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発達性てんかん性脳症27(DEE27)は、GRIN2B遺伝子の新生突然変異によって乳幼児期から難治性てんかんと重度の発達遅滞を引き起こす、極めて稀な神経発達異常症です。原因となる変異が受容体の働きを高めるか弱めるかという機能的な方向性によって治療戦略が真逆になるという特徴があり、近年はL-セリンやラジプロジルなど、変異の性質に合わせた個別化医療の臨床試験が大きな進展を見せています。
Q. 発達性てんかん性脳症27(DEE27)とはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです
A. GRIN2B遺伝子の異常により、乳幼児期から重度の発達遅滞と難治性のてんかん発作を起こす神経発達障害です。NMDA受容体というシナプスの働きに不可欠なタンパク質に異常が生じることが原因で、変異の性質によって受容体の働きが高まる「機能獲得型」と弱まる「機能喪失型」に分かれ、それぞれ最適な治療が異なります。
- ➤疾患の定義 → OMIM 616139、世界での報告例は100名未満の超希少疾患
- ➤原因遺伝子 → 12番染色体短腕のGRIN2B遺伝子(NMDA受容体のGluN2Bサブユニット)
- ➤主な症状 → 言語遅滞89%・知的障害85%・筋緊張低下56%・てんかん50%
- ➤最新治療 → L-セリン補充療法(LoF型)、ラジプロジル(GoF型)の臨床試験が進行中
- ➤遺伝形式 → 常染色体顕性(優性)遺伝。大多数は新生突然変異で発症
1. 発達性てんかん性脳症27(DEE27)とは
発達性てんかん性脳症27(Developmental and Epileptic Encephalopathy 27:DEE27、OMIM 616139)は、乳幼児期に発症する難治性のてんかん発作と、重度かつ進行性の精神運動発達遅滞を中核症状とする、極めて稀少な神経発達障害です。国際的には「GRIN2B関連神経発達異常症(GRIN2B-related neurodevelopmental disorder)」とも呼ばれ、かつては「早期乳児てんかん性脳症27(EIEE27)」という旧称でも知られていました。「知的発達障害 常染色体顕性6型(MRD6)」とは同じGRIN2B遺伝子を原因としつつ、より重症かつてんかん性脳症の表現型を示すスペクトラムの一端を構成しています。
かつて「てんかん性脳症」という概念は、頻発するてんかん発作や脳波上の異常なてんかん性発射そのものが、進行性の認知機能低下や行動異常を引き起こす疾患群として定義されてきました。しかし、次世代シーケンサー(NGS)をはじめとする網羅的遺伝子解析技術の進歩により、DEE27を含む多くの疾患では、てんかん発作による二次的な脳へのダメージだけでなく、根底にある遺伝子の病的バリアントそのものが直接的に脳の発達異常を引き起こしていることが明らかになりました。
このパラダイムシフトにより、現在では「発達性およびてんかん性脳症(Developmental and Epileptic Encephalopathies:DEEs)」という名称が広く採用されており、発達遅滞とてんかんが独立して、しかし相互に影響を及ぼしながら進行する病態であることが認識されています。
💡 用語解説:常染色体顕性(優性)遺伝
「常染色体」とは性染色体(X・Y)以外の染色体のことで、「顕性(優性)」とは、2本ある染色体のうちどちらか1本に変異があるだけで症状が出ることを意味します。DEE27では、両親から受け継いだ2本のGRIN2B遺伝子のうち1本に変異があるだけで発症します。ただし、DEE27の大多数は親から受け継いだものではなく、精子・卵子の形成過程や受精直後に突発的に生じた新生突然変異(de novo変異)によって起こります。
現在までに医学文献で報告されているDEE27の患者数は世界的に見ても100名未満にとどまり、日本国内での確認例も極めて少数です。ただしSimons Searchlightなどの大規模な患者レジストリや進行中の臨床研究を通じて、潜在的な患者数はより多いことが示唆されており、遺伝学的検査の普及に伴って正確な診断を受ける患者数は急速に増加しています。
