この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

副甲状腺機能亢進症は、多くは遺伝と関係のない1つの腺の腫れ(腺腫)で起こりますが、一部は生まれ持った遺伝子の変化が原因です。原発性副甲状腺機能亢進症の方の10%を超える人で、関係する遺伝子のいずれかに変化が見つかると報告されています[3]。原因の遺伝子がわかると、手術でとる副甲状腺の範囲、そもそも手術が要らない型かどうか、膵臓・下垂体・甲状腺など、ほかに見張るべき臓器が変わります。このページでは、MEN1型(多発性内分泌腫瘍症1型)などの遺伝性の原因に関わる6つの遺伝子を一度に調べる遺伝子検査でわかることと、結果が出たあとにできることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
副甲状腺機能亢進症の遺伝性の原因に関わる6遺伝子(CASR・CDC73・CDKN1B・GCM2・MEN1・RET)を一度に調べ、MEN1型・MEN2型・MEN4型(多発性内分泌腫瘍症)、副甲状腺機能亢進症-顎腫瘍症候群、家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH)などの原因がないかを確かめます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
30歳未満で見つかった方、複数の副甲状腺が腫れている方、ご家族にカルシウムの高い方や副甲状腺の病気の方がいる方、副甲状腺がんと言われた方、膵臓・下垂体の腫瘍や甲状腺髄様がん・褐色細胞腫を合わせもつ方、手術のあとに再発した方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・頬の内側の粘膜・唾液などで、オンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。病的変異が見つかれば、手術や見張りの方針を主治医と決める手がかりになり、お子さんに受け継がれる確率は多くの型で2分の1です。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 副甲状腺機能亢進症は遺伝する?遺伝性(家族性)の原因と見分けるサイン
副甲状腺機能亢進症の多くは遺伝しませんが、原発性副甲状腺機能亢進症の方の10%を超える人に、関係する遺伝子のいずれかの変化が見つかると報告されています[3]。国際的な診療指針(第5回国際ワークショップ、2022年)は、そのような遺伝子として10の遺伝子を挙げ、複数の副甲状腺が腫れるタイプほど遺伝的な背景をもつ可能性が高いとしています[3]。このページの検査は、そのうち主な6遺伝子を調べます。
副甲状腺機能亢進症とは:原発性と二次性の違い・主な症状
副甲状腺は、首の甲状腺の裏側にある小さな臓器で、ふつう4つあります。副甲状腺ホルモン(PTH)を出して、血液中のカルシウムの濃さを調節しています。
原発性副甲状腺機能亢進症は、副甲状腺そのものが原因で、血液のカルシウムが高いのにPTHが高い(または下がるべきなのに正常範囲にとどまる)状態です[3]。多くの方は、健康診断などの血液検査で思いがけずカルシウムが高いとわかって見つかります。症状のある方では骨や腎臓の合併症がみられ、骨折のリスクが高くなることが知られています。症状のない方でも、調べると尿路結石が最大22%に見つかったと報告されています[3]。
これに対して、腎臓の病気などほかの原因でPTHが上がる状態を二次性(続発性)副甲状腺機能亢進症といい、血液のカルシウムはふつう正常か低めです[3]。遺伝子検査で原因を探す対象になるのは、主に原発性のほうです。遺伝と関係しない原発性副甲状腺機能亢進症では、約85%が1つの腺の腫れ、約15%が複数の腺の腫れとされています[3]。家族に同じ病気が続くタイプは、家族性原発性副甲状腺機能亢進症とも呼ばれます。
遺伝性を疑うサイン:若い発症・複数の腺の腫れ・再発・家族歴・副甲状腺がん
国際ワークショップの指針は、30歳未満の方、複数の腺が腫れている方、カルシウムの高いご家族や多発性内分泌腫瘍症などの家族歴がある方に、遺伝子の評価を考えるよう勧めています[3]。副甲状腺がんや、がんとの区別が難しい腺腫(非定型腺腫)と診断された方も対象です。一方で、原発性副甲状腺機能亢進症の診断そのものに遺伝子検査は必要ない、とも明記されています[3]。
🔍 遺伝性を疑うサインと、考えられる原因
※遺伝子の評価を考える目安は国際ワークショップの指針[3]、それぞれの病気の特徴はGeneReviews[1][2]と米国甲状腺学会の指針[5]による。「手術のあとに再発した」は当院が検査をおすすめしている目安です。
