この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

不整脈の多くは遺伝しませんが、QT延長症候群・ブルガダ症候群・カテコラミン誘発性多形性心室頻拍(CPVT)・不整脈原性右室心筋症(ARVC)などの「遺伝性不整脈」は、多くが親から子へ2分の1の確率で伝わります。生まれ持った遺伝子は一生変わりません。一度の検査でわかったことは、ご自身の運動・薬・定期検査の判断だけでなく、ご両親・きょうだい・お子さんが自分の状態を知る手がかりにもなります。このページでは、どの不整脈が遺伝するのか、ご家族に若い突然死があったときに何ができるのか、そして77遺伝子をまとめて調べるこの検査でわかること・わからないことを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. 不整脈は遺伝しますか?この検査で何がわかりますか?
多くの不整脈は遺伝しませんが、遺伝性不整脈の多くは親から子へ2分の1の確率で伝わります。この検査は、QT延長症候群・ブルガダ症候群・QT短縮症候群・CPVT・ARVCなどに関係する77遺伝子を一度に調べます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
若い年齢での失神や運動中の失神がある方、心電図の異常を言われたが病名が絞れない方、ご家族に若くして突然亡くなった方や遺伝性不整脈の方がいる方です。病名がはっきりしているなら、病気ごとの検査も選べます。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、唾液・粘膜ならオンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかれば、ご家族は同じ変化があるかだけを調べられます。意義がまだわからない変化(VUS)が見つかることもあり、その扱いもご説明します。
1. 不整脈は遺伝する?遺伝性不整脈とは
不整脈の多くは遺伝しません。ただし、心臓の電気の流れをつくるタンパク質や心筋の遺伝子に生まれつきの変化があって起こる「遺伝性不整脈」は、親から子へ伝わることがあります。遺伝性不整脈の多くは常染色体顕性(優性)遺伝で、親が原因をもっていれば、お子さん1人あたり2分の1の確率で受け継ぎます[1][2][3]。
遺伝する不整脈・遺伝しない不整脈
健康診断で見つかる期外収縮や、年齢を重ねて増える心房細動の多くは、高血圧・心臓のほかの病気・加齢などが関わって起こり、親の不整脈をそのまま受け継ぐものではありません。一方、遺伝性不整脈は、心臓の筋肉の細胞にあるイオンの通り道(イオンチャネル)や、細胞どうしをつなぐ部品などをつくる遺伝子の変化で起こります。若い年齢で失神する、運動中や驚いたときに倒れる、ご家族に若い突然死がある、といった特徴が、遺伝性不整脈を考えるきっかけになります。
遺伝性不整脈の主な病気
このパネルの対象に入る主な病気と、病名がわかっている方向けの個別の検査ページをまとめました。
🫀 遺伝性不整脈の主な病気と、病気ごとの検査
※特徴と遺伝子はGeneReviews[1][2][3]、国際的な専門家の合意文書[4]、このページの対象遺伝子一覧による。
遺伝する確率:多くは2分の1、病気によっては4分の1
QT延長症候群・ブルガダ症候群・ARVCの多くは常染色体顕性(優性)遺伝です。対になった遺伝子の片方に変化があれば発症しうるため、お子さん1人ごとに2分の1の確率で受け継ぎます[1][2][3]。性別には関係しません。一方、CPVT2型(CASQ2)やCPVT5型(TRDN)、ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群のように常染色体潜性(劣性)遺伝の病気もあり、この場合はご両親がともに保因者のとき、お子さんが発症する確率は4分の1です。
注意したいのは、受け継いでも、症状や心電図の変化が出ない方がいることです。GeneReviewsは、QT延長症候群では心電図の変化や症状が出ない方がいること(不完全浸透)、そのため心電図が正常でも変化をもっていないとは言えないことを示しています[1]。ブルガダ症候群でも、不完全浸透と症状の幅の広さ(表現型の多様性)がこの病気の特徴とされています[2]。
⚠️ 「自分は何ともないから、子どもも大丈夫」とは言えません
