目次
DNM1遺伝子は、脳の神経細胞ではたらく「ダイナミン1」というタンパク質の設計図です。ダイナミン1は、情報を伝え終わった小さな袋(シナプス小胞)を細胞膜から切り離して回収する“分子のハサミ”として働きます。この遺伝子に生まれつきの変化が起こると、乳児期から重いてんかんと発達の遅れをきたす発達性てんかん性脳症(DEE31A/31B)の原因になります。
Q. DNM1遺伝子とは何ですか?まず結論だけ知りたいです
A. DNM1遺伝子は、シナプスで小胞を切り離す“分子のハサミ”であるタンパク質「ダイナミン1」の設計図です。この遺伝子の変化は、乳児期に発症する治りにくいてんかんと重い発達の遅れをきたす発達性てんかん性脳症(DEE31A/31B)の原因となります。患者さんの約3分の1で同じ変化(p.Arg237Trp)が見つかるのも大きな特徴です。
- ➤遺伝子の基本 → HGNC:2972/遺伝子OMIM 602377/第9染色体長腕9q34.11に位置
- ➤タンパク質の働き → シナプス小胞を膜から切り離して再利用する“分子のハサミ”
- ➤起こる病気 → DEE31A(顕性・OMIM 616346)/DEE31B(潜性・OMIM 620352)
- ➤なぜ重くなるのか → 「優性阻害(ドミナントネガティブ)効果」というしくみ
- ➤検査と研究 → 出生後・出生前の検査と、ASOや遺伝子治療など最先端の研究
1. DNM1遺伝子とは:基本情報
DNM1(ダイナミン1)遺伝子は、わたしたちの体の設計図であるゲノムの中で、第9染色体の長腕9q34.11という場所にあります。この遺伝子から「ダイナミン1」というタンパク質がつくられます。ダイナミン1は、特に脳の神経細胞で大量につくられ、神経どうしが信号をやりとりする“接続部分”であるシナプスで働きます。
DNM1は、世界共通の遺伝子データベースでは次のように登録されています。基本情報を整理しておきましょう。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 承認シンボル | DNM1(dynamin 1)/別名 DNM |
| 遺伝子座(場所) | 第9染色体長腕 9q34.11 |
| 遺伝子グループ | プレクストリン相同(PH)ドメイン含有タンパク質 |
| 遺伝子OMIM番号 | 602377 |
| 関連する病気 | 発達性てんかん性脳症31A(顕性)・31B(潜性) |
| タンパク質 | ダイナミン1(864アミノ酸/分子量 約97kDa) |
ダイナミンには、ヒトでは大きく3つの仲間(DNM1・DNM2・DNM3)があります。そのなかでDNM1は脳に強くかたよって働くタイプで、ほかの組織にくらべて脳での働きが何十倍も高いことが知られています。次世代シーケンサーという解読技術が普及した近年になって、このDNM1の変化が、子どものとても重いてんかん(発達性てんかん性脳症)の原因のひとつであることがはっきりわかってきました。
💡 用語解説:シナプスとシナプス小胞
シナプスとは、神経細胞どうしが情報をバトンタッチする“つなぎ目”のこと。送り手側の神経は、シナプス小胞という小さな袋に神経伝達物質(情報を伝える化学物質)を詰めておき、必要なときに袋を細胞膜と合体させて中身を放出します。袋を出しっぱなしにすると膜がどんどん余ってしまうため、使い終わった膜は素早く回収して、新しい袋として再利用する必要があります。この「回収(再利用)」の現場でダイナミン1が活躍します。
2. ダイナミン1タンパク質の構造と「分子のハサミ」のしくみ
ダイナミン1は、ただの酵素ではなく、物理的な力を生み出す“生体モーター”のようなタンパク質です。そのために、いくつかの役割の異なるパーツ(ドメイン)が組み合わさってできています。主なパーツは次の5つです。
- ➤GTPアーゼドメイン:エネルギー源となるGTPを分解し、力に変える“エンジン”の部分
- ➤BSE/ミドル(中間)ドメイン:分子どうしをしっかり組み合わせて、二量体・四量体という土台をつくる“連結部”
- ➤PH(プレクストリン相同)ドメイン:細胞膜の特定の脂質にくっついて、正しい場所に位置を合わせる“吸盤”
- ➤GED(GTPアーゼエフェクタードメイン):たくさん集まったときにエンジンの出力を一気に高める“ブースター”
- ➤PRD(プロリンリッチドメイン):仲間のタンパク質と手をつなぐ“ジョイント”の部分
