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発達性てんかん性脳症31B型(DEE31B)とは?原因となるDNM1遺伝子・症状・遺伝の仕組みを臨床遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

発達性てんかん性脳症31B型(DEE31B)は、DNM1遺伝子の両方のコピー(両アレル)に「機能を失わせる変異」が起こることで発症する、常染色体潜性(劣性)遺伝形式の極めてまれな神経の病気です。生後数か月以内に始まる治りにくいてんかんと、重い発達の遅れを特徴とします。同じDNM1遺伝子が原因でも、1つのコピーの変異で発症する「DEE31A(顕性型)」とは、発症の仕組みも遺伝の仕方も大きく異なる点が、診断と将来の治療を考えるうえでとても重要です。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 DNM1遺伝子・てんかん性脳症・臨床遺伝
臨床遺伝専門医監修

Q. 発達性てんかん性脳症31B型(DEE31B)とは、どんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. DNM1遺伝子の両方のコピーに機能喪失(はたらきを失う)変異が起こることで発症する、常染色体潜性(劣性)遺伝の超希少な神経発達障害です。生後早期から始まる治りにくい(難治性)てんかんと、重度の発達の遅れ・筋緊張の異常を主な特徴とします。ご両親はそれぞれ変異を1つだけ持つ「保因者」で、通常は無症状です。

  • 疾患の定義 → OMIM 620352、原因遺伝子DNM1(第9番染色体9q34.11)、世界でも報告例がごくわずかの超希少疾患
  • 分子メカニズム → 両アレルの機能喪失(LoF)。1コピー変異で起こる顕性型「DEE31A」とは仕組みが正反対
  • 主な症状 → 乳児期発症の難治性てんかん、重度〜最重度の知的障害、筋緊張低下から痙縮への移行、視覚障害
  • 鑑別と注意点 → 多数のてんかん遺伝子との鑑別。「SCN3Aが原因」とする二次情報は誤り(それはDEE62)
  • 診断・遺伝 → 全エクソーム解析やてんかん遺伝子パネルで診断。再発リスクは各妊娠で25%

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1. 発達性てんかん性脳症31B型(DEE31B)とは

発達性てんかん性脳症31B型(DEE31B、OMIM 620352)は、DNM1遺伝子(第9番染色体の9q34.11に位置)の両方のコピーに、はたらきを失わせる変異が起こることで発症します。生後数か月という、脳が最も活発に育っていく時期に、治りにくいてんかん発作が始まり、それと並行して重い発達の遅れがあらわれます。世界的にも報告された患者さんがごくわずかしかいない、極めてまれな病気です[1]

💡 用語解説:発達性てんかん性脳症(DEE)とは

「てんかん発作」と「脳波の異常な電気活動」そのものが、まだ育ちきっていない脳のネットワークを傷つけ、結果として知能や運動の発達を二重に妨げてしまう——そういう重い病気のまとまった呼び名です。単に「発作がある」だけでなく、発作と発達の障害が密接に結びついている点が特徴です。原因となる遺伝子は現在100以上が知られており、DNM1はそのひとつです。

💡 用語解説:常染色体潜性(劣性)遺伝とは

わたしたちは1つの遺伝子について、父由来・母由来の2つのコピーを持っています。「潜性(劣性)」とは、2つのコピーの両方に変異がそろって初めて症状が出るタイプの遺伝の仕方です。片方だけ変異を持つ人は「保因者」と呼ばれ、通常は何の症状もありません。DEE31Bでは、無症状の保因者であるご両親から、たまたま両方の変異を受け継いだお子さんが発症します。なお「劣性」は古い言い方で、優劣の意味ではないため、近年は「潜性」という用語が使われます。

ここで大切なのは、同じDNM1遺伝子が原因でも、2つの異なる病気が存在するという点です。1つは、片方のコピーの変異だけで発症する常染色体顕性(優性)遺伝の「DEE31A(OMIM 616346)」。もう1つが、本ページで解説する両アレル性のDEE31Bです。次の章で、なぜ同じ遺伝子から正反対の仕組みの病気が生まれるのかを詳しく見ていきます。

