この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)
先天性筋無力症候群(CMS)は、神経から筋肉へ「動け」という信号を渡す神経筋接合部の分子が、生まれつきの遺伝子の変化でうまく働かないために起こる病気です。 まぶたが下がる、疲れると力が抜けるといった症状は重症筋無力症とよく似ていますが、原因も治療もまったく違います。しかも原因の遺伝子によって、よく効く薬と、かえって症状を悪くすることがある薬が入れかわります。 このページでは、29遺伝子を一度に調べる遺伝子検査で何がわかり、わかったあとに何ができるかを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
先天性筋無力症候群(CMS)の原因として知られる29遺伝子を一度に調べ、どの遺伝子のどんな変化が原因かを探します。 原因の遺伝子がわかると、効きやすい薬と、かえって症状を悪くすることがある薬の見当がつきます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
まぶたが下がる・疲れると力が抜けるなどの症状が赤ちゃんや子どものころからある方、抗体が陰性で「重症筋無力症」と言われたものの、免疫の治療で良くならない方 、ご家族にこの病気の方がいる方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円 、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、唾液・粘膜ならオンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかれば、薬の選び方・呼吸の見張り・ご家族の検査・次のお子さんの確率まで具体的に考えられます。意義がまだわからない変化(VUS)が見つかることもあります。
1. 先天性筋無力症候群(CMS)とは:重症筋無力症との違い
先天性筋無力症候群は、神経と筋肉のつなぎ目(神経筋接合部)で働く分子の遺伝子に変化があり、その分子が十分に作られない、または本来の働きをしないために、筋肉が疲れやすく力が入りにくくなる病気です。 英語の congenital myasthenic syndromes の頭文字をとってCMSと呼ばれます。2023年の総説では、原因として35の遺伝子が報告されています[2] 。
神経から筋肉へ信号を渡す「神経筋接合部」
体を動かすとき、神経の先端(神経終末)からアセチルコリン という物質が出され、筋肉の表面にある受容体 (アセチルコリン受容体)に結合すると、筋肉が縮みます。役目を終えたアセチルコリンは、すき間にある酵素(アセチルコリンエステラーゼ)ですぐに分解されます。神経と筋肉のこのつなぎ目は、神経どうしのつなぎ目(シナプス )と同じしくみで働いています。
先天性筋無力症候群では、このリレーのどこかの部品が生まれつきうまく働きません。どの部品が壊れているかで、症状の出方も、効く薬も違ってきます。
神経の先端アセチルコリンを作って出す(CHAT・SLC5A7・SYT2・SNAP25・VAMP1など)
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すき間分解酵素をつなぎとめる(COLQ)・土台(LAMB2・COL13A1)
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筋肉側の受容体受容体そのもの(CHRNA1・CHRNB1・CHRND・CHRNE)
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受容体を集めるAGRN・LRP4・MUSK・DOK7・RAPSN/糖鎖(GFPT1・DPAGT1など)
※遺伝子の分け方はGeneReviews[1] と2023年の総説[2] をもとに、わかりやすさのために簡略化しています。
重症筋無力症との違い
重症筋無力症は、自分の体を攻撃する抗体が受容体などを壊す「自己免疫」の病気です。先天性筋無力症候群は、生まれつきの遺伝子の変化で起こる病気で、抗体は関係しません。 GeneReviewsは、抗アセチルコリン受容体抗体・抗MuSK抗体・抗LRP4抗体がないことが両者を見分ける助けになる一方、免疫を抑える治療は先天性筋無力症候群の症状を良くしない、としています[1] 。
