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スミス・マギニス症候群とは?原因・症状・治療|東京・ミネルバクリニック

仲田洋美 医師

この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

記事の作り方(編集方針)

スミス・マギニス症候群とは

スミス・マギニス症候群(Smith-Magenis syndrome:SMS)は、17番染色体の17p11.2という部分の欠失、またはRAI1遺伝子の変化で起こる先天性の症候群です。夜に眠れず日中に眠くなる睡眠障害、自分の上半身を強く抱きしめる「セルフハグ」などの特徴的な行動、知的障害、年齢とともにはっきりしてくる顔の特徴がみられます。日本では指定難病(告示番号202)です。この記事では、症状・顔の特徴・原因・診断・治療と寿命・遺伝のしかたに加え、妊娠中にNIPTで何が調べられるのかまで、臨床遺伝専門医が一次情報にもとづいて解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 染色体微小欠失・神経発達症
★ 臨床遺伝専門医監修
  • ➤原因(17p11.2欠失とRAI1遺伝子)と、頻度・日本の患者数
  • ➤睡眠障害(メラトニンの逆転)・セルフハグなどの行動・顔の特徴
  • ➤診断の方法(マイクロアレイ・遺伝子解析)と、治療・定期検査・寿命
  • ➤次のお子さんへの再発率と、指定難病・小児慢性特定疾病の制度
  • ➤ミネルバクリニックのNIPTで、スタンダードプランから全プランで調べられること

⏱️ 30秒でわかる要約

🧬 Q. スミス・マギニス症候群とは?

17p11.2の欠失(約8〜9割)か、RAI1遺伝子の変化(約1〜2割)で起こる先天性の症候群です。出生2万5,000人に1人と推定され、メラトニンが昼に高く夜に低いリズムの逆転による睡眠障害とセルフハグなどの行動が特徴です。

👤 Q. 顔の特徴と寿命は?

幅の広い四角い顔、短頭、顔の中央部が引っ込んで見えること、厚くめくれた上唇などがあり、幼児期にはっきりしてくることが多いです。寿命のデータは不足していますが、重い臓器の合併症がなければ知的障害のある方全体と同じくらいと考えられ、最高齢は88歳です。

🌸 Q. 妊娠中にNIPTで分かる?

ミネルバクリニックのNIPTでは、スタンダードプランを含む全プランで17p11.2の欠失を調べられます。陽性なら、羊水検査・絨毛検査を院内で行い、主要項目は3日以内にお返しします。

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1. スミス・マギニス症候群とは|基本情報

【結論】スミス・マギニス症候群は、17番染色体短腕の17p11.2領域の欠失、またはその中にあるRAI1遺伝子の病的な変化で起こる先天性の症候群です[1]。RAI1遺伝子だけに変化がある方でも主な特徴がそろうことから、RAI1がこの症候群の中心となる遺伝子(責任遺伝子)であることが分かっています[4]。

もっとも特徴的なのは、睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌リズムが昼と夜で逆転することによる睡眠障害と、「セルフハグ」「Lick and Flip(指をなめてページをめくる)」などの行動です[1][5]。これらは、ほかの発達の病気と見分ける手がかりにもなります。

スミス・マギニス症候群の遺伝的根拠と臨床像の全体像

💡 用語解説:「ハプロ不全」とは?

遺伝子は通常、父と母から1本ずつ、計2コピーあります。そのうち1コピーが失われたり働かなくなったりして、残りの1コピーだけでは十分な働きを保てない状態をハプロ不全といいます。スミス・マギニス症候群は、RAI1遺伝子が1コピー分しか働かないことで起こります。

スミス・マギニス症候群の概要

📋 スミス・マギニス症候群の基本情報

項目 内容
疾患名 スミス・マギニス症候群(Smith-Magenis syndrome:SMS)。スミス・マゲニス症候群とも表記されます
原因 17p11.2の欠失(約8〜9割)、またはRAI1遺伝子の病的バリアント(約1〜2割)[1]
頻度 出生2万5,000人に1人と推定。実際には1万5,000人に1人に近い可能性[1]
日本の患者数 国内30〜50人と推定(難病情報センター)[2]
遺伝形式 常染色体顕性(優性)。ほとんどが新生(de novo)の変化[1]
欠失の大きさ よくみられる共通の欠失は約3.7Mb[1]
責任遺伝子 RAI1(Retinoic Acid-Induced 1)[4]
日本の制度 指定難病(告示番号202)[2]、小児慢性特定疾病[3]

