この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

糖新生異常症の遺伝子検査は、空腹のときに体の中でブドウ糖を作る「糖新生」の酵素の遺伝子4つ(FBP1・PC・PCK1・PCK2)を、一度に調べる検査です。空腹や発熱のたびに低血糖と乳酸アシドーシスをくり返すお子さんで、原因がフルクトース-1,6-ビスホスファターゼ(FBPase)欠損症などの糖新生異常症かどうかを確かめます。病名がわかると、空腹にしない工夫や、熱が出て食べられないときの備え、避けたい点滴まで、次の一手が決まります。このページでは、糖新生のしくみ、調べる病気、検査でわかること・わからないこと、結果のあとにできることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
糖新生の酵素の遺伝子4つ(FBP1・PC・PCK1・PCK2)を一度に調べ、FBPase欠損症・ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症・PEPCK欠損症が低血糖と乳酸アシドーシスの原因かどうかを確かめます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
空腹・発熱・胃腸炎のときに低血糖と乳酸アシドーシスをくり返す方、「ケトン性低血糖」と言われたがくり返している方、きょうだいやご家族にこの病気の方がいる方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。血液・唾液・頬の内側の粘膜で調べられ、オンライン診療にも対応しています。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかれば、次のお子さんで同じ病気になる確率は4分の1で、出生前診断も計画できます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 糖新生異常症の遺伝子検査でわかること
この検査でわかるのは、空腹のときにブドウ糖を作る「糖新生」の酵素がうまく働かない生まれつきの病気(糖新生異常症)が、低血糖の原因かどうかです。原因の遺伝子が見つかれば、どの酵素の病気かがわかり、ふだんの過ごし方と、具合が悪いときの備えを具体的に決められます。
糖新生とは?空腹のときに体の中でブドウ糖を作るしくみ
糖新生とは、食事から糖が入ってこないときに、乳酸・アミノ酸・グリセロールなど糖ではない材料から、体の中でブドウ糖を作るしくみです[2]。脳は主にブドウ糖をエネルギーにしているため、食事と食事の間や夜のあいだも血糖を保つ必要があります。食後しばらくは肝臓にためたグリコーゲンを分解して血糖を保ち、空腹が長くなると糖新生の出番が増えます。
糖新生は主に肝臓で行われますが、腎臓もブドウ糖を作って血液に送り出しており、その役割は以前考えられていたより大きいことが報告されています[4]。糖新生の道すじには、ふつうの糖の分解(解糖系)を逆向きにたどれない場所がいくつかあり、そこを専用の酵素が受け持っています。この検査で調べる4つの遺伝子は、その専用の酵素を作る設計図です。
材料乳酸・アミノ酸など
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PC・PEPCKPC・PCK1・PCK2遺伝子
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FBPaseFBP1遺伝子
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ブドウ糖血糖を保つ
※糖新生の道すじのうち、この検査で調べる酵素の位置だけを簡単に示した模式図です。
糖新生が起こらないとどうなる?低血糖と乳酸アシドーシス
糖新生の酵素が働かないと、肝臓のグリコーゲンを使い切ったあとにブドウ糖を作れず、低血糖になります。同時に、材料の乳酸が使われずにたまり、血液が酸性に傾く「乳酸アシドーシス」が起こります[2]。
乳酸アシドーシスでは、呼吸が速く深くなる、ぐったりする、吐く、意識がぼんやりする、といった症状がみられます。小児慢性特定疾病情報センターの解説では、FBPase欠損症の急な発作として、呼吸が速くなる、不機嫌、意識障害、無呼吸、脈が速くなる、肝臓が大きくなる、吐く、けいれんなどが挙げられています(2026年10月時点で確認)。「糖新生が起こるとやせる」「糖新生を抑えたい」といったダイエットや糖尿病の話題とは逆で、この病気では糖新生が起こらないことが問題になります。
2. この検査で調べる3つの病気
この検査で調べるのは、フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ(FBPase)欠損症、ピルビン酸カルボキシラーゼ(PC)欠損症、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)欠損症の3つです。どれも常染色体潜性(劣性)遺伝の病気ですが、症状の重さや経過は大きく違います。
フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ(FBPase)欠損症
FBPase欠損症は、FBP1遺伝子の変化で起こる病気で、絶食や感染症をきっかけに、低血糖・代謝性アシドーシス・高乳酸血症をくり返します。小児慢性特定疾病情報センターによると、患者さんの約半数は新生児期の早い時期に発症し、ほかの多くは乳幼児期に、感染症などで食べられない状態をきっかけに発症します。発作のないときの検査は、ふつう正常です(2026年10月時点で確認)。
発作のときにはケトン体が増えるので、低血糖とケトン体の増加がそろう「ケトン性低血糖」の形をとります。発作のきっかけは、絶食・感染症のほか、果糖(フルクトース)を多くとったときにも起こりえます[2]。果糖で具合が悪くなる病気には遺伝性フルクトース不耐症もあり、見分けることが大切です。
見通しについては、適切に管理すれば寿命はふつうで、成長・発達も正常に保たれ、発作の回数は年齢とともに減るとされています。一方で、治療されない急な発作は、命にかかわったり、重い神経の後遺症を残したりすることがあります(小児慢性特定疾病情報センター、2026年10月時点で確認)。空腹に耐えられる時間は年齢とともに長くなるとも報告されています[2]。
ピルビン酸カルボキシラーゼ(PC)欠損症:A型・B型・C型
PC欠損症は、PC遺伝子の変化で起こる病気で、重さによってA型・B型・C型に分けられます[1]。ピルビン酸カルボキシラーゼは、糖新生の入口でピルビン酸をオキサロ酢酸に変える酵素で、エネルギーを作るTCA回路(クエン酸回路)を回し続けるのにも欠かせません。そのため、低血糖だけでなく、乳酸アシドーシスや神経の症状が前に出ます。
🧬 PC欠損症の3つの型
※GeneReviews(2024年5月更新)[1]による。報告されている患者さんは約75人で、多くはA型かB型、C型は約15人とされています。
日本の小児慢性特定疾病の一覧では、PC欠損症はミトコンドリア病のグループに入っています(2026年10月時点で確認)。PCは、ミトコンドリアの中で働く酵素です(小児慢性特定疾病情報センター)。治療として、空腹を避けること、クエン酸やアスパラギン酸の補充などが行われ、ケトン食は避けるべきとされています。肝移植で乳酸アシドーシスなどが改善した報告もありますが、神経の症状は元に戻らないとされています[1]。乳酸と神経の症状が中心で、TCA回路異常症やミトコンドリア病も考えたい場合は、次の章の表で検査を選びます。
PEPCK欠損症(PCK1・PCK2)
PEPCK欠損症は、オキサロ酢酸をホスホエノールピルビン酸に変える酵素の病気です。PEPCKには細胞質で働く型(PCK1遺伝子)と、ミトコンドリアで働く型(PCK2遺伝子)があります。
細胞質型(PCK1)の欠損症は、子どものうちに発症するまれな潜性遺伝の病気で、症状のない方から、低血糖をくり返す方、乳酸アシドーシス・脳症・けいれん・肝不全を起こす方まで、重さに大きな幅があります。2023年に報告されたアラブ首長国連邦とオマーンの4家系では、全員に原因のわからない低血糖があり、乳酸・肝臓の数値(トランスアミナーゼ)・TCA回路の代謝物の上昇が共通してみられました。報告した研究者は、ほかの病気にかかったときに体が飢餓の状態になるのを防ぎ、すぐに立て直すことが、取り返しのつかない脳の障害を防ぐうえで大切だとしています[3]。
ミトコンドリア型(PCK2)の欠損症は、報告が10例に満たないごくまれな病気で、PCK2遺伝子が原因かどうかは、まだはっきり確立していません(遺伝子の国際データベースUniProtの記載、2026年10月時点で確認)。この検査ではPCK2も調べますが、変化が見つかったときの意味は、慎重に判断する必要があります。
発症のきっかけと、症状が出やすい時期
糖新生異常症の症状は、ふだんより長く食べない時間ができたときに出やすくなります。具体的には、夜間の長い絶食、発熱を伴う感染症、嘔吐や下痢で食べられないとき、手術の前の絶食などです。新生児期に発症することもあり、生まれてすぐの低血糖(新生児低血糖)が手がかりになることもあります。
ただし、新生児低血糖はほとんどが一時的なもので、多くは遺伝子の病気ではありません。低血糖が長引く、くり返す、乳酸アシドーシスを伴う、といったときに、こうした生まれつきの代謝の病気を考えます。
3. どんな人がこの検査を受けるとよいか
空腹や発熱のたびに低血糖と乳酸アシドーシスをくり返す方、「ケトン性低血糖」と言われたがくり返している方、ご家族にこの病気の方がいる方に向く検査です。原因がわからないまま病院を回る時間を、検査で短くできる可能性があります。日本の未診断疾患イニシアチブ(IRUD)では、全エクソーム解析を終えた5,136家系のうち2,247家系(43.8%)で診断が確定しました[5]。全員に診断がつくわけではありませんが、調べなければ原因に近づけません。
「ケトン性低血糖」と言われたが、くり返している