2. 原因遺伝子DNM1と分子メカニズム

DNM1遺伝子は、主に脳の神経細胞で強くはたらく「ダイナミン-1」というタンパク質の設計図です。神経どうしが信号をやりとりするとき、神経の末端では信号物質(神経伝達物質)を詰めた小さな袋(シナプス小胞)が次々と使われます。激しく信号を出し続けるためには、使い終わった袋を素早く回収して再利用する必要があります。この回収(クラスリン依存性エンドサイトーシス)の最後の仕上げ——袋のくびれを切り離す「分子のハサミ」の役目を担うのが、ダイナミン-1です[2]

💡 用語解説:シナプス小胞のリサイクル(エンドサイトーシス)

神経の末端では、信号物質を放出した後の「空の袋」を細胞膜から回収し、新しい袋として作り直しています。この一連の取り込み作業を「エンドサイトーシス」といいます。ダイナミン-1は、袋の根元(くびれ)にらせん状に集まり、エネルギー(GTP)を使ってギュッと締めて袋を切り離します。この回収が滞ると、激しい神経活動を支えきれなくなり、脳の興奮と抑制のバランスが崩れてしまいます。

ダイナミン-1は864個のアミノ酸からなり、はたらきの異なる5つの部品(ドメイン)が組み合わさってできています。下の図は、その並びをわかりやすく示したものです。

ダイナミン-1タンパク質の5つのドメイン構造

GTPアーゼ
エネルギー発生
ミドル
集合・らせん形成
PH
膜への結合
GED
活性の調節
PRD
他分子と連携

DEE31Bを起こす変異の多くは、左側(GTPアーゼ〜ミドル)で翻訳が早く止まり、右側のPH・GED・PRDがまるごと失われます。

💡 用語解説:ミスセンス変異・ナンセンス変異・フレームシフト

ミスセンス変異=DNAが1か所変わり、アミノ酸が別の種類に置き換わるもの。タンパク質の形は保たれることが多いです。

ナンセンス変異=途中に「翻訳ストップ」の合図が入り、タンパク質が短く打ち切られるもの。

フレームシフト=DNAの文字が抜けたり挿入されたりして読み枠がずれ、それ以降がまったく別の配列になり早く打ち切られるもの。DEE31Bでは主にナンセンス変異やフレームシフトが原因になります。

なぜDEE31AとDEE31Bは正反対の仕組みなのか

同じDNM1遺伝子の病気でありながら、DEE31AとDEE31Bは発症の仕組みが正反対です。この違いは、将来の治療法を考えるうえでも決定的に重要です[3]

DEE31A(顕性/優性)

仕組み:主に新生突然変異(de novo=両親にはなく子で新たに生じた変異)によるミスセンス変異。1コピーの異常で発症します。

毒性のかたち:異常タンパク質が正常タンパク質に混ざり、複合体全体のはたらきを妨害する「ドミナントネガティブ(優性阻害)」。量ではなく“質”の問題です。

DEE31B(潜性/劣性)

仕組み:両アレルの機能喪失(LoF)変異。ナンセンス変異・フレームシフトなどでタンパク質が作られない、または短く壊れています。

毒性のかたち:ダイナミン-1そのものがほぼ存在せず、袋を切り離すらせんが作れない。“量がゼロに近い”ことが問題です。

💡 用語解説:機能喪失(LoF)とドミナントネガティブ

機能喪失(Loss-of-Function:LoF)=遺伝子のはたらきが単純に失われること。DEE31Bはこのタイプで、両方のコピーが失われて発症します。

ドミナントネガティブ(優性阻害)=壊れたタンパク質が、正常なタンパク質の足を引っ張ってはたらきを邪魔すること。DEE31Aはこちらです。「足りない」のがB、「邪魔をする」のがA、とイメージすると違いがつかみやすいです。

DEE31Bの研究から得られた重要な発見があります。患者さんのご両親は、機能を失う変異を1つ持つ保因者であるにもかかわらず、まったく無症状だという事実です[3]。これは「DNM1が本来の半分の量でも、脳は正常にはたらける(ハプロ不全に耐えられる)」ことを意味します。逆にいえば、DEE31Aで1コピーの変異が発症につながるのは“量の不足”ではなく“正常品を妨害する毒性”が原因だということが、ヒトの遺伝学から証明されたわけです。この「半分でも大丈夫」という性質は、後述する遺伝子補充療法の理論的な後押しにもなっています。

