この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

新生児てんかんの遺伝子検査(新生児てんかんパネル)は、生まれてすぐから乳児期に始まったけいれん・てんかんの原因になりうる285の遺伝子を、1回の検査でまとめて調べる検査です。新生児けいれんの多くはてんかんではありませんが、早い時期に始まるてんかん、とくにてんかん性脳症では、遺伝子に原因が見つかる割合が高いことがわかっています。原因の遺伝子がわかると、効きやすい薬やビタミンB6・ケトン食などの治療が変わることがあり、次のお子さんへ遺伝する確率も具体的に考えられるようになります。このページでは、新生児てんかん・大田原症候群・点頭てんかんと遺伝子の関係、この検査でわかること・わからないこと、結果が出たあとにできることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
生まれてすぐ〜乳児期に始まるてんかんの原因になりうる285の遺伝子に、病気の原因となる変化がないかを調べます。KCNQ2・SCN2A・STXBP1・ALDH7A1(ビタミンB6依存性てんかん)・SLC2A1(GLUT1欠損症)などが含まれます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
新生児期・乳児期にけいれんやてんかんが始まった赤ちゃん、とくに薬が効きにくい、発達の遅れもある、大田原症候群や点頭てんかんと言われた場合です。ご家族に同じようなてんかんの方がいる場合にも向きます。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査料は330,000円(税込)、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかれば治療の選び方・ご家族の検査・次のお子さんへの確率を具体的に考えられます。意義がまだわからない変化(VUS)が見つかることもあります。
1. 新生児てんかん・新生児けいれんとは
新生児てんかん・乳児てんかんは、生まれてすぐから乳児期に始まるてんかんの総称です。国際抗てんかん連盟(ILAE)の2022年の分類では、生まれてから2歳までに始まるてんかん症候群をひとまとめに整理しています[1]。このパネル検査は、この時期に始まるてんかんの原因になりうる遺伝子を集めたものです。
新生児けいれんと「てんかん」の違い
新生児期にけいれんが起きても、多くはてんかんではありません。米国の7つの小児病院で、けいれんを起こした新生児611人を続けて登録した研究では、そのうちてんかんと診断されたのは79人(13%)でした[2]。けいれんのように見える動きには、病気ではないものも含まれます。ただし、新生児のけいれんが疑われるときは、てんかんかどうかにかかわらず、速やかに小児科・救急医療機関で診察を受けてください。呼吸がおかしい、顔色が悪い、反応が乏しい、発作が続く場合は救急要請が必要です。動画は、安全を確保でき、受診を遅らせない範囲で撮影すると、診断の手がかりになります。
同じ研究で、てんかんだった79人の内訳は、てんかん性脳症35人、脳の形の異常32人、良性家族性新生児てんかん11人、良性新生児けいれん1人でした[2]。つまり、新生児てんかんの中には、自然におさまる型と、発達に影響する重い型の両方があります。熱で起きるけいれんとの違いは熱性けいれんと遺伝的要因で解説しています。
新生児・乳児期に始まるてんかんの種類
ILAEの2022年の分類では、この時期のてんかん症候群は、大きく「自然におさまるてんかん」と「発達性てんかん性脳症(DEE)」に分けられています。古い呼び名もあわせて整理すると、次のようになります[1]。
🧠 新生児・乳児期に始まる主なてんかん症候群(ILAE 2022年の分類)
ILAEは「良性」という言葉を「自然終息性(自然におさまる)」に置き換えています[1]。
大田原症候群は、今の分類では「早期乳児発達性てんかん性脳症(EIDEE)」に含まれます。ILAEは、EIDEEでは半数を超える患者さんで原因となる遺伝子の変化が見つかるとしています[1]。発達性てんかん性脳症は、発作そのものと、もともとの原因の両方が発達に影響する病気のまとまりで、発達性てんかん性脳症(DEE)総論でくわしく解説しています。
2. 新生児てんかんは遺伝する?原因の遺伝子
