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発達性てんかん性脳症101(DEE101)とは|GRIN1遺伝子の両アレル性機能喪失で生じる最重症の乳児てんかん性脳症

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、世界基準の遺伝医療を提供。

発達性てんかん性脳症101(DEE101/OMIM 619814)は、GRIN1遺伝子の両アレル性(ホモ接合性または複合ヘテロ接合性)機能喪失変異によって引き起こされる、極めて重篤な常染色体劣性(潜性)遺伝の早期乳児てんかん性脳症です。生後数時間から数日以内に発症する難治性てんかんと、最重度の全般性発達遅滞を特徴とします。同じGRIN1遺伝子でも変異のタイプによって表現型が大きく異なる「GRIN1関連神経発達障害スペクトラム」の最重症型に位置づけられ、分子メカニズムの理解は今後の遺伝子補充療法(AAVベクター療法)の開発における重要な基盤となっています。

この記事でわかること
📖 読了時間:約18分
🧬 GRIN1・NMDA受容体・てんかん性脳症
臨床遺伝専門医監修

Q. 発達性てんかん性脳症101(DEE101)とはどんな病気ですか?まず結論を教えてください

A. 脳の神経伝達に必須のNMDA受容体を構成するGRIN1遺伝子について、父由来・母由来の両方のアレルが機能を完全に失った結果として起こる、最重症の早期乳児てんかん性脳症です。新生児期から多剤抵抗性のけいれん発作とバーストサプレッションを示す重篤な脳波異常を呈し、運動発達・認知発達はほぼ獲得されません。常染色体劣性遺伝のため、次のお子さんの再発リスクは25%となります。

  • 疾患の定義 → OMIM 619814、原因遺伝子GRIN1(9q34.3)、常染色体劣性遺伝
  • 分子メカニズム → NMDA受容体GluN1サブユニットの完全枯渇による脳発達の破綻
  • 主な症状 → 生後数時間〜数日発症の多剤抵抗性てんかん、最重度発達遅滞、運動障害
  • 表現型スペクトラム → 同じGRIN1でも変異タイプにより無症状〜DEE101まで4段階に分かれる
  • 診断・展望 → トリオ全エクソーム解析、AAVベクター遺伝子補充療法の前臨床研究

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1. DEE101とは:疾患の定義と位置づけ

発達性てんかん性脳症101(Developmental and Epileptic Encephalopathy 101、略称DEE101)は、OMIMデータベースに619814として登録されている、極めて稀少かつ重篤な早期乳児てんかん性脳症です。第9番染色体長腕(9q34.3)に位置するGRIN1遺伝子の両アレル性機能喪失変異が原因で、生後数時間から数日以内という極端に早い時期に難治性のてんかん発作を発症し、運動・認知・社会性すべての領域で最重度の発達遅滞を呈します。

💡 用語解説:てんかん性脳症(Epileptic Encephalopathy)

単に「てんかん発作がある状態」を指すのではなく、てんかん性の異常な電気活動(脳波上の発作性放電)そのものが、脳の発達と認知機能に進行性のダメージを与え続けると考えられている深刻な病態のことです。発作のコントロールだけでなく、脳波の異常活動を抑えることも治療目標となります。詳しくは遺伝子バリアントの種類と影響もご参照ください。

DEE101の理解で最も大切なのは、同じGRIN1遺伝子の異常でも、変異のタイプ(ミスセンス変異か機能喪失型変異か)と変異の入り方(片方のアレルだけか、両方のアレルか)の組み合わせによって、まったく異なる3つの疾患が生じるという点です。OMIMでは以下の3疾患がGRIN1関連神経発達障害として登録されています。

  • 常染色体顕性(優性)型 NDHMSD(OMIM 614254):片方のアレルに新生(de novo)ミスセンス変異が生じて発症
  • 常染色体劣性(潜性)型 NDHMSR(OMIM 617820):両方のアレルにホモ接合性ミスセンス変異が入って発症
  • DEE101(OMIM 619814):本記事のテーマ。両アレルとも機能喪失型(ナンセンス変異・スプライス異常・フレームシフト等)で、機能するGluN1タンパク質が脳内から完全に失われる最重症型

