InstagramInstagram

DNAの構造とは?基本単位ヌクレオチドから二重らせん・損傷修復まで

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

記事の作り方(編集方針)

DNAの構造とは?基本単位ヌクレオチドから二重らせん・損傷修復まで

📚 入門シリーズ

この記事は「遺伝病を理解するためのヒトゲノム入門編」の1本です。全記事の一覧と学ぶ順番はヒトゲノム入門編・索引ページからご覧いただけます。

DNA(デオキシリボ核酸:deoxyribonucleic acid)の基本単位はヌクレオチドです。ヌクレオチドは糖(デオキシリボース)・リン酸・塩基(A・T・G・Cの4種類)の3つの部品でできており、これが鎖状につながった2本の鎖が、逆向きに並んで塩基どうしで手をつなぎ、二重らせんを組んでいます。この単純な構造の中に、遺伝情報を保存し、正確にコピーし、傷を直し、必要なときだけ読み出すしくみが詰まっています。このページでは、部品から二重らせん、立体構造、染色体への折りたたみ、損傷と修復までを、臨床遺伝専門医の視点で順に整理します。DNAの構造は遺伝子検査の結果を理解する土台にもなります。

⏱️ 30秒でわかる要約

🧬 Q. DNAの構造と、DNAを構成する基本単位は?

基本単位はヌクレオチドで、糖(デオキシリボース)・リン酸・塩基からできています。塩基はアデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)の4種類。ヌクレオチドが糖とリン酸で交互につながった鎖が2本、逆向きに並び、AとT、GとCが対になって二重らせんをつくります[1]。

🔬 Q. 二重らせん構造を明らかにしたのは誰?

1953年、ワトソンとクリックがNature誌に二重らせんのモデルを発表しました。同じ号には、ロザリンド・フランクリンとモーリス・ウィルキンスらのX線回折の論文も並んで載っています[3][4][5]。

🧪 Q. DNAとRNAの構造の違いは?

違いは主に2つ。糖がDNAはデオキシリボース、RNAはリボース(2′の位置に-OHがある)。塩基がDNAはチミン(T)、RNAはウラシル(U)です。DNAは2本鎖で安定した「保存用」、RNAは主に1本鎖の「作業用コピー」として働きます[1]。

\ 遺伝子の変化が気になる方・検査結果の意味を知りたい方へ /

📅遺伝カウンセリングを予約する

紹介状なしで、臨床遺伝専門医に直接相談できます。
遺伝カウンセリング・遺伝診療 | 遺伝子検査の一覧

1. DNAとは何か:4文字で書かれたいのちの設計図

DNAは「deoxyribonucleic acid(デオキシリボ核酸)」の略で、すべての生きものが共通して使っている遺伝情報の「保存メディア」です[20]。その実体は、デオキシリボヌクレオチドという小さな部品が一直線につながった、とても長い高分子です[1]。ヒトの細胞では、DNAの大部分は細胞核の中にあり、ごく一部は細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアの中にもミトコンドリアDNAとして存在します[21]。1つの細胞の核に含まれるDNAをすべてつなげると約2メートルになりますが、それが直径数マイクロメートルの核の中に、秩序立てて折りたたまれて収められています[2]。

DNAが「設計図」と呼ばれるのは、塩基の並び順(塩基配列)そのものが情報になっているからです。塩基はアデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)の4種類しかありませんが、並ぶ場所が1つ増えるごとに組み合わせは4倍になります。たとえば12塩基対なら412=16,777,216通りです。ヒトゲノムは約30億塩基対あり、この4文字の並びの中に、体をつくるタンパク質の設計図(遺伝子)が書き込まれています[2]。DNA・遺伝子・染色体・ゲノムという言葉の違いは染色体・DNA・遺伝子・ゲノムの違いで、DNAが染色体としてどう束ねられるかはヒトゲノムから染色体へや染色体の構造で解説しています。

DNAが担う役割は、大きく分けて4つです。第一に、細胞分裂のたびに情報を正確にコピーする「複製」。第二に、日々生じる傷を直して情報を守る「修復」。第三に、長いDNAを核に収める「折りたたみ(パッケージング)」。第四に、必要な遺伝子だけを必要なときに読み出す「発現調節」です。これら4つの働きは、どれもDNAの基本構造と結びついています。ここからは、部品のレベルから順に見ていきます。

