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発達性てんかん性脳症6B(DEE6B・非Dravet型)とは|SCN1A遺伝子の機能獲得と治療の逆転

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

発達性てんかん性脳症6B(DEE6B・非Dravet型)は、SCN1A遺伝子の「機能獲得型」変異によって生後3か月までに発症する、極めて重い乳児期のてんかんです。最大の特徴は、Dravet症候群では発作を悪化させるとして絶対に避けるナトリウムチャネル遮断薬が、DEE6Bでは逆に著効する場合があるという点です。同じSCN1A遺伝子でも、変異が「働きを失わせる」のか「働きを過剰にする」のかで、選ぶべき薬が真逆になります。本記事では、この逆説のしくみから、症状・検査・治療・ご家族へのサポートまでを臨床遺伝専門医がやさしく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16分
🧬 SCN1A・機能獲得型変異・精密医療
臨床遺伝専門医監修

Q. 発達性てんかん性脳症6B(DEE6B)とはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. SCN1A遺伝子の「機能獲得型」変異により、生後6〜12週という極めて早い時期に難治性のてんかんと激しい不随意運動を起こす、重い神経発達症です。同じSCN1Aが原因でも、Dravet症候群(機能喪失型)とはしくみが正反対のため、Dravetで禁忌のナトリウムチャネル遮断薬が、DEE6Bでは第一選択になりうる点が決定的に異なります。だからこそ「SCN1A陽性」で終わらせず、変異がチャネルにどう働くかまで見極める精密医療が重要です。

  • 原因 → SCN1A(Nav1.1チャネル)の機能獲得型ミスセンス変異。多くは新生突然変異
  • 逆説のしくみ → 過剰興奮 →「脱分極ブロック」で抑制性ニューロンが沈黙 → 脳の抑制が外れる
  • 症状 → 生後3か月未満の難治てんかん+コレアテトーゼなどの激しい不随意運動+重度発達遅滞
  • 治療 → ラコサミドやカルバマゼピンなどのナトリウムチャネル遮断薬が著効した報告がある
  • → 遺伝子名の特定だけでなく「機能獲得か機能喪失か」の解釈が治療を左右する

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1. 発達性てんかん性脳症6B(DEE6B)とは

発達性てんかん性脳症6B(Developmental and Epileptic Encephalopathy 6B、略してDEE6B)は、乳児期のごく早い時期に発症する、非常にまれで重い神経発達症です。国際的な遺伝病データベースであるOMIMには「OMIM 619317」として登録されており、学術的には「非Dravet型のSCN1A関連てんかん性脳症」とも呼ばれます[4]。原因は、脳の神経細胞にあるナトリウムの通り道(チャネル)を作るSCN1A遺伝子の変化です。

長いあいだ、SCN1A遺伝子の異常といえば「機能喪失型」、つまりチャネルの働きが弱くなるタイプが中心で、その代表がDravet症候群(DEE6A、OMIM 607208)でした[5]。ところが近年、同じSCN1A遺伝子でも「機能獲得型」、すなわちチャネルが過剰に働くタイプの変異が、Dravet症候群とはまったく異なる、より早く・より重い病気を引き起こすことがわかってきました。それがDEE6Bです[2]

💡 用語解説:てんかん性脳症(はったつせいてんかんせいのうしょう)

「てんかん発作そのもの」や「絶え間ない脳の電気的な乱れ」が、脳の発達を直接さまたげてしまう状態をいいます。発作を抑えるだけでなく、発達への影響を最小限にすることが治療の目標になります。「発達性てんかん性脳症(DEE)」という呼び方は、発作と発達障害の両方が病気の本質であることを示しています。

💡 用語解説:電位依存性ナトリウムチャネル(Nav1.1)

神経細胞が電気信号(活動電位)を出すために、ナトリウムイオンを細胞内へ通す「ゲート付きの通り道」です。SCN1A遺伝子はそのうちNav1.1という種類を作ります。Nav1.1は、脳の興奮を「抑える側」の神経細胞(抑制性介在ニューロン)でとくに重要な役割を担っています。ここが正しく働かないと、脳全体の興奮と抑制のバランスが崩れ、てんかんが起こりやすくなります。