2016年にLemkeらが3例の同胞家系(c.1666C>T / p.Gln556*のホモ接合性ナンセンス変異)を報告して以降、症例の集積は緩やかに進んでいますが、世界的に見ても症例報告は十数家系にとどまる超稀少疾患です。これは、両親が同じGRIN1機能喪失型変異を保有するヘテロ接合体同士で出会う確率自体が極めて低いこと、そして両アレル性機能喪失が胎児期から致死的に作用しうることの両方を反映しています。

2. 原因遺伝子GRIN1とNMDA受容体の分子的役割

DEE101の病態を理解するうえで核心となるのが、GRIN1遺伝子がコードするGluN1(NR1とも呼ばれる)というタンパク質と、それが構成するNMDA受容体の分子生物学的特性です。

💡 用語解説:NMDA受容体とは

脳の神経細胞同士をつなぐシナプスに存在する「興奮性シグナルの受信機」のひとつ。神経伝達物質グルタミン酸が結合すると開く扉のような分子で、開くとカルシウムイオンが神経細胞内に流れ込み、学習・記憶・脳回路の発達に必要なシグナルを細胞内に伝えます。NMDA受容体は2個のGluN1サブユニットと2個のGluN2サブユニットからなる「4量体」として機能し、GluN1はすべてのNMDA受容体に必須の中核部品です。

💡 用語解説:シナプス可塑性とLTP

神経細胞(ニューロン)と神経細胞のつなぎ目の「強さ」が経験によって変化する性質を、シナプス可塑性と呼びます。よく使われるつなぎ目は強くなり(長期増強=LTP)、使われないつなぎ目は弱くなる(長期抑圧=LTD)。この変化が記憶や学習の分子的な基盤であり、NMDA受容体を通じて流入するカルシウムイオンがそのスイッチを入れます。GluN1が完全に失われると、このスイッチそのものが入らない状態になります。

GRIN1変異スペクトラム:なぜ同じ遺伝子から異なる病気が生まれるのか

DEE101を語るうえで欠かせないのが、GRIN1遺伝子における「変異タイプとアレル状態の組み合わせ」が生む4段階の表現型スペクトラムです。以下に図解します。

GRIN1遺伝子変異の重症度スペクトラム

① ヘテロ接合性Null(片方だけ機能喪失)

ナンセンス変異・スプライス異常などが片方のアレルのみ

無症状(保因者)

② ヘテロ接合性ミスセンス(新生変異)

de novoのミスセンス変異が片方のアレルに発生

AD型NDHMSD(OMIM 614254)

③ ホモ接合性ミスセンス

同じミスセンス変異が両アレルに(多くは近親婚家系)

AR型NDHMSR(OMIM 617820)

④ 両アレル性Null(最重症)

ナンセンス・スプライス・フレームシフト等が両アレルに

DEE101(OMIM 619814)致死的

変異の性質(ミスセンスかNullか)とアレル状態(ヘテロかホモか)の組み合わせで、受容体機能への影響の度合いが変わり、臨床表現型の重症度が決まります。

パラドックス:ヘテロ接合性Nullがなぜ無症状なのか

GRIN1遺伝子は、一般集団のゲノムデータを集めたgnomADデータベース上で、機能喪失型変異に対して非常に強い「不耐性」を示します(pLI = 0.98、LOEUF = 0.31)。これは進化の過程でGRIN1の機能喪失型変異が強く淘汰されてきたことを意味します。にもかかわらず、片方のアレルだけが機能を失った人(ヘテロ接合性Null)は明確な神経症状を示しません。なぜでしょうか。

💡 用語解説:ハプロ不全とNMD

片方のアレルが壊れて、もう片方の正常なアレルだけでは必要なタンパク質量を確保できず機能不全に陥る状態をハプロ不全と呼びます。GRIN1の場合は、片方のアレルだけがナンセンス変異等で機能を失っても、もう一方のアレルから作られる正常GluN1だけでなんとか脳の発達を維持できる「ハプロ不全に耐性」のある遺伝子なのです。ナンセンス変異から生じた異常mRNAは、細胞が持つ品質管理機構であるNMD(ナンセンス変異依存mRNA分解機構)によってすみやかに分解され、異常タンパク質が作られない仕組みになっています。

