この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

ペルオキシソーム病の遺伝子検査は、副腎白質ジストロフィー(ALD)・ツェルウェガー症候群スペクトラム・レフサム病・近位肢節型点状軟骨異形成症などの原因になる21の遺伝子を、一度にまとめて調べる検査です。病名がはっきりすると、副腎白質ジストロフィーなら脳のMRIや副腎の検査をいつ受けるか、造血細胞移植を考える時期、レフサム病なら食事で何を避けるかといった、次にすることが決まります。生まれ持った遺伝子は一生変わりません。一度の検査でわかったことは、ご本人の健康管理だけでなく、ご家族やこれからの妊娠を考えるときにもずっと使える情報になります。このページでは、ペルオキシソーム病の種類と遺伝のしかた、この検査でわかること・わからないことを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. ペルオキシソーム病の遺伝子検査で何がわかりますか?
ペルオキシソーム病の原因になる21遺伝子を一度に調べます。副腎白質ジストロフィー(ABCD1)、ツェルウェガー症候群スペクトラム(PEX遺伝子)、レフサム病(PHYH・PEX7)、近位肢節型点状軟骨異形成症、D-二頭酵素欠損症などの原因がわかります。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
赤ちゃんの筋緊張低下・けいれん・肝臓の異常、MRIの白質の異常、副腎不全などで原因を知りたい方、血液検査(超長鎖脂肪酸など)や新生児スクリーニングで再検査と言われた方、ご家族に副腎白質ジストロフィーやペルオキシソーム病の方がいる方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、いずれもオンライン診療で受けられます(血液は提携医療機関で採血)。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかれば、見張る検査や治療の方針、ご家族の検査、次のお子さんへの確率を具体的に考えられます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. ペルオキシソーム病の遺伝子検査でわかること
この検査では、ペルオキシソーム病の原因になる21の遺伝子に、病気の原因となる変化があるかどうかを一度に調べます。ペルオキシソーム病には、「ペルオキシソームそのものがうまく作られない病気」と、「ペルオキシソームの中の1つの酵素や運び役が働かない病気」があり、この検査はその両方をまとめて調べられるのが特徴です。
ペルオキシソーム病は、まず血液で超長鎖脂肪酸などを測る生化学検査で疑われることが多い病気です。ただし、ツェルウェガー症候群スペクトラムの一部では、こうした血液の検査が正常のことがあり、診断を確かめるには遺伝子検査が必要とされています[3]。D-二頭酵素欠損症でも、血液の異常が出なかった患者さんが報告されています[6]。血液検査と遺伝子検査は役割が違い、組み合わせて使うことで、病名と原因の遺伝子まではっきりさせることができます。
病名と原因の遺伝子がわかると、受けるべき検査、気をつけたいこと、使える制度(指定難病・小児慢性特定疾病)が決まり、ご家族が同じ変化を持っているかを調べることもできるようになります。くわしくは第8章「病的変異が見つかったら、次にできること」でご説明します。
2. ペルオキシソームとは?細胞の中の「脂肪の分解工場」をやさしく解説
ペルオキシソームは、私たちの体のほとんどの細胞の中にある小さな袋のような器官(細胞小器官)で、とても長い脂肪酸を分解したり、体に必要な脂質を作ったりする「工場」の役目をしています。この工場がうまく作られなかったり、中の機械(酵素)が1つ壊れていたりすると、分解されるはずの物質がたまり、作られるはずの物質が足りなくなります。これがペルオキシソーム病です。
ペルオキシソームの主な仕事
ペルオキシソームの働きは、ペルオキシソーム病を調べる血液検査の項目を見るとよくわかります。遺伝性疾患の解説書GeneReviewsでは、次のような物質を測ることが挙げられています[3]。
🏭 ペルオキシソームの仕事と、病気で起きること
※検査項目はGeneReviews[3]による。どの項目に異常が出るかは、病気によって違います。
ペルオキシソーム病は2つのグループに分かれる