⚠️ 乳児期には気づかれにくい

顔の特徴は幼児期になってはっきりしてくることが多く、行動の特徴はおおむね1歳半以降、睡眠の問題も1歳〜1歳半より前には気づかれにくいとされています[1]。また、自閉スペクトラム症の特徴が半数から4分の3にみられるため、行動だけでは区別しにくいことがあります[1]。睡眠リズムの逆転やセルフハグがみられるときは、この症候群も考えて遺伝学的検査を検討します。

欠失型と変異型の違い

17p11.2の欠失によるタイプ(欠失型)と、RAI1遺伝子の小さな変化によるタイプ(変異型)では、現れやすい症状に違いがあります[1]。欠失型では、RAI1のほかに近くの遺伝子も一緒に失われるためです。

🧬 欠失型と変異型で現れやすい違い

特徴 欠失型(17p11.2欠失) 変異型(RAI1の変化)
知的機能・言葉 知的な遅れや言葉の遅れがより目立つ傾向 欠失型より軽い傾向
低身長 よくみられる まれ(10%未満)
先天性心疾患・泌尿生殖器の異常 より多い まれ(泌尿生殖器の異常は報告なし)
爪をはがす・体の穴に物を入れる行動 約40% 約90%
肥満 みられる より起こりやすい

出典:GeneReviews(2026年4月改訂)[1]

2. スミス・マギニス症候群の主な症状

【結論】症状は睡眠障害・特徴的な行動・知的障害と言葉の遅れ・顔や体の特徴の4つに整理できます。中でも睡眠障害は4分の3以上にみられ、ご本人とご家族の生活にもっとも大きく影響します[1]。

睡眠障害:生活への影響が大きい症状

スミス・マギニス症候群の睡眠障害は、単なる寝つきの悪さではなく、体内時計のリズムそのものの乱れです。米国の診療ガイド(GeneReviews)では、睡眠障害は4分の3以上に、メラトニン分泌リズムの逆転は調べられた方の9割以上にみられるとされています[1]。

😴 睡眠障害の特徴

  • 夜中に何度も目が覚める
  • 早朝に目が覚めてしまう
  • 寝る時刻・起きる時刻が早い
  • 日中の強い眠気と、年齢のわりに長い昼寝

出典:GeneReviews[1]

メラトニン分泌リズムの逆転_健常者とSMS患者の比較

💡 なぜ昼に眠く、夜に眠れないのか?

通常、メラトニンは夜に多く分泌され、昼には抑えられます。スミス・マギニス症候群では、これが逆になり、昼にメラトニンが高く、夜に低くなることが報告されています[5]。昼に眠気が強く、夜に目が覚めやすいのはこのためです。

特徴的な行動:セルフハグとLick and Flip

この症候群には、診断の手がかりになるほど特徴的なくり返しの行動があります[1]。

🤗 セルフハグ(Self-hug)

上半身を発作的にぎゅっと抱きしめるような動きです。GeneReviewsでは、この症候群を見分ける有効な目印になりうる行動とされています[1]。

📖 Lick and Flip

指をなめて、本や雑誌のページをくり返しめくる行動です。よくみられる常同行動の一つとして挙げられています[1]。

自傷行為と行動上の課題

行動上の課題は、おおむね1歳半以降に気づかれ、1歳半〜2歳ごろ、学童期、思春期に強くなりやすいとされています。頭を打ちつける行動は1歳半ごろから始まることがあります[1]。

🧠 報告されている行動上の課題

行動の種類 内容(頻度)
自傷行為 自分をかむ(77%)、自分をたたく(71%)、皮膚をむしる(65%)、頭を打ちつける
爪をはがす(爪甲抜去癖)・体の穴に物を入れる 年齢やタイプにより25〜90%
かんしゃく・攻撃的な行動 頻回のかんしゃく、反抗、攻撃性、気分の急な変化。成人では自傷・攻撃的行動が半数以上
不注意・多動・衝動性 不注意(多動を伴うことも)と衝動性。成人の約4割に自閉スペクトラム症やADHDの特徴

