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遺伝子変異(バリアント)の種類と影響|SNP・インデル・CNV・構造変異からデノボ変異まで臨床遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

遺伝子変異(バリアント)とは、DNAの塩基配列に生じる「個人差」のことです。ヒトのゲノムは99.9%以上が共通で、残りわずかな違いの多くは健康に影響しない良性のものです。しかしその一部はタンパク質の働きを変え、遺伝性疾患・がん・胎児の発達異常の原因になることがあります。このページでは、置換・インデル・コピー数・構造・リピート・スプライシングといった変異の種類と、それぞれがタンパク質や健康にどう影響するのかを、臨床遺伝専門医がやさしく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 バリアントの種類・タンパク質への影響・臨床遺伝
臨床遺伝専門医監修

Q. 遺伝子変異(バリアント)にはどんな種類があるのですか?まず結論だけ知りたいです

A. DNAの変化の「形」によって、塩基が置き換わる置換(点変異)、塩基が増減するインデル、大きな領域が増減するコピー数バリアント(CNV)、転座や逆位などの構造変異、繰り返し配列が伸びるリピート伸長などに分けられます。さらに「いつ・どの細胞で起きたか」によって、子へ受け継がれる生殖細胞系列変異、受け継がれない体細胞変異、両親になく子で初めて生じる新生突然変異(de novo)に分類されます。変異があっても多くは無害ですが、病的かどうかはACMGの国際基準で5段階に評価されます。

  • 変異の主な種類 → 置換(点変異)・インデル・CNV・構造変異・リピート伸長・スプライシング異常
  • タンパク質への影響 → ミスセンス・ナンセンス・フレームシフトで機能が低下または消失
  • 発生の時期と細胞 → 生殖細胞系列・体細胞・新生突然変異(de novo)・モザイク
  • 父親の加齢 → 新生突然変異の約80%が父由来、利己的精原細胞選択
  • 病的かどうかの判定 → ACMG分類(Pathogenic〜Benign)とVUS

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1. 遺伝子変異(バリアント)とは:基礎と臨床での意味

私たちの体をつくる細胞の中には、生命の設計図であるDNAが収められています。このDNAの並び(塩基配列)に生じた違いを、かつては「突然変異(mutation)」と呼んでいました。しかし、配列の違いが必ずしも病気を引き起こすわけではないため、現在の遺伝医療では中立的な言葉として「バリアント(variant:変異体・多様体)」を使うのが国際的な標準になっています。

ヒトのゲノムを他の人と比べると、99.9%以上は同じで、違いはわずか0.1%未満です。この小さな差が、瞳や髪の色、血液型といった個人差を生み、環境への適応力や、特定の病気へのかかりやすさ、薬の効きやすさ(ファーマコゲノミクス)まで左右します。多くのバリアントは健康に何の悪影響もない良性のもので、たとえばABO血液型のO型も、酵素の機能が失われる「機能喪失型」のバリアントによって生じています。

💡 用語解説:バリアントと「変異(mutation)」の違い

どちらも「DNA配列の違い」を指しますが、「変異(mutation)」という言葉は「異常」「病気の原因」というニュアンスを伴いやすいため、近年は良性・病的を問わず中立的に表現できる「バリアント」が推奨されています。大切なのは、遺伝子そのものが病気を起こすのではなく、本来正しく働くはずの遺伝子を変えてしまう「病的バリアント」が原因になるという考え方です。バリアントの全体像は遺伝子のバリアントとはでも解説しています。

バリアントの知識は、机上の生物学にとどまりません。どの種類の変異がどう病気につながるかを理解することは、遺伝子診断・遺伝形式の説明・遺伝カウンセリングのすべての土台になります。たとえば「同じ遺伝子の変異」でも、種類や場所によって遺伝のしかたや重症度がまったく異なることがあり、その見極めが診断と支援の出発点になります。遺伝子そのものについては遺伝子とはもあわせてご覧ください。

2. バリアントが生じるしくみと、それを防ぐ修復機構

バリアントは、細胞が分裂してDNAをコピーする際の「複製エラー」や、紫外線・化学物質などの外的要因によって生じます。とはいえ、細胞はミスをそのまま放置しているわけではありません。何重もの精緻なチェック機構が働いています。

