この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

TCA回路(クエン酸回路)異常症の遺伝子検査は、細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアの中で働く酵素と、その入口の酵素にかかわる15の遺伝子を、1回でまとめて調べる検査です。乳酸値が高い、発達がゆっくり、けいれんがある、といった症状は、原因になる病気がたくさんあるため、診断までに時間がかかりがちです。欧州の希少疾患の患者さん6,507人の調査では、診断がつくまでに平均4.7年かかっていました[15]。原因の遺伝子がわかると、食事療法やビタミンの選び方の手がかりになり、ご家族や次のお子さんのことも具体的に考えられるようになります。このページでは、TCA回路のしくみから、調べる遺伝子、遺伝する確率、わかったあとにできることまでを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
TCA回路(クエン酸回路)とその入口の酵素にかかわる15遺伝子に、病気の原因となる変化があるかを調べます。ピルビン酸脱水素酵素複合体(PDHC)欠損症、ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症、フマラーゼ欠損症などの原因がわかります。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
乳酸値が高い・発達の遅れ・けいれんなどがあり原因を知りたいお子さんとご家族、次のお子さんで同じ病気が起こる確率を知りたいご両親、ご家族にTCA回路の病気の方がいる方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、唾液・粘膜ならオンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。多くは常染色体潜性(劣性)遺伝で、ご両親とも保因者ならお子さん1人ごとに4分の1です。ご家族の検査や、意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. TCA回路(クエン酸回路)とは?図でわかる、細胞のエネルギー工場
TCA回路(クエン酸回路)とは、細胞の中のミトコンドリアで、糖・脂肪・アミノ酸から取り出した材料を少しずつ分解し、エネルギーを取り出す中心の回路です。体を動かすエネルギー(ATP)を作るための「工場の中心ライン」にあたります。
TCA回路・クエン酸回路・クレブス回路は同じもの
TCA回路、クエン酸回路、クレブス回路は、どれも同じ回路の呼び名です。TCAは「トリカルボン酸(tricarboxylic acid)」の略で、回路の最初にできるクエン酸がこの仲間であることに由来します。「クエン酸回路」は最初にできる物質の名前から、「クレブス回路」はこの回路を明らかにした研究者の名前から付けられました。ミトコンドリアの中でも、内側の空間(マトリックス)で働く回路です。
図:TCA回路の8つの反応と、この検査で調べる遺伝子
TCA回路では、アセチルCoAとオキサロ酢酸がくっついてクエン酸になり、8つの反応を経て、またオキサロ酢酸に戻ります。1つ1つの反応を担当する酵素(体の中の化学反応を進めるたんぱく質)は、それぞれ別の遺伝子が設計図になっています。下の表で、色の付いた行が、この検査で調べる遺伝子です。
🔄 TCA回路の流れと、この検査で調べる遺伝子
※色の付いた行が、この検査で調べる遺伝子が関わる段階です。「調べない」段階の酵素の病気は、この検査ではわかりません(第4章)。
解糖系・電子伝達系とのつながり:エネルギー(ATP)はどこで作られる?