🔍 重症筋無力症と先天性筋無力症候群の違い
※GeneReviews[1] 、難病情報センター「先天性筋無力症候群(指定難病12)」(2026年10月時点で確認)による。
抗体が陰性の「重症筋無力症」と言われている人の中に、含まれることがある
抗体が陰性でも重症筋無力症のことはあります。一方で、年長の子どもや大人では、重症筋無力症と先天性筋無力症候群を見分けにくいことがあるとされています[1] 。 たとえばRAPSN の型では、思春期や大人になってから手足の筋力低下が出て、抗体陰性の重症筋無力症に似ることがあります[1] 。
「抗体は陰性なのに重症筋無力症と言われ、免疫の治療を続けても良くならない」という場合、原因が生まれつきの遺伝子にある可能性を、遺伝子検査で確かめる意味があります。診断がつかないまま治療を続ける回り道を、1回の検査で短くできる可能性があります。
2. 先天性筋無力症候群の症状:まぶたが下がる(眼瞼下垂)・疲れやすい
先天性筋無力症候群の主な症状は、目・のど・手足の筋肉の「疲れると強くなる筋力低下」です。まぶたが下がる(眼瞼下垂)、ものが二重に見える、飲み込みにくい、少し動くと力が抜ける、といった形で現れます[1] 。 難病情報センターでは、生まれてすぐの泣く力・母乳を吸う力の弱さや、顔の小さな形態の特徴、手足の筋肉のやせが多くみられるとされています。
年齢ごとの現れ方:赤ちゃん・子ども・大人になってから見つかる型
● 生まれてすぐ〜乳児期: 体が柔らかい(筋緊張が低い)、泣き声や母乳を吸う力が弱い、呼吸が弱い。おなかの中で動きが少なかったために、生まれたときに関節が固まっている(関節拘縮)ことがあります[1] 。
● 子どものころ: 首のすわりや歩き始めが遅い、疲れやすい、まぶたが下がる。多くの方は2歳までに何らかの症状が出ます[1] 。
● 大人になってから: まれに10代〜30代で始まることがあります[1] 。顕性遺伝のスローチャンネル型は思春期や大人になってから始まることがあり、大人で始まる方は症状が軽い傾向があります[2] 。
CHRNE の受容体欠損型ではまぶたや目の動きの症状が目立つことが多い一方、DOK7の型は、肩や腰まわりの筋力低下・アヒル歩行・まぶたの下垂が中心で、目の動きは保たれやすいとされます[1] 。GFPT1・DPAGT1・ALG2・ALG14・GMPPBの型も、肩や腰まわりから弱くなる「肢帯型」をとります[1] [2] 。肢帯型筋ジストロフィーと間違えられやすいのは、このためです。
waning現象とは:くり返し刺激すると筋肉の反応が小さくなる
waning(ウェイニング)現象とは、神経を1秒に2〜3回のペースでくり返し電気で刺激したとき、筋肉の反応(複合筋活動電位)の大きさが回を追うごとに小さくなっていく現象です。 神経筋接合部で信号の受け渡しが弱っていることを示し、重症筋無力症だけでなく、先天性筋無力症候群の多くの型でもみられます[1] 。
waning現象の模式図(1秒に2〜3回の刺激)
1回目
2回目
3回目
4回目
5回目
刺激をくり返すと、筋肉の反応(棒の高さ)が小さくなる
※模式図です。実際の検査の波形ではありません。
ただし、休ませた筋肉では1秒に2〜3回の刺激で反応が小さくならないことがあり、1秒に10回の刺激を5〜10分続けたあと、再び1秒に2〜3回で刺激すると反応の低下が現れることがあるとされています。また、神経の先端の型(PREPL・SNAP25・SYT2・VAMP1など)では、逆に速い刺激で反応が大きくなることがあります[1] 。筋電図の結果だけで「先天性筋無力症候群ではない」とは言えないため、遺伝子検査で原因を確かめることが大切です。
寿命・見通しは型によって違う
経過は型と個人によって大きく違い、軽い症状にとどまる方から、筋力低下が進んで日常生活に支障が出る方までいます[1] 。 GeneReviewsでは、COLQやDOK7の型では年齢とともにゆっくり呼吸の障害が進むことがあり、CHATの型では年齢とともに良くなることがあるとされています[1] 。2023年の総説では、COLQやDOK7の型で、体幹の筋力低下による背骨の曲がり(側弯)が、のちに重くなることがあるとされています[2] 。
難病情報センターでは、症状は続き、呼吸の筋肉が弱くなることによる呼吸困難、誤嚥性肺炎、側弯に注意が必要とされています。発作的に呼吸が止まる型(発作性無呼吸を伴う型)では、乳幼児突然死症候群の危険があるため、睡眠中の呼吸の見張りが必要とされています(2026年10月時点で確認)。「病名が同じだから見通しも同じ」とは言えず、原因の遺伝子がわかると、何に気をつけて過ごすかの重点が決まります。