親御さんが症状に気づいていなかったり、心電図が正常だったりしても、同じ変化を受け継いだお子さんで発作が起こることがあります。同じ家族の中でも症状の出方は大きく違います[1][2]。だからこそ、ご家族の誰かに遺伝性不整脈がわかったときは、症状の有無だけで判断せず、知ったうえで備えることに意味があります。
どれくらいの人がなるのか
イタリアで生後15〜25日の赤ちゃん43,080人に心電図検査を行った研究では、QT延長症候群は少なくとも2,534人に1人で見つかり、著者は実際の頻度は2,000人に1人に近い可能性があると述べています[5]。この研究は白人の赤ちゃんを対象にしたもので、日本の頻度をそのまま表すものではありませんが、まれとはいえ決して「ごく一部の人の病気」ではないことがわかります。
2. ご家族が若くして突然亡くなったとき(家族性突然死症候群)
若い方の突然死の一部には、遺伝性不整脈や遺伝性の心筋症が隠れています。亡くなった方やご家族を調べることで原因がわかると、残されたご家族が自分の状態を知り、備えることができます。「家族性突然死症候群」という言葉で調べる方の多くは、こうした状況にある方だと思います。
若い人の突然死と遺伝
オーストラリアとニュージーランドで2010〜2012年に起きた1〜35歳の心臓突然死490件を調べた研究では、198件(約4割)は解剖をしても原因がわかりませんでした。このうち遺伝子検査ができた113件のうち31件(27%)で、病気の原因となる心臓の遺伝子の変化が見つかりました[6]。解剖で「異常なし」とされても、遺伝子を調べることで原因がわかる場合があるということです。
ご家族を調べると、原因が見つかることがある
英国で、原因がわからない不整脈による突然死(SADS)があった57家族を調べた研究では、30家族(53%)で遺伝する心臓の病気が見つかりました。内訳はQT延長症候群13家族(ほかに可能性のある家族3)、ブルガダ症候群5家族、ARVC 5家族、ほかの心筋症4家族でした[7]。亡くなった方の検体がなくても、ご家族の心電図などの検査と遺伝子検査を組み合わせることで、原因に近づけることがあります。
亡くなった方の検体が残っている場合
国際的な専門家の合意文書は、ご家族の中で原因がまだわかっていないときは、亡くなった方の血液や解剖のときの組織を使った遺伝子検査(死後の遺伝子検査)がとくに役立つとしています[4]。お子さんを突然亡くされ、保存された検体がある場合は、親子3人の全ゲノムを調べるお子さんの突然死の原因究明と次子リスク評価(親子トリオ全ゲノム検査)も選べます。検体がなく、ご家族が症状のないまま不安を抱えている場合は、まずご家族の検査をどの順番で進めるかを遺伝カウンセリングでご相談いただけます。
3. どんな人がこの検査を受けるとよいか
この検査は、不整脈の原因がまだ絞れない方と、ご家族に若い突然死や遺伝性不整脈の方がいる方のための、まとめて調べる検査です。病名がはっきりしている方は、病気ごとの検査のほうが向いていることがあります。
症状や心電図の異常があり、原因を知りたい方
- ●若い年齢での失神、運動中・水泳中・驚いたときの失神やけいれんがある方
- ●心停止から助かった方、心室細動・心室頻拍を起こしたことがある方
- ●健康診断などでQT延長・ブルガダ型の心電図・原因のはっきりしない心電図の異常を言われた方
- ●心臓の検査を重ねても、どの病気か絞りきれない方
病名がつくと、次の一手が決まります。たとえばQT延長症候群では、型によって発作のきっかけが違い、1型は運動(とくに水泳)や感情、2型は突然の音などの刺激や感情、3型は睡眠中や安静時に起こりやすいとされています[1]。原因の遺伝子がわかれば、どんな場面に気をつけるか、どの薬を避けるかを、主治医と具体的に決められます。
ご家族に突然死や遺伝性不整脈の方がいる方
- ●ご家族(とくに40歳未満)に、原因のはっきりしない突然死や、溺水・事故として扱われた急死がある方
- ●ご家族が遺伝性不整脈と診断されたが、原因の遺伝子がまだ調べられていない方
- ●ご家族に植込み型除細動器(ICD)を入れている方がいて、自分も同じ体質か知りたい方
