この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

脂肪酸代謝異常症の遺伝子検査は、空腹や発熱、運動のときに体が脂肪をエネルギーに変えられなくなる病気の原因を、33の遺伝子で一度に調べる検査です。CPT2欠損症・VLCAD欠損症・MCAD欠損症・全身性カルニチン欠乏症などが対象で、低血糖や繰り返す横紋筋融解症、心筋症の原因を確かめる手がかりになります。原因の遺伝子がわかると、空腹の時間をどこまで避けるか、熱を出したときにどう備えるか、どの栄養療法やカルニチン・ビタミンB2が役立つかなど、次の一手が具体的に決まります。低血糖の原因を中心に調べる14遺伝子の低血糖症・脂肪酸β酸化異常症パネルと違い、このパネルは横紋筋融解症・心筋症・ビタミンB2で良くなる型まで含めて調べます。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
脂肪酸代謝異常症(脂肪酸酸化異常症)に関係する33遺伝子に、病気の原因となる変化があるかを一度に調べます。CPT2欠損症・VLCAD欠損症・MCAD欠損症・三頭酵素欠損症・全身性カルニチン欠乏症・グルタル酸血症2型などの原因がわかります。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
新生児マススクリーニングで再検査・精密検査と言われた赤ちゃん、空腹や発熱のあとに低血糖を起こしたお子さん、運動のあとの筋肉痛や赤い尿(横紋筋融解症)を繰り返す大人の方、ご家族に脂肪酸代謝異常症の方がいる方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・口の内側の粘膜で、唾液・粘膜ならオンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかれば、症状のないきょうだいの検査や、次のお子さんへの備え(両親とも保因者なら4分の1)まで考えられます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 脂肪酸代謝異常症(脂肪酸酸化異常症・FAOD)とは
脂肪酸代謝異常症は、ミトコンドリアで脂肪酸を燃やしてエネルギーをつくる「β酸化」か、脂肪酸をミトコンドリアへ運ぶ「カルニチン回路」のどこかが生まれつきうまく働かない病気の総称です[1]。英語の fatty acid oxidation disorders の頭文字をとってFAODと呼ばれ、日本語では脂肪酸酸化異常症とも呼ばれます。
ひとつひとつの病気はまれですが、まとめると出生5,000〜10,000人に1人ほどと見積もられています。ただし病気ごとの頻度は地域や集団によって大きく違います[1]。日本の新生児スクリーニングで約336万人の赤ちゃんを調べた報告(1997〜2015年)では、脂肪酸代謝異常症は全体で約3万人に1人の割合で見つかり、多かったのはVLCAD欠損症(約9万3千人に1人)、MCAD欠損症(約12万9千人に1人)、原発性(全身性)カルニチン欠乏症(約19万9千人に1人)、CPT2欠損症(約25万7千人に1人)の順でした[8]。
空腹のとき「脂肪を燃料に切り替える仕組み」が働かない病気
ふだん体は、食事からとった糖を主な燃料にしています。食事の間隔があいたとき、熱が出たとき、長く運動したときには、ためておいた脂肪酸を細胞の中のミトコンドリアに運び、脂肪酸β酸化という反応で少しずつ分解してエネルギーに変えます。肝臓では、その途中でケトン体もつくられ、脳などの燃料になります。
脂肪酸代謝異常症では、この燃料の切り替えのどこかが止まります。そのため、糖が足りなくなったときに脂肪で補えず、低血糖やエネルギー不足が起こります。脂肪酸をミトコンドリアに運ぶにはカルニチンという物質が必要で、カルニチンを細胞に取り込めない全身性カルニチン欠乏症も、このグループに入ります[1][5]。
脂肪酸ためておいた脂肪
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カルニチン回路ミトコンドリアへ運ぶ
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β酸化長い順に分解
