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DNM1遺伝子とは?神経のシナプスを支える「分子のハサミ」とてんかん性脳症

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

DNM1遺伝子は、脳の神経細胞ではたらく「ダイナミン1」というタンパク質の設計図です。ダイナミン1は、情報を伝え終わった小さな袋(シナプス小胞)を細胞膜から切り離して回収する“分子のハサミ”として働きます。この遺伝子に生まれつきの変化が起こると、乳児期から重いてんかんと発達の遅れをきたす発達性てんかん性脳症(DEE31A/31B)の原因になります。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 DNM1遺伝子・シナプス・てんかん性脳症
臨床遺伝専門医監修

Q. DNM1遺伝子とは何ですか?まず結論だけ知りたいです

A. DNM1遺伝子は、シナプスで小胞を切り離す“分子のハサミ”であるタンパク質「ダイナミン1」の設計図です。この遺伝子の変化は、乳児期に発症する治りにくいてんかんと重い発達の遅れをきたす発達性てんかん性脳症(DEE31A/31B)の原因となります。患者さんの約3分の1で同じ変化(p.Arg237Trp)が見つかるのも大きな特徴です。

  • 遺伝子の基本 → HGNC:2972/遺伝子OMIM 602377/第9染色体長腕9q34.11に位置
  • タンパク質の働き → シナプス小胞を膜から切り離して再利用する“分子のハサミ”
  • 起こる病気 → DEE31A(顕性・OMIM 616346)/DEE31B(潜性・OMIM 620352)
  • なぜ重くなるのか → 「優性阻害(ドミナントネガティブ)効果」というしくみ
  • 検査と研究 → 出生後・出生前の検査と、ASOや遺伝子治療など最先端の研究

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1. DNM1遺伝子とは:基本情報

DNM1(ダイナミン1)遺伝子は、わたしたちの体の設計図であるゲノムの中で、第9染色体の長腕9q34.11という場所にあります。この遺伝子から「ダイナミン1」というタンパク質がつくられます。ダイナミン1は、特に脳の神経細胞で大量につくられ、神経どうしが信号をやりとりする“接続部分”であるシナプスで働きます。

DNM1は、世界共通の遺伝子データベースでは次のように登録されています。基本情報を整理しておきましょう。

項目 内容
承認シンボル DNM1(dynamin 1)/別名 DNM
遺伝子座(場所) 第9染色体長腕 9q34.11
遺伝子グループ プレクストリン相同(PH)ドメイン含有タンパク質
遺伝子OMIM番号 602377
関連する病気 発達性てんかん性脳症31A(顕性)・31B(潜性)
タンパク質 ダイナミン1(864アミノ酸/分子量 約97kDa)

ダイナミンには、ヒトでは大きく3つの仲間(DNM1・DNM2・DNM3)があります。そのなかでDNM1は脳に強くかたよって働くタイプで、ほかの組織にくらべて脳での働きが何十倍も高いことが知られています。次世代シーケンサーという解読技術が普及した近年になって、このDNM1の変化が、子どものとても重いてんかん(発達性てんかん性脳症)の原因のひとつであることがはっきりわかってきました。

💡 用語解説:シナプスとシナプス小胞

シナプスとは、神経細胞どうしが情報をバトンタッチする“つなぎ目”のこと。送り手側の神経は、シナプス小胞という小さな袋に神経伝達物質(情報を伝える化学物質)を詰めておき、必要なときに袋を細胞膜と合体させて中身を放出します。袋を出しっぱなしにすると膜がどんどん余ってしまうため、使い終わった膜は素早く回収して、新しい袋として再利用する必要があります。この「回収(再利用)」の現場でダイナミン1が活躍します。

2. ダイナミン1タンパク質の構造と「分子のハサミ」のしくみ

ダイナミン1は、ただの酵素ではなく、物理的な力を生み出す“生体モーター”のようなタンパク質です。そのために、いくつかの役割の異なるパーツ(ドメイン)が組み合わさってできています。主なパーツは次の5つです。

