この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

先天性高インスリン血症(高インスリン性低血糖症)は、血糖が下がっているのに膵臓からインスリンが出つづけてしまい、新生児・乳児に重い低血糖をくり返す病気です。原因の遺伝子がわかると、薬(ジアゾキシド)が効きやすい型か、膵臓の一部だけが原因の「局所型」で部分切除を考えられるか、そして次のお子さんで同じことが起こる確率がどれくらいか、が見えてきます。生まれ持った遺伝子は一生変わりません。一度の検査でわかったことは、お子さんの治療の選び方だけでなく、ご家族のこれからの計画にも、ずっと使える情報になります。このページでは、28の遺伝子を一度に調べる先天性高インスリン血症の遺伝子検査でわかること・わからないことを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. 先天性高インスリン血症の遺伝子検査で何がわかりますか?
ABCC8・KCNJ11・GLUD1・GCKなど、先天性高インスリン血症とその関連の症候群に関わる28の遺伝子に、病気の原因となる変化があるかを一度に調べます。原因がわかると、ジアゾキシドが効きやすい型か、局所型の可能性があるか、ご家族への遺伝の確率を考える手がかりになります。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
低血糖のときにインスリンが抑えられていないと言われたお子さん、ジアゾキシドが効かない、または生後3か月を過ぎても治療が続いているお子さん、きょうだいに同じ病気のお子さんがいるご家族です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は唾液・頬の内側の粘膜・血液のいずれかで、唾液・頬の粘膜ならオンライン診療で受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。ご両親の検査とあわせると、局所型の可能性や、次のお子さんへの確率を考えられます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 先天性高インスリン血症(高インスリン性低血糖症)とは:新生児の低血糖が続くときに考える病気
先天性高インスリン血症とは、生まれつき膵臓のβ細胞(インスリンを作る細胞)の一部または全部からインスリンが出すぎてしまい、治りにくい低血糖を起こす病気です。英語では congenital hyperinsulinism と呼ばれ、日本では「高インスリン血性低血糖症」「高インスリン性低血糖症」とも呼ばれます。
インスリンは血糖を下げるホルモンで、ふつうは血糖が下がるとインスリンはほとんど出なくなります。この病気では、血糖が低いときにもインスリンが抑えられないため、体がエネルギー源として使う脂肪の分解やケトン体(脂肪から作られるエネルギー源)づくりも抑えられ、脳が使えるエネルギーが不足します。代表的な型の一つが、家族性高インスリン性低血糖症1型(HHF1)です。
国際的な診療ガイドライン(2024年)では、血糖が50mg/dL未満のときに、インスリンが十分に抑えられていない、β-ヒドロキシ酪酸(ケトン体の一種)が1.8mmol/L未満、遊離脂肪酸が1.7mmol/L未満、グルカゴンを注射すると血糖が30mg/dL以上上がる、といった「インスリンが効きすぎている」証拠から診断するとしています[2]。遺伝子検査は、この血液検査で病気がほぼ確かめられたあとに、原因を決めるために行う検査です。
どれくらいの赤ちゃんに起こるか
国際的な診療ガイドラインは、症候群ではない遺伝性の高インスリン血症を、新生児およそ2万5千〜4万5千人に1人と推定しています[2]。日本では、小児慢性特定疾病情報センターの解説(日本小児内分泌学会、2014年)に、持続性の先天性高インスリン血症はおよそ4万出生に1人、一過性のものはその数倍と考えられている、と書かれています。
血のつながりのあるご夫婦が多い地域や、特定の変化が多い集団では、およそ3,000人に1人まで増えるとされています[3]。潜性(劣性)遺伝の型があるためです(第7章で詳しくご説明します)。
症状:新生児・乳児では気づきにくいこともある