子どもの「ケトン性低血糖」の多くは、空腹に耐えられる時間が短めな体質によるもので、学童期までに治まることが多いとされてきました。一方で、診断がつかないまま「ケトン性低血糖」とされている中に、生まれつきの代謝の病気が隠れていることがあります[2]。
2022年の総説では、原因不明のケトン性低血糖とされた子どもを調べた研究で、肝臓の腫れがない子どもの12%に糖原病に関係する遺伝子の変化が見つかったことが紹介されています。また、病気が隠れているのにケトン性低血糖と診断されると、治療が足りなくなるおそれがあると指摘されています[2]。FBPase欠損症も、発作のときにはケトン体が増えるため、ケトン性低血糖とよく似た形をとります[2]。くり返す、重い、乳酸も高い、きょうだいにも同じことがある、といったときは、原因を確かめる意味があります。
低血糖に乳酸アシドーシス・肝臓の腫れが重なる、新生児期から低血糖がある
低血糖のときに乳酸が高い、肝臓が大きい、尿の有機酸分析でグリセロール3-リン酸が増えている(FBPase欠損症の手がかり)[2]、尿にフマル酸などTCA回路の代謝物が出る(PEPCK欠損症の手がかり)[2][3]、といった結果があれば、糖新生異常症を考えます。新生児期から低血糖や乳酸アシドーシスがある場合も対象です。
きょうだい・ご家族にこの病気の方がいる
きょうだいにFBPase欠損症などと診断された方がいれば、症状のまだ出ていないお子さんも、同じ原因をもっているかを調べられます。ご家族の原因がわかっていれば、その変化だけを調べる方法もあります。ご両親が保因者かどうかを確かめることは、次のお子さんの計画にもつながります(第8章)。
別の検査が向いている場合:血液・尿の検査結果でパネルを選ぶ
低血糖の原因はとても多く、低血糖のときの血液・尿の検査(インスリン・ケトン体・遊離脂肪酸・乳酸など)が、どの検査を選ぶかの大きな手がかりになります[2]。この検査は4つの遺伝子にしぼった検査なので、ほかの原因が考えられるときは、次の検査のほうが向いていることがあります。
🔍 低血糖の検査結果と、向いている遺伝子検査(目安)
※検査結果の見方は2022年の総説[2]にもとづく目安です。実際の選び方は、主治医の検査結果とご家族の情報をもとに、遺伝カウンセリングで決めます。糖原病Ia型は、食事の間隔が2〜3時間にのびると低血糖が目立つとされます[2](糖原病Ia型)。
4. 調べる4つの遺伝子と、遺伝のしかた
この検査では、FBP1・PC・PCK1・PCK2の4つの遺伝子を調べます。どれも常染色体潜性(劣性)遺伝で、ご両親がともに保因者の場合、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症します。
🧬 調べる遺伝子と、それぞれでわかる病気
※FBP1は小児慢性特定疾病情報センター、PCは文献[1]、PCK1は文献[3]、PCK2はUniProtの記載による(2026年10月時点で確認)。
常染色体潜性(劣性)遺伝:次のお子さんの確率は4分の1
糖新生異常症は常染色体潜性(劣性)遺伝です。ご両親がともに同じ遺伝子の変化を1つずつもつ保因者の場合、お子さん1人ごとに、発症する確率が4分の1、保因者になる確率が2分の1、どちらでもない確率が4分の1です[1]。保因者の方は、ふつう症状がありません。
お子さんがもつ2つの変化は、同じ変化のこともあれば、父方・母方で違う変化のこともあります(複合ヘテロ接合)。この確率は、上のお子さんが発症したかどうかで変わりません。お子さんが発症したことで、ご両親が保因者だとはじめてわかるのがふつうで、誰のせいでもありません。保因者のしくみは、劣性遺伝(潜性遺伝)とは?保因者の仕組みと子どもへ遺伝する確率でも解説しています。
「いとこ同士の結婚だと遺伝の病気が増えるのでは」と心配される方もいます。血縁のあるご夫婦は、共通の祖先から同じ変化を受け継いでいる可能性があるため、同じ潜性の病気の保因者どうしになることがあります。米国の遺伝カウンセラーの学会(NSGC)の推奨は、こうしたご夫婦にも、同じ出身集団のほかのご夫婦と同じように、詳しい家族歴の聞き取りと遺伝カウンセリングを行うことを勧めています[6]。いとこは第三度近親にあたります。結婚そのものの良し悪しではなく、必要なら保因者検査で「知ってから選ぶ」ことができる、という向きでお考えください。
5. 日本の制度と新生児マススクリーニング(2026年10月時点)
FBPase欠損症・PC欠損症・PEPCK欠損症の3つは、いずれも小児慢性特定疾病の対象疾病一覧(先天性代謝異常)に載っています。一方で、新生児マススクリーニングの対象ではありません(2026年10月時点で確認)。
小児慢性特定疾病情報センターの一覧では、FBPase欠損症とPEPCK欠損症は「糖質代謝異常症」、PC欠損症は「ミトコンドリア病」のグループに入っています。医療費の助成を受けるには、認定の基準を満たして申請する必要があります。基準や申請方法は、小児慢性特定疾病情報センターやお住まいの自治体の窓口でご確認ください。
