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ショートQT症候群3型(SQT3)とは?原因となるKCNJ2遺伝子・症状・診断・治療をやさしく解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

ショートQT症候群3型(SQT3)は、KCNJ2遺伝子の機能獲得型変異によって心臓の電気的な「回復(再分極)」が異常に速くなり、心電図のQT時間が極端に短くなる、極めて稀な遺伝性不整脈です。若くても心室細動や突然死、心房細動を起こすことがある一方で、生涯まったく症状が出ない方もいる——この振れ幅の大きさが、この病気の最大の特徴です。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 KCNJ2遺伝子・遺伝性不整脈・臨床遺伝
臨床遺伝専門医監修

Q. ショートQT症候群3型とはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. KCNJ2遺伝子の機能獲得型変異により、心臓のカリウムチャネル(Kir2.1)が「働きすぎ」てしまい、心電図のQT時間が極端に短くなる希少な遺伝性不整脈です。突然死や心房細動のリスクがある一方で、無症状の方も多くいます。診断には心拍数を落ち着けた状態での心電図と遺伝子検査が重要で、特に一部の不整脈薬(フレカイニド)が悪化要因になりうる点が、正確な遺伝子診断を欠かせない理由です。

  • 疾患の定義 → OMIM 609622、Orphanet 51083、常染色体顕性(優性)遺伝、世界で200家系未満
  • 原因 → KCNJ2遺伝子(17q24.3)がつくるKir2.1チャネルの機能獲得 → IK1電流の異常な増大
  • 主な症状 → 突然死・心室細動、若年での心房細動、乳児期と20〜40代の2つのリスクのピーク
  • 鑑別 → アンデルセン・タウィル症候群(同じ遺伝子の機能喪失=鏡写しの病気)との違い
  • 診断・治療 → 安静時心電図と遺伝子検査、植込み型除細動器、フレカイニド回避という精密医療

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1. ショートQT症候群3型とは:疾患の定義と背景

ショートQT症候群(Short QT Syndrome:SQTS)は、心電図の「QT時間」が著しく短くなり、心室細動(命に関わる不整脈)や心房細動を起こしやすくなる、極めて稀な遺伝性の不整脈です。2000年にGussakらが「特発性の短いQT間隔」として初めて報告して以来、世界中でも報告されている家系は200に満たないとされる希少疾患ですが、若い成人や乳幼児の突然死の原因として重要視されています。

このうちショートQT症候群3型(SQT3)は、国際的な遺伝病データベースであるOMIMに「609622」、Orphanetに「51083」として登録されたサブタイプです。原因となるのは、第17番染色体(17q24.3)にあるKCNJ2遺伝子の変化で、遺伝のしかたは常染色体顕性(優性)遺伝です。

💡 用語解説:常染色体顕性(優性)遺伝

「常染色体」とは、性別を決めるX・Y染色体以外の染色体のこと。「顕性(優性)」とは、ペアになった2本の遺伝子のうちどちらか1本に変化があるだけで症状が現れる性質を指します。SQT3では、変化した遺伝子を1つ持つだけで発症する可能性があり、親から子へ受け継がれる確率は理論上50%です。ただし、実際には症状の出方に大きな個人差があります(後述)。

ショートQT症候群には、原因となる遺伝子の違いによっていくつかのタイプがあります。大きく分けると、カリウムチャネルが「働きすぎる(機能獲得)」タイプと、カルシウムチャネルが「働かなくなる(機能喪失)」タイプの2つの陣営に分かれますが、どちらも最終的には「心臓の電気的な回復が速くなりすぎる」という同じ結果に行き着きます。SQT3は前者(カリウム・機能獲得)の代表です。

タイプ 原因遺伝子 関わる電流 変化の向き
SQT1(OMIM 609620) KCNH2 カリウム電流(IKr) 機能獲得
SQT2(OMIM 609621) KCNQ1 カリウム電流(IKs) 機能獲得
SQT3(OMIM 609622) KCNJ2 カリウム電流(IK1) 機能獲得
カルシウム型(SQT4〜6と呼ばれる) CACNA1C / CACNB2 / CACNA2D1 L型カルシウム電流 機能喪失

