この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

マグネシウム欠乏症(低マグネシウム血症)は、多くは飲酒・長引く下痢・薬などが原因ですが、くり返す、子どものころから続く、低カリウムも一緒、家族にもいる、という場合には、腎臓でマグネシウムを取り戻すしくみなどに関わる遺伝子の変化が原因のことがあります。代表的なものが、腎臓でマグネシウムとカリウムが失われるギッテルマン症候群です。原因がわからないまま補充を続けている方にとって、原因の遺伝子がわかることは、見張るべき合併症と、ご家族への影響を知る手がかりになります。このページでは、ギッテルマン症候群など23遺伝子を一度に調べる遺伝子検査でわかること・わからないことを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. 低マグネシウム血症の遺伝子検査で何がわかりますか?
遺伝性の低マグネシウム血症に関係する23遺伝子を一度に調べ、ギッテルマン症候群(SLC12A3)、バーター症候群3型(CLCNKB)、高カルシウム尿症と腎石灰化を伴う型(CLDN16・CLDN19)、乳児期にけいれんで見つかる型(TRPM6)などの原因を探します。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
補充しても血液のマグネシウムが低いままの方、低カリウム・低カルシウムも一緒に言われた方、子どものころから電解質の異常が続く方、腎石灰化や結石がある方、ご家族に同じ病気の方がいる方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかれば、きょうだいやお子さんへの遺伝のしかたも型ごとにご説明します。意義がまだわからない変化(VUS)が見つかることもあります。
1. 低マグネシウム血症(マグネシウム欠乏症)とは|原因が遺伝のこともあります
低マグネシウム血症は、血液中のマグネシウムが少なくなった状態で、遺伝性の低マグネシウム血症を扱った総説では、血清マグネシウム濃度が0.70mmol/L(1.7mg/dL)未満と定義されています[1]。マグネシウム欠乏症とも呼ばれます。米国国立医学図書館の患者向け解説(MedlinePlus)では、血液のマグネシウムの基準範囲を1.6〜2.6mg/dL(検査施設によって少し違う)としています(2026年10月時点で確認)。
血液の中のマグネシウムの量は、主に腎臓の尿細管という部分で、尿に出ていく前にどれだけ取り戻すか(再吸収)によって調節されています。遺伝性の低マグネシウム血症の多くは、この再吸収のしくみに関わる遺伝子の変化で、マグネシウムが尿に失われてしまうことで起こります[1]。
マグネシウムが足りないと起こる症状(けいれん・不整脈・心電図の変化)
低マグネシウム血症の症状は、足がつる・疲れやすいといった軽いものから、けいれん、意識の障害まで幅があります。とくに低カリウム血症が一緒にあると、不整脈が起こりやすくなります[1]。手足の筋肉がこわばるテタニーも、マグネシウム不足で起こる症状のひとつです[1]。MedlinePlusは、よくある症状として、けいれん、疲れ、筋肉のつり・けいれん、筋力の低下、しびれ、目が揺れる(眼振)を挙げています。
心電図では、遺伝性の低マグネシウム血症の代表であるギッテルマン症候群の約50%で、QT間隔(心臓の電気の回復にかかる時間)の延長がみられるとされています[2]。健康診断の心電図や、けいれん・不整脈の検査をきっかけに、電解質の異常が見つかることもあります。
原因の多くは飲酒・下痢・薬。遺伝を考えるのはこんなとき
低マグネシウム血症の原因の多くは、遺伝ではありません。MedlinePlusは、よくある原因として、飲酒、長く続く下痢、栄養不良、腸の吸収の病気(セリアック病・炎症性腸疾患など)、膵炎、たくさんの汗、尿が多く出る状態、そして薬を挙げています。薬では、胃酸を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬)、利尿薬、抗がん剤のシスプラチン、EGFRを標的にする抗体薬、免疫を抑える薬(シクロスポリン・タクロリムス)、一部の抗菌薬などが並んでいます(2026年10月時点で確認)。こうした原因が思い当たるときは、まず主治医と原因の治療や薬の見直しを相談することが先です。
同じ一覧には「腎臓の尿細管の病気」も原因として入っており、そのなかに遺伝が原因のものがあります。次のようなときは、遺伝の原因を考える手がかりになります。
