この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

周期性四肢麻痺は、手足に急に力が入らなくなる発作をくり返し、発作のあいだは筋力がもとに戻ることが多い病気です。発作のときの血液のカリウムの値によって、低カリウム性・高カリウム性などに分けられます。遺伝子が原因のものと、甲状腺の病気などほかの原因で起こるものがあり、遺伝子が原因の場合は、どの遺伝子の変化かによって、発作の引き金、効きやすい薬、全身麻酔で気をつけることまで変わります。このページでは、周期性四肢麻痺の原因となる8つの遺伝子を一度に調べる遺伝子検査でわかること、遺伝する確率、甲状腺が原因の型との見分け方を、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
低カリウム性・高カリウム性の周期性四肢麻痺と、アンデルセン・タウィル症候群の原因になる遺伝子を含む8遺伝子(ATP1A2・CA2・CACNA1S・CLCN1・KCNJ2・RYR1・SCN4A・SLC12A3)を一度に調べ、発作の原因となる遺伝子の変化があるかを確かめます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
手足の力が抜ける発作をくり返す方、発作のときにカリウムの異常を言われた方、ご家族に同じ発作の方がいる方です。甲状腺の病気など、ほかの原因が否定されていることが前提になります。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜のいずれかで、どの検体でもオンライン診療で受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因が見つかれば、お子さんに受け継がれる確率は多くの型で2分の1です。ご家族の検査や、意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 周期性四肢麻痺とは|手足に急に力が入らなくなる発作をくり返す病気
周期性四肢麻痺とは、手足の筋肉に力が入らなくなる発作(弛緩性麻痺)をくり返す病気です。遺伝性のものは、筋肉の細胞膜にあるイオンの出入り口(イオンチャネル)を作る遺伝子の変化で起こり、多くは10代までに最初の発作が出ます[3]。「周期性」という名前ですが、発作が決まった間隔で起こるわけではありません[1]。
日本では、遺伝性のものが「遺伝性周期性四肢麻痺」として指定難病(115)になっています。難病情報センターによると、国内の正確な患者数はわかっておらず、欧米の報告では10万人あたり1.5人以下とされています(2026年10月時点で確認)。
症状:朝起きたら手足が動かない、数時間〜1日ほどで戻る
典型的なのは、前の日に激しい運動をしたり、炭水化物の多い夕食をとったりしたあと、朝起きると手足に力が入らない、という発作です。難病情報センターは、低カリウム型の発作は早朝や夜間に起きやすく、数時間から数日続くことがあるとしています。発作のあいだも、呼吸や飲み込みは一般に問題ないとされています。
遺伝性疾患の解説書GeneReviewsによると、低カリウム性周期性四肢麻痺の発作は1〜72時間(平均およそ24時間)続き、最初の発作は2〜30歳(平均14歳)に起こり、30歳を過ぎてからの発症は考えにくいとされています[1]。高カリウム性周期性四肢麻痺の発作はもっと短く、ふつうは15分から1時間で、最初の発作はたいてい10歳までに起こります[2]。
原因は筋肉の「イオンの出入り口(チャネル)」の不具合
筋肉が縮むときは、細胞膜にあるナトリウム・カルシウム・カリウムなどの出入り口が順番に開いたり閉じたりして、電気の信号を伝えます。遺伝性の周期性四肢麻痺は、この出入り口を作る遺伝子(ナトリウムチャネルのSCN4A、カルシウムチャネルのCACNA1S、カリウムチャネルのKCNJ2など)の変化で起こります[3]。イオンチャネルの不具合で起こる病気をまとめてチャネロパチー(イオンチャネル病)と呼びます。
💡 用語解説:発作のときのカリウムの値
周期性四肢麻痺は、発作のときの血液のカリウムの値で型を分けます。国際的な診断の目安では、低カリウム性は発作のときのカリウムが3.5 mEq/L未満、高カリウム性は4.5 mEq/Lより高いことを、2回以上の発作で確かめることが求められています[3]。発作がおさまるとカリウムはもとに戻ることが多いので、発作のときに採血できたかどうかが診断の大きな手がかりになります。
低カリウム性・高カリウム性・アンデルセン・タウィル症候群の違い
