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高プロリン血症II型(Hyperprolinemia Type II)とは?原因・症状・診断・治療をわかりやすく解説


高プロリン血症II型(Hyperprolinemia Type II)

最終更新日:2026年4月27日 | 監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

「なぜこの子はこんなに発作が多いのだろう」「自閉症と言われたが、何かほかに原因があるのではないか」——難治性のてんかん、言葉の遅れ、自閉症に似た行動が重なるとき、その背景にプロリンという小さなアミノ酸の代謝異常が潜んでいる可能性があることを、ご存知でしょうか。

高プロリン血症II型(Hyperprolinemia Type II:HPII)は、ALDH4A1遺伝子の変異によって特定の酵素(P5Cデヒドロゲナーゼ)が機能しなくなり、体内にP5C(Δ1-ピロリン-5-カルボン酸)という中間代謝物が大量に蓄積する超希少な先天性代謝疾患です。蓄積したP5Cはビタミン B6の活性型(PLP)を化学的に捕捉して不活性化し、脳内の抑制性神経伝達物質GABAの合成を阻害することで、広範な神経・精神症状を引き起こします。

世界での発生頻度は約70万人に1人とされ、日本での確定症例はこれまでわずか1例という、極めて稀な疾患です。このページでは、原因・症状・診断・治療について、遺伝の専門家の視点からわかりやすく解説します。

高プロリン血症II型とは

高プロリン血症II型(Hyperprolinemia Type II:HPII)は、プロリンというアミノ酸の分解(異化)が途中で止まってしまうことで発症する、常染色体潜性(劣性)遺伝の先天性代謝異常症です。国際疾患データベースOMIMでは #239510 として登録されています。

体内では通常、プロリンは2段階の酵素反応を経てグルタミン酸という別のアミノ酸に変換されます。HPIIでは、この第2段階を担う酵素「P5Cデヒドロゲナーゼ(P5CDh)」が遺伝子変異により機能しないため、変換できなかったP5Cという物質が血液・組織に大量に蓄積します。

📌 疾患情報

正式名称:Hyperprolinemia Type II(高プロリン血症II型)
OMIM:#239510 Orphanet:79101
遺伝形式:常染色体潜性(劣性)遺伝
責任遺伝子:ALDH4A1(第1染色体 1p36.13)
欠損酵素:Δ1-ピロリン-5-カルボン酸デヒドロゲナーゼ(P5CDh)

高プロリン血症にはI型(HPI)II型(HPII)の2種類があります。I型では第1段階の酵素(プロリンオキシダーゼ/PRODH)が欠損し、プロリンのみが蓄積します。II型は第2段階の酵素の欠損であり、プロリンとP5Cの両方が蓄積する点が決定的な違いです。このP5Cの蓄積がビタミンB6を不活性化し、重篤な神経症状の引き金となります(詳細は後述)。

プロリン代謝経路と発症メカニズム

HPIIを理解するうえで、プロリンがどのように体内で分解されるかをまず知っておくと助けになります。

🔬 プロリン分解経路(ミトコンドリア内)

プロリン(Proline)
① PRODH(プロリンオキシダーゼ)
PRODH遺伝子 / 第22染色体
⚠ ここが止まる = 高プロリン血症 I型(HPI)

P5C(Δ1-ピロリン-5-カルボン酸)
② P5CDh(P5Cデヒドロゲナーゼ)
ALDH4A1遺伝子 / 第1染色体
🚫 ここが止まる = 高プロリン血症 II型(HPII) ← 本ページの対象

グルタミン酸(Glutamic acid)

HPIIでは② の酵素が欠損するため、P5Cが大量に血中・組織に蓄積します。

P5Cが引き起こす「ビタミンB6の機能的枯渇」

P5Cが血液・脳に蓄積すると、単純な代謝の停滞にとどまらず、連鎖的な化学反応が始まります。

🔑 専門用語解説:P5C(Δ1-ピロリン-5-カルボン酸)

