目次
- 1 1. 発達性てんかん性脳症11型(DEE11)とは
- 2 2. 原因となるSCN2A遺伝子とNaV1.2チャネル
- 3 3. 機能獲得型(GoF)と機能喪失型(LoF)── 治療を左右する二つの顔
- 4 4. どんな症状が出るのか ── てんかんと発達の特徴
- 5 5. 関連するSCN2Aスペクトラム(BFIS3・EA9など)
- 6 6. 診断 ── 脳波・MRI・遺伝子検査
- 7 7. 治療 ── 遺伝子型に基づく精密医療
- 8 8. 最先端治療 ── 核酸医薬(ASO)の登場
- 9 9. 遺伝形式と再発率 ── 親の生殖細胞系列モザイク
- 10 10. 出生前診断とNIPT ── 「生まれる前に」できること
- 11 11. よくある誤解
- 12 12. 臨床遺伝専門医からのメッセージ
- 13 よくある質問(FAQ)
- 14 参考文献
- 15 関連記事
📍 クイックナビゲーション
発達性てんかん性脳症11型(DEE11)は、脳の神経細胞の電気スイッチを担うSCN2A遺伝子の変化によって起こる、生まれて間もない時期からの重いてんかんと発達の遅れを特徴とする病気です。同じSCN2Aの変化でも、スイッチが「入りっぱなし」になるタイプと「入りにくくなる」タイプがあり、この違いによって使うべき薬が正反対になるという、遺伝子診断がそのまま治療に直結する代表的な病気でもあります。本記事では、原因・症状・診断から、ナトリウムチャネル遮断薬・核酸医薬(ASO)といった最新治療、ご家族の再発率の考え方まで、臨床遺伝専門医がやさしく解説します。
Q. DEE11とはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです
A. DEE11(発達性てんかん性脳症11型)は、SCN2A遺伝子の変化で起こる、新生児期〜乳児期早期からの難治てんかんと重い発達の遅れを特徴とする病気です(OMIM 613721)。大半は両親から受け継いだものではなく、お子さんに初めて生じた新生突然変異(de novo変異)で、遺伝形式は常染色体顕性(優性)です。変化のタイプ(機能獲得型か機能喪失型か)によって有効な薬が正反対になるため、正確な遺伝子診断が治療の出発点になります。
- ➤原因 → 第2染色体(2q24.3)のSCN2A遺伝子の変化。脳のナトリウムチャネルNaV1.2の働きが乱れる
- ➤二つの顔 → 生後3か月未満発症は機能獲得型(GoF)、3か月以降は機能喪失型(LoF)が多い
- ➤治療の鍵 → GoFはナトリウムチャネル遮断薬が著効、LoFではむしろ避けるべき
- ➤最先端 → 原因に直接介入する核酸医薬(ASO)エルスネルセンが臨床試験で有望な成績
- ➤ご家族へ → 一見デノボでも親の生殖細胞系列モザイクが隠れることがあり、再発率の個別評価が重要
1. 発達性てんかん性脳症11型(DEE11)とは
発達性てんかん性脳症11型は、英語の Developmental and epileptic encephalopathy 11 を略してDEE11と呼ばれます。多くは生後数日から数週、遅くとも数か月以内に発症する極めて治りにくいてんかんと、それに伴う重い精神運動発達の遅れ・神経学的な退行を特徴とする中枢神経の病気です[1]。国際的な遺伝病データベースであるOMIMでは表現型番号 613721として登録され、かつての呼び名である「早期乳児てんかん性脳症11型(EIEE11)」と同じ病気を指します[2]。原因は第2染色体の長腕(2q24.3)にあるSCN2A遺伝子の、片方のコピーだけに生じた変化(ヘテロ接合性変異)です[1]。
補足:てんかん症候群の名前は2022年の国際抗てんかん連盟(ILAE)の分類で見直され、「早期乳児てんかん性脳症」は早期乳児発達性てんかん性脳症(EIDEE)、点頭てんかん(ウエスト症候群)は乳児てんかん性スパズム症候群(IESS)へと整理されました。本記事では分かりやすさのため従来名も併記します。