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エネルギー・ケトン体心臓・筋肉・脳の燃料
💡 用語解説:非ケトン性(低ケトン性)低血糖
ふつうは空腹で血糖が下がると、脂肪からケトン体がつくられます。脂肪酸代謝異常症では脂肪を分解できないため、血糖が低いのにケトン体があまり増えない「低ケトン性低血糖」が起こりやすく、乳幼児期の大事な手がかりになります。ただし、ケトン体が少ないことは脂肪酸代謝異常症だけに見られるものではありません[1]。
症状:低血糖・意識障害(肝臓)/心筋症・不整脈(心臓)/横紋筋融解症・筋肉痛(筋肉)
脂肪酸代謝異常症の症状は、主に肝臓・心臓・筋肉の3つに現れます。乳幼児期には肝臓の働きの低下と低ケトン性低血糖が多く、思春期以降には、発作のように起こる横紋筋融解症が最初の症状になることがよくあります[1]。
- ●肝臓:空腹や感染のあとの低血糖、ぐったりする・意識が悪くなる、肝臓の腫れ。MCAD欠損症などでは、ライ症候群に似た急な脳と肝臓の症状として現れることがあります[1]。
- ●心臓:心筋症や不整脈。VLCAD欠損症の重い早期発症型では、生後数か月のうちに心筋症・不整脈が起こり、命にかかわることがあります[4]。
- ●筋肉:運動のあとの筋肉痛、力が入らない、筋肉が壊れて尿が赤〜茶色になる(ミオグロビン尿)横紋筋融解症。血液検査ではクレアチンキナーゼ(CK)が上がります。
MCAD欠損症は乳幼児の突然死の原因の一つとして知られており、新生児マススクリーニングが行われる前には、患者さんの18〜25%が最初の発作で亡くなっていたと報告されています[3]。だからこそ、早く見つけて空腹を避ける備えをすることが大切です。
発症のきっかけと年齢:新生児から大人まで
症状は、長い空腹、発熱や感染症、激しい運動、手術など、体がたくさんのエネルギーを必要とするときに起こりやすくなります[1]。発症する年齢は病気と型によって大きく違い、生まれてすぐに重い症状が出る型から、大人になってから運動のあとの筋肉痛で気づく型まであります。
たとえばCPT2欠損症には、致死性新生児型・乳児型(肝臓・心臓・筋肉)・筋型の3つの型があり、いちばん多いのは筋型です。筋型の方の70%は子どものうち(0〜12歳)に発症しますが、大人になって見つかる方もいます。発作のきっかけは運動が最も多く、次いで感染(約50%)、空腹(約20%)で、寒さ・ストレス・全身麻酔もきっかけになるとされています[2]。VLCAD欠損症でも、運動で横紋筋融解症を起こす遅発型がおそらく最も多い型とされています[4]。
遺伝のしかた:ほとんどが常染色体潜性(劣性)遺伝、一部はX連鎖
脂肪酸代謝異常症のほとんどは常染色体潜性(劣性)遺伝です。ご両親がともに同じ病気の保因者のとき、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症し、2分の1の確率で保因者になります[2][3][4]。保因者のご両親には、ふつう症状はありません。
このパネルに入っている33遺伝子のうち、バース症候群の原因のTAFAZZIN(旧名TAZ)とHSD10病の原因のHSD17B10は、X染色体にある遺伝子で、X連鎖遺伝のしかたをとります。また、GLUD1(高インスリン血症・高アンモニア血症症候群)、PPARG(家族性部分型リポジストロフィー3型)、SLC52A1(リボフラビン欠乏症)は、常染色体顕性(優性)遺伝の病気として登録されています。遺伝子ごとの遺伝のしかたは、第3章の表にまとめました。
新生児マススクリーニングで「再検査・要精密検査」と言われたら
日本の新生児マススクリーニング(タンデムマス法)では、脂肪酸代謝異常症のうちMCAD欠損症・VLCAD欠損症・三頭酵素(TFP/LCHAD)欠損症・CPT1欠損症・CPT2欠損症の5つが、国の対象疾患に入っています。CPT2欠損症は、2017年7月の厚生労働省の通知で加わりました。こども家庭庁の資料(2025年12月)によると、現在、全国の都道府県・指定都市で20疾患を対象に検査が行われています。全身性カルニチン欠乏症・CACT欠損症・グルタル酸血症2型は国の20疾患には入っていませんが、自治体によっては対象にしています。SCAD欠損症は、タンデムマス法の対象疾患とはされていません(2026年10月時点で確認)。つまり、スクリーニングで異常がなかった方でも、対象外の病気や、生まれた地域で調べていない病気があり得ます。
