この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

大人や思春期に始まったてんかんの多くは、遺伝子1つの変化だけで決まるものではありません。それでも、てんかんは家族の中に集まりやすいことがわかっていて、ご家族に同じ型のてんかんの人がいる、子どもの頃から発作がある、症状が少しずつ進む、といった場合には、遺伝子1つの変化が原因のこともあります。原因の遺伝子がわかれば、お子さんに遺伝する確率は「なんとなくの心配」から、根拠のある数字に変わります。このページでは、父親・母親から子どもに遺伝する確率の考え方と、思春期・成人発症てんかんに関わる84遺伝子を調べる遺伝子検査でわかること、結婚や妊娠との向き合い方を、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この遺伝子検査で何がわかりますか?
12歳を過ぎてから始まるてんかんに関わる84の遺伝子を、一度にまとめて調べます。家族性の焦点てんかん(夜間前頭葉てんかん・側頭葉てんかんなど)、全般てんかんに関わる遺伝子、大人で始まって進む病気(進行性ミオクローヌスてんかんなど)や代謝の病気の遺伝子が含まれます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
ご家族に同じようなてんかんの人がいる方、子どもの頃から発作がある方、発達の遅れや少しずつ進む症状がある方、薬が効きにくい方です。「てんかんは子どもに遺伝するのか」を知ってから、結婚や妊娠を考えたい方にも向いています。
🧬 Q. 費用・結果までの日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の粘膜のいずれかで、オンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因が見つかれば、ご家族の検査、お子さんに遺伝する確率、妊娠したときの出生前診断まで計画できます。大人で原因が見つかる割合は子どもより低く、陰性でも遺伝の影響は否定できないことも、あわせてご説明します。
1. 大人・思春期のてんかんは遺伝する?子どもに遺伝する確率
てんかんの多くは、遺伝子1つの変化で決まるものではありません。ただし家族に集まりやすい病気で、米国の住民研究では、てんかんの方の親・きょうだい・子どもが40歳までにてんかんを発症した割合は4.7%で、地域全体の1.3%の約3倍でした[1]。一方で、遺伝子1つの変化で起こる「家族性のてんかん」では、確率の考え方が大きく変わります。
てんかんは、脳の神経細胞が一時的に過剰に興奮して、発作をくり返す病気です。原因は、脳卒中・頭のけが・脳腫瘍・感染症などの「後から起きたこと」から、生まれ持った遺伝の要素まで、さまざまです。このページの検査が対象にしているのは、そのうちの「生まれ持った遺伝子の変化」です。
てんかんの多くは「遺伝子1つ」では決まらない
大人のてんかんで、遺伝子1つの変化が原因と特定される人は一部です。米国で遺伝子パネル検査を受けた成人2,008人を調べた研究では、原因となる遺伝子の変化が見つかったのは全体の10.9%でした。発作が始まった年齢別にみると、乳児期に始まった人では29.6%だったのに対し、思春期(11〜17歳)に始まった人では2.4%、大人(18歳以上)になってから始まった人では3.7%でした[2]。
つまり、思春期以降に始まったてんかんでは、遺伝子1つで説明できる人は多くありません。多くは、たくさんの遺伝子の小さな影響と、遺伝以外の要因が重なって起こると考えられています(遺伝形式でいう多因子遺伝)。それでも家族に集まりやすいのは、こうした小さな影響を家族で分け合っているためです。
👪 てんかんの方の家族が40歳までにてんかんを発症した割合(米国ミネソタ州の住民研究)
※1935〜1994年にてんかんを発症した660人と、その親・きょうだい・子ども2,439人を調べた研究[1]。集団の平均で、一人ひとりの確率ではありません。
同じ研究では、ご本人のてんかんの型によっても違いがありました。全般てんかん(脳の両側から同時に始まる発作のてんかん)の方の家族では、一般の人に比べた発症のしやすさが5.0倍、焦点てんかん(脳の一部から始まる発作のてんかん)の方の家族では2.1倍でした[1]。
父親から・母親から:子どもに遺伝する確率は違う?
