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細胞分裂|ゲノム情報伝達の仕組み:細胞周期
ゲノム情報を伝達するとは遺伝情報を受け渡すこと
ヒトひとりには推定37兆個の細胞があるといわれています。
※昔は60兆といわれていましたが下記の論文がでて、現在は37兆とされていますがもちろん体格により異なります。
細胞のライフサイクル
ヒトは1つの受精卵(接合子zygote)からスタートします。ヒトの体を構成する37兆というすべての細胞は、たった1つの二倍体細胞が一連の体細胞分裂を行うことで作られていきます。細胞のライフサイクルからみると、体細胞分裂を行っている時間はほんのわずかです。体細胞分裂と体細胞分裂の間は間期(interphase)と呼ばれます。細胞はその生活サイクルのほとんどの時間を間期の状態で過ごします。体細胞分裂の終了直後に、細胞はDNA合成を行わないG期に入ります。細胞によってこのG期の時間は数時間~数年までさまざまです。また神経細胞や赤血球などのようにいったん完全に分化してしまうとそれ以降はまったく分裂しない細胞もあります。これらの細胞ではG1期とは別のG0期で永久に停止します。その他の細胞では、いったんG0期に入っても臓器が障害を受けるとG1期に戻り、細胞周期が回り始めます。
G1期、S期、G2期を合わせて間期と呼びます。細胞分裂を行う典型的なヒト細胞では、 この3つの段階を経るのに16~24時間を要し、G1で10~12時間、Sで6~8時間、G2で2~4時間となっています。一方、分裂期はわずか1~2時間です。細胞周期の長さは細胞によりさまざまで、皮府の真皮や腸粘膜などの活発に分裂を繰り返している細胞では数時間であるが、変わらない細胞では数力月~数年というものもあります。
細胞周期の制御
細胞周期は、かってにどんどん回らないように細胞分裂における各段階の時期を決定するチェックポイント(checkpoint)によって制御されています。チェックポイントは、正確なDNA合成、染色体動態を円滑にする精巧な微小管ネットワークの集合や付着も監視・制御しています。たとえばゲノムの損傷が見つかると休細胞分裂のチェックポイントが細胞周期の進行を停止して修復が行われます。ゲノムの損傷が修復できないほど重度な場合は細胞はプログラムされた細胞死(アポトーシスapoptosis)へと進んでいきます。
G1期
各細胞は二倍体ゲノムを1コピー含んでいます。Gはgapを意味しています。
S期
次に細胞はあらかじめ決められたDNA合成期であるS期(Sはsynthesis、合成という意味です)へと移行し、各染色体のDNAの正確な複製が行われ、2つの姉妹染色分体ができます。姉妹染色分休はセントロメア(centromere)と呼ばれる染色体領域で物理的に接着していて、ここに動原体を形づくる多数の特異的タンパクとの結合部位があります。S期でのDNA合成はすべての染色体で同時に起こるわけではありませんし、同じ染色体の中でさえ同時ではありません。各染色体上には何百から何千ものDNA複製起点(originof DNA replication)と呼ばれるところがあって、複製はそこから始まっていきます。それぞれの染色体領域が6~8時間のS期の間のどのタイミングで複製されるかは特有に決まっています。各染色体の末端にはテロメアと呼ばれる構造があり、特定のDNA配列の反復からできています。染色体末端構造を正確につくるにはテロメラーゼと呼ばれる特異的な酵素が必要で、この酵素の働いて各染色体の最末端部までの確実な複製が担保されます。
s期の終わりまでに細胞中のDNA最は2倍になり、各細胞は二倍体ゲノムを2コピーもつこととなります。
G2期
S期の後細胞は短いG2期に入る。細胞周期全体を通じて細胞は徐々に大きくなり、最終的に次の体細胞分裂前にはその全量は2倍となります。G2期は休細胞分裂の開始によって終了となります。体細胞分裂は、それぞれの染色体が凝縮を始め、顕微鏡下に薄く伸張した糸状の構造物として見えるようになると始まる。