これまでに報告されたDEE31Bの主な変異

DNAレベルの変異 タンパク質の変化 位置(ドメイン) 背景
c.97C>T p.Gln33*(Q33X、ナンセンス) GTPアーゼドメイン 近親婚家系のホモ接合。両親は無症状の保因者
c.850C>T p.Gln284*(Q284X、ナンセンス) GTPアーゼ/ミドル境界 別の家系のホモ接合。タンパク質が早く打ち切られる
c.350del p.Pro117ArgfsTer14(フレームシフト) GTPアーゼドメイン 中東の近親婚家系。GTPアーゼドメインの喪失を予測
c.1402G>T p.Glu468*(E468X、ナンセンス) ミドルドメイン パキスタン系の近親婚家系。分子動力学解析で構造の乱れを確認

補足:DNM1のエクソン10aに関わるスプライス部位変異(c.1197-8G>A)は、文献によっては混同されることがありますが、これは1コピーの新生突然変異・ドミナントネガティブで起こるDEE31A側の変異であり、両アレル性のDEE31Bの原因変異ではありません[8]

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【AとBを取り違えないことが、なぜ大切か】

同じDNM1遺伝子の病気でも、DEE31A(顕性・ドミナントネガティブ)とDEE31B(潜性・機能喪失)は、発症の仕組みが正反対です。これは単なる学問上の区別ではありません。たとえば将来、正常な遺伝子を補う「遺伝子補充療法」は、量が足りないB型にこそ理にかなった発想です。一方、正常品を妨害するA型では、むしろ変異側の発現を抑える戦略が考えられます。つまり、AかBかで目指す治療の方向がまるで違ってきます。

遺伝子の名前が同じだから同じ病気、と単純には言えない——ここを丁寧に見分けることが、ご家族への説明にも、将来の治療選択にも直結します。だからこそ、変異の「場所」と「種類」、そして遺伝の仕方まで含めて読み解くことを大切にしています。

3. 主な症状と経過

DEE31Bの症状は、生後早期の発作で始まり、発達の停滞、てんかんによる脳機能の二次的なダメージ、そして全身にわたる合併症へと進みます[4]。下に主な領域ごとの特徴をまとめます。

⚡ てんかん発作・脳波

  • 発症:生後数か月〜1〜2歳
  • 点頭てんかん、ミオクロニー発作、強直発作、多焦点性間代発作
  • 発熱で誘発されやすい例も
  • 抗てんかん薬が効きにくい難治性
  • 脳波:背景の徐波化、ヒプスアリスミア、多焦点性の棘徐波

🧠 発達・知的機能

  • 重度〜最重度の知的障害
  • 意味のあることばの獲得はほとんど見られない
  • 発作の頻発に伴う退行(後戻り)
  • 易刺激性・自傷行為を伴うことがある

🦵 運動・筋緊張

  • 早期は全身の筋緊張低下・定頸の遅れ
  • 成長とともに腱反射亢進・後弓反張・下肢の痙縮へ
  • 手の使用や自立歩行の獲得は困難

👁️ 全身・感覚

  • 眼振・視神経萎縮・網膜ジストロフィーなどの視覚障害
  • 哺乳困難・窒息エピソード・経管栄養・便秘
  • 特徴的な顔つき・成長障害・後天性の小頭症

💡 用語解説:点頭てんかん・ヒプスアリスミア

点頭てんかん(てんかん性スパスム)=乳児期に多い発作で、首や体をカクンと折り曲げる動きが、数秒おきに群発(シリーズ)で起こるのが特徴です。覚醒直後などに出やすい傾向があります。

ヒプスアリスミア=脳波で見られる、高い電位の不規則な徐波と棘波が入り乱れた“嵐のような”乱れたパターン。点頭てんかんに伴ってよく見られ、脳の広い範囲が異常に興奮していることを示します。

発作が始まるまではごく初期に発達が正常に見える例もありますが、発作の出現を境に、あるいはそれと並行して、発達の遅れや退行がはっきりしてくることが多いと報告されています。これは「発作そのものが脳の発達を妨げる」というてんかん性脳症の本質を示しています。