同じ研究では、母親がてんかんの場合、子どもが40歳までにてんかんを発症した割合は5.39%、父親がてんかんの場合は1.94%で、父親の場合は一般の人と比べてはっきりした差がありませんでした[1]。ただし、この「母親のほうが高い」差は焦点てんかんの方に限られ、全般てんかんの方では、母親と父親で大きな差はみられませんでした[1]。
「父親から遺伝するのか、母親から遺伝するのか」は、とても多い質問です。上の数字は、遺伝子1つが原因と特定されていない人も含めた集団の平均です。原因の遺伝子がわかっている家族では、父親か母親かではなく、その遺伝子の遺伝のしかたで確率が決まります。
家族性のてんかんでは、確率がどう変わるか
遺伝子1つの変化で起こる家族性のてんかんの多くは、常染色体顕性(優性)遺伝です。お子さんがその変化を受け継ぐ確率は、1人ごとに2分の1です。ただし、受け継いでも発症しない人がいます。原因をもっていても発症しない人がいることを「浸透率が100%ではない」といいます。
🧬 思春期・大人で始まることの多い家族性のてんかんと、発症する人の割合(浸透率)
※浸透率はGeneReviews[3][4][5]による。LGI1の値は、報告された家系から推定したもので、実際より高く出ている可能性があるとされています。
たとえば睡眠関連過運動てんかんでは、親がもつ変化をお子さんが受け継ぐ確率は2分の1、発症する確率はそれに浸透率(約70%)をかけた約35%とされています[3]。DEPDC5関連てんかんでは、受け継いだお子さんの症状の型・始まる年齢・重さは正確には予測できないとされています[5]。同じ変化でも人によって症状が違うことを「表現型の多様性」といいます。
きょうだい・孫・いとこ・隔世遺伝
浸透率が100%でない病気では、親は発症していないのに子や孫が発症し、「隔世遺伝」のように見えることがあります。実際には、間の世代の人も変化をもっていて、たまたま発症しなかっただけ、ということがあります。
反対に、常染色体潜性(劣性)遺伝の病気(このパネルでは、進行性ミオクローヌスてんかんのラフォラ病や、多くの代謝の病気)では、両親はふつう症状のない保因者で、きょうだいが同じ病気になる確率は1人ごとに4分の1です[6]。いとこや孫への影響は、どの遺伝子のどんな変化かによって変わります。ご家族の誰かで原因がわかっていれば、ほかのご家族は同じ場所だけを調べて、自分がその変化をもっているかを確かめられます。
子どもの頃の熱性けいれんと遺伝の関係については、熱性けいれんと遺伝的要因で解説しています。
2. 思春期・成人発症てんかん遺伝子検査でわかること
この検査では、12歳を過ぎてから発作が始まるてんかんに関わる84の遺伝子を、次世代シークエンサーで一度にまとめて調べます。遺伝子を1つずつ順番に調べる方法と比べて、何度も検査を受け直さずに済みます。遺伝子検査(遺伝学的検査)の基本は、別のページで解説しています。
大人で原因が見つかる割合は、子どもより低い
正直にお伝えすると、思春期以降に始まったてんかんで、遺伝子検査で原因が見つかる人は多くありません。前の章で紹介した米国の研究では、思春期に始まった人で2.4%、大人になってから始まった人で3.7%でした[2]。
一方で、同じ研究では、知的障害や発達の遅れがある人では16.0%、薬が効きにくい人では13.5%で原因が見つかり、見つかった原因の半分あまり(55.5%)は、治療や管理の方針に結びつくものでした[2]。「大人だから調べても意味がない」のではなく、「どんな人なら見つかりやすいか」を知ったうえで受けるかどうかを決めることが大切です。
原因が見つかりやすい人
- ●ご家族に同じような発作の人がいる:睡眠関連過運動てんかんでは、原因の遺伝子が見つかった割合は、家族歴がある人で19%、ない人で7%でした[3]。
- ●子どもの頃から発作がある:発作が始まった年齢が若いほど、原因が見つかる割合が高くなります[2]。
- ●知的障害・発達の遅れがある、薬が効きにくい:上の研究で見つかる割合が高かった人です[2]。
- ●ぴくっとする動き(ミオクローヌス)や、物忘れ・ふらつきなどが少しずつ進む:大人で始まって進む病気(進行性ミオクローヌスてんかんや代謝の病気)を考えます。
このパネルが調べる病気のまとまり
84の遺伝子は、おおまかに次のまとまりに分けられます。一つひとつの遺伝子と病気は、第4章の表にまとめています。
🧩 思春期・成人発症てんかん遺伝子パネルの中身
※まとまりは理解しやすくするための目安です。遺伝子ごとの病名と遺伝のしかたは第4章の表をご覧ください。神経の興奮を調節するイオンチャネルの遺伝子の病気はチャネロパチー(イオンチャネル病)とも呼ばれます。
子どものうちに重い発作と発達の遅れが一緒に始まる型は、発達性てんかん性脳症(DEE)と呼ばれ、原因や調べる遺伝子が違います。この場合は、次の章の表を見て、より向いている検査を選びます。
