この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

脂肪酸代謝異常症(脂肪酸β酸化異常症)の遺伝子検査は、空腹のときに脂肪をエネルギーに変えるしくみ(β酸化)とその周辺の代謝に関わる14の遺伝子を一度に調べ、どの型の病気かを確かめる検査です。VLCAD欠損症、CPT2欠損症、MCAD欠損症、全身性カルニチン欠乏症、グルタル酸血症2型などの原因がわかります。病名がわかると、空腹の時間の長さ、食事のとり方、熱が出たときの対応が、その型に合わせて決まります。新生児マススクリーニングで再検査と言われた方、空腹や発熱のたびに低血糖を起こすお子さん、大人になって運動のあとに筋肉痛や赤褐色の尿をくり返す方に向けて、臨床遺伝専門医が、この検査でわかることと、わかったあとにできることを解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
脂肪酸代謝異常症とその周辺の代謝異常症の原因になる14遺伝子(ACADM・ACADVL・CPT1A・CPT2・HADHA・HADHB・SLC22A5・ETFA・ETFB・ETFDHなど)を一度に調べ、MCAD欠損症・VLCAD欠損症・CPT2欠損症・三頭酵素欠損症・全身性カルニチン欠乏症・グルタル酸血症2型などのどれにあたるかを確かめます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
新生児マススクリーニングで再検査・精密検査と言われた方、空腹や発熱で低血糖・急な具合の悪化を起こしたお子さん、運動のあとに筋肉痛や横紋筋融解をくり返す方、そしてきょうだいがこの病気と診断され、症状のないご家族が自分も受け継いでいるか知りたい方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。ほとんどの型は常染色体潜性(劣性)遺伝で、ご両親とも保因者なら次のお子さんが同じ病気になる確率は4分の1です。症状のないきょうだいの検査や、意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 脂肪酸代謝異常症(脂肪酸β酸化異常症)とは
脂肪酸代謝異常症は、空腹のときに体の脂肪をエネルギーに変えるしくみ(脂肪酸β酸化)が生まれつきうまく働かない病気のグループです。ふだんは元気に過ごせていても、食事をとれない時間が長くなったとき、熱が出たとき、激しい運動をしたときなど、体が脂肪のエネルギーを必要とする場面で症状が出ます[1]。脂肪酸β酸化異常症、FAOD(fatty acid oxidation disorders)とも呼ばれます。
原因は、脂肪酸を細胞の中のエネルギー工場であるミトコンドリアに運ぶしくみや、ミトコンドリアの中で脂肪酸を少しずつ分解していく酵素の遺伝子の変化です。どの遺伝子に変化があるかで、症状の出方も、気をつけることも変わります。
脂肪酸β酸化のしくみ:なぜ空腹・発熱・運動で具合が悪くなるのか
食事のあとしばらくは、血液中のブドウ糖や肝臓にたくわえた糖でエネルギーをまかなえます。けれども空腹が長く続くと、体は脂肪を分解して脂肪酸を取り出し、ミトコンドリアで少しずつ切り分けてエネルギーにします。これが脂肪酸β酸化です。肝臓では、このときにできた材料から「ケトン体」が作られ、脳などのエネルギーになります。
体の脂肪空腹で分解され脂肪酸に
▶
カルニチン回路ミトコンドリアへ運ぶ
OCTN2・CPT1・CACT・CPT2
▶
β酸化鎖の長さごとに分解
VLCAD・三頭酵素・MCAD・SCAD
▶
エネルギー・ケトン体電子の受け渡し
ETF・ETFDH
脂肪酸は、炭素の鎖の長さによって担当する酵素が分かれています(アシルCoA脱水素酵素のグループ)。脂肪酸β酸化が障害されると、空腹のときにエネルギーが不足し、ケトン体も十分に作れなくなることがあります。そのため、とくに乳幼児期に低血糖で発症する型では、「血糖が下がっているのに、ケトン体が少ない(低ケトン性低血糖)」という特徴的な結果がみられます[1][7]。ただし、大人になってから筋肉の症状で見つかる型などでは、症状が出ているときに低血糖を伴わないことも多くあります[3]。
主な症状:低ケトン性低血糖・急性脳症・心筋症・横紋筋融解
症状は年齢によって出方が変わり、乳幼児では低血糖や肝臓の不調、思春期以降は運動のあとに筋肉が壊れる横紋筋融解が目立つ傾向があります[1]。ただし、同じ病気でも重さには大きな個人差があります。
🧬 年齢ごとの主な症状(脂肪酸代謝異常症全体の傾向)
※文献[1][3][4]による。どの症状が出るかは型によって違います。