血液検査(カルシウム・PTH・尿のカルシウム)から、どの検査を選ぶか
高カルシウム血症の原因を考えるときは、血液のカルシウムとPTH、尿に出るカルシウムの量が手がかりになります。尿へのカルシウムの出やすさを表す指標(カルシウム・クレアチニンクリアランス比)が0.01未満なら家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH)が考えられ、FHHの方の70〜80%がこの値になります。ただし、原発性副甲状腺機能亢進症の方でも最大20%が0.01未満になり、両方の病気の約40%は0.01〜0.02のあいだに入ります[3]。尿の検査だけでははっきり分けられないため、遺伝子検査が見分ける手がかりになります。
🧭 血液のホルモン検査・症状から選ぶ、内分泌の遺伝子検査
※どの検査が合うかは、検査の値・症状・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングでご説明します。
2. 原因の遺伝子がわかると何が変わる?手術の範囲・手術が要らない型・ほかの臓器の見張り
遺伝性の副甲状腺機能亢進症は、原因の遺伝子によって、手術の考え方とほかに見張る臓器が大きく違います。国際ワークショップの指針は、MEN1型では複数腺の病変を考慮して手術範囲を決め、MEN2型では病変のある腺を中心に切除範囲を判断すること、副甲状腺機能亢進症-顎腫瘍症候群では副甲状腺がんのリスクがあるため早めに両側の腺を確かめる手術が勧められること、遺伝子検査でFHHとわかった場合は多くは手術の対象にならないことを示しています[3]。副甲状腺腫瘍が遺伝性かどうかを手術の前に知っておく意味は、ここにあります。
🧬 原因の遺伝子と、変わること
※各項目の出典は表中の番号のとおり。手術の方法・時期は、内分泌外科などの専門の医療機関で決めます。当院は手術・治療を行っていません。
家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH・CASR):手術が要らない型を見分ける
FHHは、カルシウムの濃さを感じとるセンサー(カルシウム感知受容体)の働きが弱まるCASR遺伝子の変化で起こり、遺伝子検査でFHHとわかった場合、多くは手術の対象になりません[3]。CASR遺伝子がつくるのは、副甲状腺の細胞の表面にあるカルシウム感知受容体で、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)の仲間です。この受容体が鈍くなると、カルシウムが高めでも「足りない」と判断され、PTHが下がりにくくなります。
FHHの診断の目安(尿のカルシウム排泄の指標)は前の章のとおりですが、原発性副甲状腺機能亢進症と重なる範囲が広いことが分かっています[3]。若い方でカルシウムが高く尿のカルシウムが少ないとき、手術を決める前に遺伝子で確かめることには、必要のない手術を避けられる可能性があるという大きな意味があります。
同じCASR遺伝子でも、変化が両方の遺伝子にある場合には、生まれてすぐに重い高カルシウム血症を起こす新生児重症副甲状腺機能亢進症(NSHPT)になることがあります。片方の変化や新しく起きた変化でNSHPTになった報告もあります[8]。反対に、受容体の働きが強まる変化(機能獲得型変異)では、カルシウムが低くなる常染色体顕性低カルシウム血症1型が起こります。
MEN1(多発性内分泌腫瘍症1型):4つの腺すべてが対象。膵臓・下垂体の見張り
MEN1型は、MEN1遺伝子の変化で起こり、50歳までにほぼ全員(100%)が原発性副甲状腺機能亢進症になり、90%の方で最初の症状になります[1]。副甲状腺機能亢進症は20〜25歳ごろに始まることが多いとされています[1]。MEN1遺伝子は、細胞が増えすぎないように抑える腫瘍抑制遺伝子で、生まれつき片方に変化があり、副甲状腺などの細胞で残りの片方にも変化が起きると腫瘍になる、というKnudsonのツーヒット仮説で説明されます。そのため、複数の腺に腫瘍ができやすくなります。
GeneReviewsによる多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)の診断の基準は、副甲状腺・下垂体前葉・膵臓や消化管の内分泌腫瘍のうち2つ以上がある、1つあって第一度近親者がMEN1型である、またはMEN1遺伝子に病的変異が見つかる、のいずれかです[1]。下垂体の腫瘍は約30〜40%、膵臓や消化管の腫瘍ではガストリノーマが約40%、インスリノーマが約10%とされています[1]。頻度は1万人に1人から10万人に1人と推定されています[1]。