3. どんな人が受けるとよいか(受けなくてよい場合)
12歳を過ぎてからてんかんが始まり、ご家族にてんかんの人がいる方、薬が効きにくい方、症状が進む方、そして結婚や妊娠の前に「子どもに遺伝するか」を知っておきたい方に向く検査です。妊娠の前に知っておけば、お子さんへの確率や、妊娠したときの出生前診断まで計画できます。
- ●12歳を過ぎてから初めて発作が起き、原因がわからないと言われた方
- ●親・きょうだい・子どもに、同じようなてんかんの人がいる方
- ●睡眠中の発作や、音が聞こえるような前ぶれのある発作など、家族性のてんかんに似た症状がある方
- ●2種類以上の薬でも発作がおさまらない方
- ●ぴくっとする動き・物忘れ・ふらつきなどが少しずつ進む方
- ●てんかんのある方やご家族で、結婚・妊娠の前に遺伝の可能性を知っておきたい方
発症年齢・型で選ぶ検査の表
てんかんの遺伝子検査は、発作が始まった年齢や型によって向いている検査が違います。比べる相手は検査の種類です。
🔍 てんかんの遺伝子検査の選び方
※遺伝子の数は2026年10月時点。どの検査が合うかは、症状・脳波・画像検査・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
親・きょうだいがてんかん:自分もなるかもしれないと不安な方へ
親やきょうだいがてんかんを発症して、「自分もいつか同じようになるのでは」という不安を抱えながら暮らしている方もいます。症状のない方の遺伝子検査でわかることは、ご家族の中で原因の遺伝子がわかっているかどうかで、大きく変わります。
ご家族の原因がわかっている場合:ご本人が同じ変化をもっているかを、その場所だけを調べて確かめられます[5]。受け継いでいないとわかれば、その変化によるてんかんについては、ご家族と同じ確率を心配しなくてよくなります。ただし、ほかの原因によるてんかんまで否定できるわけではありません。受け継いでいた場合も、浸透率が100%ではない病気では、発症しない人がいます(第1章の表)。受け継いでいるとわかった方には、主治医と相談しながら発作に気づいたときの備えをしておくことや、結婚・妊娠の計画(第6章)など、わかったうえでできることがあります。
ご家族の原因がわかっていない場合:症状のない方がこの検査を受けて陰性でも、「この84の遺伝子に、今の方法で見つかる変化がなかった」という意味にとどまり、将来てんかんにならないことの証明にはなりません。発症しているご家族が検査を受けられる場合は、まずご家族の原因を調べ、そのうえでご本人が同じ変化をもっているかを確かめる順番のほうが、得られる答えがはっきりすると考えています。
知らないでいることも、同じように大切な選択です。当院は、知りたいと願う方を拒むことはしません。検査を受けるかどうかは、遺伝カウンセリングで臨床遺伝専門医と時間をかけて考えたうえで決めていただき、結果をお伝えしたあとも、相談を続けていただけます。
この検査を受けなくてよい場合・別の検査が向く場合
脳卒中・頭のけが・脳腫瘍など、はっきりした原因が見つかっているてんかんでは、遺伝子検査でわかることは限られる、と私は考えています。また、日本に多い良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんは、遺伝子の中の繰り返し配列が長くなることで起こるため、この検査では見つかりません(第5章)。ふるえのようなぴくつきが家族に多い方は、遺伝カウンセリングでお知らせください。
4. 調べる84遺伝子と、わかる病気
この検査で調べる84の遺伝子と、それぞれの遺伝子が関係する主な病気、遺伝のしかたを一覧にしました。病名と遺伝のしかたは、遺伝性疾患のデータベースOMIMの登録にもとづいています。1つの遺伝子が複数の病気に関係していることもあります。
🧬 思春期・成人発症てんかん遺伝子パネルの84遺伝子
※病名と遺伝のしかたは、OMIMの遺伝子と病気の対応(NCBIの公開データ)と、Human Phenotype Ontologyの注釈(2026年9月版)で確かめました。1つの遺伝子に病気が多い場合は、てんかんや神経の症状に関わる主なものを載せています。「なりやすさ(感受性)」は、その遺伝子の変化だけで発症が決まるわけではないものです。
5. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、84の遺伝子の中の小さな変化(1文字の置き換わり、小さな挿入や欠失)と、遺伝子のまとまった部分がなくなる・増える変化(欠失・重複)です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