これに対してミスセンス変異の場合は、わずかにアミノ酸が置換された「異常GluN1タンパク質」がNMDを回避してしまい、NMDA受容体4量体に組み込まれた結果、正常なサブユニットの働きまで邪魔するドミナントネガティブ効果(優性阻害)や、チャネルの開口確率を異常に高める機能獲得効果を発揮し、AD型・AR型の神経発達障害を引き起こします。

そして両アレル性Null(DEE101)の場合は、機能するGluN1タンパク質が脳内から事実上消失し、すべてのNMDA受容体が組み立てられなくなります。これは胎児期から新生児期にかけての神経回路形成・シナプス刈り込み・興奮性シグナリングの完全な破綻を意味します。マウスのGrin1ホモノックアウトが出生直後に呼吸不全で致死的になる事実とも合致しており、ヒトのDEE101の劇症性を分子レベルで裏付けています。

🔍 関連記事:変異タイプ別の作用機序をさらに詳しく知りたい方はミスセンス変異の解説機能喪失型変異の解説スプライスバリアントの解説もあわせてお読みください。

3. 主な症状と臨床表現型

DEE101の臨床像は、神経系を中心に運動系・消化器系・呼吸器系・視覚系など多臓器にまたがる重篤な症状の複合体です。発症は出生直後から乳児期早期に集中し、急速に全身状態が悪化していきます。

難治性てんかんとバーストサプレッション

DEE101で最も顕著かつ生命に直結する特徴は、生後30分から数日以内に発症する多剤抵抗性のてんかん発作です。発作の現れ方は一種類にとどまらず、強直間代発作(全身を硬直させた律動的なけいれん)・ミオクロニー発作(瞬間的な筋収縮)・強直発作・焦点性発作・てんかん性スパズム(上肢の屈曲などを伴う点頭発作様の発作)が混在して観察されます。

💡 用語解説:バーストサプレッション(burst suppression)

脳波(EEG)において、高振幅の異常波の固まり(バースト)ほぼ平坦な脳波(サプレッション)が交互に出現するパターンのことです。重篤な脳機能障害を反映しており、新生児期に出現する場合は早期ミオクロニー脳症(EME)・大田原症候群・DEE101など最重症のてんかん性脳症を強く示唆します。DEE101では発症初期からこのパターンが認められることが多く、診断の方向性を絞る重要な手がかりです。

最重度の全般性発達遅滞

DEE101の患者さんは例外なく、最重度の全般性発達遅滞と知的障害を呈します。定頸(首のすわり)の未獲得、寝返り・座位・歩行の獲得不能、発語の完全な欠如(absent speech)、親の顔への社会的微笑や喃語が出ない、アイコンタクトすら成立しないなど、運動・認知・社会性すべての発達マイルストーンが達成されない例が大半を占めます。

運動障害と筋緊張異常

てんかん発作とは独立した運動障害もDEE101の重要な特徴です。体幹の著明な筋緊張低下(axial hypotonia)と四肢の筋緊張亢進(hypertonia)が混在し、頭部のコントロールができない一方で四肢は突っ張った状態になることがよく見られます。さらに、ジストニア・ジスキネジア・舞踏運動などの不随意運動が高頻度に観察されます。特徴的な姿勢異常として、頸部・体幹・下肢の伸筋群が強烈に痙縮することで体が弓なりに反り返るオピストトーヌス(後弓反張)や、眼球が持続的に上方へ偏位する眼球回転発作(oculogyric crises)も報告されています。

全身合併症:消化器・呼吸器・視覚

🍼 消化器系

生後早期からの重度な哺乳不良・嚥下障害・胃食道逆流症(GERD)が必発。経口摂取が困難なため、経鼻胃管から始まり、長期的には胃瘻(ガストロストミー)造設による経管栄養管理が必要となるケースが多いです。