2. 原因遺伝子GRIN2BとNMDA受容体の役割
GRIN2B遺伝子の基本情報
DEE27は、第12番染色体短腕(12p13.1)に位置するGRIN2B遺伝子のヘテロ接合性病的バリアントを原因とします。GRIN2Bは、中枢神経系における主要な興奮性神経伝達物質受容体であるN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体の「GluN2Bサブユニット」をコードしています。
NMDA受容体は、リガンド依存性のイオンチャネルであり、中枢神経系における興奮性シナプス伝達の遅いカルシウム透過性コンポーネントを担っています。機能的なNMDA受容体は、2つのGluN1サブユニット(GRIN1遺伝子がコード)と、2つのGluN2サブユニット(GluN2A、2B、2C、2Dのいずれか)から構成されるヘテロ四量体構造を持ちます。
💡 用語解説:NMDA受容体とシナプス可塑性
NMDA受容体は、神経細胞同士の接合部(シナプス)に発現する受容体の一つで、グルタミン酸という興奮性の神経伝達物質によって活性化されます。活性化するとカルシウムイオンが細胞内に流入し、それが引き金となって「学習・記憶・神経回路の形成」の基盤となるシナプス可塑性(シナプスの結合の強さを変化させる仕組み)が制御されます。GluN2Bサブユニットは特に胎児期から乳幼児期の脳に多く発現し、脳の正しい配線づくりに欠かせない役割を担っています。
病的変異が集積する部位
DEE27の原因となるミスセンス変異の多くは、NMDA受容体の細胞膜を貫通する膜貫通セグメントや、リガンド結合部位、さらにはチャネルの開口を決定的に制御するS1-M1リンカー領域にクラスター(集積)していることが確認されています。これにより、受容体の物理的構造が変化し、イオン透過性やシグナル伝達に重大な障害が生じます。
💡 用語解説:ミスセンス変異と新生突然変異(de novo変異)
ミスセンス変異とは、DNAの塩基が1つ変化することで、タンパク質を構成するアミノ酸が別の種類に置き換わるタイプの変異です。タンパク質の形や働きが変わってしまうため、機能に大きな影響を及ぼすことがあります。
新生突然変異(de novo変異)とは、両親の精子・卵子、または受精直後に新しく生じた変異で、両親の遺伝子には同じ変異が存在しないものを指します。DEE27の多くはこのde novo変異として発症します。
3. 変異の機能的二極化:GoFとLoFが治療を分ける
DEE27の病態を理解し、将来の治療方針を決定するうえで最も重要な概念は、同じGRIN2B遺伝子の変異であっても、受容体への影響は単一ではなく真逆の方向に分かれるという事実です。バリアントの性質によって、NMDA受容体の機能は以下の2つの相反する病態へと分岐します。
🔻 機能喪失型(Loss-of-Function:LoF)
病態:変異により機能的なGluN2Bタンパク質が産生されない、または受容体のイオンチャネルとしての働きが低下する。
細胞レベル:細胞膜表面の機能的NMDA受容体が減少し、興奮性シグナルが不足。シナプス可塑性が低下する。
臨床傾向:比較的軽度〜中等度の知的障害が中心。自閉症スペクトラム症状が顕著な傾向。
🔺 機能獲得型(Gain-of-Function:GoF)
病態:変異により受容体が過剰に活性化する、またはチャネルが開口したまま閉じにくくなる。
細胞レベル:カルシウムイオンが細胞内に過剰流入し、神経細胞が持続的に過興奮(興奮毒性)する。
臨床傾向:より重篤な知的障害と難治性てんかん性脳症と強く関連する。
💡 用語解説:機能獲得型変異と機能喪失型変異
機能獲得型変異(GoF)は、タンパク質が「正常以上に働きすぎる」変異です。一方機能喪失型変異(LoF)は、タンパク質の働きが「失われる・弱くなる」変異です。同じ遺伝子の変異でも、起こる現象が真逆になるため、治療戦略もまったく逆になります。GoFには「抑える薬」、LoFには「働きを底上げする物質」が必要であり、変異の性質を見極めずに治療を選ぶと病状を悪化させてしまう危険性があります。