- ●思い当たる薬・飲酒・下痢がないのに、マグネシウムが低い状態をくり返す
- ●子どものころから電解質の異常を指摘されている
- ●低カリウム血症・低カルシウム血症・代謝性アルカローシス(血液がアルカリ性に傾く)も一緒にある
- ●腎石灰化(腎臓にカルシウムがたまる)や尿路結石がある
- ●ご両親・きょうだいにも同じような電解質の異常がある
低カリウム・低カルシウムも一緒に下がるのはなぜ
低マグネシウム血症に、低カリウム血症や低カルシウム血症が一緒に起こるのはめずらしくありません。理由は大きく2つあります。
1つは、原因の病気そのものが、マグネシウムとほかの電解質を一緒に失わせる場合です。たとえばギッテルマン症候群は、低カリウム血症と代謝性アルカローシスに、低マグネシウム血症と尿中のカルシウムが少ないこと(低カルシウム尿症)を伴うのが特徴です[2]。もう1つは、マグネシウム不足そのものの影響です。重い低マグネシウム血症では、副甲状腺の働きが抑えられることで、二次的に血液のカルシウムが下がると考えられています[1]。「カリウムやカルシウムを補ってもなかなか戻らない」ときに、マグネシウムの値と、その原因に目を向ける意味があります。
2. 遺伝性の低マグネシウム血症の主な病気(型と特徴)
遺伝性の低マグネシウム血症は、原因の遺伝子によって、高カルシウム尿症を伴う型、ギッテルマン症候群に似た型、ミトコンドリアに関わる型、そのほかの型の4つに分けて整理されています[1]。型によって、腎臓の働きの見通しや、腎臓以外で気をつけることが違います。
🧬 遺伝性の低マグネシウム血症の4つのグループ
※グループ分けは遺伝性低マグネシウム血症の総説[1]による。このパネルに入っていない遺伝子(BSND・EGFR・ミトコンドリアDNAなど)は表から除いた。
ギッテルマン症候群(SLC12A3)|大人になって見つかることも多い
ギッテルマン症候群は、遺伝性の低マグネシウム血症の原因として最も多い病気で、推定の有病率はおよそ4万人に1人とされています[1]。腎臓の遠位尿細管で塩分(ナトリウムとクロール)を取り戻す輸送体の遺伝子、SLC12A3遺伝子の変化が両方のコピーにあると起こる、常染色体潜性(劣性)遺伝の病気です[2]。
国際的な腎臓病の専門家会議(KDIGO)の報告では、ギッテルマン症候群は思春期から大人になってから見つかることが多いとされ、筋力の低下、疲れ、塩辛いものが欲しくなる、のどの渇き、夜間の尿、便秘、こむら返りなどの症状が挙げられています。年齢が上がると、関節にカルシウムの結晶がたまる軟骨石灰化症が起こることもあります[2]。症状が軽く、健康診断の血液検査で低カリウムを指摘されて気づく方もいます。
同じ報告は、臨床的にギッテルマン症候群が疑われる方の診断は遺伝子検査で確かめるもので、疑われるすべての方に遺伝子検査を勧めるべきだとしています[2]。ギッテルマン症候群の人の数の見積もりは、次の第6章とFAQでくわしくご説明します。
バーター症候群(このパネルで調べられるのは3型〔CLCNKB〕)
バーター症候群にはいくつかの型があり、このパネルで調べられるのは、CLCNKB遺伝子が原因の3型です。3型は常染色体潜性(劣性)遺伝で、生まれて最初の数年のうちに見つかることが多い一方、年齢が上がるとギッテルマン症候群に近い状態に移っていくことがあると報告されています[1]。CLCNKBの変化は、ギッテルマン症候群と同じような症状の原因になることもあります。
バーター症候群のほかの型(1型・2型・4型など)の遺伝子は、このパネルには入っていません。低カリウム・代謝性アルカローシスが中心で、バーター症候群の型を広く調べたい場合は、バーター症候群・ギッテルマン症候群の遺伝子検査(29遺伝子)が向いています。
高カルシウム尿症・腎石灰化を伴う型(CLDN16・CLDN19)
CLDN16・CLDN19遺伝子の変化による「高カルシウム尿症と腎石灰化を伴う家族性低マグネシウム血症(FHHNC)」は、腎臓の働きの見張りがとくに大切な型です。どちらも常染色体潜性(劣性)遺伝で、子どものころから腎石灰化がみられ、腎臓の働きがゆっくり落ちていき、多くは10代から20代で透析や腎移植(腎代替療法)が必要になるとされています[1]。
CLDN19の変化では、腎臓の症状に加えて目の異常を伴います[1][3]。腎臓内科だけでなく、眼科での確認も計画に入れることになります。
乳児期のけいれんで見つかる型(TRPM6)