新生児マススクリーニングでは、アミノ酸・有機酸・脂肪酸の代謝異常症や、糖の病気ではガラクトース血症などが対象ですが、糖新生異常症の3つは対象に入っていません(大阪府の対象疾患の一覧で確認)。ビオチンを使う複数の酵素がまとめて働かない複合カルボキシラーゼ欠損症は対象ですが、PC欠損症だけの場合とは別の病気です。米国では、新生児スクリーニングでシトルリンの上昇からPC欠損症が疑われることもありますが、シトルリンの上昇はPC欠損症に特有ではなく、標準のスクリーニング項目ではないとされています[1]。「マススクリーニングで異常がなかったから、この病気ではない」とは言えません。
6. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、4つの遺伝子の配列の小さな変化(1文字の置き換わりや、小さな挿入・欠失)と、遺伝子のまとまった部分が抜けたり増えたりする変化です。配列は次世代シークエンサーで読み、検査する範囲の99%以上を20回以上くり返し読んで確かめます。読み取りが不十分なところは別の方法(サンガー法)で補い、見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
- ●調べていない遺伝子:低血糖の原因になる遺伝子はほかにもたくさんあります。この検査は糖新生の4遺伝子だけを調べます。
- ●見つけにくい変化:染色体の転座や逆位、繰り返し配列の伸び、遺伝子の調節領域や、エクソンから離れたイントロンの奥の変化は検出できません。エクソン1つだけの欠失・重複は、見つからないことがあります。
- ●モザイク:体の一部の細胞にだけ変化がある状態を見つけることは、この検査の目的に含まれていません。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、まだ判断できない変化が見つかることがあります。とくにPCK2は、病気との関係そのものが研究中です。
- ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、この検査で検出できない変化や、ほかの原因(糖原病・高インスリン血症・ホルモンの病気など)の可能性が残ります。
調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、当院の二次的所見の開示方針に沿ってご説明します。
7. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
陽性だったとき
同じ遺伝子の両方のアレルに、病気の原因となる変化がそれぞれ見つかり(潜性遺伝のため)、症状や生化学検査の結果とも一致すれば、どの酵素の病気かを確定できる場合があります。病名が決まると、空腹にしない工夫、具合が悪いときの備え、受ける検査、使える制度が具体的になります(第8章)。変化が1つだけのときは、保因者の可能性も含めて、症状や生化学検査の結果とあわせて判断します。
陰性だったとき
原因が見つからなかった場合は、糖新生異常症の可能性は低くなりますが、ゼロにはなりません(第6章)。低血糖のときの検査結果に合わせて、第3章の表のほかの検査や、全エクソーム検査を考えます。
意義がまだわからない変化(VUS)が見つかったとき
VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。
8. 病的変異が見つかったら、次にできること
糖新生異常症は、原因がわかることで、発作を防ぐための具体的な行動が決まる病気です。わかったことを、ご本人・ご家族・次のお子さんのそれぞれで、どう生かせるかをまとめます。治療・食事の指導・急なときの対応は、主治医や代謝の病気の専門の医療機関で受けていただきます。
ご本人:空腹の時間・病気のときの備え・避けたい点滴
FBPase欠損症では、長い絶食を避け、口から食べられない・吐いているときは早めにブドウ糖の点滴を受けることが勧められています。果糖は、ブドウ糖やガラクトースと一緒でなければ避けるとされています(小児慢性特定疾病情報センター、2026年10月時点で確認)。食事の回数を増やし、コーンスターチを加えることも行われます[2]。
⚠️ FBPase欠損症では、グリセロールや果糖を含む点滴に注意
小児慢性特定疾病情報センターの解説では、グリセロールや果糖の点滴が急な発作のきっかけになりうるとされ、発作のときはグリセリンを含む点滴を使わないことが勧められています(2026年10月時点で確認)。病名がわかっていれば、救急外来や手術のときに、このことを医療者に前もって伝えられます。主治医と相談して、病名と注意点を書いた書類を持ち歩くことも役立ちます。
PC欠損症では、空腹を避けることに加えて、クエン酸やアスパラギン酸の補充が行われ、ケトン食は避けるべきとされています[1]。細胞質型PEPCK欠損症では、ほかの病気にかかったときに飢餓の状態を防ぎ、すぐに立て直すことが大切だとされています[3]。FBPase欠損症では、大人になってからも発作が起こることがあり、とくに妊娠中や、お酒を飲みすぎたときの低血糖に注意が必要とされています(小児慢性特定疾病情報センター)。病名が確定していることは、小児慢性特定疾病の申請の手がかりにもなります(第5章)。