特にGoF変異に起因する過剰な興奮毒性は、神経細胞のイオンバランスを崩壊させ、神経機能の歪みをもたらします。代謝産物の過剰な蓄積やエネルギー代謝の崩壊は、細胞間のシグナル伝達を阻害し、神経炎症を促進させ、最終的には細胞死や大脳容量の不可逆的な喪失(脳萎縮)につながる危険性を内包しています。一方で、ナンセンス変異などのLoF系の変異はハプロ不全を介して興奮/抑制(E/I)バランスを抑制側に傾け、シナプス形成の遅延や欠如を引き起こします。
4. 主な症状と合併症のスペクトラム
DEE27の臨床像は多岐にわたり、神経学的、身体的、行動学的な複数の領域に影響を及ぼします。Simons Searchlightのレジストリデータ(54名対象)に基づく代表的な症状の合併頻度を以下にまとめます。
🧠 神経・発達
- 言語発達遅滞:89%
- 知的障害/発達遅滞:85%
- てんかん発作:50%
- 筋緊張低下:56%
- 痙縮:23%
- 運動障害(ジストニア等):10%
🩺 身体・行動・合併症
- 便秘:53%
- 胃食道逆流症(GERD):41%
- 自閉症スペクトラム症状:26%
- 小頭症:18%
- 脳MRI異常:13%
- 皮質視覚障害:8%
精神運動発達遅滞と知的機能障害
影響を受けた小児では、発達のマイルストーンの明らかな遅延が乳児期早期から観察されます。Simons Searchlightのレジストリデータでは、知的障害の重症度は重度〜最重度が61%、中等度が24%、軽度が15%という分布を示します。特に言語機能への影響は深刻な傾向があり、約89%の患者で言語発達遅滞または言語障害が報告されています。一部の重症例では、成長しても意味のある発語が全く獲得されない「無発語」の状態となります。少数(約7%)ですが、一度獲得した言語や運動スキルを喪失する発達退行のエピソードを経験する症例も報告されています。
てんかん発作の特性
てんかんは患者の約50〜51%に認められ、発症年齢は出生直後の新生児期から9歳までと幅広いものの、多くは乳幼児期に最初の発作を経験します。発作の表現型は単一ではなく、患者の成長に伴って変化することが多いのが特徴です。観察される主な発作型には、強直間代発作などの全般発作(約58%)、意識減損を伴うことがある焦点発作(約48%)、しばしばウエスト症候群(点頭てんかん)として診断されるてんかん性スパスム(約35%)などがあります。レノックス・ガストー症候群へ移行するケースや、ミオクロニー発作を呈するケースも存在します。
特筆すべきは、治療介入を受けた患者の約半数において、複数の既存の抗てんかん薬を試みても発作が抑制されない治療抵抗性(難治性)を示す点です。これがDEE27を「てんかん性脳症」と位置づける根拠の一つとなっています。
筋緊張異常と運動障害
運動器系への神経学的影響は非常に頻度が高く、患者の移動能力や日常生活動作に大きな影響を与えます。筋緊張低下は約56%に見られる最も一般的な運動症状で、特に体幹の筋緊張低下は、頭の座りや姿勢保持の困難さを招きます。痙縮は約23%に見られ、これらの患者はすべて重度の知的障害を伴っていました。約10%の患者では、大脳基底核ネットワークの異常に起因すると考えられるジストニア・ジスキネジア・舞踏運動(コレア)などの異常運動が認められます。
脳の構造的異常(MRI所見)
多くのDEE27患者は特筆すべき大脳の構造的異常を持ちませんが、一部(約13%)では頭部MRI画像で大脳皮質形成異常(MCD)などの明確な構造的異常が検出されます。具体的には、大脳表面に異常に小さく多数の脳回が形成される多小脳回、左右の大脳半球を繋ぐ脳梁の低形成、肥大し軽度に形成異常を伴う基底核の異常、厚い葉層と開いた門を持つ海馬の形成異常などが報告されています。これらの所見は、GRIN2Bが胎児期の神経細胞の遊走および脳構築に深く関与している証拠です。
神経行動学的症状と身体的合併症
てんかんや運動障害に加えて、行動上の課題や自律神経系・消化器系の合併症が日常的なケアにおいて重大な負担となります。約26%の患者が自閉症スペクトラム障害または自閉症様の特徴を示し、多動性、衝動性、極度の不安、注意散漫、重度の睡眠障害が頻繁に観察されます。一部の患者は過度に友好的な性格特性を持つと表現されることもあり、社会的相互作用に特異なパターンを示します。重度の筋緊張低下と口腔運動制御の未熟さから、重篤な摂食困難や嚥下障害を引き起こし、経管栄養を必要とするケースも少なくありません。便秘(53%)と胃食道逆流症(41%)も高頻度に合併します。