新生児・乳児期に発症することが多いものの、年長になってから見つかるお子さんもいます。低血糖になると、ぼーっとする、冷や汗、ふるえなどの症状が出て、重い場合は意識がなくなったり、けいれんを起こしたりします(小児慢性特定疾病情報センターの解説による)。赤ちゃんは症状を言葉で伝えられないので、血糖を測ってはじめて低血糖がわかることも少なくありません。
同じ解説では、血糖を正常に保つために必要なブドウ糖の点滴の量が多い(体重1kgあたり毎分6〜8mgを超える)ことも、診断の手がかりとして挙げられています。
一過性と持続性:遺伝子検査が役に立つのはどちらか
新生児の高インスリン血症には、数週間で治る「一過性」のものと、何か月も続く「持続性」のものがあります。遺伝子が原因であることが多いのは持続性のほうです。
国際的な診療ガイドラインは、お母さんの糖尿病、出生前後のストレスや仮死、おなかの中での発育の遅れなどをきっかけに起こる高インスリン血症(周産期ストレスによる高インスリン血症)について、新生児およそ1,200〜1,700人に1人に起こり、多くは生後24時間以内に始まって生後10〜14日ごろまでに治るとしています。より重いものは2週間を超えて続き、ジアゾキシドが必要になることがあります[2]。日本の解説でも、一過性のものは低出生体重のお子さんや出生前後に何らかのトラブルがあったお子さんに多く、大部分は遺伝によるものではないとされています。
「新生児低血糖は治るのか」と心配されている方も多いと思います。一過性のものの多くは自然に落ち着きます。一方、生後3か月を過ぎても治療が続く場合や、薬が効かない場合は、遺伝子の原因を調べる意味が大きくなります(第4章)。
びまん型と局所型
先天性高インスリン血症には、膵臓全体のβ細胞がインスリンを出しすぎる「びまん型」と、膵臓の一部にだけ異常な細胞のかたまりがある「局所型」があります。遺伝性疾患の解説書GeneReviewsでは、びまん型がおよそ60〜70%、局所型がおよそ30〜40%とされています[1]。局所型は、その部分を切り取ることで治る可能性があるため、どちらの型かを見分けることが治療を大きく左右します。この見分けに、遺伝子検査が役に立ちます(第2章)。
新生児低血糖と発達への影響:早く原因を決める理由
低血糖をくり返すと、脳に障害が残ることがあります。小児慢性特定疾病情報センターの解説では、低血糖による神経の後遺症が、発達の遅れ・けいれん・脳性麻痺につながる可能性があり、新生児期に重い低血糖をくり返した場合は、てんかんや発達の遅れなどの後遺症を残すことが多いとされています。国際的な診療ガイドラインも、低血糖による脳の障害を減らすことを目的に作られています[2]。
「新生児低血糖で発達障害になるのでは」と不安になる方もいると思います。後遺症が残るかどうかは、低血糖の重さや長さによって大きく違い、一人ひとりで見通しは変わります。だからこそ、原因を早く決めて、その原因に合った治療で血糖を安定させることが大切です。国際的な診療ガイドラインは、治療中の血糖を70〜100mg/dLに保つことを勧めています[2]。
日本の制度:小児慢性特定疾病の対象
先天性高インスリン血症は、小児慢性特定疾病の対象疾病です(内分泌疾患、大分類「高インスリン血性低血糖症」。2026年10月時点、小児慢性特定疾病情報センターで確認)。医療費の助成を受けるには、認定の基準を満たし、申請する必要があります。
一方、厚生労働省の指定難病の対象疾病一覧(348疾病)には、先天性高インスリン血症(高インスリン血性低血糖症)という名前の病気は含まれていません(2026年10月時点で確認)。制度の詳しい条件は、小児慢性特定疾病情報センターやお住まいの自治体の窓口でご確認ください。
2. 原因の遺伝子がわかると、治療の選び方が変わる
先天性高インスリン血症は、どの遺伝子が原因かによって、ジアゾキシドが効きやすいか、局所型の可能性があるか、ほかに気をつける症状があるかが違います。国際的な診療ガイドライン(2024年)は、周産期のストレスなどによる一時的なものと考えられる場合を除き、すべてのお子さんに遺伝子検査を勧めています[2]。
病名がわかることは、ゴールではなくスタートです。原因がわかると、次に受けるべき検査、薬を続けるか手術を考えるか、どんな合併症に気をつけるかが決まり、使える制度も確かめやすくなります。