ご家族の中で最初に検査を受ける方の結果は、ほかのご家族にとっても大事な手がかりになります。あなたの1回の検査が、ご両親・きょうだい・お子さんが自分の状態を知るきっかけになります。ご家族ですでに原因の遺伝子の変化がわかっている場合は、77遺伝子をすべて調べる必要はなく、その変化だけを確かめる方法を遺伝カウンセリングでご案内します。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことがあります。見た目や心電図、ご家族の話だけでは判断できないことがあるため、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
このパネルと、病気ごとの検査の選び方
病名がはっきりしているなら病気ごとの検査、まだ絞れないならこのパネル、心臓の病気全体を広く調べたいなら心血管疾患の包括パネル、という選び方が目安です。国際的な専門家の合意文書は、病気との関係の根拠が弱い遺伝子まで調べると、結果の解釈が難しくなり、誤った情報につながるおそれがあると注意しています[4]。広く調べるほどよい、とは限りません。
🔍 状況に合わせた検査の選び方
※どの検査が合うかは、症状・心電図・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決められます。
4. この検査で調べる77遺伝子
この検査では、QT延長症候群・ブルガダ症候群・QT短縮症候群・CPVT・ARVCに関係するとされる遺伝子を中心に、77遺伝子をまとめて調べます。不整脈を起こす心筋症や、全身の病気の一部として不整脈が起こる病気の遺伝子も含まれています。QT時間が短いと言われた方は、QT短縮症候群NGSパネル検査で原因遺伝子をしぼって調べることもできます。
診断の中心になる遺伝子と、根拠がまだ弱い遺伝子
遺伝子と病気の関係の強さは、国際的な専門家グループが論文の証拠をもとに評価し直しています。QT延長症候群では、典型的な病型で「確実」とされたのはKCNQ1・KCNH2・SCN5Aの3つで、新生児期に重い不整脈を起こすような非典型の病型ではCALM1〜3・TRDNが強い根拠ありとされました。CACNA1Cは中等度、残る9遺伝子は根拠が限られる・または疑わしいと評価されています[8]。ブルガダ症候群では、報告されてきた21遺伝子のうち「確実」とされたのはSCN5Aだけでした[9]。
このパネルには、こうした根拠の弱い遺伝子も含まれています。そうした遺伝子に変化が見つかったときは、それだけで診断を決めたり、ご家族の検査に使ったりせず、症状・心電図・ご家族の情報とあわせて慎重に判断します。「変化が見つかった=病気が決まった」ではないことを、検査の前に知っておいてください。
77遺伝子と、それぞれの遺伝子でわかる病気
🧬 対象遺伝子(77遺伝子)と関係する病気・遺伝のしかた
※病名と遺伝のしかたはOMIMの遺伝子と病気の対応(HPOの公開データ、2026年9月版で確認)による。「常染色体顕性」は優性、「常染色体潜性」は劣性と同じ意味。根拠の評価は文献[8][9]による。
NIPTで調べられる遺伝子との重なり
この検査の対象遺伝子のうち、LMNAは当院のNIPTのダイヤモンドプランとインペリアルプランで、KCNJ2・KCNQ2・KCNT1・SCN1A・SCN8A・TBX5はインペリアルプランで調べられます。当院のNIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。
ただし、NIPTで調べるのは、主に赤ちゃんで新しく起きた遺伝子の変化による病気です。ご家族ですでにわかっている不整脈の遺伝子の変化を赤ちゃんが受け継いだかどうかは、NIPTではなく、妊娠中の絨毛検査・羊水検査で確かめます(第6章)。
5. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、77遺伝子の中の小さな変化(1つの塩基の変化や、小さな挿入・欠失)と、遺伝子の一部または全体の大きな欠失・重複です。一方で、調べられない変化もあり、原因が見つからない方も少なくありません。
原因が見つかる割合は、病気によって違う
原因の遺伝子の変化が見つかる割合は、QT延長症候群では約70〜85%とされます[4]。CPVTでは、典型的な症状がはっきりしている方で約60%ですが、典型的でない方では15〜20%と低くなります[4]。ARVCでは最大で66%ほど[3]、ブルガダ症候群ではSCN5Aで見つかるのが約30%で、約65%は原因がわかっていません[2]。
この検査の限界
- ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、遺伝性不整脈ではないとは言えません。心電図などの検査と経過観察は、主治医と続けてください。