5. 鑑別診断:他のDEEとの違い
DEE27は、他の多くの先天異常症候群に見られるような特異的で際立った顔貌を伴わないことが多く、臨床症状の多様性と幅広いスペクトラムから、問診・脳波検査・頭部MRIなどの一般的な神経学的検査のみで確定診断を下すことは極めて困難です。鑑別が必要となる主な疾患を整理します。
MRD6(同じGRIN2B遺伝子の軽症型)
同じGRIN2B遺伝子の変異で生じますが、てんかん発作が比較的軽症または認められないケースが含まれます。詳細はMRD6(IDD-AD6)のページをご参照ください。
他のGRIN関連DEE
GRIN1(DEE8)やGRIN2A、GRIN2Dなど、NMDA受容体の別のサブユニットをコードする遺伝子変異でも類似のてんかん性脳症が生じます。遺伝子検査でないと区別できません。
他の単一遺伝子性DEE
SLC6A1関連神経発達障害、STXBP1脳症、SCN1A/SCN2A関連てんかん、チューブリン異常症など、多数の原因遺伝子で類似表現型が報告されています。
こうした多様な鑑別疾患群が存在するため、最終的かつ確定的な診断は分子遺伝学的検査によってGRIN2B遺伝子上の病的バリアントを直接同定することに完全に依存します。
6. 診断アプローチと遺伝子検査
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出生後の診断:多層的なシーケンス戦略
DEE27が疑われる乳幼児に対する標準的なアプローチは、以下の段階的な検査戦略です。
- ➤多遺伝子パネル検査:発達遅滞・知的障害・自閉症・てんかん性脳症を呈する乳幼児に対する第一線の検査として、GRIN2Bを含む数十〜数百の関連遺伝子を網羅的にスクリーニングします。当院では新生児てんかんNGSパネルや小児てんかんNGSパネル(2歳以降発症)、発達障害・学習障害・知的障害遺伝子検査(562遺伝子)、自閉症遺伝子検査(122遺伝子)でGRIN2Bを含めた解析が可能です。
- ➤全エクソーム解析(WES)・全ゲノム解析(WGS):パネル検査で原因が特定されない場合や、症状が非典型的で複数の症候群の重複が疑われる場合に、全エクソーム解析や全ゲノム解析が適用されます。これにより稀なミスセンス変異や新規のde novo変異が網羅的に検出できます。
- ➤欠失/重複解析:GRIN2B遺伝子全体や一部のエクソンにまたがる大規模な欠失・重複(コピー数変異:CNV)は短鎖リードNGSでは検出が困難な場合があるため、マイクロアレイ染色体検査(CMA)やMLPA法が状況に応じて併用されます。
出生前の診断について
家族内で既知の変異がある場合(先に生まれたお子さんが診断されており、次子の検査を希望する場合など)には、羊水検査・絨毛検査による出生前遺伝学的検査で変異の有無を確認できます。家族歴がない初発のケースでも、GRIN2Bを含むNIPTインペリアルプランのような単一遺伝子NIPTで、母体血液から胎児由来DNAを解析することにより、de novo変異を出生前にスクリーニングする選択肢があります。検査を受けるかどうかは、ご家族で十分に話し合ったうえでお決めください。
💡 用語解説:診断後の機能的層別化
GRIN2B変異が同定された段階で「診断」は確定しますが、最新の医療ではそこで終わらず、その変異が機能獲得型(GoF)か機能喪失型(LoF)かを試験管内(インビトロ)の機能アッセイで判定することが推奨されています。これを「機能的層別化」と呼びます。この層別化が、次に説明する個別化医療(プレシジョン・メディシン)の出発点になります。
7. 標準的な治療と集学的支持療法
現時点で、DEE27に対して完全に治癒をもたらす根本治療は確立されていません。しかし、包括的かつ多職種連携による対症療法と緻密な管理プランは、患者のQoL(生活の質)を最大化し、二次的な合併症を予防するうえで不可欠です。
てんかんの管理
てんかんの発作コントロールは、興奮毒性による細胞死を防ぎ、認知機能のさらなる低下を食い止めるうえで最優先事項の一つです。小児神経科医の専門的介入のもと、患者の発作タイプと脳波所見に応じた抗てんかん薬(ASMs)が選択されます。ただし、約半数の患者は複数の既存薬に対して難治性を示すため、多剤併用療法が避けられない場合も多くなります。特定のケースでは、ケトン食療法などの非薬物療法的アプローチや、迷走神経刺激療法(VNS)が検討されることもあります。