遺伝性の周期性四肢麻痺は、大きく3つの型に分けられます。型によって発作の長さや引き金、主な原因遺伝子が違います。
⚡ 周期性四肢麻痺の3つの型
※低カリウム性は文献[1]、高カリウム性は文献[2]、アンデルセン・タウィル症候群とカリウムの診断の目安・発症年代は文献[3]による。原因遺伝子の割合は欧米の患者さんを中心にした報告で、日本ではもっと低いことがわかっています(第7章)。
アンデルセン・タウィル症候群(アンダーセン・タウィル症候群とも書かれます)は、①周期性四肢麻痺、②心電図の異常や不整脈、③顔つき・歯・骨格の特徴、の3つが主な特徴です。これらのうち2つ以上が認められる場合などに臨床的に疑い、家族歴や遺伝子検査の結果もあわせて診断します[3]。病気そのものの詳しい解説はアンデルセン・タウィル症候群のページにまとめています。
2. 遺伝性か、甲状腺など別の原因か|まず見分けること
低カリウムで手足が動かなくなる発作は、遺伝子の病気だけでなく、甲状腺の病気(甲状腺機能亢進症)でも起こります。遺伝子検査の前に、まず甲状腺の検査でこれを見分けることが大切です。GeneReviewsは、低カリウムで力が入らなくなったすべての方に、甲状腺の機能(TSH・FT4・FT3)を調べるよう勧めています[1]。
甲状腺中毒性周期性四肢麻痺(バセドウ病など)
甲状腺ホルモンが多すぎる状態(甲状腺中毒症)に伴って起こる周期性四肢麻痺を、甲状腺中毒性周期性四肢麻痺といいます。総説では、アジアの男性に多い甲状腺機能亢進症の合併症とされ、体の中のカリウムが減るのではなく、カリウムが急に細胞の中へ移動することで血液のカリウムが下がり、力が入らなくなると説明されています。甲状腺機能亢進症をしっかり治療すると、麻痺はおさまるとされています[5]。原因の多くはバセドウ病(グレーブス病)などの甲状腺の病気です。
甲状腺中毒性周期性四肢麻痺は、遺伝子1つの変化で決まる遺伝性周期性四肢麻痺とは別のものとして扱われます。同じ総説は、カルシウムチャネルの遺伝子の個人差(多型)がなりやすさに関わるという報告にも触れていますが[5]、甲状腺の病気が原因とわかった方に、この遺伝子検査がすぐに必要になるわけではありません。
二次性周期性四肢麻痺(甲状腺以外の原因)
甲状腺のほかにも、薬、下痢や嘔吐、腎臓の病気など、カリウムが失われたり増えたりする病気で、似た発作が起こることがあります。国際的な診断の目安では、遺伝性と診断する前に、こうしたほかのカリウム異常の原因を除外することが条件になっています[3]。たとえば、腎臓でカリウムが失われ続けるギッテルマン症候群(SLC12A3の変化による)は、低カリウム血症に代謝性アルカローシス・低マグネシウム血症・尿中カルシウムの低下を伴うのが特徴とされています[8]。
遺伝子検査の前に受けておきたい検査(診断基準の考え方)
周期性四肢麻痺の診断は、症状と発作のときのカリウムの値をもとにし、遺伝子検査で確かめるのが基本です[3]。遺伝子検査を受ける前に、主治医のもとで次の検査を済ませておくと、結果を読み解きやすくなります。
- ●発作のときの血液のカリウム:低いか高いかで型を見分けます。
- ●甲状腺の機能(TSH・FT4・FT3):甲状腺中毒性周期性四肢麻痺を見分けます[1]。
- ●心電図:アンデルセン・タウィル症候群のQT・QU延長やU波、不整脈がないかを確かめます[3]。
- ●長時間運動負荷試験(筋電図の検査):運動のあとに筋肉の電気の反応が40%以上下がれば異常とされ、周期性四肢麻痺の方の70%を超える方でみられると報告されています[3]。遺伝子の変化が見つからないときの診断の支えにもなります。
3. 周期性四肢麻痺は遺伝する?遺伝する確率と家族への影響
遺伝性の周期性四肢麻痺の多くは常染色体顕性(優性)遺伝で、親が原因の変化をもっていれば、お子さんが受け継ぐ確率は1人ごとに2分の1です[1][2]。難病情報センターも、ほとんどの型は顕性遺伝で、まれに突然変異で起こる場合もあるとしています(2026年10月時点で確認)。
常染色体顕性遺伝:お子さんへの確率は2分の1
常染色体顕性(優性)遺伝では、対になった2本の染色体のうち1本に原因があれば発症しうるため、親から子へ伝わる確率は、お子さん1人ごとに2分の1です。性別には関係しません。上のお子さんが受け継いだかどうかで、下のお子さんの確率が変わることもありません。
ご家族に同じ発作の方がいなくても、ご本人の代で新しく起きた変化(新生突然変異(de novo))で発症することがあります。ただし、低カリウム性周期性四肢麻痺のうちどれくらいが新しく起きた変化によるものかは、わかっていません[1]。