ダイナミン1のいちばんすごいところは、膜をチューブ状にしぼって、最後にちぎり切る(切断する)という独自の能力です。シナプスで膜がくびれ始めると、ダイナミン1の分子が次々と集まって重なり合い、くびれの“首”の部分をぐるりと取り巻くらせん状のリングをつくります。このリングがしぼり込む力を生み、エンジン(GTPアーゼ)がGTPを分解したエネルギーで一気に構造を変えることで、膜が完全にちぎれて、独立した小胞が細胞の中へ取り込まれます。
ダイナミン1の単量体は、GTPアーゼ・BSE/ミドル・PH・GED・PRDの各パーツからできています。単量体はミドルドメインを介して二量体・四量体となり、膜の上で自己組織化して小胞の“首”を取り巻く巨大ならせんポリマーをつくります。このらせん形成が、力を生み出すために欠かせません。
💡 用語解説:GTPアーゼとは
GTPという物質を分解して、そのときに出るエネルギーを「動き」や「力」に変えるタンパク質のことです。たとえるなら、燃料(GTP)を燃やして動く小さなエンジンです。ダイナミン1はこのエンジンを使って、膜をちぎる物理的な力を生み出しています。
ダイナミン1がたくさんの仲間と協力して「らせん」をつくり、全員でいっせいに力を出すという点が、あとで説明する病気のしくみを理解するうえでとても重要になります。たった1人(=1分子)が壊れていても、チーム全体の働きが止まってしまうからです。
3. シナプスでの役割:小胞の再利用と「超高速エンドサイトーシス」
神経細胞は、1回の発火(活動電位)で大量の神経伝達物質を放出します。そのたびにシナプス小胞の膜が細胞膜に合体するため、放っておくと膜の表面積がどんどん増えてしまいます。ダイナミン1は、この余った膜から小胞を切り離して回収し、何度でも使える状態に戻す(リサイクルする)役割を担っています。これにより、絶え間ない神経の情報伝達が維持されます。
💡 用語解説:エンドサイトーシス
細胞が、細胞膜の一部をくぼませて小さな袋をつくり、外側のものや膜そのものを内側へ取り込むしくみのことです。シナプスでは、使い終わった膜を回収して小胞に作り直すために使われます。ダイナミン1は、この取り込みの「最後のひと切り」を担当しています。
かつてこの回収は数秒〜数十秒かかるとされていましたが、近年の研究で、シナプスにはわずか数十ミリ秒〜1秒ほどで完了する「超高速エンドサイトーシス」という経路があることがわかりました。ダイナミン1は、この超高速の回収においても中心的な役割を果たしています。脳の発達期に神経回路が正しくつくられるためにも、この素早い小胞リサイクルが欠かせません。
ダイナミン1は脳のシナプスでの働きが特に有名ですが、研究では、腸のホルモン分泌の調節や、一部のウイルス(単純ヘルペスウイルスやHIVなど)が細胞に侵入する経路など、神経以外の場面でも多彩に関わることが報告されています。それだけ、細胞にとって基本的で大切なしくみを支えているタンパク質だといえます。
4. DNM1変異が起こす病気と「優性阻害」のメカニズム
DNM1遺伝子に病的な変化が起こると、発達性てんかん性脳症31A(DEE31A)・31B(DEE31B)という病気が生じます。多くは、ご両親にはなく、お子さんで初めて生じた新生突然変異(de novo変異)によるものです。
💡 用語解説:ミスセンス変異と新生突然変異(de novo変異)
ミスセンス変異とは、設計図(DNA)の文字が1つ変わることで、つくられるタンパク質の部品(アミノ酸)が別の種類に置きかわる変化です。タンパク質の形が少し変わり、はたらきに影響します。
新生突然変異(de novo変異)とは、ご両親の精子・卵子ができるときや受精の前後で、お子さんに新しく生じた変化のことです。ご両親には同じ変化がありません。DNM1脳症の多くはこのタイプです。
この病気は、単に「ダイナミン1の量が半分に減ったから」起こるのではありません。じつは、変異したタンパク質が、正常なタンパク質の働きまで積極的に邪魔してしまうことが本質です。これを「優性阻害(ドミナントネガティブ)効果」と呼びます。
💡 用語解説:優性阻害(ドミナントネガティブ)効果
前のセクションで、ダイナミン1は何十個もの分子が「らせん」をつくり、全員で協力して力を出すと説明しました。正常な遺伝子と変異した遺伝子から、タンパク質はほぼ半分ずつつくられます。らせんを組むときに、たった1つでも壊れた変異タンパク質が混じると、その部分でチームワークが断ち切られ、らせん全体がうまく働かなくなってしまうのです。これが、たった1か所の変化で重い病気が起こる理由です。量が半分に減るだけの状態(ハプロ不全)よりも、はるかに影響が大きくなります。