遺伝形式は常染色体顕性(優性)遺伝です。ただし重症のDEE11の大多数は、ご両親のどちらかから受け継いだものではなく、お子さんがつくられる過程で初めて偶然生じた新生突然変異(de novo変異)によるものと考えられています[3]。遺伝の基本的な仕組みについては遺伝形式の解説ページもあわせてご覧ください。
DEE11の大切な特徴は、同じ遺伝子変異を持つ患者さんの間でも、さらには同じ家系の中でさえ、症状の重さや発作のかたちに差が見られることです[1]。これは、環境の要因や他の遺伝子の個人差など、いくつもの修飾因子が複雑に関わっている可能性を示しています。また、SCN2Aの変化が引き起こす病気はDEE11だけではなく、自然に軽快する良性のてんかんから、てんかんを伴わない自閉スペクトラム症(ASD)や知的障害(ID)、反復性運動失調まで、幅広い「SCN2A関連疾患のスペクトラム」を形づくることが分かっています[3]。
2. 原因となるSCN2A遺伝子とNaV1.2チャネル
🔍 関連記事:SCN2A遺伝子の総論/ミスセンス変異とは/点突然変異とは
SCN2A遺伝子(別名 Nav1.2、SCN2A1 など)は、脳の中で電気信号(活動電位)を発生させ、伝えるために欠かせない電位依存性ナトリウムチャネルNaV1.2というタンパク質の本体(αサブユニット)をコードしています[3]。この遺伝子は進化の上で非常によく保存されており、ヒトだけでなくマウスやゼブラフィッシュなど多くの生き物で、神経の電気的な興奮の根幹を担っています。
💡 用語解説:電位依存性ナトリウムチャネル(NaV1.2)
神経細胞の表面にある「ナトリウムイオンの通り道(トンネル)」です。膜の電位の変化を感じ取って開き、ナトリウムが細胞の中へ一気に流れ込むことで、神経の電気信号(活動電位)の引き金を引きます。NaV1.2は4つのよく似た部分(ドメインI〜IV)が折りたたまれた巨大なタンパク質で、各部分に「電位を感じるセンサー」と「ナトリウムだけを選んで通すフィルター」が組み込まれています。このトンネルの開き方・閉じ方が変異で乱れると、脳全体の興奮と抑制のバランスが崩れます。
DEE11を起こす変化として、ClinVarなどのデータベースには多数のバリアントが登録されています。アミノ酸が1つ別のものに置き換わるミスセンス変異(例:p.Val892Ile、p.Val423Leu、p.Ala1316Val など)や、設計図の読み枠がずれて短いタンパク質しかできなくなるフレームシフト変異などが報告され、これらの多様さが症状の幅広さに寄与しています[4]。なお、NaV1.2チャネルそのものの分子の詳しい仕組みはSCN2A遺伝子のページで詳しく扱っています。
💡 用語解説:ミスセンス変異・フレームシフト変異
ミスセンス変異は、設計図の1文字が変わってアミノ酸が1つ別のものに置き換わる変化です。タンパク質の形や働きが微妙に変わり、トンネルが「閉じにくくなる」など機能の異常を生みます。
フレームシフト変異は、3文字ずつ読む設計図に余分な文字が入る・抜けることで、それ以降の読み方が総崩れになる変化です。多くは途中で「ここで終わり」の合図が現れ、短く機能を失ったタンパク質になります。詳しくはバリアントの種類の解説もご参照ください。
3. 機能獲得型(GoF)と機能喪失型(LoF)── 治療を左右する二つの顔
SCN2A関連疾患の幅広さを分子のレベルで理解する中心が、変異がチャネルの働きにどう影響するか、つまり機能獲得型(Gain-of-Function;GoF)と機能喪失型(Loss-of-Function;LoF)という、二つの正反対のメカニズムです[5]。
💡 用語解説:機能獲得型(GoF)と機能喪失型(LoF)
機能獲得型(GoF)=チャネルが開きやすくなる・閉じにくくなることで、ナトリウムが流れ込みすぎる変化。神経が「興奮しすぎ」になります。アクセルが踏みっぱなしのイメージです。
機能喪失型(LoF)=チャネルが十分に働かなくなり、ナトリウムの流れが減る変化。神経の働きが「足りない」状態になります。詳しくは機能獲得型変異・機能喪失型変異の解説をご覧ください。