- ●繰り返し配列が長くなる変化(リピート伸長)は見つかりません:同じ文字の並びが何回もつながった部分が長くなる変化は、この検査の方法では検出できません。
- ●調べていない場所の変化:遺伝子の働きを調節する部分(プロモーター)や、遺伝子の中の読まない部分の深いところ(エクソンから20塩基より離れた場所)、染色体の一部が入れ替わる変化(転座・逆位)は対象外です。
- ●1つのエクソンだけの欠失・重複:欠失・重複は、遺伝子全体、または2つ以上続くエクソンの大きさのものを調べます。1つのエクソンだけの変化は、見つかることもありますが、ふだんは検出できません。
- ●体の一部の細胞だけの変化(モザイク):この検査は、モザイクを見つけるようには作られていません。
- ●84以外の遺伝子:てんかんに関わる遺伝子は、ほかにもたくさんあります。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、今はまだ判断できない変化が見つかることがあります。
見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。読み取りの質が十分でなかった部分は、サンガー法という別の読み方で補います。同じ遺伝子の複数の部分を何度も読み、読み取りの深さ(シーケンス深度)20回以上で、調べる範囲の99%以上を読み取れるように設計されています。
⚠️ 日本に多い「良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん」は、この検査では見つかりません
大人になってから、手のふるえのようなぴくつき(皮質振戦)と、ときどきの全身のけいれん発作が起こる良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんは、日本で最初に報告された病気です。2018年に、その原因がSAMD12という遺伝子の中の5塩基(TTTCA・TTTTA)の繰り返しが長くなることだと報告され、SAMD12にこの変化がなかった2家系では、TNRC6AやRAPGEF2という別の遺伝子の中に同じような繰り返しの伸長が見つかりました[7]。難病情報センターによると、日本ではSAMD12によるものが最も多いとされています(2026年10月時点で確認)。リピート伸長はこの検査では検出できないため、この病気を疑うときは別の検査を考えます。
陰性でも、遺伝の影響は否定できません。原因が見つからなかったという結果は、「この84の遺伝子に、今の方法で見つかる変化がなかった」という意味です。第1章のとおり、大人のてんかんの多くは遺伝子1つでは説明できないため、陰性でもご家族に遺伝の影響がないとは言い切れません。
調べた目的とは別の病気の原因が見つかること(二次的所見)の扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。
6. 病的変異が見つかったら、次にできること
原因の遺伝子がわかることは、ゴールではなくスタートです。わかったことをもとに、ご本人の治療の選び方、ご家族の検査、お子さんを持つときの計画まで、具体的に考えられるようになります。結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。
ご本人:薬の選び方・避けたい薬・見張りたいこと
原因がわかると、その病気について報告されている治療の経験を、主治医が薬選びの参考にできます。たとえば次のような報告があります。薬を変えるかどうかは、必ず主治医・てんかんの専門医と相談して決めてください(当院では、てんかんの治療や薬の処方は行っていません)。
💊 原因がわかると、治療や見張り方の参考になる例
※いずれも遺伝性疾患の解説書GeneReviewsにもとづく。一人ひとりの治療は主治医が決めます。
見張るべき合併症がわかることもあります。たとえばSCN5Aは心臓のリズムの病気(ブルガダ症候群など)に、COL4A1やNOTCH3は脳の小さな血管の病気に関わる遺伝子です。どの科で何を調べるとよいかも、遺伝カウンセリングでご説明します。
症状のないご家族:親・きょうだいが調べられること
ご家族の中で原因がわかると、ほかのご家族は、同じ場所だけを調べて、自分がその変化をもっているかを確かめられます[5]。あなたの1回の検査が、ご両親・きょうだい・お子さんが自分の状態を知る手がかりになります。症状のないご家族の検査は、ご本人の同意のうえで行い、検査の前に遺伝カウンセリングで、知ることの意味をよく考えていただきます。
浸透率が100%ではない病気では、変化をもっていても発症しないご家族がいます。反対に、ご両親とも変化をもっていなかった場合は、ご本人に新しく起きた変化(新生突然変異)と考えられます。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。
