目次
- 1 1. LRP4関連先天性筋無力症候群(LRP4-CMS)とは
- 2 2. 原因遺伝子LRP4 ─ 神経と筋肉の接ぎ目をつくる「受け皿」
- 3 3. なぜ力が入りにくくなるのか ─ 分子レベルのしくみ
- 4 4. 症状の幅 ─ 新生児の重症例から成人発症まで
- 5 5. 「抗LRP4抗体陽性の重症筋無力症」とはまったく別の病気
- 6 6. 診断の流れ ─ 何をどう調べるか
- 7 7. 治療の考え方 ─ 「効く薬」と「避けたい薬」
- 8 8. 研究の最前線 ─ MuSKを直接動かす新しい治療
- 9 9. 遺伝と家族への影響 ─ 遺伝カウンセリングの視点
- 10 10. よくある誤解
- 11 まとめ ─ LRP4-CMSを「接合部づくりの病気」として捉える
- 12 よくある質問(FAQ)
- 13 参考文献
- 14 関連記事
筋肉に「動け」という命令を伝える神経と筋肉の接ぎ目を、神経筋接合部(しんけいきんせつごうぶ)といいます。LRP4関連先天性筋無力症候群(LRP4-CMS/CMS17)は、この接ぎ目を組み立てる設計図の一つ「LRP4遺伝子」に生まれつき変化があるために、命令がうまく伝わらず、易疲労性(つかれやすさ)や筋力低下が起こる、きわめてまれな遺伝性の病気です。世界でも、遺伝子まで確かめられた患者さんは数家系しか報告がありません。この記事では、LRP4-CMSとはどんな病気か、なぜ「同じ名前」でも重症筋無力症とはまったく別の病気なのか、そして症状・遺伝・診断・治療の考え方までを、臨床遺伝専門医の視点で解説します。
Q. LRP4-CMSとは、どんな病気ですか?
A. 神経と筋肉の接ぎ目(神経筋接合部)を組み立てるLRP4遺伝子の両方のコピーに生まれつき変化があるために、筋肉への命令伝達が弱まり、つかれやすさや筋力低下が起こる、常染色体潜性(劣性)の遺伝性疾患です。極めてまれで、症状は新生児期の重症呼吸障害から成人発症の軽い筋力低下まで大きく幅があります。
- ▶原因:LRP4遺伝子の両アレル性(両方のコピー)の病的変異。agrin–LRP4–MuSK経路が障害される
- ▶主な症状:肢帯(したい)・首・呼吸の筋肉の易疲労性と筋力低下。目の症状は目立ちにくい
- ▶診断:反復刺激試験(RNS)でのdecrement+遺伝子パネル検査でのLRP4両アレル性変異
- ▶治療の考え方:β2刺激薬(サルブタモール等)が有望。抗コリンエステラーゼ薬は悪化しうる
- ▶重要な区別:「抗LRP4抗体陽性の重症筋無力症」とはまったくの別物
1. LRP4関連先天性筋無力症候群(LRP4-CMS)とは
先天性筋無力症候群(CMS:congenital myasthenic syndrome)とは、生まれつき神経筋接合部の部品に変化があるために、神経から筋肉への命令伝達(神経筋伝達)がうまくいかず、つかれやすさや筋力低下が起こる遺伝性疾患の総称です。原因となる遺伝子は35以上が知られており、そのうちの一つがLRP4遺伝子です[1]。
LRP4関連先天性筋無力症候群(LRP4-CMS)は、このLRP4遺伝子の両方のコピー(両アレル)に生まれつき病的な変化があるために起こるCMSで、CMS17とも呼ばれます(OMIM 616304)[6]。LRP4が最初にCMSの原因遺伝子として確立されたのは2014年で[1]、それ以降も報告は非常に限られています。
💡 どれくらいまれな病気か
2026年に発表された総説がまとめた時点で、遺伝子まで確かめられた患者さんは4家系5例にとどまります[5]。ただし、遺伝子検査を受ける前に亡くなった同じ症状の新生児のきょうだいも報告されており[4]、実際の患者数はこれより多い可能性があります。数字はあくまで「これまでに報告された症例から見えているパターン」であり、正確な発症頻度は分かっていません。
2. 原因遺伝子LRP4 ─ 神経と筋肉の接ぎ目をつくる「受け皿」