発達支援とリハビリテーション
理学・作業療法(PT・OT)
全体的な筋緊張低下、運動発達の遅れ、痙縮、微細運動の困難に対して、早期からの継続的なPT・OTが重要です。関節拘縮の予防や姿勢管理は長期的なケアの柱となります。
言語聴覚療法(ST)とAAC
表出言語が著しく制限されるケースが多いため、発声器官の訓練に加え、手話・絵カード交換・視線入力などを用いた拡大代替コミュニケーション(AAC)デバイスの導入評価が推奨されます。
栄養・消化器管理
嚥下障害・誤嚥性肺炎のリスクが高いため、STによる摂食指導が必要です。安全な栄養維持が困難な場合は経鼻胃管や胃ろう(PEG)の造設が適応となります。
睡眠・行動の管理
激しい多動性・衝動性・不眠に対しては、応用行動分析(ABA)などの行動療法に加え、必要に応じてメラトニン受容体作動薬等の薬物介入が行われます。
8. プレシジョン・メディシン(個別化医療)の最前線
近年、GRIN2B関連障害の治療パラダイムは、単なる症状の抑制(対症療法)から、変異の機能的性質(GoF/LoF)に基づいた個別化医療へと大きく飛躍しつつあります。NMDA受容体の活動を特異的に調節する新規治療薬の臨床試験が世界各地で進行中です。
⚠️ 重要:機能的層別化なしの投与は危険
機能が低下しているLoF患者に「抑制薬」を投与すると認知機能や発達がさらに悪化する危険性があり、逆に過興奮状態のGoF患者に「増強薬」を投与すれば、興奮毒性やてんかん発作を劇的に悪化させる致命的なリスクとなり得ます。したがって、インビトロ機能アッセイでバリアントの正確な影響を判定してから治療薬を選択することが絶対条件です。
機能喪失型(LoF)に対するアプローチ:L-セリン補充療法
機能喪失型(LoF)バリアントにより受容体の活動が低下している患者に対しては、受容体の働きを底上げする戦略が取られます。その筆頭が、アミノ酸の一種であるL-セリン(L-serine)を用いた補充療法です。
経口摂取されたL-セリンは体内でD-セリンへと異性化され、D-セリンがNMDA受容体のグリシン結合部位に内因性の共作動薬として結合します。これにより、機能が低下している変異型NMDA受容体のチャネル開口確率を上昇させ、不足しているグルタミン酸作動性シグナル伝達を部分的に回復させる効果が期待されます。
2024年にBrain誌で報告された第2A相非ランダム化オープンラベル試験(NCT04646447)では、LoF変異を持つ24名のGRIN関連障害患者に対し、L-セリンが1日250mg/kgから開始され3週間かけて目標維持用量である500mg/kg/日まで漸増され、12ヶ月間投与されました。結果、粗大運動機能(GMFM-88総スコア)と生活の質(PedsQL総スコア)に統計的に有意な改善が認められ、もともと軽度のグループでは適応行動(VABS-II)の日常生活スキルや表出言語ドメイン、重度グループではBayley-III認知サブドメインで有意な改善が記録されました。5名の小児で脳波パターンの正常化が見られ、1名ではてんかん発作の頻度減少が確認されています。
機能獲得型(GoF)に対するアプローチ:ラジプロジル
機能獲得型(GoF)バリアントによる過剰開口と致死的なカルシウム流入(興奮毒性)に対しては、受容体の活動を抑制または調節する薬剤が選択されます。米国GRIN Therapeutics社が開発を推進しているラジプロジル(Radiprodil)は、NMDA受容体のGluN2Bサブユニットに対する強力かつ選択的な「負のアロステリックモジュレーター(NAM)」です。
💡 用語解説:負のアロステリックモジュレーター(NAM)
受容体の主要な作動部位ではなく「別の部位(アロステリック部位)」に結合して、その活動を微調整する薬剤です。チャネルを完全に塞いでしまう従来のブロッカーと異なり、正常なシナプス伝達は保ったまま過剰な活性化だけを抑えるため、副作用を回避しつつ異常なE/Iバランスを是正できる理想的なアプローチとされています。