同じ変化でも、男女や人によって症状の出方が違う
低カリウム性周期性四肢麻痺では、原因の変化をもつ男性の90%以上が発症する一方、女性では発症しない方が多くなるとされています[1]。原因をもっていても発症しない人がいることを「不完全浸透」といいます。ただし、アルギニンがグリシンに置き換わるタイプの変化では、男女とも高い割合で発症すると報告されています[1]。高カリウム性周期性四肢麻痺は、原因の変化をもつ方の90%を超える高い割合で発症します[2]。
⚠️ 「お母さんは発作がないから大丈夫」とは言えません
低カリウム性周期性四肢麻痺では、女性は原因の変化をもっていても発作が出ないことがあります[1]。症状がないご家族が変化をもっていないとは限らず、そのご家族から、お子さんに2分の1の確率で受け継がれます。発作の有無だけで判断せず、知ったうえで計画することに意味があります。
家族に同じ発作の人がいて「自分も・子どもも」と不安な方へ
親やきょうだいに周期性四肢麻痺の方がいて、「朝起きて力が入りにくいのは発作の始まりでは」「自分の子どもにも出るのでは」と不安を抱えながら暮らしている方もいます。結婚や妊娠を前に、ご自身が受け継いでいるかどうかを考える方もいます。
ご家族の原因の変化がわかっていれば、ご自身がその変化を受け継いでいるかを、ピンポイントで調べられます。受け継いでいないとわかれば、その変化については、お子さんに受け渡す心配はなくなります。受け継いでいるとわかった場合も、発作の引き金を避ける、型に合った薬を主治医と選ぶ、全身麻酔の前に伝える、といった具体的な備えができます(第6章・第8章)。
知らないでいることも、同じように選べる選択肢です。検査を受けるかどうか、受けるならいつ受けるかは、検査の前の遺伝カウンセリングで、臨床遺伝専門医と時間をかけて考えていただけます。
4. この検査を受けるとよい人・別の検査が向く人
手足の力が抜ける発作をくり返し、甲状腺の病気などほかの原因が否定されている方、ご家族に同じ発作の方がいる方に向く検査です。原因がわからないまま発作をくり返している時間を、1回の検査で区切れる可能性があります。
この検査を受けるとよい人
- ●手足の力が抜ける発作をくり返し、発作のあいだは筋力が戻る方
- ●発作のときに、血液のカリウムが低い・高いと言われた方
- ●甲状腺の検査が正常で、ほかのカリウム異常の原因も見つからなかった方
- ●発作に加えて、心電図の異常(QT・QU延長、U波、不整脈)を指摘された方
- ●ご家族に周期性四肢麻痺の方がいて、ご自身が受け継いでいるか知りたい方
- ●全身麻酔の手術を控えていて、悪性高熱症などの注意が必要か知りたい方(第6章)
あなたの1回の検査で原因がわかれば、ご両親・きょうだい・お子さんが、同じ変化をもっているかをピンポイントで調べる手がかりにもなります。
この検査より別の検査が向いている場合
症状の中心が「発作」でない場合は、別の検査のほうが向いていることがあります。比べる相手は検査の種類です。迷うときは、遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
🔍 症状に合わせた検査の選び方
※遺伝子数は、それぞれの検査ページに書いてある数です(2026年10月時点)。どの検査が合うかは、症状・検査の結果・ご家族の情報で変わります。
5. 周期性四肢麻痺の遺伝子検査で調べる8遺伝子と、それぞれでわかる病気
この検査では、周期性四肢麻痺の主な原因であるCACNA1S・SCN4A・KCNJ2に加え、見分けが必要な病気に関わる5つの遺伝子を含めた8遺伝子を一度に調べます。1つずつ順番に調べる場合とちがい、1回の検体で8遺伝子の結果がそろいます。
ATP1A2・CLCN1・RYR1・SLC12A3・CA2は、周期性四肢麻痺の主な原因遺伝子ではありませんが、片麻痺を伴う片頭痛、筋肉のこわばり、低カリウム血症を起こす腎臓の病気、全身麻酔での悪性高熱症など、発作の見分けや、その後の備えに関わる遺伝子です。
6. 遺伝子の型で変わること|発作の引き金・薬・麻酔・心電図
周期性四肢麻痺は、原因の遺伝子と型によって、避けたい発作の引き金、効きやすい予防薬、全身麻酔で気をつけることが変わります。病名がつくだけでなく「次の一手」が決まることが、この検査を受けるいちばんの意味です。治療は脳神経内科などの主治医のもとで行います(当院は治療を行っていません)。
低カリウム性:炭水化物・塩分・運動後の休息に注意