ご家族:症状のないきょうだい・ご両親
ご家族の原因がわかれば、症状のないきょうだいが同じ病気かどうかを、その変化にしぼって調べられます。発作が起きる前に病名がわかっていれば、発熱や胃腸炎のときに早めに対応できます。ご両親が保因者かどうかも確かめられ、きょうだいが将来、結婚や妊娠を考えるときに、保因者かどうかを知る手がかりにもなります。
次のお子さん:出生前診断・保因者検査・PGT-M
ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、次の妊娠で赤ちゃんに同じ変化があるかを調べられます[1]。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。出生前診断をどう進めるかは病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断しますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。出生前診断を受けずに出産することも、もちろん選べる選択肢です。
FBP1とPCは、当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子・男性版714遺伝子)の対象に入っています。PCK1とPCK2は入っていません。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査ファミリーセーフティ プラスもあります(単独では受けられません)。パートナーが保因者かどうかを知れば、お子さんの確率をより具体的に考えられます。
日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-M(着床前遺伝学的検査)が行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-Mを考えている方へで解説しています。
9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。血液のほか、唾液・頬の内側の粘膜でも調べられ、オンライン診療にも対応しています。この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取唾液・頬の粘膜・血液
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
オンライン診療(ビデオ通話)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただく流れです。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいた後にお送りします。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える品質を保つため、ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【「体質でしょう」で終わらせないために】
子どもの低血糖の多くは、空腹に弱い体質によるもので、成長とともに落ち着いていきます。だからこそ、くり返す低血糖が「体質でしょう」のひと言で片づけられ、隠れた代謝の病気が見過ごされることがあります。糖新生異常症は、病名がわかれば、空腹の時間を短くする、熱が出たら早めに点滴を受ける、避けたい点滴を医療者に伝える、といった具体的な備えにつながる病気です。わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。たとえば、きょうだいのお子さんの病気をきっかけに念のため検査を受けた方に、まったく別の遺伝子の病的な変化が、体の一部の細胞だけにある状態(モザイク)で見つかったことがあります。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です(遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由)。お子さんの病気がわかったとき、自分を責めてしまう親御さんを何度も見てきました。潜性遺伝の病気では、ご両親が保因者であることは、お子さんが発症してはじめてわかるのがふつうです。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。原因を知ったうえで次のお子さんを考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 糖新生とは?簡単に教えてください
糖新生とは、食事から糖が入ってこないときに、乳酸・アミノ酸・グリセロールなど糖ではない材料から、体の中でブドウ糖を作るしくみです。主に肝臓で行われ、腎臓でも行われます。空腹が長くなったときに血糖を保つ役割があり、この働きが生まれつき弱い病気を糖新生異常症といいます。
Q2. ケトン性低血糖と糖新生異常症はどう違いますか?
