTcが大きく延びていることと難聴だけで、多くの場合この基準を満たします。
ただしGeneReviewsは、遺伝子検査で確定したJLNSのうち、QTcが境界域(440〜500ミリ秒)や正常の人がどのくらいいるかはわかっていないとしています[1]。また、QT延長症候群の人に、まったく別の原因による軽い難聴がたまたま重なっていることもあり、難聴とQT延長の両方があるからといって、すべてがJLNSとは限りません[1]。
遺伝子検査の進め方
遺伝子検査(遺伝学的検査)は、出生後に血液などから行います。GeneReviewsは、まずKCNQ1の配列を調べ、見つからなければKCNQ1のエクソン単位の欠失・重複を調べ、病的バリアントが1つしか見つからないか見つからなければKCNE1を調べる、という順番を示しています。KCNQ1・KCNE1を含む複数の遺伝子をまとめて調べるパネル検査も選択肢です[1]。
結果の読み方には注意が必要です。両方のアレルに病的バリアント(またはその可能性が高いバリアント)が見つかれば診断が確定しますが、両方ともVUS(臨床的意義不明のバリアント)の場合や、1つが病的で1つがVUSの場合は、診断を確定することも否定することもできません[1]。この場合は、両親がそれぞれどちらの変異を持っているかを調べ、2つの変異が別々のアレル(父由来と母由来)にあることを確かめることが判断の助けになります。
💡 用語解説:両アレル性(biallelic)
人は同じ遺伝子を父から1つ、母から1つ受け継ぎ、2つずつ持っています。この2つをアレル(対立遺伝子)と呼びます。両アレル性とは、2つのアレルの両方に変化がある状態のことです。同じ変化が2つそろう場合をホモ接合、違う変化が1つずつある場合を複合ヘテロ接合といい、JLNSではどちらの形もみられます。
難聴の赤ちゃんで考えること
生まれつきの難聴の原因として最も多い遺伝性の病気は、GJB2という遺伝子の変化によるもの(DFNB1)です。GeneReviewsは、高度な両側の感音難聴があり、GJB2に病的バリアントが見つからず、身体の診察に異常がない乳児では、JLNSを疑うべきだとしています[1]。一方、新生児聴覚スクリーニングで見つかった難聴児を調べた大規模な研究では、JLNSの頻度は高くありませんでした[1]。難聴児全員がJLNSを心配する必要はありませんが、難聴の原因がわからないまま失神やけいれんがある場合には、心電図で確かめる価値があります。
🔍 JLNSと区別が必要な病気
| 病気 | 遺伝形式 | JLNSとの違い |
|---|---|---|
| ロマノ・ワード症候群 | 常染色体顕性 | QT延長はあるが、高度な先天性難聴はない |
| ティモシー症候群 | (CACNA1C) | QT延長に、2:1房室ブロック、心臓の形の異常、手足・顔・発達の特徴を伴う |
| アンデルセン・タウィル症候群 | (KCNJ2) | 周期的な手足の脱力、不整脈とQT延長、耳の位置が低い・あごが小さいなどの特徴 |
| 後天性のQT延長 | 遺伝しない | 低カリウム・低マグネシウム・低カルシウム血症、薬、心筋の病気などが原因 |
※GeneReviewsの鑑別診断[1]による。
7. 治療と生活の注意
JLNSの治療の目標は、失神・心停止・突然死を防ぐことです。β遮断薬が治療の基本ですが、それだけで十分でない方が多いため、植込み型除細動器(ICD)や手術を組み合わせます。耳については人工内耳、血液については鉄欠乏性貧血の治療を行います[1]。
β遮断薬
β遮断薬は、運動や驚きで交感神経が高ぶったときに、その刺激が心臓に伝わるのを和らげる薬です。JLNSの発作の多くは交感神経の高ぶりがきっかけなので、まず使われます。ただし効果は部分的で、前に述べたとおり、飲んでいても約半数に心臓のイベントが起こりました[6]。スウェーデンの研究でも、β遮断薬はイベントを減らしたものの、症状のあった人で完全になくすことはできませんでした[5]。
GeneReviewsは、プロプラノロールとナドロールがメトプロロールより心臓のイベントを抑える効果が高いこと、QT延長症候群の薬物治療ではナドロールが優先されるという専門家の合意があることを紹介しています[1]。子どもは体が大きくなると薬の量が相対的に足りなくなるため、成長の早い時期には3〜6か月ごとに効果と副作用を確かめ、量を調整することが勧められています[1]。