※ カルシウム型(いわゆるSQT4〜6)は、ブルガダ症候群というまた別の不整脈と症状が重なることが多く、独立した「ショートQT症候群」としての位置づけは現在も研究段階です。確実にSQTSを起こすと考えられているのは、おもにKCNH2・KCNQ1・KCNJ2を含む一部の遺伝子です。

2. 原因遺伝子KCNJ2と発症のしくみ

SQT3を理解する鍵は、KCNJ2遺伝子がつくる「Kir2.1チャネル」というタンパク質の働きにあります。心臓の筋肉の細胞は、電気を使って規則正しく収縮しています。Kir2.1チャネルは、この電気活動が終わったあとに細胞を「静かな状態(静止膜電位)」へ戻し、次の拍動に備える役割を担っています。

💡 用語解説:Kir2.1チャネルと内向き整流性カリウム電流(IK1)

Kir2.1は、カリウムイオンを通す「内向き整流性カリウムチャネル」というタンパク質です。流れる電流をIK1と呼びます。このチャネルは、細胞が興奮している間はカリウムの流出をほどよく抑え、興奮が終わると一気に流して細胞を元の状態に戻す——という巧妙な「一方通行の弁」のような働きをします。この弁の調節を担うのが、細胞の中にあるマグネシウムイオンやポリアミンという物質で、これらがチャネルの通り道(ポア)を一時的にふさいで電流量を加減しています。

SQT3では、KCNJ2遺伝子のミスセンス変異によって、この「弁」の調節がうまくいかなくなります。本来は閉じているはずのタイミングでも弁が開いたままになり、カリウムが必要以上に細胞の外へ漏れ出してしまうのです。その結果、心臓の電気的な回復(再分極)が異常に速くなり、心電図のQT時間が極端に短くなります。これが「機能獲得(働きすぎ)」と呼ばれる状態です。

💡 用語解説:ミスセンス変異

DNAの文字(塩基)が1つ変わることで、タンパク質を組み立てる「部品(アミノ酸)」が別の種類に入れ替わってしまうタイプの変異です。1か所の入れ替わりでも、タンパク質の形や働きが変わってしまうことがあります。SQT3の原因となる変異は、いずれもこのミスセンス変異です。詳しくはミスセンス変異の解説ページもご覧ください。

💡 用語解説:機能獲得型変異(ゲイン・オブ・ファンクション)

変異によってタンパク質が「働かなくなる」のではなく、逆に「過剰に働く」「余計な働きを獲得する」タイプの変異です。SQT3はこの典型で、Kir2.1チャネルが過剰に電流を流すことが病気の根本にあります。反対に、同じKCNJ2が「働かなくなる」と全く別の病気になります(後述の鑑別を参照)。詳しくは機能獲得型変異の解説ページへ。

これまでに報告されているKCNJ2の主な変異

SQT3を起こす変異は、いずれもヘテロ接合(ペアの片方だけが変化した状態)のミスセンス変異です。変異する場所によって、症状の重さや心電図の短さに違いが見られます。

変異 報告された患者 心電図(QTc) 特徴
D172N 無症状の5歳女児とその父親 約320ミリ秒、非対称性T波 2005年にPrioriらが報告したSQT3で最初の変異。弁を閉じるしくみが弱まる
E299V 心房細動のある11歳男児(新生突然変異) 200〜280ミリ秒、ST部分が消失 弁の調節をほぼ完全に失う重症型
M301K 心房細動のある8歳女児 約194ミリ秒 単独では働かないが、正常型と共存すると働きすぎる
K346T てんかん・自閉スペクトラム症を伴う9歳の一卵性双生児 約331ミリ秒 心臓だけでなく脳でも働きすぎる(後述のChannelepsy)