DNAをコピーする酵素(DNAポリメラーゼ)は、間違った塩基を入れてしまった瞬間にそれを切り取って入れ直す「校正機能(プルーフリーディング)」を備えています。それでもすり抜けたミスは、次のバックアップであるミスマッチ修復(MMR)が見つけて直します。

💡 用語解説:ミスマッチ修復(MMR)

複製のときに生じた塩基の「ペアの間違い」や小さな挿入・欠失を見つけて修正するしくみです。ヒトではMLH1・MSH2・MSH6・PMS2といったタンパク質が担当します。これらの遺伝子に生まれつきの病的バリアントがあると、ミスを直せずに変異がどんどん蓄積し、若くして大腸がんなどを起こすリンチ症候群のリスクが大きく高まります。修復のしくみと、がんとの関係は記事後半の「変異とがん」でも触れます。

もうひとつ重要なのが「複製スリッページ」です。同じ塩基配列が繰り返す領域(タンデムリピート)をコピーするとき、酵素が一時的にずれて再結合することで、繰り返しの回数が異常に増えたり減ったりします。繰り返しが長くなるほど次のコピーでさらにずれやすくなる「自己加速的」な性質を持ち、これがハンチントン病などの神経変性疾患の原因となるリピート伸長につながります(後述)。

3. 塩基が置き換わる変異:点変異・置換とそのタイプ

最も基本的な変異が、DNAの1つの塩基が別の塩基に置き換わる「置換(点変異)」です。たった1文字の違いですが、その結果として作られるタンパク質に与える影響によって、さらに3つに分けられます。

💡 用語解説:ミスセンス変異

ミスセンス変異とは、1つの塩基が変わることで、指定されるアミノ酸が別の種類に置き換わる変異です。タンパク質の形が変わり、活性中心や立体構造に関わる場所で起きると機能が大きく低下することがあります。最近は「ノンシノニマス変異」とも呼ばれます。くわしくはミスセンス変異をご覧ください。

💡 用語解説:ナンセンス変異

ナンセンス変異とは、塩基の置換によって、アミノ酸を指定するはずのコドンが「ここで終わり」を意味する終止コドンに変わってしまう変異です。タンパク質が途中で短く切れてしまい、多くは機能しないか、細胞の品質管理機構によって速やかに分解されます。コドンの基礎はコドンと遺伝暗号もご参照ください。

いっぽう、塩基が変わってもアミノ酸が変わらない場合は「サイレント変異(シノニマス変異)」と呼ばれ、多くはタンパク質の機能に影響しません。ただし、まれにスプライシングに影響することもあり、完全に無害とは言い切れません。

💡 用語解説:SNP(一塩基多型)とSNV

置換のうち、集団内で1%以上の頻度で見られる一般的な個人差SNP(一塩基多型、すにっぷ)と呼びます。約300塩基に1つの割合で存在し、ヒトの遺伝的多様性の大部分を占めます。近年は頻度を問わず一塩基の違い全体をSNV(一塩基変異)と表記することも増えています。くわしくはSNP(一塩基多型)へ。

なお、変異がタンパク質の働きを「失わせる」場合を機能喪失型(LoF)変異、異常タンパク質が正常な働きを「邪魔する」場合をドミナントネガティブ(優性阻害)と呼びます。同じミスセンス変異でも、このどちらに働くかで病気のあらわれ方が変わります。

変異の種類とタンパク質への影響の一覧

種類 DNAの変化 タンパク質への影響
サイレント(シノニマス) 塩基は変わるがアミノ酸は同じ 多くは影響なし(無害)
ミスセンス アミノ酸が別の種類に変わる 機能が低下することがある
ナンセンス 終止コドンに変わる 途中で切れて機能を失いやすい
挿入・欠失(フレームシフト) 3の倍数でない塩基が増減し読み枠がずれる ほぼ機能を喪失
コピー数バリアント(CNV) 大きな領域が増える・減る タンパク質の量が増減
リピート伸長 繰り返し配列の回数が異常に増える 神経変性疾患などの原因に

4. 塩基が増える・減る変異:インデルとフレームシフト

DNAに塩基が新しく加わること(挿入)や、抜け落ちること(欠失)を、まとめて「インデル(indel)」と呼びます。ここで決定的に重要なのが、増減した塩基の数が「3の倍数」かどうかです。

DNAは3つの塩基(コドン)を1つの単位としてアミノ酸を読み取っています。3の倍数の増減なら読み枠は保たれます(インフレーム)が、3の倍数でないと、その地点から後ろの読み取り枠がすべてずれてしまいます(アウトオブフレーム)。