プロリンが第1ステップで酸化されたときに生じる中間代謝物。通常はすぐに第2ステップ(P5CDh)でグルタミン酸へ変換されます。HPIIでは第2ステップが機能しないため、P5Cが血液・尿・組織に大量に蓄積し、強い化学的反応性によって周囲の重要な分子に悪影響を与えます。

🔑 専門用語解説:PLP(ピリドキサールリン酸)

ビタミンB6の生物学的活性型。脳内で神経伝達物質を作るために欠かせない補酵素です。特にグルタミン酸(興奮性)をGABA(抑制性)に変換する酵素(グルタミン酸デカルボキシラーゼ:GAD)の働きに必須です。食事からビタミンB6を十分とっていても、P5Cによって次々と不活性化されてしまうのがHPIIの特徴です。

🔑 専門用語解説:クネーフェナーゲル縮合(Knoevenagel Condensation)

P5CとPLPが自発的に結合して「P5C-PLP付加物」を形成する化学反応。この結合は不可逆的(元に戻らない)であり、一度結合するとPLPは補酵素としての機能を完全に失います。栄養状態が正常でも、蓄積したP5Cが次々とPLPを捕捉・無力化するため、脳内で慢性的な「機能的ビタミンB6欠乏状態」が作り出されます。

🔑 専門用語解説:GABA(γアミノ酪酸)

脳内の主要な抑制性神経伝達物質。神経細胞の過剰な興奮を抑える「ブレーキ」の役割を担います。GABAを作る酵素(GAD)はPLPを補酵素として必要とするため、PLPが枯渇するとGABAが不足し、脳内の興奮と抑制のバランスが崩れてけいれん(てんかん発作)が起こりやすくなります。

以上をまとめると、HPIIの神経症状は次の連鎖で起きています。

P5C蓄積

PLP(ビタミンB6活性型)を化学的に捕捉・不活性化

GAD(GABA合成酵素)が機能不全

GABA不足 → 難治性けいれん・神経症状

この病態カスケードは、なぜHPIIのけいれんが通常の抗てんかん薬に反応しにくく、大量のビタミンB6補充によってのみ改善するかを完璧に説明しています。

🔍 関連記事: 原因遺伝子の詳細は ALDH4A1遺伝子ページ をご参照ください。また、アルデヒドデヒドロゲナーゼファミリーについては アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)とは、ALDH4A1が属する遺伝子グループについては miRNA protein-coding host genes もご参照ください。

院長コラム

P5CがビタミンB6を「罠にかける」仕組みについて

仲田洋美院長

P5CとPLPが結合する「クネーフェナーゲル縮合」という反応は、有機化学の教科書に出てくる反応ですが、まさか生体内でこのような形で問題を引き起こすとは、発見当初は驚きをもって受け入れられました。この反応は一度起きると元に戻りません。どんなに食事でビタミンB6を補っても、P5Cが体内で作られ続ける限り、PLPは次々と使いものにならなくさせられてしまう——これがHPIIの厄介さです。

この事実は、治療においても重要な示唆を与えます。ビタミンB6を「補給しては奪われる」というイタチごっこになるため、消費量を上回る大量のビタミンB6補充が必要になります。また、なぜ一般的な抗てんかん薬がほとんど効かないのか、その理由もここにあります。発作の「本当の原因」がチャネルや膜電位の異常ではなく、神経伝達物質の材料不足にあるからです。

遺伝形式と家族への影響

常染色体潜性(劣性)遺伝

🔑 専門用語解説:常染色体潜性(劣性)遺伝

2本ある染色体の両方に変異があるときだけ発症する遺伝形式。両親はそれぞれ1本ずつ変異した遺伝子を持つ「保因者(キャリア)」ですが、もう1本が正常なため本人は無症状です。この両親の間に生まれる子どもは:発症(変異2本)25%/保因者(変異1本)50%/非保因者(正常2本)25% の確率になります。

HPIIは常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとります。両親がともにALDH4A1遺伝子の変異を1本ずつ持つ保因者である場合、子どもに疾患が発症する確率は4人に1人(25%)です。保因者の両親は通常、全く症状を示しません。