なお、DEE31AとDEE31Bは原因遺伝子は同じDNM1ですが、遺伝の形が異なります。DEE31Aは、2本ある遺伝子のうち片方の変化(新生突然変異が多い)で発症する常染色体顕性(けんせい・旧称:優性)のタイプ。一方DEE31Bは、両親から1つずつ受け継いだ両方の遺伝子に変化がある常染色体潜性(せんせい・旧称:劣性)のまれなタイプで、近親婚の家系で報告されています。
5. 主な症状と経過
DNM1の変化による発達性てんかん性脳症は、比較的そろった、しかし非常に重い症状を示すことが特徴です。多くは生後数か月(発作開始の中央値は約7.6か月、範囲は生後1か月〜4.5歳)で症状が現れます。21人の患者さんを詳しく調べた研究(von Spiczakら、2017年[4])では、その臨床像が明らかにされています。
🧠 発達・知能
- 重度〜最重度の知的障害:ほぼ全例
- 言葉をほとんど獲得しない(非言語的)
- 発作の前から発達の遅れがみられる例も多い
⚡ てんかん発作
- てんかん発作あり:約90%
- はじめは乳児スパズム(点頭てんかん)が多い
- のちにレノックス・ガストー症候群へ移行しやすい
🦵 運動・筋緊張
- 著しい筋緊張低下(低緊張):ほぼ全例
- 自分で歩くことが難しい:約81%
- ジストニアやミオクローヌスを伴う例も
👁️ その他の合併
- 小頭症・大脳萎縮がみられることがある
- 皮質性視覚障害(脳由来の見えにくさ)
- 高温・発熱が発作の引き金になる例も
主な臨床的特徴の頻度を、わかりやすくグラフにまとめました。
📊 DNM1脳症でみられる主な特徴と頻度(21人の研究より)
💡 用語解説:乳児スパズム(点頭てんかん・ウエスト症候群)
生後3〜11か月ごろに多い、特殊なてんかんです。頭を前にカクンと曲げる短い発作(スパズム)が、何度も繰り返し起こります。脳波検査では「ヒプスアリスミア」という、波がばらばらで非常に大きな特徴的な異常波がみられます。発達の遅れを伴いやすく、薬が効きにくい(難治性の)重いタイプのてんかんです。
脳波(EEG)では、ほとんどの患者さんで広い範囲の徐波化やてんかん性の異常波がみられます。具体的な所見の頻度を以下に示します。
📊 脳波(EEG)でみられる異常と頻度
DNM1脳症のてんかんは、既存の抗てんかん薬が効きにくい(難治性の)ことが多いのが現状です。研究では、評価できた患者さんのうち多くが、複数の薬を組み合わせても発作のコントロールが難しい状態でした。クロバザムやクロナゼパム、ステロイド/ACTH、ケトジェニックダイエットなどで一定の改善がみられた例もありますが、一方で逆に悪化した例も報告されており、治療は一人ひとりに合わせた試行錯誤が必要です。
6. 遺伝子型と表現型:変異の「場所」で症状が変わる
DNM1の変異は、タンパク質のどのパーツ(ドメイン)に起こるかで、症状の重さや種類が変わってきます。これを「遺伝子型と表現型の関係(相関)」といいます。特に、エンジン部分(GTPアーゼ)や連結部分(ミドル)の変異は重く、吸盤部分(PH)の変異は比較的軽い傾向があります。
| 変異の場所 | 代表的な変異 | 主な特徴 | てんかん |
|---|---|---|---|
| GTPアーゼ (エンジン) |
p.Arg237Trp(最多・約1/3)、p.Ala177Pro、p.Lys206Asn | 最重度の知的障害・運動障害 | あり(難治性) |
| ミドル (連結部) |
p.Gly359Ala | 重度の知的障害 | あり(重篤) |
| PH (吸盤) |
p.Lys535Glu | 軽度〜中等度の知的障害・自閉スペクトラム症状 | なし(非てんかん性) |
| ドメイン間 リンカー |
p.Met648Arg | 比較的軽度・非定型的な経過 | あり(遅発・熱性誘発) |
特に重要なのが、患者さんの最大3分の1にみられるp.Arg237Trp(c.709C>T)という再発変異です[4]。これはエンジン部分(GTPアーゼ)にある重要な部品を変えてしまうため、もっとも強い優性阻害効果を引き起こし、歩くこと・話すことの獲得を非常に難しくする重篤な経過につながります。てんかん性脳症の中でも、これほど特定の1か所に患者さんが集中する例はめずらしく、後でお話しする「狙い撃ちの治療」を開発するうえで理想的な標的とも考えられています。