  • GTPアーゼドメイン:エネルギー源となるGTPを分解し、力に変える“エンジン”の部分
  • BSE/ミドル(中間)ドメイン:分子どうしをしっかり組み合わせて、二量体・四量体という土台をつくる“連結部”
  • PH(プレクストリン相同)ドメイン:細胞膜の特定の脂質にくっついて、正しい場所に位置を合わせる“吸盤”
  • GED(GTPアーゼエフェクタードメイン):たくさん集まったときにエンジンの出力を一気に高める“ブースター”
  • PRD(プロリンリッチドメイン):仲間のタンパク質と手をつなぐ“ジョイント”の部分

ダイナミン1のいちばんすごいところは、膜をチューブ状にしぼって、最後にちぎり切る(切断する)という独自の能力です。シナプスで膜がくびれ始めると、ダイナミン1の分子が次々と集まって重なり合い、くびれの“首”の部分をぐるりと取り巻くらせん状のリングをつくります。このリングがしぼり込む力を生み、エンジン(GTPアーゼ)がGTPを分解したエネルギーで一気に構造を変えることで、膜が完全にちぎれて、独立した小胞が細胞の中へ取り込まれます。

ダイナミン1のドメイン構造および高次らせんポリマーの自己組織化メカニズム

ダイナミン1の単量体は、GTPアーゼ・BSE/ミドル・PH・GED・PRDの各パーツからできています。単量体はミドルドメインを介して二量体・四量体となり、膜の上で自己組織化して小胞の“首”を取り巻く巨大ならせんポリマーをつくります。このらせん形成が、力を生み出すために欠かせません。

💡 用語解説:GTPアーゼとは

GTPという物質を分解して、そのときに出るエネルギーを「動き」や「力」に変えるタンパク質のことです。たとえるなら、燃料(GTP)を燃やして動く小さなエンジンです。ダイナミン1はこのエンジンを使って、膜をちぎる物理的な力を生み出しています。

ダイナミン1がたくさんの仲間と協力して「らせん」をつくり、全員でいっせいに力を出すという点が、あとで説明する病気のしくみを理解するうえでとても重要になります。たった1人(=1分子)が壊れていても、チーム全体の働きが止まってしまうからです。

3. シナプスでの役割:小胞の再利用と「超高速エンドサイトーシス」

神経細胞は、1回の発火(活動電位)で大量の神経伝達物質を放出します。そのたびにシナプス小胞の膜が細胞膜に合体するため、放っておくと膜の表面積がどんどん増えてしまいます。ダイナミン1は、この余った膜から小胞を切り離して回収し、何度でも使える状態に戻す(リサイクルする)役割を担っています。これにより、絶え間ない神経の情報伝達が維持されます。

💡 用語解説:エンドサイトーシス

細胞が、細胞膜の一部をくぼませて小さな袋をつくり、外側のものや膜そのものを内側へ取り込むしくみのことです。シナプスでは、使い終わった膜を回収して小胞に作り直すために使われます。ダイナミン1は、この取り込みの「最後のひと切り」を担当しています。

かつてこの回収は数秒〜数十秒かかるとされていましたが、近年の研究で、シナプスにはわずか数十ミリ秒〜1秒ほどで完了する「超高速エンドサイトーシス」という経路があることがわかりました。ダイナミン1は、この超高速の回収においても中心的な役割を果たしています。脳の発達期に神経回路が正しくつくられるためにも、この素早い小胞リサイクルが欠かせません。

ダイナミン1は脳のシナプスでの働きが特に有名ですが、研究では、腸のホルモン分泌の調節や、一部のウイルス(単純ヘルペスウイルスやHIVなど)が細胞に侵入する経路など、神経以外の場面でも多彩に関わることが報告されています。それだけ、細胞にとって基本的で大切なしくみを支えているタンパク質だといえます。