💡 用語解説:Channelepsy(チャネルてんかん)

Kir2.1チャネルは心臓だけでなく、脳(中枢神経系)にも存在し、神経細胞の興奮の調節を担っています。K346Tという変異を持つ双生児の例では、心臓のSQT3に加えててんかんや自閉スペクトラム症を併発していました。1つのイオンチャネルの変異が心臓と脳の両方にまたがる症状を起こす現象は「Channelepsy」と呼ばれ、遺伝性不整脈の患者さんでは神経学的な評価もときに重要であることを示しています。

3. 主な症状とリスクのあらわれ方

SQT3の症状は、まったくの無症状から、最初の症状が突然の心停止であるケースまで、非常に幅広いのが特徴です。同じ家系で同じ変異を持っていても、発症する年齢や重さが大きく異なります。これを医学的には「不完全浸透」「表現型の多様性」と呼びます。

⚡ 心室細動・突然死

最も警戒すべき症状です。40歳までに最初の失神や心停止を経験する確率は40%を超え、突然死が最初の症状となるケースが全体の約3分の1を占めるという報告もあります。

💓 若年での心房細動

SQT3では、Kir2.1が心房でも働きすぎるため、若い年齢で心房細動(動悸の原因となる不整脈)を起こしやすくなります。動悸を主訴に循環器科を受診して見つかることもあります。

👶 乳児期のリスク

致死的なイベントには乳児期(生後1年以内)と20〜40代という2つのピークがあります。生後1年未満の心停止は一定の割合で見られ、原因不明の乳幼児突然死の一部に未診断のSQTSが隠れている可能性も指摘されています。

💡 用語解説:なぜ「QTが短い」と危ないの?(リエントリー)

心臓は一度興奮すると、しばらくは次の刺激を受け付けない「お休み時間(不応期)」を持っています。SQT3ではこのお休み時間が極端に短くなるため、興奮の波が消えきる前に同じ場所をぐるぐると回り続ける「リエントリー(旋回)」という現象が起こりやすくなります。これが、心室細動や心房細動という危険な不整脈の引き金になります。

4. 鑑別診断:見分けるべき似た病気

SQT3を考えるうえで欠かせないのが、同じKCNJ2遺伝子が「逆向き」に変化したときに起こる、まったく正反対の病気との比較です。

アンデルセン・タウィル症候群(ATS)

KCNJ2が機能喪失(働かなくなる)と、SQT3とは逆にQT時間が延び、ATS(別名ロングQT症候群7型)になります。周期性四肢麻痺・特徴的な顔貌や骨格・心室性不整脈の三徴が知られます。

ポイント:SQT3とATSは、同じ遺伝子の「働きすぎ」か「働かなさ」かで生じる、まさに鏡写しの関係です。

CPVT(カテコラミン誘発性多形性心室頻拍)との混同

非典型的なATSは、運動などで誘発される不整脈がCPVTと似ており、誤診されることがあります。

ポイント:本来のCPVTはRYR2遺伝子が原因でβ遮断薬が効きますが、KCNJ2が原因の場合は効果が不十分なことがあり、正確な遺伝子診断が治療方針を左右します。

他のショートQT症候群(SQT1・SQT2)

SQT1・SQT2は高く尖った左右対称のT波を示します。

ポイント:SQT3は、上りがゆるやかで下りが急な「非対称なT波」と、ST部分の消失が特徴で、心電図の形である程度区別できます。

5. 診断と遺伝子検査の進め方

SQT3の診断で最も重要なのは、12誘導心電図です。高カリウム血症や薬の影響などQTが短くなる別の原因を除いたうえで、補正QT間隔(QTc)が340ミリ秒以下であれば、それだけでショートQT症候群と診断できるとされています(欧州心臓病学会のガイドライン)。QTcが360ミリ秒以下でも、病的な遺伝子変異がある場合や、40歳未満の突然死の家族歴、若年での心房細動の既往などがあれば診断されます。