4. 鑑別診断と「誤分類」への注意

早期発症の難治性てんかんと発達の遅れを起こす遺伝子は非常に多く(STXBP1、SCN2A、CDKL5、KCNQ2 など)、症状だけからDNM1の関与を見抜くことは事実上できません。そのため、複数の遺伝子をまとめて調べる検査が診断の中心になります。

DEE31A(同じDNM1の顕性型)との違い

見分け方:遺伝の仕方(潜性か顕性か)と変異の種類で区別します。DEE31Bは両親が無症状の保因者で、お子さんが両アレル変異を持ちます。

DEE31Aは多くが新生突然変異(de novo)で、ミスセンス変異によるドミナントネガティブが主体です。

他のてんかん性脳症遺伝子との違い

STXBP1・SCN2A・CDKL5・KCNQ2などは、いずれも早期発症のDEEを起こしますが、原因遺伝子も遺伝形式も異なります。

見分け方:網羅的な遺伝子解析で原因遺伝子を直接同定します。

「SCN3Aが原因」という誤情報に注意

一部の二次的な情報サイトで、DEE31Bの原因遺伝子をSCN3Aと記載している例が見られますが、これは誤りです。

SCN3Aの変異が起こすのは別のタイプ(DEE62、OMIM 617938)です。OMIM・UniProtなどの一次情報では、DEE31Bの原因遺伝子はDNM1であることが明確に示されています[7]

こうした表現型のオーバーラップや情報の取り違えに惑わされず、一次文献と厳密な遺伝子解析に基づいて診断することが、正確な医療の出発点になります。

5. 診断と遺伝子検査の進め方

「診断=出生前」と誤解されがちですが、DEE31Bの診断は出生後に行われるのが基本です。ここでは出生後と出生前を分けて整理します。

出生後の診断(生まれたあと)

難治性てんかんと発達の遅れを認めるお子さんでは、原因を一度に幅広く探せる検査が有用です。当院では、てんかんに関連する多数の遺伝子を一括で調べるてんかん包括的遺伝子検査や、タンパク質の設計図全体を読む全エクソーム検査(WES)に対応しています。原因がなかなか特定できないお子さんには、診断のつかないお子さんのための検査(WES/WGS)という選択肢もあります。

💡 用語解説:全エクソーム検査(WES)と「家族内分離」

全エクソーム検査(WES)=遺伝子のうちタンパク質を作る領域(エクソン)全体を一度に解析する検査です。原因の遺伝子を絞り込めない段階で力を発揮します。

家族内分離(segregation)解析=お子さんで見つかった変異について、ご両親も調べる手順です。DEE31Bでは、お子さんが両方のコピーに変異を持ち、ご両親がそれぞれ片方ずつの保因者であることを確認することで、潜性遺伝の診断が確かなものになります。

見つかった変異は、ACMG(米国臨床遺伝・ゲノム学会)の基準に沿って、集団データベース(gnomADなど)での頻度や、コンピュータ予測、家族内分離などを総合して、病的かどうかを慎重に評価します。多くの遺伝子検査は採血や口腔粘膜(ほほの内側のこすり取り)で実施でき、来院が難しい場合の選択肢も用意されています。

出生前の診断(生まれる前)

出生前の確定診断は、羊水検査・絨毛検査で採取した胎児の細胞を調べる方法が基本です。すでにご家族のなかでDEE31Bの原因変異が判明している場合は、その変異に的を絞った検査によって、より確実な診断が可能になります。なお、当院のNIPTインペリアルプランはDNM1を含む多数の単一遺伝子を対象としていますが、NIPTは“スクリーニング(ふるい分け)”であり、確定診断には羊水・絨毛検査が必要です。どの方法を選ぶかは、ご家族の状況と希望に応じて、遺伝カウンセリングのなかで一緒に考えていきます。

6. 治療と長期的な管理

現時点でDEE31Bを根本から治す方法はなく、治療は発作のコントロール・合併症の予防・生活の質(QOL)の向上を目的とした支援が中心になります。多くの診療科が連携する集学的な体制が大切です。

発作の管理

発作は難治性のことが多く、複数の抗てんかん薬を組み合わせて使うことがあります。点頭てんかんに対してはACTH療法などが、補助的にケトン食療法や迷走神経刺激療法(VNS)が用いられることもあります。どの治療を選ぶかは、発作型・全身状態をふまえて担当医とご家族で相談して決めていきます。