4. DNM1変異が起こす病気と「優性阻害」のメカニズム

DNM1遺伝子に病的な変化が起こると、発達性てんかん性脳症31A(DEE31A)・31B(DEE31B)という病気が生じます。多くは、ご両親にはなく、お子さんで初めて生じた新生突然変異(de novo変異)によるものです。

💡 用語解説:ミスセンス変異と新生突然変異(de novo変異)

ミスセンス変異とは、設計図(DNA)の文字が1つ変わることで、つくられるタンパク質の部品(アミノ酸)が別の種類に置きかわる変化です。タンパク質の形が少し変わり、はたらきに影響します。

新生突然変異(de novo変異)とは、ご両親の精子・卵子ができるときや受精の前後で、お子さんに新しく生じた変化のことです。ご両親には同じ変化がありません。DNM1脳症の多くはこのタイプです。

この病気は、単に「ダイナミン1の量が半分に減ったから」起こるのではありません。じつは、変異したタンパク質が、正常なタンパク質の働きまで積極的に邪魔してしまうことが本質です。これを「優性阻害(ドミナントネガティブ)効果」と呼びます。

💡 用語解説:優性阻害(ドミナントネガティブ)効果

前のセクションで、ダイナミン1は何十個もの分子が「らせん」をつくり、全員で協力して力を出すと説明しました。正常な遺伝子と変異した遺伝子から、タンパク質はほぼ半分ずつつくられます。らせんを組むときに、たった1つでも壊れた変異タンパク質が混じると、その部分でチームワークが断ち切られ、らせん全体がうまく働かなくなってしまうのです。これが、たった1か所の変化で重い病気が起こる理由です。量が半分に減るだけの状態(ハプロ不全)よりも、はるかに影響が大きくなります。

なお、DEE31AとDEE31Bは原因遺伝子は同じDNM1ですが、遺伝の形が異なります。DEE31Aは、2本ある遺伝子のうち片方の変化(新生突然変異が多い)で発症する常染色体顕性(けんせい・旧称:優性)のタイプ。一方DEE31Bは、両親から1つずつ受け継いだ両方の遺伝子に変化がある常染色体潜性(せんせい・旧称:劣性)のまれなタイプで、近親婚の家系で報告されています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「1か所の変化」がなぜ重い病気になるのか】

遺伝子の変化と聞くと「壊れた部品の数が多いほど重い」と思われがちですが、DNM1脳症はそうではありません。たくさんの分子が手をつないで働くタンパク質では、たった1つの“不良品”が全体の足を引っぱることがあります。これが優性阻害という考え方で、ダイナミン1はその典型例です。

このしくみを理解しておくと、「なぜ片方の遺伝子の変化だけでこんなに症状が強いのか」というご家族の疑問に、納得のいく説明ができます。そして同時に、この“足を引っぱる分子だけを取り除く”という発想が、後半でお話しする最先端の治療研究につながっていきます。

5. 主な症状と経過

DNM1の変化による発達性てんかん性脳症は、比較的そろった、しかし非常に重い症状を示すことが特徴です。多くは生後数か月(発作開始の中央値は約7.6か月、範囲は生後1か月〜4.5歳)で症状が現れます。21人の患者さんを詳しく調べた研究(von Spiczakら、2017年[4])では、その臨床像が明らかにされています。

🧠 発達・知能

  • 重度〜最重度の知的障害:ほぼ全例
  • 言葉をほとんど獲得しない(非言語的)
  • 発作の前から発達の遅れがみられる例も多い

⚡ てんかん発作

  • てんかん発作あり:約90%
  • はじめは乳児スパズム(点頭てんかん)が多い
  • のちにレノックス・ガストー症候群へ移行しやすい

🦵 運動・筋緊張

  • 著しい筋緊張低下(低緊張):ほぼ全例
  • 自分で歩くことが難しい:約81%
  • ジストニアやミオクローヌスを伴う例も

👁️ その他の合併

  • 小頭症・大脳萎縮がみられることがある
  • 皮質性視覚障害(脳由来の見えにくさ)
  • 高温・発熱が発作の引き金になる例も

主な臨床的特徴の頻度を、わかりやすくグラフにまとめました。

📊 DNM1脳症でみられる主な特徴と頻度(21人の研究より)