※ 心拍数が速いとQT時間は実際より長く計算されてしまい、短縮を見逃す原因になります。正確な評価には、心拍数が落ち着いた安静時(80回/分未満)の心電図が大切です。

ショートQT症候群サブタイプの心電図波形比較(正常・SQT1・SQT3)

正常な波形にくらべ、SQTSではQT時間が著しく短くなります。SQT1では高く対称的なT波が、SQT3では上りがゆるやかで下りが急な「非対称性T波」とST部分の消失が見られるのが特徴です(模式図)。

遺伝子検査:出生後と出生前で分けて考える

心電図でSQTSが疑われた場合や、家族にSQT3の方がいる場合には、遺伝子検査によってKCNJ2などの変異を確認します。検査は、調べる時期によって考え方が異なります。

📌 出生後の検査(生まれたあと)

血液などからDNAを取り出し、不整脈に関わる多数の遺伝子をまとめて調べるパネル検査が中心です。当院では、KCNJ2を含む遺伝子を解析できる検査として、不整脈総合遺伝子パネル検査心臓血管系疾患遺伝子パネル検査をご用意しています。

不整脈総合パネルは、QT延長症候群・ブルガダ症候群・QT短縮症候群(SQTS)・CPVTなど、遺伝性不整脈を幅広くカバーしています。

📌 出生前の検査(生まれる前)

出生前のスクリーニングの選択肢としては、KCNJ2を含む単一遺伝子を母体の血液で調べるNIPT(インペリアルプラン)があります。NIPTを受けられる方は全員が互助会(8,000円)に加入する仕組みで、万一陽性となった場合の羊水検査費用が全額補助されます。

出生前の確定診断は、羊水検査・絨毛検査で行います。ただし後述のとおり、SQT3のように症状の出方の幅が広い病気を出生前に調べることが、常にご家族の利益になるとは限りません。

6. 治療と長期管理

SQTSは非常に稀なため、大規模な臨床試験に基づく確立した治療法はまだ少なく、専門医による個別の判断が重要になります。

植込み型除細動器(ICD)と、その固有の課題

心停止からの蘇生歴や失神歴がある方では、いざというときに不整脈を止める植込み型除細動器(ICD)が最も確実な治療として推奨されます。ただしSQTSには特有の落とし穴があります。

💡 用語解説:T波の過剰感知(T-wave oversensing)

SQT3では、心電図の「T波」が独特の形をしているため、ICDがT波を心臓の拍動(QRS波)と取り違えてしまうことがあります。すると、不整脈が起きていないのに誤って電気ショックが作動してしまうことがあり、患者さんに苦痛を与えます。これを防ぐため、装置の感度を慎重に調整する必要があります。また、体の小さい乳児や幼児ではICDの植込み自体が難しいため、薬による管理が重要になります。

薬の選択:使ってはいけない薬がある

薬では、キニジンという薬がSQT1には有効とされますが、SQT3への効果は限定的と考えられています。併発する心房細動に対しては、プロパフェノンという薬が一定の効果を示した報告があります。

とくに注意が必要なのが「フレカイニド」です。不整脈の治療に広く使われる薬ですが、SQT3に対してはKir2.1の電流をさらに増やしてしまい、QT時間をいっそう短くして状態を悪化させる危険があります。同じ薬が、機能喪失型のアンデルセン・タウィル症候群では逆に「救済薬」として働くという、正反対の作用を持ちます。心電図の見た目だけで一律に薬を選ぶことの危うさを示す典型例です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【”よかれと思った薬”が命取りになる前に】

同じKCNJ2の変異でも、「働きすぎ(SQT3)」か「働かなさ(アンデルセン・タウィル症候群)」かで、フレカイニドという薬の効果がまるで逆になる——これは私が遺伝医療の大切さを語るとき、いつも例に挙げるエピソードです。心電図や経験則だけで薬を選ぶと、よかれと思った一手が取り返しのつかない結果を招くことがあります。