遺伝子ごとに見る「ジアゾキシドが効きやすいか」
ジアゾキシドは、インスリンが出るのを抑える飲み薬で、国際的な診療ガイドラインでは最初に使う薬(第一選択)とされています[2]。ただし、原因によって効きやすさが違います。
💊 原因の遺伝子と、ジアゾキシドの効きやすさ・特徴
※GeneReviews(2024年10月更新)[1]と国際的な診療ガイドライン[2]による。効き方は同じ遺伝子でも一人ひとり違い、表は傾向です。SLC16A1のジアゾキシドの効き方は、確かめた資料に記載がありませんでした。
米国の小児病院で417人のお子さんを調べた研究では、ジアゾキシドが効かなかったお子さんの約91%、効いたお子さんの約47%で原因の遺伝子の変化が見つかりました[4]。国際的な診療ガイドラインも、ジアゾキシドが効かない群では最大90%にABCC8かKCNJ11の変化があるとし、効かないお子さんでは、この2つの遺伝子を急いで調べることが治療に欠かせないとしています[2]。
局所型は、父から受け継いだ変化と膵臓の一部の変化で起こる:PET検査と部分切除
局所型は、お父さんから受け継いだABCC8またはKCNJ11の潜性(劣性)の変化に、膵臓の一部だけで起きた染色体の変化が重なって起こります。膵臓の一部の細胞で、11番染色体の11p15領域において、お母さん由来の領域が失われ、お父さん由来の領域が重複するためです[1][2]。これは、両親から1本ずつ受け継ぐはずの染色体が片方の親からだけになる「片親性ダイソミー」が、膵臓の一部の細胞だけで起きた状態で、「ヘテロ接合性の消失(LOH)」とも呼ばれます。
国際的な診療ガイドラインによると、お父さんから受け継いだ変化が1つだけ見つかった場合、局所型を予測する精度(感度)は97%です[2]。前に紹介した417人の研究では、ジアゾキシドが効かなかったお子さんのうち約53%が局所型でした[4]。そのため、遺伝子検査の結果は、ご両親の検査とあわせて「局所型の可能性がどれくらいあるか」を考える大きな手がかりになります。
局所型が疑われる場合は、膵臓のどこに病変があるかを調べる18F-DOPA PETという検査が使われます。国際的な診療ガイドラインでは、組織で確かめた286例を調べた研究で、病変を見つける精度(感度)は75〜100%と報告されており、局所型では手術で切り取ることが第一の選択で、多くの場合で治るとされています[2]。日本の解説でも、局所性病変を見つけて膵臓の部分切除を行った場合は、後遺症なく治るとされています。PET検査や手術を受けられる施設・方法は限られるため、主治医・専門の医療機関でご相談ください。
💡 用語解説:体細胞の変化と、生まれ持った変化
生まれ持った遺伝子の変化(生殖細胞系列の変化)は、体のすべての細胞にあり、お子さんに受け継がれることがあります。一方、生まれたあとに体の一部の細胞だけで起きる変化を「体細胞の変化」といい、お子さんには受け継がれません。局所型は、この2つが重なって起こる病気です。くわしくは体細胞変異と生殖細胞系列変異のちがいをご覧ください。
手がかりになるほかの症状:アンモニア・たんぱく質・運動
GLUD1の変化による型は、血液のアンモニアが中くらいに高くなるのが特徴で、「高インスリン血症・高アンモニア血症症候群」と呼ばれます[1][2]。たんぱく質に含まれるアミノ酸(ロイシン)で低血糖が起こりやすい型があり、ロイシン感受性低血糖症として知られています。アンモニアが高いお子さんでは、尿素サイクル異常症などとの見分けも必要になり、高アンモニア血症・尿素サイクル異常症のパネル検査が向くこともあります。
SLC16A1の変化による型では、運動のあとに重い低血糖が起こります[1]。国際的な診療ガイドラインも、一部のお子さんでは無酸素運動が低血糖のきっかけになるとしています[2]。「どんなときに低血糖が起こるか」は、原因をしぼる大切な情報です。
低血糖の時期のあとに糖尿病の時期がくる遺伝子:MODY・新生児糖尿病の検査との違い
同じ遺伝子の変化でも、生まれてすぐは低血糖、大きくなってから糖尿病、と逆の症状が出ることがあります。GeneReviewsでは、HNF4Aの変化による型は軽く、ジアゾキシドが効きやすいものの、思春期にインスリンが足りない糖尿病になることがあり、HNF1Aの変化による型も、多くは子どものうちに落ち着いたあと、思春期から大人になって若年発症成人型糖尿病(MODY)になることがあるとされています[1]。国際的な診療ガイドラインも、ご家族にMODYの方がいる場合はHNF4A・HNF1Aの検査を考えるべきとしています[2]。