ペルオキシソーム病は、「ペルオキシソームそのものができない病気(ペルオキシソーム形成異常症)」と、「1つの酵素・運び役だけが働かない病気(単独酵素欠損症など)」に大きく分かれます。前者では多くの仕事がまとめて止まるため、全身にいろいろな症状が出やすく、後者では止まった仕事に合わせた症状が出ます。
🧬 ペルオキシソーム病の2つのグループ(この検査の対象)
※分類は文献[3][5][9]と難病情報センター(指定難病234)による。遺伝子ごとの病気は第6章の表をご覧ください。
3. この検査で調べる主な病気(ペルオキシソーム病の種類と症状)
ペルオキシソーム病は、生まれてすぐに重い症状が出る病気から、大人になってから症状が出る病気まで、幅がとても広いのが特徴です。ここでは、この検査で原因を調べられる主な病気を、検査を受けるかどうかを決めるのに必要な範囲でご紹介します。
副腎白質ジストロフィー(ALD):男の子の大脳型・大人の副腎脊髄ニューロパチー
副腎白質ジストロフィー(ALD)は、X染色体にあるABCD1遺伝子の変化で、脳や脊髄の神経を包む膜(ミエリン)が傷んだり、副腎の働きが落ちたりする病気です。ALDという病気は、同じ遺伝子の変化でも、どの年齢で、どんな形で症状が出るかが人によって大きく違います。
日本では、男性の2〜3万人に1人の割合と考えられ、ほぼ同じ数の女性がABCD1の変化をもっていると考えられています(難病情報センター、2026年10月時点で確認)。GeneReviewsは、男性の病型の割合を次のようにまとめています[1]。
🧠 副腎白質ジストロフィーの男性の主な病型
※割合はGeneReviews[1]による。副腎不全だけで始まった方が、のちに副腎脊髄ニューロパチーや大脳型に進むこともあります(難病情報センター)。
難病情報センターによると、小児大脳型は、知能の低下、行動の変化、斜視、視力・聴力の低下、歩くときの足のつっぱりなどで始まります。副腎の働きの低下はよくみられ、GeneReviewsでは神経症状のある男の子の約90%、副腎脊髄ニューロパチーの男性の約70%で副腎の働きが落ちているとされています[1]。
映画で知られる「ロレンツォのオイル」は、血液の超長鎖脂肪酸を下げますが、いったん出た神経症状の進行を抑える効果はないという報告が主流です(難病情報センター)。国際的な推奨でも、病気そのものを変える治療として効くという根拠は足りないとされています[2]。
ツェルウェガー症候群スペクトラム(乳児レフサム病・新生児副腎白質ジストロフィーを含む)
ツェルウェガー症候群スペクトラムは、PEX遺伝子の変化でペルオキシソームそのものがうまく作られない病気で、重い型から軽い型までが一続きになっています。以前は、重い順に「ツェルウェガー症候群」「新生児副腎白質ジストロフィー」「乳児レフサム病」と別の病名で呼ばれていましたが、今は「重い型・中間・軽い型」と呼ぶのが勧められています。耳と歯の症状が中心のハイムラー症候群も、この一続きの病気に含まれます[3]。なお、名前は似ていますが、新生児副腎白質ジストロフィーは、上の副腎白質ジストロフィー(ALD)とは別の病気です。
GeneReviewsによると、原因の遺伝子は13個のPEX遺伝子で、PEX1が60.5%、PEX6が14.5%、PEX12が7.6%を占めます[3]。重い型の赤ちゃんは多くが1歳までに亡くなりますが、中間・軽い型で1歳を超え、進行しない経過のお子さんは、77%の確率で学齢期まで成長すると報告されています[3]。日本では国内で60人以上が診断されていて、数十万人に1人程度と考えられています(難病情報センター 指定難病234)。
レフサム病:大人になって網膜・神経・耳の症状が出る病気
レフサム病(成人型レフサム病)は、食べ物から入るフィタン酸を分解できずに体にたまる病気で、原因の90%超はPHYH遺伝子、10%未満はPEX7遺伝子の変化です[4]。GeneReviewsによると、網膜色素変性は全員にみられ、においがわからない(87.5%)、末梢神経の障害(70%)、難聴(62.5%)、ふらつき(50%)、骨の異常(30%)、魚鱗癬(25%)などが続き、のちに不整脈や心筋症が出ることがあります。最初の症状は10〜20歳で出る方が多いものの、生後7か月から50歳以降まで幅があります[4]。
目の症状から見つかることもあるため、網膜色素変性症の原因を調べたい方は、網膜色素変性症遺伝子検査との選び分けもご相談ください。
根性(近位肢節型)点状軟骨異形成症