💡 用語解説:フレームシフト変異とNMD

読み枠がずれる変異をフレームシフト変異といいます。ずれた先で必ずどこかに終止コドンが現れるため、短く異常なタンパク質しか作られません。あまりに短い場合はNMD(ナンセンス変異依存mRNA分解機構)によって設計図ごと壊されます。読み枠の考え方はインフレームとアウトオブフレームで解説しています。

インデルが原因となる病気の例として、塩分輸送に関わるCFTR遺伝子の異常で起こる嚢胞性線維症などが知られています。また、繰り返し配列の挿入が原因となる病気(ハンチントン病やフラジールX症候群)は、次の「リピート伸長」とも深く関わります。

5. 大きな構造の変化:コピー数バリアント(CNV)と構造変異

これまでは数塩基レベルの変化でしたが、ゲノムにはもっと大きな単位の変化も起こります。1キロベース(1,000塩基)以上の大きなDNAの増減をコピー数バリアント(CNV)、転座・逆位・重複・大欠失などを含む大規模な変化を構造変異と呼びます。

💡 用語解説:コピー数バリアント(CNV)

ふつう遺伝子は父由来・母由来の2コピーですが、領域によっては3コピーや1コピーに増減していることがあります。これがCNVです。含まれる遺伝子の量が変わるため、表現型や疾患リスクに直接影響します。コピー数が減る微小欠失症候群、増える微小重複症候群があり、自閉スペクトラム症や統合失調症との関連も報告されています。くわしくはゲノム疾患とコピー数バリアントへ。

転座(2つの染色体の間でDNAが入れ替わる)、逆位(一部が逆向きになる)、重複(同じ領域がコピーされる)などの構造変異は、遺伝子の配置や発現を変え、新たな遺伝子融合を生んで一部のがんの直接の原因になることもあります。これらの大きな変化は、従来のマイクロアレイ(アレイCGH)に加え、次世代シーケンサーによる解析で精密に検出できるようになっています。

6. スプライシングと非翻訳領域(UTR)に影響する変異

遺伝子の情報は、いったんmRNAの「前駆体」として写し取られ、不要な部分(イントロン)が切り取られて必要な部分(エクソン)がつながるスプライシングを経て、はたらくmRNAになります。この切り貼りの目印に変異が起きると、正しいタンパク質が作れなくなります。

💡 用語解説:スプライシングとスプライス部位

イントロンの始まり(GU)と終わり(AG)の目印を、スプライソソームという複合体が読み取って切り貼りします。この目印が変異で壊れたり、別の場所に新しい目印ができたりすると、間違った切り貼りが起こり、機能しないタンパク質ができます。くわしくはエクソンとイントロン・スプライシングスプライス暗号とドナーサイトへ。

また、タンパク質をコードしない5’・3’非翻訳領域(UTR)の点変異も見逃せません。これらの領域はmRNAの安定性や翻訳のされやすさを調節しているため、変異によって作られるタンパク質の量が減ったり増えたりして、疾患の原因になることがあります。1つの遺伝子から複数のタンパク質を作り分ける選択的スプライシングのしくみもあわせて理解すると、変異の影響をより正確にイメージできます。

7. リピート(繰り返し配列)が伸びる変異

ゲノムには、3つの塩基などの短い配列が何度も繰り返す領域があります。この繰り返しの回数が、世代を経るごとに異常に増えてしまう変異をリピート伸長と呼びます。複製スリッページ(前述)が原因で起こります。

💡 用語解説:トリプレットリピートと表現促進現象

3塩基(CAGなど)の繰り返しが異常に伸びる病気をトリプレットリピート病といいます。繰り返しが長いほど症状が重く、世代を経るごとに発症が早く重くなる「表現促進現象(anticipation)」が見られます。ハンチントン病・脊髄小脳変性症・球脊髄性筋萎縮症などが代表で、くわしくはCAGリピート病で解説しています。

興味深いことに、CAGリピート病では父親から伝わるときに繰り返しが伸びやすい傾向があります。一方、CGGリピートが伸びるフラジールX症候群は母親からの伝達で表現促進が起こります。同じ「リピート伸長」でも、遺伝のしかたは病気ごとに異なります。