GeneReviewsが紹介する患者さんの研究では、低カリウム性周期性四肢麻痺の発作の引き金として、激しい運動をやめたあと(約67%)、炭水化物の多い夕食(約45%)、寒さ(約24%)、ストレス・興奮・恐怖(約12%)、塩分のとりすぎ(約11%)が挙げられています。長時間じっとしていること、ステロイド薬、一部の麻酔薬、お酒も引き金になります[1]。発作のときはカリウムを補う治療が行われ、糖分や塩分の多い飲み物は避けるとされています[1]。
⚠️ 同じ予防薬でも、遺伝子によって効き方が違います
予防によく使われるアセタゾラミド(炭酸脱水酵素阻害薬)は、遺伝子の型がわかっている74人の研究で、CACNA1Sの方では56%(55人中31人)に効いたのに対し、SCN4Aの方では16%(19人中3人)にとどまりました。SCN4Aの一部の変化では、かえって発作が悪くなった方もいました[3]。どの遺伝子の変化かを知っておくことは、主治医が薬を選ぶ大事な手がかりになります。
同じ働きの薬のジクロルフェナミドは、米国で承認されており、ランダム化比較試験で発作の回数と重さを減らしたと報告されています[1][3]。難病情報センターは、日本では根本的に治す治療はなく、保険適用外の薬で予防の効果がある場合もある一方、合わずに悪くなる例もあるとしています(2026年10月時点で確認)。
また、低カリウム性周期性四肢麻痺では、発作のないときにも筋力の低下が続く方がいます。ある研究では28%(平均39歳)にみられたとされ、リハビリが役立つことがあるとされています[1]。
高カリウム性:寒さ・空腹・カリウムの多い食べ物に注意
高カリウム性周期性四肢麻痺では、カリウムの多い食べ物がいちばんの引き金とされ、寒さ、運動後の休息、ストレスや疲れ、お酒、空腹も発作を起こしやすくします[2]。予防には、炭水化物を含む食事をこまめにとり、カリウムの多い食べ物や薬、絶食、激しい作業、寒さを避けることが勧められています。発作の始まりには、ブドウ糖などの炭水化物をとって軽く体を動かす、吸入のβ刺激薬を使うといった方法があるとされています[2]。
高カリウム性では、40歳を過ぎた方の80%を超える方で、発作のないときにも筋力の低下が続くとされ、約3分の1はゆっくり進む筋肉の病気(ミオパチー)になるとされています[2]。早めに型を知っておくことは、長い目で見た体の管理にもつながります。
アンデルセン・タウィル症候群:心電図の見張りと避けたい薬
KCNJ2の変化によるアンデルセン・タウィル症候群では、手足の麻痺だけでなく、心臓の不整脈に注意が必要です。総説では、症状のないKCNJ2の変化をもつ方にも、毎年の12誘導心電図と24時間ホルター心電図が勧められています。QT時間を延ばす薬、吸入のサルブタモール、サイアザイド系の利尿薬は避けるべきとされています[3]。
このため、KCNJ2の変化がわかったときは、循環器内科と脳神経内科の両方で経過をみてもらうことが大切です。新しい薬を処方されるときも、病名を伝えておくと安心です。
全身麻酔の前に知っておきたいこと(悪性高熱症)
悪性高熱症は、一部の吸入麻酔薬や筋弛緩薬(スキサメトニウム)をきっかけに、体温が急に上がり筋肉が硬くなる、命にかかわる麻酔の合併症です。悪性高熱症になりやすい体質の60〜70%はRYR1の変化、約1%はCACNA1Sの変化によるとされ、常染色体顕性遺伝で、お子さんに伝わる確率は2分の1です[6]。
GeneReviewsは、低カリウム性周期性四肢麻痺の方は悪性高熱症になりやすい可能性があるものとして、悪性高熱症を起こしにくい麻酔の方法で管理すること、麻酔中もカリウム・体温を保つことを勧めています。一方で同じ解説書には、吸入麻酔薬やスキサメトニウムを使っても問題がなかった患者さんの報告もあるとされています[1]。悪性高熱症のなりやすさとの関係は原因の遺伝子や変化によって違い、なりやすさの原因として確かめられているのは主にRYR1とCACNA1Sです[6]。高カリウム性でも、スキサメトニウムやカリウム、体温の低下を避けることが勧められています[2]。難病情報センターも、手術の前に診断を受け、麻酔科と連携して対策することが大切だとしています(2026年10月時点で確認)。手術の予定がある方は、検査の結果を麻酔科の医師に伝えてください。
7. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、8遺伝子の小さな変化(1つの塩基の置き換わりや、小さな欠失・挿入)です。一方で、日本の周期性四肢麻痺の方では、原因の遺伝子が見つからない方のほうが多いことがわかっています。遺伝子検査には必ず限界があります。