TRPM6遺伝子の変化による「二次性低カルシウム血症を伴う低マグネシウム血症」は、生後数か月のうちにけいれんで見つかることが多い型です[1]。常染色体潜性(劣性)遺伝で、マグネシウム不足によって副甲状腺の働きが抑えられ、血液のカルシウムも下がります[1]。MedlinePlusは、治療しないままだと発達の遅れや知的障害につながることがあるとしています。原因がわかると、補充をきちんと続ける理由がはっきりします。
腎臓以外の症状を伴う型(HNF1B・KCNJ10・CNNM2・SARS2・FAM111A ほか)
低マグネシウム血症が、全身の病気の一部として現れることがあります。原因の遺伝子がわかると、腎臓以外に何を見張ればよいかが決まります。
- ●HNF1B:腎臓の形の異常(先天性腎尿路異常)や若いころに発症する糖尿病(MODY)を伴うことがあり、低マグネシウム血症は、この遺伝子の変化をもつお子さんの最大50%にみられると報告されています[1]。腎嚢胞糖尿病症候群(RCAD)として知られています。
- ●KCNJ10:てんかん・運動失調・感音難聴・尿細管の異常を伴うEAST症候群の原因で、潜性遺伝の病気です[1]。
- ●CNNM2:けいれんや知的障害を伴う低マグネシウム血症の原因で、顕性遺伝のことも、潜性遺伝のこともあります[1]。
- ●SARS2:高尿酸血症・肺高血圧・腎不全・アルカローシスを伴うHUPRA症候群の原因で、潜性遺伝の病気です[1]。
- ●FAM111A:低身長・骨の異常・副甲状腺の働きの低下を伴うケニー・キャフェイ症候群2型の原因で、顕性遺伝の病気です[1]。
- ●CASR:血液のカルシウムが低くなる常染色体顕性低カルシウム血症(バーター症候群5型と呼ばれることもある)の原因になります[1]。
- ●MAGT1:男性に起こるX連鎖の免疫不全症(XMEN症候群)の原因で、EBウイルスの感染が長引く、リンパ腫になりやすい、といった特徴があります。MedlinePlusでは、血液のマグネシウムの低下というより、免疫の細胞(T細胞)に入るマグネシウムが減ることで免疫が弱まる病気として説明されています。
3. どんな人がこの検査を受けるとよいか
補充してもマグネシウムが戻らない方、低カリウム・低カルシウムも一緒にある方、子どものころから電解質の異常が続く方、腎石灰化がある方、ご家族に同じ病気の方がいる方に向く検査です。見た目や数値の組み合わせだけでは、どの遺伝子が原因かを決められないことが多いので、いくつもの遺伝子を一度に調べる意味があります。
この検査をおすすめする方
- ●思い当たる原因がないのに、マグネシウムの低い状態が続く・くり返す方
- ●低カリウム血症や代謝性アルカローシスも指摘され、ギッテルマン症候群が疑われる方、または低カルシウム血症も一緒に指摘された方
- ●子どものころから電解質の異常や成長の遅れがある方、乳児期にけいれんがあった方
- ●腎石灰化・尿路結石・高カルシウム尿症がある方
- ●心電図でQT延長や不整脈を指摘され、電解質の異常も見つかった方
- ●ご家族に遺伝性の低マグネシウム血症やギッテルマン症候群の方がいて、ご自身や結婚・妊娠のことを考えたい方
原因がわからないまま、いくつもの病院で採血と補充をくり返している方にとって、1回の遺伝子検査が回り道を短くする手がかりになることがあります。ただし、全員に原因の遺伝子が見つかるわけではありません(第5章)。
ご家族に患者さんがいて、「自分もなるかもしれない」と不安な方(症状のない方の検査)
親やきょうだいが遺伝性の低マグネシウム血症とわかり、症状はないけれど「自分も同じ変化を持っているのでは」「子どもに伝わるのでは」という不安を抱えながら暮らしている方もいます。ご家族の原因の遺伝子の変化がわかっていれば、症状のない方も、その変化を受け継いでいるかを調べられます。
CASR・HNF1B・FXYD2・FAM111Aなどの顕性(優性)遺伝の型では、親から子へ伝わる確率はお子さん1人ごとに2分の1です[1]。受け継いでいないとわかれば、その病気について、ご家族と同じ確率を心配しなくてよくなります。受け継いでいるとわかった場合は、その型で見張ること(HNF1Bなら糖尿病や腎臓の形の確認など[1])を、症状が出る前から計画できます(第7章)。ギッテルマン症候群などの潜性(劣性)遺伝の型では、きょうだいが同じ組み合わせを持っているか、保因者かを確かめることになります(第6章)。