出典:GeneReviews[1]

⚠️ 痛みを感じにくいことがある

乳幼児期には、末梢神経の障害のサインとして痛みに対して比較的鈍いことがあります。欠失がPMP22遺伝子まで及ぶ大きな欠失では、痛みに気づかずにけがを見逃すこともあります[1]。けがや感染に周囲が気づけるよう、日ごろから体の様子を確認することが大切です。

社会性と対人関係

スミス・マギニス症候群の方には、とくに大人からの注目を求める行動がみられます。また、4割以上の方で、人への関心やユーモアがコミュニケーションの強みとして挙げられています[1]。

一方で、自閉スペクトラム症の特徴も半数から4分の3にみられ、対人関係の難しさを抱える方もいます[1]。注目を求める気持ちと、行動の激しさの両面があることを知っておくと、周囲の関わり方を考えやすくなります。

知的障害と言語発達

多くは軽度から中等度の知的障害で、検査で測った値は20〜78と幅があり、中等度の範囲の方が多いとされています。ただし、行動や睡眠の問題のために、実際の力より低く測定されることがあります[1]。

言葉では、話す力(表出)の遅れが、理解する力(受容)の遅れより目立ちます。乳児期には喃語が少なく、支援を受けると多くは学童期までに話し言葉が出てきますが、発音の問題は残りやすいとされています。声がかすれる(嗄声)ことも50〜80%にみられます[1]。

💡 言葉の理解と表現のギャップ

周りの話を理解している力に比べて、自分の気持ちを言葉で伝えることが難しいため、伝わらないもどかしさが行動に表れることがあります。絵カードやサインなど、言葉以外の伝え方も取り入れると、本人の負担を減らす助けになります。

顔の特徴と年齢による変化

スミス・マギニス症候群の顔の特徴として、幅の広い四角い顔、短頭(前後に短い頭の形)、顔の中央部が引っ込んで見えること、厚くめくれた上唇、濃い眉が報告されています。乳児期にはあごが小さく、年齢とともに下あごが相対的に前に出てきます。これらの特徴は幼児期にはっきりしてくることが多いとされています[1]。

顔の特徴には個人差があり、顔つきだけで診断することはできません。確定には遺伝学的検査が必要です。

身体的特徴と合併症

🩺 報告されている身体の特徴と合併症

部位 特徴(頻度)
成長 低身長がよくみられる(とくに幼いころ、欠失型で多い)。学童期(6〜9歳ごろ)から腹部中心の肥満が始まりやすい
骨格 側弯(4歳以上の約60%)
耳 難聴が多い。年1回の耳鼻科・聴力検査が勧められる
目 約85%に何らかの異常(斜視、進行する近視、虹彩の異常、小角膜)。10歳以上の約20%に網膜剥離
声 嗄声(50〜80%)
心臓 先天性心疾患(欠失型の半数未満):心室中隔欠損、心房中隔欠損、弁の狭窄、ファロー四徴症など
腎・泌尿生殖器 泌尿生殖器の異常(欠失型の15〜35%)
神経 末梢神経障害(約75%)、けいれん(11〜30%)
代謝・内分泌 軽い甲状腺機能低下(約25%)、高コレステロール(小児の研究で50%以上)

出典:GeneReviews(2026年4月改訂)[1]。頻度は報告された集団での値で、すべての方に当てはまるものではありません。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「激しさ」と「人なつこさ」の両方を知っておく】

スミス・マギニス症候群について調べると、自傷や睡眠障害など大変そうな情報が先に目に入るかもしれません。けれども、同じ診療ガイドには、人への関心やユーモアが多くの方の強みとして挙げられていることも書かれています。

臨床遺伝専門医として大切だと考えているのは、症状の一覧だけでその子を理解しようとしないことです。睡眠のリズムを整えること、見通しをもてる環境をつくること、言葉以外の伝え方を用意すること。こうした工夫は、その子の強みを生かすための土台になると考えています。

3. 原因と遺伝的背景|RAI1遺伝子の機能

【結論】スミス・マギニス症候群の主な症状は、RAI1遺伝子が1コピー分しか働かないこと(ハプロ不全)で起こります。17p11.2の欠失ではRAI1がほかの遺伝子と一緒に失われ、変異型ではRAI1だけが働かなくなります[1][4]。