重度〜最重度の知的障害 ほぼ全例
著しい筋緊張低下 ほぼ全例
てんかん発作あり 約90%
自力での歩行が困難 約81%
乳児スパズム(点頭てんかん) 約76%

💡 用語解説:乳児スパズム(点頭てんかん・ウエスト症候群)

生後3〜11か月ごろに多い、特殊なてんかんです。頭を前にカクンと曲げる短い発作(スパズム)が、何度も繰り返し起こります。脳波検査では「ヒプスアリスミア」という、波がばらばらで非常に大きな特徴的な異常波がみられます。発達の遅れを伴いやすく、薬が効きにくい(難治性の)重いタイプのてんかんです。

脳波(EEG)では、ほとんどの患者さんで広い範囲の徐波化やてんかん性の異常波がみられます。具体的な所見の頻度を以下に示します。

📊 脳波(EEG)でみられる異常と頻度

多焦点性てんかん様放電 70%
ヒプスアリスミア 55%
遅棘徐波複合 45%
全般性棘徐波 30%
発作性速波活動 20%

DNM1脳症のてんかんは、既存の抗てんかん薬が効きにくい(難治性の)ことが多いのが現状です。研究では、評価できた患者さんのうち多くが、複数の薬を組み合わせても発作のコントロールが難しい状態でした。クロバザムやクロナゼパム、ステロイド/ACTH、ケトジェニックダイエットなどで一定の改善がみられた例もありますが、一方で逆に悪化した例も報告されており、治療は一人ひとりに合わせた試行錯誤が必要です。

6. 遺伝子型と表現型:変異の「場所」で症状が変わる

DNM1の変異は、タンパク質のどのパーツ(ドメイン)に起こるかで、症状の重さや種類が変わってきます。これを「遺伝子型と表現型の関係(相関)」といいます。特に、エンジン部分(GTPアーゼ)や連結部分(ミドル)の変異は重く吸盤部分(PH)の変異は比較的軽い傾向があります。

変異の場所 代表的な変異 主な特徴 てんかん
GTPアーゼ
(エンジン)
p.Arg237Trp(最多・約1/3)、p.Ala177Pro、p.Lys206Asn 最重度の知的障害・運動障害 あり(難治性)
ミドル
(連結部)
p.Gly359Ala 重度の知的障害 あり(重篤)
PH
(吸盤)
p.Lys535Glu 軽度〜中等度の知的障害・自閉スペクトラム症状 なし(非てんかん性)
ドメイン間
リンカー
p.Met648Arg 比較的軽度・非定型的な経過 あり(遅発・熱性誘発)

特に重要なのが、患者さんの最大3分の1にみられるp.Arg237Trp(c.709C>T)という再発変異です[4]。これはエンジン部分(GTPアーゼ)にある重要な部品を変えてしまうため、もっとも強い優性阻害効果を引き起こし、歩くこと・話すことの獲得を非常に難しくする重篤な経過につながります。てんかん性脳症の中でも、これほど特定の1か所に患者さんが集中する例はめずらしく、後でお話しする「狙い撃ちの治療」を開発するうえで理想的な標的とも考えられています。

一方で、吸盤部分(PHドメイン)のp.Lys535Glu変異をもつ一卵性双生児では、てんかん性脳症は発症せず、軽度〜中等度の知的障害と自閉スペクトラム症状にとどまったと報告されています。このように、同じDNM1の変異でも、場所が違えば病気の見え方が大きく変わることが、研究によって明確に示されています。