原因の遺伝子が見つかる割合と、陰性でも否定できない理由
日本全国の周期性四肢麻痺が疑われた119人(甲状腺機能亢進症や腎臓の病気の方は除く)を、CACNA1S・SCN4A・KCNJ2で調べた研究では、病気の原因か、原因の可能性がある変化が見つかったのは28.6%(119人中34人)でした。低カリウム性で26.2%、高カリウム性で32.7%で、欧米のいくつかの国の低カリウム性での報告(64.3〜89.2%)より低い結果でした[4]。難病情報センターも、原因の遺伝子が特定できない例は欧米より国内で多い傾向があるとしています。
- ●調べていない遺伝子・場所:この8遺伝子以外の原因や、遺伝子の働きを調節する領域、遺伝子の奥深く(エクソンから離れたイントロン)の変化は調べていません。
- ●見つけにくい変化:染色体の一部が入れ替わる変化(転座・逆位)、同じ配列がくり返し長くなる変化(リピート伸長)、体の一部の細胞にだけある変化(モザイク)は、この検査では見つけられないか、見つけにくい変化です。1つのエクソンだけの欠失・重複も、ふだんは検出の対象外です。
- ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、発作のときのカリウムの値や長時間運動負荷試験などから、周期性四肢麻痺と診断されることがあります[3]。結果は必ず症状・ほかの検査とあわせて判断します。
意義がまだわからない変化(VUS)
遺伝子に、病気の原因かどうかまだ判断できない変化(VUS)が見つかることがあります。VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。VUSを結果に載せない「VUS除外」のオプション(無料)も選べます。調べた目的と別の病気の原因が見つかったときの扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。
8. 病的変異が見つかったら、次にできること
原因の遺伝子の変化が見つかると、病名がはっきりするだけでなく、ご本人・ご家族・これから生まれるお子さんのそれぞれで、具体的にできることが決まります。結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。
ご本人:発作を減らす・麻酔に備える・心臓を見張る
- ●発作の引き金を避ける:低カリウム性なら炭水化物・塩分・運動後の休息、高カリウム性ならカリウムの多い食べ物・空腹・寒さ、と型に合わせて生活を工夫できます(第6章)。
- ●予防薬を選ぶ手がかりにする:遺伝子によって効き方が違う薬があるため、結果を主治医(脳神経内科)に伝えて、薬を選ぶ材料にしてもらえます。
- ●全身麻酔の前に伝える:手術や出産で麻酔を受けるときは、麻酔科の医師に結果を伝えておきます。
- ●心電図で見張る:KCNJ2の変化なら、症状がなくても毎年の心電図と24時間ホルター心電図で経過をみることが勧められています[3]。
- ●制度を使う:遺伝性周期性四肢麻痺は指定難病115です。医療費助成を申請するときの診断の手がかりになります(第9章)。
症状のないご家族・保因者の方:ピンポイントで調べられる
ご家族の中で原因の変化がわかっていれば、ご両親・きょうだい・お子さんは、同じ変化だけをピンポイントで調べて、受け継いでいるかを確かめられます。症状のない方の検査は、ご本人の同意のもとで行い、検査の前に遺伝カウンセリングで、知ることの意味をよく考えていただきます。低カリウム性では、とくに女性は変化をもっていても発作が出ないことがあるので[1]、症状のないご家族ほど、知っておく意味があります。
CLCN1(ベッカー病)やSLC12A3(ギッテルマン症候群)のように、両親から1つずつ受け継いで発症する潜性遺伝の病気で、変化を1つだけもつ保因者とわかった場合は、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかが、お子さんへの影響を考える手がかりになります。SLC12A3とCLCN1は、当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)の対象に入っています。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」もあります(単独では受けられません)。
お子さんを持つとき:知ってから選べること