M期
M期は複雑なので別ブロックに分けます。Mはmitosis、分裂の略です。
細胞周期の分裂期においては、精巧な装置により、2つの娘細胞がそれぞれ完全な遺伝情報セットを確実に受け取ることができるようになっています。これを可能にしているのが各染色体の染色分休1本を娘細胞にそれぞれに正確に分配するシステムです。各染色体のコピーを各娘細胞に分配する過程は染色体分離(chromosome segregation)と呼ばれています。多くの腫瘍は娘細胞への染色体分配時のエラーから生じる遺伝的不均衡の状態を必ず特徴として持つため、正常な細胞増殖においてこの過程が重要であることがうかがわれます。
体細胞分裂の過程は前期、前中期、中期、後期、終期の5つに区分されています。
前期(prophase) プロフェイス
もともとの細胞の中の染色体はこんな感じでゆるく均一に存在しています。それが徐々にぎゅっとつまった形になって整頓して染色体が徐々に凝縮して紡錘体が形成されます。一組の中心体(centrosome)が形成され、そこから微小管が放射状に広がります。中心体は細胞の両極ヘと移動します。
前中期(prometaphase) プロメタフェイス
核膜の消滅により染色体が細胞内に分散し、染色体は動原体のところで紡錘体の微小管に付着できるようになります。
中期(metaphase) メタフェイス
染色体は最大限凝縮して細胞の赤道面に一列に並びます。
後期(anaphase) アナフェイス
染色体はセントロメアで分離し、各染色体の姉妹染色分体は独立した娘染色体(daughter chromosome)となり、細胞の別々の極へ移動します。
終期(telophase) テロフェイス
凝縮した染色体の脱凝縮がおこり、娘細胞それぞれの核の周囲には核膜が再び形成され、染色体は再び間期状態となります。細胞分裂を終えるため、細胞質分裂(cytokinesis)がおこり細胞質も2分されます。このような体細胞分裂の全過程がつつがなく実行され、ゲノムの複製と正しい細胞分裂によるゲノムの分配が確実に行われています。
イモリの細胞で細胞分裂を見てみよう
(A)イモリnewtの肺の細胞での有糸分裂(M期)の4つの時期を免疫蛍光法を用いて観察したもの。
1.2.分裂前期では分裂問期には顕微鏡下でも見えなかった染色体(青)が凝縮し始めて見えるようになり、細胞の両極にある中心体(淡緑)が集合し始めます。
3.分裂中期。染色体は細胞を二分する平面(赤道)に沿って整列。紡錘体(淡緑)の微小管線維に結合。同時に核膜は消失。
4.分裂後期。染色体の半分ずつ(染色分体)が紡錘体に引っ張られて細胞の反対極へと分離するsegregate
6.分裂終期。染色分体が2つの集合に集まる。直後に染色分体は分散して個々の染色分体の集合を取り囲む核膜が新しく形成。
染色体の構造・機能における異常が引き起こす疾患
細胞分裂中の染色体構成要素に起こった構造や機能の異常により疾患が起こります。
動原体における紡錘体チェックポイントの主要構成タンパクをコードする遺伝子に異常
広範囲の先天異常
セントロメアの過剰もしくは欠失に伴う染色体分離異常
先天異常、発達障害
S期のゲノムの特定領域における過剰複製(増幅) や複製時期異常
さまざまながん
S期における姉妹染色分体の適切な整列と接着に必要な遠伝子の異常
Roberts症候群。成長障害、四肢短縮、小頭。
正確な姉妹染色分体接着に必要な減数分裂特異的遺伝子の変異
早発卵巣機能不全
テロメラーゼ構成要素の欠損によるテロメア短縮異常
さまざまな変性疾患。小児期から成人期まで発症するテロメア症候群。
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