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DEPDC5遺伝子とは?てんかん・皮質形成異常(FCD)との関係を遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

DEPDC5(ディーイーピーディーシー5)は、細胞の成長スイッチであるmTOR(エムトール)経路にブレーキをかける遺伝子です。この遺伝子にブレーキが効かなくなる変化(バリアント)が起こると、家族の中でてんかんが出たり出なかったりする家族性焦点てんかんや、脳の一部の形づくりの乱れ(皮質形成異常)につながることがあります。ただし、変化を持っていても発症しない人も多く、「変化がある=必ず発症する」ではありません。この記事では、DEPDC5がどんな働きをする遺伝子なのか、なぜてんかんや脳の形の異常につながるのか、検査や治療はどう考えるのかを、医学文献に基づいて解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 DEPDC5・GATOR1・mTOR・焦点てんかん
臨床遺伝専門医監修

Q. DEPDC5遺伝子とは何ですか?まず結論だけ知りたいです

A. DEPDC5は、細胞の成長や栄養センサーを担うmTORC1という仕組みを抑える「GATOR1複合体」の中心となる遺伝子です。この遺伝子の働きが失われると、mTORC1にかかっていたブレーキが弱まり、神経の回路づくりや興奮のバランスが乱れます。その結果、家族性焦点てんかんや、脳の一部の形づくりの乱れ(焦点性皮質形成異常・FCD)が起こることがあります。遺伝のしかたは常染色体顕性(優性)ですが、変化を持っていても発症しない人が珍しくありません[9]

  • 正体 → mTORC1にブレーキをかけるGATOR1複合体の最大サブユニットを作る遺伝子[2]
  • 関連する病気 → 家族性焦点てんかん(FFEVF)を中心とする焦点てんかんと、焦点性皮質形成異常(FCD)[1][4]
  • 遺伝のしかた → 常染色体顕性(優性)だが浸透率は不完全。持っていても発症しないことがある[9]
  • 病気の起こり方 → 生まれつきの1つ目の変化に、脳の一部で起こる2つ目の変化(体細胞変異)が重なる「二段階モデル」[5]
  • 治療の方向性 → mTOR阻害薬に理論的な合理性はあるが、DEPDC5に特化した標準治療はまだ確立していない[9]

🧬 DEPDC5遺伝子の基本情報

項目 内容
遺伝子名・読み方 DEPDC5(ディーイーピーディーシー5)。DEPドメイン含有タンパク質5をつくる遺伝子
場所(座位) 第22番染色体の長腕(22q12領域)
主な働き GATOR1複合体の一員として、栄養に応じてmTORC1の活性を抑える(負の調節)[2]
関連する病気 家族性焦点てんかん(FFEVF)、睡眠関連過運動てんかん、側頭葉てんかん、焦点性皮質形成異常(FCD)など[9]
遺伝形式 常染色体顕性(優性)。浸透率は不完全で、報告では60%程度とされることがある[9]
病気の主なしくみ 機能喪失(loss-of-function)/ハプロ不全。多くは切断型のバリアント[6]

※本記事は一般の方と遺伝診療に関わる方の両方に向けた解説です。特定の検査を勧めるものではありません。個別の診断・検査の要否は主治医や専門医とご相談ください。

1. DEPDC5遺伝子とは ― mTORにブレーキをかける遺伝子

DEPDC5は、第22番染色体の長腕(22q12領域)にある遺伝子で、細胞の中で働く大きなタンパク質の設計図です。名前は「DEPドメイン」という部品を持つことに由来しますが、実際にはそれだけでなく、複数の大きな領域を持つ複雑なタンパク質であることがわかっています。もっとも大切なのは、このタンパク質がGATOR1(ゲイターワン)という複合体の中心メンバーとして、細胞の成長スイッチであるmTORC1にブレーキをかける役割です[2]

💡 用語解説:mTORC1(エムトール・シー・ワン)とは

mTORC1は、細胞が「今は成長してよいか」を判断する司令塔のような仕組みです。栄養(とくにアミノ酸)が十分にあると活発になり、タンパク質を作って細胞を大きくしたり、神経を育てたりします。逆に栄養が足りないときは、活動を落として無駄づかいを抑えます。詳しくはAKT-mTOR経路の解説もあわせてご覧ください。