🫁 呼吸器系

新生児期から中枢性の無呼吸発作が頻繁に出現。出生直後から人工呼吸器による長期呼吸サポートを要する症例も存在します。徐脈や房室ブロックなど自律神経系・循環器系の異常を伴うこともあります。

👁️ 視覚系

眼球そのものの構造異常ではなく、脳の視覚野の障害に起因する皮質盲(cortical blindness)・大脳性視覚障害(CVI)を合併。視覚的な追視や光刺激への反応が見られない例が多数報告されています。

🦴 二次的合併症

重度の運動障害と痙縮の経過の中で、四肢の関節拘縮が進行性に生じます。小頭症や、画像検査での大脳萎縮・脳梁低形成・多小脳回などの皮質形成異常を伴うこともあります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【生後数時間で発作、すぐに遺伝子を疑ってください】

生後30分や数時間という極端に早い時期に始まり、複数の抗てんかん薬を最大量で併用しても全く抑えられない発作が続いている場合、低酸素性虚血性脳症(HIE)や代謝異常を一次的に疑うのは当然です。ただ、それと並行して必ず遺伝子検査の選択肢を考えてほしいのです。

発症から診断までの「診断の旅(diagnostic odyssey)」が長引くほど、ご家族の精神的負担は積み重なります。GRIN1のような最重症遺伝子病が背景にある場合、次のお子さんの再発リスクは25%です。確定診断はご家族の今後の選択肢に直接つながるため、現代では新生児期からのトリオ全エクソーム解析を視野に入れる時代に入っています。

4. 鑑別診断:他の早期発症型てんかん性脳症との違い

DEE101の臨床像は、他の新生児期・乳児期発症てんかん性脳症と非常によく似ているため、臨床所見だけからGRIN1を直接想定するのは困難です。鑑別の対象となる主な疾患を整理します。

大田原症候群(OS)

新生児期発症の強直性スパズムとバーストサプレッションを特徴とする重症脳症。STXBP1・ARX・KCNQ2・SCN2Aなどの変異が原因。

鑑別ポイント:DEE101も同様の脳波パターンを示すため、遺伝子検査でGRIN1両アレル性Nullを同定することが決め手になります。

早期ミオクロニー脳症(EME)

新生児期に断片的ミオクロニー発作と部分発作で発症。非ケトン性高グリシン血症などの代謝異常症が背景にあることが多い疾患。

鑑別ポイント:血液・尿の代謝スクリーニングと遺伝子検査の組み合わせで鑑別します。DEE101では代謝スクリーニングは通常正常です。

GRIN2A・GRIN2B関連脳症

同じNMDA受容体ファミリーの遺伝子変異による脳症。GRIN1と異なり、GRIN2A・GRIN2Bはヘテロ接合性Nullでも重症脳症を引き起こします。

鑑別ポイント:同じNGSパネル検査で同時に検出されるため、遺伝子検査で明確に区別されます。

低酸素性虚血性脳症(HIE)

分娩時の脳への酸素・血流不足による脳症。新生児期発症のけいれんと発達遅滞という臨床像が部分的に重なります。

鑑別ポイント:周産期歴・MRI所見・代謝検査が正常で、難治性てんかんと最重度発達遅滞が続く場合は遺伝子検査を検討します。

5. 診断と遺伝子検査の進め方

DEE101の診断は、臨床評価(症状・発達歴・脳波・神経画像)と次世代シーケンス(NGS)による遺伝子解析を組み合わせる現代的アプローチで進めます。出生前と出生後で利用できる検査が大きく異なるため、分けて整理します。

出生後の確定診断

難治性発作と脳波上のバーストサプレッションが認められた段階で、頭部MRI(HIEや構造異常の除外)・血清アミノ酸/尿中有機酸(代謝異常症の除外)を進めると同時に、原因遺伝子探索のための分子遺伝学的検査を始めます。

💡 用語解説:トリオ全エクソーム解析(Trio-WES)

遺伝子のタンパク質をコードする領域(エクソン全体)を網羅的に解析する次世代シーケンス手法を全エクソームシーケンス(WES)と呼びます。「トリオ」は患者本人と両親の3名で同時に解析する形式のことで、新生(de novo)変異の検出に強く、両親が保因者かどうかも同時に確認できるためDEE101のような常染色体劣性疾患の診断にとても有効です。