7. 検査・診断:出生後と出生前で分けて考える

DNM1に関わる診断は、「生まれてからの診断(出生後)」と「妊娠中の診断(出生前)」で考え方が大きく異なります。混同しないよう、分けて説明します。

① 出生後の診断:遺伝子検査でDNM1を調べる

乳児期からのてんかん・発達の遅れ・筋緊張低下などがある場合、原因遺伝子を調べる遺伝子パネル検査が役立ちます。ミネルバクリニックでは、DNM1を含む新生児てんかん(乳児期発症を含む)の原因遺伝子をまとめて調べるNGSパネル検査を行っています。1つずつ遺伝子を調べるのではなく、関連する多数の遺伝子を一度に解析できるのが利点です。

💡 用語解説:トリオ解析(両親も一緒に調べる)

お子さん本人だけでなく、ご両親も含めた3人(トリオ)で同時に遺伝子を解析する方法です。ご両親にはない変化(新生突然変異)が、お子さんで初めて生じたものかどうかを効率よく見分けられます。DNM1脳症は新生突然変異が多いため、トリオで調べると診断の確実性が高まります。

② 出生前の診断:選択肢と注意点

妊娠中の検査には、大きく分けて「スクリーニング(ふるい分け)」と「確定診断」があります。

スクリーニングとしては、母体の血液を用いるNIPT(新型出生前診断)があります。ミネルバクリニックのインペリアルプランは、DNM1を含む多数の単一遺伝子(新生突然変異を含む)を対象としています。ただしNIPTはあくまでスクリーニングであり、これだけで診断が確定するわけではありません。結果の意味づけは、必ず遺伝カウンセリングのなかで丁寧にご説明します。

確定診断としては、羊水検査・絨毛検査があります。ご家族のなかですでに原因となる変化がわかっている場合(たとえば上のお子さんで診断がついている場合など)には、これらの確定検査で胎児の同じ変化の有無を調べることができます。

💡 大切なこと:検査は「すすめるもの」ではありません

出生前に見つけることが、いつもご家族の利益になるとは限りません。医師は中立な立場で情報をお伝えし、検査を受けるかどうか、結果をどう受けとめるかは、ご家族ご自身が話し合って決めることです。私たちは、特定の検査を押しつけたり、不安をあおったりすることなく、納得のいく選択に伴走します。詳しくは遺伝カウンセリングとはをご覧ください。

なお、ダイナミンは“分子モーター”とも表現されますが、微小管の上を歩いて荷物を運ぶダイニンやキネシンとは別のタイプ(膜を切る酵素)です。分子モーターという大きな仲間についてはダイニン・キネシンの解説ページもあわせてご覧ください。

8. 治療研究の最前線:ASOと「ノックダウン・リプレイス」

現在の薬による治療は、異常な発火をおさえる「対症療法」が中心で、根本的な原因を直すものではありません。しかし近年、DNM1脳症の原因そのものを狙う精密医療・遺伝子治療の研究が、動物モデルを使って大きく前進しています。

「fitful(フィトフル)」マウスから始まった研究

2010年、研究チームは、てんかん発作や運動失調を起こす自然発症のマウス「fitful」を発見しました[7]。このマウスのDnm1変異は特殊で、複数あるタイプ(アイソフォーム)のうち一方だけに起こり、もう一方は無傷のまま残っていました。そして、変異のある側だけを取り除いても、残った側が十分に働いて元気に生きられることがわかりました。これが「悪い分子だけを取り除けば治せるかもしれない」という発想の出発点になりました。

ASO(アンチセンスオリゴヌクレオチド)による治療

💡 用語解説:ASO(アンチセンスオリゴヌクレオチド)

病気の原因となる設計図のコピー(メッセンジャーRNA)に、ぴったりくっつくように設計された、短い人工の核酸(DNA/RNAのかけら)です。狙ったRNAだけを分解したり、はたらきを止めたりできます。脊髄性筋萎縮症(SMA)などではすでに承認され、大きな効果をあげています。DNM1脳症のように特定の変異に患者さんが集中している病気は、変異した側だけを狙う「狙い撃ちのASO」を設計しやすく、有望な標的と考えられています。

