目次
バリアントの種類とその影響とは
ヌクレオチドの置換
ミスセンス変異
遺伝子配列中の1個のヌクレオチドの塩基置換(点変異point mutationともいいます)が、3塩基によるコドンのコードを変化させて、遺伝子産物のアミノ酸を他のアミノ酸に変化させてしまうという非同義置換を引き起こすものをミスセンス変異といいます。
こうした変異は遺伝子のコード鎖(センス鎖ともいいます)で異なるアミノ酸を指定するためミスセンス変異(missense mutation)と呼ばれるのです。間違って違うものになるのでミスセンス、という意味だと思います。
ミスセンス変異があるとかならずタンパク質の機能に明らかな変化を及ぽす、ということではありません。変異タンパク質は正しく機能しなくて不安定で迅速に分解されるか、または細胞内で不適切にたまったりします。
多くの遺伝性疾患において異なる患者に検出される多くの変異はミスセンス変異です。
ナンセンス変異
DNA配列の点変異によって、アミノ酸をコードする正常なコドンが3つの終止コドン(DNA側で書くとTAA TAG TGA)の1つで置き換えられと、そこから先に翻訳がおこらず(早期停止)、短いタンパクが出来てしまい、『意味のない』産物ができるので、ナンセンス変異(nonsense mutation)と呼ばれます。
早期停止変異は二重に影響します。
まず、早期停止変異を有するmRNAはしばしば迅速分解の標的となり、ナンセンス変異依存性mRNA分解という細胞内プロセスが発動するため、翻訳されることがなくなります。
次に、mRNAが翻訳されるのに十分安定だとしても、短縮されたタンパク質は通常は非常に不安定で細胞内で急速に分解されてしまいます。
さらに、点変異が早期終止コドンを形成することもある一方で、正常の終止コドンを書き換えてしまうことも、翻訳が止まらず、もっと下流に位置する別の終止コドンまで継続されてしまうことになります。こうした変異により本来のタンパク産物のカルボキシ末にアミノ酸が付加された異常なタンパク産物ができ、さらに正常の終止コドンの下流の3′非翻訳領域に本来あるはずの正常な調節機能も駄目になるかもしれません。
RNAの転写・プロセシング・翻訳に影響する変異
最初のRNA転写産物が成熟したmRNAに転換されるまでの正常な機構として、転写因子が結合、5’キャップ構造が形成されてポリアデニル化、イントロンのスプライシングといった一連の修飾過程がおこります。
RNA成熟におけるこれらのすべての段階は、RNA中の特定の配列に依存しておこります。たとえばスプライシングなら 5′GU…………AG3’ を認識します。
スプライシングの場合
2つの一般的なクラスのスプライス変異が報告されています。
1.スプライス供与部または受容部の書き換え
未加工のRNAから切り出されるイントロン、および成熟RNAを形成するためにエクソンが一緒に連結されるためには特定の塩基配列がエクソンーイントロン(5’供与部位)の近傍か、 またはイントロンーエクソン(3’受容部位)の接合部に位置することが必要で、このスプライス供与部またば受容部の両方に必要とされる塩基配列が変わってしまうと、その部位の正常なRNAスプライシングを妨げることになってしまいます。
2.スプライス供与部または受容部が新しくできてしまう
塩基置換が供与またば受容部位の塩基配列には影響しないが、代わりに別の供与またば受容部位ができてしまい、RNAプロセシングにおいて正常な部位と競合してしまうタイプの書き換えです。一定の割合で成熟mRNAまたは非コードRNAが不適切にスプライスされたイントロン配列を含むことになる可能性があります。
5’と3’非翻訳領域の点変異
タンパク質をコードする遺伝子の5’と3’非翻訳領域の点変異がmRNAの安定性や翻訳効率を変化させてしまうことで生成されるタンパク産物量が減少し、疾患が発症する場合があります。
欠失・挿入・再構成
変異はDNA配列の挿入、欠失または再構成によってもおこります。
欠失や挿入で数塩基のものは一般的なゲノムの一部領域の直接塩基配列決定で容易に検出されます。
1個の遺伝子のかなりの部分または1個の遺伝子全体のといった大きな欠失・重複・逆位または転座も遺伝子配列を変異させてしまうのですが、大きな領域の欠失・挿入・再構成は、直接塩基配列決定する方法では引っかからないので、そのゲノムの変化を検出できるようにさまざまな検査手法が用いられます。
フレームシフト
一部の欠失や挿入は、わずか数塩基対の異常です。
しかし。遺伝暗号、つまりコドンは3つで一組でしたよね?