2. DNAの基本単位ヌクレオチド:糖・リン酸・塩基という3つの部品

DNAを構成する基本単位はヌクレオチドです。ヌクレオチドは「5炭糖(デオキシリボース)」「リン酸」「塩基」という3つのパーツが結合してできています[1]。ヌクレオチド1個の種類や、ATPなどDNA以外での働きはヌクレオチドのページにまとめ、ここでは「つながったときの構造」に絞って説明します。

🧩 DNAとRNAの部品の早見表

部品 DNA(デオキシリボ核酸) RNA(リボ核酸)
基本単位 デオキシリボヌクレオチド リボヌクレオチド
糖(5炭糖) デオキシリボース(2′は-H) リボース(2′に-OH)
リン酸 糖と糖をつなぎ、骨格をつくる 同じ
塩基 A・T・G・C A・U・G・C(TのかわりにウラシルU)
ふだんの形 2本鎖の二重らせん 主に1本鎖

出典:Alberts『Molecular Biology of the Cell』[1]。DNAとRNAの働きの違いは核酸(DNAとRNA)の基本でも解説しています。

DNAを構成する4種類の塩基の化学構造式

糖の2番目の炭素が、DNAの丈夫さを決めている

糖の炭素には1′(いちプライム)から5′まで番号がふられています。1′の炭素には塩基が、5′の炭素にはリン酸が結合します。DNAと、その仲間であるRNA(リボ核酸)を分ける決定的な違いは2′の炭素にあります。RNAの糖(リボース)は2′の位置に反応性の高い水酸基(-OH)を持っているのに対し、DNAの糖(デオキシリボース)は酸素が1つ外れて水素(-H)だけになっています。「デオキシ(脱酸素)」という名前はここに由来します。

このわずかな違いが、DNAに大きな安定性を与えています。2′の水酸基がないため、DNAは自分自身を切断してしまう反応が起こりにくく、化学的に安定です[1]。だからこそDNAは、遺伝情報を長く保存する「金庫」の役割を果たせます。反応性の高いRNAが情報の「作業用コピー」に向いているのとは対照的です。

💡 用語解説:デオキシリボース と リボース

どちらも5個の炭素からできた糖ですが、違いは2′の炭素だけです。リボース(RNAの糖)は2′に-OHを持ち、デオキシリボース(DNAの糖)は-Hだけを持ちます。「デオキシリボース」は糖の名前、「デオキシリボ核酸(DNA)」はその糖を含むヌクレオチドがつながった分子の名前で、部品と完成品の関係です。

プリン塩基とピリミジン塩基:大きさの違いが対を決める

4種類の塩基は、環の構造によって2つのグループに分けられます。アデニン(A)とグアニン(G)は環が2つある大きめの「プリン塩基」、シトシン(C)とチミン(T)は環が1つの小さめの「ピリミジン塩基」です。DNAでは必ず「大きい塩基(プリン)」と「小さい塩基(ピリミジン)」が対を組むため、二重らせんの太さ(直径約2ナノメートル)が全長にわたってほぼ一定に保たれます[1][10]。

💡 用語解説:プリン塩基 と ピリミジン塩基

プリン塩基(A・G)は六角形と五角形の環がくっついた大きな平らな分子、ピリミジン塩基(C・T)は六角形1つの小さな分子です。DNAでは「大(プリン)と小(ピリミジン)」が組み、AはTと、GはCと対になります。覚え方は「大きい者と小さい者が手をつなぐ」です。

リン酸がつなぐ骨格と、DNAのマイナスの電荷

ヌクレオチドどうしは、一方の糖の3′の炭素ともう一方の糖の5′の炭素を、リン酸が橋渡しする「リン酸ジエステル結合」でつながり、糖とリン酸が交互に並ぶ「糖-リン酸骨格」をつくります[1]。リン酸はマイナスの電荷を帯びているため、DNAは全体として強いマイナスの電気を持ちます。このため水になじみやすく、あとで登場するヒストン(プラスの電気を持つタンパク質)と強く引き合います[2]。