DEPDC5が正常に働いているときは、栄養が足りない状況で「今は成長しなくていい」という信号を出し、mTORC1の活動を適切に抑えます。ところが、DEPDC5の働きが失われると、このブレーキが効かなくなり、栄養が足りないときでもmTORC1が活動し続けてしまいます。神経が育っていく大切な時期にこの状態が起こると、神経細胞の大きさ、枝分かれ、移動、回路のつながり方などが一度に影響を受け、てんかんや脳の形づくりの乱れにつながると考えられています[5]

DEPDC5がてんかんの原因遺伝子として注目されたのは2013年のことです。オーストラリアの研究チームが、家族の中で発作の出どころ(焦点)がばらばらな「家族性焦点てんかん」の原因として、DEPDC5の変化を報告しました[1]。ほぼ同時期に、DEPDC5がmTORC1を抑えるGATOR1複合体の一員であることも明らかになり[2]、「てんかんの遺伝子」と「細胞の成長を抑える分子」が一本の線でつながりました。この年は、DEPDC5研究にとって大きな転換点になりました。

2. GATOR1複合体とmTOR経路 ― DEPDC5の分子的な働き

DEPDC5のいちばん確立した働きは、GATOR1複合体の一員として、アミノ酸に応じたmTORC1の活性化を抑えることです。GATOR1は、DEPDC5・NPRL2・NPRL3という3つのタンパク質からできています。この複合体は、細胞内の「リサイクル工場」であるリソソームの表面で、mTORC1が活性化されるかどうかを見張っています[2]

アミノ酸が十分にあるときは、mTORC1がリソソームの表面へ呼び寄せられ、そこで活性化のスイッチが入ります。逆にアミノ酸が足りないときは、GATOR1がRagA/Bに対するGTPase活性化タンパク質(GAP)として働き、mTORC1がリソソーム表面へ動員されるのを抑えて活性化を止めます。DEPDC5の働きが失われると、この「止める」しくみが弱まり、栄養が足りない状況でもmTORC1が抑えきれずに活動し続けてしまうのです[2]。流れを図で見てみましょう。

DEPDC5が働くGATOR1が正常
mTORC1にブレーキ成長を適切に調整
DEPDC5の働き喪失GATOR1が弱まる
mTORC1が過活動ブレーキが効かない
神経回路の乱れてんかん・FCD

ここで大切なのは、DEPDC5自身がmTORの働きを直接止めているわけではない、という点です。DEPDC5は「mTORC1がリソソームの上で活性化される資格」を管理する、いわば入り口のゲート番のような役割です。この点は、同じmTOR経路にかかわる結節性硬化症(TSC)のTSC1・TSC2とは別の入り口であり、DEPDC5関連てんかんとTSCは、同じ「mTORの病気(mTORopathy)」というグループに入っても、分子レベルでは同じ病気ではありません。

💡 用語解説:mTORopathy(エムトーロパチー)とは

mTOR経路の活動が過剰になることで起こる病気のグループをまとめて「mTORの病気(mTORopathy)」と呼びます。結節性硬化症や一部の皮質形成異常、そしてDEPDC5関連てんかんも、この大きなグループに含まれます。原因となる遺伝子は違っても、「mTORが効きすぎる」という共通点があるため、治療の考え方に共通点が生まれます。

DEPDC5の異常を「mTORが少し高くなるだけ」と考えるのは単純すぎます。mTORC1は、タンパク質を作る働きや細胞を成長させる働きを進め、不要なものを片づけるオートファジーを抑えます。発達途中の神経細胞でこの活動が過剰になると、細胞の大きさや形、枝分かれ、移動、回路のつながりが同時に乱れます。実際に、DEPDC5の働きを失った動物モデルやヒトのFCD組織では、形の崩れた大きな神経細胞(異形成ニューロン)や、神経のとげ(スパイン)の異常、あるべき場所からずれた神経細胞、発作の起こりやすさなどが観察されています[5]

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「経路が同じ」と「同じ病気」は違う】

DEPDC5関連てんかんと結節性硬化症は、どちらもmTOR経路の過活動を共通点としますが、原因となる分子の位置と病態は異なります。同じ経路の異常であっても、どの遺伝子のどのような変化によるものかで臨床的な対応は変わります。DEPDC5でも、同じ経路だからといって、すべてを一括りにして同じ薬・同じ用量で対応できるわけではありません。