🔍 関連記事:CAGリピート病とは

8. いつ・どの細胞で起きたか:遺伝するか・しないか

変異の臨床的な意味を考えるとき、「DNAがどう変わったか」と同じくらい大切なのが、「いつ・どの細胞で起きたか」です。これによって、子へ受け継がれるかどうかが決まります。

💡 用語解説:生殖細胞系列変異と体細胞変異

生殖細胞系列変異は、受精卵の段階から全身の細胞に存在する変異です。精子や卵子にも組み込まれるため次世代へ遺伝します(常染色体顕性(優性)遺伝なら理論上50%)。一方体細胞変異は、生まれた後に特定の細胞で後天的に生じた変異で、その細胞とその子孫だけに伝わり、子へは遺伝しません。多くのがんは、この体細胞変異が長年かけて蓄積して起こる非遺伝性の病気です。

💡 用語解説:新生突然変異(de novo)とモザイク

新生突然変異(de novo)とは、両親には存在せず、子で初めて生じた病的バリアントです。精子・卵子の形成時や受精直後に偶然生じたもので、家族歴がなく、従来の保因者スクリーニングでも事前に検出できないのが特徴です。また、体内で「正常な細胞」と「変異した細胞」が混在する状態をモザイクといい、特に親の生殖細胞の一部だけが変異を持つ「生殖腺モザイク」では、親は無症状でも子に重い疾患が伝わるリスクが残ります。分類の詳細はバリアントの分類方法へ。

9. 父親の加齢と新生突然変異(de novo)

高齢出産というと母親の年齢が注目されがちですが、単一遺伝子レベルの新生突然変異については、約80%が父親由来(精子形成過程での変異)であることが、親子の全ゲノム解析からわかっています。母親の卵子が胎児期にすべて作り終えられるのに対し、父親の精子は思春期以降、生涯にわたって細胞分裂を続けるためです。

精原細胞の分裂回数は加齢とともに激増する

20歳

精原細胞の分裂は
約150回

35歳

分裂回数が増え
約400回

50歳以上

約840回まで激増

分裂のたびにDNAがコピーされるため、加齢に伴いコピーエラーが蓄積します。実際、父親の年齢が1歳上がるごとに、子に受け継がれる新生突然変異は平均で約2つ増えると報告されています。

💡 用語解説:利己的精原細胞選択

FGFR2・FGFR3・HRASなど、細胞の増殖を制御する遺伝子に特定の変異が偶然生じると、その変異を持つ精原幹細胞が周囲より増えやすくなり、精巣内でクローン的に拡大します。その結果、加齢とともに「変異を持つ精子」の割合が不釣り合いに高まります。これが、軟骨無形成症やアペール症候群などが自然発生率の最大1,000倍もの頻度で、しかもほぼ父親由来で起こる理由です。

両親が健康で家族歴がなくても、新生突然変異によって胎児だけが単一遺伝子疾患を持つリスクはおよそ1/600に達するとされ、これは一般的なダウン症候群の発生リスク(約1/1,000)よりも実質的に高い数字です。こうした背景から、新生突然変異を対象にした父親の加齢に着目したNIPTも登場しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「母親の年齢」だけが語られてきた時代の終わり】

出生前診断の世界では長らく「母親の年齢」ばかりが語られてきました。卵子の老化に伴う染色体の数の異常(ダウン症候群など)は確かに重要です。けれども、単一遺伝子の新生突然変異という観点では、むしろ父親の加齢が大きく効いてくることが、近年の研究で明らかになっています。

これは父親を責めるための知識ではありません。誰のせいでもない確率の話です。だからこそ、ご夫婦が事実を正しく知ったうえで、どこまで調べるか・調べないかを一緒に決めていく。その伴走こそが私たちの役割だと考えています。

10. 変異とがん:がん抑制遺伝子とツーヒット仮説

がんの根本的な原因も、やはり遺伝子の変異です。細胞の増殖や寿命を管理する遺伝子に変異が積み重なると、制御がきかなくなってがん細胞が生まれます。関わる遺伝子は、はたらきの異なる2種類に分けて理解できます。

🚗 がん原遺伝子(アクセル)

本来は増殖を促す「アクセル」。ミスセンス変異や遺伝子重複で異常に活性化すると、アクセルが踏みっぱなしになり細胞が暴走します。

🛑 がん抑制遺伝子(ブレーキ)