不完全浸透と表現型の多様性

🔑 専門用語解説:不完全浸透(Incomplete Penetrance)

同じ遺伝子変異を持っていても、全員が同じ症状を示すわけではない現象。HPIIでは全く同じALDH4A1変異をホモ接合体で持つきょうだいの間で、一方が重篤なてんかんと知的障害を持ち、もう一方が生涯無症状というケースが多数報告されています。遺伝子だけでなく、環境因子・修飾遺伝子・感染症などのトリガーが症状の発現に大きく影響します。

HPIIは遺伝学的に非常に興味深い疾患で、「同じ変異を持っていても症状に大きな差がある」ことが知られています。完全に無症状のまま一生を過ごす人がいる一方で、乳幼児期から重篤なてんかんや知的障害を示す人もいます。この不完全浸透の性質が、診断の難しさにもつながっています。

🔍 関連記事: 常染色体潜性遺伝の疾患ではパートナーの保因者検査が重要です。キャリア(保因者)スクリーニングとは米国人類遺伝学会(ACMG)の推奨内容 もご参照ください。

高プロリン血症 I型とII型の違い

診断において最も重要な鑑別は、P5Cが蓄積しているかどうかです。

比較項目 高プロリン血症 I型(HPI) 高プロリン血症 II型(HPII)
原因遺伝子 PRODH遺伝子(22番染色体) ALDH4A1遺伝子(1番染色体)
欠損酵素 プロリンオキシダーゼ(PRODH) P5Cデヒドロゲナーゼ(P5CDh)
血中プロリン濃度 正常値の3〜10倍程度 正常値の10〜15倍以上(1,500 µmol/L以上)
P5Cの蓄積 ★最大の鑑別点 なし(P5Cが生成される手前で止まるため) あり(血中・尿中に大量蓄積)
ビタミンB6への影響 ほぼなし PLPを化学的に不活性化(機能的B6欠乏)
臨床的重症度 比較的軽度。多くは無症状。統合失調症リスク上昇が報告される より重篤。難治性けいれん・知的障害・ASD様行動・精神症状のリスク高
主な治療 対症療法中心 大量ビタミンB6補充療法が有効

症状のスペクトラム:多様な神経・精神症状

HPIIの症状は非常に幅広く、Human Phenotype Ontology(HPO)データベースでは約40種類の関連症状が記録されています。症状が出る時期も、出生前から乳幼児期・小児期・成人期まで生涯のあらゆる段階にわたります。

① 難治性てんかん・けいれん発作

小児期において最も目立つ症状です。発作の形態は多様で、突然力が抜ける脱力発作(アトニー発作)、ぼーっとする欠神発作(小発作)、全身が硬直する全般発作、さらには命に関わるてんかん重積状態なども起こりえます。

⚠ HPIIのけいれんの重要な特徴:
発熱やインフルエンザなどのウイルス感染が引き金となって急激に発作が誘発されやすいことが知られています。これは、感染による代謝ストレスが、P5Cによってすでに低下しているGABA合成能の限界を超えるためと考えられています。

② 広汎性発達遅滞・認知機能障害

乳幼児期から、軽度〜重度の広汎性発達遅滞(Global Developmental Delay)が現れることがあります。粗大運動(歩行など)は保たれることもありますが、ボタンを留めるなどの微細運動に遅れが目立ちます。言語発達の遅れも特徴的で、まったく言葉が出ない、または他者の言葉を意味なく繰り返すエコラリア(反響言語)が見られることもあります。また、2歳半頃などに一度獲得した社会的スキルが失われる「発達の退行」を示すケースも報告されています。

③ 自閉スペクトラム症(ASD)様の行動

アイコンタクトの欠如、他者への関心の低下、繰り返し行動など、自閉スペクトラム症(ASD)の診断基準を満たすような行動パターンが幼児期から見られることがあります。これはP5Cの蓄積による中枢神経系の代謝的調節不全が、ASD様の神経行動プロファイルを生み出していると解釈されています。