発症時期が「タイプ」を教えてくれる ── 生後3か月の境界
この二つのタイプは、発症する時期と強く結びついています。生後3か月未満(多くは新生児期〜生後数週)に発症する重症のてんかん性脳症や、家族性の良性てんかんはGoFと強く相関します[6]。一方、生後3か月以降に発症する遅発性のてんかんや、てんかんを伴わないASD・知的障害はLoFが多いとされます[4]。この時間差は、脳の発達に伴うNaV1.2の役割の移り変わりで説明されます。発達初期はNaV1.2が軸索の起始部などで活動電位の発生を主導しているため、その機能が高ぶりすぎる(GoF)と脳全体が電気的な嵐に陥ります[6]。
乳児期後半になると、軸索での活動電位の主役はNaV1.2からNaV1.6(SCN8A遺伝子)へと移り、NaV1.2は樹状突起やシナプスでの情報統合に役割を移します[6]。そのためLoFによる機能低下は、初期の激しい発作は起こしにくい代わりに、シナプスの成熟障害や神経ネットワークの形成不全を長期的に引き起こし、遅発性てんかん・発語の遅れ・ASD・知的障害につながります[4]。
図:SCN2A変異は「興奮しすぎ(GoF)」と「足りない(LoF)」の二方向に分かれ、発症時期と有効な薬がそれぞれ正反対になる。正確な遺伝子診断が治療選択の出発点となる。
4. どんな症状が出るのか ── てんかんと発達の特徴
DEE11の発作は、多くの場合生後数日から数週間、遅くとも数か月以内に始まります[1]。初期は体の一部がけいれんする焦点性発作や、四肢が突っ張る短時間の強直発作として現れることが多く、難治例では1日に数十回から数百回に及ぶ群発を示すこともあります[4]。進行に伴い、以下のような小児期てんかん症候群の特徴を満たすようになります[8]。
💡 用語解説:バースト・サプレッション
脳波の特徴的なパターンで、爆発的な高い波(バースト)と、ほぼ平坦で電気活動が乏しい時間(サプレッション)が周期的に交互に現れます。大田原症候群など重症例の初期にみられ、睡眠・覚醒に関係なく続くのが特徴で、重い脳機能障害を示すサインとされます。数か月の経過でヒプスアリスミア(ウエスト症候群の脳波)へ進展することもあります。
発作と並行して、あるいは先立って、全般的な発達の遅れがみられます[1]。首のすわり・お座り・歩行といった運動の節目の達成が遅れ、最終的に中等度から最重度の知的障害を伴うことが多く、言語の遅れは特に深刻です。SCN2Aは自閉スペクトラム症(ASD)の高信頼度リスク遺伝子としても知られ、視線が合いにくい、常同行動、感覚の過敏・鈍麻などの特徴を伴うことがあります[4]。さらに、乳児期初期の著しい筋緊張低下(フロッピー)から、成長に伴う痙縮・ジストニア・不随意運動への移行、重い消化管運動の障害や皮質盲などの全身的な合併症がみられることもあります[7]。
5. 関連するSCN2Aスペクトラム(BFIS3・EA9など)
同じSCN2Aの変化でも、DEE11は最も重い側に位置づけられます。同じ遺伝子からは、より軽い側の表現型も生まれます。生後数か月で発作が始まっても生後1〜2年で自然に消失し発達もほぼ正常に保たれる「良性家族性乳児てんかん3型(BFIS3)」や、成長後にときどき出る運動失調を特徴とする「反復発作性運動失調症9型(EA9)」がその代表です[3]。同じ遺伝子が、最重症のDEE11から自然軽快する良性てんかんまでをカバーするという事実は、なぜ正確な変異の解釈が必要なのかを物語っています。
6. 診断 ── 脳波・MRI・遺伝子検査
DEE11の診断と重症度評価には、脳波(EEG)・頭部MRI・遺伝子検査が欠かせません[8]。脳波では、初期にバースト・サプレッション、EIMFSでは焦点が脳内を移動する所見、ウエスト症候群への移行期にはヒプスアリスミアといった、経過とともに移り変わるパターンがみられます。発症初期のMRIでは明らかな異常を認めない(MRI陰性)ことが多い一方、難治てんかんが続くと髄鞘形成の遅れや脳の進行性の萎縮など、不可逆的な変化が現れてきます[4]。