マススクリーニングは、血液のろ紙にしみこませたアシルカルニチンという物質の量を、タンデムマス法で測る「ふるい分け」の検査です。値が高くても、必ず病気というわけではありません。たとえばVLCAD欠損症では、スクリーニングで引っかかる赤ちゃんの多くが、原因の変化を1つだけもつ保因者だと報告されています。また、軽い型では、元気なときのアシルカルニチンの検査で見つからないことがあります[4]。
遺伝子検査は、原因の変化が2つそろっている(病気)か、1つだけ(保因者)か、どの遺伝子のどの変化かを確かめる役割をもっています。病名と型がわかると、どのくらい空腹を避ければよいか、どの合併症を見張ればよいかが決まります。生まれてすぐに遺伝子でまとめて調べておきたい方には、当院の新生児遺伝子スクリーニング検査パネルもあります。スクリーニングの仕組みは新生児スクリーニングで解説しています。
2. どんな人がこの遺伝子検査を受けるとよいか
症状から脂肪酸代謝異常症が疑われる方、スクリーニングで疑われた赤ちゃん、そしてご家族に患者さんがいる方に向く検査です。生まれ持った遺伝子は一生変わらないので、一度の検査でわかったことは、ご本人の体調管理だけでなく、ご家族の健康や、これからの妊娠・出産の計画にもずっと使えます。
新生児マススクリーニングで脂肪酸代謝異常症を疑われた赤ちゃん
スクリーニングで疑われたあとは、主治医の指示に従って空腹を避けながら、精密検査で診断を確かめます。遺伝子検査で原因がわかれば、型に合わせた生活の注意を決める手がかりになり、ご両親が保因者かどうかを確かめる出発点にもなります。
空腹や発熱のあとに低血糖・けいれん・急性脳症を起こしたお子さん
風邪や胃腸炎で食べられなかったあとに低血糖を起こした、ケトン体が増えていなかった、ライ症候群に似た症状が出た、といったお子さんでは、脂肪酸代謝異常症を考えます[1]。「低血糖が遺伝するのか」が気になるときは、低血糖のほかの原因(高インスリン血症・糖原病など)との切り分けも大切です。第2章の最後の表で、検査の選び方をまとめています。
運動のあとの筋肉痛・赤い尿(横紋筋融解症)を繰り返す大人の方
大人で横紋筋融解症を繰り返す場合、原因の一つとしてCPT2欠損症の筋型が知られています。筋型の方のほぼ全員に筋肉痛があり、約75%で発作のときにミオグロビン尿(赤〜茶色の尿)が出ます。多くの方は発作と発作の間は症状がなく、筋力も落ちていないため、原因がわからないまま過ごしていることがあります[2]。
まれに腎臓が強く傷つき、透析が必要になることもあるとされています[2]。原因がわかれば、長い空腹や長時間の運動を避ける、具合が悪いときは早めに点滴を受ける、手術の前に麻酔科へ伝える、といった具体的な備えができます。何度も病院で「原因はわからない」と言われてきた方にとって、名前がつくことは、回り道を終わらせる一歩になります。筋肉の病気全体から原因をしぼれないときは、神経筋疾患遺伝子パネル検査も選べます。
原因不明の心筋症や、乳幼児の突然死がご家族にあった方
VLCAD欠損症の重い型や、全身性カルニチン欠乏症などでは、心筋症や不整脈が起こります[4][5]。心筋症が中心で原因を広く調べたいときは、心血管疾患包括的遺伝子検査パネルが向くこともあります。お子さんを突然亡くされ、原因を知って次のお子さんに備えたいご家族には、お子さんの突然死の原因究明のための親子トリオ全ゲノム検査もあります。
きょうだい・ご家族に脂肪酸代謝異常症の方がいる方
脂肪酸代謝異常症は、症状が出る前に見つけて備えることに大きな意味がある病気です。CPT2欠損症の解説書(GeneReviews)は、症状のないきょうだいでも、全身麻酔を受ける前に遺伝子検査で確かめておくことを勧めています[2]。また、全身性カルニチン欠乏症では、赤ちゃんのスクリーニングをきっかけに、症状がほとんどないお母さん自身の病気が見つかることがあります[5]。あなたの1回の検査が、ご両親・きょうだい・お子さんが自分の状態を知る手がかりになります。
33遺伝子パネル・14遺伝子パネル・ほかの検査の選び分け
低血糖が主な症状なら14遺伝子の低血糖症・脂肪酸β酸化異常症パネルでも主な原因遺伝子は調べられます。横紋筋融解症・心筋症や、ビタミンB2(リボフラビン)で良くなる型まで含めて調べたいなら、このページの33遺伝子パネルが向いています。14遺伝子パネルの遺伝子は、すべてこの33遺伝子パネルに含まれています。
