目次
- 1 1. 発達性てんかん性脳症5型(DEE5)とは ─ まず全体像から
- 2 2. 原因遺伝子SPTAN1とαIIスペクトリン ─ 神経細胞の「骨組み」
- 3 3. なぜ発作が起きるのか ─ ドミナントネガティブという仕組み
- 4 4. 症状と経過 ─ 重症型(DEE5)でみられること
- 5 5. 脳MRIと脳波の所見 ─ 画像が語る重症度
- 6 6. 変異の位置と種類は重症度と強く関連する ─ 同じ遺伝子でも違う結末
- 7 7. 軽症型と運動障害型 ─ てんかんを伴わないSPTAN1の病気
- 8 8. 治療とケア ─ いま何ができるのか
- 9 9. 診断・遺伝の仕組み・検査 ─ どう調べ、何が分かるのか
- 10 10. よくある誤解
- 11 よくある質問(FAQ)
- 12 参考文献
- 13 関連記事
📍 クイックナビゲーション
発達性てんかん性脳症5型(DEE5)は、生後まもなく難治性のてんかん発作と重い発達の遅れがあらわれる、とてもまれな病気です。原因はSPTAN1という1つの遺伝子の変化で、この遺伝子は神経細胞の「骨組み」をつくるαIIスペクトリンというタンパク質の設計図です。DEE5そのものは世界でも報告例の少ない超希少疾患ですが、同じSPTAN1の変化は、てんかんを伴わない歩行障害(痙性対麻痺)だけを起こすこともあり、症状の幅がとても広いことが分かっています。ですからDEE5を正しく理解することは、SPTAN1という遺伝子が関わる病気の全体像を理解することにもつながります。この記事では、原因・症状・脳画像の特徴・治療・遺伝の仕組みを、遺伝専門医の視点からできるだけやさしく解説します。
Q. 発達性てんかん性脳症5型(DEE5)とは、どんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです
A. DEE5は、SPTAN1遺伝子の変化によって、生後数か月以内に難治性のてんかん発作(多くは点頭てんかん)と重度の発達の遅れがあらわれる、常染色体顕性(優性)遺伝の希少な神経発達症です。脳のMRIでは髄鞘(ミエリン)の形成不全と、進行する橋・小脳の萎縮が特徴です。多くは両親にはない新生突然変異(de novo)で起こります。一方、同じSPTAN1でも変化の位置や種類によっては、てんかんを伴わない歩行障害だけの軽い型もあり、症状の重さは変異のタイプで大きく変わります。
- ➤原因 → 神経の骨組みをつくるαIIスペクトリンの設計図SPTAN1の変化。多くは新生突然変異で起こる
- ➤重症型(DEE5)の特徴 → 乳児期早期の難治性発作、重度発達遅滞、視線が合わない、後天性の小頭症
- ➤画像の特徴 → 髄鞘形成不全と、進行する橋・小脳の萎縮、脳梁の菲薄化
- ➤変異の位置・種類が重症度と強く関連する → C末端のα/βスペクトリン結合領域の特定のインフレーム重複・欠失は重症表現型と強く関連し、結合領域から外れた変異では軽症になりやすい
- ➤遺伝カウンセリングの要点 → 多くは新生突然変異で、ご両親が保因者でないことが多い。ただし例外もある
🧬 発達性てんかん性脳症5型(DEE5)の基本情報
各項目の根拠と詳しい解説は、本文の該当セクションをご覧ください。
1. 発達性てんかん性脳症5型(DEE5)とは ─ まず全体像から
DEE5は、生後まもない赤ちゃんに、薬が効きにくいてんかん発作と重い発達の遅れが同時にあらわれる病気です。原因はSPTAN1という1つの遺伝子の変化で、ご両親には変化がなくお子さんで初めて生じる新生突然変異のことが多いという特徴があります。まずはこの病気がどんな位置づけにあるのかを整理します。
「てんかん性脳症」とは、てんかんの発作そのものや、絶え間なく続く脳の異常な電気活動が、脳の発達をさまたげてしまう状態を指す言葉です。発作を止めるだけでは発達の問題が残ることが多く、発作と発達障害の両方に向き合う必要があります。近年は、発作が始まる前から発達の遅れがある場合も含めて「発達性てんかん性脳症(developmental and epileptic encephalopathy:DEE)」という呼び方が国際的に使われるようになりました。DEE5は、その5番目に登録されたタイプという意味です。以前は「早期乳児てんかん性脳症5型(EIEE5)」と呼ばれていましたが、同じ病気を指しています[1]。