早期乳児てんかん性脳症を起こす遺伝子はSCN2A以外にも多数あり、症状だけで原因遺伝子を特定することはできません。そのため、複数の遺伝子をまとめて調べるNGSパネル検査や全エクソーム解析が鑑別に不可欠です[3]。当院では、新生児期〜乳児期発症のてんかんを対象に新生児てんかんNGSパネル検査(KCNQ2・SCN1A・SCN2A・STXBP1 などイオンチャネル/シナプス関連遺伝子を含む)をご用意しています。SCN2Aはドラベ症候群NGSパネル検査にもまれな原因遺伝子として含まれます。
出生前の検査と出生後の検査は分けて考える
7. 治療 ── 遺伝子型に基づく精密医療
DEE11の治療で最も大きな転換は、網羅的な遺伝子診断に基づく精密医療(プレシジョン・メディシン)です。SCN2Aに変異が見つかったら、それがGoFかLoFかを見極めることが極めて重要で、それによって選ぶ薬が正反対になります[7]。発症年齢(生後3か月を境界とする)が、このタイプを推測する最も強力な臨床的手がかりになります。
GoFにはナトリウムチャネル遮断薬が著効
生後3か月未満に発症する早期発症型の大部分は、チャネルの過剰な活性化を起こすGoFが原因です。この場合、ナトリウムが流れ込みすぎる状態を直接抑えるナトリウムチャネル遮断薬(フェニトイン、カルバマゼピン、オクスカルバゼピンなど)が、しばしば劇的な効果を示します[7]。特にフェニトインは、難治の発作やてんかん重積に対して第一選択に近い形で用いられ、他の薬に全く反応しなかった発作が著明に減る・消失する例も報告されています[4]。
⚠️ 重要:同じナトリウムチャネル遺伝子でも、SCN1Aの変異によるドラベ症候群では、ナトリウムチャネル遮断薬は発作を悪化させる要因となり原則として避けます。SCN2AのGoFでは逆に最も有効になります。だからこそ正確な遺伝子診断が決定的に重要です。
LoFには遮断薬を避け、広域スペクトラム薬を
一方、生後3か月以降に発症する遅発性てんかんや、ASD・知的障害を主とする患者さんの多くはLoFを持ちます。この場合にナトリウムチャネル遮断薬を使うと、すでに低下しているチャネル機能をさらに抑えてしまい、発作や認知機能の悪化を招く危険があります[4]。そのため、レベチラセタム・バルプロ酸・トピラマートなど、作用機序の異なる広域スペクトラムの抗てんかん薬が選ばれ、多くは複数を組み合わせる多剤併用となります。薬物療法に抵抗する場合は、ケトン食療法や迷走神経刺激療法(VNS)も検討されます[7]。さらに、発作だけにとどまらない病気であるため、小児神経科・リハビリ・栄養・呼吸管理など多職種による包括的なケアが欠かせません。
8. 最先端治療 ── 核酸医薬(ASO)の登場
🔍 関連記事:アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)とは/機能獲得型変異とは
従来の抗てんかん薬は、生じてしまった異常な興奮を抑える対症療法にとどまり、過興奮そのものの原因や発達の遅れを修復することはできませんでした。これに対し、原因となる遺伝子発現の過程に直接介入する疾患修飾治療として、アンチセンス核酸(ASO)医薬の開発が急速に進み、臨床試験の段階に入っています[9]。
💡 用語解説:アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)
遺伝子の設計図を写し取った「メッセンジャーRNA(mRNA)」に、相補的にぴたりとくっつくよう設計された短い人工の核酸です。GoF型のSCN2A-DEEでは、過剰につくられるNaV1.2の設計図(mRNA)にASOが結合し、これを分解することでタンパク質の量を根本から減らし、神経の過興奮を正常化します。髄腔内(脊髄を包む液の中)に投与します。詳しくはASOの解説ページをご覧ください。
エルスネルセン(PRAX-222)── 動物モデルから臨床へ