RAI1遺伝子の働き

2003年、17p11.2の欠失がない患者さんでRAI1遺伝子の変化が見つかり、RAI1の変化だけでこの症候群の主な特徴が現れることが示されました[4]。睡眠障害や行動の特徴、知的障害といった中心的な症状は、RAI1の働きの不足で説明されます。一方、低身長・心臓や泌尿生殖器の異常などが欠失型に多いのは、欠失に含まれるほかの遺伝子の影響と考えられています[1]。

RAI1遺伝子そのものの解説はRAI1遺伝子のページをご覧ください。

概日リズム(体内時計)の乱れ

スミス・マギニス症候群の睡眠障害の背景には、メラトニンの分泌リズムの逆転があります。2001年のフランスの研究で、患者さんではメラトニンが昼に高く、夜に低いことが示され[5]、その後の報告でも、調べられた方の9割以上で同じ逆転がみられています[1]。このため、治療では「夜にメラトニンを補う」「昼のメラトニンの分泌を抑える」という考え方がとられます(5章)。

欠失の発生機序

17p11.2の周辺には、よく似た配列がくり返す部分(低コピーリピート)があります。卵子や精子ができるときに、この似た配列どうしでずれた組換え(非対立遺伝子相同組換え:NAHR)が起こると、その間の部分が欠けたり、逆に重複したりします。欠失するとスミス・マギニス症候群に、同じ部分が重複するとポトキ・ルプスキ症候群(17p11.2重複症候群)になります[6]。

このような欠失は、ほとんどがご両親から受け継いだものではなく、その妊娠で新たに起きたものです[1]。

💡 用語解説:「新生突然変異(de novo変異)」とは?

ご両親はその変化をもっておらず、卵子や精子ができるとき、または受精後早い時期に新たに生じた変化のことです。詳しくはDe Novo変異(新生突然変異)とはで解説しています。

バート・ホッグ・デュベ症候群(BHD)との関連

17p11.2の欠失がFLCN遺伝子まで含む場合、FLCNも1コピー分しか働かない状態になります。FLCNは、腎腫瘍や肺の嚢胞・気胸を起こしやすいバート・ホッグ・デュベ症候群の原因遺伝子です。そのため、FLCNを含む欠失をもつ方には、成人期にバート・ホッグ・デュベ症候群に準じた定期検査が勧められています。17p11.2欠失をもつ成人で腎腫瘍が報告された例は4人です[1]。

⚠️ 欠失の範囲を確認しておく

FLCNが欠失に含まれるかどうかは、マイクロアレイ検査の結果で欠失の範囲を見れば分かります。成人期の検査計画を立てるために、診断時の検査結果(欠失の範囲)を保管しておくことをお勧めします。

4. スミス・マギニス症候群の診断方法

【結論】診断の最初の検査は染色体マイクロアレイ検査(CMA)で、原因の約8〜9割を占める17p11.2の欠失が分かります。マイクロアレイで欠失が見つからないときは、RAI1遺伝子の配列解析を行い、残りの約1〜2割を調べます[1]。

診断のきっかけとなる臨床所見

次のような所見が重なるとき、スミス・マギニス症候群を考えます。

🔍 この症候群を考えるきっかけ

  • 睡眠リズムの逆転(日中の強い眠気、夜中や早朝に目が覚める)
  • セルフハグ、Lick and Flipなどの特徴的な行動
  • 言葉の遅れ(とくに話す力の遅れ)を伴う発達の遅れ
  • 頭を打ちつける・自分をかむ・爪をはがすなどの自傷行為
  • 四角い顔、厚くめくれた上唇、かすれた声などの特徴

出典:GeneReviews[1]

遺伝学的検査の種類

🧪 スミス・マギニス症候群の遺伝学的検査

検査 特徴 分かること
染色体マイクロアレイ(CMA) 最初に勧められる検査。染色体の小さな欠失・重複を調べる 欠失型(約8〜9割)
RAI1遺伝子の配列解析 マイクロアレイで欠失がないときに行う 変異型(約1〜2割)
FISH法 17p11.2の目印(プローブ)で欠失を確かめる 欠失型(ご家族の確認などに使う)
G分染法(染色体検査) 解像度が十分(550バンド以上)なら見えることがあるが、別の目的で行った検査では見逃されやすい 欠失型の一部