初期段階のPhase 1b/2a試験「Honeycomb試験」において、GoFバリアントを持つGRIN関連神経発達障害患者15名に対し、有望な安全性と有効性が示されました。これを受け、現在グローバルな第3相ピボタル試験「Beeline試験」がヨーロッパ・米国・アジアで患者登録を進めています。Beeline試験は、「週に1回以上のカウント可能な発作を経験する患者」と「てんかんがない、あるいは発作が少ないが神経発達症状が主体の患者」の2コホート構成となっており、発作抑制だけでなく発達遅滞や認知機能の改善にも直接寄与するかが検証されています。
メマンチンの適応外使用
アルツハイマー病治療薬として承認されているメマンチンは、非競合的で使用依存的なNMDA受容体チャネルブロッカーです。GoF変異を持つ一部の患者で、適応外使用による発作頻度の減少や、手の巧緻運動・睡眠・行動面での主観的改善をもたらしたケースレポートが複数存在します。ただしその効果には個人差が大きく、LoF変異の患者に誤って投与された場合には有害事象を引き起こした事例も報告されており、事前の機能評価なしでの経験的な投与は推奨されません。
レスキューtRNAなど次世代アプローチ
ナンセンス変異を持つ患者に対しては、ウイルスベクターを用いて特殊な「レスキューtRNA」を脳内に直接送達し、誤った停止信号をバイパスして完全長のGRIN2Bタンパク質産生を回復させる遺伝子治療の検証が進められています。また、病的なアレルを選択的に抑制するアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)療法の前臨床研究も模索されています。
9. 遺伝カウンセリングと再発リスク
DEE27は常染色体顕性(優性)遺伝疾患ですが、大多数のケースはde novo変異(患者本人の代で初めて生じた突然変異)によります。両親の末梢血を用いた遺伝子検査で当該変異が認められない場合、理論上、次子が同じ疾患に罹患するリスクは一般集団のベースラインリスクと同等に低くなります。
ただし、親の生殖細胞(精子・卵子)の一部にのみ変異が存在し、血液検査では検出されない生殖細胞系列モザイク(germline mosaicism)の可能性が完全にゼロではないため、次子の再発リスクは経験的に約1%程度と見積もって遺伝カウンセリングが行われます。
将来の妊娠に向けた選択肢として、羊水検査・絨毛検査による出生前診断、着床前遺伝学的検査(PGT-M)、単一遺伝子NIPT(インペリアルプラン)などがあります。それぞれの利点と限界、検出可能な変異の範囲については、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーから個別に説明を受けられます。遺伝カウンセリングでは、医学的情報の提供にとどまらず、ご家族が納得できる意思決定にたどり着くまでの心理的サポートも行われます。
10. よくある誤解
誤解①「親が健康だから遺伝病ではない」
DEE27の多くは新生突然変異(de novo変異)で発症するため、両親には同じ変異が存在しないことがほとんどです。「家族歴がない=遺伝病ではない」という誤解が、正確な診断を遅らせる原因になります。
誤解②「GRIN2B変異なら全員同じ治療でいい」
同じGRIN2B変異でも、機能獲得型(GoF)と機能喪失型(LoF)では治療戦略がまったく逆です。事前の機能評価をせずに薬を選ぶと、症状を悪化させる可能性があります。
誤解③「てんかんさえ抑えれば発達は追いつく」
発作のコントロールは重要ですが、発達遅滞はてんかん発作の二次的影響だけでなく、GRIN2Bの異常そのものが脳の発達に直接影響を与えた結果でもあります。発達支援は並行して進める必要があります。
誤解④「希少疾患だから治療法はない」
かつてはそうでしたが、L-セリンやラジプロジルなどの変異の性質に基づく個別化治療の臨床試験が進行中です。早期診断と機能的層別化により、将来的に有望な治療選択肢にアクセスできる可能性があります。
よくある質問(FAQ)
🏥 難治性てんかん・遺伝子検査のご相談
DEE27をはじめとする発達性てんかん性脳症や希少遺伝性疾患のご相談は、
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参考文献
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