気づかれないまま重い発作を起こすと、命にかかわることがあります。MCAD欠損症では、診断されないまま最初の発作を起こした方の18〜25%が亡くなったと報告されています。一方で、症状が出る前に見つかり対策をとっている方は、代謝の悪化から守られるとされています[2]。早く病名を知ることが、そのまま身を守る手立てにつながる病気です。
カルニチン欠乏症との違い:生まれつきの型(全身性カルニチン欠乏症)と、薬・透析などによる型
「カルニチン欠乏症」には、生まれつきカルニチンを細胞に取り込めない型と、薬や病気のためにカルニチンが不足する型があり、このページの検査で調べるのは生まれつきの型です。
カルニチンは、脂肪酸をミトコンドリアの中へ運ぶのに欠かせない物質です。生まれつきの型は、細胞の膜でカルニチンを取り込む運び手(OCTN2)の遺伝子SLC22A5の変化で起こり、全身性カルニチン欠乏症(OCTN2異常症)と呼ばれます。乳幼児期の低血糖・急性脳症、心筋症、学童期以降の筋力低下や疲れやすさなどで見つかることがあり、大量のカルニチンの内服がとてもよく効くとされています(難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センター、2026年10月時点で確認)。
一方、ピボキシル基という構造をもつ一部の抗菌薬を長く飲んだときや、透析を受けている方などでは、体のカルニチンが減ることがあります(医薬品医療機器総合機構〔PMDA〕の公知申請に関する報告書で確認)。こちらは原因をとり除くことが中心で、遺伝子検査の対象ではありません。「カルニチン欠乏症」と言われたら、どちらの型なのかを主治医に確かめることが、検査を考える最初の一歩です。
日本で見つかっている頻度
日本の新生児マススクリーニングなどにもとづく推定では、VLCAD欠損症は約9.3万人に1人(厚生労働科学研究の資料)、CPT2欠損症と全身性カルニチン欠乏症(OCTN2異常症)はそれぞれ約26万人に1人、CPT1欠損症は約39万人に1人と報告されています。CACT欠損症は、約196万人を対象にした検査で見つかっておらず、さらにまれと考えられています(難病情報センター、2026年10月時点で確認)。1つ1つはまれな病気ですが、まとめて調べると、空腹で具合が悪くなるお子さんの原因として見逃せないグループです。
2. 新生児マススクリーニング(タンデムマス)で再検査・精密検査と言われた方へ
新生児マススクリーニングで再検査と言われても、病気とは限りません。再検査で正常と判断されれば、通常はそこで検査は終わりますが、気になる症状があるときは別に診てもらう必要があります。日本マススクリーニング学会の案内(2023年12月)は、要精密検査になった場合でも、精密検査の結果「異常なし」となる場合は少なくないとしています。
スクリーニングで見つかる型・見つかりにくい型
全国共通で調べる20疾患のうち、脂肪酸代謝異常症は5つです(日本マススクリーニング学会の案内、2023年12月)。CPT2欠損症は、乳幼児期の突然死との関わりなどから対象に加えられ、2018年4月から全国で一次対象疾患になっています(こども家庭庁の資料、新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2025)。
🍼 新生児マススクリーニング(全国共通20疾患)と、この検査で調べる病気
※全国共通の対象は日本マススクリーニング学会「新生児マススクリーニングについて」(2023年12月)による(2026年10月時点で確認)。自治体によって追加で調べている病気があります。
スクリーニングで「異常なし」でも、この病気ではないとは言い切れません。日本の診療ガイドラインは、CPT2欠損症の筋症状の型(遅発型)の一部はスクリーニングをすり抜けるため、症状から疑うときはスクリーニングの結果で否定しないよう求めています(新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2025)。海外の解説書GeneReviewsも、軽い筋型のCPT2欠損症はスクリーニングで見逃されうるとしています[4]。
アシルカルニチンの結果と、遺伝子検査でわかること
新生児マススクリーニングや精密検査では、血液の「アシルカルニチン」という物質の並び方を調べます。β酸化のどこで止まっているかによって、たまるアシルカルニチンの種類が変わるため、病気の見当をつけることができます[7]。
遺伝子検査は、その見当を遺伝子のレベルで確かめる検査です。原因の遺伝子と変化がわかると、病名がはっきりするだけでなく、ご両親が保因者かどうかの確認、きょうだいの検査、次の妊娠での出生前診断に使える「家族の中での目印」になります。生まれ持った遺伝子は一生変わらないので、一度わかった結果は、お子さんが大人になって結婚や妊娠を考えるときにも使える情報です。
