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遺伝子変異のインフレームとアウトオブフレーム

遺伝子変異において「in frame」と「out of frame」という用語は、核酸DNAまたはRNA)の読み取りフレーム、すなわちリーディングフレームにおける変異の性質を表すために用いられます。これは、リーディングフレーム・ルールとも呼ばれ、分子生物学において核心的な概念の一つです。

●リーディングフレームとは
リーディングフレームとは、DNAまたはRNA分子内のヌクレオチド配列を、連続した重複しない3つのヌクレオチド、すなわちトリプレットに分割する読み方を指します。これらのトリプレットはコドンと呼ばれ、それぞれが特定のアミノ酸コードするか、または翻訳の停止信号に対応しています。この読み方により、核酸の配列がどのようにしてアミノ酸の連続した鎖、つまりタンパク質に翻訳されるかが決定されます。

●In Frame 変異
「in frame」変異は、3の倍数のヌクレオチドが挿入されたり削除されたりする変異で、リーディングフレーム自体は保持されます。このため、変異の影響は限定的であり、挿入または削除されたヌクレオチドの数に応じて追加または欠失するアミノ酸が生じますが、残りのタンパク質の構造には影響を与えません。

●Out of Frame 変異
一方、「out of frame」変異では、3の倍数ではない数のヌクレオチドが挿入されたり削除されたりします。これにより、リーディングフレームが変更され(フレームシフトと呼ばれます)、変異点以降の全てのコドンの解釈が変わってしまいます。これは一般に、タンパク質の機能不全や翻訳の早期終了を引き起こし、しばしば重大な生物学的影響を持ちます。

リーディングフレームの概念は、遺伝子の変異がタンパク質の機能に与える影響を理解する上で非常に重要です。例えば、特定の遺伝病や状態は「out of frame」変異によって引き起こされることが多いですが、時には「in frame」変異によっても特定の疾患が引き起こされることがあります。これらの知識は、遺伝子療法や分子診断の分野において、特定の遺伝的条件を診断し治療する方法を改善するのに役立ちます。

インフレーム

インフレーム変異は、遺伝子のヌクレオチド数が3の倍数で挿入または欠失することで起こり、遺伝子の読み取りフレームを維持します。この変異の結果として生成されるタンパク質は、一部のアミノ酸が追加されたり欠けたりすることで、元の長さから変化することがあります。しかし、この変異の影響はタンパク質の長さの変化だけにとどまらず、タンパク質の三次元構造や機能にも影響を及ぼす可能性があります。特に、タンパク質の機能的なドメインに変異が発生した場合、そのタンパク質が正常に機能する能力が損なわれることがあります。

例えば、ベッカー型筋ジストロフィーはインフレーム変異によって引き起こされる疾患であり、ジストロフィン遺伝子の変異によって、清浄ではないが、一定の機能を保持したジストロフィンタンパク質が生産されます。この症例では、タンパク質の長さが短くなること自体よりも、残存するジストロフィンが筋細胞膜の構造を維持するために十分な機能を保持しているかがより重要です。このように、インフレーム変異によるタンパク質の構造変化が、そのタンパク質の生物学的機能に及ぼす影響は、変異が発生した遺伝子とタンパク質の種類によって大きく異なります。

アウトオブフレーム

アウトオブフレーム変異は、欠失が3の倍数以外の数であるために起こり、リーディングフレームが変更されるタイプの変異です。この変更により、タンパク質のコード中に早期のストップコドンが生じることが多く、その結果、タンパク質の合成が通常より早く終了してしまいます。フレームシフトによって読み取りフレームが変更されると、それ以降のアミノ酸配列が全く異なるものになり、多くの場合、機能しないタンパク質が生成されるか、またはタンパク質が全く生成されないことになります。

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、このタイプのアウトオブフレーム変異によって引き起こされる疾患の一例です。DMDにおけるジストロフィン遺伝子の変異は、ジストロフィンタンパク質が全く生成されないか、または非常に短い不完全な形でのみ生成されるため、筋肉細胞の膜が弱くなり、筋肉組織が徐々に損傷し、最終的には機能不全に陥ります。これに対し、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)は、インフレーム変異によって引き起こされ、短縮されたがある程度機能するジストロフィンが生成されるため、DMDに比べて症状が軽度です。

アウトオブフレーム変異が引き起こすフレームシフトは、遺伝子がコードするタンパク質の生産に深刻な影響を及ぼします。リーディングフレームの破壊は、特定の遺伝子が重要なタンパク質を適切に生成する能力を失わせ、多くの場合、重篤な遺伝性疾患を引き起こす原因となります。この理解は、特定の疾患の遺伝的基盤を解明し、将来的な治療法の開発に向けた研究に不可欠です。

リーディングフレーム・ルール

リーディングフレームルールとは、遺伝子の読み取り方における基本的な原則の一つで、遺伝情報がどのようにタンパク質に翻訳されるかを決定します。核酸(DNAまたはRNA)のヌクレオチド配列は、連続した3つのヌクレオチド(トリプレット)ごとに区切られ、各トリプレットはコドンと呼ばれます。各コドンは特定のアミノ酸をコードするか、または翻訳を停止する信号として機能します。