ABCC8の変化は、高インスリン血症だけでなく、永続性新生児糖尿病3型やMODY12の原因にもなります。KCNJ11・GCK・INSも新生児糖尿病の原因になる遺伝子です(第5章の表)。高血糖・糖尿病の症状が中心のお子さんやご家族には、MODY・新生児糖尿病の遺伝子検査が向いています。低血糖が中心ならこのページの検査、高血糖が中心ならMODY・新生児糖尿病の検査、と考えてください。
症候群の一部としての高インスリン血症:歌舞伎症候群・先天性糖鎖合成異常症など
高インスリン血症は、ほかの症状をともなう症候群の一部として起こることもあります。28を超える症候群で報告があり、最も多いのはベックウィズ・ヴィーデマン症候群と歌舞伎症候群とされています[3]。この検査には、歌舞伎症候群の原因遺伝子(KMT2D・KDM6A)や、先天性糖鎖合成異常症(CDG)の原因遺伝子(PMM2・MPI・ALG3・ALG6・PGM1)などが含まれています。顔つきの特徴や発達の遅れなど、ほかの症状がある場合は、歌舞伎症候群・歌舞伎様症候群の遺伝子検査のように、症候群に合わせた検査のほうが向くこともあります。
一方、ベックウィズ・ヴィーデマン症候群は、この検査では調べられません。国際的な診療ガイドラインによると、ベックウィズ・ヴィーデマン症候群でも、11p15がお父さん由来の2本になっている場合などに、ジアゾキシドが効かない重い高インスリン血症が起こることがあります[2]。この変化は遺伝子の配列ではなく、染色体の由来や遺伝子の印(メチル化)の変化なので、配列を読むこの検査では見つかりません。体が大きい、舌が大きい、体の左右で大きさが違うなどの特徴があるお子さんでは、別の検査を考えます(第4章)。
3. 低血糖の検査結果から選ぶ:どの遺伝子パネルを受けるとよいか
お子さんの低血糖の原因は、高インスリン血症だけではありません。低血糖が起きたときの血液・尿の検査の結果が、どの遺伝子パネルを選ぶかの手がかりになります。インスリンが抑えられず、ケトン体と遊離脂肪酸が低いときは、このページの高インスリン血症パネルが向いています[2]。
🩸 低血糖のときの検査結果と、向いている遺伝子パネル
※高インスリン血症の行は国際的な診療ガイドライン[2]の診断の考え方による。ほかの行は、低血糖の原因を考えるときの大まかな目安です。実際には、検査を行った主治医の判断と、遺伝カウンセリングでのご相談で決めます。
4. 先天性高インスリン血症の遺伝子検査を受けるとよい人(受けなくてよい場合も)
血液検査で高インスリン性低血糖と言われ、とくに薬が効かない、または生後3か月を過ぎても治療が続いているお子さんに向く検査です。国際的な診療ガイドラインは、ジアゾキシドが効くお子さんでも、生後3か月を過ぎて続く場合は遺伝子検査を勧めています[2]。
受けるとよい場面
- ●生まれてすぐから低血糖をくり返し、低血糖のときにインスリンが抑えられていないと言われた
- ●血糖を保つのに多くのブドウ糖の点滴が必要だった
- ●ジアゾキシドが効かない、または効きが不十分と言われた(局所型かどうかを考えるうえで、とくに大切です)
- ●ジアゾキシドで落ち着いているが、生後3か月を過ぎても治療が続いている
- ●血液のアンモニアが高い、たんぱく質や運動のあとに低血糖が起こる
- ●きょうだいに同じ病気のお子さんがいる、ご家族に若いうちから糖尿病(MODY)の方がいる
原因がわからないまま、何度も病院や検査を回るのは、お子さんにもご家族にも大きな負担です。この検査は、主な原因遺伝子をまとめて一度に調べることで、その回り道を短くできる可能性があります。ただし、すべてのお子さんで原因が見つかるわけではありません(第6章)。
この検査より別の検査が向いている場合
🔍 こんなときは、別の検査や経過観察が向いています
※どの検査が合うかは、血液検査の結果・症状・ご家族の情報で変わります。遺伝子検査そのものの基本は遺伝子検査(遺伝学的検査)とはで解説しています。
5. 調べる28遺伝子と、それぞれでわかる病気