3. 先天性筋無力症候群は遺伝する?遺伝のしかたと確率
先天性筋無力症候群は、多くが常染色体潜性(劣性)遺伝で、一部が常染色体顕性(優性)遺伝です[1] 。 どちらに当たるかは、原因の遺伝子と、その変化が部品の働きを「なくす」のか「強めすぎる」のかで決まります。
多くは常染色体潜性(劣性)遺伝:きょうだいは4分の1
常染色体潜性(劣性)遺伝 では、対になった2つの遺伝子の両方に変化があると発症します。2つの変化は同じ場合も、違う場合(複合ヘテロ接合 )もあります。ご両親はそれぞれ1つずつ変化をもつ保因者 で、ふつうは症状がありません。この場合、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症し、2分の1の確率で症状のない保因者になります[1] 。
スローチャンネル型など一部は常染色体顕性(優性)遺伝:お子さんへは2分の1
受容体の部品の遺伝子(CHRNA1・CHRNB1・CHRND・CHRNE)に、受容体の通り道が開きっぱなしになる機能獲得型 の変化が1つあると、スローチャンネル型として常染色体顕性(優性)遺伝 をとります。同じ遺伝子でも、働きをなくす機能喪失型 の変化が両方にあると、受容体欠損型やファストチャンネル型として潜性遺伝をとります[1] 。SYT2は顕性・潜性の両方、SNAP25は顕性です[1] 。顕性遺伝の場合、お子さん1人ごとに2分の1の確率で変化を受け継ぎます[1] 。
顕性遺伝の型では、親から受け継がずに、ご本人の代で新しく起きた変化(de novo変化 )で発症することもあります[1] 。SNAP25では新しく起きた変化の報告があります[2] 。この場合、ご両親の血液で変化が見つからなくても、卵子や精子のもとになる細胞にだけ変化がある「性腺モザイク 」の可能性は残ります。変化をもつ生殖細胞からできる卵子・精子は2分の1の確率で変化を受け継ぎます。生殖細胞のうちどれくらいが変化をもつかは実際の診療では調べられないため、お子さん1人あたりの確率は『最大で2分の1』とお伝えしています。
⚠️ 「同じ病名」でも、家族への確率は原因の遺伝子で変わります
同じ先天性筋無力症候群でも、潜性遺伝の型ならご両親は保因者で次のお子さんは4分の1、顕性遺伝の型ならお子さんへは2分の1と、確率がまったく違います。病名だけでは、ご家族への影響は決められません。原因の遺伝子と遺伝のしかたを確かめることが、ご家族のこれからを考える出発点になります。
4. 原因の遺伝子で「効く薬」と「悪くなる薬」が変わる
先天性筋無力症候群では、原因の遺伝子によって、よく効く薬と、かえって症状を悪くすることがある薬が入れかわります。 GeneReviewsは、多くの方にコリンエステラーゼ阻害薬(ピリドスチグミン)が効く一方、スローチャンネル型・COLQの型・DOK7の型では効かない、あるいは悪くなるとしています[1] 。「筋無力症だから、まずこの薬」とは言えない病気であり、原因の遺伝子を知ることが、そのまま薬選びの手がかりになります。
型ごとの薬の目安
💊 原因の遺伝子・型と、薬の目安
※GeneReviews[1] と2023年の総説[2] による。表の「—」は、これらの文献に、はっきりした記載がないことを示します。実際の薬は、症状と体の状態を見て主治医が決めます。
2023年の総説では、エフェドリンとサルブタモール(アルブテロール)は多くの型で効果があり、DOK7の型での効果がくり返し報告されているとされています。3,4-ジアミノピリジンは多くの型に効く一方、スローチャンネル型・AGRN・SLC5A7・SLC25A1の型は例外とされています[2] 。フルオキセチンは自殺念慮が出ることがあるため、子どもへの使用はとくに慎重にとされています[1] 。
これらの薬の中には、日本では先天性筋無力症候群の治療薬として承認されていないものも含まれます。日本での使い方は、脳神経内科・小児神経科の主治医とご相談ください。当院は治療を行っていませんが、原因の遺伝子を確かめ、その意味を主治医にお伝えできる形でご説明します。
重症筋無力症でよく使う薬が、かえって悪くすることがある型