🔍 症状に合わせた検査の選び方
※どの検査が合うかは、症状・血液や尿の検査の結果・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
3. 調べる33遺伝子と、それぞれでわかる病気
この脂肪酸代謝異常症の遺伝子検査では、カルニチン回路・β酸化・電子の受け渡し(ETF)とリボフラビン・ケトン体・ペルオキシソームなどに関わる33遺伝子をまとめて調べます。病名と遺伝のしかたは、OMIM(遺伝性疾患のデータベース)の登録にもとづいています。
🧬 脂肪酸酸化異常症パネルの対象33遺伝子と関係する病気
※対象遺伝子は当院の検査内容による(33遺伝子)。病名と遺伝のしかたはOMIMの登録(遺伝子と病気の対応表)による。日本語の病名は当院の訳。PPARGには2型糖尿病・肥満との関連も登録されているが、多くの遺伝子が関わる病気のため表には入れていない。HSD17B4・ACBD5の病気をくわしく調べたいときはペルオキシソーム障害NGSパネル、ACAD9はミトコンドリア病遺伝子検査パネルもご覧ください。
💡 用語解説:カルニチン欠乏症との違い
「カルニチン欠乏症」は、カルニチンが体に足りない状態の名前です。腎臓病の透析や一部の薬(バルプロ酸など)でも起こる「二次性」のものが多く、遺伝子が原因の「全身性カルニチン欠乏症(一次性)」とは区別します。一次性は、SLC22A5遺伝子の変化でカルニチンを細胞に取り込めない病気で、このパネルで調べられます[5]。
4. 検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、33遺伝子の中の小さな変化(1文字の置き換わり・小さな欠けや入り込み)と、遺伝子の一部が大きく欠けたり重なったりする変化です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
わかること
- ●遺伝子の、たんぱく質をつくる部分(エクソン)とそのすぐ近くの配列の変化
- ●遺伝子1つ全体、または連続した2つ以上のエクソンにわたる欠失・重複(血液の検体の場合。頬の粘膜の検体では遺伝子1つ全体の欠失・重複)。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します
- ●調べる部分の99%以上を、同じ場所を20回以上読む深度で調べます(読み取りの品質が低い変化は、サンガー法という別の方法で確かめます)
わからないこと
- ●調べていない場所:遺伝子の働きを調節する部分(プロモーター)や、エクソンから20塩基以上離れた奥の部分(深部イントロン)の変化
- ●見つけにくい変化:染色体の一部が入れ替わる転座や逆位、同じ配列の繰り返しが伸びる変化。エクソン1つだけの欠失・重複は、見つかることもありますがふつうは検出できません
- ●モザイク:体の一部の細胞だけにある変化を見つけることは目的にしていません
- ●よく似た配列:よく似た配列(偽遺伝子など)が別にある場所では、変化を正しく読み取りにくいことがあります
- ●33遺伝子以外の原因:このパネルに入っていない遺伝子の病気は調べられません
「陰性=この病気ではない」とは言えない理由とVUS
原因が見つからなくても、脂肪酸代謝異常症を完全に否定することはできません。上に書いた調べていない場所の変化や、パネル以外の遺伝子が原因のことがあるためです。症状や、アシルカルニチン・尿の有機酸などの血液・尿の検査の結果とあわせて判断します。
また、病気の原因かどうかまだ判断できない「意義がまだわからない変化(VUS)」が見つかることがあります。VUSは、それだけで診断やご家族の発症リスクの判定には使いません。ただし、その変化の意味を調べるために、ご家族の検査を検討することがあります。扱い方はVUS(意義不明変異)の臨床的取り扱いで解説しています。ご希望があれば、VUSを報告に含めない設定(VUS除外)も選べます。
5. 病的変異が見つかったら、次にできること
脂肪酸代謝異常症は、原因がわかると「何に気をつければよいか」がはっきりしている病気です。ここでは、読む方の立場ごとに、わかったあとにできることをまとめます。治療や生活の管理は、主治医や先天代謝異常の専門の医療機関で行います。当院では、結果の意味と次の一歩を臨床遺伝専門医がご説明し、ご家族の検査や出生前診断のご相談を続けて受けていただけます。