- ●調べていない変化:染色体の転座・逆位、繰り返し配列の伸長、遺伝子の働きを調節する領域や、エクソンから離れたイントロンの深いところの変化は調べません。
- ●欠失・重複の検出範囲:遺伝子1つ全体の欠失・重複は血液・頬の粘膜のどちらでも、連続する2つ以上のエクソンの欠失・重複は血液で調べられます。1つのエクソンだけの欠失・重複は、ふだんは検出の対象になりません。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
- ●モザイク:体の一部の細胞にだけ変化がある状態(モザイク)を見つけることを目的とした検査ではありません。がんの組織の検査にも使えません。
- ●よく似た配列:遺伝子によっては、よく似た配列(偽遺伝子など)が近くにあり、正しく読みにくいことがあります。読みにくい部分はサンガー法という別の方法で確かめます。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、今の知識では判断できない変化が見つかることがあります。国際的な専門家の合意文書も、VUSの扱いを遺伝子検査のいちばん難しい点としています[4]。
結果の報告書の読み方はNIPT・遺伝子検査結果の見かたで、目的と別の病気の原因が見つかったとき(二次的所見)の扱いは二次的所見の開示方針で解説しています。
6. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。原因が見つかったとき・見つからなかったとき・VUSだったときで、次にできることが違います。
原因が見つかったとき:わかると何ができるか
原因がわかると、主治医と一緒に、毎日の生活と治療の方針を具体的に決めやすくなります。
- ●発作のきっかけを避ける:QT延長症候群では型ごとに発作が起こりやすい場面が違います(1型は運動・水泳、2型は突然の音など、3型は睡眠中・安静時)[1]。
- ●避けたい薬を知る:QT延長症候群では、QT時間を延ばす薬を避けることがすべての方に勧められています[1]。ブルガダ症候群でも避けたほうがよい薬があり、発熱で心電図の変化が表に出ることがあるため、熱はすぐに下げることが勧められています[2]。
- ●薬・ICDの判断材料になる:QT延長症候群では、β遮断薬が治療の中心で、原因の変化をもつ方は症状がなくても使うことが勧められています。植込み型除細動器(ICD)は、心停止から助かった方などで勧められます[1]。ブルガダ症候群で失神や心停止があった方では、ICDが効果の確かめられている治療とされています[2]。
- ●運動の考え方:ARVCでは、激しい競技スポーツは心臓の負担になるため勧められないとされています[3]。どこまで運動してよいかは、病気と一人ひとりの状態で主治医と決めます。
どの治療を選ぶかは、遺伝子の結果だけで決まるものではありません。結果を循環器の主治医にお渡しし、心電図などの検査とあわせて判断してもらうことが大切です。
ご家族の検査(カスケード検査)
ご家族の中で原因となる遺伝子の変化がわかったら、ほかのご家族は、その変化があるかどうかだけを調べる検査を受けられます。このように家系の中で順番に調べていくことをカスケード検査(カスケードスクリーニング)といいます。国際的な専門家の合意文書は、最初に調べた方で病気の原因となる変化が見つかったときは、ご家族のカスケード検査を行うべきとしています[4]。QT延長症候群では、リスクのあるご家族は年齢を問わず、生まれたときから検査を勧めるとされています[1][4]。
同じ文書は、ご家族で見つかった変化をもたないとわかった方は、多くの病気で定期的な検査を続ける必要がなくなる(卒業できる)としています。ただし例外となる病気もあり[4]、どうするかは病気ごとに考えます。変化をもっているとわかった方は、症状が出る前から生活の注意や定期検査を始められます。VUSは、ご家族の検査には使いません[4]。
症状のないご家族の検査は、将来の発症の可能性を知る検査になるため、検査の前に遺伝カウンセリングで、知ることの意味をよく考えていただきます。当院は、知りたいと願う方を拒むことはしません。知らないでいる選択も、同じように尊重します。
原因が見つからなかったとき・VUSだったとき
原因が見つからなかった場合は、症状や心電図の所見に合わせて、より広い心血管疾患包括的遺伝子検査パネルや全エクソーム検査(WES)を考えることがあります。VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。