この検査では、先天性高インスリン血症と、高インスリン血症をともなうことがある症候群に関わる28の遺伝子を一度に調べます。病名と遺伝のしかたは、遺伝子ごとの公開データベース(UniProt。OMIMの病名番号つき)とGeneReviewsで確かめたものです。
🧬 高インスリン血症パネルで調べる28遺伝子
※病名はUniProtの各遺伝子の記載(OMIM番号つき)、CDGの遺伝のしかたはGeneReviewsのCDG総説、HK1・KDM6Aは国際的な診療ガイドライン[2]、UCP2は文献[1]、PMM2の高インスリン性低血糖症は文献[7]、HK1の調節領域の変化は文献[6]による。「報告がまれ」とした遺伝子は、確かめた資料に遺伝のしかたの記載がなかったものです。
多くのご家族にとって中心になるのは、ABCC8とKCNJ11です。GeneReviewsでは、症候群ではない遺伝性の高インスリン血症のうち、ABCC8が40〜45%、KCNJ11が5%を占めるとされています[1]。この2つの遺伝子は、β細胞でインスリンが出る量を調節する「KATPチャネル」という部品をつくっています。
6. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、28の遺伝子の中の小さな変化(1文字の変化や小さな欠け・入り込み)と、ご希望があれば大きめの欠失・重複です。一方で、どんな遺伝子検査にも限界があり、先天性高インスリン血症ではとくに知っておきたい限界があります。
わかること
- ●小さな変化:次世代シークエンサーで、遺伝子のたんぱく質をつくる部分(エクソン)と、その前後のつなぎ目を読みます。対象の部分の99%以上を、20回以上くり返して読む精度で調べます(シーケンス深度)。
- ●欠失・重複(料金に含まれます):遺伝子1つ全体の欠失・重複(頬の粘膜・全血)と、連続した2つ以上のエクソンの欠失・重複(全血のみ)を見つけられます。1つのエクソンだけの欠失・重複は、ふつうは見つかりません。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します(コピー数の変化(CNV))。
わからないこと
- ●膵臓の一部だけで起きた変化:局所型で膵臓の一部だけに起きる染色体の変化は、血液・唾液には出ないため、この検査では見つかりません[2]。局所型かどうかは、ご両親の検査結果とPET検査などをあわせて考えます。
- ●イントロンの奥や調節領域の変化:この検査は、エクソンから20塩基を超えて離れたイントロンの奥や、ほとんどの調節領域(プロモーター)の変化を読みません。HK1のイントロンの調節領域で見つかった高インスリン血症の原因[6]や、PMM2のプロモーターの変化による病気[7]、ABCC8のイントロンの奥の変化[3]は、この検査の範囲の外にあるため、見つからない可能性が高いと考えます(臨床遺伝専門医としての判断)。
- ●メチル化・染色体の変化:ベックウィズ・ヴィーデマン症候群のような11p15のメチル化の変化や、染色体の数の変化は調べません。
- ●モザイク:体の一部の細胞にだけある変化を見つけることは、この検査の目的に入っていません。
- ●そのほか:転座・逆位、繰り返し配列の伸びなどは見つかりません。
原因が見つかる割合と、陰性・VUSの意味
先天性高インスリン血症では、すべてのお子さんで原因が見つかるわけではありません。調べた集団によって違い、原因が見つかった割合は45〜79%と報告されています[3]。GeneReviewsでは、21〜55%で原因が特定されないとされています[1]。日本の解説(2014年)では、持続性のうち遺伝子の原因が見つかるのはおよそ50%とされています。前に紹介した417人の研究のように、ジアゾキシドが効かないお子さんでは見つかる割合が高く、効くお子さんでは低くなります[4]。
そのため、「陰性=先天性高インスリン血症ではない」ではありません。また、病気の原因かどうかまだ判断できない変化(VUS:意義がまだわからない変化)が見つかることもあります。VUSは、それだけで診断やご家族の検査には使いません(第7章)。
7. 病的変異が見つかったら、次にできること
わかるだけでは意味がありません。原因の遺伝子が見つかったら、お子さんご本人・ご両親ときょうだい・次のお子さん、それぞれの立場で、具体的にできることがあります。結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたでも解説しています。
