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ドラベ症候群(乳児重症ミオクロニーてんかん)とは|症状・原因・遺伝・最新治療

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

ドラベ症候群は、それまで元気だった赤ちゃんが生後1年以内に、発熱などをきっかけとした長いけいれんで発症する難治性のてんかんです(旧称:乳児重症ミオクロニーてんかん、指定難病140)。その多くはSCN1A遺伝子の変化が原因で、脳の「ブレーキ役」の神経が弱ることで発作が起こりやすくなります。一般的なてんかんの薬の一部はかえって発作を悪化させるため、正しい診断にもとづく薬選びがとても大切です。本記事では、症状・経過・原因・診断・最新の治療までを、臨床遺伝専門医がやさしく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約18分
🧬 ドラベ症候群・SCN1A・難治性てんかん
臨床遺伝専門医監修

Q. ドラベ症候群とはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. 生後1年以内に、発熱・入浴・予防接種などをきっかけとした長いけいれんで発症する、難治性のてんかんです。多くはSCN1A遺伝子の働きが半分になること(ハプロ不全)が原因で、幼児期に発作が多様化し、発達の停滞を伴うことが特徴です。ナトリウムチャネルを抑える一部の抗てんかん薬は発作を悪化させるため原則使いません。近年はフェンフルラミンなどの新薬や、原因に直接働きかける治療の開発が急速に進んでいます。

  • 原因の正体 → 多くはSCN1A遺伝子の機能が半分になる「ハプロ不全」
  • 経過の特徴 → 乳児期の熱性けいれん重積 → 幼児期に発作の多様化と発達の停滞
  • 避けるべき薬 → ナトリウムチャネル遮断薬は悪化させるため原則使わない
  • 治療の柱 → バルプロ酸・クロバザム+スチリペントール、ケトン食、新薬フェンフルラミン
  • 再発リスク → 「新生突然変異」に見えても親の体細胞モザイクが7〜13%で見つかる

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1. ドラベ症候群とは:疾患の概要と疫学

ドラベ症候群は、乳児期に発症し、極めて治りにくいてんかん発作と、進行性の発達のおくれを特徴とする「発達性てんかん性脳症(DEE)」のひとつです。1978年にフランスの小児神経科医シャルロット・ドラベ医師によって独立した病気として報告され、当初は「乳児重症ミオクロニーてんかん(SMEI)」と呼ばれていました。2001年に、原因の多くがSCN1A遺伝子の変化であることが突き止められ、いまでは分子レベルで最もよく理解されたてんかんのひとつになっています[1]

💡 用語解説:発達性てんかん性脳症(DEE)

発達性てんかん性脳症(Developmental and Epileptic Encephalopathy)とは、てんかん発作そのものに加えて、基礎にある遺伝子・脳の異常それ自体が、発作とは独立して発達のおくれを引き起こすてんかんの総称です。「発作を止めれば発達も追いつく」とは限らないのが特徴で、ドラベ症候群はその代表例とされています。OMIM(オンライン版・人類遺伝学カタログ)では番号607208として登録されています。

頻度としては、出生およそ15,700〜40,000人に1人と推定される稀少疾患で、男女差はほとんどありません[1]。一方で、生後1年以内に発症するてんかんの中では無視できない割合を占め、日本国内の患者数は約3,000〜6,000人と推定され、厚生労働省の指定難病(告示番号140)に指定されています[2]。指定難病であるため、診断基準を満たし重症度の条件にあてはまる場合は、医療費助成の対象となります。

2. 症状と自然歴:年齢とともに姿を変える病気

ドラベ症候群のいちばんの特徴は、年齢とともに発作の型や神経の症状が大きく変わっていくことです。経過はおおまかに、発症期(乳児期)・増悪期(幼児期〜学童期)・安定期(成人期)の3つの時期に分けて理解すると分かりやすくなります[1]

👶 乳児期(0〜1歳・発症期)

  • 発熱・入浴・予防接種が引き金
  • 長く続く半身/全身のけいれん
  • 左右が入れ替わる半身けいれん
  • けいれん重積で救急搬送も
  • 発達はまだ正常なことが多い