かつて、こうした乳児期早期の重いてんかんは、原因が分からない(潜因性の)大田原症候群や早期発症のWest症候群としてひとまとめに扱われてきました。しかし、次世代シーケンサーや全エクソーム解析といった網羅的な遺伝子解析の技術が普及したことで、その多くが1つの遺伝子の変化で起こる単一遺伝子疾患だと分かってきました。SPTAN1もそのひとつで、2010年に、West症候群に重い脳の髄鞘形成不全を伴う患者さんからSPTAN1の変化が初めて報告されました[2]。
ご家族にとって大切なのは、「原因が特定できた」ことには、それ自体に意味があるという点です。原因不明のまま検査を重ねる時期は、ご家族にとって大きな不安の時間です。SPTAN1という原因が分かれば、今後どのような経過をたどりやすいか、どんな合併症に備えるとよいか、そして次のお子さんへの影響はどうかといった見通しを、少しずつ立てられるようになります。診断は終わりではなく、見通しを持って備えていくための出発点です。
💡 用語解説:発達性てんかん性脳症(DEE)と旧称EIEE
てんかん性脳症とは、発作や脳の異常な電気活動そのものが脳の発達を妨げる状態です。発作が始まる前から発達の遅れが見られることも多いため、近年は「発達性+てんかん性」の両方を表すDEE(developmental and epileptic encephalopathy)という呼び方が広まりました。以前の「早期乳児てんかん性脳症(EIEE)」という呼称と番号は多くがそのまま引き継がれており、EIEE5=DEE5です。呼び名が変わっても病気の中身は同じです。
2. 原因遺伝子SPTAN1とαIIスペクトリン ─ 神経細胞の「骨組み」
DEE5の原因は、神経細胞の内側で「骨組み」として細胞のかたちを支えるαIIスペクトリンというタンパク質の設計図、SPTAN1遺伝子の変化です。この骨組みが乱れると、神経細胞は正しいかたちや働きを保てなくなります。まずはこのタンパク質が何をしているのかを見ていきます。
🔍 関連記事:SPTAN1遺伝子とは/スペクトリンとは
SPTAN1は第9番染色体の長腕(9q34.11)にある遺伝子で、赤血球以外の細胞に広く存在するαIIスペクトリン(別名フォドリン)というタンパク質をつくります[2]。スペクトリンは細胞膜のすぐ内側に網の目のような構造をつくり、細胞膜を安定させたり、細胞の中の小器官を正しい位置に配置したり、神経のつなぎ目(シナプス)をつくったりする、いわば細胞の「柱と梁」にあたるタンパク質です[3]。
αIIスペクトリンは、単独ではなくβスペクトリンと組んでペア(ヘテロダイマー=二量体)をつくり、さらにそのペアどうしが頭とうしで結合して四量体という長い骨組みを組み立てます。この骨組みが、細胞膜のすぐ下でアクチンという別の繊維と協力し合い、丈夫な足場(スキャフォールド)を形づくります。DEE5で問題になるのは、まさにこのαとβが正しくペアを組む部分です。
💡 用語解説:スペクトリンとヘテロダイマー
スペクトリンは、細胞膜の内側を裏打ちして支える細長いタンパク質です。αとβという2種類が寄り添って1組のペア(ヘテロダイマー)をつくり、そのペアがさらにつながって網の目状の足場になります。この足場は、神経細胞のかたちを保つだけでなく、電気信号を出す部分に必要な部品を正しい位置に固定する役目も持っています。αII(SPTAN1がつくる側)とβが正しく組めなくなると、この足場全体が崩れてしまいます。