妊娠を考えている方:出生前診断の相談
ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに、赤ちゃんに同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。
当院では、羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。その病気で出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に考えますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。CPVT2型やジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群のような常染色体潜性遺伝の病気では、パートナーの方が保因者かどうかを知ることも大切です(拡大版保因者スクリーニング)。
海外でPGT-M(着床前遺伝学的検査)を考えている方へ:英語の検査結果をお渡しできます
PGT-Mは、体外受精でできた受精卵(胚)の一部の細胞を調べ、ご家族でわかっている遺伝子の変化を受け継いでいない胚を選んで子宮に戻す検査です。当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。当院でお手伝いできるのは、原因遺伝子の確定、英語の検査結果のご用意、遺伝カウンセリング、ご家族の遺伝子検査、妊娠したあとの絨毛検査・羊水検査です。英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。
欧州ヒト生殖学会(ESHRE)の指針によると、PGT-Mの準備には、①病気の原因と確かめられた遺伝子の変化があること、②どの遺伝子のどの変化かが書かれた元の報告書(認定を受けた検査室のもの)、③ご家族の検体が必要です[10]。受精卵から取れるDNAはごくわずかで、2本ある遺伝子の片方が読み取れない「アレルドロップアウト」などで判定を誤るおそれがあります。そのため、変化のある場所の両側にある目印(多型マーカー)で、変化が乗っている染色体を家系の中でたどる方法(ハプロタイプ解析)を組み合わせます[10]。
遺伝性不整脈の多くのような常染色体顕性遺伝の病気では、指針の目安として、ご夫婦に加えて、患者さん少なくとも1人(できれば2人)、および/または発症していないご家族1人のDNAが必要とされています[10]。ご本人の検査結果だけでは、PGT-Mの準備はふつう整いません。血縁者がいない場合は、治療の過程で受精卵や1個の精子を調べて変化の乗った染色体を決める方法も指針に挙げられていますが、できるかどうかは施設や家系の状況で大きく変わり、受けられないこともあります[10]。海外でPGT-Mを考えている方は、ご本人の検査の段階から、検査に協力していただけるご家族(とくに同じ変化をもつ方)がいるかを考えておくことが大切です。当院では、ご家族の遺伝子検査も、遺伝カウンセリングのうえでお受けしています。
臨床遺伝専門医としての判断をお伝えすると、VUSは病気の原因と確かめられていないため、そのままPGT-Mの対象にするのは難しいと考えます。前の章で触れた根拠の弱い遺伝子の変化も、同じように慎重に考える必要があります。海外の施設によって求められる書類や検体は違うので、受ける予定の施設にも前もってご確認ください。
⚠️ PGT-Mは診断ではなく、スクリーニング検査です
受精卵のごく一部の細胞を調べる検査のため、結果が赤ちゃんの状態と食い違うことがあります。ESHREの指針は、多くの施設で誤った結果になる割合は全体で1〜3%まで下げられているとしたうえで、PGTのあとに妊娠したすべての方に出生前診断を提案すべきとしています[11]。PGT-Mで選んだ胚で妊娠した場合も、妊娠中に赤ちゃんそのものを調べる確定検査(絨毛検査・羊水検査)で確かめることが望ましいと考えます。当院では絨毛検査・羊水検査を院内で行っており、海外でPGT-Mを受けたあとの妊娠でもご相談いただけます。