SCN1A遺伝子は2番染色体(2q24)にあり、DEE6Bは常染色体顕性(けんせい・旧称:優性)遺伝の形をとります。ただし報告例の大半は、ご両親には変異がなく、お子さんで初めて新しく生じた新生突然変異(de novo変異)です。Dravet症候群の原因変異の約半数がタンパク質を途中で切ってしまう「トランケーション変異」であるのに対し、DEE6Bを起こす変異の大部分はアミノ酸が1つ置き換わるミスセンス変異です。

💡 用語解説:ミスセンス変異

DNAの1文字(1塩基)が別の文字に変わることで、できあがるタンパク質のアミノ酸が1つだけ別のものに置き換わる変異です。タンパク質は作られ続けるため、その1か所の置き換わりによって、働きが「弱くなる(機能喪失)」ことも「強くなる(機能獲得)」こともあります。DEE6Bでは、この置き換わりがチャネルを過剰に働かせるスイッチになっている点が重要です。詳しくはミスセンス変異の解説ページもご覧ください。

2.「機能獲得」の逆説:なぜ働きすぎでてんかんになるのか

DEE6Bを理解するうえで最大の難関は、「なぜチャネルが働きすぎる(機能獲得)と、てんかん(脳の異常な興奮)が起こるのか」という、一見矛盾したしくみです。順を追って見ていきましょう。

Nav1.1チャネルは、脳の興奮を「抑える側」の神経細胞、とくにパルブアルブミン陽性ニューロン(PVニューロン)でよく働いています。Dravet症候群のような機能喪失型では、この抑制役のチャネルが弱り、抑制が足りなくなって脳が過剰に興奮します。これは比較的わかりやすい流れです[2]

ところが機能獲得型のDEE6Bでは、チャネルが通常より低い電位でも開きやすくなり、いったん閉じてもすぐ次の発火に備えてしまいます。一見すると、抑制役のPVニューロンが「がんばりすぎて」かえって脳の抑制が強まりそうにも思えます。しかし実際の神経細胞では、まったく逆のことが起こります。

💡 用語解説:脱分極ブロック

神経細胞は、ナトリウムが流れ込んで「脱分極」し、また元に戻る(再分極する)ことで電気信号をくり返し出せます。ところが機能獲得型ではナトリウムが流れ込みすぎて細胞が元に戻れなくなり、過剰興奮のあまり、かえって発火が完全に止まってしまう状態に陥ります。これを「脱分極ブロック」といいます。アクセルを踏みすぎてエンジンがかぶってしまうようなイメージです。

脱分極ブロックに陥ったPVニューロンは、発火を完全に停止します。抑える役目の細胞が「沈黙」してしまうため、脳の抑制が一気に外れ、強い脱抑制が起こります。これは機能的ドミナントネガティブ効果とも呼ばれ、単純にチャネルの数が半分に減るハプロ不全型のDravet症候群よりも、抑制系ネットワークが一気に・広範に破綻します。これがDEE6BがDravet症候群より早く・重く発症する力学的な土台です[2]

「働きすぎ」がてんかんを起こす逆説のしくみ 過剰興奮 → 抑制役の沈黙 → 脳の抑制が外れる ①機能獲得型変異 チャネルが開きやすい ②抑制役が過剰興奮 ナトリウムが 流れ込み続ける ③脱分極ブロック 発火が止まる ④抑制が外れる てんかん発作 が起こる 抑える役の神経細胞が「がんばりすぎて沈黙」することが、脳全体の暴走につながります

なお、DEE6Bでもっとも有名な変異であるT226M(p.Thr226Met)では、機能獲得(活性化が起きやすくなる変化)と機能喪失(不活性化も起きやすくなる変化)が入り混じった「混合型」の性質を示すことも報告されており、病態の複雑さに拍車をかけています[2]

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「SCN1A陽性」で終わらせないということ】

私は成人の遺伝性腫瘍や内科を中心に診療してきた臨床遺伝専門医ですが、変異の「機能解釈」がいかに治療を左右するかは、がん診療の領域でも日々痛感してきました。同じ遺伝子の同じ位置でも、置き換わるアミノ酸が違えば、結果として現れる病気がまるで別物になる——DEE6Bはその典型です。