だからこそ、どの遺伝子のどの変異なのかを正確に突き止めることが、患者さんを危険な薬から守り、その方に本当に合った治療へとつなぐ第一歩になります。遺伝子診断は「病名のラベル貼り」ではなく、安全な未来への地図なのです。

研究が進む新しい治療のアプローチ

SQT3に特化した新しい治療の研究も世界中で進んでいます。抗マラリア薬として知られるクロロキンが、Kir2.1の通り道をふさいで異常を正す可能性が示されているほか、Kir2.1を狙ってブロックする新規化合物の探索も進んでいます。さらに、変異した遺伝子だけを選んで働きを抑える「アレル特異的抑制」という、根本的な治療をめざすコンピューターシミュレーション研究も報告されており、将来の精密医療として期待されています。

7. 遺伝カウンセリングの意義

SQT3の診断や、ご家族に変異が見つかった場合には、丁寧な遺伝カウンセリングが大切です。遺伝カウンセリングで扱われる主な内容は以下のとおりです。

  • 遺伝形式と血縁者の検査:常染色体顕性(優性)遺伝のため、ご本人の血縁者にも同じ変異が受け継がれている可能性があります。家族の心電図や遺伝子の確認(カスケードスクリーニング)が、突然死の予防につながることがあります。
  • 「見つかること」が常に利益とは限らない:SQT3は不完全浸透・表現型の幅が広い病気です。変異があっても無症状で経過する方も多く、出生前に見つけることが必ずしもご家族の安心や利益につながるとは限りません。検査を受けるかどうかは、十分な情報のもとでご家族が決めることが大切です。
  • 生活上の注意:避けるべき薬(フレカイニドなど)の情報を、ご本人とご家族、かかりつけ医で共有しておくことが重要です。
  • 中立・非指示的な情報提供:医師は情報を提供する立場であり、特定の検査や選択を「勧める」「安心を保証する」「不安をあおる」ことはしません。最終的な決定は、いつもご家族にゆだねられます。

8. よくある誤解

誤解①「KCNJ2の変異=アンデルセン・タウィル症候群」

同じKCNJ2でも、機能獲得(働きすぎ)ならSQT3、機能喪失(働かない)ならアンデルセン・タウィル症候群と、正反対の病気になります。変異の種類と向きの見きわめが欠かせません。

誤解②「無症状だから心配いらない」

SQT3は不完全浸透で、長く無症状の方もいます。しかし最初の症状が突然死というケースもあるため、無症状でも家族歴がある場合は専門的な評価が大切です。

誤解③「不整脈の薬ならどれでも安全」

フレカイニドのように、SQT3では状態を悪化させうる薬があります。診断名と遺伝子のタイプを把握しておくことが、安全な治療の前提です。

誤解④「心臓だけの病気」

K346T変異の例のように、てんかんや自閉スペクトラム症など脳の症状を伴うことがあります(Channelepsy)。必要に応じて神経学的な評価も検討されます。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【”短すぎるQT”を見逃さないために】

健康診断の心電図で「QTが短い」と書かれても、見過ごされてしまうことは少なくありません。QT延長(長すぎる)は広く知られていますが、短すぎることの危険はまだ十分に浸透していないのが現状です。けれども、若い方や乳幼児の原因不明の突然死の背景に、診断されていないショートQT症候群が隠れている可能性が指摘されています。

動悸や失神、若くしての心房細動、そして40歳未満の突然死の家族歴——こうした手がかりを「点」で終わらせず、「線」としてつなげて考えること。そして必要なら遺伝子を確かめること。それが、ご家族全体を守ることにつながります。気になることがあれば、どうか一人で抱え込まず、専門医にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. ショートQT症候群3型は遺伝しますか?

常染色体顕性(優性)遺伝の病気で、親から子へ受け継がれる確率は理論上50%です。報告された変異の中には、両親にはなく子どもで初めて生じた新生突然変異(de novo)の例もあります。血縁者にも同じ変異が受け継がれている可能性があるため、家族の心電図や遺伝子の確認について臨床遺伝専門医にご相談いただくことをおすすめします。

Q2. 症状がなければ心配いりませんか?