ご家族の原因の変化がわかっていれば、妊娠したときに、赤ちゃんが同じ変化をもっているかを調べられます。GeneReviewsは、ご家族の変化がわかっていれば出生前の検査が可能としています[1]。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。この病気で出生前診断を行うかどうかは、病気の重さやご家族の考えを踏まえて個別に考えることになるため、妊娠を考えている段階からご相談ください。
また、この検査の8遺伝子のうちATP1A2とKCNJ2は、当院のNIPTのインペリアルプランの対象遺伝子に入っています(ダイヤモンドプランには入っていません。ほかの6遺伝子はNIPTでは調べられません)。当院のNIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。NIPTで陽性だった場合は、確定検査(羊水検査・絨毛検査)を院内で受けられます。
どの検査も受けずに出産することも、同じように尊重される選択です。どれを選ぶかを押しつけることはありません。
当院でのその後
結果をお伝えしたあとも、臨床遺伝専門医が、ご家族への伝え方や、ご家族の検査、妊娠の計画について、遺伝カウンセリングで相談を続けられます(遺伝カウンセリング料は第10章のとおり)。結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の読み方はNIPT/遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
9. 指定難病と医療費助成(2026年10月時点)
遺伝性周期性四肢麻痺は、指定難病115です。難病情報センターのページ(2026年10月時点で確認、情報更新:令和7年11月)では、この病気に含まれる病名として、低カリウム性周期性四肢麻痺、高カリウム性周期性四肢麻痺、アンデルセン・タウィル症候群が挙げられています。ただし、病名が当てはまっても医療費助成の対象にならないことがあるため、主治医に相談するよう書かれています。
医療費の助成を受けるには、認定の基準を満たし、申請する必要があります。認定の基準や申請の方法、障害者手帳などの福祉の制度については、難病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。甲状腺中毒性周期性四肢麻痺は、遺伝性周期性四肢麻痺とは別に扱われます。
10. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円で、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜から選べ、どの検体でもオンライン診療で受けられます(血液は全国の提携医療機関で採血)。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取血液・唾液・粘膜
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
オンライン診療(ビデオ通話での診療)では、遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただきます。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは検査料金をお支払いいただいた後にお送りします。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える品質を保つため、ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
11. 院長コラム
🩺 院長コラム【病名がつくと、発作とのつきあい方が決まる】
周期性四肢麻痺は、発作がおさまると元どおりに動けることが多いため、「疲れのせい」「気のせい」と言われたまま時間が過ぎてしまうことがある病気だと考えています。けれども、この病気は原因の遺伝子によって、避けたい食べ物や生活の場面、効きやすい薬、全身麻酔の注意、心臓の見張り方まで変わります。わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。低カリウム性周期性四肢麻痺のように、同じ変化をもっていても発作が出ない方がいる病気では、「家族に症状のある人はいないから」という印象だけで将来を決めてしまわないでほしいと考えています。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 周期性四肢麻痺は遺伝しますか?遺伝する確率は?