GoF型の早期発症DEEに対する標的治療薬として開発が進むのが、ギャップマー型ASOのエルスネルセン(開発コード PRAX-222)です。前臨床では、ヒトの早期発症DEEを再現したSCN2A GoF変異マウス(R1882Q)が用いられました。このマウスは無治療では生後18〜20日でほぼ全例が亡くなる極めて重い表現型を示しますが、Scn2a ASOの髄腔内投与で発作が著明に抑えられ、生存期間が大幅に延長(単回投与で49日、追加投与で145日まで)し、行動テストでも正常マウスと区別がつかないレベルまで改善しました[9]。発作の抑制だけでなく、発達障害そのものを救済できる可能性を示した結果です。
ヒトでは、2〜18歳の小児を対象とした第1/2相試験「EMBRAVE試験」が進行しています[12]。2026年4月に公表されたEMBRAVE Part A(9名)のトップライン結果では、プラセボ調整後の発作減少率が77%(p=0.015)、71%の患者が50%超の発作減少を達成し、非盲検継続投与で最長1年の効果持続が示されました。さらにエルスネルセン投与群の全例で睡眠・運動機能・筋緊張・注意の追加的な改善が報告され、治験薬に関連する重篤な有害事象は認められませんでした[11]。現在は検証的な第3相試験へと開発が進んでいます。
早産児への投与例 ── 出生前に診断された一例
2025年に医学誌Nature Medicineに報告された一例は、ASO療法の可能性を強く印象づけました。この患者は出生前から異常が捉えられていた症例で、妊娠27週で羊水過多と関節拘縮が超音波・胎児MRIで認められ、出生前のトリオエクソーム解析でSCN2AのGoF変異(p.A1329D)が同定されていました[10]。29週で生まれたこの早産の女児は、生後すぐから1時間あたり20〜25回という極めて頻回のてんかん重積が7週間も続く危機的な状態でした。
ナトリウムチャネル遮断薬との併用下でエルスネルセンの髄腔内投与(20か月間で計19回)が行われた結果、重積は断続的に中断され、継続投与で最終的に消失。発作頻度は60%以上減少し、1時間あたり5〜7回まで低下、22か月齢のフォロー時点まで安定が維持されました。重篤な有害事象は報告されていません[10]。脆弱な早産児にも安全に長期投与でき、これまで致死的だったてんかん性脳症の経過を変えうることを示す結果です。
早産児症例:エルスネルセン投与前後の発作頻度(1時間あたり)
投与前
7週間続いた重積
投与後
22か月齢まで維持
Nature Medicine 2025報告の単一症例。60%以上の発作減少が長期に維持された(出典:[10])。
なお、GoF型SCN2Aに対しては、ASO以外にも持続性ナトリウム電流を選択的に抑える経口の低分子薬レルトリゲン(PRAX-562)の開発も進んでおり、関連試験でプラセボ調整後53%の発作減少が報告されています[15]。核酸医薬と低分子の二系統が、GoF型SCN2A疾患の治療選択肢を広げつつあります。これらはいずれも開発・研究段階であり、日本国内での一般診療として確立した治療ではない点にはご留意ください。
9. 遺伝形式と再発率 ── 親の生殖細胞系列モザイク
重症のDEE11の大多数は、お子さんに初めて生じた新生突然変異(de novo変異)と考えられてきました[13]。従来は、デノボ変異による病気の次のお子さんでの再発率は経験的に約1〜2%と低いと説明され、多くのご両親に「今回は偶然で、次の妊娠で繰り返す可能性は非常に低い」と伝えられてきました。しかし、高深度の次世代シーケンシング技術の普及により、この前提が見直されつつあります[14]。
💡 用語解説:生殖細胞系列モザイク
見かけ上お子さんだけに生じたデノボ変異でも、実は無症状のご両親の体の一部、とくに精子・卵子をつくる細胞の系列(生殖細胞系列)に、変異を持つ細胞が一定の割合で混じっていることがあります。これを「生殖細胞系列モザイク」といいます。親自身は症状を示しませんが、そこから次のお子さんへ変異が伝わるリスクは理論上最大50%まで高まりえます。詳しくはモザイクの解説ページをご覧ください。