ご本人(症状がある方・スクリーニングで見つかった赤ちゃん)
空腹を避ける:どの脂肪酸代謝異常症でも、空腹を避けることと、具合が悪いときに早めにしっかり対応することが治療の基本です[1]。空腹をどこまで避けるかは病気と年齢で違います。たとえばMCAD欠損症の解説書は、生後4か月までは昼も夜も4時間を超える空腹を避け、1歳を過ぎてからは12時間を超える空腹を一生避けることを目安にしています(軽い型では幼児期以降この制限がいらない方もいます)[3]。
具合が悪いときの備え:熱が出た・吐いて食べられないときは、早めに医療機関で糖を含む点滴を受けることが勧められています。MCAD欠損症やVLCAD欠損症の解説書では、10%のブドウ糖の点滴を、ふつうの維持量の1.5倍の速さで行うことが示されています[3][4]。ご家族には、病気のときの対応を書いた書類(緊急時の対応の手紙)を主治医から渡しておく方法がとられています[1]。
型に合わせた栄養療法・薬:病名によって、使う治療が違います[1][2][3][4][5][7]。
🩺 病名がわかると決まること(例)
※治療は主治医・先天代謝異常の専門医が、病名・型・年齢に合わせて決めます。トリヘプタノイン(ドジョルビ)は、日本では2026年3月に「長鎖脂肪酸代謝異常症」を効能・効果として、条件付きで承認されました(製造販売元の発表とPMDAの審査報告書で確認)。レボカルニチンの効能・効果は「カルニチン欠乏症」です。
手術・麻酔のとき:CPT2欠損症では、全身麻酔で横紋筋融解症などが起こるおそれがあるため、慎重に進めることが勧められています[2]。VLCAD欠損症でも、使う麻酔薬に注意が必要とされています[4]。病名がわかっていれば、手術の前に麻酔科へ伝えられます。
見張る合併症:型によって、心臓(心筋症・不整脈)、肝臓、筋肉(横紋筋融解症のときの腎臓)を定期的に確かめます。VLCAD欠損症の解説書は、心臓の働きは、早い集中的な治療と食事の工夫で回復しうるとしています[4]。
症状のないきょうだい・ご家族
ご家族の中で原因の変化がわかっていれば、きょうだいや親御さんは、同じ変化があるかどうかをピンポイントで調べられます。症状のないきょうだいが同じ病気だとわかれば、空腹や麻酔のときの備えを、発作が起こる前から始められます[2]。お子さんの検査は、ご両親とよく話し合ったうえで、本人の利益になる形で行います。
ご両親・パートナー:保因者かどうかの確認
常染色体潜性遺伝の病気では、ご両親それぞれがどの変化をもつ保因者かを確かめておくと、次のお子さんの確率を正確にお伝えできます。原因の変化をもつ方が結婚・妊娠を考えるときは、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかを調べる意味があります。MCAD欠損症では、原因として多い変化の保因者が北欧系の人で40〜100人に1人と多いため、パートナーの保因者検査について話し合うよう勧められています[3]。当院の拡大版保因者スクリーニング女性版787遺伝子・男性版714遺伝子には、ACADM・ACADVL・ACADS・CPT1A・CPT2・SLC22A5・SLC25A20・HADHA・HADHB・ETFA・ETFB・ETFDH・HMGCL・HMGCS2など、このパネルの多くの遺伝子が入っています(X連鎖のHSD17B10・TAZは女性版だけに入っています。ACAD8・ACADL・CPT1B・ECHS1・LPIN1・SLC52A2・SLC52A3は入っていません。2026年10月時点で各ページの遺伝子一覧を確認)。
次のお子さん:4分の1の確率と、妊娠したときの備え
ご両親がともに保因者なら、次のお子さんが同じ病気になる確率は、お子さん1人ごとに4分の1です[2][3][4]。原因がわかっていれば、次のお子さんのために、いくつかの選択肢を前もって考えられます。
- ●妊娠中に赤ちゃんを調べる:ご家族で原因の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます[3]。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。その病気で出生前診断を行うかは、病気の重さなどを踏まえて個別に考えますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。