異常細胞の増殖を止める「ブレーキ」。機能喪失型変異でブレーキが効かなくなると、危険な細胞の増殖が許されてしまいます。

💡 用語解説:ツーヒット仮説

がん抑制遺伝子は父・母から1つずつ計2コピーあり、両方が壊れて初めてブレーキが完全に失われるという考え方です。散発性がんでは同じ細胞で偶然2回の変異が必要なため高齢で発症しやすいのに対し、遺伝性がんの素因を持つ人は生まれつき1つ目の変異を全身に持つため、残り1つの変異だけで発症してしまい、若年発症・多発・家族集積が起こりやすいのです。

がん全体の約3〜10%は、生殖細胞系列の病的バリアントによる「遺伝性がん症候群」と推定されています。代表例として、BRCA1/BRCA2による遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)、ミスマッチ修復遺伝子によるリンチ症候群などがあります。原因がわかれば、定期検診の計画やリスク低減の選択肢を、本人と家族の希望に沿って組み立てられます。がんの遺伝については遺伝しやすいがんとはでも解説しています。

11. バリアントの病原性評価:ACMG分類とVUS

次世代シーケンサーの普及で、ひとりのDNAから膨大な数のバリアントが検出できるようになりました。問題は、その中から「どれが本当に病気の原因か」を正確に見極めることです。検査室ごとに判断が違えば誤診につながるため、2015年に米国臨床遺伝学・ゲノム学会(ACMG)と分子病理学会(AMP)が共同で国際的な評価基準を策定しました。

💡 用語解説:ACMGの5段階分類

検出されたバリアントは、証拠の強さに応じてPathogenic(病原性)/Likely Pathogenic(病的可能性が高い)/VUS(意義不明)/Likely Benign(良性可能性が高い)/Benign(良性)の5段階に分類されます。たとえば一般集団で5%を超える高頻度なら、希少疾患の原因とは考えにくく単独で「良性」と判断されます。判定基準の詳細はACMGガイドライン|バリアントの分類へ。

💡 用語解説:VUS(意義不明なバリアント)

良性か病的かを判断するデータが足りない、いわば「グレーゾーン」のバリアントです。VUSだけを根拠に、予防的手術のような取り返しのつかない決定をしてはいけないとガイドラインは強く警告しています。研究が進めば、良性または病的に再分類されることもあります。あわてず、専門家とともに経過を見ることが大切です。

この分類は、コンピュータの自動判定だけで決められるものではありません。誤分類が不要な手術や重大な見落としに直結するため、文脈をふまえた臨床遺伝専門医による慎重なレビューが不可欠です。生殖細胞系列と体細胞では解釈の枠組みも異なります(バリアントの分類方法参照)。

12. 出生前・出生後の検査と遺伝カウンセリング

バリアントを調べる検査は、「いつ調べるか」によって出生前と出生後に分けて理解すると整理しやすくなります。「診断=出生前」という誤解を避けるためにも、この区別は大切です。

出生前の検査

妊婦さんの血液中の胎児由来DNAを調べるNIPTは、おもに染色体の「数」の異常をスクリーニングする検査で、母体採血のみで流産リスクがありません。新生突然変異の一部を対象とする検査もあります。確定診断には、絨毛検査・羊水検査が必要です。NIPTはあくまでスクリーニングであり、検査の位置づけを正しく理解しておくことが重要です。

出生後の検査

生まれた後は、症状に応じて遺伝子パネル検査やエクソーム解析などが行われます。がんのリスクを調べる遺伝性がん遺伝子検査も、この出生後の検査に含まれます。どの検査が適切かは、ご本人やご家族の状況・目的によって異なります。

遺伝カウンセリングという羅針盤

遺伝情報は、本人だけでなく血縁者の健康にも関わるきわめてセンシティブな情報です。だからこそ「検査して結果を渡して終わり」という医療は成り立ちません。臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングでは、医師は中立・非指示的な立場で情報を提供し、どうするかの決定はご家族にゆだねます。特定の検査を勧めたり、安心を保証したり、不安をあおったりすることはありません。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「種類」を知ることは、選択肢を知ること】

バリアントの種類を学ぶことは、専門家だけのものではありません。「同じ遺伝子でも変異の種類で遺伝のしかたが違う」「VUSは白でも黒でもない灰色である」——こうした基本を知っているだけで、検査結果を前にしたときの受け止め方が大きく変わります。

私は、正しい知識こそが冷静な意思決定を支えると信じています。難しい言葉をやさしく翻訳し、数字の向こうにあるご家族の人生に寄り添う。それが、私が遺伝の情報発信を続けている理由です。わからないことは、どうか遠慮なく専門医にお尋ねください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 「バリアント」と「変異(mutation)」は違うものですか?

