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発達性てんかん性脳症14型(DEE14)とは?KCNT1遺伝子変異による難治性てんかんの原因・症状・最新治療

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

発達性てんかん性脳症14型(DEE14)は、KCNT1遺伝子の変異により、生後6か月以内に治りにくい(難治性の)てんかん発作を起こす、きわめて稀な赤ちゃんの神経の病気です。発作そのものが脳の発達を直接さまたげてしまうため、早い時期からの正確な診断と、遺伝子のしくみに合わせた治療(精密医療)が、これまでになく重要になってきています。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16分
🧬 KCNT1遺伝子・難治性てんかん・臨床遺伝
臨床遺伝専門医監修

Q. 発達性てんかん性脳症14型(DEE14)とはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. KCNT1という遺伝子の変異によって、生後6か月以内に治りにくいてんかん発作が始まる、超希少な「発達性てんかん性脳症」です。発作が脳のさまざまな場所を移動する「遊走性焦点発作」が特徴で、発作とともに発達が止まったり、後戻り(退行)したりすることがあります。多くは両親から受け継いだのではない「新生突然変異(de novo)」で起こります。

  • 疾患の定義 → OMIM 614959、原因はKCNT1遺伝子(9番染色体 9q34.3)、世界的に超希少
  • 分子メカニズム → 多くが「機能獲得型変異」。抑制役の神経細胞が黙ってしまう“脱抑制”で発作が起こる
  • 主な症状 → 遊走性焦点発作、発達の停止・退行、小頭症、筋緊張の低下
  • 治療 → ケトン食が比較的有効。次世代治療(核酸医薬ASO・経口の精密低分子薬)の臨床試験が進行中
  • 検査 → 出生後はトリオ全エクソーム解析・てんかん遺伝子パネル。出生前はNIPT(インペリアルプラン)での評価が選択肢

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1. 発達性てんかん性脳症14型(DEE14)とは

発達性てんかん性脳症14型(Developmental and Epileptic Encephalopathy 14:DEE14)は、世界の遺伝病カタログであるOMIMに614959番として登録されている、赤ちゃんの時期に発症するきわめて重い神経の病気です。以前は「早期乳児てんかん性脳症14(EIEE14)」や「乳児遊走性焦点発作を伴うてんかん(EIMFS)」とも呼ばれてきましたが、現在はてんかん発作そのものが脳の機能を直接むしばみ、発達を後戻りさせる「発達性てんかん性脳症(DEE)」というグループのひとつとして位置づけられています。

💡 用語解説:てんかん性脳症(てんかんせいのうしょう)とは

単に「発作が起こる」だけでなく、激しいてんかん発作や脳波の異常そのものが、赤ちゃんの脳の発達をさまたげてしまう状態をいいます。つまり「もともとの発達の遅れ」と「発作による二次的なダメージ」の両方が重なるのが特徴です。だからこそ、発作をできるだけ早く・しっかり抑えることが、その後の発達を守るうえで大切になります。

この病気の根っこにあるのは、第9染色体の長腕(9q34.3)にあるKCNT1遺伝子の変異です。多くのお子さんでは、この変異は両親から受け継いだものではなく、お子さんで初めて新しく生じた「新生突然変異(de novo)」として起こります。ただし、症状のない親御さんが体の一部の細胞や生殖細胞にだけ変異を持つ「モザイク」というケースもあり、その場合は次のお子さんに受け継がれる可能性があります。そのため、次のお子さんのリスクを正しく見積もるには、ご両親の精密な遺伝子検査が欠かせません。

💡 用語解説:新生突然変異(de novo)/モザイク

新生突然変異(de novo)とは、両親の精子・卵子がつくられるときや受精の直後に新しく生じた変異で、ご両親には同じ変異がありません。「家系に病気がないのに発症する」のは、これが理由です。

モザイクとは、体の細胞の一部だけに変異がある状態です。親御さんがごく一部の細胞にだけ変異を持っていると、見た目には健康でも、卵子や精子を通じてお子さんに伝わることがあります。

基本情報 内容
疾患名 発達性てんかん性脳症14型(DEE14)/旧称EIEE14・EIMFS
OMIM番号 614959
原因遺伝子 KCNT1(9q34.3)
遺伝形式 常染色体顕性(優性)遺伝。多くは新生突然変異(de novo)
発症時期 生後6か月以内(多くは数週〜数か月)
頻度 超希少(ウルトラ・レア)。出生10万人あたり約1人以下と報告