栄養・呼吸のケア

哺乳困難や窒息のリスクがある場合は、誤嚥性肺炎の予防と栄養の維持のため、経管栄養(胃ろうなど)が検討されることがあります。呼吸状態の見守りも重要です。

発達支援・リハビリ

理学療法・作業療法・言語コミュニケーション支援、特別支援教育などを早期から組み合わせ、残された力を最大限に引き出すことを目指します。ご家族の心理的サポートも欠かせません。

将来の治療に向けた展望

DEE31Bは「足りない(機能喪失)」タイプの病気です。前述のとおり、保因者であるご両親が無症状であること、つまりDNM1が半分の量でも脳がはたらけることは、正常な遺伝子を補う「遺伝子補充療法(たとえばAAVベクターを用いる方法)」が理論上有望であることを示しています[3]。一方で、DEE31A(妨害するタイプ)には、変異側のはたらきを抑える戦略が考えられます。同じDNM1でも目指す方向が異なるため、病態を正確に層別化する意義はここにもあります。これらはまだ研究段階の話であり、現時点で確立された治療ではない点にご注意ください。

7. 遺伝カウンセリングの意義

DEE31Bは常染色体潜性(劣性)遺伝の病気のため、確定診断のあとの遺伝カウンセリングがとても大切になります。主な内容は次のとおりです。

  • 再発リスクの説明:ご両親がともに保因者の場合、次のお子さんが両方の変異を受け継いで発症する確率は、各妊娠で25%です。保因者になる確率が50%、変異を受け継がない確率が25%です。
  • 保因者であることの意味:変異を1つ持つご両親は無症状で、健康に影響はありません。ご家族・ご親族の保因者の有無を知りたい場合の検査についても説明します。
  • 家族計画の選択肢:家系の変異が判明している場合、次子の出生前診断(羊水検査・絨毛検査)や着床前診断(PGT-M)が選択肢として存在します。
  • 非指示的な姿勢:医師は情報を提供する立場です。特定の検査をすすめたり、安心を保証したり、不安をあおったりすることはありません。最終的な選択はご家族が納得して決められるよう、中立的に伴走します。

8. よくある誤解

誤解①「両親が健康だから遺伝ではない」

潜性遺伝では、無症状の保因者である両親から発症するお子さんが生まれます。両親が健康であることは、遺伝性を否定する理由にはなりません。

誤解②「DNM1変異=全部同じ病気」

同じDNM1でも、DEE31A(顕性)とDEE31B(潜性)は仕組みが正反対です。変異の場所・種類・遺伝形式まで読み解く必要があります。

誤解③「SCN3Aが原因と書いてあった」

一部サイトの記載は誤りです。DEE31Bの原因はDNM1。SCN3Aが起こすのは別の疾患(DEE62)です。

誤解④「発作が止まれば発達も追いつく」

てんかん性脳症では、発作や脳波異常そのものが発達を妨げます。発作の改善は重要ですが、発達への影響は単純に元へ戻るとは限りません。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【正確な診断名が、ご家族の次の一歩を支える】

超希少な病気では、診断名にたどり着くまでに長い道のりがあることが少なくありません。DEE31Bのように報告例の少ない病気では、なおさらです。けれども、正確な原因が分かることには大きな意味があります。遺伝形式が分かれば、次のお子さんの再発リスクを正しくお伝えできますし、ご親族の不安にも根拠をもって答えられます。

私は、検査の数値だけでなく「その結果をどう受け止め、どう生きていくか」までを医療の責任だと考えています。希少疾患だからこそ、一つひとつの診断の正確さが、ご家族のこれからに与える意味は大きい。日本語で信頼できる情報を届けたいという思いで、こうした疾患の解説を続けています。

よくある質問(FAQ)

Q1. DEE31Bは遺伝しますか?

常染色体潜性(劣性)遺伝の病気です。ご両親はそれぞれ変異を1つだけ持つ無症状の保因者で、お子さんが両方の変異を受け継いだときに発症します。次のお子さんが発症する確率は各妊娠で25%です。家系の変異が分かっている場合の出生前診断などについては、臨床遺伝専門医にご相談ください。

Q2. DEE31AとDEE31Bは何が違うのですか?