同定されたバリアントは、ACMG(米国臨床遺伝・ゲノム学会)のガイドラインに基づき、機能喪失の予測・集団頻度・計算科学的予測ツールを総合して「病的(Pathogenic)」または「病的である可能性が高い(Likely Pathogenic)」と判定されます。DEE101の場合は、両親がそれぞれ同じバリアントを片方のアレルにヘテロで保有していること(保因者であること)が確認されることも、診断の重要な裏付けになります。

出生前の選択肢

家系内に病的バリアントがすでに同定されている場合(前のお子さんがDEE101だったご家族など)、次の妊娠で以下の出生前検査を選択できます。

  • 羊水検査・絨毛検査家系内で同定済みのGRIN1変異を直接検索することで、胎児がDEE101かどうかを確実に診断できます。
  • 着床前遺伝学的検査(PGT-M):体外受精と組み合わせた、変異の有無を見たうえで胚を選ぶ選択肢です。
  • インペリアルプラン(NIPT)当院のインペリアルプランは、GRIN1を含む154遺伝子・218疾患の単一遺伝子疾患をスクリーニング対象としています。家系内に既知の変異がない場合でも、新生(de novo)の重症遺伝子病を出生前にスクリーニングできる選択肢の一つです。

DEE101はAR遺伝で、両親がそれぞれ保因者の場合にしか発症しません。多くのケースで前のお子さんの確定診断によって初めてご両親が保因者と分かるため、出生前の選択肢を考えるかどうかは、ご夫婦のお考えを丁寧に確認しながら一緒に検討します。遺伝カウンセリングでの十分な情報提供が前提となります。

6. 治療と長期管理:現在の標準ケアと未来の展望

残念ながら、現時点でDEE101を根本的に治す方法は確立されていません。日々の臨床管理は、小児神経科医・新生児科医・消化器科医・呼吸器科医・理学療法士・遺伝専門医など多職種の連携による徹底した対症療法と支持療法が中心となります。

発作のコントロール

DEE101の発作は極めて難治性です。作用機序の異なる複数の抗てんかん薬(フェノバルビタール・レベチラセタム・バルプロ酸・クロナゼパム・クロバザムなど)を最大用量で併用しても、発作消失(seizure freedom)の達成は事実上困難であることが報告されています。一部の症例では部分的な発作頻度の減少が得られることがありますが、ケトン食療法(ketogenic diet)への反応性についてはGRIN1関連障害全般で個別性が高く、有効性は患者ごとに評価する必要があります。

全身管理と支持療法

栄養・消化器

重度の嚥下障害とGERDが必発のため、早期から経鼻胃管による経腸栄養を導入。長期管理を見据え、胃瘻造設とプロトンポンプ阻害薬(PPI)の予防的投与が標準的アプローチです。

呼吸管理

新生児期の重度無呼吸発作・進行性の呼吸機能低下に対して、非侵襲的陽圧換気(NPPV)または気管切開を伴う人工呼吸器サポートを必要とするケースがあります。

理学・作業療法

痙縮による二次的関節拘縮の進行を防ぐためのリハビリテーション介入を継続的に実施。必要に応じてバクロフェンなどの筋弛緩薬の投与を検討します。

プレシジョン・メディシンと遺伝子治療の展望

GRIN関連障害では、遺伝子型に基づくプレシジョン・メディシン(精密医療)の開発が世界中で進んでいます。NMDA受容体の機能獲得型(GOF)変異に対しては受容体アンタゴニスト(メマンチン・デキストロメトルファン等)の応用が、機能喪失型(LOF)変異に対してはコアゴニストのL-セリン補充療法が検討されています。

ただしDEE101(両アレル性Null)の場合は、薬剤が作用すべきNMDA受容体そのものが脳内にほぼ存在しないため、既存のモジュレーターを用いた薬理学的介入には大きな制約があります。このため、DEE101に対する真の意味でのプレシジョン・メディシンは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子補充療法の実現にかかっています。動物モデルでは、正常なGRIN1遺伝子を中枢神経系の神経細胞に直接送り込む前臨床研究が精力的に進められており、致死的なてんかん性脳症に苦しむ患者さんとご家族にとって、最大の希望の一つとなっています。