2. 原因遺伝子KCNT1と発作が起こるしくみ

DEE14を理解するうえでの中心は、KCNT1遺伝子がつくる「Slack(スラック)チャネル」という部品と、その変異が引き起こす不思議なメカニズムです。一見すると逆説的に思えるしくみが、この病気の本質を物語っています。

💡 用語解説:イオンチャネル/カリウムチャネルとは

神経細胞の表面には、特定の電気を帯びた粒(イオン)だけを通す“ゲート(門)”がたくさんあります。これをイオンチャネルといいます。KCNT1がつくるのはそのうちカリウムイオンを外に出すチャネル(KNa1.1/Slackチャネル)で、神経細胞が興奮しすぎないようにする“ブレーキ役”を担っています。連続して電気信号が出るとナトリウムが細胞内に増え、それを感知してこの門が開き、カリウムを外に逃がして細胞を静めます。

大半は「機能獲得型変異」——ブレーキが効きすぎる

KCNT1関連てんかんで見つかる変異のほとんどは、チャネルのはたらきを過剰に強めてしまう「機能獲得型(Gain-of-Function:GOF)」です。これまで機能解析された変異のほぼすべてがGOFを示すことが確認されています。変異したチャネルは、安静時でも開きっぱなしになり、カリウムを過剰に流し出します。そして病気の重さと、安静時にチャネルが開いている度合いには正の相関があることも報告されています。

💡 用語解説:ミスセンス変異と機能獲得型変異

ミスセンス変異とは、遺伝子の文字(塩基)が1つ変わることで、設計図のアミノ酸が別の種類に入れ替わる変異です。タンパク質の形が変わり、はたらきに影響します。

機能獲得型変異とは、部品が「こわれて働かなくなる」のではなく、逆に「効きすぎる・暴走する」方向に変わる変異です。KCNT1ではブレーキ役のチャネルが効きすぎてしまいます。

なぜブレーキが効きすぎると“発作”になるのか——脱抑制という逆説

普通に考えれば、カリウムチャネルが効きすぎると神経は静かになり、発作とは反対の方向に進むはずです。ところが現実は逆です。その答えは、このチャネルが「興奮役」だけでなく「抑制役(ブレーキ役)の神経細胞」にも強くはたらいている点にあります。抑制役の神経細胞でブレーキが効きすぎると、その細胞自身が深く静まりかえって発火をやめてしまいます(サイレンシング)。すると、回路全体を抑えていた“見張り役”がいなくなり、興奮役の神経細胞が制御を失って暴走します。これを脱抑制(disinhibition)と呼び、強力なてんかん発作を引き起こすのです。

💡 用語解説:脱抑制(だつよくせい)

脳は「アクセル役(興奮性ニューロン)」と「ブレーキ役(抑制性ニューロン)」のバランスで動いています。脱抑制とは、このブレーキ役が働けなくなり、アクセルが効きっぱなしになる状態のこと。動物モデルの研究でも、変異を持つ神経細胞は持続的な過興奮と過同期の一斉発火を示し、重い型では神経回路そのものが崩壊することが確認されています。DEE14で進行性の発達退行や脳の萎縮が起こるのは、単なる発達の遅れではなく、過剰な興奮による神経細胞のダメージ(興奮毒性)が関わっていると考えられています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【“効きすぎる”病気だからこそ、薬の選び方が難しい】

「カリウムチャネルが効きすぎる病気」と聞くと、では薬で抑えればよいと思われるかもしれません。ところがこの病気は、ブレーキ役の神経が黙ってしまう“脱抑制”という回り道で発作が起こるため、ふつうの抗てんかん薬がなかなか効きません。しくみを正しく理解することが、治療法を選ぶ出発点になります。

同じKCNT1の変異でも、変異の“場所”によって薬の効きやすさが変わることもわかってきました。だからこそ、遺伝子のどこにどんな変異があるのかを正確に調べることが、お子さん一人ひとりに合った治療への第一歩になるのです。

3. 主な症状(EIMFSを中心に)

DEE14のもっとも代表的で重い型が「乳児遊走性焦点発作を伴うてんかん(EIMFS)」です。発症はとても早く、ふつうは生後数週間から6か月以内に最初の発作が現れます。最初の数か月は、目で物を追う・首がすわるといった発達の目安に到達するお子さんもいますが、発作の出現とともに発達の歩みが大きく止まってしまうことが多いです。

💡 用語解説:遊走性焦点発作(ゆうそうせいしょうてんほっさ)