子どものケトン性低血糖の多くは、空腹に耐えられる時間が短めな体質によるもので、学童期までに治まることが多いとされてきました。一方、糖新生異常症は酵素の生まれつきの病気です。FBPase欠損症も発作のときにはケトン体が増えるため、ケトン性低血糖とよく似て見えます。くり返す、乳酸も高い、きょうだいにも同じことがある、といった場合は、遺伝子検査で原因を確かめる意味があります。
Q3. 糖原病との違いは何ですか?
糖原病は、肝臓などにためたグリコーゲンをうまく分解できない病気で、糖原病Ia型では食事の間隔が2〜3時間にのびると低血糖が目立つとされます。糖新生異常症は、グリコーゲンを使い切ったあとにブドウ糖を作る段階の病気です。どちらも低血糖と乳酸の上昇がみられることがあるため、検査結果に合わせて検査を選びます。FBP1は糖原病パネルにも含まれています。
Q4. 低血糖症は遺伝しますか?次の子の確率は?
糖新生異常症は常染色体潜性(劣性)遺伝です。ご両親がともに保因者の場合、お子さん1人ごとに、発症する確率が4分の1、保因者になる確率が2分の1、どちらでもない確率が4分の1です。ただし、子どもの低血糖の多くは遺伝の病気ではありません。原因がわかってはじめて、次のお子さんの確率を具体的にお伝えできます。
Q5. いとこ同士の結婚だと、この病気が起こりやすくなりますか?
血縁のあるご夫婦は、共通の祖先から同じ変化を受け継いでいる可能性があるため、同じ潜性の病気の保因者どうしになることがあります。米国の遺伝カウンセラーの学会(NSGC)の推奨は、こうしたご夫婦にも、詳しい家族歴の聞き取りと遺伝カウンセリングを行うことを勧めています。結婚の良し悪しではなく、必要なら保因者検査で知ってから選ぶことができます。FBP1とPCは当院の拡大版保因者スクリーニングの対象です。
Q6. 新生児マススクリーニングで異常がなくても、この病気のことはありますか?
あります。FBPase欠損症・PC欠損症・PEPCK欠損症は、新生児マススクリーニングの対象疾患に入っていません(2026年10月時点で確認)。マススクリーニングで異常がなかったことは、この病気ではない理由になりません。
Q7. 大人になってから症状が出ることはありますか?
FBPase欠損症では、発作の回数は年齢とともに減るとされていますが、大人になってからも発作が起こることがあり、とくに妊娠中や、お酒を飲みすぎたときの低血糖に注意が必要とされています(小児慢性特定疾病情報センター)。大人になっても、長い絶食を避けることが大切です。
Q8. 新生児低血糖があった子は、この検査を受けたほうがいいですか?
新生児低血糖はほとんどが一時的なもので、多くは遺伝子の病気ではありません。低血糖が長引く、くり返す、乳酸アシドーシスを伴う、きょうだいにも同じことがある、といった場合に、糖新生異常症などの生まれつきの代謝の病気を考えます。主治医の検査結果をもとに、遺伝カウンセリングで検査が必要かを一緒に考えます。
🧬 人生に一度の遺伝子検査を、お子さんとご家族のこれからに
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。糖新生異常症の原因がわかれば、空腹にしない工夫や具合が悪いときの備えが決まり、症状のないきょうだいの検査や、次のお子さんの計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
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