副甲状腺の手術は、腺の一部を残す亜全摘を最初の治療として提案する考え方が示されています。ただし、亜全摘のあと10〜12年のうちに40〜60%で高カルシウム血症が続く・再発すると報告されており[1]、手術のあとも見張りが欠かせません。見張りは、5歳から毎年の血液のカルシウム・PTHの測定などが勧められています[1]。MEN全体のまとめは多発性内分泌腫瘍(MEN)総論で解説しています。
MEN2(RET):甲状腺髄様がん・褐色細胞腫と、予防的な甲状腺の手術
多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)は、RET遺伝子の働きが強まる変化で起こり、甲状腺髄様がんを中心に、褐色細胞腫や副甲状腺機能亢進症が起こります。RET遺伝子は受容体チロシンキナーゼをつくる遺伝子で、働きが強まると細胞が増えやすくなるがん原遺伝子の1つです。
米国甲状腺学会の指針(2015年)は、RETの変化の場所(コドン)によって甲状腺髄様がんのリスクを「最も高い(MEN2BとM918T)」「高い(C634とA883F)」「中等度(それ以外)」の3段階に分け、この分類をもとに予防的な甲状腺の手術の時期を考えるとしています。MEN2Bでは甲状腺髄様がんが乳児期に出ることが多く、進みやすいとされています[5]。変化の場所によって手術の時期が変わるため、ご家族に甲状腺髄様がんの方がいるときは、子どものうちからの検査と見張りが大切になります。
副甲状腺機能亢進症は、C634の変化では最大30%、609・611・618・620の変化では2〜12%程度とされ、副甲状腺の見張りは褐色細胞腫の見張りと同時に行うよう勧められています[5]。MEN2Bの約50%に褐色細胞腫が起こり、MEN2Bの約75%は新しく起きた変化によるとされています[5]。また、MEN2Aの方の約7%に、腸の動きが悪くなるヒルシュスプルング病がみられます[5]。
副甲状腺機能亢進症-顎腫瘍症候群(CDC73):副甲状腺がんへの備え
副甲状腺機能亢進症-顎腫瘍症候群(HPT-JT)はCDC73遺伝子の変化で起こり、副甲状腺機能亢進症のある方の少なくとも10〜15%に副甲状腺がんがみられます[2]。家族歴のない副甲状腺がんの方でも、20〜29%にCDC73の生まれつきの変化が見つかると報告されています[2]。
副甲状腺以外では、顎の骨の腫瘍(骨化性線維腫)が30〜40%、腎臓の病変(主に嚢胞)が最大20%にみられ、まれにウィルムス腫瘍の報告もあります。女性では良性の子宮の腫瘍が多いことも知られています[2]。GeneReviewsは、遅くとも10歳までに毎年の血液のカルシウム・PTH・ビタミンDの測定を始め、半年ごとの歯科受診、少なくとも5年ごとの顎のX線と腎臓の超音波検査などを勧めています。また、がんの細胞を広げるおそれがあるため、手術の前の針による生検は避けるべきとしています[2]。
MEN4(CDKN1B)とGCM2:報告がまだ少ない原因
MEN4型は、CDKN1B遺伝子の変化で起こる、MEN1型に似た病気です。CDKN1Bは、細胞の分裂の進み方(細胞周期)にブレーキをかけるサイクリン依存性キナーゼの働きを抑えるタンパク質をつくります。2019年の報告では、それまでに論文で報告された例は30例ほどで、1つの家系では変化をもつ13人全員に原発性副甲状腺機能亢進症がみられ、下垂体の腫瘍をもつ方もいました[6]。報告が少ないため、見張りの方法は個別に考えます。
GCM2遺伝子は、副甲状腺がつくられるときに働く遺伝子です。家族性単独性副甲状腺機能亢進症(副甲状腺の病気だけが家族に続くタイプ)の40家系を調べた研究では、7家系(18%)にGCM2の働きを強める変化が見つかりました。どれくらいの人が発症するか(浸透率)は、今後の研究が必要とされています[7]。
3. この検査が向いている人・別の検査が向く人
若くして見つかった方、複数の腺が腫れている方、ご家族に同じ病気の方がいる方に向く検査です。原因がわからないまま手術と再発をくり返すより、手術の前に原因を確かめておくことで、手術の範囲やその後の見張りを最初から計画しやすくなります。
こんな方に向いています
- ●30歳未満で原発性副甲状腺機能亢進症と言われた方[3]
- ●複数の副甲状腺が腫れている方、手術のあとに再発した方
- ●ご家族にカルシウムの高い方、副甲状腺の病気の方、多発性内分泌腫瘍症(MEN)の方がいる方[3]
- ●副甲状腺がん・非定型腺腫と診断された方[3]
- ●副甲状腺機能亢進症に加えて、膵臓や下垂体の腫瘍、甲状腺髄様がん、褐色細胞腫などを合わせもつ方