当院は、ライフステージごとに患者さんの人生をサポートするという考え方で診療しており、知りたいと願う方を拒むことはしません。遺伝カウンセリングで十分に考えたうえで、ご本人が知りたいと決めた場合は、その意思を尊重して検査まで行います。知らないでいる選択も、同じように尊重します。結果を知ったあとの気持ちの変化は、受け継いでいてもいなくても起こりえるため、結果をお伝えしたあとも遺伝カウンセリングで相談を続けていただけます。
この検査より別の検査が向いている場合
マグネシウムが主に低い場合は、まずこの検査です。一方、ほかの電解質の異常が中心のときは、次の検査のほうが向いていることがあります。比べているのは検査の種類で、どれが合うかは数値の組み合わせで変わります。
🔍 検査値に合わせた遺伝子検査の選び方
※どの検査が合うかは、検査値・症状・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで、これまでの検査結果を見ながら決めます。
4. 調べる23遺伝子と、それぞれでわかる病気
この検査では、遺伝性の低マグネシウム血症に関係する23遺伝子を、次世代シークエンサー(NGS)で一度に調べます。遺伝のしかたは、遺伝形式(顕性・潜性・X連鎖)ごとに、ご家族への影響が違います。「当院の保因者検査」の列は、当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子・男性版714遺伝子)の遺伝子一覧に入っているかを示します。
🧪 低マグネシウム血症の遺伝子検査で調べる23遺伝子
※病気と遺伝のしかたは総説[1]、MAGT1は米国国立医学図書館(MedlinePlus Genetics)の解説による。「当院の保因者検査」は、拡大版保因者スクリーニング女性版787遺伝子・男性版714遺伝子の一覧で確かめた(2026年10月19日)。「該当なし」は顕性遺伝の遺伝子で、保因者検査の考え方が当てはまらないもの。
対象の23遺伝子:CASR、CLCNKB、CLDN16、CLDN19、CNNM1、CNNM2、CNNM4、EGF、FAM111A、FXYD2、HNF1B、KCNA1、KCNJ10、MAGT1、MMGT1、NIPA2、PCBD1、SARS2、SLC12A3、SLC41A2、SLC41A3、TRPM6、TRPM7
5. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、23遺伝子の文字(塩基)の小さな変化と、遺伝子の一部または全体の欠失・重複です(どちらも検査料金に含まれます)。一方で、どの遺伝子検査にも限界があります。
- ●わかること:遺伝子のたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)と、そのつなぎ目のすぐ近くにある、一塩基の変化や小さな挿入・欠失です。
- ●欠失・重複:遺伝子1つ全体(頬の粘膜・血液の検体)や、2つ以上続くエクソン(血液の検体のみ)がなくなったり増えたりしている変化(CNV)を見つけられます。エクソン1つだけの欠失・重複は、見つからないことがあります。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
- ●わからないこと:染色体の一部の入れ替わり(転座・逆位)、同じ配列のくり返しが伸びる変化(リピート伸長)、遺伝子のスイッチの部分(プロモーター)やエクソンから20塩基より遠い深部イントロンの変化、体の一部の細胞だけにある変化(モザイク)は、この検査では調べられません。
- ●潜性遺伝の病気で、変化が1つしか見つからないこと:ギッテルマン症候群では、MLPA法まで使っても、患者さんの15〜20%では原因の変化が1つしか見つからないと報告されています[2]。この場合は、検査値や症状とあわせて判断します。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、まだ判断できない変化が見つかることがあります。
- ●陰性でも否定はできません:調べていない遺伝子やまだ見つかっていない原因があり、また低マグネシウム血症の多くは遺伝以外の原因によります。原因の変化が見つからなくても、遺伝性の低マグネシウム血症を完全に否定することはできません。
6. 低マグネシウム血症は遺伝する?遺伝する確率と家族への影響
遺伝性の低マグネシウム血症が子どもやきょうだいに遺伝する確率は、原因の遺伝子の遺伝のしかたで決まります。同じ「低マグネシウム血症」でも、潜性遺伝の型と顕性遺伝の型では、ご家族に伝わる確率がまったく違います。だからこそ、原因の遺伝子を知る意味があります。