食べ物の糖は、まず細胞の中(細胞質)の解糖系でピルビン酸になり、ミトコンドリアに入ってアセチルCoAになってから、TCA回路に入ります。TCA回路は、分解のときに取り出したエネルギーを、NADHやFADH2という「エネルギーの運び役」に渡します。運び役は、すぐそばの電子伝達系にエネルギーを届け、体のエネルギー(ATP)の多くは、そこで作られます。つまりTCA回路は、解糖系と電子伝達系をつなぐ、エネルギー作りの中心です。
この回路の酵素や入口の酵素が、生まれつきの遺伝子の変化でうまく働かないと、エネルギーが足りなくなり、とくにエネルギーをたくさん使う脳や筋肉に症状が出ます。これがTCA回路異常症で、このページの検査は、その原因になる15の遺伝子を調べます。
2. TCA回路異常症とは:症状と、見つかるきっかけ
TCA回路異常症は、TCA回路やその入口の酵素が生まれつき働きにくいために起こる病気の総称で、ミトコンドリアの働きの病気(ミトコンドリア病)のなかまです。脳・筋肉・心臓など、エネルギーをたくさん使う臓器に症状が出やすいのが特徴です。
主な症状と、見つかるきっかけ
多くは赤ちゃんや小さいお子さんのうちに、次のような症状がきっかけで見つかります。どの症状も、ほかの多くの病気でも起こるため、症状だけで原因を決めることはできません。
- ●血液や髄液の乳酸値が高い(血液では乳酸アシドーシスを伴うことがあります)
- ●発達の遅れ、筋肉の張りが弱い(筋緊張低下)、けいれん
- ●頭部MRIでの脳の形の変化や、脳の深い部分の変化
- ●見え方・聞こえ方の問題(遺伝子によっては、目や耳の症状が中心になります)
乳酸値が高いことの意味や、乳酸とピルビン酸の比から原因を考える方法は、乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症の遺伝子検査のページで詳しく解説しています。脳の深い部分(大脳基底核や脳幹)に左右対称の変化が出るリー脳症(リー症候群)は、原因になる遺伝子が75を超えると報告されている病気です[12]。リー脳症が疑われ、原因をしぼれない場合は、核遺伝子ミトコンドリア病の遺伝子検査で広く調べる方法もあります。
この検査でわかる主な病気
この検査で調べる病気の中で中心になるのは、ピルビン酸脱水素酵素複合体(PDHC)欠損症、ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症、フマラーゼ欠損症、そしてスクシニルCoA合成酵素の病気(ミトコンドリアDNA枯渇症候群)です。
ピルビン酸脱水素酵素複合体(PDHC)欠損症:TCA回路の入口の酵素の病気です。遺伝性疾患の解説書GeneReviewsによると、原因の76〜85%はPDHA1遺伝子で、残りはPDHX・PDHB・DLD・DLAT・PDP1などです[1]。このうちDLDは、この検査には含まれません。
ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症:回路に材料(オキサロ酢酸)を足す酵素の病気です。生まれてすぐ重い乳酸アシドーシスを起こす型、乳児期に発達の遅れで見つかる型、症状が比較的軽く発作的に出る型の3つがあり、報告されている患者さんは約75人、生まれる頻度はおよそ25万人に1人と見積もられています[2]。
フマラーゼ欠損症:FH遺伝子の両方に変化がある病気で、主に脳に症状が出ます。米国国立医学図書館のMedlinePlusでは、世界で約100人が報告されているとされています(2026年10月時点で確認)。FH遺伝子は、片方に腫瘍素因に関連する病的変異があると大人の腫瘍(第6章)とも関係する、特別な遺伝子です[3]。
スクシニルCoA合成酵素の病気(SUCLA2・SUCLG1):ミトコンドリアのDNAの量が減るミトコンドリアDNA枯渇症候群として起こります。SUCLA2の病気では、乳児期から発達の遅れや筋緊張低下が出て、約90%に感音難聴がみられ、尿のメチルマロン酸が軽く増えることが多いとされています[4]。
新生児マススクリーニングとの関係
TCA回路異常症は、生まれてすぐの公的な新生児マススクリーニングでは、ふつう見つかりません。たとえば埼玉県が案内している先天性代謝異常等検査の対象22疾患(2026年7月掲載)には、この検査で調べる病気は含まれていません(対象は自治体で異なることがあります)。マススクリーニングで異常がなかったことは、TCA回路異常症ではないことを意味しません。新生児スクリーニングのしくみについては用語解説をご覧ください。なお、当院の新生児遺伝子スクリーニング検査パネル(255遺伝子)にも、この検査の15遺伝子は含まれていません。
3. どんな人がこの検査を受けるとよいか
乳酸値が高い・発達の遅れ・けいれんなどから、TCA回路やその入口の酵素の病気が疑われているお子さんとご家族に向く検査です。病名がほぼしぼれているなら、この検査のように的をしぼった検査が向き、しぼれていないなら、より広い検査が向きます。
この検査が向いている方
- ●乳酸値が高く、ピルビン酸の代謝やTCA回路の病気が疑われると言われたお子さん
- ●尿の有機酸の検査でフマル酸が多いなど、特定の酵素の病気が疑われているお子さん