安定なDNAの糖も、細胞の中では思わぬ弱点を持ちます。リボースやデオキシリボースとそのリン酸化物は、タンパク質のアミノ基と酵素なしに反応する「糖化(メイラード反応)」を、ふつうの糖であるグルコースよりはるかに起こしやすいことが報告されています[8]。こうした反応が細胞の中でどこまで病気に関わるかは、研究が続いている段階です。

3. 二重らせんの構造:塩基対とスタッキング

DNAの2本の鎖は、たがいに逆向き(逆平行・アンチパラレル)に並び、内側を向いた塩基どうしが水素結合で結ばれて二重らせんを組みます。アデニン(A)はチミン(T)と2本、グアニン(G)はシトシン(C)と3本の水素結合をつくります[1]。この対合のルールが厳密に守られるため、片方の鎖の配列が分かれば、もう片方の配列は自動的に決まります。この性質が、DNAが正確にコピーされ、RNAへ転写される分子的な土台です。

ポリヌクレオチド鎖が組む二重らせん構造の模式図

二重らせん構造を明らかにしたのは誰か

DNAの二重らせん構造は、1953年にジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックが英国の科学誌Natureに発表したモデルで明らかになりました[3]。同じ号には、ロザリンド・フランクリンとレイモンド・ゴスリンの論文[4]と、モーリス・ウィルキンスらの論文[5]が並んで掲載され、DNAのX線回折像がらせん構造を示すことを報告しています。二重らせんのモデルは、こうしたX線回折のデータの上に組み立てられたものです。

なぜDNAは二重らせんなのか:構造そのものがコピーと修理のしくみになる

二重らせんの最大の意味は、2本の鎖が互いの「鋳型」になることです。ワトソンとクリックも最初の論文で、この特異的な塩基の対合が遺伝物質の複製のしくみを示唆していると述べています[3]。実際に細胞は、2本の鎖をほどいてそれぞれを鋳型に新しい鎖をつくり、元の鎖を1本ずつ受け継ぐ「半保存的複製」でDNAを複製します。また、片方の鎖が傷ついても、もう片方を手本に直せます(6章)。さらに、情報を担う塩基はらせんの内側に、糖-リン酸骨格は外側に配置されています[1]。

「鎖に向き(極性)がある」ことの意味:5′末端と3′末端

1本のDNA鎖には向きがあり、一方の端を「5′末端」、もう一方を「3′末端」と呼びます。2本の鎖は逆向きに並ぶので、片方が5′→3′なら、相手は3′→5′です[1]。DNAを合成する酵素(DNAポリメラーゼ)は、必ず5′から3′の方向にしか鎖を伸ばせません[1]。この一方向のルールが、DNA複製や転写を正確に進める「読み取りの基準」になっています。DNAからタンパク質がつくられるまでの流れはDNAからタンパクへで扱っています。

じつは水素結合だけではらせんは安定しない

二重らせんは水素結合で保たれていると思われがちですが、DNAの熱安定性を測った研究では、安定化の主役は、らせんの軸に沿って上下に隣り合う塩基が重なり合う「塩基スタッキング」で、塩基対の水素結合そのものの安定化への寄与は小さいことが示されています[6]。

💡 用語解説:塩基スタッキング

塩基は平らで水になじみにくい構造をしています。塩基どうしがトランプを積み重ねるように上下に密着することをスタッキングといい、この重なりで塩基のあいだに引力が働いて、らせんが固定されます。塩基配列によってDNAの熱への強さ(融けにくさ)が違うことにも、このスタッキングが大きく関わっていることが示されています[6]。

この考え方は応用面でも重要です。水素結合をつくれない人工の塩基でも、形が合えばDNAポリメラーゼに相手として認識されて複製されることが報告されており、DNAポリメラーゼは相補的な塩基を選ぶのに水素結合を必ずしも必要としないと考えられています[7]。

4. 立体構造は1つではない:A型・B型・Z型

二重らせんは、いつも同じ形ではありません。周りの水の量や塩の濃さ、塩基配列のパターンによって、異なる立体構造へ姿を変えます[9][10]。代表的なのが右巻きのB型・A型と、左巻きのZ型です。