大規模なコホート研究では、一見デノボに見える発達性・てんかん性脳症の家族を超高深度で詳しく解析すると、およそ4.4〜8.3%でご両親のいずれかに低頻度のモザイク変異が検出されたと報告されています[14]。検出された変異の割合は1.1%という極めて微量なものから30%超まで幅広く、これらの多くは従来の標準的なサンガー法では見逃されていました[13]。したがって、画一的に「再発率は1%」と安心させるのではなく、可能であればご両親の複数の組織を用いた高感度の解析で、個別に正確な再発リスクを再評価することが、いまの最先端の考え方です[14]。
10. 出生前診断とNIPT ── 「生まれる前に」できること
前述のNature Medicineの早産児例が出生前に診断されていたように、SCN2A関連疾患は出生前に変異が捉えられる場合があります[10]。当院のNIPTのうち、単一遺伝子疾患に対応するインペリアルプランでは、SCN2Aを含む154遺伝子218疾患を対象としています。SCN2Aのようなデノボ・常染色体顕性の疾患は父親の年齢とともにリスクが上がる新生突然変異でもあるため、こうした変異までカバーする検査設計が意味を持ちます。詳しくは単一遺伝子疾患のNIPTの解説をご覧ください。
NIPTはあくまでスクリーニングです。陽性となった場合は、羊水検査・絨毛検査による確定診断が次のステップになります。当院では互助会(8,000円)により、NIPTで陽性となった際の羊水検査費用が全額補助されます(互助会はNIPT受検者全員に適用されます。詳細は互助会のご案内)。なお、DEE11のように重症度の幅が広い疾患では、出生前に見つけることが常にご家族の利益になるとは限りません。検査を受けるかどうか、結果をどう受け止めるかの決定は、十分な遺伝カウンセリングのうえで、ご家族自身に委ねられます。当院には臨床遺伝専門医が在籍し、中立・非指示的な立場で意思決定をご一緒します。
11. よくある誤解
誤解①「SCN2Aのてんかんはどれも同じ治療でよい」
同じSCN2Aでも、GoFとLoFで有効な薬が正反対です。ナトリウムチャネル遮断薬はGoFに著効する一方、LoFでは悪化させうるため、変異タイプの見極めが不可欠です。
誤解②「ドラベ症候群と同じ薬を避ければよい」
ドラベ症候群(SCN1A)ではナトリウムチャネル遮断薬は避けますが、SCN2AのGoFではむしろ第一選択に近い位置づけです。「ナトリウムチャネルだから一律禁忌」ではありません。
誤解③「デノボ変異だから次の子は心配いらない」
一見デノボでも、親の生殖細胞系列モザイクが隠れていると再発率が上がることがあります。「再発率1%で安心」と決めつけず、個別の再評価が望まれます。
誤解④「核酸医薬はもう日本で普通に使える」
エルスネルセンなどのASOは臨床試験・開発段階です。海外で有望な成績が出ていますが、日本で確立した一般診療ではありません。
12. 臨床遺伝専門医からのメッセージ
DEE11をはじめとするSCN2A関連疾患は、かつて「原因不明の壊滅的な脳症」として一括りにされていました。しかし次世代シーケンサーの普及と基礎研究の蓄積により、NaV1.2チャネルのGoFかLoFかという明確な分子メカニズムに帰着でき、その理解が治療を導く時代になりました。生後早期のGoFにはナトリウムチャネル遮断薬という既存薬が特効薬として働き、原因に直接介入するASOのような疾患修飾治療が臨床応用の段階に入っています。新生児期の迅速な網羅的遺伝子検査と、親のモザイクまで踏まえた精緻な遺伝カウンセリングが、患者さんとご家族の予後とQOLを大きく改善する基盤になります。
よくある質問(FAQ)
🏥 SCN2A・てんかん性脳症の遺伝子診断のご相談
DEE11・SCN2A関連疾患に関する遺伝子検査・出生前診断・
遺伝カウンセリングは、臨床遺伝専門医が在籍する
ミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。
参考文献
- [1] Developmental and epileptic encephalopathy, 11 (Concept Id: C3150987). NCBI MedGen. [MedGen 462337]