- ●カルシウムは高いのに尿のカルシウムが少なく、家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH)が疑われる方
- ●ご家族で病的変異がわかっていて、ご自身が受け継いでいるかを知りたい方
受けなくてよい場合・別の検査が向く場合
- ●二次性副甲状腺機能亢進症の方:腎臓の病気などほかの原因でPTHが上がっている場合は、遺伝子検査の対象になりにくいので、まず主治医と原因を確かめてください。
- ●年齢が高く、1つの腺だけの腫れで、家族歴もない方:遺伝子検査は診断に必須ではありません[3]。受けるかどうかは遺伝カウンセリングでご相談いただけます。
- ●ご家族に、副甲状腺以外のさまざまながんの方が多い:MEN1・RET・CDC73・CDKN1B・CASRも含めて154遺伝子を調べる遺伝性がん遺伝子検査(154遺伝子)が向くことがあります(GCM2は含みません)。
- ●将来のがん・心臓の病気の予防に役立つ遺伝子をまとめて知りたい:MEN1とRETを含むアクショナブル遺伝子NGSパネルもあります。
- ●腸の動きの病気(ヒルシュスプルング病)が主な心配:ヒルシュスプルング病(先天性巨大結腸症)NGS遺伝子検査のほうが向いています。
- ●手術でとった腫瘍の組織を調べたい:この検査は生まれ持った遺伝子(生殖細胞系列の変異)を調べる検査で、腫瘍組織は対象外です。
ご家族に副甲状腺の病気やMENの方がいて「自分も、子どもも?」と不安な方へ
親やきょうだいがMEN1型や副甲状腺がんと言われてから、健康診断のカルシウムの値や、ちょっとした体調の変化のたびに「自分も始まったのでは」と心配しながら暮らしている方もいます。そうした不安を抱えるのは、自然なことです。
ご家族で原因の変化がわかっている場合、同じ変化があるかを調べる検査(予測的検査)で、ご自身が受け継いでいるかを確かめられます。受け継いでいないとわかれば、その家族の変化による病気について、ご家族と同じ確率を心配する必要はなくなります。ただし、遺伝と関係しない副甲状腺機能亢進症は誰にでも起こりうるので、一般の健康診断は続けてください。
受け継いでいるとわかった場合は、見張りを始める時期が決まります。MEN1型では5歳から毎年の血液検査が[1]、副甲状腺機能亢進症-顎腫瘍症候群では遅くとも10歳までに毎年の血液検査が勧められています[2]。変化をもっていても、発症の時期や症状の出方は人によって違います(浸透率)。知らないでいることも選べます。当院は、ライフステージごとに皆様をサポートするという考え方で診療しており、知りたいと願う方を拒むことはしません。検査の前後で、臨床遺伝専門医と時間をかけて考えていただけます。
4. 調べる6つの遺伝子と、わかる病気
この検査では、CASR・CDC73・CDKN1B・GCM2・MEN1・RETの6遺伝子を一度に調べます。遺伝子ごとに関係する病気と遺伝のしかたは次のとおりです。
🧬 副甲状腺機能亢進症の遺伝子検査で調べる6遺伝子
※病名・遺伝のしかたは、表中の文献、米国国立医学図書館の遺伝情報ページ(MedlinePlus Genetics、2026年10月確認)で確認。対象遺伝子は当院の検査内容(2026年10月20日に検査の内容を照合)による。
常染色体顕性(優性)遺伝のしくみは常染色体顕性遺伝、変化の働き方の違いは機能喪失型変異と機能獲得型変異のページで解説しています。同じCASRやGCM2、RETの遺伝子でも、働きが弱まるか強まるかで、まったく逆の病気になることがあります。
5. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、6遺伝子のタンパク質をつくる部分(とその境目)にある小さな変化と、遺伝子全体や2つ以上続く部分の欠失・重複です。調べ方は次世代シークエンサー(NGS)で、遺伝子検査にはどれも、調べられる範囲と限界があります。
- ●確かめてから報告:読み取りの質が十分でない変化はサンガー法で、見つかった欠失・重複は別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)で、もう一度確かめてから報告します。
- ●欠失・重複の範囲:遺伝子全体の欠失・重複(頬の粘膜・血液の検体)と、2つ以上続くエクソンの欠失・重複(血液の検体のみ)を調べます。1つのエクソンだけの欠失・重複は、見つかることはありますが、ふつうは検出の対象外です。
- ●見つけられない種類の変化:染色体の一部の入れ替わり(転座・逆位)、繰り返し配列の伸び、遺伝子の働きを調節する領域(プロモーター)や、エクソンから離れた場所(20塩基より奥)の変化は対象外です。