DOK7・COLQ・スローチャンネル型では、重症筋無力症でよく使われるコリンエステラーゼ阻害薬が効かない、あるいは症状を悪くすることがあります[1] [2] 。 抗体陰性の重症筋無力症として治療されている方が、実はこうした型だった場合、薬を続けるほど調子が悪くなる、ということが起こりえます。原因の遺伝子がわかれば、この見通しが立ちます。
また、GeneReviewsは、筋無力症の症状を悪くしうる薬として、シプロフロキサシン、クロロキン、プロカイン、リチウム、フェニトイン、β遮断薬、プロカインアミド、キニジンを挙げ、絶対に使えないわけではないが慎重に使う、としています[1] 。ほかの病気で薬を使うときや手術の前には、先天性筋無力症候群であることと原因の遺伝子を、担当の医師に伝えておくと安心です。
呼吸が急に止まる発作に備える型
CHATやRAPSNの型では、熱や感染をきっかけに急に呼吸が弱くなったり止まったりする発作がよくみられ、GeneReviewsは予防としてコリンエステラーゼ阻害薬を使うべきとしています[1] 。 2023年の総説では、発作性の無呼吸はCHAT・COLQ・SCN4Aの型で多く報告され、SLC5A7の型では生まれてすぐの無呼吸発作が典型的とされています[2] 。
GeneReviewsは、座った姿勢と寝た姿勢での呼吸機能検査や、夜間の呼吸の低下を見つける睡眠検査を勧め、筋力と呼吸の確認を、子どもでは少なくとも6か月ごと、大人では12か月ごとに行うとしています[1] 。原因の遺伝子がわかると、どれくらい呼吸に気をつけるべきかの重点が決まります。
5. どんな人がこの検査を受けるとよいか
赤ちゃんや子どものころから「疲れると力が抜ける」症状がある方、抗体が陰性で原因がはっきりしない方、ご家族に先天性筋無力症候群の方がいる方に向く検査です。 見た目や筋電図だけでは型を決められないことが多いので、迷ったら、まず遺伝カウンセリングで状況をお聞かせください。
こんな場面で
● 生まれてすぐから、泣く力や母乳を吸う力が弱い、呼吸が弱い、関節が固まっていると言われた
● 首のすわり・歩き始めが遅く、疲れるとまぶたが下がる・ものが二重に見える
● 抗アセチルコリン受容体抗体・抗MuSK抗体が陰性で、免疫の治療を続けても良くならない
● 筋電図でwaning現象(漸減現象)があると言われたが、原因がわからない
● 「肢帯型筋ジストロフィーかもしれない」と言われたが、疲れやすさや症状の波がある
● ご家族(きょうだい・お子さん)に先天性筋無力症候群の方がいて、原因の遺伝子を知りたい
● 妊娠を考えていて、ご家族の先天性筋無力症候群が次のお子さんにどう関係するか知りたい
ご家族が先天性筋無力症候群で、「大人になってから自分もなるかもしれない」と不安な方へ
きょうだいや親御さんが先天性筋無力症候群とわかると、少し疲れやすい日や、まぶたが重く感じる日があるたびに「自分も始まったのでは」と心配しながら暮らしている方もいます。こうした不安は、確かめることで具体的な話に変えられることがあります。
多くを占める潜性遺伝の型では、変化を1つだけもつ保因者は症状がなく、この病気を発症する心配はないとされています[1] 。 一方、顕性遺伝のスローチャンネル型などは思春期や大人になってから始まることがあり、大人で始まる方は症状が軽い傾向があるとされています[2] 。ご家族がどちらの型かで、ご自身にとっての意味は大きく変わります。
ご家族の原因の変化がわかっていれば、ご自身がその変化を受け継いでいるかを、その場所だけピンポイントで調べられます[1] 。受け継いでいないとわかれば、その病気について、ご家族と同じ確率を心配しなくてよくなります。受け継いでいるとわかった場合は、症状の見張り、注意したい薬、パートナーの検査やお子さんへの確率まで、具体的に計画できます(第8章)。ご家族の原因がまだわかっていない場合は、症状のあるご家族の検査が出発点になります[1] 。
当院は、知りたいと願う方を拒むことはしません。遺伝カウンセリングで十分に考えたうえで、ご本人が知りたいと決めた場合は、その意思を尊重して検査まで行います。知らないでいる選択も、同じように尊重します。検査の前も、結果を聞いたあとも、臨床遺伝専門医と時間をかけて考えていただけます。
原因がわかれば、病名が決まるだけでなく、薬の選び方、呼吸の見張りの重点、ご家族への確率までが具体的になります。生まれ持った遺伝子は一生変わらないので、一度の検査でわかったことは、この先の治療やご家族の計画に、ずっと使える情報になります。
この検査より別の検査が向いている場合