遺伝子の名前が同じグループに入っていても、実際の対応は一人ひとり異なります。だからこそ、遺伝子の情報を丁寧に読み解くことが大切になります。

3. DEPDC5に関連するてんかん ― 「一つの病気」ではない

DEPDC5に関連するてんかんは、実は「一つの決まった病気」ではなく、いくつかのタイプにまたがる幅広いグループです。中心となるのは焦点てんかん、つまり脳のある一か所から発作が始まるタイプのてんかんです[9]

💡 用語解説:焦点てんかんと家族性焦点てんかん(FFEVF)

「焦点てんかん」とは、脳の一部(焦点)から発作が始まるてんかんです。DEPDC5で特徴的なのが「家族性焦点てんかん(FFEVF:変動する焦点を伴う家族性焦点てんかん)」で、同じ家族の中でも、人によって発作の出どころ(前頭葉・側頭葉など)が異なるのが特徴です[1]。発症年齢や発作のタイプ、薬の効き方も人によってさまざまです。

最初にDEPDC5が原因として報告されたのが、この家族性焦点てんかん(FFEVF)です。家族の中で発作の出どころがばらばらであることから、以前から独立した病気の概念として知られていました。2013年、比較的小さな家系まで含めて調べたところ、こうした焦点てんかんの家系のおよそ12%(10/82家系)にDEPDC5の変化が見つかり、DEPDC5が家族性焦点てんかんの主要な原因の一つであることが確立しました[1]

その後、DEPDC5に関連するてんかんの幅は大きく広がりました。夜間に激しい動きを伴う発作が起こる睡眠関連過運動てんかん(以前は夜間前頭葉てんかんと呼ばれていたタイプ)や、記憶にかかわる領域から発作が起こる側頭葉てんかん、乳児期に始まる重いタイプまで、さまざまな焦点てんかんがDEPDC5と関連することがわかっています[9]

構造的にもっとも重要なのが、脳の一部の形づくりが乱れる焦点性皮質形成異常(FCD)との関連です。2014年には、DEPDC5の変化が脳の形づくりの乱れと結びつくことが報告され[3]、2015年にはFCDを伴う家族性焦点てんかんとして明確に位置づけられました[4]。同じ家族の中でも、脳のMRIが正常な軽いタイプの人から、FCDを伴う薬の効きにくいタイプの人まで混在することがあり、これがDEPDC5関連てんかんの大きな特徴です。

発達の遅れや知的障害、より重いタイプのてんかん性脳症が報告されることもありますが、これらはDEPDC5関連てんかんに必ず伴うものではありません。薬が効きにくいタイプや、乳児期など早い時期に発症したタイプ、脳の形づくりの乱れを伴うタイプの一部で目立つ傾向があります[7]。したがって、DEPDC5を「いつも軽い家族性てんかんの遺伝子」と決めつけるのも、「いつも重い脳症の遺伝子」と考えるのも、どちらも正確ではありません。

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4. 病的バリアント ― どんな遺伝子の変化が起こるのか

DEPDC5の病気のいちばん確立したしくみは、機能喪失(loss-of-function)、そしてハプロ不全です。ハプロ不全とは、2本ある遺伝子のうち片方が働かなくなり、残った1本だけでは量が足りずに不調が出る状態を指します。DEPDC5では、タンパク質が途中で切れて短くなってしまう「切断型」のバリアントが多く報告されています[6]

💡 用語解説:切断型バリアント(PTV)とミスセンス変異

タンパク質の設計図が途中で「ここで終わり」という誤った合図に変わってしまい、短く切れたタンパク質しかできなくなる変化を、まとめてナンセンス変異フレームシフト変異スプライス部位変異などと呼びます。これらは「切断型(PTV)」とまとめられます。一方、部品(アミノ酸)が1つだけ別のものに置き換わる変化をミスセンス変異といいます。DEPDC5では切断型のほうが病気と結びつきやすく、ミスセンス変異は一つひとつ慎重な評価が必要です。

病的なバリアントは、DEPDC5遺伝子の特定の一か所に集中しているわけではなく、遺伝子全体に散らばって見つかります。GATOR1にかかわる3つの遺伝子(DEPDC5・NPRL2・NPRL3)をまとめて調べた大規模な研究では、報告された140種類の変化のうち、68%が機能喪失型の病的バリアント、14%が「おそらく病的」と分類され、15%が意義不明のバリアント(VUS)でした[6]。つまり、臨床でしっかり確かめられた「決まったホットスポット(変異が集中する一点)」は、いまのところ存在しないと考えるのが安全です。