遺伝子パネル検査で「SCN1A変異あり」と出ても、それがDravet型(機能喪失)なのかDEE6B型(機能獲得)なのかで、選ぶべき薬は正反対になります。だからこそ、検査結果を受け取ったご家族には、「遺伝子名がわかった」その先にある“変異の意味づけ”まで一緒に確認していくことの大切さを、いつもお伝えしています。

3. SCN1A変異がつくる疾患スペクトラム

SCN1A遺伝子の変異は、「働きをどれだけ・どちら向きに変えるか」によって、まったく異なる病気を生み出します。軽症の家族性熱性けいれん・熱性けいれんプラス(GEFS+)(OMIM 604403)から、重いDravet症候群まで、従来は「機能喪失の度合いが強いほど重くなる」一本道として理解されていました[5][6]

DEE6Bの発見は、この一本道に「機能獲得というもう一本の道」があることを明らかにしました。下の図のように、SCN1A変異は機能喪失側(GEFS+・Dravet)と機能獲得側(DEE6B・片頭痛)に大きく枝分かれします[2]

SCN1A遺伝子変異がつくる疾患スペクトラム 同じ遺伝子でも「働きの向き」で病気が枝分かれする SCN1A (Nav1.1チャネル) 機能喪失型(LOF) 機能獲得型(GOF) GEFS+・熱性けいれん (比較的軽症) Dravet症候群 (強い機能喪失) DEE6B(EIDEE) (軽〜中等度GOF) FHM3(片頭痛) (強い機能獲得) 同じSCN1A変異でも働きが真逆 → 選ぶべき薬も真逆になります

機能獲得側の中でも、効果が「軽〜中等度」だとDEE6B(てんかん)になり、「強い」と家族性片麻痺性片頭痛3型(FHM3)というてんかんではない別の病気になります。興味深いことに、同じ1498番目のアミノ酸でも、スレオニンに変わる(I1498T)とDEE6B、メチオニンに変わる(I1498M)とFHM3になることが報告されています[2]。置き換わるアミノ酸ひとつで運命が分かれるのです。

病態・症候群 変異の働き 発症時期 ナトリウムチャネル遮断薬
GEFS+・熱性けいれん 機能喪失(軽度) 乳幼児期 通常は不要
Dravet症候群(DEE6A) 機能喪失(重度・ハプロ不全) 生後5〜8か月 絶対禁忌(悪化のリスク)
DEE6B(EIDEE) 機能獲得(軽〜中等度・混合型あり) 生後6〜12週(極早期) 第一選択になりうる
FHM3(片麻痺性片頭痛) 機能獲得(強度・持続電流の増大) 小児期〜成人期 有効な可能性あり

DEE6Bを起こす機能獲得型変異の中で、もっとも詳しく研究されているのがT226M(エクソン5、c.677C>T)です。2017年のSadleirらの画期的な報告では、早期乳児発症のてんかん性脳症と激しい不随意運動を呈した9名のうち、実に8名がこのT226M変異を共有しており、残る1名はp.Pro1345Ser変異でした。これは強力な「遺伝子型と症状の相関」を示すものです[1]。なお、もっとも重い機能獲得型として、新生児期に先天性多発性関節拘縮(手足の関節が固まる)を伴うNDEEMAという病態も報告されていますが、これはDEE6Bでは通常みられません[2]

4. DEE6Bの症状:発作と過運動性運動障害

DEE6Bは、生後しばらくは見かけ上ふつうに見える短い時期を経て、生後数週から数か月でてんかん発作・激しい不随意運動・発達の停滞が三位一体となって現れます。以下、主な症状の領域を整理します。

⚡ てんかん発作

  • 平均生後9週(6〜12週)で発症
  • 半側間代発作・両側強直間代発作
  • てんかん性スパスム・焦点性発作
  • 多剤に抵抗性(難治)