- ●お子さんが亡くなったあとなどで原因がわからないまま、次の妊娠で同じことが起こる確率を知りたいご両親(ご本人の検体や、ご両親の検査の進め方をご相談ください)
- ●ご家族にTCA回路の病気の方がいて、ご自身が保因者かどうかを知りたい方
原因がわかると、病名・見通し・合併症への備え・使える制度が決まります。そして、次のお子さんで同じ病気が起こる確率がどれくらいあるか、次の妊娠でどう備えられるかを、具体的に考えられるようになります。原因がわからないままでは、出生前に何を調べればよいかも決められません。日本の未診断疾患イニシアチブ(IRUD)では、遺伝学的な解析を終えた5,136家系のうち43.8%で診断が確定しました[14]。裏を返せば、全員に原因が見つかるわけではありません。それでも、調べてはじめて次の一歩が見えてくる方は少なくありません。
この検査より別の検査が向いている場合
症状やこれまでの検査の結果によっては、ほかの検査のほうが向いていることがあります。比べる相手は検査の種類です。どれにするか迷う場合は、遺伝カウンセリングで一緒に決めます。
🔍 症状に合わせた検査の選び方
※遺伝子数と共通する遺伝子は、2026年10月時点の各検査ページによる。
4. 調べる15の遺伝子と、わかる病気
この検査では、ACO2・DLAT・FH・IDH1・IDH2・IDH3B・MDH1・PC・PCK2・PDHA1・PDHB・PDHX・PDP1・SUCLA2・SUCLG1の15遺伝子を調べます。遺伝子ごとに、関係する病気と遺伝のしかたが違います。
🧬 TCA回路異常症の遺伝子検査で調べる15遺伝子
※遺伝子と遺伝のしかたは、PDHC関連が文献[1]、PCが[2]、FHが[3]、SUCLA2・SUCLG1が[4]、ACO2が[6]、IDH3Bが[7]、MDH1が[8]、IDH2が[9]、PCK2が[10]、IDH1が[11][16]による。ACO2の顕性遺伝の視神経萎縮は、英国Genomics Englandの遺伝子パネル評価(PanelApp)の記載による。
元の検査の説明ではIDH3BもTCA回路の脳の病気のように書かれていましたが、報告されている病気は網膜色素変性症です。2008年の研究で、網膜色素変性症の2家系の患者さんが、IDH3Bの両方に働きを失う変化を持っていました[7]。このように、同じTCA回路の遺伝子でも、症状が脳に出るか、目に出るかは遺伝子によって違います。
この検査では調べない遺伝子
TCA回路の酵素のうち、コハク酸脱水素酵素(SDH)、オキソグルタル酸脱水素酵素複合体、回路の中のリンゴ酸脱水素酵素(MDH2)の遺伝子は、この検査では調べません。ここは以前の説明から訂正したところです。
- ●コハク酸脱水素酵素:SDHA・SDHB・SDHC・SDHD・SDHAF2は含まれません。これらは遺伝性がんの検査や核遺伝子ミトコンドリア病の検査(SDHA・SDHB)で調べられます(第6章)。
- ●オキソグルタル酸脱水素酵素複合体:OGDH・DLST・DLDは含まれません。DLDは乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症の検査と核遺伝子ミトコンドリア病の検査に含まれます。
- ●リンゴ酸脱水素酵素2:MDH2は含まれません。包括的代謝疾患の検査に含まれます。
5. TCA回路異常症は遺伝する?遺伝する確率
この検査で調べる病気の多くは常染色体潜性(劣性)遺伝で、ご両親がともに同じ遺伝子の保因者なら、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症します。ただしPDHA1はX連鎖、FHは片方の変化で別の病気になるなど、遺伝子によって違いがあります。遺伝のしかたの全体像は遺伝形式の解説をご覧ください。
常染色体潜性(劣性)遺伝:お子さん1人ごとに4分の1
常染色体潜性遺伝の病気は、対になった遺伝子の両方に変化があるときに発症します。片方だけに変化がある人は保因者と呼ばれ、ふつう症状はありません。ご両親がともに保因者の場合、お子さん1人ごとに、発症する確率が4分の1、保因者になる確率が2分の1、どちらでもない確率が4分の1です[1]。この確率は、上のお子さんの結果によって変わることはありません。
X連鎖(PDHA1):女の子も発症し、新しく起きた変化が多い
PDHA1はX染色体にある遺伝子です。GeneReviewsによると、PDHA1によるPDHC欠損症は男の子と女の子で同じくらいの頻度で発症がみられ、新しく起きた変化(de novo)によるものが、男の子で約60〜63%、女の子で約85〜95%とされています[1]。お母さんが変化を持っている場合、お子さん1人ごとに2分の1の確率で受け継がれます。お父さんから受け継いだ例は報告されていません[1]。新しく起きた変化と考えられる場合も、次のお子さんの確率がゼロとは言い切れないため、遺伝カウンセリングで個別にお伝えします。
片方の変化で起こる病気:FH遺伝子