「焦点発作」は脳の一部から始まる発作のこと。DEE14では、その発作の起こる場所が1回の発作の中で、あるいは連続する発作のあいだに、脳のある場所から別の場所へと次々に“移動(遊走)”していくのが特徴です。長時間のビデオ脳波モニタリングをすると、左右の脳のあちこちからバラバラに発作波が現れ、移っていく独特のパターンが確認されます。

⚡ 発作の特徴

  • 焦点運動発作(体の片側のけいれん・突っ張り)
  • 発作が脳内を移動する「遊走性」
  • 1日に数十〜数百回に達することも
  • てんかん重積状態(発作が長く続く)

🧠 発達・神経の所見

  • 発達の停止・退行
  • 進行性の小頭症(頭の成長が止まる)
  • 体幹の筋緊張低下、四肢の痙縮
  • 不随意運動(ミオクロヌス・間代)

🔎 画像検査(MRI)

  • 発症初期は異常がはっきりしないことも
  • 進行に伴う髄鞘形成の遅れ
  • 広範な脳の萎縮
  • 脳梁(左右の脳をつなぐ部分)が薄くなる

発作の頻度は急速に増え、ときに数分間続いててんかん重積状態になることもあります。1年以上の難治性の時期を過ぎると発作がやや落ち着く段階に入ることもありますが、その時点ですでに脳の成長が妨げられ、小頭症が進んでいることが少なくありません。重い経過では、呼吸器の合併症や自律神経の障害により、幼い時期に命にかかわることもある予後の厳しい病気です。だからこそ、早期の正確な診断と適切な管理が重要になります。

4. KCNT1がかかわる、その他のてんかん(関連する病型)

同じKCNT1遺伝子の変異でも、現れ方は1つではありません。とても重く早く発症する脳症から、比較的軽くて発症が遅いてんかんまで、幅広い表現型(クリニカル・ポリモルフィズム)を示します。代表的なものを整理します。

病型 発症時期 主な発作・特徴 合併しやすいこと
EIMFS(DEE14) 生後6か月以内 遊走性焦点発作、重積状態 重度の発達退行、小頭症
ADNFLE/SHE(夜間前頭葉てんかん) 小児期〜青年期 睡眠中の激しい運動・突っ張り発作 知的障害、自閉スペクトラム、睡眠障害
ウエスト症候群 乳児期 点頭発作、ヒプサリスミア 発達遅滞、知的障害
大田原症候群 新生児〜早期乳児期 強直発作、サプレッション・バースト脳波 高度の脳機能障害

このうち常染色体顕性(優性)夜間前頭葉てんかん(ADNFLE)/睡眠関連過運動てんかん(SHE)は、EIMFSより発症が遅く、睡眠中に起こる激しい体の動きや非対称の突っ張り発作が特徴です。てんかん自体はEIMFSより軽いことが多いものの、知的障害や自閉スペクトラム障害、睡眠障害をともなうことがあります。この病型については、当院の夜間前頭葉てんかん5型(ENFL5)の解説ページでくわしく扱っています。

5. 診断と遺伝子検査の進め方

生後まもなく難治性のてんかんを発症したお子さんでは、1つずつ遺伝子を調べていく従来のやり方ではなく、最初から広く調べて最短で原因にたどり着くアプローチが推奨されています。最新の研究は、KCNT1の異常が胎児後期〜新生児期というとても早い段階で確立することを示しており、認知機能の決定的な後戻りを防ぐには「治療の窓(Window of Opportunity)」を逃さない早期診断が決め手になります。

出生後の診断:トリオ全エクソーム解析と、てんかんパネル検査

💡 用語解説:トリオ全エクソーム解析(Trio-WES)

全エクソーム解析(WES:Whole Exome Sequencing)は、遺伝子のうちタンパク質の設計図になる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。「トリオ」とは、お子さんだけでなくご両親も含めた3人で同時に解析すること。これにより、ご両親にはなくお子さんに新しく生じた新生突然変異(de novo)を効率よく見つけられます。DEE14の多くがde novoで起こるため、トリオでの解析がとくに有効です。

当院では、症状や発症時期に合わせて複数のてんかん遺伝子検査をご用意しています。これらは血液・抽出DNA・頬の粘膜スワブ・唾液などで実施でき、原因が分かれば薬の選び方や避けるべき薬の判断、合併症のリスク評価に直接役立ちます。