🧒 幼児〜学童期(1〜5歳・増悪期)

  • 発作の型が多様化する
  • ミオクロニー・非定型欠神・焦点発作
  • 発達の停滞・退行が顕在化
  • 運動失調・しゃがみ込み歩行
  • 光や幾何学模様への過敏性

🧑 学童後半〜成人期(安定期)

  • 長いけいれん重積は減る傾向
  • 短い発作は持続することが多い
  • 知的障害・行動面の課題が残存
  • 歩行機能の低下
  • 突然死(SUDEP)のリスクに注意

最初の発作は多くの場合、生後5〜8か月ごろに、それまで順調に育っていた赤ちゃんに現れます。38℃以上の発熱や入浴、予防接種などをきっかけとして、長く続く半身性(片側性)または全身性のけいれんが起こり、左右が入れ替わる「交替性半身けいれん」の形をとることも少なくありません。これらの発作は10分以上に遷延しやすく、けいれん重積状態となって救急搬送が必要になることが頻繁にあります。

💡 用語解説:けいれん重積状態(じゅうせき)

発作が止まらずに長く続く(おおむね5分以上)、または短い発作が連続して意識が戻らない状態を指します。脳に負担がかかる緊急事態で、早急に発作を止める治療が必要です。ドラベ症候群では発熱時にこの重積を起こしやすいため、発熱時の早めの解熱や、医師から処方される頓用の発作止めをあらかじめ準備しておくことが、家庭での備えとして重要になります。

1歳を過ぎる増悪期になると、初期のけいれん重積に加えて、ミオクロニー発作(ピクッとする発作)・非定型欠神発作・焦点発作・夜間の強直発作など多様な発作が混在します。これと前後して、それまで正常だった発達の停滞や退行が目立ち、言語のおくれ、多動や注意の問題、自閉スペクトラム症に似た特性、小脳性の運動失調(ふらつき)やしゃがみ込み歩行などが加わってきます。成人期には長い重積は減るものの、短い発作は続くことが多く、完全に発作が消える状態に至ることはまれで、生涯にわたる包括的な支援が必要になります。突然死(SUDEP)のリスクが他のてんかんより高い点にも注意が必要です。

3. 診断のしかた:脳波・スコアリング・遺伝子検査

診断は、年齢とともに変化する臨床症状の経過と、脳波(EEG)所見をもとに行われます。1歳未満では脳波が正常なことが多く、早い段階では検査だけで診断を確定するのが難しいのが実情です。年齢が上がると背景活動の徐波化や多焦点性の異常波などが現れ、頭部MRIは初期には特異的な所見を欠きます。2022年に国際抗てんかん連盟(ILAE)が示した基準では、「正常に発達していた乳児が、発熱やワクチン接種を機に、初めての長い半身けいれん、または初めてのけいれん性重積を起こした場合、他に明らかな原因がなければただちにドラベ症候群を疑い遺伝子検査を行う」ことについて、世界の専門医の間で強い合意が得られました[3]

日本では、診療現場で疑い症例を効率よく拾い上げるためのスコアリングが提唱されています。以下の項目を点数化し、合計6点以上でドラベ症候群の可能性が高い(感度97.8%・特異度94.0%)とされ、SCN1A遺伝子検査が強く推奨されます[2]

臨床症状(危険因子) 点数
発症月齢が7か月以下 2
発作回数5回以上 3
半身けいれん 3
焦点発作 1
ミオクロニー発作(ピクン) 1
遷延性発作(10分以上) 3
入浴誘発発作 2

臨床的な目安:合計6点以上でSCN1A遺伝子検査の実施が強く推奨されます。なお、SCN1A検査が陰性でも、特徴の組み合わせ次第で臨床的に「確定」とされる道も用意されています。

遺伝子検査では配列解析(シーケンス)だけでなく、遺伝子のまとまった欠失を見つけるMLPAなどの欠失・重複解析を併用することが重要です。SCN1Aの異常のうち一定の割合は配列を読むだけでは見逃される微小欠失であるためです。

4. 似た病気との鑑別

初期症状が似ている病気は複数あり、これらとの鑑別は治療方針を決めるうえで非常に重要です。とくに同じSCN1A遺伝子でも、軽い熱性けいれんから最重症のドラベ症候群まで幅広い表現型をとるため、慎重な見極めが求められます[4]