新生児・乳児期に始まるてんかんでは、遺伝子1つの変化が原因になっていることが少なくありません。ただし、その変化は親から受け継いだものとは限らず、お子さんで新しく起きたものであることもあります。「遺伝子が原因」と「親から遺伝した」は、同じ意味ではありません。
遺伝子が原因になりやすいのはどんなときか
前の章の米国の研究では、てんかん性脳症の新生児35人のうち29人が遺伝子検査を受け、24人(83%)で遺伝的な原因が見つかりました。最も多かったのはKCNQ2遺伝子の変化(10人)でした。良性家族性新生児てんかんで検査を受けた6人では、3人にKCNQ2、1人にKCNQ3の病的な変化が見つかっています[2]。
英国スコットランドで、3歳になる前にてんかんを発症したお子さんを地域全体で調べた研究では、遺伝子検査を受けた333人のうち80人(24%)で診断につながる遺伝子の変化が見つかりました。遺伝子が原因のてんかんは出生2,120人に1人と推定され、生後6か月より前に発症したことが、遺伝子の診断がつくことと関係していました[3]。始まりが早いほど、遺伝子に原因が見つかる可能性が高くなることが、ここから読み取れます。
この研究で多かった遺伝子は、PRRT2(出生9,970人に1人)、SCN1A(12,200人に1人)、KCNQ2(17,000人に1人)、SLC2A1(24,300人に1人)でした[3]。4つとも、このパネルの対象に入っています。
新しく起きた変化(de novo)と、親から受け継ぐ変化
遺伝子の変化には、親から受け継いだものと、お子さんで新しく起きたもの(de novo変異(新生突然変異))があります。重い発達性てんかん性脳症では、ご両親には同じ変化が見つからず、お子さんで新しく起きた変化であることがあります。その場合、原因はご両親の生活や妊娠中の過ごし方のせいではありません。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。
一方で、自然終息性家族性新生児てんかんのように、名前のとおりご家族に同じてんかんの方がいる型もあります[1]。どちらに当たるかは、お子さんの検査と、必要に応じてご両親の検査で確かめます。親から子へどう伝わるかの基本は、遺伝形式・常染色体顕性(優性)遺伝・常染色体潜性(劣性)遺伝・X連鎖遺伝で解説しています。
3. この検査を受けるとよい方
新生児期・乳児期にけいれんやてんかんが始まり、原因を知りたい方に向く検査です。とくに薬が効きにくいとき、発達の遅れがあるとき、大田原症候群や点頭てんかんと言われたときは、原因の遺伝子が見つかる可能性が高くなります。原因がわからないまま検査や治療を重ねる時間を、1回の検査で短くできる可能性があります。
受けるとよい場面
- ●新生児期・乳児期にてんかんと診断された、またはくり返すけいれんがある
- ●抗てんかん薬を使っても発作が止まりにくい
- ●発達の遅れや、できていたことができなくなる(後戻り)がある
- ●大田原症候群・早期ミオクロニー脳症・点頭てんかん(ウエスト症候群)・遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんなどと言われた
- ●MRIや代謝の検査などで原因がわからなかった
- ●ご家族に、乳児期に始まったてんかんの方がいる
発症年齢・型で選ぶ(ほかの検査との選び分け)
当院のてんかんの遺伝子検査は、発症した年齢と型で選べるようになっています。治療に直結する遺伝子をできるだけ早く調べたい場合も、このパネル(新生児・乳児期に始まった場合)か、てんかん包括的遺伝子検査を選びます。どちらにも、わかると治療が変わる主な遺伝子が含まれています。
🔍 発症年齢・型で選ぶ、てんかんの遺伝子検査
※どの検査が合うかは、発症の時期・発作の型・脳波やMRIの所見・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
この検査より別の検査が向いている場合
てんかん以外の症状も多く、病気をしぼれない場合は全エクソーム検査(WES)が向くことがあります。代謝の病気がはっきり疑われる場合は、ツェルウェガー症候群(ペルオキシソーム形成異常症)のパネル・ライソゾーム病NGS遺伝子パネル検査・核遺伝子ミトコンドリア病NGS遺伝子検査など、病気のまとまりごとの検査も選べます。てんかんと発達の遅れが一緒にある場合は、発達障害の遺伝子検査・知的障害の遺伝子検査・自閉症遺伝子検査もあわせてご検討ください。