スペクトリンをつくる遺伝子は1つではなく、家族(ファミリー)を形づくっています。赤血球で働くαスペクトリン(SPTA1)や、βスペクトリンの仲間(SPTBN1〜4)は、それぞれ別の組織で似た役割を担い、変化するとそれぞれ特有の病気を起こします。たとえばSPTBN2の変化は脊髄小脳失調症5型を、SPTBN4の変化は神経の伝導障害を起こします。同じ「骨組みの部品」でも、どの組織で主に使われるかによって、あらわれる病気が違ってくるのです。SPTAN1がつくるαIIスペクトリンは神経系で広く使われているため、その変化は脳や神経の症状として強くあらわれます。
ご家族にとって、この「骨組み」というイメージは、なぜ症状が脳全体に及ぶのかを理解する助けになります。1本の柱が曲がっただけでも建物全体のバランスが崩れるように、神経細胞の骨組みをつくる基本部品が乱れると、その影響は特定の場所にとどまらず、脳の広い範囲の神経ネットワークに及ぶことになります。これが、DEE5で発作と発達障害の両方が重く出やすい理由の背景にあります。
3. なぜ発作が起きるのか ─ ドミナントネガティブという仕組み
DEE5の重い症状は、単に「タンパク質が足りない」ためではなく、変化したタンパク質が正常なタンパク質のはたらきまで邪魔してしまうことで起こります。この仕組みを知ると、なぜ変異の場所によって重さが変わるのかが理解しやすくなります。
DEE5で最も重い症状を起こす変異は、αIIスペクトリンのC末端(末端側)にある最後の2つのくり返し構造(α19・α20リピート)に集中しています[2][4]。とくにこの部分は、αとβが正しくペアを組むための「接触面(結合ドメイン)」にあたります。ここに、アミノ酸が数個だけ増えたり減ったりするインフレーム変異が生じると、変化したαIIスペクトリンはβとうまく結合できません。そして厄介なことに、この不良品はただ働かないだけでなく、正常なタンパク質を巻き込んで大きな塊(凝集体)をつくってしまうことが、培養した神経細胞や患者さんの細胞で確認されています[2][4]。
💡 用語解説:ドミナントネガティブ効果とインフレーム変異
ドミナントネガティブ効果とは、変化したタンパク質が、正常なタンパク質のはたらきまで妨げてしまう現象です。2本ある遺伝子のうち1本だけの変化でも、つくられた不良品が正常品を道連れにするため、症状が強く出ます。単に量が半分になる(機能喪失)よりも重くなりやすいのが特徴です。
インフレーム変異とは、アミノ酸の数個ぶんが増えたり減ったりしても、その後の設計図の「読み枠」がずれずに保たれる変化です。タンパク質はほぼ全長つくられるため、かえって正常品に混ざり込んで悪さをしやすい、という側面があります。
この塊がどれだけできやすいかが、神経のダメージの重さと直接つながっていることも分かっています[4]。では、なぜ骨組みが崩れると「発作」という形であらわれるのでしょうか。鍵をにぎるのが、神経細胞が電気信号(活動電位)を出す起点である軸索起始部(AIS)という場所です。ここには電気信号のスイッチである電位依存性ナトリウムチャネルが高い密度で並んでおり、スペクトリンの網の目がそれを正しい位置に固定しています。
ところが、ドミナントネガティブ効果でスペクトリンの網の目が崩れると、このAISの構造がくずれ、ナトリウムチャネルの配置や感じやすさが大きく変わってしまいます[2][4]。その結果、電気信号を出すかどうかの「しきい値」が不安定になり、神経回路全体が一斉に暴走しやすくなります。これが、乳児期早期から極めて難治性のてんかん発作が起こる背景だと考えられています。骨組みの乱れが、神経の「電気の乱れ」に直結しているのです。
🔍 関連記事:ドミナントネガティブとは/点頭てんかん(West症候群)
図1:正常な神経細胞と、DEE5でのαIIスペクトリン骨組みの崩壊
正常な神経細胞
→ 安定した電気信号
DEE5の神経細胞
→ 難治性てんかん・発達障害
C末端の結合部位に変異が生じると、正常なタンパク質まで巻き込んで凝集し、神経細胞の足場と電気信号の起点(AIS)が崩れます。
4. 症状と経過 ─ 重症型(DEE5)でみられること
重症型のDEE5では、新生児期から乳児期早期にかけて、筋肉の緊張の異常や発作、発達の停滞があらわれ、時間とともに神経症状が進んでいきます。ここでは、実際に報告されている症状を、時間の流れに沿って整理します。お子さんの今の状態を理解し、これから何に備えるとよいかを考える手がかりにしてください。