病名・症候群 主な原因遺伝子 鑑別のポイント
GEFS+(全般てんかん熱性けいれんプラス) SCN1A、SCN1B など 熱性けいれんが6歳以降も続く家族性のてんかん。知能は保たれることが多く、家族歴がみられる。
ミオクロニー脱力発作てんかん(Doose症候群) 多様 通常2歳以降の発症でドラベ症候群より遅い。脱力発作が前面に出る。
レノックス・ガストー症候群 多様 通常3〜5歳発症。脳波で特徴的な遅棘徐波複合。乳児期の重い熱性重積は典型的でない。
PCDH19関連てんかん PCDH19 主に女児に発症。発熱に伴う群発(クラスター)状の焦点発作が極めて多い。
SCN3A関連神経発達症 SCN3A 新生児〜早期乳児期と発症が非常に早い。MRIで皮質形成異常を伴う。

5. 原因遺伝子SCN1Aとハプロ不全

ドラベ症候群の約80〜85%は、第2染色体(2q24.3)にあるSCN1A遺伝子の片方のコピーに生じた変化が原因です。SCN1A遺伝子は、脳の神経細胞にある電位依存性ナトリウムチャネル(Nav1.1)という「電気の通り道」の部品を作る設計図です[4]

SCN1Aの変化が引き起こす病気は幅広く、同じ遺伝子でも症状の重さは大きく異なります。軽い側には単純型熱性けいれんやGEFS+があり、最も重い側にドラベ症候群が位置し、その中間に境界型が存在します。

SCN1A関連てんかんの重症度スペクトラム 単純型 熱性けいれん GEFS+ 境界型 (SMEB等) ドラベ症候群 (最重症) 軽症(知能は保たれやすい) 重症(難治・発達への影響大)

同じSCN1Aの変化でも、軽い熱性けいれんから最重症のドラベ症候群まで連続したスペクトラムを形成する。

💡 用語解説:ハプロ不全(はぷろふぜん)

私たちは遺伝子を父由来・母由来の2コピー持っています。その片方が働かなくなり、残り1コピー(約50%)だけでは正常な働きを保てなくなる状態を「ハプロ不全」といいます。ドラベ症候群では、Nav1.1チャネルの量が半分に減ることが病気の根本原因です。仕組みの詳細はハプロ不全の解説ページもご覧ください。

ドラベ症候群を起こすSCN1Aの変化のうち、約半数から3分の2は、タンパク質の合成が途中で打ち切られるトランケーティング変異(ナンセンス変異・フレームシフト・スプライス部位変異・微小欠失など)で、これによりハプロ不全が生じます。残りの約3分の1は、アミノ酸が1つ置き換わるミスセンス変異です。ミスセンス変異の中には、チャネルの開閉に重要な部位に生じてはたらきを完全に失わせるものや、パッチクランプ法による詳細な解析で機能獲得型的なふるまいを示すものもあり、病態は単純なハプロ不全だけでは説明できない複雑さを持つことが分かってきています[4]

6. なぜ起こるのか:脳の「ブレーキ役」の不調

SCN1Aが作るNav1.1チャネルは、脳の中でも主に抑制性のGABA作動性介在ニューロン(神経の「ブレーキ役」)に多く存在します。Nav1.1が半分に減ると、このブレーキ役の神経がうまく発火できなくなり、脳全体の興奮を抑えきれずに過興奮状態となって発作の閾値が下がります。これが「インターニューロン仮説」と呼ばれる、ドラベ症候群の中心的な考え方です[5]

💡 用語解説:GABA作動性介在ニューロン(ブレーキ役の神経)

脳の神経には、活動を強める「アクセル役(興奮性)」と、活動を抑える「ブレーキ役(抑制性)」があります。GABA作動性介在ニューロンは後者の代表で、GABAという物質を使って周囲の神経の過剰な興奮をしずめます。ドラベ症候群では、このブレーキ役にだけ多く存在するNav1.1が不足するため、ブレーキが効かず脳が過剰に興奮しやすくなる、と考えられています。