潜性遺伝(劣性遺伝)の型:ギッテルマン症候群など
ギッテルマン症候群、バーター症候群3型、FHHNC(CLDN16・CLDN19)、TRPM6の型などは、常染色体潜性(劣性)遺伝です。2本ある遺伝子の両方に変化があると発症し、多くは両親それぞれが変化を1つずつもつ保因者で、保因者には症状がないのがふつうです。両方の変化が同じでなく、別々の変化を1つずつもつ状態を複合ヘテロ接合といいます。
ご両親がともに保因者の場合、お子さん1人ごとに、発症する確率が4分の1、保因者になる確率が2分の1、どちらの変化も受け継がない確率が4分の1です。患者さんのきょうだいも、同じ確率で影響を受けている可能性があります。一方、患者さんご本人のお子さんは、パートナーが同じ遺伝子の保因者でなければ、発症するのではなく保因者になります。つまり、お子さんへの確率はパートナーが保因者かどうかで大きく変わります。
💡 日本人では、SLC12A3の変化をもつ人が少なくないと報告されています
大阪府吹田市の住民1,852人を調べた日本の研究では、ギッテルマン症候群の原因となるSLC12A3の変化の頻度は0.0321で、計算上は日本人15.6人に1人が変化を1つもつ保因者、1万人あたり10.3人がギッテルマン症候群の遺伝子の組み合わせをもつと推定されました[4]。KDIGOの報告も、アジアではギッテルマン症候群の頻度がもっと高い可能性を指摘しています[2]。ただし、これは遺伝子の変化から計算した値で、実際に診断されている人の数とは別です。
顕性遺伝(優性遺伝)・X連鎖の型
CASR、FXYD2、HNF1B、FAM111A、KCNA1、多くのCNNM2の型は、常染色体顕性(優性)遺伝です[1]。2本ある遺伝子のうち1本に変化があると発症しうるため、親から子へ伝わる確率は、お子さん1人ごとに2分の1です。ご家族に同じ病気の方がいなくても、ご本人の代で新しく起きた変化(新生突然変異〔de novo〕)のこともあります。
MAGT1はX染色体にある遺伝子で、XMEN症候群は男性に起こる病気です。X連鎖遺伝では、お子さんへの確率はお子さんの性別と、どちらの親が変化をもつかで変わります。
妊娠の前にできること:パートナーの保因者検査
ご本人やご家族が潜性遺伝の型とわかったら、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかを調べることで、お子さんへの確率がはっきりします。当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)と男性版714遺伝子には、このパネルの遺伝子のうち、SLC12A3・CLCNKB・TRPM6・SARS2・PCBD1・CASRの6つが入っています(2026年10月19日に遺伝子一覧で確認)。CLDN16・CLDN19・EGF・KCNJ10・MAGT1は入っていないため、これらはこのパネルの検査でご家族の変化を確かめることになります。保因者検査のしくみは保因者スクリーニング検査とはで解説しています。
すでに妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査ファミリーセーフティ プラス(女性787遺伝子・男性714遺伝子、単独では受けられません)もあります。くわしい遺伝子の一覧は、遺伝カウンセリングでご提示しています。
7. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。原因がわかった場合・わからなかった場合・意義がまだわからない変化が見つかった場合で、次にできることが違います。
病的変異が見つかったら、次にできること
原因の病的バリアントがわかると、病名が決まり、何を、いつ見張ればよいかが具体的になります。遺伝性の低マグネシウム血症で今ある治療は、飲み薬か点滴でのマグネシウムの補充で[1]、原因の遺伝子がわかっても、治療そのものは補充が中心です。それでも、型がわかることで、見張る臓器と続け方の理由がはっきりします。
🧭 原因がわかったあとに、立場ごとにできること
※KDIGOの報告では、これまでに報告されたギッテルマン症候群の妊娠で、お母さんと赤ちゃんの経過はよいとされています[2]。妊娠中の電解質の管理は、主治医と相談します。
陰性・VUSのとき