先天性筋無力症候群を疑うなら、まずこの検査です。神経筋疾患遺伝子パネル検査(138遺伝子) にも先天性筋無力症候群の遺伝子の一部(このパネルの29遺伝子のうち12遺伝子)は入っていますが、AGRN・LRP4・GFPT1・DPAGT1・GMPPB・SYT2などは入っていません。反対に、症状が先天性筋無力症候群らしくない場合は、次の検査のほうが向いていることがあります。
🔍 症状・CK値・発症年齢に合わせた検査の選び方
※どの検査が合うかは、症状・診察所見・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。神経筋疾患パネルとの重なりは、当院の各検査ページの遺伝子一覧(2026年10月時点)による。
6. 調べる29遺伝子と、それぞれでわかる病気
この検査では、先天性筋無力症候群に関わる29の遺伝子の配列を、次世代シークエンサー でまとめて読み、遺伝子の一部が丸ごと抜けたり重なったりしていないか(欠失・重複)も調べます。 GeneReviewsによると、先天性筋無力症候群の原因として多いのはCHRNE(約50%)、RAPSN(15〜20%)、COLQ(10〜15%)、DOK7(10〜15%)、CHAT(4〜5%)で、ほかの遺伝子はそれぞれ数%未満です[1] 。これは主に海外の報告をまとめた割合で、日本の割合とは違う可能性があります。
🧬 先天性筋無力症候群パネルで調べる29遺伝子
※対象遺伝子は当院の検査内容(2026年10月時点)による。病気・特徴・遺伝のしかたはGeneReviews[1] と2023年の総説[2] 、STIM1は米国国立医学図書館MedlinePlus Geneticsによる。「CMS」は先天性筋無力症候群。
糖鎖の型のうち、ALG2とDPAGT1は先天性糖鎖合成異常症(CDG)遺伝子検査(40遺伝子) にも含まれています。筋肉の症状に加えて知的障害などがある場合は、どちらの検査が合うかをご相談ください。糖鎖のしくみについては糖鎖修飾(グリコシル化)総論 で解説しています。
7. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、29遺伝子の中の、遺伝子の文字(塩基)の1つの変化や小さな挿入・欠失と、遺伝子の大きな欠失・重複です。 一方で、遺伝子検査 には必ず限界があります。
● 調べていない遺伝子: 先天性筋無力症候群の原因は35遺伝子が報告されており[2] 、このパネルの29遺伝子に入っていない遺伝子が原因のこともあります。
● 見つけにくい変化: 染色体の一部が入れかわる転座や逆位、くり返し配列が長くなる変化(リピート伸長)、遺伝子のスイッチの部分(プロモーター)や、エクソンから20塩基以上離れたイントロンの深い部分の変化は見つけられません。
● 欠失・重複の検出の範囲: 遺伝子丸ごとの欠失・重複(頬の粘膜と血液)と、2つ以上続くエクソンの欠失・重複(血液のみ)を見つけられます。1つのエクソンだけの欠失・重複は、見つかることもありますが、ふだんは検出できません。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
● よく似た配列: 遺伝子とよく似た配列(偽遺伝子など)があると、まれに判定のじゃまになることがあります。読み取りの質が十分でない部分は、サンガー法という別の方法で確かめます。
● モザイク: 体の一部の細胞にだけ変化がある状態(モザイク)を見つけることを目的とした検査ではありません。
● 意義がまだわからない変化(VUS ): 病気の原因かどうか、まだ判断できない変化が見つかることがあります。
● 陰性でも否定はできません: 原因が見つからなくても、先天性筋無力症候群ではないとは言い切れません。症状・筋電図・薬への反応とあわせて判断します。
🧪 検査の精度(カバレッジ)
※当院の検査内容(2026年10月時点)による。
8. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。 結果だけをお送りすることはありません。陽性・陰性・VUSのそれぞれで、次にできることが違います。
病的変異が見つかったら、次にできること
原因の遺伝子がわかると、「わかった」で終わらず、ご本人・ご家族・次のお子さんのそれぞれで、具体的にできることが決まります。
① ご本人(症状がある方)
● 病名と型が決まり、効きやすい薬・避けたい薬の見当がつきます(第4章)。とくにDOK7・COLQ・スローチャンネル型では、重症筋無力症の薬が合わないことを、主治医と共有できます[1] [2] 。