どちらもDNM1遺伝子が原因ですが、仕組みが正反対です。DEE31Aは1コピーの変異(多くは新生突然変異)で発症する顕性型で、異常タンパク質が正常品を妨害するドミナントネガティブが主体です。DEE31Bは両方のコピーが機能を失う潜性型で、ダイナミン-1がほぼ作られないことが原因です。遺伝の仕方も、将来の治療の考え方も異なります。

Q3. どのように診断されますか?

早期発症の難治性てんかんと発達の遅れという臨床像をきっかけに、てんかん遺伝子パネルや全エクソーム検査(WES)などの網羅的な遺伝子解析でDNM1の両アレル変異を同定します。さらに、お子さんが両方の変異を持ち、ご両親がそれぞれ片方の保因者であることをサンガー法などで確認(家族内分離解析)することで、診断が確かなものになります。

Q4. 治る病気ですか?

現時点で根本的に治す方法は確立されていません。治療は発作のコントロールや合併症の予防、発達支援が中心です。一方で、DEE31Bは「機能が足りない」タイプであり、保因者の親が無症状であることから、正常な遺伝子を補う遺伝子補充療法が理論的に有望と考えられています。ただしこれは研究段階の話であり、現時点での確立した治療ではありません。

Q5. 出生前にわかりますか?

ご家系のなかでDEE31Bの原因変異がすでに判明している場合は、羊水検査・絨毛検査でその変異に的を絞った出生前の確定診断が可能です。受けるかどうかは、ご家族の価値観をふまえて遺伝カウンセリングのなかで一緒に考えます。特定の選択をおすすめする立場ではなく、中立的にご説明します。

Q6. ネットで「SCN3Aが原因」と書かれていましたが本当ですか?

それは誤った情報です。DEE31Bの原因遺伝子はDNM1であることが、OMIM(620352)やUniProtなどの一次情報で明確に示されています。SCN3Aの変異が起こすのは別のタイプのてんかん性脳症(DEE62、OMIM 617938)です。表現型が似ているために二次的な情報源で混同されることがあるため、注意が必要です。

Q7. 上の子や親族が保因者かどうかを調べられますか?

ご家系の原因変異が判明していれば、その変異に的を絞った検査で、ご親族が保因者かどうかを調べることが可能です。検査を受けるかどうか、結果をどう活用するかは、ご本人の意思を尊重しながら遺伝カウンセリングのなかで丁寧にご相談します。

🏥 希少疾患の診断・遺伝カウンセリングについて

DEE31Bをはじめとする希少な遺伝性てんかん・神経疾患に関するご相談は、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にお寄せください。

関連記事

参考文献

  • [1] OMIM. #620352 Developmental and Epileptic Encephalopathy 31B; DEE31B. Johns Hopkins University. [OMIM]
  • [2] OMIM. *602377 Dynamin 1; DNM1. Johns Hopkins University. [OMIM]
  • [3] Yigit G, et al. Loss-of-function variants in DNM1 cause a specific form of developmental and epileptic encephalopathy only in biallelic state. J Med Genet. 2022;59(6):549-557. [J Med Genet]
  • [4] AlTassan R, et al. Clinical, Radiological, and Genetic Characterization of a Patient with a Novel Homoallelic Loss-of-Function Variant in DNM1. Genes (Basel). 2022;13(12):2252. [PMC9777962]
  • [5] Truncated DNM1 variant underlines developmental delay and epileptic encephalopathy. Front Pediatr. 2023;11:1266376. [PMC10601988]
  • [6] Boumil RM, et al. A missense mutation in a highly conserved alternate exon of dynamin-1 causes epilepsy in fitful mice. PLoS Genet. 2010;6(8):e1001046. [PLoS Genetics]
  • [7] UniProt. Developmental and epileptic encephalopathy 31B (DI-06666). [UniProt]
  • [8] Parthasarathy S, et al. A recurrent de novo splice site variant involving DNM1 exon 10a causes developmental and epileptic encephalopathy through a dominant-negative mechanism. Am J Hum Genet. 2022;109(11):2056-2067. [PubMed]

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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