お子さんご本人:治療の選び方と、日々の備え
- ●治療の選び方:ABCC8・KCNJ11の変化がお父さんからの1つだけなら局所型の可能性があり、PET検査と部分切除を考える手がかりになります。両親から1つずつ受け継いでいる場合などは、びまん型と考えます[2]。
- ●日々の備え:GeneReviewsは、軽い型でも血糖の見張りが大切で、とくにかぜなどの感染症のときに注意し、長い絶食を避けるよう勧めています[1]。具合が悪いときの対応は、前もって主治医と決めておきましょう。
- ●これからの見通し:GLUD1ならアンモニア、HNF4A・HNF1Aなら将来の糖尿病、症候群の遺伝子ならほかの合併症、というように、気をつけることが決まります。膵臓を大きく切除した場合は、のちにインスリンが必要な糖尿病になることが多いとされています[1]。
治療や食事の管理は、主治医・専門の医療機関で行います。当院は治療を行っていませんが、遺伝子の結果がご家族にとってどういう意味をもつかを、時間をかけてご説明します。
ご両親・きょうだい:同じ変化をピンポイントで調べる
お子さんで原因がわかると、ご両親・きょうだいについても、必要に応じて同じ場所を調べることで、同じ変化をもっているかを確かめられます。GeneReviewsは、潜性(劣性)遺伝のびまん型では、ご両親は保因者と考えられるので、それを確かめる検査を勧めています[1]。局所型かどうかを考えるうえでも、変化がお父さん・お母さんのどちらから来たかを知ることが大切です。
これから生まれるきょうだいや、まだ症状のないきょうだいについて、GeneReviewsは、ご家族の変化がわかっていれば早めに検査し、リスクのある新生児は生まれたときから血糖をよく見張るよう勧めています[1]。
次のお子さんへの確率は、型で違う
次のお子さんで同じ病気が起こる確率は、原因の型と遺伝のしかたで大きく変わります。原因がわかってはじめて、具体的な確率と備え方を考えられるようになります。
👪 型ごとの、きょうだい(次のお子さん)への確率
※文献[1]による。GeneReviewsでは、顕性遺伝のびまん型の約75%が新しく起きた変化とされています。
お子さんで新しく起きた変化(de novo)だった場合、ご両親のせいではないことがはっきりします。ただし、ご両親の血液で変化が見つからなくても、卵子や精子のもとになる細胞にだけ変化がある(性腺モザイク)ことがあります。変化をもつ生殖細胞からできる卵子・精子は2分の1の確率で変化を受け継ぎます。生殖細胞のうちどれくらいが変化をもつかは実際の診療では調べられないため、お子さん1人あたりの確率は『最大で2分の1』とお伝えしています。
常染色体潜性(劣性)遺伝・常染色体顕性(優性)遺伝のしくみや、変化をもっていても発症しない人がいること(浸透率)も、遺伝カウンセリングでご家族に合わせてご説明します。
次の妊娠でできること:出生前診断と、生まれてすぐの見守り
ご家族の原因の変化がわかっていれば、次の妊娠でどう備えるかを具体的に考えられます。GeneReviewsは、びまん型ではご家族の変化がわかっていれば出生前の検査や着床前の検査が可能で、生まれてすぐに治療を始められるとしています。一方、局所型は膵臓の一部で起きる変化を予測できないため、出生前の検査では見通しがわからないとしています。こうした検査を受けるかどうかは、ご家族ご自身が決めることとされています[1]。
ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。この病気で出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断しますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。出生前診断を受けない場合も、生まれてすぐから血糖を見張る計画を、産科・小児科の主治医と前もって立てておけます。何もしないで産むことも、そのまま選べる選択肢です。
日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-M(着床前遺伝学的検査)が行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-M(着床前診断)を考えている方へで解説しています。