根性(近位肢節型)点状軟骨異形成症は、プラスマローゲンを作れないことで、二の腕や太ももの骨が短い、軟骨に点状の石灰化がある、生まれつきの白内障などが起こる病気です。この検査では、1型(PEX7)、3型(AGPS)、5型(PEX5)の原因を調べられます[5]。
PEX7による1型のGeneReviewsによると、生まれる頻度は10万人に1人未満で、重い型(古典型)と軽い型(非古典型)があります。重い型では、35人の集団で5歳まで生きた割合が55%、12歳までが約20%と報告されている一方、軽い型では12人中11人が大人まで成長しています[5]。骨の症状から調べ始める方は、骨系統疾患NGS遺伝子パネル検査との選び分けもご相談ください。
D-二頭酵素欠損症とアシルCoAオキシダーゼ欠損症
D-二頭酵素欠損症(HSD17B4)は、超長鎖脂肪酸の分解にかかわる酵素が働かない病気で、ほぼ全員が生まれてすぐの筋緊張低下とけいれんで始まります。多くのお子さんが2歳までに亡くなると報告されていますが、2歳を超えて成長した患者さんも報告されています[6]。同じHSD17B4遺伝子の変化で、女性の卵巣の発育不全と難聴を特徴とするペロー症候群が起こることもわかっています[7]。
アシルCoAオキシダーゼ欠損症は、ACOX1遺伝子の変化で超長鎖脂肪酸の分解の最初の段階が働かない病気です。どちらも指定難病234(ペルオキシソーム病)の「β酸化系酵素欠損症」に含まれています(難病情報センター)。
ハイムラー症候群:難聴と歯のエナメル質の病気
ハイムラー症候群は、感音難聴と歯のエナメル質の形成不全を特徴とする病気で、PEX1・PEX6の、働きが少しだけ落ちる変化によって起こることが2015年に示されました[8]。ペルオキシソームの働きの落ち方はごく軽いため、ペルオキシソーム病と気づかれにくい病気です。難聴や歯の症状から調べ始める方は、難聴遺伝子パネル検査・アッシャー症候群遺伝子検査・エナメル質形成不全症遺伝子検査との選び分けもご相談ください。
指定難病・小児慢性特定疾病の扱い(2026年10月時点)
副腎白質ジストロフィーは指定難病20、それ以外のペルオキシソーム病は指定難病234「ペルオキシソーム病(副腎白質ジストロフィーを除く)」です。指定難病234には、ツェルウェガー症候群スペクトラム、近位肢節型点状軟骨異形成症(1〜5型)、D-二頭酵素欠損症・アシルCoAオキシダーゼ欠損症などのβ酸化系酵素欠損症、レフサム病などが含まれます。ただし、これらの病名であっても医療費助成の対象にならないことがある、とされています(難病情報センター)。
小児慢性特定疾病では、先天性代謝異常の中の「ペルオキシソーム病」として、ペルオキシソーム形成異常症、副腎白質ジストロフィー、レフサム病、それ以外のペルオキシソーム病が対象に挙げられています(小児慢性特定疾病情報センター)。認定の条件や申請の方法は、各センターやお住まいの自治体の窓口でご確認ください。
4. ペルオキシソーム病は遺伝する?遺伝のしかたと確率
ペルオキシソーム病の多くは常染色体潜性(劣性)遺伝で、ご両親とも保因者の場合、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症します。副腎白質ジストロフィーだけはX連鎖の遺伝のしかたで、ABCD1の変化をもつお母さんからは、妊娠ごとに2分の1の確率で受け継がれます。遺伝のしかたの全体像は遺伝形式とはでも解説しています。
ほとんどは潜性(劣性)遺伝:ご両親とも保因者なら、お子さん1人ごとに4分の1
常染色体潜性(劣性)遺伝の病気は、対になった2つの遺伝子の両方に変化があると発症します。片方だけに変化がある人は保因者と呼ばれ、ふつうは症状がありません。ご両親とも保因者の場合、お子さん1人ごとに、発症する確率が25%、保因者になる確率が50%、どちらでもない確率が25%です[3][5]。上のお子さんの結果によって、下のお子さんの確率が変わることはありません。
保因者かどうかは、血液の生化学検査ではわかりません。ご家族の中で原因の遺伝子の変化がわかっていることが、ご両親やごきょうだいの保因者の検査、出生前の検査の前提になります[5]。なお、PEX6の特定の1つの変化(p.Arg860Trp)では、片方だけの変化で発症した報告もあります[3]。
副腎白質ジストロフィーはX連鎖:お母さんが変化をもっていれば、男の子の2分の1
ABCD1遺伝子はX染色体にあります。男性はX染色体を1本しか持たない(ヘミ接合)ため、変化があると症状が出やすくなります。ABCD1の変化をもつお母さんからは、妊娠ごとに2分の1の確率で変化が受け継がれ、受け継いだ男の子は発症しうる一方、女の子は変化をもつ女性になります。発症した男性からは、息子には受け継がれず、娘は全員が変化を受け継ぎます(難病情報センター)[1]。