どちらもDNA配列の違いを指しますが、「変異」は病気の原因という印象を与えやすいため、現在は良性・病的を問わず中立的に表現できる「バリアント」が国際的に推奨されています。変異があっても多くは無害で、病気の原因になるのは一部の病的バリアントに限られます。

Q2. SNPとSNVの違いは何ですか?

どちらも一塩基の違いを指しますが、集団内で1%以上の頻度で見られる一般的な個人差を特にSNP(一塩基多型)と呼びます。頻度を問わず一塩基の変化全体を指す近年の言い方がSNV(一塩基変異)です。最近の用語更新では、SNP→SNV、ミスセンス→ノンシノニマス、サイレント→シノニマスといった呼び方も使われます。

Q3. 新生突然変異(de novo)とは何ですか?両親は健康なのになぜ起こるのですか?

両親には存在せず、精子・卵子の形成時や受精直後に偶然生じ、子で初めて認められる病的バリアントです。両親が変異を持たないため、家族歴がなく、従来の保因者スクリーニングでも事前に検出できないのが特徴です。「両親が健康だから遺伝の病気ではない」という思い込みが診断を遅らせることがあります。

Q4. 遺伝子に変異があると、必ず病気になりますか?

いいえ。ヒトのゲノムには無数のバリアントがあり、その多くは健康に影響しない良性のものです。病的かどうかはACMGの国際基準で5段階(Pathogenic〜Benign、判断材料が不足するVUSを含む)に評価されます。同じ遺伝子でも、変異の種類や場所によって影響はまったく異なります。

Q5. 父親の年齢は子どもの病気のリスクに関係しますか?

単一遺伝子の新生突然変異の約80%は父親由来とされ、父親の年齢が上がるほど精子のコピーエラーが蓄積します。利己的精原細胞選択により、軟骨無形成症やアペール症候群などは加齢とともにリスクが高まります。これは誰のせいでもない確率の問題で、事実を知ったうえで検査の要否をご家族で考える材料になります。

Q6. 検査で「VUS(意義不明)」と言われました。どうすればよいですか?

VUSは「白でも黒でもない灰色」のバリアントで、良性とも病的とも判断するデータが不足している状態です。VUSだけを根拠に予防的手術などの不可逆的な決定をすべきではないとされています。研究の進展で再分類されることもあるため、臨床遺伝専門医と相談しながら経過を見ることが大切です。

Q7. がんは遺伝するのですか?

多くのがんは体細胞変異が蓄積して起こる非遺伝性のものですが、全体の約3〜10%は生殖細胞系列の病的バリアントによる遺伝性がん症候群と推定されています。BRCA1/BRCA2によるHBOCやミスマッチ修復遺伝子によるリンチ症候群が代表で、若年発症・多発・家族集積という特徴があります。原因がわかれば検診計画やリスク低減の選択肢を立てられます。

Q8. 遺伝子変異は出生前に調べられますか?

NIPTは母体採血で胎児の染色体の数の異常などをスクリーニングし、新生突然変異の一部を対象にする検査もあります。ただし確定診断には絨毛検査・羊水検査が必要です。何を・どこまで調べるかは、遺伝カウンセリングを通じてご家族の価値観に沿って決めていきます。

🏥 遺伝子検査・出生前診断・遺伝カウンセリングについて

遺伝子変異や遺伝性疾患に関するご相談は、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。

関連記事

参考文献

  • [1] MedlinePlus Genetics. What is a gene variant and how do variants occur? National Library of Medicine. [MedlinePlus]
  • [2] MedlinePlus Genetics. What kinds of gene variants are possible? National Library of Medicine. [MedlinePlus]
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  • [6] Goriely A, Wilkie AOM. “Selfish Spermatogonial Selection”: A Novel Mechanism for the Association Between Advanced Paternal Age and Neurodevelopmental Disorders. Am J Psychiatry. 2013. [PMC4001324]
  • [7] Cleveland Clinic. Somatic Mutation vs. Germline Mutation. [Cleveland Clinic]
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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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