動物モデルの実験は、この仮説を鮮やかに裏づけました。抑制性ニューロンだけでNav1.1を欠損させると、全身で欠損させた場合よりさらに重症となる一方、興奮性ニューロンでのみ欠損させても目立った異常は出ず、さらに興奮性側も追加で欠損させると重症の病態がむしろ改善することが示されたのです[5]。この知見は、次に述べる「ナトリウムチャネル遮断薬がなぜ禁忌なのか」を分子レベルで説明してくれます。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「正しい診断」が、薬の選択を変える】

臨床遺伝専門医として文献を踏まえると、ドラベ症候群はまさに「遺伝子診断が治療を変える」病気の典型です。ブレーキ役の神経をさらに抑え込んでしまうナトリウムチャネル遮断薬は、よかれと思って使われた結果、かえって発作や発達に悪影響を及ぼしてしまうことがあります。だからこそ、早い段階でSCN1Aを確認することに大きな意味があります。

私は成人領域で分子標的薬を扱う立場ですが、「どの分子に、どう作用する薬か」を理解して使う・避けるという考え方は、年齢や領域を越えて共通する医療の基本です。検査結果の数値だけでなく、その意味をご家族とていねいに共有することを大切にしています。

7. 治療と禁忌薬:薬物療法とケトン食

ドラベ症候群は既存の抗てんかん薬に強い抵抗性を示すことが多く、複数の薬を組み合わせる多剤併用が基本になります。治療の目標は完全な発作消失ではなく、重いけいれん重積を避け、発作頻度を下げて発達への悪影響を最小限にすることです[3]。第一選択は幅広く効くバルプロ酸ナトリウムとクロバザムで、効果が不十分な場合に追加薬(アドオン)が導入されます。代表的なのがスチリペントールで、日本では2012年にバルプロ酸・クロバザムとの併用療法として承認されました。

💡 用語解説:スチリペントール

GABAの働きを高める直接の抗てんかん作用に加え、肝臓の代謝酵素(CYP)を強く抑えることで、併用するクロバザムの血中濃度を上げて効果を底上げする薬です。バルプロ酸・クロバザムとの3剤併用で用いられ、けいれん重積の予防に役立つことが報告されています。

一方で、前章の病態から導かれるとおり、ナトリウムチャネルを抑える作用を主とする抗てんかん薬は原則禁忌です。ただでさえ弱っているブレーキ役のNav1.1をさらに抑え込み、興奮と抑制のバランスが崩れて発作(とくにミオクロニーや欠神)を悪化させ、発達にも悪影響を及ぼすためです。

避けるべき薬(ナトリウムチャネル遮断薬) 注意点
カルバマゼピン 発作を悪化させるリスクが高い。他疾患と誤診されて投与され、重積を誘発する例がある。
フェニトイン 重積の急性期に使われることはあるが、維持療法としての長期使用は発作悪化や認知低下を招きうる。
ラモトリギン ミオクロニー発作などを悪化させることが広く知られている。
オクスカルバゼピン カルバマゼピンと同様、抑制性ニューロンの機能をさらに損なうため避ける。
ルフィナミド ナトリウムチャネルの不活性化を延長する機序のため、推奨されない。

食事療法:ケトン食の有効性

薬物療法と並ぶ強力な選択肢が、高脂肪・低炭水化物のケトン食療法です。体のエネルギー源を糖からケトン体に切り替えることで、複数の経路を通じて神経の過剰な興奮を抑えると考えられています。ドラベ症候群では有効性が高く、導入後12週で約58〜79%の患者で発作が半分以下に減少し、その効果は長期に持続することが複数の研究で報告されています[7]

ケトン食療法で「発作が50%以上減少」した患者の割合

臨床研究で報告された代表的な数値(おおよその範囲)

約58〜79%
約61〜79%
約77%

12週

24週

48週

発作の抑制だけでなく、脳波の改善や認知・言語・運動機能の向上といった付随効果も報告されています。実施には専門的な栄養管理が必要で、古典的ケトン食・MCT食・修正アトキンス食などのバリエーションがあります。