💫 過運動性運動障害

  • コレア(舞踏運動)
  • アテトーゼ(ねじれる動き)
  • ジストニア(持続的なこわばり)
  • 口や舌の異常運動

🧠 発達・運動

  • 重度の知的障害・発達の退行
  • 意味のある言葉の獲得が困難
  • 自力歩行が困難
  • 体幹の強い筋緊張低下

🩺 随伴症状

  • 嚥下困難で胃瘻が必要なことが多い
  • 眼振・点頭痙攣などの眼の異常
  • 進行性の脳萎縮(経過とともに)
  • 側弯症を合併することがある

DEE6Bを他の病気から際立たせる最大の手がかりが、生後早期から現れる激しい不随意運動(過運動性運動障害)です。生後2〜20か月のあいだに、はじめは小さなピクつきとして静かに始まり、やがてコレア(流れるように動く舞踏運動)・アテトーゼ・ジストニア・口や舌のジスキネジアが複合的に現れます。これらは睡眠中は消えますが、目覚めた直後や興奮時に強まり、姿勢の保持や随意運動の獲得を大きくさまたげます[1]

💡 用語解説:コレアテトーゼ

「コレア(舞踏運動)」は、体幹・首・顔・舌・手足の筋肉を、不規則に流れるように動かしてしまう不随意運動です。「アテトーゼ」は、手足の先を中心にゆっくりねじれるように動く運動です。この2つが混ざった状態を「コレアテトーゼ」と呼びます。DEE6Bでは、てんかん発作が薬で抑えられた後も、てんかんとは別の動きの障害として残ることが多いのが特徴です。

発作の特徴も知っておくと役立ちます。Dravet症候群では「発熱で初回発作が誘発される」ことが目印になりますが、DEE6Bでは初期の強直・半側間代発作はかならずしも発熱と結びつかず、ワクチン接種を引き金にしたという報告もありません。とはいえ、発熱や高い環境温度は発作を悪化させうる増悪因子であり、報告例の多くで発熱・体温との関連がみられています。また、長く続くてんかん重積も、DEE6Bでは決してまれではなく高頻度にみられます[1]

5. 検査と診断(脳波・MRI・遺伝子検査)

DEE6Bの診断には、脳波・頭部MRI・遺伝子検査を組み合わせます。重要なのは、初期には脳波もMRIも「正常」に見えることがあるという点です。最初の検査が正常でも、この病気を否定する根拠にはなりません。

脳波(EEG)とMRIの経時的変化

脳波は、発症初期には明らかなてんかん性の波が出ず、背景活動も正常範囲のことがあります。しかし病気が進むと、左右に交互に現れる放電から、多焦点性の棘波、さらにはヒプスアリスミア(無秩序な高振幅の徐波)や二次的な全般化へと、ダイナミックに悪化していきます。頭部MRIも初期は正常か非特異的ですが、過酷な状態が長く続くと進行性の脳萎縮や、脳梁・海馬の低形成といった所見が現れることがあります[1]

出生後の遺伝子検査

極早期発症の難治てんかんでは、原因が多岐にわたるため、複数の遺伝子を一度に調べる次世代シーケンサー(NGS)パネル検査や全エクソーム解析が診断の決め手になります。生まれたあとは血液・唾液などで調べられます。DEE6Bは生後3か月未満の発症であるため、新生児てんかんNGSパネル検査(SCN1A・SCN2A・KCNQ2などを含む)が適しています。Dravet症候群との異同を確認したい場合はドラベ症候群NGSパネル検査も選択肢になります。

出生前の検査

「診断=出生前」と思われがちですが、出生前の検査と出生後の検査は目的も方法も異なります。SCN1Aは新生突然変異で生じることが多く、出生前のスクリーニングとしては、単一遺伝子疾患を対象とするNIPTインペリアルプランにSCN1Aが含まれています。陽性であった場合の確定診断は、絨毛検査・羊水検査による出生前遺伝子診断が選択肢となります。

💡 NIPTと互助会について

当院のNIPTを受けられる方には、互助会(8,000円)により、陽性となった場合の羊水検査費用が全額補助されます。互助会制度があるため、万一陽性となっても確定検査の費用面で安心して進めていただけます。