LRP4(低比重リポタンパク質受容体関連タンパク質4)は、筋肉側の細胞膜(シナプス後膜)にある大きな受け皿のようなタンパク質です。神経の先端から放出されるアグリン(agrin)という合図の分子を受け取る「受容体(じゅようたい)」として働きます[1][3]。
神経筋接合部づくりは、いくつもの部品がバケツリレーのように連携して進みます。まず神経の先端からアグリンが放出され、それをLRP4が受け取ります。するとLRP4は、隣にいるMuSKという受容体チロシンキナーゼ(リン酸をつける酵素の一種)と手を組み、MuSKにスイッチを入れます。活性化したMuSKはDOK7やrapsyn(ラプシン)といった部品を動かし、最終的に筋肉が命令を受け取るためのアセチルコリン受容体(AChR)を接合部にびっしりと集めて固定します[3]。
図:神経の合図(アグリン)を受け取ったLRP4が、MuSK→DOK7→rapsynと連携し、アセチルコリン受容体(AChR)を集めるまでの流れ。
この仕組みは、生まれる前に接合部をつくるときだけでなく、できあがった接合部を維持・修復し続けるためにも必要です。動物実験では、大人になってからLRP4を働かなくすると、接合部が徐々に壊れて進行性の筋力低下が起こることが示されています[9]。さらにLRP4は、筋肉側から神経側へ「ここに接合部をつくって」と逆向きに合図を送る役割(逆行性シグナル)も担っています。LRP4-CMSが、単なる「受容体が足りない病気」では説明しきれず、接合部全体の形づくりと維持の障害として理解すべき理由が、ここにあります。
なおLRP4は、Wntシグナルという別の重要な信号にも関わり、手足や腎臓の発生にも関係します。このため、LRP4の変化はCMSだけでなく、Cenani–Lenz症候群(合指症を伴う先天異常症候群)など、まったく別の病気の原因にもなります[10]。同じ遺伝子でも「どこがどう変わるか」で結果が大きく変わる、という点が、LRP4を理解する鍵になります。
3. なぜ力が入りにくくなるのか ─ 分子レベルのしくみ
LRP4-CMSで見つかっている病的変化の多くは、LRP4というタンパク質を完全になくしてしまうタイプではありません。むしろ、タンパク質は細胞の表面にちゃんと出てくるのに、アグリンと結びつく力・MuSKと手を組む力・MuSKにスイッチを入れる力・AChRを集める力が選択的に弱まる、という「機能低下型」が中心です[1][3]。
変化が起こる「場所」によって、障害のされ方が異なります。LRP4には、アグリンを受け取るのに重要な第1 β-プロペラ領域(β1)と、MuSKと手を組むのに重要な第3 β-プロペラ領域(β3)という、機能の異なる部位があります。報告されている主な変化は、この2か所のいずれかに集まっています。
📋 これまでに報告された主なLRP4-CMSの変化
※すべて両アレル性(両方のコピーに変化)で、遺伝形式は常染色体潜性(劣性)です。変化の名称は原著論文に記載されたものに基づきます。
実際の患者さんの接合部を詳しく調べた研究では、接合部が小さく未発達で、命令を受け取る面(シナプス後膜)が対照の約半分に減り、神経の先端が離れてしまった部分や、変性した部分まで見られました[2]。電気の伝わりやすさを測る検査でも、命令の信号(終板電位)が対照の約16%まで低下していました[2]。つまりLRP4-CMSは、「AChRを集める力の低下」だけでなく、接合部そのものの形づくり・維持・神経側の分化まで含めた複合的な障害だと理解されています。
4. 症状の幅 ─ 新生児の重症例から成人発症まで
LRP4-CMSの最大の特徴は、症状の幅がきわめて広いことです。報告例が少ないため「頻度」ではなく「これまでに見えているパターン」ですが、次のように大きく分かれます[5]。
よく見られる筋肉のパターン
生存例では、肩・股関節まわりの筋肉(肢帯筋)や太ももなど体に近い筋肉(近位筋)、首の筋肉のつかれやすさと筋力低下が中心です。ある姉妹例では、運動発達の遅れと軽いかみにくさ・飲み込みにくさがあり、成人まで進行しました[2]。一方で、新生児期から呼吸障害が前面に出る重症例も報告されています[1][4]。