最初のサインは、生後まもない時期の筋緊張の異常であることが多く、全身の筋緊張低下(ぐったりして力が入りにくい)で気づかれるケースが多く報告されています。20人の患者さんを詳しく調べた大規模な解析では、65%(20人中13人)で筋緊張低下が早期のサインとして認められました[4]。その後、首のすわりや寝返りといった基本的な運動の節目を達成できない、重い精神運動発達の遅れが明らかになっていきます。
てんかん発作は、この病気の中心的な症状です。同じ解析では、患者さんの95%(20人中19人)にてんかんがあり、そのうち多くが乳児期早期に発症する重い脳症のタイプでした[4]。最も多い発作の型は点頭てんかん(てんかん性スパスム)で、脳症を伴う患者さんの多くにみられ、平均して生後4か月ごろに始まると報告されています[4]。脳波でヒプスアリスミアという特徴的なパターンを伴うWest症候群の形をとることが多く、発作は複数の薬を組み合わせても止まりにくい(難治性)のが大きな特徴です。生後6週ごろの分節性ミオクローヌスに続いて生後3〜4か月で点頭てんかんが始まり、治療に強く抵抗した症例も報告されています[5]。
成長とともに、痙直性の四肢麻痺(手足のつっぱり)が固定していき、多くの患者さんが生涯にわたって歩行が難しい状態になります。加えて、皮質性・体幹性のミオクローヌス(一瞬ピクッとする不随意運動)や、背中と首が極端に反り返る後弓反張(こうきゅうはんちょう)、ジストニアといった運動障害を伴うことも高頻度で報告されています[4]。
認知や感覚の面では、重度の知的障害を伴い、実質的な言葉の発達はみられないことがほとんどです。とくに外の世界への視覚的な注意や、視線が合わないことは、この病気の際立った特徴としてしばしば挙げられ、大規模解析でも脳症の患者さんの71%にみられました[4]。また、生まれたときの頭囲は正常でも、その後の脳の発育不全のために頭囲の伸びが止まる後天性・進行性の小頭症が高頻度でみられ、これは発達の予後の悪さとも関連していました[4]。
神経以外の全身の合併症も、生活の質を大きく左右します。多くの患者さんで重い嚥下障害(飲み込みにくさ)や強い胃食道逆流を合併し、繰り返す誤嚥性肺炎を防いで栄養を保つために、胃ろう(PEG)などの経管栄養が必要になることが多くあります[4]。呼吸の管理が必要になる重症例も報告されています。ご家族にとって大切なのは、これらは一つひとつが「備えれば対応できる合併症」でもあるという点です。飲み込みや呼吸、栄養のサポート体制を早めに整えることが、お子さんの体調の安定につながります。
5. 脳MRIと脳波の所見 ─ 画像が語る重症度
DEE5では、脳のMRIと脳波に特徴的な所見があり、その程度が症状の重さとよく対応します。画像の変化は目に見える手がかりなので、ご家族が経過を理解する助けにもなります。
重症のDEE5で最も特徴的なMRI所見は、大脳の白質が十分に髄鞘化されない髄鞘形成不全(ハイポミエリネーション)と、時間とともに進む橋(きょう)と小脳の萎縮です[4]。髄鞘は神経の電気信号を速く伝えるための「絶縁の被膜」で、その形成が遅れると白質の量が減ります。20人の解析では、繰り返しMRIを撮影した9人全員で、脳の萎縮と髄鞘化の遅れが経過とともに進行していました[4]。萎縮は大脳・脳幹・小脳のいずれか、あるいは複数に及び、脳症の患者さんの93%にみられました。あわせて、左右の脳をつなぐ脳梁が薄くなる所見も高頻度で認められます[4]。
この「髄鞘形成不全+橋小脳萎縮」という組み合わせは、SPTAN1脳症を他の病気と見分けるうえでの重要な手がかり(ハルマーク)とされ、review論文でも中心的な特徴として位置づけられています[6]。逆に、結合部位から外れた変異を持つ軽症例では、MRIが正常か、進行の遅い軽度の萎縮にとどまることが多いことも分かっています[4]。つまり画像の重症度と、臨床症状の重症度は密接につながっているのです。