ただし、ご両親の血液に変化が見つからなくても、卵子や精子のもとになる細胞にだけ変化がある「性腺モザイク」のことがあります。変化をもつ生殖細胞からできる卵子・精子は2分の1の確率で変化を受け継ぎます。生殖細胞のうちどれくらいが変化をもつかは実際の診療では調べられないため、お子さん1人あたりの確率は『最大で2分の1』とお伝えしています。
子どもを持つときの選択肢
原因の遺伝子がわかっていれば、子どもを持つときの選択肢を、知ったうえで選べます。常染色体顕性の病気ならお子さん1人ごとに2分の1、常染色体潜性の病気ならご夫婦とも保因者の場合に4分の1の確率で、お子さんに受け継がれます。
- ●自然に妊娠して、出生前診断を受ける:ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。その病気で出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断しますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。(羊水検査・絨毛検査)
- ●NIPTで調べられる遺伝子もあります:このパネルの遺伝子のうち、BRAFとGLI3はダイヤモンドプランで、ATP1A2・BRAF・CACNA1A・CASK・COL4A1・FLNA・GABRA1・GFAP・NF1・PURA・SMARCA2はインペリアルプランで、赤ちゃんに新しく起きた変化を当院のNIPTで調べられます。当院のNIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。陽性なら、確定検査(羊水検査・絨毛検査)を院内で受けられます。
- ●パートナーの保因者検査:常染色体潜性の病気(ラフォラ病や多くの代謝の病気)では、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかで、お子さんへの確率が変わります。拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子・男性版714遺伝子ほか)の対象かどうかは、遺伝子一覧でご確認ください。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」(女性787遺伝子・男性714遺伝子、単独では受けられません)もあります。
- ●着床前検査(PGT-M):日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-Mが行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-Mを考えている方へで解説しています。
- ●何もしないで産む:出生前に調べないことも、そのまま選べる選択肢です。どの選択も尊重します。
陰性・VUSのとき
原因が見つからなかった場合は、発作の型や症状に合わせて、てんかん包括的遺伝子検査や全エクソーム検査など、次の検査を考えます。研究が進めば、新しい原因遺伝子が見つかることもあります。VUSが見つかった場合は、それだけで診断や、ご家族の発症予測には使いません。ただし、その変化の意味を調べるために、ご本人の同意のもとでご家族の検査を検討することがあります。のちの研究で意味がはっきりすることもあります。
結果の報告書(日本語・英語)
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
7. てんかんと結婚・妊娠・出産
てんかんがあることは、結婚できない理由にはなりません。子どもに遺伝するかどうかは、てんかんの型と原因によって大きく違い、調べればわかることがあります。「てんかんがあると結婚を反対される」「破談になった」「結婚して後悔した」と検索する方が多いのは、多くの人が遺伝の確率を正確に知らないまま、不安だけが先に立っているからだと私は考えています。
てんかんは結婚できない理由になる?(結婚に反対されたとき)
第1章でご紹介したように、遺伝子1つが原因と特定されていない人も含めた集団の研究では、てんかんの方のお子さんが40歳までにてんかんを発症した割合は3.9%でした(地域全体では1.3%)[1]。多くのお子さんは、てんかんにならないということです。ただし、遺伝子1つの変化で起こる家族性のてんかんでは、確率はもっと高くなります。
結婚に反対されたとき、反対するご家族の多くは、病気そのものよりも「わからないこと」に不安を感じています。原因の遺伝子がわかっている場合も、わからない場合も、ご本人とパートナーが、確かめられる事実をもとに話し合えることが大切です。結婚前に考えたい遺伝性疾患のリスクもあわせてご覧ください。