7. 遺伝カウンセリングと家族計画

DEE101は常染色体劣性(潜性)遺伝のため、患者さんの両親は通常、原因となるGRIN1機能喪失型変異を片方のアレルに保有するヘテロ接合性の保因者(carrier)です。前述のとおりGRIN1のヘテロ接合性Null変異は症状を引き起こさないので、ご両親には何の症状もなく健康なまま暮らしていらっしゃるのが一般的です。

💡 次のお子さんの再発リスク

ご両親がともに保因者の場合、受胎ごとに以下の確率が生じます。
25%:両方のアレルに変異を受け継ぎ、DEE101を発症
50%:片方のアレルだけに変異を受け継ぎ、無症状の保因者となる
25%:両方とも正常なアレルを受け継ぎ、疾患も保因もしない

この再発リスクをどう受け止め、次の妊娠でどんな選択肢を取るかは、ご夫婦お一人お一人のお考えと信念に深く関わる問題です。臨床遺伝専門医は中立的な情報提供者として、出生前診断・着床前遺伝学的検査・配偶子提供・養子縁組・自然妊娠など、考えうるすべての選択肢の利益と限界を丁寧にご説明します。「特定の選択肢を勧める」ことはなく、最終的な決定はご家族にゆだねられます。

8. よくある誤解

誤解①「GRIN1変異が見つかれば同じ病気」

同じGRIN1の変異でも、ヘテロ接合性Null(無症状)・ヘテロ接合性ミスセンス(AD型NDHMSD)・ホモ接合性ミスセンス(AR型NDHMSR)・両アレル性Null(DEE101)で、まったく異なる4つの状態が生じます。変異タイプとアレル状態の精密な解釈が診断の核心です。

誤解②「親も病気のはず」

DEE101は常染色体劣性遺伝のため、両親は変異を片方だけ持つ無症状の保因者であることがほとんどです。「両親が健康だから遺伝病ではない」という思い込みが診断を遅らせるケースがあります。

誤解③「分娩時のトラブルが原因」

新生児期の重症けいれんを見ると、まず分娩時の低酸素を疑うのは自然な反応です。しかし、DEE101のように胎児期からの遺伝子レベルの破綻が原因の場合も少なくありません。周産期歴・MRI所見・代謝検査の結果を総合的に評価する必要があります。

誤解④「治らないなら検査の意味がない」

正確な分子診断は、不必要な侵襲的検査の反復(diagnostic odyssey)を終わらせ、ご家族に正確な再発リスクの情報を提供します。遺伝子治療など次世代の治療開発の対象として登録される土台にもなり、確定診断には大きな意義があります。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【診断の確定は、ご家族の次の一歩を支える土台になる】

DEE101のような最重症遺伝子病の確定診断は、ご家族にとって非常につらい知らせです。それでも、正確な病名にたどり着くことには大切な意味があります。なぜなら、原因が分からないままでは「あのとき自分の食事が悪かったのではないか」「分娩のときの判断が違っていたら」と、ご両親が自分を責め続ける時間が続いてしまうからです。

「これは胎児期から遺伝子レベルで決まっていた病気で、誰のせいでもない」——この事実をご家族にお伝えできることだけでも、確定診断には大きな価値があります。さらに、ご夫婦が次のお子さんを望まれる場合に「再発リスクは25%」という具体的な数字を共有し、出生前診断や着床前検査などの選択肢をご一緒に検討できることが、診断確定のもう一つの大きな意義です。希少疾患であっても、ご家族が孤独にならないよう、医療者が長くそばに居続けることが私たちの役割だと考えています。

よくある質問(FAQ)

Q1. なぜGRIN1の片方のアレルが壊れても無症状なのですか?