植込み型除細動器(ICD)
ICDは、危険な不整脈を感知すると電気ショックで止める、体内に植え込む小さな装置です。心停止の既往がある方や、ほかの治療で効果が不十分な方のほか、QTcが550ミリ秒を超える、5歳未満で失神した、KCNQ1変異を持つ20歳を超える男性、といった高リスクの方に強くすすめられています[1]。スウェーデンの研究では、ICDを入れた6人で一定の合併症はあったものの、突然死はありませんでした[5]。
一方、子どもへのICDには、体の成長に伴う電極線の問題や、誤った作動などの課題があります。ICDを入れたあとも、不適切なショックや、装置を入れた部分・電極線の合併症がないかを定期的に確かめる必要があります[1]。
左心臓交感神経切除術(LCSD)
左心臓交感神経切除術(LCSD)は、心臓に向かう左側の交感神経の一部を胸の手術で切る治療です。交感神経の刺激を元から減らすため、β遮断薬で抑えきれない方に行われます。GeneReviewsは一部の方で有効だったとしています[1]。最大量のプロプラノロールを飲んでも高リスクだったJLNSの子ども6人がLCSDを受け、その後の経過観察中に失神・トルサード・ド・ポアント・心停止・死亡がなかったという報告もあります[16]。ただし6人の症例集積の段階で、標準治療としての効果の大きさは確かめられていません。
また、ペースメーカー・ICD・LCSDなどを追加しても、32人中18人(56%)に症状が残り、そのうち7人が突然死したという結果もあり[1]、どの治療も「これで安全」と言い切れるものではありません。複数の治療と生活の注意を重ねて危険を下げていくのが、JLNSの治療の考え方です。
人工内耳と麻酔の注意
JLNSの難聴は、人工内耳で治療できます。人工内耳はペースメーカーの働きを妨げないとされ、これまでに約20人のJLNSの方が人工内耳を受けた経験が報告されています[1]。一方で、手術のストレスや全身麻酔が致死的な不整脈を引き起こすことがあり[17]、手術中の心停止で亡くなった方の報告もあります。人工内耳を入れたあとに、音がきっかけの失神が増えたお子さんの報告もあります[1]。
人工内耳の手術を受ける難聴のお子さんでは、手術前の心電図でQT延長がないか確かめることが重要です。JLNSとわかっていれば、β遮断薬を続けたまま、除細動の準備を整えた環境で麻酔を行うなど、麻酔科と循環器科が連携して備えられます。
避ける薬と生活の注意
QT時間をさらに延ばす薬は避けます。抗不整脈薬の一部、三環系抗うつ薬、抗ヒスタミン薬の一部、フェノチアジン系の薬など多くの薬が該当し、最新の一覧はCredibleMedsという海外のサイトで確かめられます(登録が必要)[1]。新しい薬を処方されるときや市販薬を使うときは、JLNSであることを医師や薬剤師に伝えてください。下痢や嘔吐で血液中のカリウムやマグネシウムが下がると、QT時間が延びることにも注意が必要です[1]。
⚠️ GeneReviewsが避けるべきとしている場面
競技としてのスポーツ、遊園地の絶叫系の乗り物、怖い映画、冷たい水への飛び込みなど、急に強い感情が起こる場面や、QT延長症候群で失神のきっかけになることが知られている活動です。どこまで制限するかは、治療の効果を見ながら循環器の医師が決めます。あわせて、ご家族が心肺蘇生法を身につけること、診断名を書いたIDブレスレットをつけること、家庭や学校で自動体外式除細動器(AED)を使えるようにすることが勧められています[1]。
鉄欠乏性貧血は、一般的な基準に沿って治療します[1]。診断がついた時点で血液検査で貧血を確かめ、貧血があれば鉄の不足を調べます。胃酸が少ないために鉄が吸収されにくいことが背景にあるので、貧血が繰り返す場合は、胃の状態についても消化器の医師と相談しながら経過をみることになります。
8. ご家族の検査・妊娠・次のお子さん
JLNSの診断は、本人だけでなく、両親・きょうだい・その先の血縁者の心臓の危険を知る手がかりになります。GeneReviewsは、きょうだいと両親を評価し、治療や予防が必要な人をできるだけ早く見つけることを勧めています[1]。
👪 ご家族ごとの検査の目安