GeneReviewsによると、ALDの方の約95%は親から変化を受け継いでおり、少なくとも4%は新しく起きた変化(de novo)です[1]。X連鎖の遺伝のしくみはX連鎖遺伝とはでくわしく解説しています。
ABCD1の変化をもつ女性(保因者)にも、大人になって症状が出ることがある
ABCD1の変化をもつ女性は、子どものうちは症状がありませんが、大人になってから、足のつっぱりや歩きにくさなど、副腎脊髄ニューロパチーに似た症状が出ることがあります。GeneReviewsは、こうした症状が出る割合を65〜80%と報告し、年齢でみると40歳を超えて約50%、65歳までに約65%としています[1]。一方で、大脳型や副腎不全は女性ではきわめてまれで、女性に脳のMRIを決まって行うことは勧められていません。脊髄や末梢神経の症状がある方には、年1回の経過観察が勧められています[2]。
国際的な推奨では、ABCD1の変化をもつ女性も「保因者」ではなく、ALDの患者さんとしてきちんと経過をみるべきだという考え方から、「保因者」という言葉を使わないよう勧めています[2]。このページでも、「ABCD1の変化をもつ女性」と書いています。保因者検査を受けたごきょうだいの体験は、副腎白質ジストロフィー保因者検査の体験談、遺伝と出生前診断の考え方はALD(副腎白質ジストロフィー)と遺伝でも紹介しています。
いとこ同士の結婚と潜性遺伝の病気
血のつながりのある方どうしの結婚では、同じ遺伝子の変化を2人とも持っている可能性が高くなるため、潜性遺伝の病気がお子さんに出やすくなります。いとこ同士の結婚では、お子さんの生まれつきの病気のリスクは一般の約2倍、または一般より1.7〜2.8%高い、という目安が示されています[12]。
これは集団でみた目安で、一組ひとくみのご夫婦の確率は、ご家族の病気の情報や検査の結果によって変わります。いとこ同士の結婚だから病気になる、ということではありません。ご心配があるときは、ご夫婦それぞれが保因者かどうかを調べることで、具体的に考えられるようになります。
5. どんな人がこの検査を受けるとよいか
症状からペルオキシソーム病が疑われる方、血液検査や新生児スクリーニングで再検査と言われた方、ご家族に副腎白質ジストロフィーやペルオキシソーム病の方がいる方に向く検査です。あなたの1回の検査が、ご両親・ごきょうだい・お子さんが自分の状態を知る手がかりになります。
症状から原因を知りたい方
- ●赤ちゃんの強い筋緊張低下(体がやわらかい)、けいれん、哺乳の弱さ、肝臓の腫れや肝機能の異常がある
- ●男の子で、学校の成績が急に落ちる・行動が変わる・見えにくい・聞こえにくいなどがあり、MRIで大脳の白質に異常を指摘された
- ●原因のわからない副腎不全(アジソン病)がある男性
- ●大人になってから、足のつっぱりや歩きにくさが少しずつ進んできた
- ●網膜色素変性に、においがわからない・難聴・末梢神経の障害・魚鱗癬などが重なっている
- ●二の腕・太ももの骨が短い、生まれつきの白内障、軟骨の点状の石灰化がある
- ●感音難聴と歯のエナメル質の形成不全がある
血液検査(超長鎖脂肪酸など)や新生児スクリーニングで再検査と言われた方
血液で超長鎖脂肪酸・フィタン酸・プラスマローゲンなどの異常を指摘された方は、遺伝子検査で原因の遺伝子を確かめることで、病名をはっきりさせることができます[3]。
日本では、副腎白質ジストロフィーの新生児スクリーニングが、2021年から愛知県・岐阜県で始まり、ほかにも一部の地域で行われています。報告によると、対象は男の子だけで、約13万8千人を調べて診断が確定したのは1人でした。ほかに、ABCD1に意義がまだわからない変化(VUS)が16人で見つかっています。また、この拡大スクリーニングの費用は、9地域のうち5地域でご家族の負担でした[11]。全国どこでも受けられる検査ではないため、受けられるかどうかはお住まいの地域でご確認ください。
スクリーニングで「要精密検査」と言われても、すぐに病気と決まったわけではありません。精密検査の結果、ABCD1の変化の意味を確かめたいときや、ペルオキシソーム病以外の病気も含めて調べたいときは、遺伝子検査が役に立ちます。生まれた赤ちゃんの病気をまとめて調べる検査として、当院には新生児遺伝子スクリーニング検査パネルもあります。
ご家族に副腎白質ジストロフィー・ペルオキシソーム病の方がいる方(お母さん・姉妹・兄弟)