3. どんな人がこの検査を受けるとよいか
血液の検査で脂肪酸代謝異常症が疑われている方、症状から疑われる方、ご家族にこの病気の方がいる方に向く検査です。見た目や症状だけでは型を決められないことが多いので、迷ったら、まず遺伝カウンセリングで状況をお聞かせください。
受けるとよい方
- ●新生児マススクリーニングや精密検査で、脂肪酸代謝異常症が疑われた方
- ●空腹・かぜ・胃腸炎のときに、ケトン体の少ない低血糖や、急に意識がぼんやりする発作を起こしたお子さん
- ●乳児期に原因のわからない心筋症や肝臓の腫れがみつかった方
- ●運動・絶食・発熱のあとに、筋肉痛・脱力・赤褐色の尿(横紋筋融解)をくり返す方
- ●きょうだいや親族に、脂肪酸代謝異常症と診断された方がいる方
- ●お子さんを突然亡くされ、原因を知りたいご家族(亡くなったお子さんの検体の有無によっては、お子さんの突然死の原因を調べる親子トリオ全ゲノム検査のほうが合うこともあります)
- ●妊娠中に、妊娠急性脂肪肝やHELLP症候群(溶血・肝臓の数値の上昇・血小板の減少)を起こしたお母さんのお子さん。LCHADの欠損をもつ赤ちゃんを妊娠したお母さんで、こうした肝臓の病気が起こりうることが報告されています[5]
大人になってから見つかる型:CPT2欠損症(筋型)・VLCAD欠損症(遅発型)
脂肪酸代謝異常症は子どもの病気と思われがちですが、大人になってから、運動や絶食・発熱のあとの筋肉の症状で見つかる型があります。
CPT2欠損症の筋型(ストレス誘発型)は、GeneReviewsではCPT2欠損症の中で最も多い型とされ、遺伝性のミオグロビン尿(筋肉が壊れて尿が赤褐色になる)の原因として最も多いとされています。きっかけは運動が最も多く、ほかに感染(約50%)、絶食(約20%)、寒さ、全身麻酔、睡眠不足などが挙げられています。ほぼ全員に筋肉痛があり、発作のあいだは症状がないことが多いとされます[4]。日本の診療ガイドラインでは、筋症状で発症する年齢は平均14.3歳(3〜24歳)と記載されています(新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2025)。
VLCAD欠損症にも、くり返す横紋筋融解や運動のあとの筋肉のけいれん・痛みで見つかる遅発型があり、激しい運動・絶食・寒さ・発熱がきっかけになります。症状が出ているときに低血糖がないことが多いのも特徴です[3]。「スポーツのあとに毎回ひどい筋肉痛になる」「かぜのあとに尿が赤くなった」という経験がくり返される方は、一度この病気を考える価値があります。
症状のないきょうだい・ご家族が調べる意味
ご家族の中で原因の遺伝子の変化がわかっていると、症状のないきょうだいも、同じ変化を2つ受け継いでいるかどうかを調べられます。あなたの1回の検査が、きょうだいやご両親が自分の状態を知る手がかりになります。脂肪酸代謝異常症は、症状が出る前に見つかり対策をとっていれば、代謝の悪化から守られるとされている病気です[2]。ただし、受け継いでいないとわかっても、それですべての病気の心配がなくなるわけではありません。何を知りたいのかを、遺伝カウンセリングで考えてから決めていただけます。
別の検査が向いている場合:低血糖のときの検査値から選ぶ
低血糖の原因は、低血糖を起こしている最中の血液・尿の検査(インスリン・ケトン体・遊離脂肪酸・乳酸・アシルカルニチンなど)で、ある程度しぼりこめます[7]。結果に合わせて、次のように検査を選びます。比べる相手は検査の種類です。
🔍 低血糖のときの検査結果と、向いている検査
※検査結果の読み方は文献[7]による。実際の選び方は、症状・検査値・ご家族の情報で変わります。
脂肪酸酸化異常症パネル(33遺伝子)との違い:当院の脂肪酸酸化異常症パネルは、このページの14遺伝子をすべて含み、ACAD8、ACAD9、ACADL、ACBD5、CPT1B、ECHS1、GLUD1、HADH、HMGCL、HMGCS2、HSD17B4、LPIN1、MLYCD、PPARG、SLC25A32、SLC52A1、SLC52A2、SLC52A3、TAZの19遺伝子を加えた33遺伝子を調べます。料金はどちらも同じ税込330,000円です。アシルカルニチンの結果などから、このページの14遺伝子が担う病気に絞れているときはこの検査、より広い範囲を一度に見ておきたいときは33遺伝子の検査、という選び方になります。調べる遺伝子が多いほど、意義がまだわからない変化(VUS)が見つかる機会も増えるので、どちらがよいかは遺伝カウンセリングで一緒に決めます。