- ●モザイクと腫瘍組織:体の一部の細胞だけにある変化(体細胞モザイク)を見つけるための検査ではなく、手術でとった腫瘍の組織も対象外です。
- ●調べていない遺伝子:国際ワークショップの指針が挙げる遺伝性の原因は10遺伝子で[3]、この検査はそのうち主な6遺伝子を調べます。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、今の知見では判断できない変化が見つかることがあります(VUSを報告に含めないオプションもあります)。
- ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、ほかの遺伝子や、この方法では見つからない変化が原因の可能性は残ります。
読み取りの精度の目安として、対象遺伝子の99%以上の領域を、同じ場所を20回以上くり返して読み取ります(同じ場所を何度も読むほど、読み間違いを減らせます)。調べた目的と別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。
6. 病的変異が見つかったら、次にできること
病的変異が見つかると、病名が決まるだけでなく、手術の方針、見張りの予定、ご家族の検査、お子さんを持つときの選択肢までを、具体的に考えられるようになります。読む方の立場ごとにまとめます。
① 症状のあるご本人:手術の方針と見張りの予定を決める
MEN1型・MEN2型なら複数の腺を前提にした手術、副甲状腺機能亢進症-顎腫瘍症候群なら副甲状腺がんを意識した手術、FHHなら手術をしない選択、というように、原因に合わせた方針を主治医と決める手がかりになります[1][2][3]。MEN1型では下垂体・膵臓、MEN2型では甲状腺髄様がん・褐色細胞腫というように、副甲状腺以外の見張りの予定も立てられます。手術や治療は、内分泌外科・内分泌内科などの専門の医療機関で受けていただきます。
② 症状のないご本人(家族歴で受けた方):見張りを始める時期がわかる
受け継いでいるとわかった場合は、症状が出る前から見張りを始められます。MEN1型では5歳から毎年の血液のカルシウム・PTHなどの測定[1]、副甲状腺機能亢進症-顎腫瘍症候群では遅くとも10歳までに毎年の血液検査と、歯科・顎・腎臓・婦人科の定期的な確認が勧められています[2]。受け継いでいないとわかった場合は、その家族の変化による病気について、ご家族と同じ確率を心配する必要はなくなります。
③ お子さんを持つとき:知ってから選べること
MEN1型・MEN2型・MEN4型・副甲状腺機能亢進症-顎腫瘍症候群は常染色体顕性遺伝で、親が病的変異をもつ場合、お子さん1人あたり2分の1の確率で受け継ぎます[1][2]。米国甲状腺学会の指針は、MEN2の方に、着床前や出生前の診断という選択肢について遺伝カウンセリングを考えるよう勧めています[5]。
ご家族で原因の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんに同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。その病気で出生前診断を行うかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断するため、妊娠を考えている段階からご相談ください。くわしくは単一遺伝子疾患の出生前診断をご覧ください。
日本でも、日本産科婦人科学会の指針(2026年9月改定)にもとづく審査を経て、PGT-M(着床前遺伝学的検査)が行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは遺伝性疾患をお持ちで海外でPGT-M(着床前診断)を考えている方へで解説しています。
FHHの原因になるCASRの変化をご夫婦の両方がもっていると、お子さんがNSHPTになることがあります[8]。CASRは、当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)の対象遺伝子に入っています。妊娠中の方は、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査ファミリーセーフティ プラス(単独では受けられません)もあります。何も検査をせずに妊娠・出産することも、もちろん選べる選択肢です。
④ ご家族:同じ変化だけをピンポイントで調べられる