一方で、吸盤部分(PHドメイン)のp.Lys535Glu変異をもつ一卵性双生児では、てんかん性脳症は発症せず、軽度〜中等度の知的障害と自閉スペクトラム症状にとどまったと報告されています。このように、同じDNM1の変異でも、場所が違えば病気の見え方が大きく変わることが、研究によって明確に示されています。
7. 検査・診断:出生後と出生前で分けて考える
DNM1に関わる診断は、「生まれてからの診断(出生後)」と「妊娠中の診断(出生前)」で考え方が大きく異なります。混同しないよう、分けて説明します。
① 出生後の診断:遺伝子検査でDNM1を調べる
乳児期からのてんかん・発達の遅れ・筋緊張低下などがある場合、原因遺伝子を調べる遺伝子パネル検査が役立ちます。ミネルバクリニックでは、DNM1を含む新生児てんかん(乳児期発症を含む)の原因遺伝子をまとめて調べるNGSパネル検査を行っています。1つずつ遺伝子を調べるのではなく、関連する多数の遺伝子を一度に解析できるのが利点です。
💡 用語解説:トリオ解析(両親も一緒に調べる)
お子さん本人だけでなく、ご両親も含めた3人(トリオ)で同時に遺伝子を解析する方法です。ご両親にはない変化(新生突然変異)が、お子さんで初めて生じたものかどうかを効率よく見分けられます。DNM1脳症は新生突然変異が多いため、トリオで調べると診断の確実性が高まります。
② 出生前の診断:選択肢と注意点
妊娠中の検査には、大きく分けて「スクリーニング(ふるい分け)」と「確定診断」があります。
スクリーニングとしては、母体の血液を用いるNIPT(新型出生前診断)があります。ミネルバクリニックのインペリアルプランは、DNM1を含む多数の単一遺伝子(新生突然変異を含む)を対象としています。ただしNIPTはあくまでスクリーニングであり、これだけで診断が確定するわけではありません。結果の意味づけは、必ず遺伝カウンセリングのなかで丁寧にご説明します。
確定診断としては、羊水検査・絨毛検査があります。ご家族のなかですでに原因となる変化がわかっている場合(たとえば上のお子さんで診断がついている場合など)には、これらの確定検査で胎児の同じ変化の有無を調べることができます。
💡 大切なこと:検査は「すすめるもの」ではありません
出生前に見つけることが、いつもご家族の利益になるとは限りません。医師は中立な立場で情報をお伝えし、検査を受けるかどうか、結果をどう受けとめるかは、ご家族ご自身が話し合って決めることです。私たちは、特定の検査を押しつけたり、不安をあおったりすることなく、納得のいく選択に伴走します。詳しくは遺伝カウンセリングとはをご覧ください。
なお、ダイナミンは“分子モーター”とも表現されますが、微小管の上を歩いて荷物を運ぶダイニンやキネシンとは別のタイプ(膜を切る酵素)です。分子モーターという大きな仲間についてはダイニン・キネシンの解説ページもあわせてご覧ください。
8. 治療研究の最前線:ASOと「ノックダウン・リプレイス」
現在の薬による治療は、異常な発火をおさえる「対症療法」が中心で、根本的な原因を直すものではありません。しかし近年、DNM1脳症の原因そのものを狙う精密医療・遺伝子治療の研究が、動物モデルを使って大きく前進しています。
「fitful(フィトフル)」マウスから始まった研究
2010年、研究チームは、てんかん発作や運動失調を起こす自然発症のマウス「fitful」を発見しました[7]。このマウスのDnm1変異は特殊で、複数あるタイプ(アイソフォーム)のうち一方だけに起こり、もう一方は無傷のまま残っていました。そして、変異のある側だけを取り除いても、残った側が十分に働いて元気に生きられることがわかりました。これが「悪い分子だけを取り除けば治せるかもしれない」という発想の出発点になりました。
ASO(アンチセンスオリゴヌクレオチド)による治療
💡 用語解説:ASO(アンチセンスオリゴヌクレオチド)
病気の原因となる設計図のコピー(メッセンジャーRNA)に、ぴったりくっつくように設計された、短い人工の核酸(DNA/RNAのかけら)です。狙ったRNAだけを分解したり、はたらきを止めたりできます。脊髄性筋萎縮症(SMA)などではすでに承認され、大きな効果をあげています。DNM1脳症のように特定の変異に患者さんが集中している病気は、変異した側だけを狙う「狙い撃ちのASO」を設計しやすく、有望な標的と考えられています。