一方で、DEE6Bのように表現型の幅が広く重い病気では、出生前に見つけることが常に利益になるとは限りません。検査を受けるかどうか、結果をどう受け止めるかは、遺伝カウンセリングでよく話し合い、ご家族で決めていただくことが何より大切です。詳しくは互助会のページもご覧ください。

6. 似た病気との見分け方(鑑別診断)

乳児期早期に発症するてんかん性脳症は数多くあり、見分けるには症状の丁寧な観察と遺伝子検査が欠かせません。とくに重要な鑑別を整理します。

疾患(原因) 特徴 DEE6Bとの違い
Dravet症候群(SCN1A・機能喪失) 生後5〜8か月、発熱で誘発される遷延発作、幼児期以降の運動失調 発症がより遅く、ナトリウムチャネル遮断薬は禁忌
KCNQ2関連てんかん 新生児期(生後数日)発症、無呼吸を伴う強直発作、サプレッション・バースト 発症がさらに早い。一部はチャネル遮断薬が著効
大田原症候群(複数遺伝子) 生後1か月以内、てんかん性スパスム、サプレッション・バースト 激しいコレアテトーゼは目立たないことが多い

とくにKCNQ2関連てんかんは、発症がさらに早い・強直発作や無呼吸を伴う・ナトリウムチャネル遮断薬が有効なことがある、という点でDEE6Bと似た面があります。だからこそ、分子遺伝学的な確定診断によって原因遺伝子と変異の働きを正確に見極めることが、適切な治療への第一歩になります[1]

7. 治療の逆転:ナトリウムチャネル遮断薬が第一選択になりうる

DEE6B治療の最大のポイントは、「SCN1A変異=ナトリウムチャネル遮断薬は禁忌」という従来の常識が、ここでは逆転することです。

💡 用語解説:ナトリウムチャネル遮断薬(SCB)

ラモトリギン・カルバマゼピン・フェニトイン・オキシカルバゼピン・ラコサミドなど、ナトリウムチャネルの働きを抑えるタイプの抗てんかん薬の総称です。Dravet症候群(機能喪失型)では、辛うじて働く抑制性ニューロンの活動まで止めてしまい発作を悪化させるため絶対禁忌とされます。ところが機能獲得型のDEE6Bでは、過剰に働くチャネルを直接抑えるため、むしろ理にかなった治療になりうるのです。

Dravet症候群に対しては、ナトリウムチャネル遮断薬ではなく、フェンフルラミン・スチリペントール・カンナビジオールといった別の作用の薬が標準治療です。これに対しDEE6Bでは、過剰興奮が脱分極ブロックを招いて抑制系を破綻させている病態に、ナトリウムチャネルの過活動を直接抑える遮断薬が論理的かつ効果的な第一選択になりえます。実際、機能獲得型変異を集めた研究では、81%(16例中13例)でナトリウムチャネル遮断薬により発作が減り、悪化はみられなかったと報告されています[2]

T226M変異例での劇的な治療経過

2023年に報告されたNajera Chavezらの詳細な症例報告は、この治療戦略の威力を示しました。生後9週から発作が始まり、レベチラセタム・ビタミンB6・フェノバルビタール・ケトン食・クロバザムなどに反応せず、毎日3〜6回の難治発作に苦しんでいた男児に対し、遺伝子検査でT226M変異を確認したうえでラコサミドを導入したところ発作が消失。さらに脳波の異常を抑えるためにカルバマゼピンを追加すると脳波も改善し、生後17か月の時点で発作消失を維持していました[3]

T226M変異例の治療経過(生後9週〜17か月)