- ●生まれてすぐに調べて備える:出生前診断を受けない場合も、生まれてすぐに原因の変化を調べ、結果が出るまで空腹を避けておくことで、最初の発作に備えられます。
- ●着床前検査(PGT-M):日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-Mが行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは遺伝性疾患をお持ちで海外でPGT-Mを考えている方へで解説しています。
- ●何も検査をせずに妊娠・出産する:これも、そのまま選べる選択肢です。どの選択をされても尊重します。
妊娠中で、ご夫婦の保因者検査をNIPTと同じ日に受けたい方には、ファミリーセーフティ プラス(女性787遺伝子・男性714遺伝子のカップルの保因者検査。NIPTと同じ日に採血でき、単独では受けられません)もあります。
LCHAD・三頭酵素欠損症の赤ちゃんを妊娠したときの、お母さんの肝臓
赤ちゃんが長鎖3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素(LCHAD)欠損症などの三頭酵素の病気のとき、お母さんが妊娠中に急性妊娠脂肪肝という重い肝臓の病気を起こすことがあります。米国で急性妊娠脂肪肝になった女性27人のご家族を調べた研究では、5家族(19%)で、赤ちゃんの側にLCHAD欠損症の原因となる変化が見つかりました。一方、HELLP症候群の女性81人では、母親1人に病的変異が1つ見つかりましたが、その新生児には変異は検出されませんでした[6]。
この研究の著者は、急性妊娠脂肪肝の妊娠で生まれた赤ちゃんでは、HADHA遺伝子の変化を調べて早く治療を始め、次の妊娠で出生前診断を考えられるようにすることを提案しています[6]。ただし、紹介された症例を集めた小さな研究で、数字の幅は大きいことに注意が必要です。ご家族にHADHA・HADHBの変化がわかっている方は、妊娠したら産科の主治医に伝えておくことが大切です。
6. 陰性・VUSだったとき、結果の受け取り方
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。
陰性だったとき:33遺伝子に原因が見つからなかった場合でも、第4章のとおり病気を完全に否定することはできません。血液・尿の検査の結果や症状に合わせて、包括的代謝疾患遺伝子検査や全エクソーム検査(WES)など、次の検査を考えます。
原因の変化が1つだけ見つかったとき:潜性遺伝の病気で変化が1つだけ見つかった場合は、保因者の可能性と、見つけにくい2つ目の変化が残っている可能性の両方を考えます。症状や血液の検査とあわせて、結果の意味を一緒に考えます。
調べた目的と別の病気の原因が見つかったとき:当院の二次的所見の開示方針にもとづいてお伝えします。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の見かたはNIPT/遺伝子検査結果の見かたをご覧ください。
7. 日本の制度(2026年10月時点)
脂肪酸代謝異常症の多くは、小児慢性特定疾病の対象です。小児慢性特定疾病情報センターの先天性代謝異常の「脂肪酸代謝異常症」には、全身性カルニチン欠損症、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼⅠ欠損症、同Ⅱ欠損症、カルニチンアシルカルニチントランスロカーゼ欠損症、極長鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症、中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症、短鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症、三頭酵素欠損症、3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素欠損症と、「40から48までに掲げるもののほか、脂肪酸代謝異常症」が掲載されています。グルタル酸血症2型は、有機酸代謝異常症の区分に入っています。