| 対象 | 勧められている検査 |
|---|---|
| 両親 | 変異がわかっていれば遺伝子検査、QT延長症候群に詳しい医師による心電図検査 |
| きょうだい | 聴力検査、心電図などの不整脈の評価、変異がわかっていれば遺伝子検査 |
| 本人のお子さん | 心電図検査(全員が保因者になるため) |
| 両親のきょうだい | 50%で同じ変異を持つ可能性があり、QT延長症候群の評価の対象 |
※GeneReviews[1]による。家族の保因者検査は、家系の病的バリアントがわかっていることが前提です。
出生前診断・着床前診断
家系の中でKCNQ1またはKCNE1の病的バリアントが特定されていれば、出生前診断と着床前遺伝学的検査(PGT-M)が可能です[1]。出生前診断は、妊娠中に絨毛(胎盤のもとになる組織)や羊水の細胞から胎児のDNAを調べ、家系で見つかった変異を受け継いでいるかを確かめる検査です。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。着床前遺伝学的検査は、体外受精でできた受精卵の一部の細胞を調べる方法です。当院では体外受精・着床前検査は行っていませんが、海外で着床前検査を受ける際に使える英語の検査結果をお渡しできます(検査のときにお申し出ください)。詳しくは海外でPGT-Mを考えている方へをご覧ください。
GeneReviewsは、遺伝的なリスクの判定や保因者かどうかの確認、出生前・着床前の検査の話し合いは、妊娠する前に行うのが最もよいとしています[1]。妊娠してから変異を探し始めると、結果が出るまでに時間がかかり、検査の時期に間に合わないことがあるためです。出生前検査を使うかどうかは、医療者の間でもご家族の間でも考え方が分かれる、個人の判断に委ねられることがらです[1]。
お母さんの心電図も確認する
JLNSの胎児を妊娠しているお母さんは保因者であり、お母さん自身がQT延長症候群を持っていないかを考慮すべきだとされています[1]。QT延長症候群の女性は、妊娠中や出産後に心臓のイベントの危険が変わることが知られているため、妊娠前か妊娠の早い時期に心電図を確かめておくことが大切です。
よくある質問(FAQ)
Q1. ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群の寿命はどのくらいですか?
治療を受けていない子どもの半数以上が15歳までに亡くなると報告されています。一方、成人してから生活している方の報告もあります。β遮断薬を飲んでいても約半数に心臓のイベントが起こるため、QTcの長さや失神の時期などの危険因子に応じて、植込み型除細動器(ICD)などを組み合わせて危険を下げます。
Q2. 両親が健康でも、子どもがこの病気になるのはなぜですか?
常染色体潜性遺伝の病気で、両親はふつう、それぞれKCNQ1またはKCNE1の片方のアレルに病的バリアントを持つ保因者です。子どもが両親から1つずつ受け継ぐと発症します。両親とも保因者の場合、きょうだいが同じ病気になる確率は妊娠のたびに25%です。
Q3. 保因者の親やきょうだいも検査が必要ですか?
聞こえが正常でも、心電図検査が勧められています。保因者の持つ1つの変異が、それだけでQT延長症候群(ロマノ・ワード症候群)を起こすことがあるためです。家系の病的バリアントがわかっていれば、遺伝子検査で保因者かどうかも確かめられます。
Q4. 難聴の子どもは全員、心電図検査を受けたほうがよいですか?
新生児聴覚スクリーニングで見つかった難聴児を調べた研究では、JLNSの頻度は高くありませんでした。ただし、高度な両側の感音難聴があり、GJB2などのほかの原因が見つからない場合や、失神・けいれんがある場合、人工内耳の手術を受ける前には、心電図でQT延長がないか確かめる意味があります。
Q5. 遺伝子検査ではどの遺伝子を調べますか?
KCNQ1とKCNE1の2つです。KCNQ1が約90%、KCNE1が10%未満を占めます。両方のアレルに病的バリアントが見つかれば診断が確定します。片方しか見つからない場合やVUS(臨床的意義不明のバリアント)が含まれる場合は、両親の検査で変異がどちらから来たかを確かめることが判断の助けになります。
Q6. 次の子どもについて、出生前診断はできますか?