目の症状は目立ちにくい
まぶたが下がる(眼瞼下垂)・ものが二重に見える(複視)といった目の症状は、重症筋無力症では目立ちますが、LRP4-CMSでは主要な特徴ではないと報告されています[3]。ただし、報告例が5例程度と少ないため、「目の筋肉は絶対に侵されない」と断定できるだけのデータはまだありません。
手足や腎臓の形成異常を伴うことも
β1領域のp.Tyr607Cysの例では、CMSに加えて手足の形成異常(合指症などを含むCenani–Lenz症候群様)と馬蹄腎が合併しました[3]。これは、LRP4がWntシグナルを通じて手足・腎臓の発生にも関わるためです。逆に、β3領域の変化では、こうした骨格の異常が目立たないことも多く、形成異常がなくてもLRP4-CMSを否定はできません。
⚠️ 同じ変化でも重症度が違う
特に注目されるのがp.Glu1233Alaです。同じホモ接合の変化なのに、ある家系では成人まで生存する進行性のCMSで[2]、別の家系では横隔膜ヘルニア・肺高血圧を伴い新生児期に亡くなる致死型でした[4]。同じ遺伝子の同じ変化でも重症度が大きく異なりうるため、遺伝子型だけから将来の重さを予測することは、現時点では困難です。背景には、他の修飾遺伝子などの影響があると考えられています。
5. 「抗LRP4抗体陽性の重症筋無力症」とはまったく別の病気
ここは非常に大切な区別です。「LRP4」という名前は、まったく別の病気でも登場します。それが抗LRP4抗体陽性の重症筋無力症(MG)です。名前が同じために混同されやすいのですが、この2つは病気の成り立ちがまるで違います。
📋 2つの「LRP4」の病気の違い
| 項目 | LRP4-CMS(この記事) | 抗LRP4抗体陽性MG |
|---|---|---|
| 成り立ち | 生まれつきのLRP4遺伝子の変化(遺伝性) | 後天的にLRP4を攻撃する自己抗体ができる(自己免疫) |
| 原因 | 両アレル性の病的変異 | 免疫の異常 |
| 検査 | 遺伝子検査(LRP4変異) | 抗LRP4抗体(血液検査) |
| 治療の方向性 | β2刺激薬など。免疫療法は原則対象外 | 免疫療法が中心 |
※抗LRP4抗体は「LRP4というタンパク質を免疫が攻撃している」ことを示す検査であり、遺伝性LRP4-CMSを診断する検査ではありません[11]。
この区別は、治療方針に直結します。遺伝性のLRP4-CMSに対して、「名前がLRP4抗体と同じだから」という理由でステロイドや免疫抑制などの免疫療法を行う根拠はありません。逆に、抗LRP4抗体陽性MGに対しては免疫療法が中心になります。名前の一致に惑わされず、病気の成り立ちで見分けることが重要です。
6. 診断の流れ ─ 何をどう調べるか
LRP4-CMSを疑うのは、乳幼児期〜若年期からのつかれやすさ・肢帯や首の筋力低下・飲み込みにくさ・原因不明の呼吸障害があり、神経筋伝達の異常が疑われるときです。手足の形成異常や腎奇形を伴う場合は、さらにLRP4を強く疑う手がかりになります。
① 電気生理検査(反復刺激試験・RNS)
神経を低い頻度でくり返し刺激し、筋肉の反応(CMAP)が段々小さくなる「decrement(漸減反応)」を調べます。神経筋伝達の障害を捉える基本の検査です。LRP4-CMSでは、副神経―僧帽筋など体に近い筋肉(近位筋)の検査が特に有用で、報告例では3Hz刺激で20%を超えるdecrementがみられています[5]。手先など末梢の筋肉だけで陰性でも、そこで検査を終えないことが大切です。
② 遺伝子検査(パネル検査を第一に)
現実的な第一選択は、CMS関連遺伝子をまとめて調べるNGSパネル検査です。LRP4単独ではなく、AGRN・MUSK・DOK7・RAPSN・AChRサブユニット遺伝子などを同時に調べたほうが、症状の重なりに対応できます。実際、ある報告ではパネル検査からLRP4変異が見つかり、別の報告ではRAPSN・DOK7などが陰性だったためエクソーム解析へ進んで変異が同定されました[2][3]。片方のコピーの変化しか見つからないときは、コピー数変異や深部イントロン変異まで含めた追加解析を検討します。