同じ変化が複数の家系で見つかることはありますが、それは「特定の一点に変異が集中する」という意味とは限りません。変わりやすい配列であること、別々に独立して起こったこと、症例の探し方のかたよりなども考える必要があります。個々のバリアントが病的かどうかを判断するときは、検査した時点でのClinVargnomADなどのデータベースを、その都度あらためて確認することが欠かせません。

5. 二段階(two-hit)モデル ― なぜ脳の一部だけが乱れるのか

DEPDC5でとくに重要なのが、「生まれつきの1つ目の変化」+「脳の一部で起こる2つ目の変化」という二段階(two-hit)モデルです。生まれつきの変化は体のすべての細胞に共通して存在しますが、それだけでは脳の一部だけが乱れる理由を説明できません。そこで、発達の途中に脳の限られた神経細胞で2つ目の変化が起こり、その細胞では両方の遺伝子が働かなくなる、という考え方が有力になっています[5]

DEPDC5関連てんかんにおいて、生殖細胞系列のDEPDC5病的バリアントに脳の一部で生じた体細胞変異が重なり、局所的なmTORC1過活動から焦点性皮質形成異常(FCD)と焦点発作につながるトゥーヒットモデルの模式図

DEPDC5関連てんかんでは、生まれつき一方のDEPDC5アレルに病的バリアントを持つ場合に、脳の限られた細胞で残るDEPDC5アレルにも体細胞変異が生じる「トゥーヒット」が起こることがあります。両アレルの機能を失った細胞ではmTORC1が局所的に過活動となり、異形成ニューロンや焦点性皮質形成異常(FCD)、焦点発作につながると考えられていますが、この機序はFCDを伴う一部のDEPDC5関連てんかんで確認されたもので、すべての症例に当てはまるわけではありません。

💡 用語解説:体細胞変異とモザイク

受精卵の時点で持っている変化(生まれつきの変化=生殖細胞系列変異)に対し、生まれた後、体の一部の細胞だけに起こる変化を「体細胞変異」と呼びます。体の中に「変化を持つ細胞」と「持たない細胞」が混在する状態を「モザイク」といいます。DEPDC5では、脳の一部の神経細胞だけに2つ目の変化が起こることで、その場所にだけFCDのような乱れが生じると考えられています。この「2つの変化が重なって初めて問題が起こる」という考え方は、がん研究で知られるKnudsonのツーヒット仮説とよく似ています。

1つ目の変化生まれつき・全身
2つ目の変化脳の一部の細胞
その場所だけFCD焦点てんかん

2018年、フランスの研究チームは、手術で得られたヒトの脳組織を調べ、生まれつきの変化に加えて、脳の中に2つ目の体細胞変化があることを示しました。さらに、遺伝子編集技術を使ってマウスの脳の一部だけにDEPDC5の欠損を起こすと、ヒトのFCDに似た脳の乱れや焦点発作が再現されました[5]。これは、二段階モデルを裏づける決定的な証拠となりました。

この2つ目の変化は、手術組織全体をまとめて調べると、ごくわずかな割合しか検出されないことがあります。それでも、形の崩れた大きな神経細胞に強く集まっていることがわかっており、手術組織をまとめて調べただけでは病気の原因を見逃してしまう可能性があります。「病気の原因となる細胞に集まった変化が、たくさんの正常な細胞にうすめられてしまう」という点が、DEPDC5によるFCDの特徴です[5]

この二段階モデルは、同じ生まれつきの変化を持つ家族の中でも、MRIが正常な軽いてんかんの人から、FCDを伴う薬の効きにくい重いてんかんの人まで、なぜこれほど違いが出るのかを説明する手がかりになります。表現型は、生まれつきの変化の種類だけでなく、2つ目の変化があるかどうか、それがいつ・どの細胞・脳のどこで起こったか、といった要素に大きく左右されると考えられます。

6. 遺伝のしかたと浸透率 ― 「変化がある=必ず発症」ではない

DEPDC5の生まれつきの病的バリアントは、基本的に常染色体顕性(優性)のかたちで遺伝します。つまり、片方の親がバリアントを持っていると、それが子どもに伝わる確率は妊娠ごとに50%です。ただし、ここでとても大切な点があります。バリアントが伝わることと、実際に発症することは、同じではありません。