原因の変化が見つからなかった場合は、遺伝以外の原因(薬・腸の病気など)や、この検査で調べていない原因を考えます。症状が広い場合は、全エクソーム検査(WES)も選択肢です。意義がまだわからない変化(VUS)は、それだけで診断したり、ご家族の発症を予測したりする根拠にはしません。ただし、その変化の意味を調べるために、ご本人の同意のもとでご家族の検査を行うことがあります。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。調べた目的と別の病気の原因が見つかったときの扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。
8. 日本の制度(指定難病・小児慢性特定疾病)
ギッテルマン症候群は、小児慢性特定疾病(慢性腎疾患)の対象疾病として、小児慢性特定疾病情報センターに掲載されています(2026年10月19日時点で確認)。一方、難病情報センターの指定難病の五十音索引では、ギッテルマン症候群・バーター症候群の名前は見当たりませんでした(同日に確認)。
医療費の助成を受けるには、制度ごとの認定の条件を満たし、申請する必要があります。認定の基準や申請の方法は、小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。原因の遺伝子がわかっていることは、診断を確かにする材料の一つになります。
9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、オンライン診療(ビデオ通話での遺伝カウンセリング)でも受けられます。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取お支払い後にキット送付
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体を採るキットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えや品質の低下を防ぐため、ご自身で先に検体を採らないでください。なお、この検査は体の一部の細胞だけにある変化(モザイク)を見つけることは目的としておらず、腫瘍の組織での検査には使えません。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。遺伝カウンセリングについては遺伝カウンセリングとはもご覧ください。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【「数値を補うだけ」から「原因を知って計画する」へ】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
低マグネシウム血症は、マグネシウムを補えば数値はある程度保てるため、原因を調べないまま何年も過ぎてしまうことがあります。けれども、同じ低マグネシウム血症でも、潜性遺伝のギッテルマン症候群と、顕性遺伝の型、腎臓の働きの見張りが欠かせない型とでは、ご自身が気をつけることも、きょうだいやお子さんにとっての意味も大きく違います。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。たとえば、家族歴が濃いものの、ご本人は大学を卒業して会社に勤めていた方が念のため検査を受けたところ、染色体の微小欠失が見つかったことがあります。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、パートナーの保因者検査から出生前診断まで、当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 低マグネシウム血症になるとどうなりますか?
足がつる・疲れやすいといった軽い症状から、手足がこわばるテタニー、けいれん、意識の障害まで、幅があります。低カリウム血症が一緒にあると、不整脈が起こりやすくなります。遺伝性のギッテルマン症候群では、約50%で心電図のQT延長がみられるとされています。
Q2. 低マグネシウム血症の原因は?遺伝が原因のこともありますか?
多くは、飲酒、長く続く下痢、腸の吸収の病気、栄養不良、胃酸を抑える薬や利尿薬などの薬が原因です。一方で、腎臓の尿細管でマグネシウムを取り戻すしくみの遺伝子の変化が原因のこともあります。思い当たる原因がないのにくり返す、子どものころから続く、低カリウムも一緒、家族にもいる、という場合は、遺伝の原因を考える手がかりになります。
Q3. バーター症候群とギッテルマン症候群の違いは何ですか?