国際的な推奨は、副腎白質ジストロフィーと診断された方には、ご家族を調べる選択肢があることを伝えるよう勧めています[2]。GeneReviewsも、リスクのある男性のご親族には、年齢にかかわらず検査を勧めるとしています[1]。症状が出る前の男の子が見つかれば、MRIや副腎の検査で見張りを始め、治療の時期を逃さないようにできるためです(第8章)。
難病情報センターは、ABCD1の変化をもつ女性が男の子を出産する場合、男の子は2歳までに神経症状が出ることはほとんどないものの、それより前に副腎不全の症状が出る可能性があるため、早めの遺伝カウンセリングを勧めています。お母さん・姉妹・おばなど、ご家族の女性が変化をもっているかを知ることは、ご本人の健康管理と、これからの妊娠の両方に役立ちます。
次のお子さんを考えているご両親
上のお子さんがペルオキシソーム病と診断された、またはその疑いがあるご両親にとって、原因の遺伝子がわかることは大きな意味があります。原因がわかれば、次のお子さんで同じ病気が起こる確率と、次の妊娠でどう備えられるかを具体的に考えられるようになります。原因がわからないままでは、妊娠中に赤ちゃんを調べる的を決められません。
この検査より別の検査が向いている場合
病名がほぼ決まっていれば対象をしぼったパネル、まだ決まっていなければ広く調べるパネルを選ぶのが基本の考え方です。この検査は、ペルオキシソーム形成異常症と単独酵素欠損症の両方を含む「ペルオキシソーム病の広いパネル」です。
🔍 状況に合わせた検査の選び方
※近位肢節型点状軟骨異形成症2型の原因のGNPAT遺伝子と、FAR1遺伝子は、この検査の対象に含まれていません(第7章)。どの検査が合うかは、症状・血液検査の結果・ご家族の情報で変わるため、遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
6. 調べる21遺伝子と、それぞれでわかる病気
この検査では、ペルオキシソーム病に関係する21の遺伝子(ABCD1、ABCD3、ACOX1、AGPS、DNM1L、HSD17B4、PEX1、PEX2、PEX3、PEX5、PEX6、PEX7、PEX10、PEX11B、PEX12、PEX13、PEX14、PEX16、PEX19、PEX26、PHYH)をまとめて調べます。
🧬 ペルオキシソーム病パネルで調べる21遺伝子
※検査の対象遺伝子は当院の検査内容による(2026年10月に、検査を行う会社の最新の遺伝子一覧と照合)。病気と遺伝のしかたは文献[1][3][4][5][7][8][9][10]と難病情報センターによる。
ツェルウェガー症候群パネルとの選び分け
ツェルウェガー症候群スペクトラムの原因になる13個のPEX遺伝子[3]は、すべてこの検査に含まれています。ツェルウェガー症候群スペクトラムがほぼ決まっている場合は、対象をしぼったツェルウェガー症候群NGS遺伝子パネル検査が選べます。副腎白質ジストロフィーやレフサム病、D-二頭酵素欠損症など、1つの酵素の病気も含めてまとめて調べたい場合は、このページの検査が向いています。代謝の病気のどのグループかもしぼれない場合は、入口となる包括的代謝疾患遺伝子検査から考えます。
7. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、21の遺伝子の中の、一つひとつの文字(塩基)の変化や小さな挿入・欠失と、検体によっては遺伝子の大きな欠失・重複です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
- ●調べる範囲:遺伝子のたんぱく質を作る部分(エクソン)と、そのつなぎ目を読みます。調べる領域の99%以上を、20回以上くり返し読んで確かめています。
- ●大きな欠失・重複:遺伝子が丸ごと抜けている変化は血液と頬の粘膜の検体で、2つ以上続いたエクソンの欠失・重複は血液の検体で見つけられます。1つのエクソンだけの欠失・重複は、ふつうは見つかりません。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
- ●見つけられない変化:染色体の一部が入れ替わる変化(転座・逆位)、繰り返し配列が長くなる変化、遺伝子の働きを調節する部分の多くや、エクソンから離れた場所(20塩基より遠い部分)の変化は見つけられません。体の一部の細胞だけにある変化(モザイク)を調べるようには作られていません。
