目次
ゲノム情報伝達の仕組み:配偶子形成と受精
配偶子形成
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ヒトの配偶子形成時期
男性と女性の配偶子は別々の発生過程をもち、男性はXY、女性はXXという性染色体の組み合わせを持ちます。
ヒトで一番ふるい原始生殖細胞は、胎生第4週までに胚体外部の卵黄嚢内胚葉に認められるようになります。
胎生第6週までには間に生殖隆起へと移動し、そこで体細胞とともに性腺原基を形成します。
性腺原基はその後、細胞の性染色体構成(XY・XX)に応じて規定されたように精巣もしくは卵巣に分化します。
精子・卵子どちらの形成にも減数分裂が必要なのですが、子孫に臨床的・遺伝学的な影響を及ぼしうる減数分裂の内容や時期は重要な違いがあります。
女性の配偶子形成時期
減数分裂は胎生早期に開始され、⓵女性として出生する前に胎児卵巣で、②性成熟した女性において排卵直前で卵母細胞において、③子孫となりうる卵の受精後に、という3つの段階で数十年という長い時間をかけて行われます。
⓵の段階を過ぎると分裂して数が増えるということはないため、数自体はすでに胎児の時代に決定していて、減数分裂を行う細胞の数には限りがあります。
男性の配偶子形成時期
減数分裂は、 成人期を通じて分裂中の細胞集団の多数の細胞において継続的に開始されます。
正常な減数分裂や、 通常とは異なる減数分裂の原因やその結果にかかわる細胞遺伝学的、 生化学的分子生物学的メカニズムについては、 明らかになっていないことがたくさんあります。
精子形成
精子形成は思春期に始まります。
精母細胞から精子になり完了までに約64日を要します。
精巣の精細管には精原細胞が並んで存在しています。
精子は、性成熟に達して初めて形成されます。
精原細胞が分化して一次精母細胞となり、第一減数分裂を経て一倍体細胞である二次精母細胞が2つ形成されます。
二次精母細胞は直後に第二減数分裂に入り、1つの二次精母細胞から2つの精細胞が形成されます。
精細胞はそれ以上分裂を行うことなく精子へと分化します。
産生される精子数は通常1回の射精で約2億個、生涯では1012個と推定されています。
そのため、減数分裂に入る前には数百回の連続した体細胞分裂が行われる必要があります。
減数分裂のところで述べた通り、正常の減数分裂は相同染色体の対合とその後の組換えが起こります。
女性の常染色体とX染色体に関してはこの対合と組換えの点で例外的な問題はなにもありません。文字通り「相同」な染色体ですから。
しかし、男性の精子形成におけるX染色体とY染色体では大きさも全く異なるのでどうなのかな?と思いませんか?
こちらはダウン症候群(21トリソミー)の患者さんの染色体分析結果ですが。X染色体とY染色体の大きさって全然違いますよね?
実は、X染色体とY染色体は種類が異なっているので厳密には相同染色体ではないのですが、それぞれの短腕(XpとYp)と長腕(XqとYq)の端部に比較的短い相同領域があって、第一減数分裂では短腕長腕双方の相同領域における対合と交叉が起こります。
この相同領域は異なる性染色体であるにもかかわらず常染色体に似た対合と組換えを起こすため、偽常染色体領域と呼ばれています。
卵子形成
精子形成は思春期になるまで開始されないのですが、 卵子形成は胎児期に始まります。
卵子は卵原細胞から形成されます。
卵巣皮質にある卵原細胞は原始生殖細胞由来で、約20回の体細胞分裂を経て出来ます。
各卵原細胞は成長中の卵胞の中心に存在します。
胎生3カ月までには卵原細胞は分裂、成長を開始して一次卵母細胞となります。
このうち多くの細胞は第一減数分裂前期の状態になっています。
卵子の形成過程はすべての細胞で同時期に進行するのではなく、胎児期の卵巣では卵子形成過程のいろんな時期の細胞が混在しています。出生時には数百万個の卵母細胞が存在します、そのほとんどは消えていきます。
残りの卵母細胞は数十年の間、第一減数分裂前期で停止した状態で存在します。
最終的には約400個のみが成熟して女性の月経周期により一部は排卵に至ります。
女性の場合、各卵胞は成長と成熟を開始し、平均1か月に1個が排卵されます。
排卵直前に、卵母細胞は急速に第一減数分裂を完了し、分裂した2つの細胞のうち1つが、もとの卵母細胞の細胞質と細胞小器官の大部分をもつ二次卵母細胞(卵子)となるのです。もう一つのの細胞は第一極体となります。
第二減数分裂はその直後に精子同様に始まり、排卵中に分裂中期まで進行します。
そこでまた進行を停止するのですが。受精が行われた場合のみ第二減数分裂が完了します。
このときもまた、もう一つのの細胞は第二極体となります。
受精
卵の受精は、通常排卵後約1日以内に卵管内で起こります。
受精時には1つの卵子のまわりに多数の精子が集まるのですが、1つの精子が卵子に進入することにより一連のいろんな反応が起こり、通常は他の精子の進入は妨げられてしまいます。
受精に続いて卵子の第二減数分裂が完了するのですが、このときに第二極体もできます。
受精して間もない卵子と精子の染色体のまわりに前核が形成され、卵子、精子の染色体はそれぞれの核膜で覆われます。
受精後に各親由来ゲノムが複製されて初めて2つの一倍休ゲノムが核を共有した1つの二倍体ゲノムとなり、その後二倍体の接合子は体細胞分裂により2つの二倍体の娘細胞に分かれ、胚発生過程の一連の体細胞分裂が始まります。
実質的な発生は接合子形成がおこる受精で始まりますが、臨床医学においては、妊娠週数のスタートは母体の最終月経開始日で計算されます。
体細胞分裂や減数分裂が引き起こす疾患
体細胞分裂と減数分裂の生物学的な意義は、ある細胞からその子孫細胞へと、もしくはある世代から次の世代へと、染色体の数と質を変えずに確実に伝えることです。
2種類ある細胞分裂メカニズムのいずれかにエラーが起こると、染色体が2本のところ3本になったり、1本足らなかったりという数的異常(異数性)が生じ、結果として遺伝物質の量的異常がおこり、これをもつ個体もしくは細胞系列が形成されることとなります。
減数分裂時のエラーが引き起こす疾患
特に卵子形成における減数分裂時の染色体不分離(1本ずつ分かれるのに失敗して2本とも渡されてしまう)は、 ヒトにおいて最も頻繁に怒る染色体異数性のメカニズムであり、認識できる全妊娠の数パーセントの胎児が染色体異常をもつ原因となっています。
正期産にいたる胎児でも、染色体異常は発生異常や新生児期の成長障害、知的障害の原因として最も多くなっています。
体細胞分裂時のエラーが引き起こす疾患
体細胞分裂時の染色体不分離もまた遺伝性疾患の原因となる。
受精後早期の染色体不分離は、発生中の胚もしくは胎盤のような胚体外組織のどちらかで、Down症候群の一部のタイプのように疾患の原因となりうる染色体のモザイクを引き起こします。
また、大腸の粘膜上皮細胞のように急速に分裂する組織における異常な染色体分離は、染色体異常をともなう悪性腫瘍の発生段階で多く見受けられるものです。染色体やゲノムの過不足の評価は多くのがんにおいて診断や予後を知る上で非常に重要な手がかりとなります。