出生前の評価:NIPT(インペリアルプラン)という選択肢

DEE14の多くは新生突然変異(de novo)で起こるため、ご家族に病気がなくても発症しうる病気です。当院のインペリアルプランは、こうしたde novo型の単一遺伝子の状態をスクリーニングするNIPTで、対象となる154遺伝子のなかにKCNT1も含まれています。お母さんの採血だけで行えるのが特長です。

⚠️ 大切な前提:NIPTは「可能性を調べるスクリーニング」であって、確定診断ではありません。陽性の場合は、出生前であれば羊水検査・絨毛検査などの確定検査が必要です。検査を受けるかどうか、結果をどう受け止めるかは、ご家族が主体となって決めるものです。

当院でNIPTを受けられる方には互助会(8,000円)があり、互助会により、陽性となった場合の羊水検査の費用が全額補助されます。検査前から検査後まで、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングを受けられる体制を整えています。どのプランを選ぶか、そもそも検査を受けるかは、ご家族で話し合ってお決めください。

6. 治療と最新の治療開発

KCNT1関連てんかんの最大の壁は、従来の抗てんかん薬がとても効きにくい(薬剤難治性)ことです。ある研究では、抗てんかん薬だけで治療した患者さんの有効率(発作が50%以上減った割合)はわずか26.7%でした。一方で、近年は遺伝子のしくみに合わせた新しい治療が次々と現れ、対症療法から病因に直接はたらきかける精密医療への転換点を迎えています。

各治療の有効率(データで見る)

KCNT1関連てんかんに対する各治療の有効率

発作が50%以上減少した患者さんの割合

■ 全体の有効率

従来の抗てんかん薬(ASM)26.7%
キニジン26.0%
ケトン食療法(KDT)43.5%

■ チャネルの重要部分(機能ドメイン)に変異がある患者さん

キニジン20.6%
ケトン食療法(KDT)53.8%

機能ドメインに変異を持つ患者さんでは、ケトン食(53.8%)がキニジン(20.6%)に比べて統計的に有意に高い有効率を示しました(P=0.037)。出典:Lin Z, et al. Front Neurol. 2022.

キニジン:期待された精密医療と、その難しさ

もともと不整脈の薬であるキニジンは、機能獲得型のKCNT1チャネルをブロックできることから、世界で最初の精密医療として期待されました。しかし実際のお子さんでの効果は一定せず、全体の有効率は26.0%にとどまります。さらに重要なのは深刻な副作用です。心電図のQTc延長(致死的な不整脈につながりうる)が高い頻度でみられ、血中濃度の管理が欠かせないため、ちいさなお子さんに長く安全に使い続けることは容易ではありません。

ケトン食療法:比較的しっかり効く選択肢

高脂肪・超低炭水化物の食事療法であるケトン食療法(KDT)は、全体の有効率が43.5%と、キニジンや従来薬を上回りました。とくにキニジンが効きにくいタイプ(チャネルの重要部分に変異があるグループ)でも53.8%という高い有効率を示した点が臨床的に重要です。脳全体のエネルギー代謝や神経伝達のバランスを広く整えることで、脱抑制の状態を間接的に補っていると考えられています。便秘や食べにくさなどの副作用はありますが、心臓に致死的なリスクがない点でキニジンより安全な選択肢になりえます。なお、大麻由来の精製成分カンナビジオール(CBD)も、EIMFSの一部で発作減少が報告されています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【“遺伝子型に合わせて治療を選ぶ”時代へ】

かつてこの病気は「治らない難治てんかんの極み」と言われてきました。けれども、変異の場所によって薬の効きやすさが違うこと、効きにくいタイプでもケトン食が役立つことなど、治療を選ぶための“地図”が少しずつ描けるようになってきています。検査でゴールが見えると、ご家族の歩みも変わります。

そして今、発作を抑えるだけでなく、病気の原因そのものにはたらきかける治療の臨床試験が動き始めています。希望が「研究のなか」から「目の前の医療」へと近づいてきていることを、診療の現場でも実感しています。

次世代の治療:原因そのものにはたらきかける(DMT)

💡 用語解説:核酸医薬(ASO)とは

アンチセンス・オリゴヌクレオチド(ASO)は、遺伝子の“メッセージ(mRNA)”にぴったりくっつくように設計された短い人工の核酸です。KCNT1に対するASOは、毒性のある「効きすぎチャネル」がつくられる前にその設計図を減らし、暴走を抑えることをねらいます。背中(髄腔内)に注射して脳脊髄液に届けます。