日本では、日本産科婦人科学会の「重篤な遺伝性疾患を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-M)に関する指針」(2026年9月改定)にもとづき、PGT-Mは症例ごとに学会の審査を受け、そのうえで実施施設の倫理委員会が承認して行われます。指針の「重篤」は、原則として、成人に達する前に日常生活が著しく損なわれる、または生存が危ぶまれる状態になる疾患で、有効な治療法がないか、あっても高度かつ侵襲度の高いもの、とされています。成人に達する前に生存が危ぶまれるわけではないが日常生活が著しく損なわれる状態が現れる疾患は、その病気の専門医の意見書などを追加で出す仕組みになっています。学会の発表では、2025年7月〜2026年6月の1年間に審査した73件のうち、37件が審査継続中でした(2026年9月発表)。
PGT-Mの対象になる病気は、国によって違います。英国では公的機関(HFEA)がPGT-Mを使える病気の一覧を公表しており、2,000を超える病気が載っています(2026年9月17日更新の一覧で2,067)。QT延長症候群、カテコラミン誘発多形性心室頻拍1〜4型、拡張型・肥大型・不整脈原性右室心筋症の多くの型は、この一覧に載っています(2026年9月時点)。一覧にない病気は、施設を通じて申請し、HFEAが審査します。米国では、PGTを直接規制する連邦や州の法律はなく、主に医師・施設の判断で行われています[12]。どの病気がPGT-Mの対象になるかは、国や制度、施設によって違います。同じ病気でも、ある国では対象になり、別の国では個別の審査が必要になることがあります。受ける国の制度と、施設の条件を前もって確かめてください。くわしくは遺伝性疾患をお持ちで海外でPGT-Mを考えている方へで解説しています。
7. 日本の制度(2026年10月時点)
遺伝性不整脈に関係する病気の一部は、国の医療費助成の対象になっています。厚生労働省の指定難病の一覧(2026年4月時点)には、特発性拡張型心筋症(告示番号57)・肥大型心筋症(58)・拘束型心筋症(59)、エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィーを含む筋ジストロフィー(113)、ドラベ症候群(140)が載っています。QT延長症候群は、小児慢性特定疾病情報センターに慢性心疾患として解説が掲載されています(いずれも2026年10月時点で確認)。
医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。対象かどうかや申請の方法は、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。なお、日本では日本循環器学会などによる「遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン」が作られており、治療の方針は循環器の主治医がこうした指針に沿って決めていきます。
8. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。唾液・頬の内側の粘膜の検体なら、遠方の方もクリニックにお越しにならずに、オンライン診療で遺伝カウンセリングを受けたあと、検体をお送りいただく形で検査を受けられます。
ご予約
▶
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取血液・唾液・粘膜
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
9. 院長コラム
🩺 院長コラム【残されたご家族のための検査でもある】
遺伝性不整脈の検査は、ご本人のための検査であると同時に、ご家族のための検査でもあると考えています。ご家族の誰かが若くして突然亡くなったとき、残された方は、悲しみと一緒に「自分にも同じことが起こるのではないか」「子どもは大丈夫だろうか」という不安を抱えることになります。原因がわかれば、その不安を「何に気をつければよいか」という具体的な行動に変えられます。
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。遺伝性不整脈は、同じ変化をもっていても、一生症状が出ない方もいれば、若いうちに発作が起こる方もいる病気です。だからこそ、「自分は何ともないから」という印象だけで、ご家族の将来を決めてしまわないでほしいと考えています。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 不整脈は遺伝しますか?