家系のKCNQ1またはKCNE1の病的バリアントが特定されていれば、絨毛や羊水を使った出生前診断や、着床前遺伝学的検査が可能です。結果が出るまでに時間がかかるため、妊娠前に家系の変異を確認しておくことが勧められています。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。
まとめ
ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群は、KCNQ1またはKCNE1の両方のアレルが働かなくなることで、心臓と内耳で同じIKsチャネルが失われ、生まれつきの高度な難聴とQT延長が起こる常染色体潜性遺伝の病気です[1]。症状は乳幼児期から始まり、半数が3歳までに心臓のイベントを経験します[6]。胃酸が出にくくなるため、鉄欠乏性貧血も起こりやすくなります[8]。
治療はβ遮断薬が基本ですが効果は部分的で、危険因子に応じてICDや左心臓交感神経切除術を組み合わせます。保因者の両親やきょうだいもQT延長症候群を持っていることがあるため、聞こえが正常でも心電図検査が勧められます。家系の病的バリアントがわかれば、ご家族の保因者検査や、次のお子さんの出生前診断が可能になります。
🧬 ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群の遺伝子検査をお考えの方へ
ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医がKCNQ1・KCNE1の遺伝子検査と、検査前後の遺伝カウンセリングを担当します。家系の病的バリアントがわかったあとの、ご家族の保因者検査や、絨毛・羊水からの胎児の出生前診断も当院で承っております。検査を受けるかどうかまだ決めていない方は、検査で何がわかり、結果をどう受け止めればよいかを、遺伝カウンセリングとはとジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群の遺伝子検査で先にご覧ください。
参考文献
- [1] Jervell and Lange-Nielsen Syndrome. GeneReviews®. 2017. [NBK1405]
- [2] Jervell and Lange-Nielsen syndrome. MedlinePlus Genetics. [MedlinePlus]
- [3] HRS/EHRA/APHRS Expert Consensus Statement 基準に基づいた小児期QT延長症候群の頻度(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 分担研究報告書). [厚生労働科学研究成果データベース]
- [4] A novel mutation in the potassium channel gene KVLQT1 causes the Jervell and Lange-Nielsen cardioauditory syndrome. Nature Genetics. 1997. [PMID: 9020846]
- [5] Prevalence, mutation spectrum, and cardiac phenotype of the Jervell and Lange-Nielsen syndrome in Sweden. Europace. 2012. [PMID: 22539601]
- [6] The Jervell and Lange-Nielsen syndrome: natural history, molecular basis, and clinical outcome. Circulation. 2006. [PMID: 16461811]
- [7] Jervell and Lange-Nielson Syndrome masquerading as intractable epilepsy. [PMC3345596]
- [8] Iron-deficiency anaemia, gastric hyperplasia, and elevated gastrin levels due to potassium channel dysfunction in the Jervell and Lange-Nielsen Syndrome. Cardiology in the Young. 2013. [DOI: 10.1017/S1047951112001060]
- [9] Elevated serum gastrin levels in Jervell and Lange-Nielsen syndrome: a marker of severe KCNQ1 dysfunction? Heart Rhythm. 2011. [PMID: 21118729]
- [10] KCNE1 mutations cause Jervell and Lange-Nielsen syndrome. Nature Genetics. 1997. [PMID: 9354783]
- [11] IsK and KvLQT1: mutation in either of the two subunits of the slow component of the delayed rectifier potassium channel can cause Jervell and Lange-Nielsen syndrome. Human Molecular Genetics. 1997. [PMID: 9328483]
- [12] Targeted disruption of the Kvlqt1 gene causes deafness and gastric hyperplasia in mice. J Clin Invest. 2000. [PMID: 11120752]
- [13] The role of KCNQ1 in mouse and human gastrointestinal cancers. Oncogene. 2014. [PMC3935979]
- [14] Phenotype, origin and estimated prevalence of a common long QT syndrome mutation: a clinical, genealogical and molecular genetics study including Swedish R518X/KCNQ1 families. BMC Cardiovascular Disorders. 2014. [DOI: 10.1186/1471-2261-14-22]
- [15] QTc behavior during exercise and genetic testing for the long-QT syndrome. [DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.111.062182]
- [16] Left cardiac sympathetic denervation in children with Jervell Lange-Nielsen syndrome and drug refractory torsades – A case series. [Manipal Research]
- [17] Anesthesia for Jervell and Lange Nielsen syndrome (JLNS). [DOI: 10.35975/apic.v28i2.2677]