💡 用語解説:浸透率と不完全浸透

浸透率」とは、ある病的バリアントを持つ人のうち、実際に症状が出る人の割合のことです。100%より低い場合を「不完全浸透」といいます。DEPDC5はこの不完全浸透が特徴で、バリアントを持っていても生涯発症しない人が珍しくありません。

DEPDC5の浸透率は不完全で、複数の研究でおよそ60%程度とされることがあります[9]。近年、170家系・586人のバリアント保有者をまとめた解析では、10歳までに76.1%が発症し、生涯を通じた累積の浸透率は64.9%と報告されました[8]。言い換えれば、バリアントを持っていても3人に1人程度は発症しないということです。このため、発症していない親からバリアントが伝わることは珍しくなく、「発症していない親から受け継いだから病気とは関係ない」と早合点するのは危険です。

同じバリアントを持っていても、発症するかどうか、発作の出どころ、発症年齢、薬の効きやすさ、FCDを伴うかどうか、重症度は、人によって大きく変わります。遺伝子の情報だけから、その人の将来の発症や重症度を正確に予測することはできません。これは、DEPDC5を理解するうえでもっとも大切なポイントの一つです。

7. 検査とバリアントの解釈 ― どう調べ、どう読み解くか

DEPDC5の検査を特に考えるのは、家族歴のある焦点てんかん、家族の中で発作の出どころが違う焦点てんかん、睡眠関連過運動てんかん、若い年齢で発症した焦点てんかん、FCDを伴う薬の効きにくいてんかんなどの場合です。ただし浸透率が不完全なので、家族歴がないからといってDEPDC5を除外することはできません。実際には発症していない親から受け継いだ、見かけ上ひとりだけの発症例ということもあります[9]

検査の方法としては、DEPDC5だけを単独で調べるより、DEPDC5・NPRL2・NPRL3を含む焦点てんかんやmTOR経路の複数遺伝子パネル、あるいは全エクソーム検査(WES)を用いるのが合理的です。配列を読むだけでなく、遺伝子の一部が丸ごと失われる変化(欠失)まで検出できるかも確認しておくとよいでしょう。典型的な症状があるのに配列検査で見つからない場合は、通常の検査では捉えにくい構造の変化や、ごく低い割合のモザイク、遺伝子の設計図以外の領域の変化なども考える必要があります。

💡 手術でとった脳組織の検査という選択肢

FCDの手術を受けた場合は、可能であれば血液と切除した脳組織を別々に調べる価値があります。脳の2つ目の変化は、組織全体をまとめて調べると数%未満しか検出されないことがあり、通常の血液検査では見つからないことがあるからです。深く読み込む特殊な解析が向いています。逆に、こうした検査で見つからなくても、原因となる細胞がごく少数であれば、2つ目の変化がないと言い切ることはできません[5]

見つかったバリアントをどう解釈するかも重要です。DEPDC5では機能喪失が確立したしくみなので、明らかな切断型のバリアントは病的と判断しやすい傾向があります。一方、ミスセンス変異はより難しく、集団での頻度、進化的な保存度、家系内での分離(病気の人だけが持っているか)、機能解析などを総合して判断します(ACMG/AMPの分類)。とくに浸透率が低い病気では、発症していない家族がバリアントを持っていること自体は、病的でないことの決定的な証拠にはなりません。意義不明のバリアント(VUS)を、そのまま診断や予防的な治療の根拠にしてはいけない、という点も大切です。

8. 治療の考え方 ― mTOR阻害薬と手術

現時点での治療の基本は、発作のタイプに応じた通常の抗てんかん薬による治療です。DEPDC5だけに特別によく効くと確立した従来型の抗てんかん薬はありません。薬が効きにくく、FCDのようなはっきりした発作の出どころがある場合には、遺伝性であってもてんかん外科(手術)の評価を積極的に考えます。これは、DEPDC5の病態が脳全体に均一に広がった異常ではなく、2つ目の変化による局所的な病変を作りうる、という性質と合っています[9]

実際、586人をまとめた解析では、薬が効きにくいてんかんは48.3%にみられた一方、手術を受けた人のうち88%で良好な結果が得られたと報告されています[8]遺伝性だから手術ができない、ということではなく、むしろ切除可能な局所の病変がある可能性を示している、という点は知っておく価値があります。