なお、28遺伝子のうちKMT2D(歌舞伎症候群1型の原因遺伝子)は、当院のNIPT(ダイヤモンドプラン・インペリアルプラン)でも調べられます。当院のNIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。ABCC8・KCNJ11をはじめ、高インスリン血症の主な原因遺伝子は、当院のNIPTの対象には入っていません。
いとこ同士の結婚と、潜性遺伝の病気
血のつながりのあるご夫婦は、同じ潜性(劣性)の変化を一緒にもっている確率が高くなるため、潜性遺伝の病気のお子さんが生まれる確率も上がります。先天性高インスリン血症も、血のつながりのあるご夫婦が多い集団では、およそ3,000人に1人まで増えるとされています[3]。
これは「いとこ同士は結婚しないほうがよい」という意味ではありません。どのご夫婦も、誰もが何かしらの潜性の変化をもっています。大切なのは、知ったうえで選べることです。当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)・男性版714遺伝子には、ABCC8・KCNJ11・HADH・PMM2・MPI・ALG3・ALG6・USH1Cが含まれています。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」もあります(単独では受けられません)。潜性遺伝と保因者のしくみは劣性遺伝(潜性遺伝)とはで解説しています。
陰性・VUSだったとき
原因が見つからなかった場合も、先天性高インスリン血症が否定されるわけではありません(第6章)。症状や経過に合わせて、全エクソーム検査など範囲の広い検査を考えることがあります。VUSが見つかった場合は、それだけで診断や、ご家族・出生前の検査には使いません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。扱いの考え方はVUS(意義不明変異)の臨床的取り扱い、調べた目的と別の病気の原因が見つかった場合の当院の方針は二次的所見の開示方針をご覧ください。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。
8. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は唾液・頬の内側の粘膜・血液のいずれかで、唾液・頬の粘膜ならオンライン診療で受けられます。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医・来院またはオンライン
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検体の採取唾液・頬の粘膜・血液
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただく流れです。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える品質を保つため、キットが届く前にご自身で検体を採らないでください。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
9. 院長コラム
🩺 院長コラム【原因がわかってはじめて、次の一手と次のお子さんの計画が立つ】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。先天性高インスリン血症は、同じ「低血糖」でも、原因の遺伝子によって、薬が効きやすいか、手術で治る可能性がある局所型か、次のお子さんへの確率がどれくらいかが、まったく違う病気です。とくに局所型では、お父さんから受け継いだ変化があっても、次のお子さんで同じことが起こる確率はとても低いと推定されています。原因がわからないままでは、こうしたことを何も言えません。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。原因がわかったご家族には、次の妊娠での出生前診断まで、当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 先天性高インスリン血症は遺伝しますか?次の子に遺伝する確率は?