ナトリウムチャネル遮断薬の導入で発作が消失し、脳波も改善した経過

生後9週〜:発作発症

交代性の半側間代発作・右手のミオクロニー。初期治療に反応せず。

〜7か月:多剤抵抗性

フェノバルビタール・ケトン食・クロバザムも一時的効果のみ。毎日3〜6回の発作。

9〜11か月:ラコサミド導入

発作の頻度・強度が劇的に低下し、てんかん発作が完全に消失。

11か月:カルバマゼピン追加

脳波上のてんかん性異常波が著明に減少し、背景脳波も改善。

17か月:寛解の維持

発作消失を維持し、脳症パターンも消失。感覚運動発達に明らかな改善(不随意運動は残存)。

ただし注意点もあります。DEE6Bのような機能獲得型に対し、Dravet症候群向けに開発が進む「SCN1Aの働きを高める・増やす治療」(アンチセンスオリゴヌクレオチドや発現増強療法など)を誤って使うと、すでに過剰な状態をさらに悪化させる危険があります。つまり、遺伝子パネルで「SCN1A陽性」と出るだけでは不十分で、変異がチャネルにどう働くかまで評価して個別化することが極めて重要なのです[2]。なお、ここで挙げた薬剤や使い方は専門施設での個別判断によるものであり、本記事は特定の治療を推奨するものではありません。

8. 予後・ご家族へのサポート・遺伝カウンセリング

DEE6Bの予後は現在の医療水準でも厳しく、抗てんかん薬による発作のコントロールは第一歩にすぎません。患者さんとご家族は生涯にわたる多面的な困難に向き合うため、さまざまな専門職による包括的な支援が欠かせません。

💡 用語解説:SUDEP(てんかんにおける予期せぬ突然死)

外傷や溺水などの明らかな原因がないのに、てんかんのある方が突然亡くなってしまう現象です。致死的な不整脈や重い呼吸抑制が関わると考えられています。DEE6BはSUDEPのリスクが高い疾患群に含まれ、報告例の中には10歳でSUDEPにより亡くなった患者さんもいます。発作を確実にコントロールすることは、発達を促すだけでなく、命を守るうえでも重要です。

日常の管理では、複数の専門職による集学的なケアが必要です。重い不随意運動や筋緊張低下のため経口摂取が困難なことが多く、早めの胃瘻造設が栄養と体力を保つ生命線になります。筋緊張や姿勢に対する理学療法・作業療法、発語が難しい場合の代替・拡大コミュニケーション(AAC)を含む言語聴覚療法、そして24時間体制の介護を支えるレスパイトケアや患者家族会への接続も大切です[1]

遺伝形式と再発リスク

DEE6Bの多くは新生突然変異(de novo変異)で生じ、ご両親には同じ変異がないことが大半です。この場合、きょうだいへの理論上の再発リスクは一般の方とほぼ同程度とされます。ただし、ご両親のごく一部の細胞や生殖細胞にだけ変異が潜む性腺(生殖細胞系列)モザイクの可能性はゼロではないため、次のお子さんを考える際には個別の遺伝カウンセリングが役立ちます。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【de novoと向き合うご家族へ、中立の立場から】

DEE6Bは乳児期に発症する病気で、私自身が小さな患者さんを直接診療する立場にはありません。けれども、成人の遺伝性腫瘍のご家族に「あなたのせいではない」とお伝えしてきた遺伝カウンセリングの経験は、新生突然変異と向き合うご家族にもそのまま地続きだと感じています。「親から遺伝したのではないか」という自責は、多くの場合、正しい情報で和らげることができます。

私たち臨床遺伝専門医の役割は、検査を勧めることでも、安心を約束することでもありません。何がわかり、何がまだわからないのかを正直にお伝えし、検査を受けるか・結果をどう活かすかをご家族自身が選べるように、非指示的に伴走することです。重い病気だからこそ、「決めるのはご家族」という原則を大切にしています。

9. よくある誤解

誤解①「SCN1Aの異常はぜんぶDravet症候群」

SCN1A変異は機能喪失型(Dravet・GEFS+)だけでなく、機能獲得型(DEE6B・片頭痛)もあります。発症時期も症状もしくみも異なり、治療方針は正反対になります。

誤解②「SCN1Aだからチャネル遮断薬は絶対ダメ」

Dravet症候群(機能喪失)では禁忌ですが、機能獲得型のDEE6Bではナトリウムチャネル遮断薬が著効した報告があります。変異の働きを評価してから判断します。

誤解③「不随意運動は発作の一種」

DEE6Bのコレアテトーゼやジストニアは、てんかんとは別の動きの障害です。発作が抑えられた後も残ることが多く、リハビリなど別のケアが必要です。

誤解④「最初の脳波・MRIが正常なら否定できる」

初期は脳波もMRIも正常に見えることがあります。正常所見はDEE6Bを否定しません。症状の経過と遺伝子検査による確定診断が重要です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【分子の言葉を読み解く時代へ】