このルールにより、タンパク質合成の際にリボソームが遺伝情報をどのように「読む」かが定められます。リーディングフレームは、翻訳が開始する特定のコドン(通常はAUG、メチオニンをコード)から始まります。リーディングフレームが決定されると、リボソームはそのフレームを保持しながら、連続するコドンを読み取り、対応するアミノ酸を連結してタンパク質を合成します。

リーディングフレームルールの重要性は、遺伝子の変異がリーディングフレームにどのように影響するかを理解することにあります。例えば:

– インフレーム変異は、3の倍数のヌクレオチドが挿入または欠失する変異で、リーディングフレームを変更せず、タンパク質の一部が変化する可能性がありますが、全体のフレームは保持されます。
– アウトオブフレーム変異は、3の倍数ではないヌクレオチドが挿入または欠失する変異で、リーディングフレームが変更され、翻訳プロセスが大きく乱れることがあります。これにより、機能しないタンパク質が生成されるか、早期に翻訳が停止されることがあります。

リーディングフレームルールは、タンパク質の正確な合成と機能に不可欠であり、遺伝子変異が生物に与える影響を理解するための基礎を提供します。

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、通常、ジストロフィン遺伝子のアウトオブフレーム変異によって引き起こされ、この変異により機能的なジストロフィンタンパク質が全く、またはほとんど生成されないことが一般的な原因です。しかし、稀に「インフレーム欠失」が原因でデュシェンヌ型筋ジストロフィーの症状を引き起こすケースが存在します。これを理解するには、ジストロフィンタンパク質の構造と機能、およびインフレーム変異がタンパク質に与える影響についての深い知識が必要です。

●インフレーム欠失によるDMD
インフレーム変異は、ジストロフィン遺伝子内で3の倍数のヌクレオチドが欠失することで発生し、この欠失により一部のアミノ酸がタンパク質から欠けますが、リーディングフレーム自体は維持されるため、タンパク質の合成は完了します。理論上、このタイプの変異では、短縮されたがある程度機能するジストロフィンタンパク質が生成される可能性があり、これは通常、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)と関連しています。

しかし、ジストロフィンタンパク質の特定の重要な領域にインフレーム欠失が発生した場合、その欠失がタンパク質の重要な機能領域を破壊することによって、タンパク質の機能が大幅に低下または失われ、DMDに類似したより重篤な症状を引き起こす可能性があります。たとえば、ジストロフィンの中心領域やC末端領域が正常に機能するために必須のドメインを含んでいる場合、これらの領域の構造や配置に影響を与えるインフレーム欠失は、筋肉細胞の膜の安定性を保つジストロフィンの能力を損なう可能性があります。

●診断上の課題
このように、インフレーム変異がデュシェンヌ型筋ジストロフィーを引き起こす可能性があるという事実は、診断上の課題を生じさせます。DMDとBMDの間には明確な遺伝的基盤の違いがありますが、インフレーム変異が両方の疾患の症状を引き起こす可能性があるため、遺伝子レベルでの詳細な解析と臨床的評価を組み合わせて、正確な診断を下す必要があります。

このようなケースは比較的稀ですが、遺伝子変異がタンパク質の機能に与える影響の複雑さと、それが臨床的表現型にどのように影響するかを理解する上で非常に重要な例となっています。

in frameとout of frameが疾患に与える影響

疾患の文脈で「in frame」変異と「out of frame」変異の違いをさらに詳しく説明するために、異なる疾患例を考えてみましょう。ここでは、遺伝性の血液疾患であるβ-サラセミアと鎌状赤血球症を例にとります。

● β-サラセミア
β-サラセミアは、βグロビン遺伝子の変異によって引き起こされる血液疾患で、ヘモグロビンの異常が原因で起こります。特定の「out of frame」変異がβグロビン遺伝子で発生すると、ヘモグロビンβ鎖の正常な合成が阻害されます。これは、フレームシフト変異によって生じるプレマチュアなストップコドンが原因で、非常に短いかまたは機能しないβグロビンが生成され、結果として重度の貧血を引き起こします。

● 鎌状赤血球症
一方、シクルセル病は、βグロビン遺伝子における単一のヌクレオチドの置換によって生じます。この変異は「in frame」であり、タンパク質の読み取りフレームを変更しませんが、1つのアミノ酸の置き換え(グルタミン酸からバリンへの置換)によってヘモグロビンの物理的特性が変わります。このアミノ酸の変化は、赤血球が特徴的な「シクル」(鎌)形をとる原因となり、血管の詰まりや痛み、貧血などの症状を引き起こします。

● 疾患への影響
これらの疾患例は、「in frame」変異と「out of frame」変異がどのように異なる生物学的影響を及ぼすかを示しています。β-サラセミアの場合、「out of frame」変異はタンパク質の合成を早期に終了させ、機能しないタンパク質を生じさせることで疾患を引き起こします。一方で、鎌状赤血球症の「in frame」変異はタンパク質の読み取りフレームを変えず、特定のアミノ酸の置換が疾患の原因となります。

これらの例からわかるように、「in frame」と「out of frame」の変異は、タンパク質の生産と機能に異なる影響を与え、それぞれが独自の臨床的表現をもたらします。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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