図2:重症型DEE5でみられる主な脳MRI所見
髄鞘形成不全
白質のミエリンが不足し、容積が減る
進行性の橋小脳萎縮
脳幹(橋)と小脳が経過とともに縮む
脳梁の菲薄化
左右の脳をつなぐ脳梁が薄くなる
脳室・くも膜下腔の拡大
脳が縮んだぶんを埋めるように広がる
これらの所見は繰り返し撮影で進行することが多く、その程度は発作の難治性や発達の遅れの重さと相関します。
脳波(EEG)も、発症早期からきわめて異常なパターンを示します。点頭てんかんが目立つ時期には、覚醒時も睡眠時も持続するヒプスアリスミアという所見がみられます。これは背景の脳波が完全に無秩序化し、非常に高い振幅の徐波と多焦点性の棘波(スパイク)が激しく混じり合う、てんかん性脳症に特有の所見です[4]。病気が進むにつれて、このパターンは徐々に変化し、両側の広い範囲での徐波リズムと多焦点性の棘波を伴う無秩序な背景活動へと移っていくことが多いと報告されています[4]。
💡 用語解説:ヒプスアリスミアと髄鞘(ミエリン)
ヒプスアリスミアは、点頭てんかん(West症候群)に特徴的な脳波パターンで、背景の波が乱れて非常に大きな波と多くのとがった波が入り混じった状態です。「脳の電気活動が嵐のように荒れている」状態とイメージすると分かりやすいでしょう。
髄鞘(ミエリン)は、神経線維を包む絶縁の被膜で、電気信号を速く正確に伝えるために欠かせません。DEE5ではこの被膜づくりが遅れるため、白質の量が減り、脳の情報のやりとりが妨げられます。
6. 変異の位置と種類は重症度と強く関連する ─ 同じ遺伝子でも違う結末
SPTAN1では、変異がタンパク質のどこに、どんなかたちで起きるかが、症状の重さと強く関連する重要な要素です。同じ遺伝子でありながら、極めて重いDEE5から、てんかんを伴わない歩行障害まで、幅広い症状が生じます。ここを理解すると、遺伝子検査の結果をどう受け止めればよいかが見えてきます。
20人を詳しく解析した研究では、変異のタイプ(欠失・重複・ミスセンス)とアミノ酸配列上の位置が、臨床的な重症度と強く関連する重要な要素であることが示されました[4]。これらC末端の変異は、αとβスペクトリンがペアを組む「核形成部位」にあたることが早くから指摘されていました[7]。とくに、C末端のαとβが結合する部位(ヘテロダイマー接触部位)に変異を持つ13人のうち12人は、重く進行する脳・脳幹・小脳の萎縮を示しました。一方、この結合部位から外れた場所に変異を持つ7人では、4人がMRI正常、3人が軽度の萎縮にとどまりました[4]。変異の「場所」が、臨床像の違いと強く関連していることが分かります。
🔍 関連記事:ミスセンス変異とは/ドミナントネガティブとは
さらに興味深いのは、同じアミノ酸領域でも「重複」か「欠失」かで結末が変わる点です。たとえばアミノ酸が増える重複変異「p.Arg2308_Met2309dup」を持つ患者さんは、極めて難治性の脳症と複雑な脳の異常を避けられませんでした[2][8]。一方、ほぼ同じ場所の欠失変異「p.(Asp2303_Leu2305del)」を持つ患者さんでは、小児期発症のてんかんはあっても、重い脳の発達障害やMRI上の明らかな構造異常を免れたケースが報告されています[4]。この対比は、変異解釈がいかに繊細かを教えてくれます。
病原性の評価には、コンピューターによる予測スコア(CADDやREVELなど)も補助的に使われます[4]。ご家族にとって重要なのは、遺伝子検査で「SPTAN1に変化がある」と分かっても、その変化がどのタイプでどこにあるかによって、意味が大きく変わるという点です。だからこそ、変異の解釈と、それがお子さんにとって何を意味するのかの説明には、専門的な評価が欠かせません。
7. 軽症型と運動障害型 ─ てんかんを伴わないSPTAN1の病気
SPTAN1の変化は、DEE5のような重い脳症だけを起こすわけではありません。てんかんも知的障害も伴わず、歩行障害だけを起こす軽い型も存在します。同じ遺伝子でこれほど幅があることを知っておくと、検査結果の意味を正しく受け止められます。