ご家族の中で原因の変化がわかると、ご両親・きょうだい・お子さん・いとこなどは、同じ変化があるかだけを調べられます。MEN1型の約90%は親から受け継いだ変化によるため[1]、ご本人に見つかった場合は、ご両親のどちらかも同じ変化をもっている可能性があります。MEN1型の診療指針は、第一度近親者(親・きょうだい・子)は50%の確率でこの病気になりうるため、遺伝子の解析で見つけられることが多いこと、症状が出る前に腫瘍を見つけて治療することで見通しがよくなる可能性があることを示しています[4]。症状のない方の検査は、ご本人の同意のもとで行います。
⑤ 当院でのその後
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果の意味、主治医に伝えること、ご家族に伝えるかどうか、次の検査をどうするかを、遺伝カウンセリング(30分22,000円・税込)でご相談いただけます。結果の報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
7. 陰性・VUSだったとき
陰性(病的変異が見つからない)の場合、6遺伝子による遺伝性の可能性は低くなりますが、ゼロにはなりません。ほかの遺伝子や、この方法では見つからない変化が原因のこともあるため、若い発症や家族歴があるときは、主治医の判断で見張りを続けることがあります。症状が広く副甲状腺以外の病気も疑われるときは、全エクソーム検査(WES)などを考えることもあります。
VUS(意義がまだわからない変化)は、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査や出生前診断に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。扱い方はVUS(意義不明変異)の臨床的取り扱いで解説しています。
8. 日本の制度:指定難病・小児慢性特定疾病(2026年10月時点)
2026年10月時点で、副甲状腺機能亢進症と多発性内分泌腫瘍症は、国の指定難病(348疾病)には含まれていません。厚生労働省の対象疾病一覧(2025年4月時点で348疾病)には、副甲状腺に関係するものとして副甲状腺機能低下症と偽性副甲状腺機能低下症が載っていますが、副甲状腺機能亢進症や多発性内分泌腫瘍症は載っていません。2026年6月の見直しでも、新しい疾病の追加はありませんでした。
一方、子どもを対象とする小児慢性特定疾病では、内分泌疾患の中に、副甲状腺機能亢進症、多発性内分泌腫瘍1型(ウェルマー症候群)、多発性内分泌腫瘍2型(シップル症候群)、それ以外の多発性内分泌腫瘍が掲載されています(小児慢性特定疾病情報センター、2026年10月時点で確認)。医療費の助成を受けるには、それぞれの認定の条件を満たして申請する必要があります。くわしくは、小児慢性特定疾病情報センターやお住まいの自治体の窓口でご確認ください。
9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・頬の内側の粘膜・唾液などで、オンライン診療でも受けられます。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取唾液・頬の粘膜・血液
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
オンライン診療(ビデオ通話)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただきます。ほとんどの場合は唾液か頬の粘膜で検査でき、血液の場合は全国の提携医療機関で採血していただきます。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える品質を保つため、ご自身の判断で先に検体を採らないでください。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【手術の前に、原因を知っておく意味】
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。副甲状腺機能亢進症の原因がMEN1遺伝子なのか、CDC73遺伝子なのか、それともCASR遺伝子なのかで、手術の考え方も、その後に見張る臓器も、ご家族にお伝えすることも変わります。一度の検査でわかったことは、ご自身の治療だけでなく、何十年も先までご家族の健康を考える手がかりになる、と考えています。
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。家族歴が濃いものの、ご本人は大学を卒業して会社に勤めていた方が、念のため検査を受けたところ、染色体の微小欠失が見つかったこともあります。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 副甲状腺機能亢進症は遺伝しますか?子どもに遺伝する確率は?