④ 精神医学的合併症

学童期から青年期にかけて、より複雑な精神症状が現れることがあります。攻撃的な行動、過度な不安、慢性的なうつ状態に加え、幻覚や統合失調症に似た症状を呈するリスクが有意に高いことが複数の研究で報告されています。これらは痙攣の有無やビタミンB6治療の効果とは独立して進行することが多く、HPIIが痙攣性疾患にとどまらない広範な脳機能障害であることを示しています。

⑤ 非典型症状と成人発症例

HPIIは必ずしも小児期に発症するわけではありません。2006年に報告された52歳女性の症例では、突発的な嚥下障害・眼球運動障害・手足のしびれを主訴に受診し、当初は「ミラー・フィッシャー症候群(免疫性神経疾患)」と診断されましたが、精査によってHPIIの非典型的な成人発症であることが判明しました。このような例は、成人の神経内科においても代謝異常症を鑑別から外せないことを示しています。

🔍 関連記事: 難治性てんかんや知的障害の遺伝的背景を調べる検査として、てんかん総合遺伝子検査パネル知的障害・発達遅滞の遺伝子検査新生児てんかんNGSパネル をご参照ください。

日本における疫学と特殊事情

HPIIは世界的に見ても超希少な疾患であり、正確な有病率はいまだ確立されていません。オランダで行われた18年間・約21,000件の尿中有機酸スクリーニングデータの解析では、HPIIの累積発生率は約70万人に1人と推定されています。

日本国内では、全国規模のアンケート調査および文献的考察において、確認されたHPII症例はわずか1例のみです(HPI は2例)。

🇯🇵 日本の1例から見えてくること:インフルエンザ脳症との関連

日本の唯一の症例は、インフルエンザウイルス感染を契機として重篤な急性脳症(インフルエンザ関連脳症)を発症した患者から、事後のスクリーニングによって発見・診断されました。
これは重要な示唆を与えます。ALDH4A1変異によるP5Cの潜在的蓄積がGABA合成能を慢性的に低下させており、発熱やインフルエンザ感染という代謝的ストレスが引き金となって爆発的な神経過興奮を引き起こし、重篤な脳症に至った可能性があります。
原因不明の重症感染関連脳症の背後には、未診断の代謝異常症が潜んでいる可能性があり、ICUにおける代謝スクリーニングの重要性を改めて示す症例です。

また、診断に至るまでに長い時間がかかること(「Diagnostic Odyssey(診断の長い旅)」)も大きな問題です。患者と家族が正しい診断を得るまでに平均6年以上を要するとも言われており、非特異的な神経症状から代謝異常症を疑うことの難しさを反映しています。

院長コラム

「非特異的な神経症状」の裏に代謝異常を疑うタイミング

仲田洋美院長

「発達遅滞」「自閉症」「難治性てんかん」は、それぞれ単独でも頻繁に見られる症状です。しかしこれらが組み合わさり、特に通常の抗てんかん薬が効かない、感染を契機に急激に悪化するといった特徴があるとき、私はまず先天性代謝異常症を鑑別に挙げます。HPIIはその一つです。

一般の小児科外来でこの疾患を疑うのは確かに難しい。しかし、血液・尿のアミノ酸分析は比較的容易に行える検査です。「原因不明の難治性てんかん+発達遅滞」の組み合わせを見たとき、ぜひ血漿アミノ酸分析とあわせてP5Cのスクリーニングを検討していただきたいと思います。早期診断がビタミンB6大量補充につながり、発作コントロールを劇的に改善できる可能性があるからです。

診断の進め方

HPIIの診断は多角的なアプローチが必要です。大学病院や専門施設の多職種チームが連携して進めます。

STEP 1:代謝スクリーニング(血液・尿検査)