原因の型によって違います。潜性(劣性)遺伝のびまん型では、ご両親とも保因者の場合、お子さんごとに4分の1の確率で発症します。顕性(優性)遺伝の型では、親が同じ変化をもっていれば2分の1です。局所型では、きょうだいが局所型になる確率は540分の1と推定されています。お子さんで新しく起きた変化でも、変化をもつ生殖細胞からできる卵子・精子は2分の1の確率で変化を受け継ぎ、生殖細胞のうちどれくらいが変化をもつかは実際の診療では調べられないため、お子さん1人あたりの確率は最大で2分の1とお伝えしています。
Q2. 先天性高インスリン血症は治りますか?
一過性のものの多くは、生後数週間ほどで自然に落ち着きます。持続性のものでも、局所型は病変を切り取る手術で多くの場合治るとされています。びまん型では、ジアゾキシドなどの薬や食事の工夫で血糖を保ちながら経過をみます。見通しは原因の型によって大きく違うため、原因を知ることが大切です。
Q3. ジアゾキシドが効かないと言われました。遺伝子検査は役に立ちますか?
役に立ちます。国際的な診療ガイドラインは、ジアゾキシドが効かないお子さんでは最大90%にABCC8かKCNJ11の変化があるとし、この2つの遺伝子を急いで調べることが治療に欠かせないとしています。お父さんから受け継いだ変化が1つだけ見つかった場合は局所型の可能性があり、PET検査や部分切除を考える手がかりになります。
Q4. 先天性高インスリン血症は指定難病ですか?
厚生労働省の指定難病の対象疾病一覧には含まれていませんが、小児慢性特定疾病の対象疾病です(2026年10月時点で確認)。医療費の助成を受けるには、認定の基準を満たし、申請する必要があります。
Q5. いとこ同士の結婚で、先天性高インスリン血症は増えますか?
血のつながりのあるご夫婦では、同じ潜性(劣性)の変化を一緒にもっている確率が高くなるため、潜性遺伝の型のお子さんが生まれる確率が上がります。血のつながりのあるご夫婦が多い集団では、およそ3,000人に1人まで増えるとされています。妊娠の前にご夫婦で保因者検査を受けておくと、知ったうえで計画を立てられます。
Q6. 検査はオンラインで受けられますか?
受けられます。唾液・頬の内側の粘膜・血液のいずれもオンライン診療が可能で、血液の場合は全国の提携医療機関で採血していただきます。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金のお支払い後にお送りします。
Q7. 検査で原因が見つからなかったらどうなりますか?
原因が見つからなくても、先天性高インスリン血症が否定されるわけではありません。原因が見つかる割合は、調べた集団によって45〜79%と報告されており、イントロンの奥や調節領域の変化、膵臓の一部だけで起きた変化など、この検査の範囲の外にある原因もあります。症状や経過に合わせて、範囲の広い検査を考えることがあります。
🧬 一度の検査で、お子さんの治療とご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。先天性高インスリン血症の原因がわかれば、ジアゾキシドが効きやすい型か、局所型の可能性があるかを考える手がかりになり、ご家族の検査や、次の妊娠の計画にもつながります。当院では臨床遺伝専門医が検査の前後の遺伝カウンセリングを行い、絨毛・羊水からの出生前診断のご相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
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