出典:GeneReviews[1]。マイクロアレイ検査を当院で受ける場合はマイクロアレイ染色体検査(CMA)をご覧ください。

鑑別診断

GeneReviewsでは、発達の遅れを伴うほかの病気との見分けが必要とされ、行動の特徴とメラトニン分泌の逆転が、スミス・マギニス症候群を見分ける手がかりになるとされています[1]。代表的なものを挙げます。

⚖️ 見分けが必要な主な病気

病気 原因 当院の解説ページ
22q11.2欠失症候群 22番染色体の22q11.2の欠失 DiGeorge症候群(22q11.2欠失)
プラダー・ウィリー症候群 15番染色体の15q11-q13領域の変化(父由来の働きの欠如) プラダー・ウィリー症候群
アンジェルマン症候群 15番染色体の15q11-q13領域の変化(母由来の働きの欠如) アンジェルマン症候群
自閉スペクトラム症 さまざま(遺伝的要因を含む) 発達障害は妊娠中にNIPTでわかる?

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5. 治療と長期管理

【結論】原因そのものを治す治療はまだなく、症状に合わせた治療と、生涯にわたる定期的な検査・支援が中心です[1]。中でも睡眠の改善は、ご本人の行動の安定とご家族の休息のために優先度の高い課題です。

睡眠障害の治療

GeneReviewsでは、睡眠障害の治療の選択肢として、アセブトロール(β1遮断薬)、メラトニン、タジメルテオンが挙げられています[1]。β1遮断薬は昼のメラトニンの分泌を抑え、メラトニンやタジメルテオンは夜の眠りを助けるという考え方です。

タジメルテオンは、スミス・マギニス症候群の方を対象にした二重盲検の臨床試験で睡眠の改善が報告され[7]、米国では2020年に、この症候群の夜間の睡眠障害の治療薬として承認されました。一方、日本では睡眠障害に対して承認されている薬が少なく、生活の工夫やリハビリテーションが中心になるとされています[2]。

💡 夜の安全を守る環境づくり

夜中の歩き回りや食べ物探し、自傷によるけがを防ぐため、GeneReviewsでは囲いのあるベッドなど、眠る間の「安全な空間」をつくる工夫が挙げられています。また、多くの介護者が深刻な睡眠不足を抱えているとされています[1]。

行動障害への対応

行動の課題には、睡眠のリズムを整えることに加え、行動が起こりやすい場面やきっかけを記録し、見通しをもてるスケジュールや環境を整えることが基本になります。発達や行動の専門家、学校と連携し、その子に合った支援を個別に計画します。

薬物療法

攻撃的な行動、不注意・多動、気分の大きな波などには、症状に応じて薬が検討されることがあります。どの薬を使うかは、睡眠への影響や体重の変化なども考えながら、主治医が一人ひとりに合わせて判断します。

定期的な検査(年齢に応じた医学的管理)

📅 勧められている定期的な検査

時期・頻度 内容
毎年 多職種による評価、耳鼻科・聴力・眼科の診察、空腹時の脂質検査、尿検査(気づかれにくい尿路感染の確認)、甲状腺機能検査、ご家族の心理社会的な評価
受診のたび 身長・体重など成長と栄養の確認
継続して けいれんと側弯の確認、発達の評価、学齢期の教育評価
成人期 欠失がFLCNを含む場合は、バート・ホッグ・デュベ症候群に準じた定期検査

出典:GeneReviews(2026年4月改訂)[1]

予後と寿命

長期の追跡データが不足しているため、寿命ははっきり分かっていません。心臓や腎臓などに重い合併症がなければ、知的障害のある方全体と同じくらいと考えられており、知られている最高齢は88歳です[1]。経過は人によってさまざまで、周りへの好奇心が旺盛で活発なお子さんも多いとされています[2]。

研究の現状

RAI1の働きを補う方法などの研究が進められていますが、いずれも研究の段階で、標準治療ではありません。新しい治療の情報に触れたときは、どの段階の研究なのか(動物実験か、人での臨床試験か)を主治医と確認してください。