4. 調べる14遺伝子と、それぞれでわかる病気
この検査では、脂肪酸β酸化やカルニチンの輸送に関わる遺伝子に、関連する代謝異常症の原因遺伝子を加えた14遺伝子(ACADM、ACADS、ACADSB、ACADVL、CPT1A、CPT2、ETFA、ETFB、ETFDH、HADHA、HADHB、HSD17B10、SLC22A5、SLC25A20)をまとめて調べます。ACADSB(SBCAD欠損症)はアミノ酸のイソロイシンの分解に関わる酵素の遺伝子で、HSD17B10(HSD10病)もβ酸化以外の働きが病気に関わるとされています[6]。HSD17B10を除く13遺伝子の病気は、常染色体潜性(劣性)遺伝です[1]。
🧬 調べる14遺伝子と関係する病気
※病型・遺伝のしかたは文献[1]〜[4][6]、難病情報センター(カルニチン回路異常症)、米国国立医学図書館MedlinePlus Genetics(SCAD欠損症・SBCAD欠損症・グルタル酸血症2型)、新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2025(CPT2の熱不安定性多型)による。熱不安定性多型は、CPT2欠損症の原因となる変化とは別に考えるべきとされています。
HSD17B10だけはX連鎖:遺伝のしかたが違う遺伝子
HSD17B10遺伝子はX染色体にあり、この遺伝子の変化によるHSD10病はX連鎖の遺伝のしかたをします。重い症状が出るのは主に男の子で、変化を1つもつ女性は、軽い発達の遅れなどがみられることも、まったく症状がないこともあると報告されています。また、半数以上の家族では同じ変化が新しく起きていたとされています[6]。ほかの13遺伝子とは、ご家族への影響の考え方が違うので、この遺伝子で変化が見つかった場合は、遺伝カウンセリングで個別にご説明します。
5. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、14遺伝子の配列の小さな変化(1文字の置き換わりや、小さな挿入・欠失)と、条件がそろえば遺伝子の一部や全体の大きな欠失・重複です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
わかること
遺伝子のたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)と、そのつなぎ目のまわりを、次世代シークエンサーで読みます。調べる場所の99%以上を、同じ場所を20回以上読む精度で確かめます。同じ場所をくり返し読むほど、読み間違いを見分けやすくなるためです。欠失・重複は、血液の検体では2つ以上続くエクソンの大きさのもの、頬の粘膜・血液の検体では遺伝子まるごとのものを見つけられます。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
わからないこと
- ●1つのエクソンだけの欠失・重複:見つかることはありますが、ふだんの検査では検出の対象外です。
- ●見つけにくい変化:染色体の一部が入れ替わる・向きが逆になる変化、繰り返し配列が長くなる変化、遺伝子のスイッチ部分(プロモーター)や、エクソンから20塩基より離れた奥の部分(深部イントロン)の変化は調べられません。
- ●モザイク:体の一部の細胞だけにある変化を見つけることを目的とした検査ではありません。
- ●調べていない遺伝子:この14遺伝子以外の原因は調べません(必要なら33遺伝子のパネルなどを考えます)。
陰性・VUSだったとき
原因が見つからなくても、脂肪酸代謝異常症ではないとは言い切れません。この検査で見つけられない変化や、14遺伝子以外の原因が残る可能性があるためです。アシルカルニチン分析や尿の有機酸分析などの結果とあわせて考え、必要なら別の検査に進みます。
また、病気の原因かどうかまだ判断できない変化(VUS)が見つかることがあります。VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、当院の二次的所見の開示方針のとおりです。
6. 病的変異が見つかったら、次にできること
脂肪酸代謝異常症は、病名がわかれば「空腹を長引かせない」「熱や胃腸炎のときは早めにブドウ糖を補う」という対策を前もって決めておける病気です。VLCAD欠損症などでは病気を根本から治す治療法はまだ確立されていませんが(厚生労働科学研究の資料)、早く見つけて対策を始めることで経過がよくなるとされています[1]。治療や食事の指導は、主治医や先天代謝異常症の専門の医療機関で受けていただきます。
ご本人:空腹の時間・食事・熱や胃腸炎のとき・運動