大規模解析では、患者さんの一部(およそ3割)は、乳児期以降にてんかんを発症し、抗てんかん薬への反応も比較的良好で、早期死亡のリスクが低い中間型を示しました[4]。このグループの変異は、結合ドメインから遠い場所にあることが多く、局所的な異常は起こしても、スペクトリンの網の目全体を壊滅させるような凝集には至らないため、神経へのダメージが限定的になると考えられています[4]。
さらに、てんかんや知的障害を一切伴わず、純粋な運動神経の障害だけを示すグループも報告されています。これには、常染色体顕性遺伝の痙性対麻痺91型(SPG91、OMIM 620538)や、遠位型遺伝性運動ニューロン障害11型(HMN11、OMIM 620528)が含まれます。22人14家系を調べた研究では、下肢の痙縮を主症状とする痙性対麻痺の患者さん15人が、同じミスセンス変異「p.Arg19Trp」を持っており、7家系のうち4家系で親から子へ受け継がれる遺伝形式、1例が新生突然変異でした[9]。別の解析では、この p.Arg19Trp はてんかんではなく痙性対麻痺に特異的で、合わせた患者さんの35%に感覚運動性の多発神経障害、30%に小脳失調を伴うと報告されています[10]。
また、小脳失調を主症状とするグループでは、「p.Lys2083del」という特定の欠失変異が複数の家系・孤発例で繰り返し確認されています[9]。こうした運動障害型では、神経細胞の長い軸索での輸送障害や、遠位部からの逆行性の変性が選択的に起きていると考えられています。同じSPTAN1でも、変異の性質によって「脳全体が影響を受ける型」と「長い神経だけが選択的に傷む型」に分かれるのです。遺伝学的に未診断の遺伝性痙性対麻痺の患者さんでは、検査項目にSPTAN1を含めることが推奨されています。
この幅広さは、ご家族にとって重要な意味を持ちます。血縁者の中に、原因不明の歩行障害や小脳失調の方がいる場合、それが同じSPTAN1の変化によるものである可能性もゼロではありません。遺伝形式が家系によって異なることもあるため、家族歴を丁寧に整理することが、血縁者の理解にもつながります。
8. 治療とケア ─ いま何ができるのか
現時点では、SPTAN1の変化そのものを治す根本的な治療法はまだなく、発作のコントロールと全身合併症の管理が中心になります。ただし、その中でも選択肢はあり、発症年齢や発作の型に応じた工夫が知られています。ここでは、いま現実に取り得る手立てを整理します。
DEE5のてんかんは、複数の薬を併用しても止まりにくい難治性を示すことが多く、大規模解析でも「これが優れているという特効薬は見つからなかった」と報告されています。患者さんは平均して5種類(1〜11種類)の抗てんかん薬を試されていました[4]。点頭てんかん(West症候群)の診断基準を満たす場合は、第一選択として副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)療法やビガバトリンが試されます。一部では、ACTH療法で一時的にスパスムが消え、脳波のヒプスアリスミアが改善することもありますが、その後も焦点発作が残り、既存の薬では制御が難しいことが多いのが実情です[4]。
薬物治療で難しい焦点発作に対しては、ケトン食療法(高脂肪・低糖質食)が一定の効果を示した報告があります。ACTH療法後も難治性の焦点発作が残っていた重症DEE5の男児にケトン食を導入したところ、発作頻度が徐々に減り、抗てんかん薬(フェノバルビタール)の休薬に成功したと報告されています[11]。この患者さんでは、いったんケトン食を中止すると発作が悪化し、他の新しい薬を追加しても無効でしたが、ケトン食を再導入すると速やかに改善が得られました[11]。生後6か月以内に発症した遺伝性の発達性てんかん性脳症を対象とした別の研究でも、SPTAN1を含む一部の遺伝子ではケトン食療法の有効性が高い傾向が示されています。
💡 用語解説:ケトン食療法とは