GRIN1はハプロ不全に耐性のある遺伝子だからです。片方のアレルが機能喪失型変異で働かなくなっても、もう一方の正常なアレルから作られるGluN1タンパク質だけで脳の発達は維持できると考えられています。ナンセンス変異から生じた異常mRNAは細胞のNMD機構ですみやかに分解され、異常タンパク質が作られないことも保護的に働きます。一方で、両アレルとも機能を失うと、NMDA受容体そのものが脳内から事実上失われ、DEE101の最重症型になります。

Q2. DEE101は治る病気ですか?

現時点で根本治療は確立されていません。複数の抗てんかん薬を最大用量で併用しても発作の完全消失は事実上困難であることが報告されています。ただし、AAVベクターを用いた遺伝子補充療法の前臨床研究が世界中で進められており、欠損しているGRIN1遺伝子を脳の神経細胞に直接送り込むアプローチが次世代の治療として大きな期待を集めています。日常的なケアでは、栄養管理(胃瘻)・呼吸管理・リハビリテーション・痙縮への対応など多職種連携の支持療法が中心となります。

Q3. 次のお子さんの再発リスクはどのくらいですか?

DEE101は常染色体劣性遺伝です。ご両親がともに保因者の場合、次の妊娠ごとに25%の確率でDEE101を発症するお子さんが生まれ、50%は無症状の保因者、25%は変異を全く受け継がないお子さんとなります。家系内の変異がすでに確定している場合、絨毛検査・羊水検査・着床前遺伝学的検査(PGT-M)などの選択肢があります。詳しくは遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q4. 出生前にNIPTでDEE101を見つけられますか?

家系内に既知の変異がある場合、確定診断は絨毛検査・羊水検査でその変異を直接調べる方法が確実です。NIPT(無侵襲的出生前遺伝学的検査)については、当院のインペリアルプランがGRIN1を含む154遺伝子の単一遺伝子疾患をスクリーニング対象としており、家系内に既知変異がないご夫婦でも新生(de novo)の重症遺伝子病を出生前にスクリーニングする選択肢の一つとなります。NIPTはあくまでスクリーニング検査であり、陽性の場合は確定検査が必要です。

Q5. AD型・AR型(OMIM 614254/617820)とDEE101の違いは何ですか?

同じGRIN1遺伝子の変異ですが、変異タイプとアレル状態が異なります。AD型(NDHMSD/OMIM 614254)はヘテロ接合性のミスセンス変異が片方のアレルに新生で生じて発症します。AR型(NDHMSR/OMIM 617820)はホモ接合性のミスセンス変異が原因です。これに対しDEE101は両アレルとも機能喪失型変異(ナンセンス変異・スプライス異常など)で、最も重症の表現型になります。

Q6. 確定診断はどの検査で行いますか?

出生後の確定診断では、まず新生児てんかんNGSパネル検査(285遺伝子)で原因遺伝子を探索し、原因が特定できない場合や最初から包括的に解析したい場合は全エクソームシーケンス(WES)を行います。両親も同時に解析するトリオ解析が、新生変異と劣性遺伝病の両方を効率よく検出できるため特に有効です。

Q7. 大田原症候群との違いはどう判断しますか?

臨床所見(強直性スパズム・バーストサプレッション・最重度発達遅滞)はDEE101と大田原症候群で重なる部分が多く、症状だけからの鑑別は困難です。最終的な区別は遺伝子検査の結果によります。大田原症候群はSTXBP1・ARX・KCNQ2・SCN2Aなどの変異が原因となることが多く、DEE101はGRIN1の両アレル性Null変異が原因です。新生児てんかんNGSパネル検査では、これらの遺伝子をまとめて解析するため、効率的に鑑別が可能です。

Q8. ケトン食療法やL-セリン療法は有効ですか?

ケトン食療法は一部のGRIN1関連障害で部分的な改善が報告されていますが、DEE101のような両アレル性Null(受容体そのものがほぼ存在しない状態)では効果が限定的と考えられます。L-セリンやD-サイクロセリンなどNMDA受容体のコアゴニスト補充療法も同様で、受容体が存在しなければアロステリックモジュレーターは作用できません。このため、DEE101に対する根本治療は、欠損している遺伝子そのものを補充するAAVベクター遺伝子治療の実現に期待が集まっています。

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参考文献

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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