指定難病では、316「カルニチン回路異常症」(CPT1欠損症・CPT2欠損症・CACT欠損症・全身性カルニチン欠乏症を含む)、317「三頭酵素欠損症」、344「極長鎖アシル-CoA脱水素酵素欠損症」、250「グルタル酸血症2型」が、病気ごとに指定されています(いずれも2026年10月時点で、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターの情報を確認)。
医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。認定の基準や申請の方法は、小児慢性特定疾病情報センター・難病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
8. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
脂肪酸代謝異常症の遺伝子検査の費用は税込330,000円で、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・口の内側の粘膜で、唾液・粘膜の場合はオンライン診療でも受けられます。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取血液・唾液・粘膜
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
検査の前に、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行います。検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明し、検査を受けるかどうかは、納得してから決めていただきます。オンライン診療(ビデオ通話)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただく流れです。血液の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。
検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいた後にお送りします。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える品質を保つため、キットが届く前にご自身で検体を採らないでください。
💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
遺伝子を1つずつ順番に調べる方法では、1つ目で原因が見つからなければ次の遺伝子へ進む必要があり、そのたびに日数がかかります。このパネルでは33遺伝子を一度に調べ、2〜3週間で結果をお伝えします。
9. 院長コラム
🩺 院長コラム【名前がつけば、備えられる】
脂肪酸代謝異常症は、「わかっていれば備えられる」ことが、とてもはっきりしている病気だと考えています。空腹の時間を区切る、熱が出たら早めに点滴を受ける、手術の前に麻酔科へ伝える、型によってはカルニチンやビタミンB2を使う。どれも、病名と型がわかって初めて具体的に決められることです。
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者としてに書いています。
脂肪酸代謝異常症の多くは潜性遺伝で、ご両親は保因者であっても症状がありません。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。大切なのは、わかったことを、症状のないきょうだいの備えや、次のお子さんの計画に生かすことです。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 脂肪酸代謝異常症の症状は?
主に肝臓・心臓・筋肉に症状が出ます。乳幼児期には空腹や発熱のあとの低血糖(ケトン体があまり増えない低ケトン性低血糖)や肝臓の働きの低下が多く、思春期以降は運動のあとの筋肉痛や赤い尿を伴う横紋筋融解症が最初の症状になることがよくあります。型によっては心筋症や不整脈が起こります。
Q2. 脂肪酸代謝異常症は治る病気ですか?治療と寿命は?