8. 最新の治療:新薬と疾患修飾療法

近年、ドラベ症候群の治療環境は大きく変わりつつあります。まずフェンフルラミン(フィンテプラ)が2022年9月に日本で併用療法として承認されました。もとは食欲抑制剤として知られた成分ですが、低用量でセロトニン系などに作用して強い抗てんかん効果を発揮し、国際共同第3相試験では月間けいれん発作頻度を平均約64.8%減少させました。かつて高用量で懸念された心臓弁膜症や肺高血圧症は、現在の低用量・心エコー監視下では有意な発症が認められていません。日本では0.2 mg/kg/日から開始し最大0.7 mg/kg(最大26mg/日)まで、スチリペントール併用時は薬物相互作用を考慮して最大0.4 mg/kg(最大17mg/日)に調整します[6]

大麻由来成分のカンナビジオール(CBD、製剤名エピディオレックス)は欧米で標準治療の一部となっています。日本では2024年4月に希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)に指定され、2024年12月の大麻取締法等の改正により医薬品としての道が開かれました。国内第3相試験では主要評価項目の統計学的基準は満たさなかったものの、数値上の改善と良好な安全性が示され、現在も承認に向けた協議が進められています。

💡 用語解説:疾患修飾療法(DMT)とアンチセンスオリゴ

これまでの薬が「発作を抑える」対症療法だったのに対し、病気の原因そのものに介入して進行を変えようとする治療を疾患修飾療法(DMT)といいます。その有力候補がアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)という、特定のmRNAに結合して働きを調整する短い核酸の薬です。

最も開発が進むのが、ASO製剤ゾレブネルセン(zorevunersen / STK-001)です。これは変異した遺伝子を修復するのではなく、もう一方の正常なSCN1A遺伝子からの設計図(mRNA)を増やしてNav1.1の産生を底上げし、ハプロ不全を解消しようとする発想の薬です。通常は不要な設計図がNMD(ナンセンス依存mRNA分解)という仕組みで分解されますが、ASOでこの無駄な分解を回避し、機能するmRNAへと振り向けます(TANGO技術)。第1/2a相とその継続投与のデータは2026年3月に医学誌NEJMに掲載され、発作の持続的な減少に加えて、認知・行動面の改善という疾患修飾の初の証拠が示されました[8]。FDAから画期的新薬(ブレークスルーセラピー)指定を受け、現在は機能獲得型でないSCN1A変異を持つ患者を対象とした国際第3相試験「EMPEROR」が進行中で、登録完了は2026年第2四半期、データの読み出しは2027年中ごろが見込まれています[9]

さらに根本的な治療として、AAV9というウイルスベクターを使い、ブレーキ役のGABA作動性ニューロンでのみSCN1Aの発現を増やすよう精密に設計された遺伝子治療「ETX101」の臨床試験(ENDEAVOR試験)も小児を対象に進められています[10]。興奮性ニューロンで増やすと逆効果になりうるという前章の知見が、設計に直接活かされています。このほか、コレステロール24水酸化酵素を阻害するソティクレスタットの第3相試験(SKYLINE)も実施され、主要評価項目は僅差で達成に至らなかったものの、副次評価項目で意味のある改善が報告されています[11]

9. 親の体細胞モザイクと再発リスク

ドラベ症候群のSCN1A変異の多くは、健康なご両親には見られず、お子さんで初めて生じた新生突然変異(de novo変異)です。このため、従来の遺伝カウンセリングでは次のお子さんでの再発リスクは約1%程度(生殖細胞モザイクを考慮した経験的な確率)と説明されてきました。SCN1Aは2コピーのうち1コピーの変化で発症する常染色体顕性(優性)遺伝形式をとります。

しかし高感度な解析技術(smMIPsやddPCRなど)の登場で、この常識は大きく書き換えられました。「新生突然変異」と思われていた患者の健康なご両親を精密に調べると、およそ7〜13%で、どちらかの親に同じ変異が「低レベルの体細胞モザイク」として潜んでいることが分かったのです[12]。この場合、変異が卵子や精子にも及んでいる可能性が高く、次のお子さんへの再発リスクは理論上最大50%にまで上がりえます