多くは遺伝と関係のない1つの腺の腫れ(腺腫)ですが、原発性副甲状腺機能亢進症の方の10%を超える人に、関係する遺伝子のいずれかの変化が見つかると報告されています。MEN1型・MEN2型・MEN4型、副甲状腺機能亢進症-顎腫瘍症候群は常染色体顕性(優性)遺伝で、親が病的変異をもつ場合、お子さん1人あたり2分の1の確率で受け継ぎます。受け継いでも、発症の時期や症状の出方には個人差があります。
Q2. 家族がMEN1(多発性内分泌腫瘍症1型)と言われました。症状のない私も検査を受けられますか?
受けられます。ご家族で見つかった変化がわかっていれば、同じ変化があるかを調べることで、ご自身が受け継いでいるかを確かめられます。MEN1では5歳から毎年の血液検査などの見張りが勧められているため、受け継いでいるとわかれば、見張りを始める目安になります。症状のない方の検査は将来を知る検査なので、検査の前に遺伝カウンセリングで、知ることの意味を臨床遺伝専門医がご説明します。
Q3. 副甲状腺機能亢進症は難病(指定難病)ですか?
2026年10月時点で、副甲状腺機能亢進症と多発性内分泌腫瘍症は、国の指定難病(348疾病)には含まれていません。一方、子どもを対象とする小児慢性特定疾病には、副甲状腺機能亢進症、多発性内分泌腫瘍1型・2型などが掲載されています。医療費の助成を受けるには、認定の条件を満たして申請する必要があります。
Q4. 手術をしないとどうなりますか?遺伝子検査で手術が要らないとわかることはありますか?
原発性副甲状腺機能亢進症では、副甲状腺の手術が根治的な治療ですが、すべての方に手術が必要なわけではありません。病状によっては経過観察や薬物療法を選ぶこともあります。骨折のリスクが高くなることや、症状のない方でも尿路結石が見つかることがあります。一方、遺伝子検査で家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH)とわかった場合は、多くは手術の対象になりません。手術を受けるかどうかは、内分泌内科・内分泌外科の主治医とご相談ください。
Q5. 検査で異常が見つからなかったら、遺伝性ではないということですか?
いいえ、言い切れません。この検査が調べるのは、遺伝性の副甲状腺機能亢進症に関わる主な6遺伝子です。これら以外の遺伝子の変化や、この方法では見つけにくい種類の変化が原因のこともあります。陰性の結果は、遺伝性の可能性を下げる大切な情報ですが、ご家族の状況によっては見張りを続けることもあります。
Q6. 高カルシウム血症と言われました。何科を受診すればよいですか?
まずは内分泌内科で、カルシウムと副甲状腺ホルモン(PTH)などを調べて原因を確かめます。副甲状腺の手術は内分泌外科などで行います。若い方・複数の腺の腫れ・家族歴・副甲状腺がんなど、遺伝性が疑われるときに、原因の遺伝子を調べる検査を考えます。当院は遺伝子検査と遺伝カウンセリングを行うクリニックで、副甲状腺の治療や手術は行っていません。
Q7. 遺伝性の副甲状腺機能亢進症は、結婚や妊娠に影響しますか?
遺伝性の副甲状腺機能亢進症があるからといって、結婚や妊娠ができないということはありません。お子さんへの確率は遺伝のしかたで決まり、多くの型では1人あたり2分の1です。原因の変化がわかっていれば、妊娠したときの出生前診断を計画することもできます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。どうするかを決めるのはご本人とご家族で、どの選択も尊重されます。
Q8. 費用はいくらですか?保険は使えますか?
検査費用は税込330,000円で、遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。結果までは2〜3週間で、至急オプション(55,000円)を付けると約7日短くなります。
🧬 一度の検査で、手術の方針とご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。副甲状腺機能亢進症の原因の遺伝子がわかれば、手術の範囲や見張る臓器を決める手がかりになり、ご家族は同じ変化だけを調べられるようになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
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参考文献
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