この分野で最も注目されているのが、フランスのServier社が進める核酸医薬「S230815」の臨床試験(KANDLE試験)です。KCNT1関連DEEの2〜12歳のお子さんを対象に、安全性や発作減少効果を調べる第Ib/II相試験で、現在参加者を募集中です(ClinicalTrials.gov:NCT07227857)。前臨床研究では、患者さん由来のiPS細胞からつくった神経で異常な発火が正常化することが示されています。

⚠️ 補足:同じ変異(p.R474H)を持つ2名のお子さんへの先行的なASO投与(同情的使用)では、発作の頻度・重症度が大きく減った一方で、水頭症という合併症も報告されています。効果と安全性の両面を慎重に見ていく段階です。

さらに、米国Actio Biosciences社の経口の精密低分子薬「ABS-1230」は、効きすぎたKCNT1チャネルを選択的にブロックするように設計された薬です。健康な成人での第I相試験を終え、2026年5月に、生後1か月〜21歳を対象とする「KYRON試験(第Ib/II相)」が開始されました。FDAのファストトラック・希少小児疾患・オーファンドラッグ指定も受けています。背中への注射が不要で、飲み薬や経管栄養チューブから投与できる点は、通院や処置の負担が大きいお子さんにとって大きな利点です。このほか、Atalanta社の二本鎖RNA干渉薬「ATL-201」も前臨床段階で開発が進んでいます。

7. 遺伝カウンセリングの意義

DEE14の診断は、お子さんの治療方針だけでなく、ご家族の今後の選択にも深くかかわります。臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングでは、おもに次のような内容を、中立的な立場でていねいにお伝えします。

  • 遺伝形式と再発リスク:多くは新生突然変異(de novo)でご両親への変異は確認されません。ただし常染色体顕性(優性)遺伝のため、患者さん本人がお子さんを持つ場合の遺伝確率は理論上50%です。また、ご両親の生殖細胞モザイクの可能性も否定できないため、次のお子さんのリスク評価のためにもご両親の検査が大切です。
  • 治療選択への橋渡し:変異の場所によって薬の効きやすさが異なるため、遺伝子検査の結果は治療の選択に直結します。
  • 出生前診断の選択肢:既に家系内で変異が分かっている場合、次のお子さんについて羊水検査・絨毛検査による確定診断が選択肢になります。
  • 心理的サポートと情報の継続:超希少疾患のため情報が限られます。患者レジストリや専門医療機関との連携を続けることが、長期的な支えになります。

私たちは、特定の検査を勧めたり、安心を保証したり、不安をあおったりすることはしません。医師は情報をお渡しする立場であり、どう選ぶかはいつもご家族のものです。納得して進めるように、最後まで伴走します。

8. よくある誤解

誤解①「カリウムチャネルが効きすぎる=静かになるはず」

実際は逆です。ブレーキ役の神経が黙ってしまう“脱抑制”によって、興奮役が暴走し、強い発作が起こります。

誤解②「家系にてんかんがないから遺伝ではない」

DEE14の多くは新生突然変異(de novo)で、ご両親には変異がありません。「家族歴がない=遺伝子の病気ではない」という思い込みが、診断を遅らせることがあります。

誤解③「キニジンは特効薬」

期待された薬ですが、全体の有効率は26%程度にとどまり、QTc延長などの重い副作用もあります。変異の場所によってはケトン食のほうが有効なこともあります。

誤解④「治らない病気だから検査しても意味がない」

正確な診断は、薬の選択・避けるべき薬の判断・臨床試験への参加につながります。原因そのものを狙う治療の開発も進んでおり、診断の意義は大きくなっています。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【“早く正確に”が、未来を変える】

DEE14は、生後まもなく激しい発作が始まり、ご家族にとってはあまりに突然の出来事です。けれども、原因がKCNT1だとわかれば、薬の選び方が変わり、効きにくいタイプにはケトン食という選択肢があり、そして今は原因そのものを狙う治療の試験も動いています。「治療の窓」を逃さないために、できるだけ早く分子レベルの診断にたどり着くことが何より大切です。

私が遺伝子の情報発信を続けているのは、検査結果の数字だけでなく、「それをどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任だと考えているからです。希少な病気だからこそ、一つひとつの診断の精度が、ご家族のこれからを大きく左右します。どうか一人で抱え込まず、専門医にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. DEE14は遺伝しますか?

常染色体顕性(優性)遺伝の病気ですが、報告されている多くは新生突然変異(de novo)で、ご両親には同じ変異がありません。患者さん本人がお子さんを持つ場合の遺伝確率は理論上50%です。ただしご両親の生殖細胞モザイクの可能性もあるため、次のお子さんのリスク評価のためにも、ご両親の遺伝子検査と臨床遺伝専門医への相談をお勧めします。

Q2. どのように診断されますか?