6. 遺伝カウンセリングの重要性

【結論】スミス・マギニス症候群はほとんどが新生(de novo)の変化で起こり、ご両親から受け継ぐことはまれです[1]。遺伝カウンセリングでは、次のお子さんへの再発率、ご本人の将来、利用できる支援について、正確な情報をお伝えします。

再発リスク

👪 状況ごとの再発の考え方

状況 次のお子さんへの再発
ご両親とも検査で異常なし(新生の変化) 1%未満と見積もられる
ご両親のどちらかにモザイク(生殖細胞のモザイクを含む)がある 再発することがある(モザイクの母親から2人の子が生まれた家族の報告あり)
ご両親のどちらかに染色体の構造の変化がある 再発することがあり、個別に見積もる
ご本人がお子さんを持つ場合 常染色体顕性遺伝の原則から、お子さん1人ごとに50%

出典:GeneReviews[1]

💡 ポイント

ほとんどは、その妊娠で偶然に起きた変化で、ご両親の行動や体質のせいではありません。ただし、ご両親の検査をしないと再発率を見積もれないため、次の妊娠を考えるときは、ご両親の染色体検査の要否を含めて遺伝カウンセリングで確認します。家族内の変化が分かっていれば、次の妊娠で出生前検査を行うこともできます[1]。

家族支援の重要性

睡眠と行動の課題は、ご家族の生活に大きく影響します。GeneReviewsでは、多くの介護者が深刻な睡眠不足を抱えているとされ、毎年のご家族の心理社会的な評価が勧められています[1]。

日本では、スミス・マギニス症候群は指定難病(告示番号202)で[2]、小児慢性特定疾病の対象でもあります[3]。重症度などの認定基準を満たすと医療費助成を受けられます。一時預かり(レスパイト)などの福祉サービスとあわせて、ご家族が休める体制を早めに整えておくことが大切です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【ご家族全体を支えるという視点】

スミス・マギニス症候群の睡眠の課題は、お子さんだけでなく、つき添う親御さんの睡眠も奪います。診療ガイドが毎年の項目に「ご家族の評価」を入れているのは、ご家族の負担も見過ごせないものだからだと受け止めています。

臨床遺伝専門医として考えているのは、ご本人の治療と同じくらい、ご家族が休むことにも意味があるということです。医療費助成や福祉サービスは、遠慮せずに使ってよい制度です。長い目で生活を設計するために、使える支援を早めに知っておいてください。

7. 出生前診断について|NIPTと確定検査

【結論】ミネルバクリニックのNIPTでは、スタンダードプランを含むすべてのプランで、スミス・マギニス症候群の原因となる17p11.2の欠失を調べられます。NIPTはスクリーニング検査のため、陽性のときは羊水検査・絨毛検査で確定します。

当院のNIPTで調べられる範囲

🧬 プラン別:スミス・マギニス症候群(17p11.2欠失)を調べられるか

プラン 17p11.2欠失 微小欠失・重複の範囲 単胎/双胎 料金(税込)
スタンダード ○ 6種類7疾患 単胎・双胎 220,000円
プレミアム ○ 12種類13疾患 単胎のみ 264,000円
ダイヤモンド ○ 12種類13疾患+単一遺伝子56 単胎のみ 407,000円
双子マックス ○ 92種類の微小欠失・重複+5Mb超の構造異常 単胎・双胎 440,000円
インペリアル ○ 92種類+5Mb超の構造異常+単一遺伝子 最大155遺伝子(202疾患) 単胎のみ 550,000円

料金は、事前学習動画を見て来院した場合の当日割引後の金額です。遺伝カウンセリング・4Dエコー・性別判定を含みます。結果の作成費用は別途3,300円です。

スタンダードプランで調べられる微小欠失は、22q11.2欠失(ディジョージ症候群)、1p36欠失、スミス・マギニス症候群、ウォルフ・ヒルシュホーン症候群、プラダー・ウィリー症候群、アンジェルマン症候群、猫鳴き症候群の7つです。微小欠失全体は微小欠失症候群とはでまとめています。

⚠️ NIPTで分かるのは「欠失型」

NIPTの微小欠失の検査は、染色体の一部が欠けているかどうかを調べます。スミス・マギニス症候群の約8〜9割を占める欠失型が対象で、RAI1遺伝子の小さな変化による変異型(約1〜2割)は、欠失を調べるしくみでは見つかりません[1]。