FH遺伝子の両方に病的変異があるとフマラーゼ欠損症の原因になります。一方、片方に腫瘍素因に関連する病的変異があると、平滑筋腫や腎細胞がんができやすいFH腫瘍素因症候群の原因になります。ただし、フマラーゼ欠損症の原因となる変異すべてが、片方だけで腫瘍リスクを高めるわけではありません。片方の変化で起こる病気は常染色体顕性(優性)遺伝で、お子さん1人ごとに2分の1の確率で受け継がれます[3]。くわしくは次の章で説明します。
いとこ同士など、血のつながりのある結婚と潜性遺伝の病気
血のつながりのあるご夫婦は、同じ祖先から同じ遺伝子の変化を受け継いでいる可能性があるため、常染色体潜性遺伝の病気が起こる確率が上がります。米国遺伝カウンセラー学会の推奨(2002年)では、いとこ同士のご夫婦のお子さんで先天的な病気などが起こる確率は、一般の確率に1.7〜2.8%上乗せになると見積もられています[13]。確率が少し上がるという意味で、多くのお子さんは健康に生まれます。気になる方は、ご夫婦で保因者検査を受けて確かめることもできます。
6. FH遺伝子と大人のがん(HLRCC):子宮筋腫は遺伝する?
FH遺伝子の片方に、生まれつき腫瘍素因に関連する病的変異がある方は、皮膚や子宮の平滑筋腫(筋肉の良性の腫瘍)ができやすく、腎細胞がんのリスクもあります。この病気は以前、遺伝性平滑筋腫症腎細胞がん(HLRCC)と呼ばれ、GeneReviewsでは今、FH腫瘍素因症候群と呼ばれています[3]。あなたの1回の検査結果が、ご家族の健康を守る手がかりになる、という点で大切な遺伝子です。
HLRCC(FH腫瘍素因症候群)とは
GeneReviewsによると、FH腫瘍素因症候群の方では、皮膚の平滑筋腫が約50〜80%に、女性の子宮筋腫が約40〜90%にみられ、子宮筋腫が見つかる年齢は平均で約30歳です。腎細胞がんは約10〜15%にみられ、早く転移しやすいとされています[3]。腎臓の見張りとしては、子どものうちから毎年の造影MRIが勧められています(GeneReviewsの中で開始年齢は8歳と10歳の両方の記載があります)[3]。
💡 子宮筋腫があるだけでは、FH遺伝子の変化とはいえません
GeneReviewsは、数が多く大きい子宮筋腫、皮膚の平滑筋腫、特徴的な組織の腎細胞がん、親子・きょうだいなど何世代かに同じような方がいる家族歴などを、FH腫瘍素因症候群を疑うきっかけとしています[3]。家族歴がなくても否定はできません。気になる方は、遺伝カウンセリングでご相談ください。
フマラーゼ欠損症のお子さんのご両親も、見張りの対象になりうる
フマラーゼ欠損症のお子さんのご両親は、通常、それぞれFH遺伝子の片方に病的変異を持っています。ただし、片方に変異を持つ方の腫瘍リスクは、変異の種類によって異なります。GeneReviewsでは、両方にあるとフマラーゼ欠損症の原因になる一方、片方だけでは腫瘍素因の症状を示さない変異も記載されています[3]。ご両親の見張りの必要性は、変異の種類やご本人・ご家族の病歴を踏まえて個別に判断します。お子さんの検査で原因がFHとわかったときは、ご両親ご自身の健康管理(腎臓の見張りなど)を考えるきっかけにもなります。ご両親の検査は、遺伝カウンセリングのうえでお受けしています。
HLRCCを調べたい方は、どちらの検査を選ぶか
この検査にもFHは含まれていますが、大人の方が平滑筋腫や腎細胞がんの家族歴をきっかけに調べたい場合は、FHのほかにも腎臓や内分泌の腫瘍に関わる遺伝子をまとめて調べる遺伝性がんの遺伝子検査(154遺伝子)が向いています。お子さんの代謝の病気をきっかけに調べる場合は、この検査が向いています。がんの治療や経過の相談については、がん診療専門外来のページもご覧ください。
SDH遺伝子と褐色細胞腫・パラガングリオーマ(この検査では調べません)
コハク酸脱水素酵素(SDH)の遺伝子は、片方の変化で遺伝性の褐色細胞腫・パラガングリオーマを起こすことが知られています。GeneReviewsでは、遺伝性の例の原因としてSDHBが50〜55%、SDHDが約20〜25%、SDHCが約8%、SDHAが約4%、SDHAF2が約1%とされ、遺伝のしかたは常染色体顕性で、SDHDとSDHAF2はほぼお父さんから受け継いだときだけ発症するとされています[5]。これらの遺伝子は、この検査には含まれていません。遺伝性がんの遺伝子検査で調べられます。
IDH1・IDH2:がん細胞で起きる変化との違い
IDH1とIDH2の変化は、脳の神経膠腫(グリオーマ)などのがん細胞で、後から起きる変化として広く知られています[11]。MedlinePlusでは、急性骨髄性白血病などでもこうした変化がみられるとされています。この検査が調べるのは、がん細胞の変化ではなく、主に生まれ持った遺伝子(生殖細胞系列)の変化です。がんの組織を調べる検査ではありません。なお、IDH1では、体の一部の細胞にだけ変化がある状態(体細胞モザイク)で、D-2-ヒドロキシグルタル酸尿症を伴う骨幹端軟骨腫症が起こることが報告されています[16]。この検査はモザイクを見つけることを目的としていないため、この病気では血液などの検体で変化が見つからないことがあります。
7. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、15遺伝子の文字(塩基)の小さな変化と、遺伝子の一部が欠けたり重なったりする変化(欠失・重複)です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