SQT3は不完全浸透といって、変異があっても長く無症状で経過する方が多くいます。一方で、最初の症状が突然死であるケースも報告されています。無症状であっても、40歳未満の突然死の家族歴や若年での心房細動などがある場合は、専門的な評価を受ける意義があります。

Q3. どのように診断されますか?

基本は心拍数が落ち着いた安静時の12誘導心電図です。補正QT間隔(QTc)が340ミリ秒以下であれば診断され、360ミリ秒以下でも病的変異や家族歴などがあれば診断されます。SQT3では非対称性のT波やST部分の消失が特徴です。これに加えて、KCNJ2などを調べる遺伝子検査で確定します。

Q4. アンデルセン・タウィル症候群とは何が違うのですか?

どちらも同じKCNJ2遺伝子に関係しますが、変化の向きが逆です。Kir2.1が働きすぎる(機能獲得)とQTが短くなりSQT3に、働かなくなる(機能喪失)とQTが延びてアンデルセン・タウィル症候群(ロングQT症候群7型)になります。後者は周期性四肢麻痺や特徴的な顔貌・骨格を伴うことがあり、まさに鏡写しの関係です。

Q5. 注意すべき薬はありますか?

不整脈の治療に広く使われるフレカイニドは、SQT3ではKir2.1の電流をさらに増やしてQTをいっそう短くし、状態を悪化させる危険があります。同じ薬がアンデルセン・タウィル症候群では逆に有効に働くことがあり、正確な診断名と遺伝子タイプを把握しておくことが安全な治療の前提です。服薬の判断は必ず主治医とご相談ください。

Q6. 出生前に調べることはできますか?

家族内で変異がわかっている場合などには、絨毛検査・羊水検査による出生前診断や、母体の血液で調べるNIPT(インペリアルプランにKCNJ2が含まれます)が選択肢となります。ただしSQT3は症状の出方の幅が広いため、出生前に調べることが常にご家族の利益になるとは限りません。受けるかどうかは、遺伝カウンセリングで十分に情報を得たうえでご家族が決めることが大切です。

Q7. どのような治療がありますか?

心停止や失神の既往がある方では、植込み型除細動器(ICD)が最も確実な治療として検討されます。ただしT波の過剰感知による誤作動や、乳幼児では植込みが難しいといった課題があります。心房細動にはプロパフェノンが用いられることがあり、研究段階の新しい治療も進められています。治療方針は循環器科と臨床遺伝科が連携して、お一人おひとりに合わせて検討します。

🏥 遺伝性不整脈・遺伝子検査について

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臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。

関連記事

参考文献

  • [1] OMIM. Short QT Syndrome 3 (SQT3); #609622. Johns Hopkins University. [OMIM]
  • [2] Priori SG, et al. A novel form of short QT syndrome (SQT3) is caused by a mutation in the KCNJ2 gene. Circ Res. 2005. [Circ Res]
  • [3] Short QT Syndrome – Review of Diagnosis and Treatment. PMC. [PMC4711567]
  • [4] KCNJ2 mutation in short QT syndrome 3 results in atrial fibrillation and ventricular proarrhythmia. PNAS. [PMC3600465]
  • [5] Genetically induced dysfunctions of Kir2.1 channels: implications for short QT3 syndrome and autism–epilepsy phenotype. Hum Mol Genet. [PMC4140467]
  • [6] Flecainide increases Kir2.1 currents by interacting with cysteine 311, decreasing the polyamine-induced rectification. PNAS. [PubMed]
  • [7] Alleviating the Effects of Short QT Syndrome Type 3 by Allele-Specific Suppression of the KCNJ2 Mutant Allele. Int J Mol Sci. [PMC11676537]
  • [8] Modelling the effects of chloroquine on KCNJ2-linked short QT syndrome. PubMed. [PubMed]

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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