- ●調べていない遺伝子:近位肢節型点状軟骨異形成症2型の原因のGNPAT遺伝子や、FAR1遺伝子など、ペルオキシソームに関係していてもこの検査に含まれない遺伝子があります。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうかまだ判断できない変化が見つかることがあります。VUSだけでは、診断を確かめることも否定することもできません[5]。
- ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、この検査で見つけられない種類の変化や、調べていない遺伝子が原因の可能性が残ります。症状と血液の生化学検査にもとづく診断が、引き続き大切です。
8. 病的変異が見つかったら、次にできること
原因の遺伝子の変化がわかると、病名が決まり、何を、いつ見張るか、どんな治療を考えるかがはっきりします。さらに、ご家族が同じ変化を持っているかを調べたり、次の妊娠でどう備えるかを考えたりすることもできます。立場ごとに、できることをまとめます。治療は、専門の医療機関で主治医と相談して進めます。
ご本人:病気に合わせた見張りと治療
副腎白質ジストロフィーの男の子では、症状が出る前から定期的に調べることが勧められています。国際的な推奨では、脳のMRIは2歳で最初に撮り、2〜12歳は6か月ごと、12歳からは年1回とされています。副腎の検査は生後6か月までに始め、10歳までは3〜6か月ごと、そのあとは年1回とされています[2]。
大脳型の標準的な治療は造血細胞移植で、MRIで変化が出始めた早い段階で行うほど結果がよく、進んだ段階では結果がよくないとされています[2]。GeneReviewsは、移植を受けた方の生存率を2年で82%、5年で74%と報告しています[1]。日本でも、発症早期の移植の効果が報告されています(難病情報センター)。副腎の働きが落ちている場合は、定期的な検査とステロイドホルモンの補充で症状を抑えることができます(難病情報センター)。米国では遺伝子治療も承認されていますが、血液のがんが起きた報告もあり[1]、使えるかどうかは専門の医療機関でご確認ください。
レフサム病では、食事でフィタン酸を減らすことが治療の中心で、魚鱗癬・感覚の神経障害・ふらつきが良くなるとされています。牛・羊・ヤギなどの肉や乳製品、一部の魚、くるみなどを控え、空腹や急な体重減少は血液のフィタン酸を増やすため避けます。急な不整脈やひどい筋力低下のときには、血漿交換が行われます[4]。
ツェルウェガー症候群スペクトラムでは、症状に合わせた治療が中心です。GeneReviewsは、脂溶性ビタミンや胆汁酸(コール酸)の補充、副腎ホルモンの補充、補聴器・眼鏡・白内障の手術、けいれんの治療、発達の支援などを挙げ、聴力・目・肝臓を年1回、副腎は1歳までに調べてそのあと年1回確かめることを勧めています[3]。
症状のない方:ABCD1の変化をもつ女性・家族歴で受けた方
ABCD1の変化をもつ女性は、大人になってから足のつっぱりなどが出ることがあるため、症状に気づいたときに相談できるよう、ご自身の状態を知っておくことに意味があります[1][2]。潜性遺伝の病気の保因者とわかった方は、ふつうご自身に症状は出ませんが、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかで、お子さんへの確率が変わります。パートナーの方は、拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)・男性版714遺伝子(女性版1009遺伝子・男性版911遺伝子もあります)や、同じ遺伝子に的をしぼった検査で調べられます。原因の遺伝子が対象に入っているかは、各ページの遺伝子一覧でご確認ください。
妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」(女性787遺伝子・男性714遺伝子。この検査だけを単独で受けることはできません)もあります。
ご家族:症状が出る前の兄弟・いとこの男の子を見つける
ご家族の中で原因の変化がわかると、ほかのご家族は、その変化だけをピンポイントで調べられます。副腎白質ジストロフィーでは、症状が出る前の兄弟・いとこ・おいの男の子が見つかれば、MRIと副腎の検査で見張りを始め、移植を考える時期を逃さないようにできます[1][2]。お母さん・姉妹が変化をもっているかを知ることは、ご本人の健康管理と、これからの妊娠の計画に役立ちます。潜性遺伝の病気では、ご両親の保因者の確認や、ごきょうだいが将来結婚・出産を考えるときの手がかりになります。症状のないご家族の検査は、ご本人の同意のうえで、遺伝カウンセリングで知ることの意味をよく考えてから行います。