💡 用語解説:体細胞モザイク

受精後ごく早い時期に変異が生じると、その人の体は変異を持つ細胞と持たない細胞が混在した状態(モザイク)になります。割合が低いと本人は無症状のことが多く、従来のサンガー法では「ノイズ」に埋もれて見逃されがちでした。詳しくは体細胞・生殖細胞系列モザイクの解説ページをご覧ください。

このため、お子さんにSCN1A変異が見つかった場合、ご両親に対しても単純な配列解析ではなく、高感度な検査でモザイクの有無を確認することが、家族計画や出生前診断の意思決定支援において推奨されるようになっています[12]。どの選択をするかはご家族それぞれであり、医師は正確な情報を中立的にお伝えする立場です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「1%」と「最大50%」のあいだで】

ご両親への遺伝カウンセリングを行う立場として、この親モザイクの話題は、近年最も重みを増したテーマのひとつだと感じています。「新生突然変異だから次はほぼ大丈夫」という従来の説明と、「親にモザイクがあれば最大50%」という新しい知見の間には、ご家族の人生を左右する大きな開きがあります。

だからこそ、結果を一方的に告げるのではなく、検査でわかること・わからないこと、数字の意味、そしてその先の選択肢を、時間をかけて一緒に整理することを大切にしています。正確な情報をお渡ししたうえで、最終的な決定はご家族にゆだねる——それが私たちの役割だと考えています。

10. 検査と診断:出生前と出生後で分けて理解する

遺伝学的な検査は「出生前」と「出生後」で目的も方法も大きく異なります。混同を避けるため、分けて理解することが大切です。

🤰 出生前の検査

非侵襲的スクリーニング:NIPT。単一遺伝子をカバーするインペリアルプラン(154遺伝子218疾患)にはSCN1Aが含まれます。

確定検査:絨毛検査・羊水検査+SCN1Aの個別解析。

👶 出生後の検査

乳児期発症の方:新生児てんかんNGSパネル(生後2年以内の発症が対象)。

2歳以降の発症:小児てんかんNGSパネル成人発症:思春期・成人発症てんかんパネル

いずれも配列解析+欠失・重複解析を併用します。

ドラベ症候群は乳児期に発症するため、出生後にてんかん発作で受診したお子さんでは、新生児てんかんパネルがSCN1Aを含む第一適合の検査になります。当院のNIPTでは互助会(8,000円)が全員に適用され、万一陽性となった場合の羊水検査費用が全額補助されます。NIPTの検査精度についてはCOATE法の解説もご参照ください。検査の前後には、結果の意味やご家族への影響を臨床遺伝専門医が丁寧にご説明します。出生前に見つけることが常に利益になるとは限らないため、検査を受けるかどうかも含め、決定はご家族にゆだねられます。

🏥 ドラベ症候群・SCN1Aのご相談

てんかんの遺伝子診断・出生前診断・遺伝カウンセリングは
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. ドラベ症候群は治りますか?

完全に発作が消える状態(発作消失)に至ることはまれで、現時点では「治す」よりも「重い重積を避け、発作を減らして発達への影響を最小限にする」ことが治療の目標です。ただし、フェンフルラミンなどの新薬や、原因に直接働きかけるアンチセンスオリゴ・遺伝子治療の開発が急速に進んでおり、認知や行動面まで改善しうる「疾患修飾」の可能性が現実味を帯びてきています。

Q2. なぜ「ナトリウムチャネルを抑える薬」を避けるのですか?

ドラベ症候群では、脳の「ブレーキ役」の神経にあるNav1.1チャネルが不足しています。ナトリウムチャネル遮断薬はこのブレーキ役をさらに抑えてしまい、興奮と抑制のバランスが崩れて発作が悪化します。カルバマゼピン・フェニトイン・ラモトリギン・オクスカルバゼピン・ルフィナミドなどが該当し、原則として使用を避けます。

Q3. 予防接種は受けてよいのですか?

発熱や予防接種が発作の「引き金」になることはありますが、ワクチンが病気の原因ではありません。かつて「ワクチン脳症」とされた症例の多くが、後にSCN1A変異によるドラベ症候群だったことが分かっています。接種を一律に控えるのではなく、発熱への備え(早めの解熱や頓用薬の準備)を整えたうえで、主治医と相談しながら判断することが大切です。

Q4. 次の子どもにも同じ病気が出る可能性はありますか?