生後6か月以内の難治性の発作、遊走性焦点発作、発達の停止・退行といった臨床所見から疑われ、てんかん遺伝子パネル検査やトリオ全エクソーム解析でKCNT1遺伝子の変異が確認されることで診断します。血液・唾液・頬の粘膜などで実施できます。

Q3. 出生前に調べられますか?

当院のインペリアルプラン(NIPT)の対象154遺伝子にKCNT1が含まれており、お母さんの採血でスクリーニングが可能です。ただしNIPTは確定診断ではないため、陽性の場合は羊水検査・絨毛検査による確定が必要です。検査を受けるかどうかはご家族で話し合ってお決めください。

Q4. なぜ普通の抗てんかん薬が効きにくいのですか?

DEE14は、KCNT1チャネルが効きすぎることで「ブレーキ役の神経」が黙ってしまい、その結果として興奮役が暴走する“脱抑制”というしくみで発作が起こります。従来の抗てんかん薬は、このしくみに合いにくいため効果が限られ、研究でも有効率は26.7%程度と報告されています。

Q5. ケトン食は本当に効くのですか?

研究では、ケトン食療法の全体の有効率は43.5%で、キニジン(26.0%)や従来薬(26.7%)を上回りました。とくにキニジンが効きにくいタイプ(チャネルの重要部分の変異)でも53.8%という高い有効率が示されています。心臓への致死的なリスクがない点も利点ですが、開始や継続には専門的な管理が必要です。

Q6. キニジンの注意点は何ですか?

キニジンは機能獲得型チャネルをブロックできる薬ですが、効果は一定せず、心電図のQTc延長など致死的な不整脈につながりうる副作用があります。血中濃度のこまめなモニタリングが必要で、ちいさなお子さんに長く安全に使い続けることは容易ではありません。導入の可否は専門医が慎重に判断します。

Q7. 原因そのものを治す治療はありますか?

現在、複数の次世代治療が臨床試験の段階にあります。Servier社の核酸医薬「S230815」(KANDLE試験、第Ib/II相、募集中)、Actio社の経口低分子薬「ABS-1230」(KYRON試験、2026年5月開始)などです。まだ研究段階ですが、発作を抑えるだけでなく病気の進行そのものに介入することを目指しており、希望のもてる動きです。詳しくは臨床遺伝専門医にご相談ください。

Q8. KCNT1の変異があると必ずDEE14になりますか?

いいえ。同じKCNT1の変異でも、現れ方は幅広く、重いEIMFS(DEE14)から、発症が遅めの夜間前頭葉てんかん(ENFL5)、ウエスト症候群、大田原症候群などまでさまざまです。変異の場所や種類によって病型や重さが変わるため、正確な評価が大切です。

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臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。

関連記事

参考文献

  • [1] OMIM #614959. Developmental and Epileptic Encephalopathy 14 (DEE14). Johns Hopkins University. [OMIM]
  • [2] KCNT1-Related Epilepsy. GeneReviews®. NCBI Bookshelf, NIH. [GeneReviews]
  • [3] Lin Z, et al. Efficacy of Anti-seizure Medications, Quinidine, and Ketogenic Diet Therapy for KCNT1-Related Epilepsy and Genotype-Efficacy Correlation Analysis. Front Neurol. 2022;12:834971. [Frontiers]
  • [4] Burbano LE, et al. Antisense oligonucleotide therapy for KCNT1 encephalopathy. JCI Insight. 2022;7(23):e146090. [JCI Insight]
  • [5] El Achkar CM, et al. Antisense oligonucleotide-mediated knockdown therapy in two infants with severe KCNT1 epileptic encephalopathy. Nat Med. 2026;32:1411-1420. [Nature Medicine]
  • [6] A First-in-human Study of S230815 in Pediatric Participants With KCNT1-related DEE (KANDLE). NCT07227857. ClinicalTrials.gov. [ClinicalTrials.gov]
  • [7] Actio Biosciences Announces Initiation of KYRON Phase 1b/2 Trial of ABS-1230 for KCNT1-Related Epilepsy. 2026. [Business Wire]
  • [8] Andreone BJ, et al. Durable suppression of seizures in a preclinical model of KCNT1 genetic epilepsy with divalent small interfering RNA. Epilepsia. 2025. doi:10.1111/epi.18278. [Epilepsia]

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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