結婚相手やご家族に伝えるとき:わかっていることを事実で
お子さんへの確率は、てんかんの型・ご家族の中の発症のしかた・原因の遺伝子の有無で変わります。遺伝カウンセリングでは、ご家族の情報をうかがったうえで、今わかっている範囲の確率をお伝えします。常染色体潜性の病気が原因の場合は、パートナーの保因者検査で、お子さんへの確率をさらに具体的にできます。ご希望があれば、パートナーと一緒に遺伝カウンセリングを受けていただけます。
てんかんのある女性の妊娠と薬(バルプロ酸・葉酸)
てんかんの薬の中には、妊娠中に飲むと赤ちゃんの先天的な病気(大きな奇形)が増えるものがあります。とくにバルプロ酸は、ほかの薬より高いことがわかっています。欧州などの国際的な登録研究(EURAP)では、妊娠したときに1種類の薬だけを飲んでいた7,355件の妊娠を調べ、赤ちゃんに大きな奇形があった割合は次のとおりでした[8]。
🤰 妊娠時に飲んでいた薬と、赤ちゃんの大きな奇形の割合(EURAP)
※Tomson T, et al. Lancet Neurol 2018[8]。バルプロ酸・カルバマゼピン・ラモトリギン・フェノバルビタールでは、飲む量が多いほど割合が高くなっていました。トピラマートとフェニトインは件数が少ないため、慎重に解釈するよう書かれています。
妊娠に気づいても、自己判断で薬をやめたり減らしたりしないでください。発作が増えることは、お母さんにも赤ちゃんにも危険です。妊娠を考えたら、できれば妊娠の前に、主治医と薬の種類や量、葉酸のとり方について相談してください(当院では薬の調整は行っていません)。バルプロ酸と赤ちゃんの関係は胎児バルプロ酸症候群で解説しています。
お父さんがてんかんの場合
第1章の研究では、父親がてんかんの場合、子どもが40歳までにてんかんを発症した割合は1.94%で、一般の人と比べてはっきりした差はありませんでした[1]。ただし、遺伝子1つの変化が原因の家族性のてんかんでは、父親から受け継ぐ確率も母親から受け継ぐ確率も同じです(常染色体顕性なら2分の1)。「父親だから大丈夫」と決めず、原因がわかるかどうかを確かめてから考えることをおすすめします。
8. 日本の制度(2026年10月時点)
このパネルで調べる病気のうち、ラフォラ病は、指定難病309「進行性ミオクローヌスてんかん」に含まれています。難病情報センターの進行性ミオクローヌスてんかんのページ(情報更新日:令和7年10月)では、ウンフェルリヒト・ルンドボルグ病、ラフォラ病、良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんが含まれる病気として挙げられています(2026年10月時点で確認)。
医療費の助成を受けるには、診断基準と重症度の基準を満たし、申請する必要があります。そのほかの病気が制度の対象になるかは、病名ごとに難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の粘膜のいずれかで、オンライン診療でも受けられます。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取血液・唾液・頬の粘膜
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える品質を保つため、キットが届く前にご自身で検体を採取しないでください。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【結婚するか、子どもを持つかを、知ってから選ぶ】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。てんかんがある方にとって、その選択の前に立ちはだかるのは、病気そのものより「子どもに遺伝するかもしれない」というわからなさであることが多いと考えています。知ってから決めるのと、知らずに決めるのとでは、同じ選択でも意味が違います。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。たとえば、家族歴が濃いものの、ご本人は大学を卒業して会社に勤めていた方が念のため検査を受けたところ、染色体の微小欠失が見つかったことがあります。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
一方で、大人になってから始まったてんかんでは、遺伝子検査で原因が見つかる人は多くありません。それでも、見つかれば治療やご家族の計画が具体的になり、見つからなければ「遺伝子1つの病気は、今わかる範囲では見つからなかった」という事実が、次に考える土台になります。わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. てんかんは遺伝しますか?