3の倍数が組み込まれたときは、一つアミノ酸が増えてしまうだけで、アミノ酸配列が大きく変わってしまうことはないため、よほど『この場所にこのアミノ酸がないとまずいんです』という場所でなければ被害が最小限で済む~全くないかもしれません。
ところが。3の倍数ではない塩基が挿入・欠失してしまうと、読み枠(フレーム)が挿入または欠失の開始点から変わってしまい、どのアミノ酸も元のアミノ酸とはほとんど変わってしまうことでしょう。やばいです。
これをフレームシフト変異(fameshift mutation)といいます。
その挿入または欠失地点から、異なるコドン配列が生じて誤ったアミノ酸をコードし、変化した読み枠の下流で終止コドンが生じて、大概はタンパク産物の機能変化をもたらすため病的変異と考えていいでしょう。
対照的に、挿入または欠失される塩基対の数が3の倍数であった場合にはフレームシフトは起こらず、対応するアミノ酸の単純な挿入または欠失となって、普通は遣伝子産物が翻訳される。
欠失・挿入・重複・逆位
百~千塩基の範囲を超えるより大きな挿入や欠失は典型的に“indel”と呼ばれ、多型の原因として報告されています。indelは、遺伝子の多数のエクソンを障害し、コード配列を破壊する主な原因となります。
反復配列DNAのLINEファミリーに属するような可動遺伝因子の挿入による挿入変異もあります。どの個体においても、ゲノム中のLINEファミリーの特定のサブクラスに属するおおよそ100コピーが、 レトロトランスポジションによってすべての真核生物の細胞で移動可能です。そうしたゲノム中の移動はヒトにおいて遺伝的な多様性をもたらすだけにとどまらず、挿入変異によって疾患の原因にもなり得るのです。
例えば、重篤な出血性疾患である血友病Aの一部の患者では、数キロ塩基対(bp)の長さのLINE配列が第Ⅷ因子遺伝子のエクソンの一つに挿入されてしまい、コード配列を分断して、遺伝子を不活性化するため発症することが明らかとなっています。
ゲノムのいろんな場所へのLINEの挿入は、大腸がんにおいてもよく見られ、体細胞におけるレトロトランスポジションを反映しています。
1本の染色体の大きな部分の重複、欠失、逆位は主に配列相同性の高いDNA領域間の相同組換えのときにおこります。組換えの結果発症する疾患は、責任遺伝子の外側に相同領域が存在し、組換えによって野生型の遺伝子産物の量が変化することが原因となっています。
また、そうした変異により、特定の遺伝子ファミリー中の異なる遺伝子間、あるいは異なる染色体上の遺伝子間で組換えが起こり、翻訳されたタンパクの性質、つまり機能に変化をもたらすことになります。
1本のDNA鎖上で2つの似通った配列が互いに逆向きである時に、両者間で異常な対合と組換えが起こり、逆位が生じます。
例えば血友病Aの患者の半数近くは組換えにより複数のエクソンが逆位となることでおこっていて、これにより遺伝子の構造が破壊されて正常な遺伝子産物をコードすることができなくなってしまうのです。
動的変異
いくつかの疾患における変異では、単純なヌクレオチド反復配列の増幅が認められます。
例えば(CCG)n、(CAG)n (CCTG)n のような単純な反復配列がエクソンのコード領域や非翻訳領域、イントロンで精子形成時に伸長することがあります。これを動的変異(dynamicmutation)と呼ぶのですが、正常な遺伝子の発現またはタンパク質の機能を妨害します。
反復配列の伸長が翻訳領域内であれば異常なタンパクが生じることになりますし、反復配列伸長が遺伝子の非闘訳領域またはイントロンの中であれば転写、mRNAのプロセシング、または翻訳に影響を及ぼすかもしれません。
動的変異が生じるメカニズムは完全に解明されてはいません。
動的変異は概念的にはマイクロサテライト多型に類似しているが、伸長率についてはマイクロサテライトにおける典型例よりも格段に高くなっています。動的変異によって引き起こされる疾患(たとえばトリプレットリピート病)では、顕著な親由来効呆がよく知られていて、特定の疾患や特定の単純な反復配列で特に顕著となっています。
【関連記事】