- ●空腹の時間:食事の間隔を守ることが治療の土台です。日本のCPT2欠損症の診療ガイドラインでは、年齢ごとの間隔の目安(例:新生児期は日中3時間)が示されています。お子さんに合った間隔は主治医が決めます。
- ●食事:長い鎖の脂肪酸を分解できない型(VLCAD欠損症・三頭酵素欠損症など)では、長い鎖の脂肪を減らし、中鎖脂肪(MCT)を使うことがあります[1]。反対に、MCAD欠損症では、MCTを主な脂肪にしたミルクや食品は避けるべきものとされています[2]。同じ「脂肪酸代謝異常症」でも、型によって食事の正解が逆になることが、病名を確かめる大きな理由です。
- ●熱・胃腸炎で食べられないとき:かぜや胃腸炎で食事がとれないときは、すぐに病院でブドウ糖の点滴を受けることが、重い発作の予防につながるとされています(難病情報センター)。GeneReviewsは、ご家族・かかりつけ医・学校向けの緊急時の手順書や、専門の医療機関の連絡先を書いた緊急時の書類(カード)を用意しておくことを勧めています[2]。旅行のときも紹介状を持っていくことが望ましいとされています(新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2025)。
- ●運動・生活:CPT2欠損症では長時間の激しい運動は避けるよう勧められています。過度な運動・ダイエット・飲酒は症状を悪化させる危険があり、手術・妊娠・出産のときは、前もって病名を伝えておくことが大切です(難病情報センター、新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2025)。
- ●薬:全身性カルニチン欠乏症では大量のカルニチンの内服がとてもよく効く一方、CPT1欠損症ではカルニチンを飲まないなど、型によって使う薬が違います。ピボキシル基をもつ一部の抗菌薬は、CPT2欠損症では原則として使わないとされています(難病情報センター、新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2025)。長い鎖の脂肪酸代謝異常症(LC-FAOD)に対しては、2026年3月にトリヘプタノインが国内で初めて承認され、5月に発売されました(条件付き承認、2026年10月時点)。
ご家族:症状のないきょうだいの検査、ご両親の保因者の確認
ご本人で原因の変化が2つ見つかれば、ご両親はそれぞれ1つずつもつ保因者であることがほとんどです。保因者は症状がありません[3]。症状のないきょうだいは、家族でわかった変化をピンポイントで調べることで、同じ病気かどうか、保因者かどうかを確かめられます。症状が出る前に見つかれば、空腹や発熱への備えを早くから始められます[2]。
次のお子さん:確率と、妊娠したときにできること
ご両親とも保因者の場合、お子さん1人ごとに、同じ病気になる確率は4分の1、保因者になる確率は2分の1、どちらも受け継がない確率は4分の1です[2][3]。上のお子さんの結果で、次のお子さんの確率が変わることはありません。しくみは劣性遺伝(潜性遺伝)とはでくわしく解説しています。X連鎖のHSD10病は、お母さんが変化をもっているかどうかで確率が変わるため、個別にご説明します。
ご家族で原因の2つの変化がわかっていれば、妊娠中に赤ちゃんで同じ変化があるかを調べる出生前診断や、着床前の検査が可能とされています[2]。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。その病気で出生前診断を行うかどうかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に考えるため、妊娠を考えている段階からご相談ください。生まれてすぐに赤ちゃんを調べて、空腹への対策を早くから始めるという考え方もあります(新生児スクリーニング、当院の新生児遺伝子スクリーニング検査)。何もしないで出産を迎えることも、そのまま選べる選択肢です。
日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-Mが行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-M(着床前診断)を考えている方へで解説しています。
いとこ同士の結婚と潜性遺伝の病気、結婚前の保因者検査
潜性遺伝の病気は、同じ遺伝子の変化をもつ保因者どうしのあいだで生まれるお子さんに起こります。血のつながりのあるご夫婦は、共通の祖先から同じ変化を受け継いでいる可能性があるため、こうした病気が起こる確率が少し高くなります。米国遺伝カウンセラー学会の推奨では、いとこ同士のご夫婦のお子さんで、重い病気や先天的な病気が起こる確率は、一般の確率に1.7〜2.8%上乗せされる程度と見積もられています[8]。いとこ婚を理由に結婚をあきらめる必要はなく、確率は検査で「知ること」ができます。
