この記事の著者 仲田洋美わたしは臨床遺伝専門医でもあるのですが、希少常染色体優性遺伝性疾患患者です。
NIPTなどの出生前診断がもう少し技術が進めば、胎児の染色体の数の異常ではなく、質的異常、つまり何の病気をもって生まれてくる子なのかということがわかるようになるでしょう。そんな日も遠くありません.
そうすると、わたしはそういう時代にもしも母親の子宮に着床したら、中絶されて生まれてこれなかったかもしれません。一度、「もしそうだとしても産んでくれたの?」と母に聞いてみたことがありますが、認知症が進行した母にはろくに理解できず、まともな答えは返ってきません。父もなくなりましたので聞けません。 出生前診断に向き合うわたしは複雑な思いをいたしております。
だからって、お母さんに絶対生んでくれと強制することはできません。わたしは生まれてからこの方一秒も正常だったことはありません。骨格異常がある疾患なので、個体発生の時点でわたしの異常は完成しています。あきらかに希少常染色体優性遺伝性疾患患者として生まれたわたしは、おそらく結婚という問題にはおおきくハンディキャップを抱えていたことでしょう。
わたしの疾患は、インプリンティングという現象があり、父親から病的遺伝子をもらうのと、母親からもらうのとでは症状が異なり、病的遺伝子をもっているわたしは母親なので、子供たちに伝達すると必ず重症型を発症する。
ところが、わたしは医師免許を取り、結婚もして3回も出産しました。旦那様はわたしの疾患を知っていました。向き合っていなかったのは本人だけ。本人が自分の疾患に向き合ったのは、臨床遺伝専門医をとろうとして専門医修練コースにのってからです。
もうとっくに子供たちも大きくなっていました。それでは、わたしはこんな病気の遺伝子をもって生まれてきて不幸でしょうか?
わたしはたくさんの人たちに気にしてもらって、大事にされて生きています。幸せだと思っています。
幸せになるかどうかは、病気かどうかや障害があるかどうかで決まりません。幸せかどうかは本人の心が決めるのです。お金があっても権力があっても幸せは買えません。
それに、望んだとおりの人生を歩める人なんて世の中にいない。望んだとおりの人生を歩んだとしても幸せとは限らない。
完璧な遺伝子なんてない。わたしを見て、話を聞いて、そして、あなたが決めてください。
もしも陽性になっても、もしも染色体の数に異常があるとわかっても、その子の可能性を信じて産むという選択もある。もちろん産まないという選択もある。その決定にわたしが口を出す権利はありません。自己決定権はあくまでもあなたのものなのですから。
とにかくわたしを見てほしい。わたしが希少常染色体優性遺伝性疾患患者であるのは事実です。骨格異常があるので隠せない。そして、わたしをみて考えてほしいんです。
命とは何か。生きるとは何か。幸せとは何か。
わたしはあなたを待っています。
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