てんかんの多くは、遺伝子1つの変化で決まるものではありません。ただし家族に集まりやすく、米国の住民研究では、てんかんの方の親・きょうだい・子どもが40歳までにてんかんを発症した割合は4.7%で、地域全体の1.3%の約3倍でした。遺伝子1つの変化で起こる家族性のてんかんもあり、その場合は遺伝子検査で原因がわかることがあります。
Q2. 父親がてんかんだと、子どもに遺伝する確率はどれくらいですか?
米国の住民研究では、父親がてんかんの場合、子どもが40歳までにてんかんを発症した割合は1.94%で、一般の人と比べてはっきりした差はありませんでした。ただし、遺伝子1つの変化が原因の家族性のてんかんでは、常染色体顕性ならお子さん1人ごとに2分の1の確率で受け継がれます。原因がわかるかどうかで、確率の考え方が変わります。
Q3. てんかんは母親から遺伝しやすいのですか?
同じ研究では、母親がてんかんの場合、子どもが40歳までにてんかんを発症した割合は5.39%で、父親の場合より高い結果でした。ただし、この差は焦点てんかんの方に限られ、全般てんかんの方では、母親と父親で大きな差はみられませんでした。
Q4. てんかんを理由に結婚を反対されています。どう考えればよいですか?
てんかんがあることは、結婚できない理由にはなりません。お子さんに遺伝するかどうかは、てんかんの型と原因によって大きく違い、遺伝子検査や遺伝カウンセリングで、今わかる範囲の確率をお伝えできます。ご本人とパートナーが、確かめられる事実をもとに話し合えることが大切です。
Q5. てんかんの薬を飲みながら妊娠できますか?
自己判断で薬をやめたり減らしたりしないでください。薬の中には、妊娠中に飲むと赤ちゃんの大きな奇形が増えるものがあり、国際的な登録研究ではバルプロ酸で10.3%と、ほかの薬より高い割合でした。妊娠を考えたら、できれば妊娠の前に、薬の種類や量、葉酸のとり方を主治医と相談してください。
Q6. 若年ミオクロニーてんかんは遺伝しますか?
若年ミオクロニーてんかんに関わる遺伝子として、このパネルではEFHC1などを調べますが、多くは遺伝子1つの変化で発症が決まるものではなく、「なりやすさ」に関わる遺伝子です。全般てんかんの方の家族は、一般の人に比べててんかんを発症しやすいという研究があります。お子さんへの確率は、ご家族の状況を伺ってお伝えします。
Q7. 大人になってから始まったてんかんの原因は何ですか?
脳卒中・頭のけが・脳腫瘍・感染症など後から起きた原因のほか、生まれ持った遺伝の要素が関わることもあります。米国の研究では、大人(18歳以上)になってから発作が始まった人で、遺伝子パネル検査で原因が見つかったのは3.7%でした。家族歴がある方、薬が効きにくい方、症状が進む方では、遺伝子の原因を考えます。
Q8. 検査で陰性なら、子どもには遺伝しませんか?
陰性でも、遺伝の影響は否定できません。陰性という結果は、調べた84の遺伝子に、今の方法で見つかる変化がなかったという意味です。大人のてんかんの多くは遺伝子1つでは説明できず、繰り返し配列が長くなる変化など、この検査では見つからない原因もあります。
🧬 人生に一度の遺伝子検査を、これからの計画に
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。一度の検査でわかったことは、ご自身の治療の選び方だけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考えるときにも、ずっと役に立ちます。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断まで、院内で続けて受けていただけます。
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参考文献
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