細胞の中でふつうに見られるのがB型(B-DNA)で、右巻きで1回転あたり約10.5塩基対です[10]。水が少ない環境では、より太く凝縮したA型(A-DNA)に変わります[9]。一方、CとGが交互に並ぶ配列(プリンとピリミジンの交互配列)にねじれの力が加わると、左巻きでジグザグに蛇行したZ型(Z-DNA)が現れます[10]。

🌀 A型・B型・Z型DNAの違い

項目 A型 B型(標準) Z型
巻きの向き 右巻き 右巻き 左巻き
1回転の塩基対数 約11 約10.5 約12
らせんの直径 最も太い 約2.0nm 約1.8nm(最も細い)
見られる条件 水が少ない環境 細胞内(水が豊富) CG交互配列・負のねじれ

出典:Potaman & Sinden[10]、Watersら[9]。数値は代表値で、配列や条件によって多少変わります。

💡 用語解説:スーパーコイルとZ型

ねじった電話コードがさらにねじれて絡まるように、二重らせんも余分なねじれ(スーパーコイル)をためこみます。転写が進むと、RNAポリメラーゼの後ろ側に負のねじれ、前側に正のねじれが生じます。負のねじれはZ型ができる大きな原動力で、Z型などの特殊な形は、ためこんだ余分なねじれを一部ゆるめる可能性があると考えられています[10]。

5. 2mのDNAを核に収める:ヒストンとエピジェネティクス

マイナスの電気を帯びたDNAを糸巻きのように巻き取るのが、プラスの電気を帯びたタンパク質「ヒストン」です。ヒストンはリシンやアルギニンといったプラスの電荷を持つアミノ酸を多く含み、DNAの糖-リン酸骨格と強く引き合います[2]。

DNAが染色体になるまでの折りたたみ

🧬 DNA二重らせん(直径約2nm)
▶
🧫 ヌクレオソームヒストン8量体に約146塩基対
▶
🧵 クロマチン繊維さらに折りたたむ
▶
🧩 染色体分裂期に最も凝縮

DNAがヒストン8個の集まり(8量体)に約146塩基対ぶん巻きついた基本単位をヌクレオソームと呼びます[2]。ヒストンから突き出たアルギニンとDNAのリン酸のあいだにできる「塩橋」は、DNAとの結合の強さや曲がりやすさを局所的に調整していると報告されています[11]。さらに、DNAの骨格がヒストンと接して水から隠れる部分と、外側に露出する部分に分かれることが、より高次の折りたたみを進める原動力の一つになっていることも示されています[12]。

化学修飾でオン・オフを切り替えるエピジェネティクス

この折りたたみの強さは、酵素による化学修飾で可逆的に変えられます。これがエピジェネティクスのしくみです。代表的なのが次の3つです。ヒストンのアセチル化はリシンのプラスの電荷を打ち消してDNAとの引力を弱め、クロマチンをゆるめて遺伝子を読み出しやすくします。DNAメチル化はシトシンにメチル基を付け、その領域の遺伝子を働きにくくします。ヒストンメチル化は付く場所によってオンにもオフにも働きます[2]。

こうしてクロマチンの開き具合を動的に変えるしくみはクロマチンリモデリングとも呼ばれ、同じ遺伝情報を持つ細胞が、皮膚や神経など多様な細胞へ分化できる理由の一つになっています。この制御の乱れは、がんをはじめとする多くの病気の背景にあります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【設計図は変わらなくても、読み方は変わる】

「同じDNAを持つ細胞が、どうして目にも肝臓にも神経にもなれるのか」という疑問への答えが、まさにこのエピジェネティクスです。設計図そのもの(塩基配列)は全身の細胞で同じでも、どのページを開き、どのページを閉じておくかが細胞ごとに違うのです。

この「読み方」の乱れは、配列そのものの変化とは別の形で病気につながります。DNAの構造を理解することは、単なる化学の話ではなく、なぜ病気が起こるのかを分子のことばで読み解く第一歩だと考えています。