💡 変異の意味づけには機能評価が重要
LRP4は手足・腎臓の発生にも関わる多機能な遺伝子です。そのため「LRP4に病的変異がある」ことと「LRP4-CMSを起こす」ことは同じではありません。変異の場所・両アレル性・家系内での遺伝・既報との位置関係・アグリン/MuSK機能への影響などを総合して判断する必要があります。実際、あるCMS変異はコンピューター予測が割れていたにもかかわらず、家系解析と機能解析によって病気の原因と強く支持されました[2]。
7. 治療の考え方 ─ 「効く薬」と「避けたい薬」
LRP4-CMSはきわめてまれなため、大規模な比較試験はなく、治療の根拠は症例報告と、同じagrin–LRP4–MuSK経路の仲間の病気(MUSK-CMS・DOK7-CMSなど)から類推した知見が中心です[5]。ここが、次に述べる「効く薬・避けたい薬」の考え方の土台になります。
⚠️ 治療は必ず専門医の管理下で
以下は「病気の仕組みから考えられる治療の方向性」の解説です。LRP4-CMSの薬物治療は反応に個人差が大きく、同じCMSでもタイプによって効く薬・悪化する薬が正反対になることがあります。実際の治療は必ず神経内科・遺伝の専門医の管理下で、客観的な反応を確認しながら行う必要があります。
効果が期待される:β2刺激薬(サルブタモール/アルブテロール)
β2アドレナリン刺激薬は、現時点で最も支持される薬理学的な選択肢です。ある姉妹例では、アルブテロールの投与で症状と電気生理の所見がともに改善しました[2]。作用の仕組みは完全には解明されていませんが、接合部の構造を安定させることが関係すると考えられています。同じ経路のDOK7-・MUSK-CMSでもβ2刺激薬が有効とされ、LRP4-CMSでも有望な対症療法と位置づけられています[5]。
注意が必要:抗コリンエステラーゼ薬(ピリドスチグミンなど)
重症筋無力症でよく使われる抗コリンエステラーゼ薬(ピリドスチグミンなど)は、LRP4/MuSK経路のCMSでは効かない、あるいは悪化させることがあると報告されています。実際、ある姉妹例ではピリドスチグミンや3,4-ジアミノピリジンでかえって筋力が低下し、中止されました[2]。p.Tyr607Cysの例でも抗コリンエステラーゼ薬による明らかな改善はありませんでした[3]。自動的な第一選択とはせず、投与するなら明確な客観的反応を確認することが必要です。
原則対象外:免疫療法
ステロイド・IVIG・血漿交換・リツキシマブなどの免疫療法は、遺伝性のLRP4-CMSには理論的根拠も臨床エビデンスもなく、原則として適応ではありません[5]。これは前述の「抗LRP4抗体陽性MG」と区別すべき、最も重要な実務上のポイントです。
重症例では多職種による支持療法
新生児・乳児の重症例では、呼吸管理と安全な栄養確保が最優先になります。最初の報告例では長期の呼吸・栄養サポートが必要で、新生児致死例では肺高血圧・横隔膜ヘルニアを伴いました[1][4]。呼吸器・新生児集中治療・小児神経・遺伝・栄養/嚥下といった多職種の連携が求められます。
8. 研究の最前線 ─ MuSKを直接動かす新しい治療
LRP4-CMSは「LRP4がうまく働かず、MuSKへの合図が足りない」病気です。そこで、LRP4より下流でMuSKを直接活性化するという戦略が、理にかなった治療として注目されています。
MuSKを直接刺激するMuSK作動性抗体のARGX-119は、DOK7-CMSのマウスモデルで神経筋接合部の機能を回復させ、新生児期の致死や成体での症状再発を防ぐことが報告されました[15]。この結果を受けて、まずDOK7-CMSを対象とする臨床試験(第1b相)が実施されています[17]。さらに2026年には、adimanebart(アディマネバート/ARGX-119)を用い、DOK7・MUSK・AGRN・LRP4のCMSを対象とする第3相試験(CoMetS)が登録され、LRP4-CMSが経路標的治療の対象として明示的に含まれました[18]。