- ●調べる場所:たんぱく質の設計図になる部分(エクソン)と、その境目を、次世代シーケンサーで読みます。検査の対象になる部分の99%以上を、20回以上くり返し読める精度で調べます。読み取りの質が低い変化は、別の方法(サンガー法)でもう一度確かめます。
- ●欠失・重複:遺伝子まるごと(血液・頬の粘膜の検体)や、2つ以上続くエクソン(血液の検体のみ)の欠失・重複がわかります。1つのエクソンだけの欠失・重複は、見つからないことがあります。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
- ●わからない変化:染色体の一部の入れかわり(転座・逆位)、同じ配列のくり返しが長くなる変化、遺伝子の働きを調節する部分や、エクソンから20塩基より離れた部分の変化は調べられません。体の一部の細胞にだけある変化(モザイク)や、がん細胞の変化を調べる検査でもありません。
- ●ミトコンドリアDNA:この検査は核の遺伝子だけを調べます。ミトコンドリアDNAの変化による病気はわかりません(ミトコンドリア病の遺伝子検査をご覧ください)。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、まだ判断できない変化が見つかることがあります。
- ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、TCA回路異常症やミトコンドリア病でないとはいえません。
調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。
8. 病的変異が見つかったら、次にできること
病気の原因となる変化(病的変異)が見つかると、病名が決まり、治療の選び方・合併症への備え・ご家族の検査・次の妊娠の計画まで、具体的に考えられるようになります。結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。
ご本人:病名が決まり、治療の手がかりになる
治療は、主治医や専門の医療機関で行います(当院は治療を行っていません)。遺伝子の結果は、その選び方の手がかりになります。
- ●PDHC欠損症:GeneReviewsでは、ケトン食が標準的な治療とされ、発症が新生児期より後で症状が比較的軽い方で、より効果が期待できるとされています。ビタミンB1(チアミン)が効くのは一部の方で、PDHA1の特定の部分の変化をもつ方に多いとされています。ジクロロ酢酸は研究段階で、米国で承認された治療薬はないとされています[1]。
- ●ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症:ケトン食は、代謝性アシドーシスとケトーシスを悪くするため禁忌とされ、長い絶食も避けるよう勧められています。クエン酸やアスパラギン酸を補う方法、肝移植の報告があります(肝移植で乳酸アシドーシスはよくなるものの、神経の症状は戻らないとされています)[2]。
- ●SUCLA2の病気:根本的な治療はなく、発達の支援、てんかんの治療、補聴器や人工内耳、栄養の支援など、症状に合わせたケアが中心とされています[4]。聞こえの検査を早めに受けることは、言葉の発達を支えることにつながります。
- ●FHの片方の変化(大人):腎臓の定期的な造影MRIなど、腫瘍を早く見つけるための見張りが勧められています[3]。
体調をくずしたときや、手術・麻酔を受けるときに気をつけることは、病気によって違います。結果がわかったら、主治医にも伝えておくことが大切です。病名が確定していることは、日本の医療費助成の制度を使うときの手がかりにもなります(第9章)。
ご家族:きょうだい・ご両親の検査
ご家族の中で原因の変化がわかると、ほかのご家族は同じ変化だけをピンポイントで調べて、受け継いでいるかを確かめられます。症状のないきょうだいの方が同じ変化を持っているとわかれば、早めに主治医に相談して見張りを始められます。常染色体潜性の病気では、ご両親がそれぞれ保因者かを確かめることで、次のお子さんの確率がはっきりします。PDHA1ではお母さんの検査が、FHでは変異の種類に応じたご両親ご自身の腫瘍の見張りの検討が、大切になります。症状のない方の検査は、ご本人の同意のうえで行います。
次のお子さん:知ってから選べること
ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。その病気で出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断しますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。
ご家族の検査の前に、パートナーの方が同じ遺伝子の保因者かどうかを調べることもできます。当院の拡大版保因者スクリーニングでは、この検査の15遺伝子のうち、女性版(787遺伝子)にDLAT・FH・IDH3B・PC・PDHA1・PDHB・PDHX・PDP1・SUCLA2の9遺伝子が、男性版(714遺伝子)にPDHA1を除く8遺伝子が含まれます(2026年10月時点)。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」もあります(単独では受けられません)。