どちらも腎臓の尿細管の遺伝性の病気で、低カリウムや代謝性アルカローシスを起こします。ギッテルマン症候群はSLC12A3遺伝子が原因で、思春期から大人になってから見つかることが多く、低マグネシウム血症と尿中のカルシウムが少ないことを伴います。バーター症候群はいくつかの型があり、このパネルで調べられるのはCLCNKB遺伝子による3型です。3型は生まれて最初の数年で見つかることが多く、年齢とともにギッテルマン症候群に近い状態に移ることがあります。
Q4. ギッテルマン症候群は何人に1人ですか?
総説では、推定の有病率はおよそ4万人に1人とされ、遺伝性の低マグネシウム血症の原因として最も多い病気です。大阪府吹田市の住民1,852人を調べた日本の研究では、計算上、日本人15.6人に1人がSLC12A3の変化を1つもつ保因者と推定されました。ただし、これは遺伝子の変化から計算した値で、実際に診断されている人の数とは別です。
Q5. ギッテルマン症候群の治療法は?
国際的な腎臓病の専門家会議(KDIGO)の報告では、塩分を控えすぎない食事と、一人ひとりに合わせた生涯にわたるマグネシウム・カリウムの飲み薬での補充が治療の中心とされています。治療は腎臓内科など専門の医療機関で続けます。
Q6. 低マグネシウム血症は子どもに遺伝しますか?遺伝する確率は?
原因の遺伝子の遺伝のしかたで変わります。ギッテルマン症候群などの潜性遺伝の型では、ご両親がともに保因者なら、お子さん1人ごとに発症する確率は4分の1です。患者さんご本人のお子さんは、パートナーが同じ遺伝子の保因者でなければ、発症するのではなく保因者になります。顕性遺伝の型では、お子さん1人ごとに2分の1の確率で受け継ぎます。
Q7. 家族にギッテルマン症候群の人がいます。結婚や妊娠の前にできることはありますか?
あります。ご自身が保因者かどうか、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかを調べると、お子さんへの確率がはっきりします。当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子・男性版714遺伝子)には、ギッテルマン症候群の原因のSLC12A3が入っています。KDIGOの報告では、これまでに報告されたギッテルマン症候群の妊娠で、お母さんと赤ちゃんの経過はよいとされています。知ったうえで、どうするかを一緒に考えられます。
Q8. 遺伝子検査で異常が見つからなかったらどうなりますか?
遺伝性の低マグネシウム血症を完全に否定することはできません。調べていない遺伝子やまだ見つかっていない原因があり、ギッテルマン症候群でも、患者さんの15〜20%では原因の変化が1つしか見つからないと報告されています。遺伝以外の原因を見直すことや、症状が広い場合は全エクソーム検査も選択肢になります。
🧬 一度の検査で、ご自身とご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。低マグネシウム血症の原因の遺伝子がわかれば、ご自身の見張りの計画だけでなく、きょうだいの検査や、パートナーの保因者検査、妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
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参考文献
- [1] Viering D, de Baaij JHF, Walsh SB, Kleta R, Bockenhauer D. Genetic causes of hypomagnesemia, a clinical overview. Pediatr Nephrol. 2017;32(7):1123-1135. [DOI: 10.1007/s00467-016-3416-3](PMID: 27234911)
- [2] Blanchard A, Bockenhauer D, Bolignano D, et al. Gitelman syndrome: consensus and guidance from a Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Controversies Conference. Kidney Int. 2017;91(1):24-33. [DOI: 10.1016/j.kint.2016.09.046]
- [3] Konrad M, Schaller A, Seelow D, et al. Mutations in the tight-junction gene claudin 19 (CLDN19) are associated with renal magnesium wasting, renal failure, and severe ocular involvement. Am J Hum Genet. 2006;79(5):949-957. [DOI: 10.1086/508617](PMID: 17033971)
- [4] Tago N, Kokubo Y, Inamoto N, Naraba H, Tomoike H, Iwai N. A high prevalence of Gitelman’s syndrome mutations in Japanese. Hypertens Res. 2004;27(5):327-331. [DOI: 10.1291/hypres.27.327]
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