なお、新生児けいれんの原因には、遺伝子以外のもの(出産のときの脳への負担・感染・脳の出血など)も多くあります。遺伝子検査は、主治医の診察・脳波・MRI・血液や代謝の検査の代わりにはなりません。それらと組み合わせて、原因を探す手がかりの1つとしてお使いください。
4. 調べる遺伝子(285遺伝子)と関係する病気
この検査では、新生児・乳児期に始まるてんかんの原因として報告されている285の遺伝子を、次世代シークエンサーで一度に調べます。カリウムやナトリウムなどの通り道(イオンチャネル)の遺伝子、神経と神経のつなぎ目(シナプス)で働く遺伝子、代謝の遺伝子、脳の形づくりに関わる遺伝子などが含まれています。
原因がわかると治療が変わる主な遺伝子
このパネルの遺伝子のうち、原因がわかると薬や治療の選び方が変わることが論文やガイドラインで示されているものの例です。治療の判断は、主治医・専門の医療機関で行います。当院はてんかんの治療や薬の処方は行っていません。
💊 わかると治療が変わる主な遺伝子(例)
※薬の効き方には個人差があり、同じ遺伝子でも変化の種類で変わります。上の表は「変わりうること」の例で、効果を保証するものではありません。
そのほかの主な遺伝子と、関係する病気
この時期のてんかんでよく知られる遺伝子と、当院の解説ページです(遺伝子名をクリックすると遺伝子のページ、病名をクリックすると病気のページが開きます)。
🧬 主な遺伝子と、当院の解説ページがある病気
※このほかの遺伝子と病気の対応は、遺伝カウンセリングで、お子さんの症状に合わせてご説明します。PEX1のほか、PEX2・PEX6・PEX12などのPEX遺伝子もペルオキシソーム形成異常症に関わります。
285遺伝子の一覧
このパネルで調べる285遺伝子の一覧です(下線の付いた遺伝子は、当院に遺伝子の解説ページがあります)。QARSの今の正式な名前はQARS1です。
🧬 新生児てんかんパネルの対象遺伝子(285遺伝子)
ABAT, ABCC8, ACY1, ADAR, ADSL, AKT3, ALDH4A1, ALDH5A1, ALDH7A1, ALG1, ALG12, ALG13, ALG2, ALG3, ALG6, ALG8, ALG9, AMT, ARG1, ARHGEF9, ARL13B, ARSA, ARSB, ARX, ASAH1, ASNS, ASPA, ATIC, ATP1A2, ATP6AP2, ATP7A, ATRX, AUH, B4GALT1, BCKDK, BCS1L, BOLA3, BRAF, BRAT1, BTD, BUB1B, C12orf57, CACNA1A, CACNA1H, CASK, CASR, CC2D2A, CCDC88C, CDKL5, CENPJ, CEP290, CHD2, CHRNA2, CHRNA4, CHRNB2, CLCN4, CLN8, CNTNAP2, COG7, COG8, COL4A1, COQ2, COQ8A, COQ9, COX10, COX15, CPA6, CPT2, CTSD, CUX2, CYFIP2, DCX, DEPDC5, DHCR7, DHFR, DLD, DNM1, DOCK7, DOLK, DPAGT1, DPM1, DPM2, DPYD, DYRK1A, EEF1A2, EIF2B1, EIF2B2, EIF2B3, EIF2B4, EIF2B5, EMX2, FARS2, FGFR3, FH, FOXG1, FUCA1, GABRA1, GABRB3, GABRD, GABRG2, GALC, GAMT, GATM, GCDH, GCSH, GFAP, GLB1, GLDC, GLI2, GLI3, GLRA1, GLRB, GLUD1, GNAO1, GOSR2, GPHN, GRIA3, GRIN1, GRIN2A, GRIN2B, GRIN2D, HCN1, HECW2, HEXA, HEXB, HNRNPU, HRAS, HSD17B10, IDS, IQSEC2, IRF2BPL, KANSL1, KCNA1, KCNA2, KCNB1, KCNH5, KCNJ10, KCNJ11, KCNMA1, KCNQ2, KCNQ3, KCNT1, KCTD7, KDM6A, KMT2D, L2HGDH, LAMA2, LIAS, LRPPRC, MAP2K1, MBD5, MDH2, MECP2, MED12, MED17, MEF2C, MFSD8, MGAT2, MLC1, MOCS1, MOCS2, MOGS, MPDU1, MTOR, NDE1, NDUFA1, NDUFA2, NDUFS1, NDUFS3, NDUFS4, NDUFS7, NDUFS8, NDUFV1, NECAP1, NEDD4L, NEU1, NEXMIF, NF1, NGLY1, NPC1, NPC2, NRXN1, NSD1, OFD1, OPHN1, PAFAH1B1, PC, PCDH19, PDHA1, PDSS2, PEX1, PEX12, PEX14, PEX2, PEX26, PEX3, PEX5, PEX6, PHF6, PIGA, PIGO, PIGV, PLA2G6, PLCB1, PLP1, PLPBP, PMM2, PNKP, PNPO, POLG, POMGNT1, POMT1, POMT2, PPP3CA, PPT1, PRICKLE1, PRODH, PRRT2, PSAP, PURA, QARS, QDPR, RARS2, RFT1, RNASEH2A, RNASEH2B, RNASEH2C, ROGDI, SAMHD1, SCN1A, SCN1B, SCN2A, SCN3A, SCN8A, SCN9A, SCO2, SDHA, SETBP1, SHH, SIK1, SLC12A5, SLC13A5, SLC17A5, SLC19A3, SLC25A12, SLC25A15, SLC25A22, SLC2A1, SLC35A2, SLC6A1, SLC6A8, SLC9A6, SMARCA2, SMS, SNAP25, SPTAN1, ST3GAL5, STX1B, STXBP1, SUMF1, SUOX, SURF1, SYNGAP1, SZT2, TBC1D24, TBL1XR1, TBX1, TCF4, TMEM70, TPP1, TSC1, TSC2, TSEN2, TSEN34, TSEN54, TUBA1A, TUBA8, TUBB2A, TUBB2B, TWNK, UBE2A, UBE3A, UNC80, WWOX, ZEB2
5. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、285遺伝子の中の小さな変化(1文字の置き換わり・小さな抜けや入り込み)と、遺伝子まるごと、または続いた複数の部分(エクソン)が抜けたり増えたりする変化です。一方で、どんな遺伝子検査にも必ず限界があります。
わかる変化
- ●遺伝子の文字(塩基)の1文字の置き換わりや、小さな抜け・入り込み(調べる範囲は、たんぱく質の設計図になる部分と、そのつなぎ目)
- ●遺伝子まるごとの欠失・重複(血液・頬の粘膜の検体)と、2つ以上続いたエクソンの欠失・重複(血液の検体のみ)
- ●見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します
- ●読み取り範囲と深さ:対象の領域の99%以上を、20回以上くり返し読み取ります
わからない変化
- ●染色体の一部が入れ替わる変化(転座・逆位)、同じ配列のくり返しが長くなる変化(リピート伸長)
- ●遺伝子のスイッチ部分(プロモーター)の多くや、エクソンから離れた深い部分(イントロン)の変化
- ●体の一部の細胞にだけ変化がある状態(モザイク)は、検出を目的にしていません
- ●1つのエクソンだけの欠失・重複は、ふだんは検出できません
- ●ALG1遺伝子のエクソン6〜13はよく似た配列があるため見つけにくく、MECP2遺伝子のエクソン1だけの欠失・重複は検出が難しいとされています
- ●このパネルに入っていない遺伝子(てんかんの原因遺伝子は今も新しく見つかっています)
⚠️ 陰性でも「遺伝子が原因ではない」とは言い切れません
病的な変化が見つからなくても、この検査で検出できない変化や、まだ見つかっていない遺伝子が原因である可能性は残ります。また、遺伝子以外の原因(脳への一時的な負担・感染・代謝など)も考えます。診断は、症状・脳波・MRIなどの検査とあわせて行います。
意義がまだわからない変化(VUS)と、二次的所見
病気の原因かどうか、まだ判断できない変化が見つかることがあります。これをVUS(臨床的意義不明のバリアント)といいます。VUSだけで診断を決めたり、ご家族の発症リスクや保因の有無を判定したりはしません。ただし、VUSの意味を調べるために、ご両親などの検査を行うことはあります(VUSの臨床的な取り扱い)。VUSを報告に含めないオプション(VUS除外・無料)もあります。調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。
6. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。原因が見つかったとき・見つからなかったとき・VUSのときで、次にできることが違います。
病的変異が見つかったら、次にできること
原因の遺伝子がわかると、お子さんの治療、ご家族の検査、次のお子さんの計画の3つについて、具体的に考えられるようになります。わかるだけで終わらせず、次の一歩までを一緒に考えます。
- ●①お子さんご本人:病名がはっきりし、効きやすい薬・避けたほうがよい薬、ビタミンB6やケトン食などの治療が変わることがあります(第4章の表)。見張るべき合併症や、使える制度(第7章)も決まります。治療は主治医・専門の医療機関で行います。
- ●②ご両親・きょうだい:ご両親が同じ変化を持っているかを、その場所だけ調べられます。お子さんで新しく起きた変化(de novo)か、受け継いだ変化かがわかると、次のお子さんへの確率が変わります。症状のないご家族の検査は、ご本人の同意で行います。
- ●③次のお子さんを考えるとき:自然に妊娠して出生前診断を受ける、NIPTで調べられる遺伝子ならNIPTを考える、PGT-M(着床前遺伝学的検査)を考える、特別な検査はせずに出産する、のいずれも、ご家族が選べる選択肢です。どれを選んでも尊重します。
- ●④当院でのその後:結果のご説明のあとも、遺伝カウンセリングで続けてご相談いただけます(料金は第8章)。
次のお子さんで同じことが起こる確率
次のお子さんで同じ病気が起こる確率は、原因の遺伝子と遺伝のしかたで大きく変わります。遺伝学の基本として、次のように考えます。
👪 遺伝のしかたと、次のお子さんへの確率(基本の考え方)
※実際の確率は、ご家族の検査結果をもとに、遺伝カウンセリングで個別にご説明します。
お子さんで新しく起きた変化に見えても、親御さんの卵子や精子のもとになる細胞(生殖細胞)にだけ変化がある「性腺モザイク」のことがあります。変化をもつ生殖細胞からできる卵子・精子は2分の1の確率で変化を受け継ぎます。生殖細胞のうちどれくらいが変化をもつかは実際の診療では調べられないため、お子さん1人あたりの確率は『最大で2分の1』とお伝えしています。血液で親御さんに変化が見つからなかったことだけで、「次は大丈夫」と小さく見積もらないことが大切です。
妊娠を考えているご家族へ:出生前診断・NIPT・保因者検査
絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断しますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。全体を調べる方法として出生前全エクソーム(WES)・出生前全ゲノム(WGS)もあります。
新しく起きた変化(de novo)による病気の一部は、当院のNIPTでも調べられます。このパネルの遺伝子のうち、ダイヤモンドプランとインペリアルプランの両方で調べられるのはBRAF・CDKL5・FGFR3・HRAS・KMT2D・MAP2K1・MECP2・NSD1・TSC1・TSC2の10遺伝子、ダイヤモンドプランだけはGLI3、インペリアルプランだけはAKT3・ATP1A2・CACNA1A・CASK・CHD2・COL4A1・DNM1・DYRK1A・FOXG1・GABRA1・GFAP・GNAO1・GRIN1・GRIN2B・HNRNPU・KANSL1・KCNB1・KCNQ2・KCNT1・MEF2C・NF1・PURA・SCN1A・SCN2A・SCN8A・SETBP1・SMARCA2・SPTAN1・STXBP1・SYNGAP1・TBL1XR1・TCF4・TUBA1A・TUBB2A・ZEB2の35遺伝子です。当院のNIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。陽性なら確定検査(羊水検査・絨毛検査)を院内で受けられます。上にない遺伝子は、NIPTでは調べられません。くわしくはNIPTのページをご覧ください。
ピリドキシン依存性てんかん(ALDH7A1)のような常染色体潜性遺伝の病気では、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかが大切になります。妊娠の前なら拡大版保因者スクリーニング、妊娠中ならNIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査ファミリーセーフティ プラスがあります(その遺伝子が対象かどうかは、それぞれの遺伝子一覧でご確認ください)。