このページの14遺伝子は、すべて当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)の対象に入っています(2026年10月時点で確認)。ご家族に脂肪酸代謝異常症の方がいる方が結婚や妊娠を考えるときは、ご自身とパートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかを前もって確かめられます。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査ファミリーセーフティ プラスもあります(単独では受けられません)。なお、この14遺伝子は当院のNIPTのダイヤモンドプラン・インペリアルプランの対象遺伝子には入っていないため、NIPTでは調べられません。
7. 日本の制度:指定難病・小児慢性特定疾病(2026年10月時点)
このページで調べる病気のいくつかは、指定難病や小児慢性特定疾病の対象です。
- ●指定難病316 カルニチン回路異常症:CPT1欠損症、CPT2欠損症、CACT欠損症、OCTN2異常症(全身性カルニチン欠乏症)を含みます
- ●指定難病317 三頭酵素欠損症
- ●指定難病344 極長鎖アシル-CoA脱水素酵素欠損症(VLCAD欠損症):2025年4月1日に追加されました
- ●指定難病250 グルタル酸血症2型
- ●小児慢性特定疾病:中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症(MCAD欠損症)など、脂肪酸代謝異常症の各疾患が先天性代謝異常の対象疾病として掲載されています
指定難病の番号は、令和8年4月1日現在の指定難病一覧(東京都の案内、令和8年8月発行)と難病情報センターで確認しました。MCAD欠損症は、この一覧の指定難病には見当たりませんでした。医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。くわしくは、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
8. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。唾液・頬の内側の粘膜・血液のいずれでも、オンライン診療で受けられます。この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
オンライン可
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検体の採取・送付お支払い後に
キットをお送りします
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいた後にお送りします。ご自身で勝手に検体を採取しないでください。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える品質を保つために、決められたキットと手順で採取していただく必要があるためです。
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたをご覧ください。
9. 院長コラム
🩺 院長コラム【「空腹に気をつける」は、病名がわかってはじめて具体的になる】
脂肪酸代謝異常症は、ふだんは元気に見えるのに、空腹や熱という、誰にでも起こる出来事をきっかけに急に具合が悪くなる病気です。だからこそ、「よく食べさせて」「熱が出たら気をつけて」という一般的な注意だけでは、守りきれないことがあると考えています。何時間まで空腹にしてよいのか、MCTを使ってよい型なのか避けるべき型なのか、熱が出たらどの段階で点滴を受けるのか。こうした具体的な答えは、型がわかってはじめて決まります。
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。潜性遺伝の病気の保因者であることは、ほとんどの人が自分では気づけません。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。お子さんの病名を確かめること、症状のないきょうだいを調べること、次の妊娠を計画すること。どの段階でも、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 脂肪酸代謝異常症は治りますか?寿命は?