多くは新生突然変異で、従来は再発リスク約1%程度と説明されてきました。ただし健康なご両親の7〜13%に同じ変異が低レベルの体細胞モザイクとして潜んでいることが分かっており、その場合は理論上最大50%まで上がりえます。次のお子さんを考える際は、ご両親への高感度なモザイク検査と遺伝カウンセリングをおすすめします。

Q5. SCN1A遺伝子検査が陰性だとドラベ症候群ではないのですか?

いいえ。原因の約80〜85%はSCN1Aですが、配列解析だけでは見逃される微小欠失があるため、MLPAなどの欠失・重複解析の併用が重要です。また日本の診断基準では、半身けいれん・焦点発作・ミオクロニー発作などの特徴の組み合わせ次第で、SCN1A陰性でも臨床的に「確定」とされる道が用意されています。

Q6. ケトン食はどのくらい効果がありますか?

ドラベ症候群では有効性が高く、導入後12週で約58〜79%の患者で発作が半分以下に減ると報告されています。効果は長期に持続することが多く、発作の抑制に加えて脳波や認知・運動機能の改善も報告されています。厳密な栄養管理が必要なため、専門の医療チームのもとで行います。

Q7. 出生前にドラベ症候群を調べることはできますか?

単一遺伝子をカバーするNIPT(インペリアルプランは154遺伝子218疾患をカバー)にSCN1Aが含まれており、出生前のスクリーニングは可能です。陽性の場合は羊水検査・絨毛検査による確定診断が選択肢となります。ただしドラベ症候群は表現型の幅もあり、出生前に見つけることが常に利益になるとは限らないため、受けるかどうかを含めて中立的な遺伝カウンセリングのもとでご判断いただきます。

Q8. ミネルバクリニックでは何をしてもらえますか?

当院は臨床遺伝専門医が、SCN1Aを含むてんかんの遺伝子診断、結果の解釈、ご両親のモザイク評価を含む遺伝カウンセリング、出生前診断の選択肢の整理などを担います。発作の管理そのものは小児神経の専門施設と連携して行うのが一般的で、必要に応じて適切な医療機関へのご紹介を行います。

参考文献

  • [1] Dravet syndrome. Orphanet. [Orphanet]
  • [2] ドラベ症候群(指定難病140). 厚生労働省. [厚生労働省 PDF]
  • [3] International consensus on diagnosis and management of Dravet syndrome. PMC. [PMC9543220]
  • [4] SCN1A Seizure Disorders. GeneReviews, NCBI Bookshelf. [GeneReviews NBK1318]
  • [5] Nav1.1 haploinsufficiency in excitatory neurons ameliorates seizure-associated sudden death in a mouse model of Dravet syndrome. PMC. [PMC3820136]
  • [6] フィンテプラ(フェンフルラミン)日本における承認情報. 日本新薬. [日本新薬]
  • [7] The Efficacy of Ketogenic Diet in Patients With Dravet Syndrome. Frontiers in Neurology. 2019. [Frontiers]
  • [8] The New England Journal of Medicine Publishes First Data to Demonstrate the Potential for Disease Modification in Dravet Syndrome (zorevunersen). Stoke Therapeutics / Biogen. 2026. [Stoke Therapeutics]
  • [9] EMPEROR: Phase 3 Study of Zorevunersen in Patients With Dravet Syndrome (NCT06872125). ClinicalTrials.gov. [ClinicalTrials.gov]
  • [10] A Clinical Study to Evaluate the Safety and Efficacy of ETX101 in Infants and Children With SCN1A-Positive Dravet Syndrome (NCT05419492). ClinicalTrials.gov. [ClinicalTrials.gov]
  • [11] Soticlestat as an adjunctive therapy in children and young adults with Dravet syndrome (SKYLINE). Epilepsia. 2026. [Epilepsia]
  • [12] Parental Mosaicism in “De Novo” Epileptic Encephalopathies. PMC. [PMC5966016]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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