遺伝性の周期性四肢麻痺の多くは常染色体顕性(優性)遺伝で、親が原因の変化をもっていれば、お子さんが受け継ぐ確率は1人ごとに2分の1です。低カリウム性では、女性は変化をもっていても発作が出ないことがあるため、症状のないご家族が変化をもっていないとは限りません。甲状腺の病気が原因の周期性四肢麻痺は、遺伝性とは別のものです。
Q2. 甲状腺の病気(バセドウ病)による周期性四肢麻痺でも遺伝子検査は必要ですか?
甲状腺中毒性周期性四肢麻痺は、アジアの男性に多い甲状腺機能亢進症の合併症とされ、甲状腺機能亢進症をしっかり治療すると麻痺はおさまるとされています。甲状腺の病気が原因とわかった方に、この遺伝子検査がすぐに必要になるわけではありません。甲状腺の機能が正常で、ほかの原因も見つからないときに、遺伝子検査を考えます。
Q3. 周期性四肢麻痺は治りますか?発作は予防できますか?
難病情報センターは、根本的に治す治療はなく、食事や生活習慣に注意しながら症状とつきあうことが中心としています。発作の引き金を避けることや予防薬で、発作を減らせることがあります。ただし、予防薬の効き方は原因の遺伝子によって違い、SCN4Aの一部の変化では、よく使われる薬でかえって悪くなった報告もあります。
Q4. 発作の誘因は何ですか?食事で気をつけることは?
低カリウム性では、激しい運動のあとの休息、炭水化物の多い食事、寒さ、ストレス、塩分のとりすぎ、お酒などが引き金になります。高カリウム性では、カリウムの多い食べ物がいちばんの引き金で、寒さ、運動後の休息、空腹なども発作を起こしやすくします。型によって気をつけることが逆になる部分もあるので、自己判断せず主治医に相談してください。
Q5. 周期性四肢麻痺で亡くなることはありますか?
難病情報センターは、一般に生命に関わる病気ではないとしています。ただし、アンデルセン・タウィル症候群では不整脈に注意が必要で、毎年の心電図と24時間ホルター心電図での見張りが勧められています。また、全身麻酔では悪性高熱症などへの備えが必要なため、手術の前には麻酔科に病名を伝えてください。
Q6. 難病の医療費助成や障害者手帳は受けられますか?
遺伝性周期性四肢麻痺は指定難病115で、低カリウム性・高カリウム性・アンデルセン・タウィル症候群が含まれます(2026年10月時点)。医療費助成を受けるには、認定の基準を満たして申請する必要があります。障害者手帳などの福祉の制度は、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
Q7. 何科を受診すればよいですか?
発作の診断と治療は、脳神経内科(神経内科)が中心です。甲状腺の検査は内科・内分泌内科で、アンデルセン・タウィル症候群が疑われるときは循環器内科でも診てもらいます。原因を遺伝子で確かめたいとき、ご家族の検査や妊娠の計画を考えるときは、当院の遺伝カウンセリングでご相談いただけます。
Q8. 検査で原因が見つからなかったらどうなりますか?
日本の周期性四肢麻痺が疑われた方を調べた研究では、原因の遺伝子の変化が見つかったのは28.6%で、見つからない方のほうが多いことがわかっています。見つからなくても、発作のときのカリウムの値や長時間運動負荷試験などから周期性四肢麻痺と診断されることがあります。症状に合わせて、ほかの検査を考えることもできます。
🧬 一度の検査で、発作とのつきあい方とご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。周期性四肢麻痺の原因の遺伝子がわかれば、発作の引き金や薬の選び方、全身麻酔への備えだけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
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参考文献
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