最新の戦略:ノックダウン・リプレイス遺伝子治療

実際のヒトのDNM1脳症の多くは、すべてのタイプに共通する部分に変異があります。そこで、変異のある側だけを選んで取り除くのが難しい場合に向けて、より洗練された戦略が開発されました。それが「ノックダウン・リプレイス(取り除いて、入れ替える)」です[6]

この方法では、1つの運び屋ウイルス(AAV9ベクター)の中に、2つの役割を同時に入れます。

  • ノックダウン(取り除く):変異も正常もすべてのDnm1の設計図コピーを、いったんまとめて壊す
  • リプレイス(入れ替える):取り除く仕組みに引っかからないように作り変えた“正常版”の設計図を、同時に供給する

2024年に報告された研究では、重いてんかんを示すマウスに、ノックダウンだけ・リプレイスだけを行っても効果はありませんでしたが、この2つを組み合わせた治療を受けたマウスは、致死的な発作をまぬがれ、成長も大きく改善しました[6]。シナプスの伝達の異常も是正されたことが確認されています。さらに、ヒトの子どもは神経回路がつくられる期間がマウスよりずっと長いため、治療が間に合う「時間の窓」もより広いと推定されています。CRISPRを使ったゲノム編集の研究も並行して進んでおり、技術の選択肢が急速に広がっています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「治療法がない」から「研究が進む」へ】

DNM1脳症は、原因がはっきりしていて、症状も比較的そろっているという特徴があります。これは患者さんとご家族にとってはつらい現実でもありますが、研究者にとっては「狙いを定めやすい」という意味も持ちます。だからこそ、根本治療に向けた研究がここまで速く進んでいるのです。

もちろん、これらはまだ動物実験の段階で、ヒトでの安全性や届け方など、乗り越えるべき課題は残っています。それでも、かつては「打つ手がない」とされた病気に、確かな希望の光が見え始めています。最新の情報を正しくお伝えすることも、私たちの大切な役割だと考えています。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

DNM1という1つの遺伝子から、シナプスの「分子のハサミ」というしくみ、優性阻害という独特の病態、そして最先端の遺伝子治療まで、現代の遺伝医学の歩みがぎゅっと詰まっています。原因が特定され、それがタンパク質のレベルで理解され、いままさに治療開発へとつながっていく——DNM1脳症は、その流れがもっとも順調に進んでいる例のひとつです。

診断名が正確につくことは、ご家族が今後の見通しを立て、適切な支援につながるための第一歩です。難治性のてんかんや発達の遅れの背景に何があるのかを知ることは、不安のなかにいるご家族にとって、大きな意味を持ちます。気になることがあれば、臨床遺伝専門医にご相談ください。

🏥 遺伝子・てんかん性脳症のご相談

DNM1をはじめとする遺伝性疾患のご相談は、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックへお気軽にどうぞ。

よくある質問(FAQ)

Q1. DNM1遺伝子の変化は遺伝しますか?

DEE31A(顕性タイプ)の多くは、ご両親にはなくお子さんで初めて生じた新生突然変異(de novo変異)によるもので、ご両親からの遺伝ではないことがほとんどです。ただし常染色体顕性遺伝のため、患者さんご本人がお子さんをもつ場合の遺伝確率は理論上50%です。一方、まれなDEE31B(潜性タイプ)は、両親から1つずつ受け継いだ場合に発症します。詳しくは臨床遺伝専門医にご相談ください。

Q2. なぜ1か所の変化だけで、こんなに重い症状が出るのですか?

ダイナミン1は、たくさんの分子が「らせん」をつくり、全員で協力して力を出すタンパク質です。そのため、たった1つの変異タンパク質が混ざるだけで、チーム全体の働きが止まってしまいます。これを優性阻害(ドミナントネガティブ)効果といい、量が半分に減るだけの状態よりはるかに影響が大きくなります。

Q3. どのように診断されますか?