子どもを持つときの選択肢
ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに、赤ちゃんに同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。その病気で出生前診断をどのように行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断するため、妊娠を考えている段階からご相談ください。
体外受精でできた受精卵を調べる着床前の検査(PGT-M)については、日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-Mが行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-Mを考えている方へで解説しています。
また、特別な検査をせずに妊娠・出産することも、もちろん選べる選択肢のひとつです。どの選択が正しいということはありません。知ったうえで、ご夫婦が納得できる選択をしていただけるよう、当院はどの選択も尊重してサポートします。
当院でのその後
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明し、次にどうするかを一緒に考えます。専門の医療機関への受診や、ご家族の検査、妊娠の計画についてもご相談いただけます(遺伝カウンセリング料は第10章のとおりです)。
9. 結果の受け取り方と、報告書について
結果は、必ず一度、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。報告書の読み方はNIPT/遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。
意義がまだわからない変化(VUS)は、それだけで診断を確定したり、ご家族の発症の可能性や保因者かどうかを判断したりする根拠にはしません。ただし、その変化の意味を確かめるために、ご家族の同意を得て同じ変化があるかを調べることがあります。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。VUSの扱いはVUS(意義不明変異)の臨床的取り扱いでくわしく解説しています。また、ほかの目的の検査で、調べた目的とは別の病気の原因が見つかること(二次的所見)についての当院の考え方は二次的所見の開示方針とABCD1の新規収載の解説をご覧ください。
10. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。唾液・頬の内側の粘膜・血液のいずれでも、オンライン診療で受けられます。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取キットはお支払い後に送付
▶
結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行った後、検体を当院にお送りいただく流れです。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいた後にお送りします。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える品質を保つため、ご自身の判断で検体を採取しないでください。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
11. 院長コラム
🩺 院長コラム【名前がつくと、次の一手が決まる】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。ペルオキシソーム病は、同じ「ペルオキシソーム病」という名前でも、病気ごとに見張るべきこと、できる治療、ご家族への意味がまったく違います。とくに副腎白質ジストロフィーは、症状が出る前に見つかった男の子では、MRIと副腎の検査で見張り、治療の時期を逃さないようにすることができます。名前がつくことで、次の一手が決まる病気だと考えています。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知ったうえで次の妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. ペルオキシソーム病の原因は何ですか?