💡 「有望」と「確立」は違う
これらは非常に期待される動きですが、現時点でLRP4-CMSの患者さんに対する有効性を示す公表結果はまだありません。また、LRP4-CMSの病態は「MuSKまで合図が届かない」だけでなく、神経側の分化や発生の異常も含むため、MuSKを動かすだけで全体を救えるかどうかは、これからの検証課題です。最新の情報は主治医や専門機関にご確認ください。
9. 遺伝と家族への影響 ─ 遺伝カウンセリングの視点
これまでに確立したLRP4-CMSは、すべて両アレル性(両方のコピーに変化)で、遺伝形式は常染色体潜性(劣性)と考えられます。両親がそれぞれ同じ疾患関連の変化を1つずつ持つ「保因者」の場合、お子さんごとの再発リスクは、罹患25%・保因者50%・変化を受け継がない25%となります。
既知の家系内変異が確定していれば、家族内での保因者検査や、出生前診断・着床前遺伝学的検査といった生殖の選択肢について、遺伝カウンセリングで話し合うことができます。ただし重要なのは、「同じ変化なら同じ重症度になる」とは言えないことです。p.Glu1233Alaが成人生存型と新生児致死型の両方を生んだ例が、その最も明確な反証です。特に新しい変化では、神経筋の症状だけでなく、胎児期の手足・腎臓の発生への影響についても、予測の不確実性を含めて丁寧に説明する必要があります。
当院では、遺伝子や染色体に関わる検査の前後で、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行っています。診断困難な状況が長く続く、いわゆる「診断のオデッセイ」は、多くの希少・遺伝性疾患に共通する経過です。臨床遺伝専門医として文献を踏まえながら、検査で何が分かり何が分からないのか、見つかった変化がご本人やご家族にとってどういう意味を持つのか、どのような選択肢があるのかを、中立の立場で整理します。正確な診断に基づいて、今後の選択肢を検討できるよう情報を整理することが重要です。
10. よくある誤解
誤解①「LRP4といえば重症筋無力症のことでは?」
抗LRP4抗体陽性の重症筋無力症は、免疫がLRP4を攻撃する後天性の自己免疫疾患です。生まれつきの遺伝子変化によるLRP4-CMSとは、成り立ちも治療もまったく異なります。
誤解②「重症筋無力症の薬が効くはず」
重症筋無力症でよく使う抗コリンエステラーゼ薬は、LRP4-CMSでは効かない、または悪化させることがあります。むしろβ2刺激薬のほうが有望とされています。
誤解③「同じ変異なら同じ経過をたどる」
同じp.Glu1233Alaでも、成人まで生存する例と新生児期に亡くなる例がありました。遺伝子型だけで将来の重さは予測できません。
誤解④「手足に異常がなければLRP4-CMSではない」
手足・腎臓の形成異常を伴うのは特定のタイプ(β1領域の変化)です。形成異常がなくてもLRP4-CMSは否定できません。
まとめ ─ LRP4-CMSを「接合部づくりの病気」として捉える
LRP4-CMS(CMS17)は、神経と筋肉の接ぎ目を組み立てるagrin–LRP4–MuSK経路の障害によって、つかれやすさや筋力低下が起こる、きわめてまれな遺伝性疾患です。単なる「アセチルコリン受容体が足りない病気」ではなく、接合部の形づくり・維持・神経側の分化までを含む「シナプス形成の病気」として理解するのが、現時点で最も合理的な見方です[5]。この視点は、進行性の経過、抗コリンエステラーゼ薬への反応の悪さ、β2刺激薬による構造安定化の可能性、そしてMuSKを直接動かす新しい治療戦略までを、一つの仕組みで説明してくれます。
報告例が少ないぶん、分からないことも多い病気です。だからこそ、正確な診断と、変化の意味づけ、そして家族への影響を、専門的な視点で丁寧に整理することが重要になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. LRP4関連先天性筋無力症候群(LRP4-CMS)とは何ですか?