6. ゲノムを守るしくみ:DNA損傷と修復

DNAは丈夫にできていますが、それでも体温程度の環境で自然に起こる化学反応や、活性酸素、紫外線、化学物質などによって、毎日たくさんの傷を受けています[13]。放置すれば情報が書き換わり、変異として固定されてしまいます。そこで細胞は、二重らせんという構造を利用した何重もの修復のしくみを備えています。

よくある傷と、それが変異になる道すじ

代表的な傷が、シトシンの脱アミノ化とグアニンの酸化です。シトシンが脱アミノ化するとウラシル(本来はRNAの塩基)に変わり、修復されないまま複製が進むと、C・G対がT・A対に置き換わる点突然変異が固定されます[14]。またグアニンが酸化されてできる8-オキソグアニン(oxoG)は、複製のときに誤ってアデニンと対を組み、G・C対がT・A対に変わるトランスバージョン(塩基転換)を引き起こします[16]。こうした1文字の置き換えが、タンパク質のアミノ酸を変えるミスセンス変異などにつながります。変異の種類と影響はバリアントの種類とその影響でも解説しています。

相補鎖を手本にする3つの切り出し修復

DNAが2本鎖であることの最大の利点は、片方が傷んでも、もう片方の無傷な鎖を手本にして元通りに直せることです[13]。傷の種類に応じて、次の3つの修復のしくみが使い分けられます。

🛠️ 相補鎖を手本にする3つの修復

修復のしくみ 主な標的 しくみの要点
塩基除去修復(BER) ウラシルや酸化した塩基など、らせんを大きく歪めない小さな傷 異常な塩基だけを切り出し、相補鎖を手本に埋め戻す
ヌクレオチド除去修復(NER) 紫外線によるピリミジン二量体など、らせんを大きく歪める傷 傷の前後を広く切り取り、正常な鎖を手本に作り直す
ミスマッチ修復(MMR) 複製のときに残った対合の誤り 新しくつくった鎖側の誤りだけを削り取り、正しく置き換える

出典:Alberts『Molecular Biology of the Cell』[13]、StatPearls[15]

このうちミスマッチ修復の遺伝子に生まれつき変化があると、遺伝性のがん体質であるリンチ症候群の原因になります。DNA修復のしくみが、そのまま遺伝性の病気やがんの理解につながる例です。

最も危険な二本鎖切断と、その2つの直し方

放射線などで両方の鎖が同じ場所で切れる「二本鎖切断(DSB)」は、手本にできる無傷の鎖がないため、細胞死やがんにつながりやすい重い傷です[15]。細胞はこれに、正確さを重視する方法と、とにかくつなぐ方法の2つで対応します。

🎯 相同組換え修復(HR)

DNAが複製されたあと(細胞周期のS期〜G2期)に、すぐそばにある同じ配列の姉妹染色分体を手本にして、傷を正確に直します[15]。相同組換えのしくみを使う修復です。この能力が失われた状態が相同組換え修復欠損(HRD)で、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)やPARP阻害薬と深く関わります。

🩹 非相同末端結合(NHEJ)

手本が使えないときにも働く「応急処置」の経路で、切れた両端を直接つなぎます。数塩基の欠失や挿入が起こりやすいものの、切断を放置するよりはよい、という方法です[15]。

7. 医療・創薬への応用:DNAの構造を利用した治療

ヌクレオチドの化学構造と、二重らせんの表面にできる溝(主溝・副溝)の特徴は、薬をつくるときの設計の手がかりになっています[17]。ここでは代表的な応用を見ていきます。

ニセの部品でウイルスを止める核酸アナログ薬

多くの抗ウイルス薬・抗がん薬は、ヌクレオチドによく似た「ニセの部品(核酸アナログ)」として設計されています。ウイルスの酵素がこれを本物と間違えて取り込むことで、複製がうまく進まなくなります[17]。

💡 用語解説:核酸アナログ薬の2つのタイプ

①鎖を止めるタイプ(鎖終結型):取り込まれると、次の部品をつなぐための3′-OHがないため、その先の合成が止まります。アシクロビル(ヘルペス)やソホスブビル(C型肝炎)が代表です。レムデシビルは、取り込まれて数塩基先で伸長を止める「遅れて止めるタイプ」として働きます[17]。
②変異を大量に入れるタイプ(致死的変異誘発型):塩基対のゆらぎを起こし、複製のたびに多くの変異を入れてウイルスの設計図を壊します。モルヌピラビルがこのタイプの代表です[17]。