出生前検査での検出方法

🔬 出生前に17p11.2欠失を調べる方法

検査 特徴 位置づけ
NIPT(微小欠失) 採血のみで、流産のリスクはない。微小欠失・重複の陽性的中率は項目により60〜70%程度と低め スクリーニング(陽性なら確定検査が必要)
絨毛検査+マイクロアレイ 胎盤のもとになる組織を採って調べる。羊水検査より早い時期に行える 確定検査
羊水検査+マイクロアレイ 羊水中の赤ちゃんの細胞を調べる 確定検査

当院のスタンダードプランは標的捕捉濃縮法、ダイヤモンドプランはSNP法とターゲット法を組み合わせたCOATE法で検査します。

NIPTで陽性だったとき

陽性のときは、まず遺伝カウンセリングで結果の意味をご説明します。陽性のカウンセリングは何度でも無料です。確定検査(羊水検査・絨毛検査)は院内で行い、主要な項目は3日以内、マイクロアレイは2週間ほどで結果をお返しします。確定検査の考え方はNIPTで陽性の結果がでたときの確定診断で解説しています。

⚠️ 重要

NIPTはスクリーニング検査です。陽性という結果だけで診断を確定させず、必ず確定検査で確かめてから、その後のことを考えてください。

8. ミネルバクリニックのサポート体制

ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医がNIPTの前後の遺伝カウンセリングを担当し、陽性のときは確定検査まで院内で対応します。

🏥 当院でできること

  • スタンダードプランから全プランで17p11.2欠失を検査:スミス・マギニス症候群を含む微小欠失を、プランに応じて調べられます。
  • 確定検査まで院内で:2025年6月に産婦人科を併設し、羊水検査・絨毛検査を院内で実施。主要な項目は3日以内、マイクロアレイは2週間ほどで結果をお返しします。
  • 臨床遺伝専門医が常駐:受診は90分の枠で、その中で臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行います。
  • 互助会に全員加入:カトレア会(羊水検査互助会)8,000円と、安心検査結果保障制度6,000円の2つに加入していただきます。

🏥 スミス・マギニス症候群(17p11.2欠失)を、妊娠中に調べたい方へ

ミネルバクリニックのNIPTは、スタンダードプランを含む全プランで17p11.2欠失を調べられます。陽性なら、羊水検査・絨毛検査まで院内で行い、主要項目は3日以内にお返しします。
NIPT専用ダイヤル:03-3408-3768

よくある質問(FAQ)

Q1. スミス・マギニス症候群とはどんな病気ですか?

17番染色体の17p11.2という部分の欠失、またはその中にあるRAI1遺伝子の変化で起こる先天性の症候群です。メラトニンの分泌リズムが昼夜で逆転することによる睡眠障害、自分の上半身を強く抱きしめる「セルフハグ」などの特徴的な行動、知的障害、年齢とともにはっきりしてくる顔の特徴がみられます。日本では指定難病(告示番号202)です。

Q2. どのくらいの頻度で起こりますか?日本の患者数は?

米国の診療ガイド(GeneReviews)では、出生2万5,000人に1人と推定され、実際には1万5,000人に1人に近い可能性があるとされています。日本の患者数は、難病情報センターでは国内30〜50人と推定されています。

Q3. スミス・マギニス症候群の顔にはどんな特徴がありますか?

幅の広い四角い顔、短頭(前後に短い頭の形)、顔の中央部が引っ込んで見えること、厚くめくれた上唇、濃い眉などが報告されています。乳児期にはあごが小さく、年齢とともに下あごが相対的に前に出てきます。特徴は幼児期にはっきりしてくることが多く、乳児期には目立たないことがあります。顔つきだけで診断はできず、確定には遺伝学的検査が必要です。

Q4. スミス・マギニス症候群の寿命はどのくらいですか?

長期の追跡データが不足しており、寿命ははっきり分かっていません。心臓や腎臓など重い臓器の合併症がなければ、知的障害のある方全体と同じくらいと考えられており、知られている最高齢は88歳です。

Q5. スミス・マギニス症候群は遺伝しますか?次の子にも起こりますか?