日本でも、日本産科婦人科学会の指針(2026年9月改定)にもとづく審査を経て、着床前遺伝学的検査(PGT-M)が行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは、海外でPGT-Mを考えている方へで解説しています。もちろん、特別な検査をせずに妊娠・出産をすることも、そのまま選べる選択肢です。どの選択も尊重します。
当院でのその後
結果をお伝えしたあとも、遺伝カウンセリングで、ご家族の検査の進め方や次の妊娠の計画を、臨床遺伝専門医と一緒に考えていただけます(遺伝カウンセリング料は30分22,000円・税込)。結果の報告書の見方は、遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
陰性・VUSだったとき
原因が見つからなかった場合も、それで終わりではありません。症状に合わせて、より広い核遺伝子ミトコンドリア病の遺伝子検査や、ミトコンドリアDNAの検査、全エクソーム検査を考えます。VUSは、それだけで診断や、ご家族の発症リスクを判断する根拠にはしません。ただし、その変化の意味を調べるために、ご本人の同意のもとで、ご家族の検査を検討することがあります。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。扱い方はVUS(意義不明変異)の臨床的取り扱いで解説しています。
9. 日本の制度(2026年10月時点)
ミトコンドリア病は指定難病21に指定されていて、その診断基準では、参考となる検査所見として「ピルビン酸代謝関連及びTCAサイクル関連酵素」の活性低下が挙げられ、核の遺伝子の例としてPDHA1が示されています。(難病情報センター、2026年10月時点で確認)。指定難病の対象になるかは、診断基準と重症度の基準で個別に判断されます。
小児慢性特定疾病情報センターには、先天性代謝異常の分類で、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠損症とピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症が掲載されています(2026年10月時点で確認)。医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。くわしくは、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
10. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円で、結果までは2〜3週間です。唾液や頬の内側の粘膜の検体なら、オンライン診療でも受けられます。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取お支払い後にキット送付
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
オンライン診療では、ビデオ通話で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただきます。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える品質を保つため、ご自身の判断で先に検体を採取しないでください。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
11. 院長コラム
🩺 院長コラム【検査をしないと、何も言えない】
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。たとえば、きょうだいのお子さんの病気をきっかけに念のため検査を受けた方に、まったく別の遺伝子の病的な変化が、体の一部の細胞だけにある状態(モザイク)で見つかったことがあります。ご本人は発症していませんでしたが、卵子や精子のもとになる細胞にもその変化があれば、お子さんが発症することがある病気でした。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
TCA回路の病気も、乳酸値や症状だけでは、どの酵素の病気かを決めきれません。同じように乳酸が高くても、ケトン食が治療の中心になる病気と、ケトン食を避けるべき病気があります。FH遺伝子のように、お子さんの代謝の病気の原因が、ご両親ご自身の健康管理につながることもあります。原因の遺伝子がわかってはじめて、次に何をすればよいかが具体的に見えてきます。
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。次の妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. TCA回路とクエン酸回路は同じですか?