細胞の中のペルオキシソームという器官がうまく作られない、または中の1つの酵素や運び役が働かないことが原因で、どちらも遺伝子の変化によって起こります。とても長い脂肪酸やフィタン酸が分解されずにたまったり、プラスマローゲンが作られなくなったりします。この検査では、原因になる21の遺伝子をまとめて調べます。
Q2. 副腎白質ジストロフィーの初期症状は?
小児大脳型では、知能の低下、行動の変化、斜視、視力・聴力の低下、歩くときの足のつっぱりなどで始まります(難病情報センター)。副腎不全の症状だけで始まることもあります。大人では、足のつっぱりや歩きにくさが少しずつ進む副腎脊髄ニューロパチーとして始まることが多いです。
Q3. 副腎白質ジストロフィーは何人に1人ですか?
日本では、男性の2〜3万人に1人の割合と考えられており、ほぼ同じ数の女性がABCD1の変化をもっていると考えられています(難病情報センター、2026年10月時点)。
Q4. 副腎白質ジストロフィーの保因者の女性にも症状は出ますか?
子どものうちは症状がありませんが、大人になってから、足のつっぱりや歩きにくさなどが出ることがあります。GeneReviewsでは、こうした症状が出る割合は65〜80%とされ、40歳を超えて約50%、65歳までに約65%と報告されています。大脳型や副腎不全は女性ではきわめてまれです。
Q5. ペルオキシソーム病が遺伝する確率は?
多くは常染色体潜性(劣性)遺伝で、ご両親とも保因者の場合、お子さん1人ごとに発症する確率は25%、保因者になる確率は50%です。副腎白質ジストロフィーはX連鎖で、ABCD1の変化をもつお母さんからは妊娠ごとに2分の1の確率で受け継がれ、受け継いだ男の子は発症しうる一方、女の子は変化をもつ女性になります。
Q6. ペルオキシソーム病・副腎白質ジストロフィーの寿命(予後)は?
病気と型によって大きく違います。ツェルウェガー症候群スペクトラムの重い型では多くが1歳までに亡くなりますが、中間・軽い型で1歳を超え、進行しない経過のお子さんは77%が学齢期まで成長すると報告されています。副腎白質ジストロフィーの大脳型では、移植を受けた方の生存率は2年で82%、5年で74%と報告されています。レフサム病では、早く発症しても寿命が短いとは限らないとされています。
Q7. 副腎白質ジストロフィーは治りますか?治療法はありますか?
大脳型には造血細胞移植が標準的な治療とされ、MRIで変化が出始めた早い段階で行うほど結果がよいとされています。副腎の働きが落ちている場合は、ステロイドホルモンの補充で症状を抑えられます。ロレンツォのオイルは、いったん出た神経症状の進行を抑える効果はないという報告が主流です。治療は専門の医療機関で主治医とご相談ください。
Q8. 家族にペルオキシソーム病の人がいると、結婚に差し支えますか?
ご家族にペルオキシソーム病の方がいても、それだけで結婚できないということはありません。お子さんへの確率は、病気の遺伝のしかたと、ご自身やパートナーが変化を持っているかで変わり、検査で具体的に知ることができます。知ったうえで、妊娠したときの出生前診断などを計画することもできます。
🧬 一度の検査で、ご本人とご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。ペルオキシソーム病の原因がわかれば、ご本人の見張りや治療の方針だけでなく、ご家族の検査や、次の妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
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