遺伝子の変化そのものを治す治療ではありませんが、空腹を避けること、具合が悪いときに早めに糖の点滴を受けること、型に合わせた栄養療法やカルニチン・ビタミンB2などで、発作を防ぐことを目指します。見通しは病名と型で大きく違います。たとえばMCAD欠損症では、新生児マススクリーニングが始まる前は最初の発作で18〜25%が亡くなっていましたが、スクリーニングのある地域では新生児期の死亡は0.6〜2.4%まで下がったと報告されています。
Q3. 新生児マススクリーニングで再検査と言われました。遺伝子検査は必要ですか?
マススクリーニングは病気の可能性をふるい分ける検査で、値が高くても必ず病気というわけではありません。VLCAD欠損症では、引っかかった赤ちゃんの多くが保因者だったと報告されています。まずは主治医の指示に従って精密検査を受けてください。遺伝子検査は、原因の変化が2つそろった病気か、1つだけの保因者かを確かめ、型に合わせた管理を決める手がかりになります。
Q4. 大人になってから脂肪酸代謝異常症が見つかることはありますか?
あります。CPT2欠損症の筋型は、運動・感染・空腹・寒さなどをきっかけに筋肉痛やミオグロビン尿(赤〜茶色の尿)を起こす型で、多くは子どものうちに発症しますが、大人になって見つかる方もいます。発作の間は症状がないことが多く、原因がわからないまま横紋筋融解症を繰り返している方もいます。VLCAD欠損症にも、運動で横紋筋融解症を起こす遅く発症する型があります。
Q5. カルニチン欠乏症とは違うのですか?
カルニチン欠乏症は、カルニチンが体に足りない状態の名前で、透析や一部の薬などで起こる二次性のものが多くあります。遺伝子が原因の全身性カルニチン欠乏症(一次性)は、SLC22A5遺伝子の変化でカルニチンを細胞に取り込めない病気で、このパネルで調べられます。一次性はカルニチンを飲み続けることで症状を防げるとされており、原因を確かめる意味が大きい病気です。
Q6. 遺伝する確率は?きょうだいも検査したほうがよいですか?
ほとんどは常染色体潜性遺伝で、ご両親がともに保因者なら、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症し、2分の1の確率で保因者になります。原因の変化がわかっていれば、症状のないきょうだいも同じ変化をピンポイントで調べられ、空腹や麻酔のときの備えを前もって始められます。
Q7. 家族に脂肪酸代謝異常症の人がいると、結婚に差し支えますか?いとこ同士の結婚との関係は?
常染色体潜性遺伝の病気では、お子さんが父親・母親の双方から同じ遺伝子の病的変異を受け継ぐと発症する可能性があります。ご夫婦がともに保因者の場合は、お子さん1人ごとに4分の1の確率です。ご自身が保因者かどうか、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかは検査で確かめられ、わかったうえで出生前診断などの備えを考えられます。いとこ同士など血のつながりのあるご夫婦では、同じ変化をおふたりとも受け継いでいることがあるため、保因者検査で確かめておく意味があります。病気があることや家族歴は、結婚をあきらめる理由ではなく、知って選ぶための情報だと考えています。
Q8. 代謝異常は血液検査でわかりますか?遺伝子検査との違いは?
アシルカルニチンなどの血液・尿の検査で疑いがわかりますが、軽い型では元気なときの検査で見つからないことがあります。遺伝子検査は、どの遺伝子のどの変化が原因かを確かめる検査で、病名と型が決まり、ご家族の検査や次のお子さんへの備えにも使えます。両方の結果をあわせて判断します。
🧬 一度の検査で、ご本人とご家族の備えを始める
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。脂肪酸代謝異常症の原因がわかれば、空腹や発熱・手術のときの備えだけでなく、症状のないきょうだいの検査や、次のお子さんで同じ病気が起こる確率(両親とも保因者なら4分の1)と、その備えまで具体的に考えられます。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断のご相談まで、院内で続けて受けていただけます。
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