溝を読む:配列を狙う分子たち

二重らせんの主溝・副溝には、塩基対のふちのパターンが露出しており、これが「どのDNA領域か」を見分ける目印になっています[1]。多くの転写因子は、主溝にα-ヘリックスを差し込んで特定の配列を認識し、遺伝子のオン・オフを切り替えます[18]。一方、副溝に結合してDNAを大きく曲げ、まわりの構造を組み立てる「建築タンパク質」もあり、TBPやSRYなどが知られています[19]。

ゲノム編集とエピゲノム編集

相補的な塩基対のしくみを生かすのが、CRISPR-Cas9です。ガイドRNAが標的のDNAと相補的に結合し、狙った場所を切断します。配列を切らずにDNAメチル化酵素などを標的に運び、特定の遺伝子の働きを調整するエピゲノム編集も研究されています(研究段階で、標準治療ではありません)。また、相補的な短い核酸でRNAの働きを調整するアンチセンスオリゴヌクレオチドは、一部の希少疾患で薬として使われています。どれも、DNAの基本構造そのものが治療の鍵になっている例です。

8. よくある誤解

誤解①「DNAとRNAはまったく別物」

両者の違いは、糖の2′に酸素があるか(RNA)ないか(DNA)と、TかUかという点が中心です。基本の設計は共通で、RNAは反応性が高いぶん一時的なコピーに、DNAは安定なぶん長期保存に向いています。詳しくは核酸(DNAとRNA)の基本をご覧ください。

誤解②「二重らせんは水素結合で保たれている」

水素結合は、AとT・GとCという正しい相手を決めるうえで大切です。ただ、らせんの安定化への寄与は、上下の塩基スタッキングのほうが大きいことが示されています[6]。

誤解③「DNAはいつも同じ形をしている」

教科書のB型が基本ですが、環境や配列によってA型・Z型へ姿を変えます。形の変化が、ねじれの調整などに関わっている可能性も考えられています。

誤解④「傷ついたDNAは元に戻せない」

DNAは毎日たくさん傷つきますが、相補鎖を手本にした修復のしくみがその多くを直しています。修復の遺伝子に生まれつき変化があると、がんになりやすい体質につながることがあります。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【構造を知ることは、病気を理解する第一歩】

DNAの基本構造は、一見すると高校生物の話に思えるかもしれません。けれども、「塩基が1文字変わるとなぜ病気になるのか」「なぜ両親にない変化が子どもに現れるのか」を理解する土台は、この構造の知識です。糖・リン酸・塩基という部品、相補的な塩基対、そして修復のしくみを知っていると、遺伝子検査の結果の意味がぐっと立体的に見えてきます。

当院では、臨床遺伝専門医が検査の前の説明から結果の解釈まで担当します。院長は臨床遺伝専門医であると同時にがん薬物療法専門医でもあり、DNA修復の異常と遺伝性のがんのように、基礎の知識と診療をつなげて説明することを大切にしています。遺伝カウンセリングとはや臨床遺伝専門医の役割もあわせてご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. DNAを構成する基本単位は何ですか?

ヌクレオチドです。ヌクレオチドは糖(デオキシリボース)・リン酸・塩基の3つの部品からなり、塩基にはアデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)の4種類があります。ヌクレオチドが糖とリン酸で交互につながって鎖になり、2本の鎖が塩基対で結ばれて二重らせんをつくります。

Q2. DNAの二重らせん構造を明らかにしたのは誰ですか?

1953年に、ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックがNature誌に二重らせんのモデルを発表しました。同じ号には、ロザリンド・フランクリンとレイモンド・ゴスリン、モーリス・ウィルキンスらのX線回折の論文も掲載されており、二重らせんのモデルはこうしたデータの上に組み立てられました。

Q3. DNAはなぜ二重らせん構造なのですか?

2本の鎖が互いの「鋳型」になるからです。AはT、GはCとだけ対になるため、片方の鎖があればもう片方を正確に再現できます。この性質が、正確な複製(半保存的複製)や、片方の鎖が傷ついたときにもう片方を手本にする修復を可能にしています。

Q4. DNAとRNAの一番の違いは何ですか?