ケトン食療法は、糖質を大きく減らし脂肪を多くとることで、体のエネルギー源を糖からケトン体へ切り替える食事療法です。もともとはGLUT1欠損症や結節性硬化症などで効果が知られていますが、DEE5の難治性発作でも、細胞のエネルギー代謝の変更やケトン体自体の抗てんかん作用を通じて、過剰な興奮を抑える有用な選択肢になり得ることが示されています。導入と継続には、栄養管理を含めた医療チームのサポートが必要です。
薬の選び方には、ひとつ知っておきたい重要なポイントがあります。カルバマゼピンやフェニトインなどのナトリウムチャネル阻害薬は、SPTAN1関連てんかんでは発症年齢によって効き方が逆になる可能性が指摘されています。乳児期早期に発症したケースでは発作を減らす傾向がある一方、発症が比較的遅いケースでは、かえって発作を悪化させるリスクがあると報告されています。これはSCN2AやSCN1Aなど他のチャネル遺伝子の病気で知られる現象と似ており、遺伝子型と発症時期に基づいた慎重な薬剤選択(精密医療)の必要性を示しています。薬の選択は必ず、てんかんの専門的な診療のもとで行うことが大切です。
発作以外のケアも、生活の質を保つうえで欠かせません。飲み込みや栄養のサポート(必要に応じて胃ろう)、呼吸のケア、リハビリテーション、そしてご家族の負担を支える福祉制度の活用など、多職種が関わる総合的な支援が、お子さんとご家族の毎日を支えます。研究面では、αIIスペクトリンの異常な凝集を直接抑える分子標的薬や、スペクトリンの分解産物を血液・脳脊髄液で測って病態の進行をモニタリングする試みも進められており、将来の病態修飾療法につながることが期待されています。
9. 診断・遺伝の仕組み・検査 ─ どう調べ、何が分かるのか
DEE5の診断は、症状・脳波・MRIといった臨床所見をもとに疑い、最終的に遺伝学的検査でSPTAN1の病的変異を確認することで確定します。ここでは、診断の流れ、遺伝の仕組み、そして検査の選択肢を整理します。検査を受けるかどうかを含め、決めるのはご家族自身であり、私たちは中立の立場で判断材料を整理する役割を担います。
乳児期早期の難治性てんかんと発達の遅れがあり、MRIで髄鞘形成不全や橋小脳萎縮がみられる場合、SPTAN1脳症が鑑別に挙がります。ただし、早期発症のてんかん性脳症を起こす遺伝子は数多くあり、症状だけでは見分けがつきません。STXBP1脳症(DEE4)、CDKL5欠損症(DEE2)、KCNQ2脳症(DEE7)、SCN2A脳症(DEE11)などは、症状が重なり合います。そのため確定診断には、多数の遺伝子を一度に調べるパネル検査や、全エクソーム・全ゲノム解析が用いられます[4]。実際、これまで原因不明とされてきた乳児期の重いてんかんの多くが、こうした網羅的解析で原因遺伝子にたどり着けるようになっています。
🔍 関連記事(検査メニュー):てんかん包括的遺伝子検査(NGSパネル)/新生児てんかんNGSパネル/アクショナブルてんかんNGSパネル
遺伝の仕組みについてお伝えします。DEE5は常染色体顕性(優性)遺伝の病気で、2本ある遺伝子のうち1本の変化で発症します。重要なのは、その変化の多くがご両親にはなく、お子さんで初めて生じた新生突然変異(de novo)だという点です[2][4]。この場合、ご両親が原因を「持っていた」わけではありません。ご自身を責める必要はない、という点は、遺伝カウンセリングで必ずお伝えしたいことのひとつです。
💡 用語解説:新生突然変異(de novo)と生殖細胞モザイク
新生突然変異(de novo)とは、ご両親のどちらにもない遺伝子の変化が、卵子・精子ができる過程や受精のごく初期に新しく生じ、お子さんだけに認められるものです。DEE5の多くはこのタイプで、ご両親が原因を受け継がせたわけではありません。
ただし、次のお子さんでの再発率は完全にゼロとは言い切れません。生殖細胞モザイクといって、親の卵子や精子の一部にだけ同じ変化が潜んでいる可能性がわずかにあるためです。一般にde novo変異による疾患では、生殖細胞モザイクを考慮し、同胞(きょうだい)の再発リスクを約1%前後、状況によっては1〜2%程度と説明することがあります。ただし、SPTAN1に固有の正確な同胞再発率は確立していません。低いリスクであっても、この可能性を理解しておくことが、次の妊娠への備えになります。