日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-Mが行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-M(着床前診断)を考えている方へで解説しています。
原因が見つからなかったとき
病的な変化が見つからなくても、原因が遺伝子にないとは言い切れません(第5章)。症状によっては、てんかん包括的遺伝子検査や全エクソーム検査で範囲を広げることを考えます。研究が進むと、のちに新しい原因遺伝子がわかることもあります。
VUSが見つかったとき
VUSは、それだけで診断やご家族の発症リスク・保因の有無の判定には使いません。ただし、その意味を調べるために、ご両親などの検査を行うことはあります。ご家族の検査結果やお子さんの症状とあわせて意味を考え、研究が進んで意味がはっきりすることもあります。
7. 日本の制度(2026年10月時点)
新生児・乳児期に始まる重いてんかんのいくつかは、国の指定難病になっています。難病情報センターでは、ウエスト症候群(指定難病145)、大田原症候群(指定難病146)、早期ミオクロニー脳症(指定難病147)、遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん(指定難病148)のページが公開されています(2026年10月時点で確認)。遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんの診断基準には、KCNT1・SCN1A・SCN2Aなどの遺伝子の変化が報告されていることが書かれています。
医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。小児慢性特定疾病の対象かどうかも含めて、認定の基準や申請の方法は、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
8. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査料は330,000円(税込)、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、オンライン診療で遺伝カウンセリングを受けたあと、検体をお送りいただくこともできます。
ご予約
▶
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
▶
検体の採取血液・唾液・頬の粘膜
▶
結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査料の割引はありません)。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。取り違えや検体の品質の問題を防ぐため、ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
9. 院長コラム
🩺 院長コラム【わからないまま悩むより、わかったことから次を考える】
生まれてまもない赤ちゃんのけいれんは、ご家族にとってとても心細いものです。原因がわからないまま、検査や薬の調整がくり返されることもあります。新生児・乳児期に始まるてんかんは、遺伝子に原因が見つかることが少なくない時期であり、原因がわかると、薬の選び方やビタミンB6・ケトン食のように、治療そのものが変わる病気も含まれています。だからこそ、早い段階で遺伝子を調べることには意味がある、と考えています。
原因がお子さんで新しく起きた変化だとわかれば、ご両親のせいではないことがはっきりします。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
原因がわかれば、次のお子さんで同じことが起こる可能性がどれくらいあるか、そして次の妊娠でどう備えられるかを、具体的に考えられるようになります。生まれ持った遺伝子は一生変わりません。一度の検査でわかったことは、お子さんの治療だけでなく、ご家族のこれからを考えるときにも、ずっと役に立ちます。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 新生児のけいれんは大丈夫ですか?受診したほうがいいですか?