● 呼吸の見張りの重点が決まります。CHAT・RAPSNなど無呼吸発作が起こりやすい型では、熱や感染のときの備えを前もって主治医と決めておけます[1] 。
● 指定難病(第9章)の申請など、制度を使うときの手がかりになります。
● 治療やリハビリは、脳神経内科・小児神経科などの専門の医療機関で受けていただきます。
② 症状のないご本人(家族歴で受けた方・保因者とわかった方)
● 潜性遺伝の型で、変化を1つだけもつ保因者とわかった場合、ふつうはご自身に症状はありません。
● お子さんへの影響は、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかで決まります。パートナーの検査で、確率を具体的に考えられます。
● 顕性遺伝の型で変化をもっているとわかった場合は、ご自身の症状の見張りと、お子さんへの確率(2分の1)を一緒に考えます。
③ 子どもを持つときの選択肢(知ってから選べること)
GeneReviewsは、ご家族で原因の変化がわかっていれば、出生前検査や着床前検査が可能としています[1] 。ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。 その病気で出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に考えますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。
日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-M(着床前遺伝学的検査)が行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-Mを考えている方へ で解説しています。どの方法も選ばず、そのまま妊娠・出産を迎えることも、尊重される選択肢です。
④ ご家族
ご家族の中で原因の変化がわかっていると、きょうだい・ご両親・いとこなどは、その場所だけを調べて同じ変化をもっているかを確かめられます。GeneReviewsは、ご家族の変化がわかっていれば遺伝子検査で、わかっていなければ診察と筋電図で、血縁者を評価するよう勧めています。とくに新生児や幼い子どもでは、早く治療を始めることで急な呼吸不全を防げる可能性があるためです[1] 。症状のないご家族の検査は、ご本人の同意のうえで行います。
⑤ 当院でのその後
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明し、主治医にお伝えすること、ご家族の検査、妊娠の計画まで、次にどうするかを一緒に考えます。遺伝カウンセリング料は30分22,000円(税込)です。
陰性だったとき
29遺伝子に原因が見つからなかった場合も、先天性筋無力症候群が否定されたわけではありません(第7章)。症状が強く疑わしい場合は、より広く調べる全エクソーム検査(WES) を考えます。症状が先天性ミオパチーや肢帯型筋ジストロフィーに近ければ、第5章の表の検査を考えます。
意義がまだわからない変化(VUS)が見つかったとき
VUSは、それだけで診断や薬の変更、ご家族の検査に使うことはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。扱い方はVUS(意義不明変異)の臨床的取り扱い で解説しています。調べた目的と別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、当院の二次的所見の開示方針 をご覧ください。
妊娠を考えている方へ:保因者検査とファミリーセーフティ プラス
先天性筋無力症候群の多くは潜性遺伝なので、ご夫婦がともに同じ遺伝子の保因者かどうかが、お子さんへの確率を決めます。当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子) と男性版(714遺伝子) には、このパネルの遺伝子のうちCHAT・CHRNE・CHRNG・COLQ・DOK7・GFPT1・RAPSNの7遺伝子が含まれています。女性版1009遺伝子 では、さらにAGRN・CHRNB1・DPAGT1・MUSK・PREPLを加えた12遺伝子が含まれています(2026年10月時点、各ページの遺伝子一覧による)。
妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査ファミリーセーフティ プラス (女性787遺伝子・男性714遺伝子)もあります(単独では受けられません)。ご夫婦とも保因者だった場合、妊娠したときの赤ちゃんの出生前診断(羊水検査・絨毛検査)まで、当院で続けて受けていただけます。
9. 日本の制度:指定難病12(2026年10月時点)
先天性筋無力症候群は、指定難病12です。 難病情報センターのページ(2025年11月更新、2026年10月時点で確認)では、国内の患者数は100人未満(研究班による)とされ、診断では重症筋無力症でみられる抗体(抗アセチルコリン受容体抗体・抗MuSK抗体・抗LRP4抗体)が陰性であることが補助的な条件に挙げられています。同じページでは、病態に応じて抗コリンエステラーゼ剤、3,4-ジアミノピリジン、エフェドリン、キニジン、フルオキセチン、アセタゾラミドが使われ、根本的な治療法はないとされています。
海外では、英国の全国調査で、遺伝子で確定した先天性筋無力症候群が18歳未満の子ども100万人あたり9.2人と報告されています[3] 。まれな病気のため、診断がついていない方もいると考えられます。
小児慢性特定疾病の疾患一覧には、2026年10月時点で「先天性筋無力症候群」という名前では載っていません(「重症筋無力症」は載っています)。お子さんの状態で使える制度については、主治医や、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。
10. 検査の流れと、費用・日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。 唾液・頬の内側の粘膜の検体なら、オンライン診療で受けていただけます。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の提出血液・唾液・頬の粘膜
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行った後、検体を当院にお送りいただく流れです。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいた後にお送りします。検体の取り違えや品質の低下を防ぐため、キットが届く前にご自身で検体を採取しないでください。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かた で解説しています。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご本人とご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
11. 院長コラム
🩺 院長コラム【「筋無力症だから、この薬」とは言えない病気】
先天性筋無力症候群は、同じ「筋無力症」という名前がついていても、原因の遺伝子によって、助けになる薬と、かえって症状を悪くしうる薬が入れかわる病気です。だからこそ私は、この病気では原因の遺伝子を確かめることが、そのまま治療の入口になると考えています。抗体が陰性のまま「重症筋無力症」として治療が続いている方がいれば、一度立ち止まって、生まれつきの原因がないかを確かめる価値があります。
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由 に書いています。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。原因がわかれば、薬の選び方も、ご家族の検査も、次のお子さんのことも、具体的に考えられるようになります。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 先天性筋無力症候群は遺伝する病気ですか?遺伝する確率は?
はい、遺伝子の変化で起こる病気です。多くは常染色体潜性(劣性)遺伝で、ご両親がともに保因者の場合、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症し、2分の1の確率で症状のない保因者になります。スローチャンネル型など一部は常染色体顕性(優性)遺伝で、お子さんに受け継がれる確率は2分の1です。どちらに当たるかは、原因の遺伝子と変化の種類で決まります。
Q2. 先天性筋無力症候群は結婚や妊娠に差し支えますか?