乳児期からのてんかん・発達の遅れ・筋緊張低下などから疑われ、遺伝子検査でDNM1の変化が確認されることで診断されます。ミネルバクリニックでは、DNM1を含む新生児てんかんのNGSパネル検査を行っており、ご両親も含めたトリオ解析を行うと、新生突然変異かどうかを効率よく確認できます。

Q4. DNM1の変化があると、必ずてんかんになりますか?

いいえ、必ずしもそうではありません。変異の場所によって症状が変わります。エンジン部分(GTPアーゼ)や連結部分(ミドル)の変異では難治性のてんかんを伴う重い経過になりやすい一方、吸盤部分(PHドメイン)の特定の変異(p.Lys535Gluなど)では、てんかんを伴わず、軽度〜中等度の知的障害や自閉スペクトラム症状にとどまった例も報告されています。

Q5. 出生前に調べることはできますか?

ご家族のなかですでに原因となる変化がわかっている場合は、羊水検査・絨毛検査による出生前の確定診断が選択肢になります。母体血を用いるNIPT(インペリアルプランはDNM1を含みます)はスクリーニングで、結果は遺伝カウンセリングで説明します。検査を受けるかどうかは、ご家族が話し合ってお決めになることです。

Q6. 現在、治療法はありますか?

現在の治療は、発作をおさえる抗てんかん薬やケトジェニックダイエットなどが中心で、効果には個人差があり難治性のことが多いのが実情です。ただし、ASO(狙い撃ちの核酸医薬)や、悪い設計図を取り除いて正常版に入れ替える「ノックダウン・リプレイス」遺伝子治療など、原因そのものを狙う研究が動物モデルで大きく前進しています。実用化にはまだ時間が必要ですが、希望のもてる分野です。

Q7. 「ダイナミン」はダイニンやキネシンと同じですか?

名前は似ていますが、別のタンパク質です。ダイニンやキネシンは、レール(微小管)の上を歩いて荷物を運ぶ“輸送モーター”です。一方ダイナミンは、膜をちぎって小胞をつくる“分子のハサミ”として働く大型のGTPアーゼで、はたらき方が異なります。分子モーターの仲間についてはダイニン・キネシンの解説もご覧ください。

Q8. p.Arg237Trpという変異がよく出てくるのはなぜですか?

p.Arg237Trp(c.709C>T)は、DNM1脳症の患者さんの最大3分の1にみられる「再発変異」です。エンジン部分(GTPアーゼ)の重要な部品を変えてしまうため強い影響をもち、てんかん性脳症の中でも特定の1か所にこれほど患者さんが集中するのはめずらしいことです。これは、その変異だけを狙う治療を開発するうえで理想的な標的とも考えられています。

参考文献

  • [1] OMIM #616346. Developmental and Epileptic Encephalopathy 31A (DEE31A). Johns Hopkins University. [OMIM]
  • [2] OMIM #620352. Developmental and Epileptic Encephalopathy 31B (DEE31B). Johns Hopkins University. [OMIM]
  • [3] OMIM 602377. DNM1, Dynamin 1. Johns Hopkins University. [OMIM]
  • [4] von Spiczak S, et al. DNM1 encephalopathy: A new disease of vesicle fission. Neurology. 2017;89(4):385-394. [PMC5574673]
  • [5] UniProt. DNM1 – Dynamin-1 – Homo sapiens (Human). UniProtKB Q05193. [UniProt]
  • [6] Jones DJ, et al. Effective knockdown-replace gene therapy in a novel mouse model of DNM1 developmental and epileptic encephalopathy. Mol Ther. 2024;32(10):3318-3330. [PMC11489538]
  • [7] Boumil RM, et al. A missense mutation in a highly conserved alternate exon of dynamin-1 causes epilepsy in fitful mice. PLoS Genet. 2010;6(8):e1001046. [PLoS Genetics]
  • [8] NCBI Gene. DNM1 dynamin 1 (Gene ID: 1759). National Library of Medicine. [NCBI Gene]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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