中心となる違いは2つです。1つは糖で、DNAは2′に酸素を持たないデオキシリボース、RNAは2′に水酸基を持つリボースを使います。もう1つは塩基で、DNAがチミン(T)を使うのに対し、RNAはウラシル(U)を使います。この差により、DNAは安定した長期保存に、RNAは反応性の高い一時的なコピーに向いた性質を持ちます。

Q5. なぜAはT、GはCとしか対にならないのですか?

大きなプリン塩基(A・G)と小さなピリミジン塩基(C・T)が組むことで、らせんの太さが一定に保たれます。さらに水素結合をつくる位置がぴったり合うのが、AとT(2本)、GとC(3本)の組み合わせです。このルールがあるので、片方の鎖の配列からもう片方が自動的に決まります。

Q6. 二重らせんを安定させているのは水素結合ですか?

水素結合は正しい相手を決めるのに大切ですが、らせんの安定化の主役は、上下に隣り合う塩基が重なり合う「塩基スタッキング」であることが、DNAの熱安定性を測った研究で示されています。塩基配列によって安定性が違うことにも、スタッキングが大きく関わっています。

Q7. 塩基が1文字変わるだけで病気になるのですか?

場合によります。1文字の置き換え(点突然変異)でも、タンパク質の重要な部分のアミノ酸が変わると、働きが大きく損なわれることがあります。一方、アミノ酸が変わらない変化や、働きに影響しない場所の変化も多くあります。影響は変化の位置と種類によって違うため、専門的な評価が必要です。

Q8. DNAの構造を知ることは、遺伝子検査とどう関係しますか?

遺伝子検査は、DNAの塩基配列を読み取り、標準的な配列と比べて違いを見つける検査です。DNAの構造や、塩基対・修復のしくみを知っておくと、見つかった変化がなぜ意味を持つのか、なぜ判断が難しい場合があるのかを理解しやすくなります。結果の解釈は、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングで扱います。

Q9. DNA修復の異常は、がんと関係がありますか?

はい、関係します。たとえばミスマッチ修復の遺伝子に生まれつき変化があるとリンチ症候群という遺伝性のがん体質に、相同組換え修復がうまく働かない状態(HRD)は遺伝性乳がん卵巣がんと関わります。DNAを守る修復のしくみが働かないと、変異がたまりやすくなります。

Q10. エピジェネティクスとは、DNAの配列が変わることですか?

いいえ。エピジェネティクスは、DNAの塩基配列そのものは変えずに、DNAメチル化やヒストンの修飾によって遺伝子の「読みやすさ」を変えるしくみです。設計図の文字は同じでも、どのページを開くかを調整するイメージです。

🏥 遺伝子の変化や検査結果の意味を、臨床遺伝専門医に相談する

紹介状なしで、臨床遺伝専門医の遺伝カウンセリングを受けられます。院長は臨床遺伝専門医・がん薬物療法専門医で、遺伝性のがんの遺伝子検査から結果の解釈までを担当します。