はい、同じものです。TCA回路(トリカルボン酸回路)、クエン酸回路、クレブス回路は、どれもミトコンドリアの中で働く同じ代謝の回路を指す呼び名です。最初にできる物質がクエン酸であることから「クエン酸回路」、この回路を明らかにした研究者の名前から「クレブス回路」とも呼ばれます。
Q2. TCA回路は何のためにあるのですか?ATPとの関係は?
糖・脂肪・アミノ酸からできたアセチルCoAを分解し、そのとき取り出したエネルギーをNADHやFADH2という形で電子伝達系に渡すのが主な役割です。体のエネルギー(ATP)の多くは、そのあと電子伝達系で作られます。TCA回路は、細胞のエネルギー作りの中心にあたる回路です。
Q3. TCA回路異常症はミトコンドリア病ですか?
TCA回路やその入口の酵素はミトコンドリアの中で働くため、TCA回路異常症はミトコンドリア病のなかまとして扱われます。日本の指定難病21「ミトコンドリア病」の診断基準でも、ピルビン酸代謝やTCAサイクルにかかわる酵素の活性低下が、参考となる検査所見に挙げられています(2026年10月時点)。対象になるかは、診断基準と重症度で個別に判断されます。
Q4. TCA回路異常症は遺伝しますか?遺伝する確率は?
この検査で調べる病気の多くは常染色体潜性(劣性)遺伝で、ご両親がともに同じ遺伝子の保因者の場合、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症します。PDHA1遺伝子の病気はX連鎖で、お母さんが変化を持っていれば、お子さん1人ごとに2分の1の確率で受け継がれます。PDHA1の病気は新しく起きた変化によることも多いため、確率はご家族ごとに遺伝カウンセリングでお伝えします。
Q5. 子宮筋腫は遺伝しますか?FH遺伝子との関係は?
子宮筋腫があるだけで、FH遺伝子の変化があるとはいえません。ただし、FH遺伝子の片方に生まれつき腫瘍素因に関連する病的変異があるFH腫瘍素因症候群(遺伝性平滑筋腫症腎細胞がん:HLRCC)では、数が多く大きい子宮筋腫や皮膚の平滑筋腫ができやすく、腎細胞がんのリスクもあります。皮膚にも平滑筋腫がある、ご家族に同じような方や腎細胞がんの方がいる、といった場合は、遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q6. 乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症の検査とどちらを選べばよいですか?
乳酸値が高いことがきっかけで原因をしぼれていない場合は、70遺伝子を調べる乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症の検査が向いています。TCA回路の酵素の病気(フマラーゼ欠損症など)や、目の病気につながるACO2・IDH3Bまで含めて調べたい場合は、この15遺伝子の検査が向いています。2つの検査で共通する遺伝子は9つです。ミトコンドリア病を広く調べたい場合は、677遺伝子の核遺伝子ミトコンドリア病の検査もあります。
Q7. いとこ同士の結婚だと、こうした病気は起こりやすくなりますか?
血のつながりのあるご夫婦では、同じ遺伝子の保因者どうしになる可能性が少し高くなるため、常染色体潜性(劣性)遺伝の病気が起こる確率が上がります。米国遺伝カウンセラー学会の推奨(2002年)では、いとこ同士のご夫婦のお子さんで先天的な病気などが起こる確率は、一般の確率に1.7〜2.8%上乗せになると見積もられています。多くのお子さんは健康に生まれます。気になる方は、保因者検査で確かめられます。
Q8. 検査で異常が見つからなかったら、どうなりますか?
この検査で原因が見つからなくても、TCA回路異常症やミトコンドリア病を否定することはできません。この検査では調べない遺伝子や、見つけにくい種類の変化があるためです。症状に合わせて、核遺伝子ミトコンドリア病の検査、ミトコンドリアDNAの検査、全エクソーム検査などを考えます。
🧬 一度の検査で、お子さんとご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。TCA回路異常症の原因がわかれば、治療の選び方や合併症への備えだけでなく、ご家族の検査や、次の妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
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