- [2] OMIM #613721. Developmental and Epileptic Encephalopathy 11; DEE11. Johns Hopkins University. [OMIM 613721]
- [3] SCN2A gene. MedlinePlus Genetics, NIH. [MedlinePlus]
- [4] SCN2A Pathogenic Variants and Epilepsy: Heterogeneous Clinical, Genetic and Diagnostic Features. Int J Mol Sci / PMC. [PMC8773615]
- [5] Progress in understanding and treating SCN2A-mediated disorders. Trends in Neurosciences / PMC. [PMC6015533]
- [6] SCN2A and Its Related Epileptic Phenotypes. Thieme Connect. [Thieme]
- [7] SCN2A-Related Disorders. Children’s Hospital of Philadelphia (CHOP). [CHOP]
- [8] Epilepsy Syndromes in the First Year of Life and Usefulness of Genetic Testing for Precision Therapy. Genes (Basel) / PMC. [PMC8307222]
- [9] Antisense oligonucleotide therapy reduces seizures and extends life span in an SCN2A gain-of-function epilepsy model. PMC. [PMC8631599]
- [10] Antisense oligonucleotide treatment in a preterm infant with early-onset SCN2A developmental and epileptic encephalopathy. Nature Medicine. 2025. [Nature Medicine] / [PMC12283366]
- [11] Praxis Precision Medicines Announces Positive Results from the EMBRAVE Part A Trial of Elsunersen in SCN2A Early-Onset DEE. 2026. Praxis Precision Medicines. [Praxis IR]
- [12] A Clinical Trial of PRAX-222 (Elsunersen) in Pediatric Participants With Early Onset SCN2A DEE (NCT06314490). ClinicalTrials.gov. [ClinicalTrials.gov]
- [13] Parental Mosaicism in “De Novo” Epileptic Encephalopathies. PMC. [PMC5966016]
- [14] The Refined Recurrence Risk of De Novo Variants Due to Parental Mosaicism. medRxiv. 2025. [medRxiv]
- [15] Updates on the SCN2A Clinical Trial and Treatment Pipeline (Elsunersen / Relutrigene). FamilieSCN2A Foundation. [FamilieSCN2A]