出生前・妊娠を考える段階での検査についても触れておきます。SPTAN1は、当院の出生前検査であるNIPTのインペリアルプランで調べられる単一遺伝子のひとつに含まれています。これは主に、父親由来の精子に生じる新生突然変異のリスクに着目した検査です。ただし、すでにお子さんがDEE5と診断され、その変異が判明している場合の次子の出生前診断は、NIPTではなく確定検査で調べるのが原則です。妊娠してから調べる絨毛検査・羊水検査で胎児由来の細胞を直接調べる方法のほか、体外受精を前提に胚の段階で調べる着床前遺伝学的検査(PGT-M)という道もあります。いずれも適応や実施施設に条件があるため、時間に余裕をもって遺伝カウンセリングで相談されることをおすすめします。
当院では、こうした検査の前後で、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行います。話し合う内容は、検査で何が分かり何が分からないのか、結果がお子さんやご家族にとってどんな意味を持つのか、そして結果を受けてどのような選択肢があるのか、といった点です。当院は臨床遺伝専門医が運営し、カウンセリングから検査後の支援まで終始責任をもって支援します。NIPTで陽性となった方のための互助会の仕組みもありますので、不安を一人で抱え込まずにご相談ください。
📌 このページを読んだあなたへ
この記事にたどり着いた方は、いくつかの状況が考えられます。お子さんがDEE5と診断された方、これから遺伝子検査を検討している方、あるいは血縁者に原因不明の歩行障害や小脳失調がある方もいらっしゃるかもしれません。次に確認しておくとよい観点を、いくつか挙げておきます。
・遺伝形式と再発率 → 新生突然変異(de novo)・生殖細胞モザイク
・原因遺伝子そのものの働き → SPTAN1遺伝子・スペクトリン
・症状の幅(重症〜軽症・運動障害型) → 痙性対麻痺91型・発達遅延(てんかんを伴う/伴わない)
・検査の選択肢 → てんかん包括的NGSパネル・遺伝カウンセリング
10. よくある誤解
DEE5やSPTAN1について調べていると、断片的な情報から誤解が生まれやすいポイントがいくつかあります。ここでは、ご家族が特に不安に感じやすい4つの誤解を取り上げ、事実に基づいて整理します。正しく知ることが、次の一歩を落ち着いて考える助けになります。
誤解①「SPTAN1に変化があれば、必ず重い脳症になる」
そうとは限りません。変異の位置と種類で重症度が大きく変わり、てんかんも知的障害も伴わない歩行障害だけの軽い型もあります。C末端の結合部位の重複は重く、そこを外れた変異は軽くなりやすい、という傾向が報告されています。
誤解②「親のどちらかが原因を持っていたはず」
DEE5の多くは新生突然変異(de novo)で、ご両親のどちらにもない変化がお子さんで初めて生じたものです。ご両親が原因を受け継がせたわけではなく、ご自身を責める必要はありません。
誤解③「新生突然変異なら、次の子には絶対に起きない」
再発率は低いですが、完全にゼロではありません。親の卵子や精子の一部に同じ変化が潜む生殖細胞モザイクの可能性があるためで、一般にde novo変異による疾患では、生殖細胞モザイクを考慮して同胞再発リスクを約1%前後、状況によっては1〜2%程度と説明することがありますが、SPTAN1に固有の正確な同胞再発率は確立していません。
誤解④「難治性だから、できることは何もない」
発作は止まりにくいものの、ケトン食療法が有効だった報告や、発症年齢に応じた薬剤選択の工夫が知られています。発作以外の合併症ケアも含め、その子に合う手立てを探していくことが大切です。
よくある質問(FAQ)
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参考文献
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