病気があることで、結婚や妊娠ができないということはありません。お子さんへの確率は、原因の遺伝子と遺伝のしかたで大きく変わります。ご本人の原因がわかっていれば、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかを調べたり、妊娠したときに出生前診断を計画したりできます。知ったうえで選べるように、遺伝カウンセリングで一緒に考えます。
Q3. 先天性筋無力症候群は指定難病ですか?患者数は?
はい。指定難病12に指定されています。難病情報センターでは、国内の患者数は100人未満(研究班による)とされています(2026年10月時点)。英国の調査では、遺伝子で確定した先天性筋無力症候群は18歳未満の子ども100万人あたり9.2人でした。
Q4. 抗体が陰性の重症筋無力症と言われています。この検査を受けるべきですか?
抗体が陰性でも重症筋無力症のことはありますが、年長の子どもや大人では、重症筋無力症と先天性筋無力症候群を見分けにくいことがあるとされています。症状が子どものころからある、ご家族に同じような方がいる、免疫を抑える治療で良くならない、といった場合は、この検査で原因の遺伝子を調べる意味があります。
Q5. 先天性筋無力症候群の寿命や見通しは?
経過は型と個人によって大きく違い、軽い症状にとどまる方から、筋力低下が進んで日常生活に支障が出る方までいます。COLQやDOK7の型では年齢とともにゆっくり呼吸の障害が進むことがあり、CHATの型では年齢とともに良くなることがあるとされています。難病情報センターでは、呼吸の筋肉が弱くなることによる呼吸困難、誤嚥性肺炎、背骨の曲がり(側弯)に注意が必要とされ、発作的に呼吸が止まる型では、睡眠中の呼吸の見張りが必要とされています。
Q6. 大人になってから見つかることはありますか?
あります。多くは生まれてすぐから2歳までに症状が出ますが、まれに10代〜30代で始まることがあります。スローチャンネル型は大人になってから発症することも多いとされ、RAPSNの型では思春期以降に手足の筋力低下が出て、抗体陰性の重症筋無力症に似ることがあります。
Q7. 原因の遺伝子によって治療薬は変わりますか?
変わります。重症筋無力症でも使われるコリンエステラーゼ阻害薬(ピリドスチグミン)は多くの型で効きますが、DOK7やCOLQの型、スローチャンネル型では効かない、あるいは悪くなることがあります。こうした型では、エフェドリンやサルブタモール、スローチャンネル型ではキニジンやフルオキセチンが使われることがあります。薬は必ず主治医と相談して決めてください。
Q8. 検査で原因が見つからなければ、先天性筋無力症候群ではないのですか?
いいえ、否定はできません。このパネルに入っていない遺伝子や、この方法では見つけにくい変化(深いイントロンの変化、1つのエクソンだけの欠失など)が原因のことがあります。症状や筋電図の結果とあわせて、全エクソーム検査など次の検査を考えます。
🧬 原因の遺伝子を知ることが、治療とご家族の計画の出発点に
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。先天性筋無力症候群の原因の遺伝子がわかれば、薬の選び方や呼吸の見張りだけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査 による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
[1] Abicht A, Müller JS, Lochmüller H. Congenital Myasthenic Syndromes Overview. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle; 2003 (Updated 2021 Dec 23). [NCBI Bookshelf NBK1168]
[2] Ohno K, Ohkawara B, Shen XM, Selcen D, Engel AG. Clinical and Pathologic Features of Congenital Myasthenic Syndromes Caused by 35 Genes—A Comprehensive Review. Int J Mol Sci. 2023;24(4):3730. [DOI: 10.3390/ijms24043730]
[3] Parr JR, Andrew MJ, Finnis M, Beeson D, Vincent A, Jayawant S. How common is childhood myasthenia? The UK incidence and prevalence of autoimmune and congenital myasthenia. Arch Dis Child. 2014;99(6):539–542. [DOI: 10.1136/archdischild-2013-304788]
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