ほとんどが両親から受け継いだものではない新生(de novo)の変化です。ご両親の検査で異常がなければ、次のお子さんに起こる確率は1%未満と見積もられています。ただし、ご両親のどちらかにモザイク(一部の細胞だけに変化がある状態)や染色体の構造の変化がある場合は再発することがあるため、遺伝カウンセリングで個別に確認します。ご本人がお子さんを持つ場合は、常染色体顕性遺伝の原則から、お子さん1人ごとに50%の確率で受け継がれます。

Q6. 睡眠障害の治療法はありますか?

米国の診療ガイドでは、アセブトロール(β1遮断薬)、メラトニン、タジメルテオンが選択肢として挙げられています。タジメルテオンは二重盲検の臨床試験で睡眠の改善が報告され、米国で2020年にスミス・マギニス症候群の夜間の睡眠障害の治療薬として承認されました。日本では睡眠障害に対して承認された薬が少なく、生活リズムの調整や安全な寝室環境づくりが中心になります。

Q7. 医療費の助成は受けられますか?

スミス・マギニス症候群は指定難病(告示番号202)で、小児慢性特定疾病の対象でもあります。重症度などの認定基準を満たすと医療費助成を受けられます。申請の方法は、お住まいの都道府県や主治医に確認してください。

Q8. NIPTでスミス・マギニス症候群は分かりますか?

ミネルバクリニックのNIPTでは、スタンダードプランを含むすべてのプランで、スミス・マギニス症候群の原因となる17p11.2の欠失を調べられます。NIPTはスクリーニング検査で、微小欠失の陽性的中率は項目により60〜70%程度と低めのため、陽性のときは羊水検査や絨毛検査での確定が必要です。また、RAI1遺伝子の小さな変化によるタイプ(全体の1〜2割)は、欠失を調べるしくみでは見つかりません。

Q9. 大人になってから気をつけることはありますか?

欠失がFLCN遺伝子を含む場合は、バート・ホッグ・デュベ症候群(腎腫瘍や気胸などを起こしやすい体質)に準じた成人期の定期検査が勧められています。ほかに、毎年の耳鼻科・聴力・眼科の診察、空腹時の脂質検査・尿検査・甲状腺機能検査、側弯やけいれんの確認が勧められています。学童期以降の肥満にも注意が必要です。

Q10. 自閉スペクトラム症とはどう違いますか?

スミス・マギニス症候群でも、自閉スペクトラム症の特徴が半数から4分の3にみられ、行動だけでは区別しにくいことがあります。区別の手がかりになるのは、メラトニンの分泌リズムの逆転による睡眠障害や、セルフハグなどの行動の特徴です。原因が17p11.2の欠失やRAI1遺伝子の変化かどうかは、遺伝学的検査で確かめます。

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参考文献

  • [1] Smith ACM, Berens J, Boyd KE, et al. Smith-Magenis Syndrome. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 2001 Oct 22 [Updated 2026 Apr 2]. [NBK1310]
  • [2] 難病情報センター. スミス・マギニス症候群(指定難病202). [難病情報センター]
  • [3] 小児慢性特定疾病情報センター. スミス・マギニス(Smith-Magenis)症候群 概要. [小児慢性特定疾病情報センター]
  • [4] Slager RE, Newton TL, Vlangos CN, Finucane B, Elsea SH. Mutations in RAI1 associated with Smith-Magenis syndrome. Nat Genet. 2003. [PubMed 12652298]
  • [5] De Leersnyder H, de Blois MC, Claustrat B, et al. Inversion of the circadian rhythm of melatonin in the Smith-Magenis syndrome. J Pediatr. 2001. [PubMed 11445803]
  • [6] Potocki L, Chen KS, Park SS, et al. Molecular mechanism for duplication 17p11.2—the homologous recombination reciprocal of the Smith-Magenis microdeletion. Nat Genet. 2000. [PubMed 10615134]
  • [7] Polymeropoulos CM, et al. Tasimelteon safely and effectively improves sleep in Smith–Magenis syndrome: a double-blind randomized trial followed by an open-label extension. Genet Med. 2021. [PMC8629754]

※本記事は一般の方に向けた情報提供を目的とするもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や検査については、主治医・専門医にご相談ください。

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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