① 血漿アミノ酸分析
血中プロリン濃度が正常の10〜15倍(例:2,120 µmol/Lなど)に達していることを確認します。

② 尿中有機酸・アミノ酸分析
尿中に「プロリン・ヒドロキシプロリン・グリシン」が過剰排泄されるイミノグリシン尿症の確認。

③ P5Cおよび誘導体の検出(最重要)
血漿または尿中のP5C高濃度を証明。GC-MS等の高精度分析装置を用います。近年では「アセト酢酸-P5C付加物」などの新規バイオマーカーが診断精度を高めています。

🔑 専門用語解説:イミノグリシン尿症(Iminoglycinuria)

血中プロリンが異常に増加すると、腎臓の近位尿細管でプロリン・ヒドロキシプロリン・グリシンが共有するトランスポーターがプロリンで飽和し、他の2つが再吸収されず尿中に漏れ出す現象。腎臓自体には異常はなく、血中アミノ酸の不均衡が二次的に引き起こす「オーバーフロー型」の所見です。HPIIを強く示唆する重要な診断サインです。

STEP 2:酵素活性アッセイ

患者の白血球や皮膚生検から得た培養線維芽細胞を使って、P5Cデヒドロゲナーゼ(P5CDh)の酵素活性を直接測定します。HPIIでは活性が著しく低下または消失しています。

STEP 3:遺伝子診断(確定診断)

全エクソームシーケンス(WES)や代謝疾患・てんかん用ターゲット遺伝子パネルを用いて、ALDH4A1遺伝子の配列を解析します。代表的な病的バリアントとして、G521fs(+1)(フレームシフト変異)やS352L(ミスセンス変異)などが知られています。遺伝子診断は確定診断だけでなく、家族のキャリアスクリーニングや将来の妊娠に向けた遺伝カウンセリングにも重要な情報を提供します。

🔍 関連記事: 遺伝子検査については 核・ミトコンドリアNGS遺伝子検査代謝疾患NGSパネル をご参照ください。また、ALDH4A1を含む遺伝子一覧は 遺伝子リスト(A) でご確認いただけます。

治療と長期管理

現時点では、根本的に欠損した酵素を補う酵素補充療法や遺伝子治療はまだ存在しません。治療の中心は症状を抑える対症療法と、急性増悪を防ぐ予防的管理です。

① ビタミンB6(ピリドキシン)大量補充療法

HPIIにおける最も重要かつ効果的な治療法です。通常の抗てんかん薬(ナトリウムチャネルブロッカー等)はHPIIのけいれんには効きにくく、大量のビタミンB6補充が第一選択となります。

💊 推奨用量(国際PDE コンソーシアム ガイドライン)

30 mg/kg/日(最大500 mg/日)
外因的に補充することで、P5Cに次々と奪われるPLPの喪失分を補い、脳内のGAD(GABA合成酵素)が機能するための補酵素プールを維持します。多くの症例で発作の抑制・再発防止に高い有効性を示します。

⚠ 限界もあります: ビタミンB6療法はけいれんのコントロールには有効ですが、すでに生じた認知機能障害やASD様行動への改善効果は証明されていません。P5Cの毒性がPLPの枯渇以外の経路でも神経へのダメージを与えている可能性が示唆されています。

② 食事療法について

フェニルケトン尿症(PKU)などの代謝異常症ではアミノ酸制限食が有効ですが、HPIIではプロリン制限食はほとんど意味がありません。プロリンは非必須アミノ酸であり、体内(腸・肝臓)でグルタミン酸などから内因性に合成されるため、食事制限だけでは血漿プロリンレベルを十分に下げることができません。

③ 抗酸化療法の可能性

動物モデルでは、P5Cの蓄積が中枢神経系で活性酸素種(ROS)による酸化ストレスを引き起こし、ミトコンドリア機能をさらに低下させることが示されています。これに対し、一部の専門家はグルタチオン・高用量ビタミンE・ビタミンCなどの抗酸化物質の早期導入を推奨していますが、ヒトでの長期的有効性の証明にはさらなる臨床試験が必要です。