まだ決めていない方は:遺伝カウンセリング・遺伝診療の流れ | お問い合わせ

参考文献

  • [1] Alberts B, Johnson A, Lewis J, et al. The Structure and Function of DNA. In: Molecular Biology of the Cell. 4th ed. New York: Garland Science; 2002. [NCBI Bookshelf NBK26821]
  • [2] Alberts B, Johnson A, Lewis J, et al. Chromosomal DNA and Its Packaging in the Chromatin Fiber. In: Molecular Biology of the Cell. 4th ed. New York: Garland Science; 2002. [NCBI Bookshelf NBK26834]
  • [3] Watson JD, Crick FHC. Molecular structure of nucleic acids: a structure for deoxyribose nucleic acid. Nature. 1953;171(4356):737-738. [DOI 10.1038/171737a0]
  • [4] Franklin RE, Gosling RG. Molecular configuration in sodium thymonucleate. Nature. 1953;171(4356):740-741. [DOI 10.1038/171740a0]
  • [5] Wilkins MHF, Stokes AR, Wilson HR. Molecular structure of deoxypentose nucleic acids. Nature. 1953;171(4356):738-740. [DOI 10.1038/171738a0]
  • [6] Yakovchuk P, Protozanova E, Frank-Kamenetskii MD. Base-stacking and base-pairing contributions into thermal stability of the DNA double helix. Nucleic Acids Res. 2006;34(2):564-574. [DOI 10.1093/nar/gkj454]
  • [7] Takahashi M, Nordén B. Recognition mechanism of complementary nucleobases and sequences in DNA and RNA: interplay of Watson–Crick hydrogen bond formation and base stacking interactions. DNA. 2026;6(1):13. [DOI 10.3390/dna6010013]
  • [8] Munanairi A, O’Banion SK, Gamble R, et al. The multiple Maillard reactions of ribose and deoxyribose sugars and sugar phosphates. Carbohydr Res. 2007;342(17):2575-2592. [DOI 10.1016/j.carres.2007.08.003]
  • [9] Waters JT, Lu XJ, Galindo-Murillo R, et al. Transitions of double-stranded DNA between the A- and B-forms. J Phys Chem B. 2016;120(33):8449-8456. [DOI 10.1021/acs.jpcb.6b02155]
  • [10] Potaman VN, Sinden RR. DNA: Alternative Conformations and Biology. In: Madame Curie Bioscience Database. Austin (TX): Landes Bioscience; 2000-2013. [NCBI Bookshelf NBK6545]
  • [11] Yusufaly TI, Li Y, Singh G, et al. Arginine-phosphate salt bridges between histones and DNA: intermolecular actuators that control nucleosome architecture. J Chem Phys. 2014;141(16):165102. [DOI 10.1063/1.4897978]
  • [12] Mandal R, Noel AC, Baur AM, et al. Hydropathy landscapes of histone–DNA interactions in chromatin building blocks. J Phys Chem B. 2026;130(14):3844-3854. [DOI 10.1021/acs.jpcb.6c00520]
  • [13] Alberts B, Johnson A, Lewis J, et al. DNA Repair. In: Molecular Biology of the Cell. 4th ed. New York: Garland Science; 2002. [NCBI Bookshelf NBK26879]
  • [14] Chatterjee N, Walker GC. Mechanisms of DNA damage, repair, and mutagenesis. Environ Mol Mutagen. 2017;58(5):235-263. [DOI 10.1002/em.22087]
  • [15] Lewis T, Dimri M. Biochemistry, DNA Repair. In: StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; updated 2023 Jul 25. [NCBI Bookshelf NBK560563]
  • [16] Al Aboud NM, Basit H, Al-Jindan FA. Genetics, DNA Damage and Repair. In: StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; updated 2023 Aug 14. [NCBI Bookshelf NBK541088]
  • [17] De Clercq E. Hydrogen bonding (base pairing) in antiviral activity. Viruses. 2023;15(5):1145. [DOI 10.3390/v15051145]
  • [18] Liu LA, Bader JS. Decoding transcriptional regulatory interactions. Physica D. 2006;224(1-2):174-181. [DOI 10.1016/j.physd.2006.09.022]
  • [19] Bewley CA, Gronenborn AM, Clore GM. Minor groove-binding architectural proteins: structure, function, and DNA recognition. In: Annual Reviews Collection. Bethesda (MD): NCBI; 2002. [NCBI Bookshelf NBK2225]
  • [20] National Human Genome Research Institute. Deoxyribonucleic Acid (DNA). Talking Glossary of Genomic and Genetic Terms. [genome.gov]
  • [21] National Human Genome Research Institute. Mitochondrial DNA. Talking Glossary of Genomic and Genetic Terms. [genome.gov]

関連記事

※本記事は一般の方に向けた情報提供を目的とするもので、個別の診断・検査の選択を示すものではありません。検査については臨床遺伝専門医にご相談ください。

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

記事の作り方と生成AIの使い方は、編集方針をご覧ください。

お電話での受付可能
診療時間
午前 10:00~14:00
(最終受付13:30)
午後 16:00~20:00
(最終受付19:30)
休診 火曜・水曜

休診日・不定休について

クレジットカードのご利用について

publicブログバナー
 
medicalブログバナー
 
NIPTトップページへ遷移