神経と筋肉の接ぎ目(神経筋接合部)を組み立てるLRP4遺伝子の両方のコピーに、生まれつき病的な変化があるために起こる、きわめてまれな遺伝性疾患です。CMS17とも呼ばれます。命令が筋肉にうまく伝わらず、つかれやすさや筋力低下が起こります。遺伝形式は常染色体潜性(劣性)です。
Q2. 重症筋無力症(MG)とは違うのですか?
まったく別の病気です。LRP4-CMSは生まれつきの遺伝子の変化による遺伝性疾患です。一方、抗LRP4抗体陽性の重症筋無力症は、免疫がLRP4というタンパク質を攻撃する後天性の自己免疫疾患です。名前は似ていますが、成り立ちも治療の方向性も異なります。抗LRP4抗体の検査は、遺伝性のLRP4-CMSを診断する検査ではありません。
Q3. どんな症状が出ますか?
肩や股関節まわりの筋肉(肢帯筋)、太ももなど体に近い筋肉(近位筋)、首の筋肉のつかれやすさと筋力低下が中心です。飲み込みにくさや呼吸障害を伴うこともあります。症状の重さの幅はとても広く、新生児期からの重症呼吸障害から、成人期に気づかれる軽い筋力低下までさまざまです。まぶたが下がるなどの目の症状は、比較的目立ちにくいと報告されています。
Q4. どうやって診断しますか?
神経をくり返し刺激して筋肉の反応が小さくなるかをみる反復刺激試験(RNS)と、遺伝子検査が中心です。遺伝子検査は、LRP4単独ではなく、CMSに関わる複数の遺伝子をまとめて調べるNGSパネル検査が現実的な第一選択です。両方のコピーにLRP4の病的変異が確認されることが診断の核になります。パネルで見つからない場合はエクソーム解析へ進むこともあります。
Q5. 治療できますか?どんな薬が使われますか?
症例報告のレベルですが、β2刺激薬(サルブタモール/アルブテロール)が最も支持される選択肢で、症状の改善が報告されています。一方、重症筋無力症でよく使う抗コリンエステラーゼ薬(ピリドスチグミンなど)は、効かない、または悪化させることがあるため注意が必要です。遺伝性のLRP4-CMSに免疫療法は原則対象外です。反応には個人差があるため、治療は必ず専門医の管理下で行います。
Q6. 子どもに遺伝しますか?
常染色体潜性(劣性)遺伝です。両親がそれぞれ変化を1つずつ持つ保因者の場合、お子さんごとに罹患25%・保因者50%・変化を受け継がない25%となります。家系の変化が分かっていれば、保因者検査や出生前診断などの選択肢について遺伝カウンセリングで相談できます。ただし、同じ変化でも重症度が大きく異なる例があるため、予測の不確実性を含めた説明が大切です。
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参考文献
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