分子のしくみから考えると、DEPDC5の働きが失われてmTORC1が過活動になる、という道筋がはっきりしているため、mTORの働きを抑える薬(シロリムスエベロリムスなど)は理論的にとても合理的な候補です。しかし、理論的な合理性と、実際にDEPDC5の患者さんで効果が確立していることは、別の話です。2026年時点で、DEPDC5関連てんかんに特化して有効性が確立した標準的なmTOR阻害治療はまだありません。FCDを対象としたmTOR阻害薬の研究は存在しますが、DEPDC5だけを選んで行われたものではないため、その結果をそのままDEPDC5の治療効果と読み替えることはできません[9]

栄養と発作の関係についても興味深いデータがあります。2022年の動物研究では、短時間の絶食による発作を抑える働きに、DEPDC5を介したmTORC1の調節が必要であることが示されました[10]。これは、DEPDC5が「栄養の状態を神経の興奮性に変換するゲート」であることを示す重要な実験結果です。ただし、これは「DEPDC5の患者さんは絶食すればよい」という意味ではありません。食事療法を自己判断で行うのではなく、必ず主治医と相談してください。

💡 治療研究のこれからの課題

治療を考えるうえで難しいのは「タイミング」です。FCDが発達の途中に作られた後でmTORを抑えても、すでにできあがった脳の配線を完全に元に戻せるとは限りません。一方で、発作を維持している大人の時期のmTORの過活動を抑えることで、形の異常が残っていても発作を抑えられる可能性はあります。「形づくりの異常を予防する効果」と「すでにある回路の発作を抑える効果」は分けて考える必要があります。

9. 遺伝カウンセリングの視点

生まれつきの病的バリアントを持つ人では、それが子どもに伝わる確率は妊娠ごとに50%です。しかし、子どもが実際に発症する確率は、伝わる確率と同じではありません。浸透率が不完全なため、発症する確率はそれより低くなります。また、発症した場合の発作の出どころ、発症年齢、薬の効きやすさ、FCDの有無、発達の見通しを、親の状態から確実に予測することはできません[9]

家族の検査で、症状のない親やきょうだいがバリアントを持っているとわかることがあります。その場合、「いずれ必ず重いてんかんになる」と説明すべきではありません。一方で、発作かもしれない症状についての知識を持っておくことや、必要に応じた神経の評価、家族の中での発作や突然死の経過をあらためて確認しておくことは、理にかなった対応です。出生前診断や着床前の検査は、原因となるバリアントがわかっていれば技術的には可能ですが、発症するかどうかや重症度を予測することが難しいという点が、意思決定の中心的な課題になります。

なお、脳の一部だけに起こった2つ目の変化は、通常そのまま次の世代へ伝わる生まれつきの変化とは異なります。一方で、その人がすでに生まれつきの1つ目の変化を持っている場合、その1つ目の変化については50%の確率で伝わります。この2つを混同しないことが、遺伝カウンセリングでは大切です。

当院では、遺伝子や染色体に関わる検査の前後で、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行っています。検査で何がわかり何がわからないのか、見つかった変化がご本人やご家族にとってどういう意味を持つのか、どのような選択肢があるのかを整理します。DEPDC5関連てんかんは、成人になってから診断されることもある一方、小児期に発症することが多い病気です。遺伝カウンセリングでは、文献にもとづく情報と検査結果を整理し、発症予測の限界や家族への影響も含めて検討します。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【遺伝子の情報は「決定表」ではありません】

DEPDC5のように浸透率が不完全な遺伝子では、バリアントが見つかっても、それだけで将来がすべて決まるわけではありません。遺伝学的検査では、病的バリアントが確認されても発症の有無や重症度を正確に予測できない場合があり、検査結果と臨床所見をあわせて解釈することが重要です。

遺伝子の情報は、未来を言い当てる「決定表」ではなく、これからの選択を考えるための材料の一つです。数値や確率だけで判断するのではなく、その情報が個々の状況で何を意味するのかを整理することが重要です。

10. よくある誤解

誤解①「バリアントがあれば必ず発症する」

DEPDC5は浸透率が不完全で、バリアントを持っていても発症しない人が珍しくありません。累積の浸透率はおよそ65%程度と報告されており、3人に1人程度は生涯発症しないと考えられます。

