ミエリン 髄鞘
ミエリンとは、髄鞘ともいい、脳や脊髄などの神経の周りに形成される絶縁層または鞘のことで、ミエリンは、タンパク質と脂肪で構成されています。
このミエリン鞘のおかげで、電気インパルスが神経細胞に沿って迅速かつ効率的に伝達されます。ミエリンが損傷すると、電気信号の伝達が遅くなります。これが、多発性硬化症などの脱髄性疾患の原因となります。
ミエリンとは?
脊椎動物の神経細胞は、細胞体と軸索と呼ばれる長く突き出た神経線維で構成されており、細胞体から受信側の神経細胞や筋肉などへの電気的インパルス(興奮、刺激)の伝達を担っています。
ミエリンは2つの異なるタイプの支持細胞によって作られる。中枢神経系(CNS)(脳と脊髄)では、オリゴデンドロサイトと呼ばれる細胞が、枝のように伸びた部分を軸索に巻き付けてミエリン鞘を作っています。脊髄以外の神経では、シュワン細胞がミエリンを作っています。
ミエリンの約40%は水分で、水分を除いた乾燥質量は約80%の脂質と20%のタンパク質で構成されています。ミエリンは主に脂質で構成されているため、白い色をしており、脳の白質部分にはミエリンが多い事から白く見えています。ミエリンに含まれる主な脂質は、ガラクトセレブロシドと呼ばれる糖脂質です。
また、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、プロテオリピッドタンパク質(PLP)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)などもミエリンの主成分です。ミエリンには、ミエリン鞘を強化するスフィンゴミエリンからなる架橋炭化水素鎖もあります。
ミエリンの役割は何ですか?
神経が電気インパルスを一方の端から他方の端に伝えるとき、ミエリンはインパルスが軸索から離れるのを阻止し、電気抵抗を増加させることで、信号伝導を促進します。
ミエリンのある神経を有髄神経といいますが、有髄神経ではミエリンは、ランビエ絞輪(ランビエこうりん:Ranvier’s node)で軸索の周囲を包んでいる髄鞘 (ミエリン鞘) が一定間隔で欠如しています。絞輪と絞輪の間を輪間節といい、その長さは一定ではありません。神経に興奮が伝わるとき、インパルスはこの絞輪の部分から次の絞輪の部分へと飛び飛びに伝わっていきます。こうして、ミエリンは特殊な構造を組み立てることにより、軸索を絶縁し、効率よく神経が興奮して発生した電気信号であるインパルスを長い神経細胞の末端まで速く減衰なく伝える役目を果たしています。
このように神経がミエリン化することで、神経細胞間で信号(活動電位)が伝達される速度が大幅に向上します。
これに対してミエリンがない無髄神経細胞の軸索では、活動電位は軸索に沿って連続的に流れるが、有髄の軸索では、軸索の膜が露出しているランビエの節でのみ電流が発生するのです。
活動電位を発生させるナトリウムチャネルはランヴィエ絞輪に多く存在しています。また、これらの節には、ナトリウムチャネルのクラスターを活性化し、維持する特定の分子が豊富に存在しています。
ランヴィエ絞輪にミエリン鞘とナトリウムチャネルの両方が存在することで、活動電位が結節から次の結節へと「ジャンプ」し、インパルスが軸索に沿って急速に移動していきます。このプロセスは、跳躍伝導(ちょうやくでんどう、saltatory conduction)と呼ばれています。
ミエリンが損傷するとどうなりますか?
神経のミエリン化不全は、神経疾患の主な原因となっています。
脱髄とは、神経を包んでいたミエリン鞘が損傷して失われることです。脱髄は、炎症、代謝、遺伝などの要因によって起こります。原因に関わらず、ミエリンが失われると、重大な神経機能障害が生じ、脳と体の間の神経伝導が遅くなったり、遮断されたりします。
最もよく知られている脱髄疾患の一つに多発性硬化症(MS)があります。MSは自己免疫疾患で、脳全体に中枢神経系(CNS)の脱髄病変が発生し、疼痛、認知・運動能力の障害、視覚障害などの症状を引き起こします。
この記事の著者:仲田洋美医師 医籍登録番号 第371210号 日本内科学会 総合内科専門医 第7900号 日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 第1000001号 臨床遺伝専門医制度委員会認定 臨床遺伝専門医 第755号