病気そのものを根本から治す方法はまだ確立されていませんが、空腹を長引かせない、熱や胃腸炎のときは早めにブドウ糖の点滴を受けるといった対策で、重い発作を防ぐことがめざせる病気です。新生児マススクリーニングで早く見つけ、すぐに対策を始めることで経過がよくなるとされています。見通しは型や重さによって大きく違うため、型を確かめることが大切です。
Q2. 大人になってからCPT2欠損症とわかることはありますか?
あります。CPT2欠損症の筋型は、運動・感染・絶食・寒さなどをきっかけに筋肉痛や赤褐色の尿(横紋筋融解)をくり返す型で、日本の診療ガイドラインでは筋症状で発症する年齢は平均14.3歳(3〜24歳)とされています。軽い型は新生児マススクリーニングで見逃されることがあるため、症状がある場合はスクリーニングの結果だけで否定しません。
Q3. カルニチン欠乏症と言われました。遺伝子検査は必要ですか?
まず、生まれつきの型か、薬や透析などによる型かを確かめます。生まれつきの全身性カルニチン欠乏症は、SLC22A5遺伝子の変化で起こり、このページの検査で調べられます。一部の抗菌薬(ピボキシル基をもつもの)の長期服用や透析などによる型は、遺伝子検査の対象ではありません。どちらの型かは主治医にご確認ください。
Q4. 新生児マススクリーニングで再検査になりました。遺伝子検査はいつ受けるとよいですか?
再検査になっても病気とは限りません。再検査で正常と判断されれば通常はそこで検査は終わりますが、気になる症状があるときは別に診てもらう必要があります。精密検査で脂肪酸代謝異常症が疑われたときに、型を確かめる目的で遺伝子検査を考えます。原因がわかると、ご両親が保因者かどうかの確認や、きょうだいの検査、次の妊娠での出生前診断にも使えます。
Q5. きょうだいも検査を受けたほうがよいですか?
ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、症状のないきょうだいも同じ変化をもっているかを調べられます。症状が出る前に見つかれば、空腹や発熱への備えを早くから始められます。ご両親とも保因者の場合、きょうだいが同じ病気である確率は4分の1、保因者である確率は2分の1です。
Q6. いとこ同士の結婚で、子どもが脂肪酸代謝異常症になりやすくなりますか?
血のつながりのあるご夫婦は、共通の祖先から同じ変化を受け継いでいる可能性があるため、潜性遺伝の病気が起こる確率が少し高くなります。米国遺伝カウンセラー学会の推奨では、いとこ同士のご夫婦のお子さんで、重い病気や先天的な病気が起こる確率は、一般の確率に1.7〜2.8%上乗せされる程度と見積もられています。この14遺伝子はすべて当院の拡大版保因者スクリーニングの対象なので、結婚や妊娠の前にご夫婦で確かめられます。
Q7. MCTオイルは使ってよいですか?
型によって答えが逆になります。長い鎖の脂肪酸を分解できない型(VLCAD欠損症・三頭酵素欠損症など)では、MCTを使うことがあります。一方、MCAD欠損症では、MCTを主な脂肪にしたミルクや食品は避けるべきものとされています。自己判断で使わず、必ず主治医の指示に従ってください。
Q8. 14遺伝子のパネルと33遺伝子のパネルは、どちらを選べばよいですか?
33遺伝子の脂肪酸酸化異常症パネルは、このページの14遺伝子をすべて含み、19遺伝子が加わっています。料金はどちらも同じ税込330,000円です。アシルカルニチンの結果などから14遺伝子が担う病気に絞れているときはこの検査、より広い範囲を一度に見ておきたいときは33遺伝子の検査が向きます。調べる遺伝子が多いほど、意義がまだわからない変化(VUS)が見つかる機会も増えるため、遺伝カウンセリングで一緒に決めます。
🧬 一度の検査で、お子さんとご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。脂肪酸代謝異常症の型がわかれば、空腹の時間・食事・熱が出たときの対応が決まり、症状のないきょうだいの検査や、次の妊娠の計画を考える手がかりにもなります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
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参考文献
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