最新の戦略:ノックダウン・リプレイス遺伝子治療
実際のヒトのDNM1脳症の多くは、すべてのタイプに共通する部分に変異があります。そこで、変異のある側だけを選んで取り除くのが難しい場合に向けて、より洗練された戦略が開発されました。それが「ノックダウン・リプレイス(取り除いて、入れ替える)」です[6]。
この方法では、1つの運び屋ウイルス(AAV9ベクター)の中に、2つの役割を同時に入れます。
- ➤ノックダウン(取り除く):変異も正常もすべてのDnm1の設計図コピーを、いったんまとめて壊す
- ➤リプレイス(入れ替える):取り除く仕組みに引っかからないように作り変えた“正常版”の設計図を、同時に供給する
2024年に報告された研究では、重いてんかんを示すマウスに、ノックダウンだけ・リプレイスだけを行っても効果はありませんでしたが、この2つを組み合わせた治療を受けたマウスは、致死的な発作をまぬがれ、成長も大きく改善しました[6]。シナプスの伝達の異常も是正されたことが確認されています。さらに、ヒトの子どもは神経回路がつくられる期間がマウスよりずっと長いため、治療が間に合う「時間の窓」もより広いと推定されています。CRISPRを使ったゲノム編集の研究も並行して進んでおり、技術の選択肢が急速に広がっています。
9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ
DNM1という1つの遺伝子から、シナプスの「分子のハサミ」というしくみ、優性阻害という独特の病態、そして最先端の遺伝子治療まで、現代の遺伝医学の歩みがぎゅっと詰まっています。原因が特定され、それがタンパク質のレベルで理解され、いままさに治療開発へとつながっていく——DNM1脳症は、その流れがもっとも順調に進んでいる例のひとつです。
診断名が正確につくことは、ご家族が今後の見通しを立て、適切な支援につながるための第一歩です。難治性のてんかんや発達の遅れの背景に何があるのかを知ることは、不安のなかにいるご家族にとって、大きな意味を持ちます。気になることがあれば、臨床遺伝専門医にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
参考文献
- [1] OMIM #616346. Developmental and Epileptic Encephalopathy 31A (DEE31A). Johns Hopkins University. [OMIM]
- [2] OMIM #620352. Developmental and Epileptic Encephalopathy 31B (DEE31B). Johns Hopkins University. [OMIM]
- [3] OMIM 602377. DNM1, Dynamin 1. Johns Hopkins University. [OMIM]
- [4] von Spiczak S, et al. DNM1 encephalopathy: A new disease of vesicle fission. Neurology. 2017;89(4):385-394. [PMC5574673]
- [5] UniProt. DNM1 – Dynamin-1 – Homo sapiens (Human). UniProtKB Q05193. [UniProt]
- [6] Jones DJ, et al. Effective knockdown-replace gene therapy in a novel mouse model of DNM1 developmental and epileptic encephalopathy. Mol Ther. 2024;32(10):3318-3330. [PMC11489538]
- [7] Boumil RM, et al. A missense mutation in a highly conserved alternate exon of dynamin-1 causes epilepsy in fitful mice. PLoS Genet. 2010;6(8):e1001046. [PLoS Genetics]
- [8] NCBI Gene. DNM1 dynamin 1 (Gene ID: 1759). National Library of Medicine. [NCBI Gene]