④ 発熱時・感染時の緊急対応プロトコル

🚨 家族が知っておくべき緊急対応

  • 発熱時はすぐに医療機関に連絡し、あらかじめ策定した「Sick-day protocol(発熱時対応計画)」を発動する
  • 痙攣の初期サインを家族全員が把握しておく
  • 緊急時のビタミンB6追加投与および抗てんかん薬の静脈内投与のプロトコルを主治医と共有しておく
  • インフルエンザワクチン接種などの感染予防を徹底する

⑤ 長期的なモニタリングと多職種連携

小児期は理学療法・作業療法・言語聴覚療法などの早期療育を遅れなく導入します。青年期以降は不安・幻覚・行動の急激な変化などの精神症状に注意し、精神科医と連携した心理的サポートと必要に応じた薬物療法を検討します。小児科医・神経内科医(てんかん専門医)・臨床遺伝専門医・代謝専門医が連携した多職種チーム体制が最良のケアの基盤となります。

🔍 関連記事: 常染色体潜性遺伝疾患の再発リスクが心配な方へ。妊娠前遺伝子検査女性の拡張型キャリアスクリーニング男性の拡張型キャリアスクリーニング もご参照ください。

よくある質問(FAQ)

Q 高プロリン血症II型はどのくらい稀な病気ですか?
世界での発生頻度は約70万人に1人と推定されており、「超希少疾患(Ultra-rare disease)」に分類されます。日本での確定症例はこれまでわずか1例のみです。症状を持ちながら診断がついていないケースや、無症状のまま一生を過ごす人も一定数いると考えられており、実際の数はもう少し多い可能性があります。
Q 子どもに難治性てんかんがあります。HPIIを疑うべきですか?
通常の抗てんかん薬が効きにくく、発達遅滞や自閉症様の行動が重なる場合は、代謝異常症のスクリーニングを検討する価値があります。特に、発熱や感染を契機に急激に発作が起きる血漿アミノ酸分析でプロリンが著明に上昇している尿でイミノグリシン尿症が確認されるといった所見があれば、HPIIを疑う根拠になります。臨床遺伝専門医や代謝専門医への相談をお勧めします。
Q ビタミンB6で本当にけいれんが止まるのですか?
多くの症例で、大量のビタミンB6(ピリドキシン)補充によって発作が劇的に改善することが報告されています。これはHPIIの病態(P5CによるPLP不活性化→GABA合成低下→けいれん)を直接補う治療法だからです。ただし、すでに生じた認知機能障害や行動面の問題へのビタミンB6の効果は限られており、早期診断・早期介入が重要です。また用量設定や長期管理は必ず専門医の指示のもとで行う必要があります。
Q プロリンを少なく食べれば症状が改善しますか?
残念ながら、プロリン制限食は有効ではありません。プロリンは非必須アミノ酸であるため、食事から摂取しなくても体内(腸・肝臓)でグルタミン酸などから自然に作られてしまいます。そのため食事制限で血漿プロリン濃度を下げることは難しく、主な治療はビタミンB6補充と症状の対症療法になります。
Q 親が保因者かどうか調べることはできますか?
はい、ALDH4A1遺伝子の変異をお持ちの患者さんの両親や兄弟姉妹は、遺伝子検査によって保因者(キャリア)かどうかを確認することが可能です。将来の妊娠を考えている場合は、パートナーとともにキャリアスクリーニングを受けることで、次の子どもへの遺伝リスクをより正確に把握できます。詳細は遺伝カウンセリング外来にご相談ください。
Q 将来、根本的な治療法は開発される可能性がありますか?
現在は対症療法が中心ですが、研究は進んでいます。新規バイオマーカー(アセト酢酸-P5C付加物など)の発見による早期診断精度の向上、P5Cによる酸化ストレスとミトコンドリア機能障害の分子メカニズムの解明が進むことで、将来的には酵素補充療法やCRISPR等を用いたALDH4A1遺伝子修復療法など、けいれんだけでなく認知・行動障害の根本的な改善をもたらす革新的な治療法の開発が期待されています。

参考文献・ガイドライン

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  3. MedlinePlus Genetics. Hyperprolinemia. medlineplus.gov/genetics/condition/hyperprolinemia/
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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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