「SCN1A遺伝子変異=Dravet症候群=ナトリウムチャネル遮断薬は禁忌」というかつての単純な図式は、もはや過去のものになりつつあります。同じ遺伝子でも、それが機能獲得を起こすのか機能喪失を起こすのかで、細胞レベルの病態も、選ぶべき薬も、まったく異なるのです。

臨床遺伝専門医として文献を読むたびに、私はこの分野の進歩に胸を打たれます。極早期の特徴的な発作と不随意運動を見逃さず、変異の働きまで解釈して適切な薬を選べれば、過酷な発作の連鎖を断ち切れる道が開かれつつあるからです。この記事が、ご家族や医療職の方が「いま何が分かってきているのか」を知る一助になればと願っています。

よくある質問(FAQ)

Q1. DEE6BとDravet症候群は何が違うのですか?

どちらもSCN1A遺伝子が原因ですが、変異の働きが正反対です。Dravet症候群は機能喪失型で生後5〜8か月に発症し、ナトリウムチャネル遮断薬は禁忌です。DEE6Bは機能獲得型で生後6〜12週とより早く発症し、激しい不随意運動を伴い、ナトリウムチャネル遮断薬が第一選択になりうる点が決定的に異なります。

Q2. なぜチャネルが「働きすぎる」とてんかんになるのですか?

機能獲得型では、脳の興奮を抑える役割のニューロンが過剰に興奮し、ナトリウムが流れ込みすぎて「脱分極ブロック」という状態に陥ります。すると抑える役のニューロンが発火を止めてしまい、結果として脳の抑制が外れて発作が起こります。アクセルを踏みすぎてエンジンがかぶるような現象です。

Q3. ナトリウムチャネル遮断薬は必ず効きますか?

必ず効くと保証できるものではありません。機能獲得型変異を集めた研究では81%(16例中13例)で発作の減少が報告されていますが、変異の種類や混合型の性質によって反応はさまざまです。実際の薬剤選択は、変異の機能解釈や症状を踏まえ、専門施設で慎重に個別判断されます。

Q4. ミネルバクリニックでDEE6Bの治療はできますか?

当院は臨床遺伝専門医が原因遺伝子の同定と遺伝カウンセリングを担う医療機関です。DEE6Bのような乳児期発症てんかんの治療は、小児神経の専門施設で行われるのが一般的です。当院では遺伝子検査・変異の解釈・ご家族へのカウンセリングを通じて、適切な治療施設につなぐお手伝いができます。

Q5. DEE6Bは遺伝するのですか?次の子も同じ病気になりますか?

多くは新生突然変異(de novo変異)で、ご両親には同じ変異がありません。その場合、きょうだいへの理論上の再発リスクは一般の方とほぼ同程度です。ただし、ご両親の生殖細胞にだけ変異が潜む性腺モザイクの可能性はゼロではないため、次のお子さんを考える際は遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q6. 出生前にDEE6Bを調べることはできますか?

単一遺伝子疾患をカバーするNIPTのインペリアルプランにSCN1Aが含まれており、出生前のスクリーニングは可能です。陽性の場合は羊水検査・絨毛検査による確定診断が選択肢になります。ただし、表現型の幅が広く重い病気では出生前に知ることが常に利益とは限らないため、検査を受けるかどうかは遺伝カウンセリングでよく話し合い、ご家族で決めていただくことをお勧めします。

Q7. 発作が止まれば不随意運動も治りますか?

DEE6Bのコレアテトーゼやジストニアは、てんかんとは別のしくみによる動きの障害です。報告例でも、薬で発作が消失した後も不随意運動が残ることが多く、リハビリテーションをはじめとする継続的なケアが必要になります。発作のコントロールと運動障害のケアは、それぞれ別の目標として取り組みます。

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参考文献

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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