新生児期のけいれんの多くはてんかんではありません。米国の研究では、けいれんを起こした新生児611人のうち、てんかんと診断されたのは79人(13%)でした。ただし、てんかんでなくても、低血糖・感染・脳障害など緊急の対応が必要な原因があります。新生児のけいれんが疑われるときは、速やかに小児科・救急医療機関で診察を受けてください。呼吸がおかしい、顔色が悪い、反応が乏しい、発作が続く場合は救急要請が必要です。動画は、安全を確保でき、受診を遅らせない範囲で撮影してください。
Q2. 新生児てんかんは遺伝しますか?次の子に遺伝する確率は?
原因と遺伝のしかたによって大きく違います。お子さんで新しく起きた変化なら確率は低いと考えられますが、親御さんの生殖細胞にだけ変化がある場合があるため、最大で2分の1と考えます。常染色体潜性遺伝でご両親とも保因者なら4分の1、親が変化をもつ常染色体顕性遺伝なら2分の1です。原因の遺伝子がわかれば、ご家族ごとに具体的にお伝えできます。
Q3. 大田原症候群や点頭てんかんも、この検査で調べられますか?
はい。大田原症候群は、今の国際分類では早期乳児発達性てんかん性脳症(EIDEE)に含まれ、半数を超える患者さんで原因となる遺伝子の変化が見つかるとされています。このパネルには、KCNQ2・SCN2A・STXBP1・CDKL5・KCNT1など、この時期のてんかん性脳症の原因になる遺伝子が含まれています。点頭てんかん(乳児てんかん性スパズム症候群)は原因がさまざまで、遺伝子以外の原因もあるため、この検査ですべての原因がわかるわけではありません。
Q4. 原因の遺伝子がわかると、治療は変わりますか?
変わることがあります。たとえばKCNQ2の変化によるてんかん性脳症ではナトリウムチャネルに作用する薬が勧められ、ALDH7A1によるピリドキシン依存性てんかんではビタミンB6(ピリドキシン)、GLUT1欠損症ではケトン食療法が治療の選択肢になります。治療の判断は主治医・専門の医療機関で行います。
Q5. 赤ちゃんでも唾液や頬の粘膜で検査できますか?
できます。検体は血液のほか、唾液、頬の内側の粘膜(スワブ)、抽出したDNAでも受け付けています。オンライン診療で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただけます。検体採取キットは検査料金のお支払い後にお送りしますので、ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
Q6. 異常が見つからなかったら、どうなりますか?
病的な変化が見つからなくても、原因が遺伝子にないとは言い切れません。この検査で検出できない変化や、まだ見つかっていない遺伝子が原因のこともあります。症状によっては、てんかん包括的遺伝子検査や全エクソーム検査で範囲を広げることを考えます。
Q7. 家族にてんかんの人がいると、結婚を反対されることがありますか?
てんかんがあること自体が、結婚できない理由になるわけではありません。てんかんの多くは遺伝子1つで決まるものではなく、遺伝子が原因のてんかんでも、遺伝のしかたによって次の世代への確率は大きく違います。原因の遺伝子を調べれば、ご自身が変化をもっているか、パートナーの保因者検査が必要かなど、ご家族ごとに具体的に考えられます。
Q8. 費用はいくらですか?保険は使えますか?
検査料は330,000円(税込)で、遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。結果を早く知りたい場合は、至急オプション(55,000円)で約7日短くなります。
🧬 一度の検査で、お子さんの治療とご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。新生児・乳児期に始まったてんかんの原因がわかれば、お子さんの治療の選び方だけでなく、ご家族の検査や次の妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、NIPT・羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
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参考文献
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