不整脈の多くは、年齢・高血圧・心臓のほかの病気などで起こり、親から子へそのまま受け継がれるものではありません。一方で、QT延長症候群・ブルガダ症候群・カテコラミン誘発性多形性心室頻拍(CPVT)・不整脈原性右室心筋症(ARVC)など、心臓のイオンチャネルや心筋の遺伝子の変化で起こる「遺伝性不整脈」があります。若い年齢での失神や、ご家族の若い突然死があるときは、遺伝性不整脈を考えます。
Q2. 遺伝性不整脈が親から子へ伝わる確率はどれくらいですか?
多くの遺伝性不整脈は常染色体顕性(優性)遺伝で、親が原因となる遺伝子の変化をもっている場合、お子さん1人あたり2分の1の確率で受け継ぎます。ただし、受け継いでも症状が出ない方や心電図に変化が出ない方がいます。CPVT2型やジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群のように常染色体潜性(劣性)遺伝の病気では、ご両親がともに保因者の場合、お子さんが発症する確率は4分の1です。
Q3. 家族が若くして突然亡くなりました。検査を受けたほうがよいですか?
オーストラリアとニュージーランドで1〜35歳の心臓突然死を調べた研究では、解剖でも原因がわからなかった方のうち、遺伝子検査を行った113人中31人(27%)で病気の原因となる心臓の遺伝子の変化が見つかりました。亡くなった方の検体が残っていれば、その検査が手がかりになります。検体がない場合でも、ご家族が心電図などの検査を受けたり、遺伝カウンセリングでこのパネルを受けるかを考えたりできます。
Q4. QT延長症候群やブルガダ症候群と言われています。このパネルと個別の検査のどちらを選べばよいですか?
病名がはっきりしているときは、その病気の原因遺伝子をしぼって調べる個別の検査ページ(QT延長症候群・ブルガダ症候群、QT短縮症候群、CPVT、ARVCなど)が向いています。病名がまだ絞れないときや、ご家族の突然死の原因を探したいときは、77遺伝子をまとめて調べるこのパネルが向いています。どちらがよいかは遺伝カウンセリングで一緒に決められます。
Q5. 検査で異常が見つからなければ、遺伝性不整脈ではないと言えますか?
言えません。ブルガダ症候群では、原因がわかるのは3割ほどとされ、QT延長症候群でも原因が見つかるのは約70〜85%です。また、この検査では調べられない種類の変化もあります。陰性でも、心電図などの検査や経過観察は主治医と続けてください。
Q6. 症状のない家族も検査を受けられますか?
受けられます。ご家族の中で原因となる遺伝子の変化がわかっている場合は、その変化があるかどうかを確かめる検査が勧められています。変化がないとわかった方は、多くの病気で定期的な検査を続ける必要がなくなります。変化があった方は、症状が出る前から予防や生活の注意を始められます。
Q7. 海外でPGT-Mを受けたいのですが、英語の検査結果はもらえますか?
はい。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。ただし、ご本人の検査結果だけでは、PGT-Mの準備はふつう整いません。ご家族の検体が必要になることが多いため、くわしくは海外でPGT-Mを考えている方向けのページをご覧ください。当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。
Q8. 費用と結果が出るまでの日数を教えてください。
検査費用は税込330,000円で、遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。結果が出るまでは2〜3週間で、至急オプション(55,000円)を利用すると約7日短くなります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
🧬 一度の検査で、ご自身とご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。遺伝性不整脈の原因がわかれば、ご自身の運動・薬・定期検査の判断だけでなく、ご家族が同じ変化をもっているかを調べたり、結婚・妊娠の計画を考えたりする手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、ご家族の検査、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
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参考文献
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