誤解②「遺伝性だから手術はできない」

むしろ逆のことがあります。DEPDC5では脳の一部に局所的な病変(FCD)ができることがあり、切除可能な発作の出どころがある場合には手術が選択肢になります。手術で良好な結果が得られた例も報告されています。

誤解③「DEPDC5はチャネルの病気だ」

DEPDC5関連てんかんは、イオンチャネルの病気ではなく、mTOR経路の病気(mTORopathy)です。栄養センサーの調節が乱れることで、神経の回路づくりや興奮のバランスに影響が及びます。

誤解④「mTOR阻害薬がすでに標準治療だ」

理論的な合理性は高いものの、DEPDC5に特化して有効性が確立した標準治療は、2026年時点でまだありません。研究段階の知見と、確立した治療は分けて考える必要があります。

まとめ ― DEPDC5を「mTORの病気」として理解する

DEPDC5は、細胞の成長スイッチであるmTORC1にブレーキをかけるGATOR1複合体の中心的な遺伝子です[2]。この働きが失われると、栄養が足りないときでもmTORが抑えきれず、神経の回路づくりや興奮のバランスが乱れて、家族性焦点てんかんや焦点性皮質形成異常につながることがあります[1][4]

大切なのは、DEPDC5関連てんかんを「単なるてんかん」ではなく、遺伝性のmTORの病気(mTORopathy/GATOR1の病気)として理解することです。生まれつきの変化に脳の一部の2つ目の変化が重なる二段階モデル[5]、不完全な浸透率[8]、そして局所的な病変ができうるという性質は、診断・検査・治療・遺伝カウンセリングのすべてに関わってきます。遺伝子の情報は未来を言い当てるものではなく、これからの選択を考えるための材料の一つです。気になることがあれば、正確な診断を土台に、専門医と検査・治療・家族への影響を整理することが重要です。

よくある質問(FAQ)

Q1. DEPDC5遺伝子とは何ですか?

DEPDC5は、細胞の成長スイッチであるmTORC1という仕組みを抑える「GATOR1複合体」の中心となる遺伝子です。この遺伝子の働きが失われると、mTORC1にかかっていたブレーキが弱まり、神経の回路づくりや興奮のバランスが乱れて、家族性焦点てんかんや脳の一部の形づくりの乱れ(焦点性皮質形成異常)につながることがあります。

Q2. DEPDC5のバリアントがあると、必ずてんかんになりますか?

いいえ、必ず発症するわけではありません。DEPDC5は浸透率が不完全な遺伝子で、バリアントを持っていても生涯発症しない人が珍しくありません。累積の浸透率はおよそ65%程度と報告されており、発症していない親からバリアントが伝わることもあります。遺伝子の情報だけから、その人の将来の発症や重症度を正確に予測することはできません。

Q3. なぜ同じ家族でも症状の重さが違うのですか?

DEPDC5では、生まれつきの1つ目の変化に加えて、脳の一部の神経細胞で2つ目の変化(体細胞変異)が起こる「二段階モデル」が知られています。この2つ目の変化があるかどうか、いつ・どの細胞・脳のどこで起こったかによって、MRIが正常な軽いてんかんから、FCDを伴う薬の効きにくいてんかんまで、症状の幅が大きく変わると考えられています。

Q4. DEPDC5関連てんかんは手術で治療できますか?

薬が効きにくく、FCDのようなはっきりした発作の出どころがある場合には、てんかん外科(手術)の評価を検討します。DEPDC5では脳の一部に局所的な病変ができることがあるため、遺伝性であっても切除可能な病変がある可能性があります。手術の適否は、画像検査や脳波などの詳しい評価をふまえて、専門施設で判断します。

Q5. mTOR阻害薬でDEPDC5関連てんかんは治りますか?

DEPDC5の働きが失われるとmTORが過活動になるため、mTOR阻害薬には理論的な合理性があります。しかし、2026年時点で、DEPDC5関連てんかんに特化して有効性が確立した標準的なmTOR阻害治療はまだありません。研究段階の知見と確立した治療は分けて考える必要があります。治療の判断は必ず主治医とご相談ください。

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参考文献

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  • [3] Scheffer IE, Heron SE, Regan BM, et al. Mutations in mammalian target of rapamycin regulator DEPDC5 cause focal epilepsy with brain malformations. Ann Neurol. 2014;75(5):782-787. doi:10.1002/ana.24126. PMID:24585383. [PubMed]
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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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