この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

ミトコンドリアDNA枯渇症候群の遺伝子検査は、ミトコンドリアDNAを保つはたらきをもつ核の16遺伝子(POLG・TK2・DGUOK・MPV17・TYMPなど)を一度に調べ、病型と遺伝する確率を明らかにする検査です。乳酸値が高い、発達が後戻りする、肝臓や筋肉の症状が重なる——いくつもの臓器に症状が出る病気なので、原因がわかるまで長い時間がかかることがあります。日本の未診断疾患イニシアチブ(IRUD)では、全エクソーム解析を終えた家系の43.8%で診断が確定しました[10]。全員に診断がつくわけではありませんが、原因の遺伝子がわかると、避けたい薬(POLGならバルプロ酸)、使える治療(TK2欠損症の治療薬)、ご家族と次のお子さんへの確率がはっきりします。このページでは、病型・遺伝のしかた・検査でわかることと、わかったあとにできることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. ミトコンドリアDNA枯渇症候群の遺伝子検査で何がわかりますか?
ミトコンドリアDNAが減る原因となる核の16遺伝子(AGK・DGUOK・FBXL4・MGME1・MPV17・OPA1・POLG・POLG2・RRM2B・SLC25A4・SUCLA2・SUCLG1・TFAM・TK2・TWNK・TYMP)を一度に調べます。原因がわかると、筋型・脳筋型・肝脳型・神経消化管型のどれにあたるかの手がかりになり、避けたい薬や使える治療が決まります。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
乳酸値が高い、発達が後戻りした、治りにくいてんかん、乳児期の肝不全、筋力低下やまぶたが下がる、消化管の動きが悪くやせてきた、などの症状がある方。筋肉や肝臓の検査で「ミトコンドリアDNAが減っている」と言われた方や、きょうだいが同じ病気と診断された方にも向きます。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の粘膜のいずれかで、唾液・頬の粘膜ならオンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。多くは潜性(劣性)遺伝で、ご両親がともに保因者なら、きょうだいが発症する確率は4分の1です。ご家族の検査や、意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. ミトコンドリアDNA枯渇症候群とは|核の遺伝子の変化でミトコンドリアDNAが減る病気
ミトコンドリアDNA枯渇症候群は、ミトコンドリアDNAを複製・維持するしくみに関わる核の遺伝子が変化し、細胞の中のミトコンドリアDNAが減ってしまう(枯渇する)病気の総称です。エネルギーを多く使う脳・筋肉・肝臓などに症状が出やすく、原因の遺伝子によって、症状が出る臓器も、始まる年齢も、重さも大きく違います[1]。英語では mitochondrial DNA depletion syndrome といい、MTDPS、またはミトコンドリア枯渇症候群とも呼ばれます。ミトコンドリア病の一つのグループです。
ミトコンドリアDNAが減るしくみ
ミトコンドリアは、細胞の中でエネルギーをつくる小さな器官です。ミトコンドリアは、核の染色体とは別に、自分専用の小さなDNA(ミトコンドリアDNA(ミトコンドリアゲノム))を持っています。けれども、そのDNAを複製する酵素や、材料になるヌクレオチドを用意するしくみの設計図の多くは、核の遺伝子のほうにあります。
遺伝性疾患の解説書GeneReviewsは、こうした核の遺伝子の変化によってミトコンドリアDNAの合成がうまくいかなくなり、DNAの量が減る(枯渇)か、一部が欠けたDNAがたくさんできる(多重欠失)ことで、エネルギー不足から臓器の働きが落ちる、と説明しています。この病気のグループはまとめて「ミトコンドリアDNA維持の病気(mtDNA maintenance defects)」とも呼ばれます[1]。
核の遺伝子の変化POLG・TK2など
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ミトコンドリアDNAを保つしくみが弱まる複製・材料づくり
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ミトコンドリアDNAが減る・欠ける枯渇・多重欠失
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エネルギー不足脳・筋肉・肝臓など
💡 用語解説:枯渇と多重欠失
「枯渇」は、ミトコンドリアDNAの数そのものが減ってしまう状態です。「多重欠失」は、数は保たれていても、一部が欠けたミトコンドリアDNAがたくさんできてしまう状態です。同じ遺伝子でも、乳幼児期に始まる重い型では枯渇が、大人になってから始まる型では多重欠失がみられることがあります[1]。
4つの型(病型)と主な症状
ミトコンドリアDNA枯渇症候群は、主に症状が出る臓器によって、肝脳型・脳筋型・神経消化管型・筋型の4つに分けて考えられます[1]。原因の遺伝子がわかると、どの型にあたるか、何に気をつけて過ごすかの手がかりになります。
🧬 ミトコンドリアDNA枯渇症候群の4つの型
※型と遺伝子の対応はGeneReviewsの総説[1]、MNGIEの発症年齢は[4]による。同じ遺伝子でも、型や重さには幅があります。
大人になってから見つかる型もある(ミトコンドリア病 大人)
「ミトコンドリアDNA枯渇症候群は赤ちゃんの病気」とは限りません。同じ遺伝子の変化でも、大人になってから症状が始まる型があります。
- ●POLG:12〜40歳ごろに始まる型(ミオクローヌスてんかん・ミオパチー・感覚性の運動失調〔MEMSA〕、運動失調とニューロパチー〔ANS〕)と、40歳以降に始まる慢性進行性外眼筋麻痺(まぶたが下がる・目が動きにくい)があります[2]。
- ●TK2:18歳を過ぎて始まる型では、手足の付け根の筋力低下がゆっくり進み、まぶたが下がる・外眼筋麻痺・飲み込みにくさ・話しにくさが多くみられます[3]。
- ●TYMP(MNGIE):平均の発症年齢は18歳で、10代〜20代で消化管の症状から見つかることが多い病気です。最初の症状が消化管だった方は約57%と報告されています[4]。
- ●DGUOK・TWNK・RRM2Bなど:大人になってから、まぶたが下がる・目が動きにくいなどの症状(多重欠失による型)として見つかることがあります[1]。
どれくらいの人がなる病気か
ミトコンドリアDNA枯渇症候群全体の頻度を示す、信頼できる国際的な数字は限られています。原因の遺伝子ごとの推定として、GeneReviewsは、POLGによるアルパース・フッテンロッハー症候群が約5万1,000人に1人、POLGの潜性の病気全体が約1万人に1人と推定しています[2]。いずれも、よく見つかる変化の頻度から計算した推定値です。
予後・寿命は?治る病気なの?
予後や寿命は、型と原因の遺伝子によって大きく違います。POLG関連疾患では、12歳より前に始まる型がもっとも重く、40歳以降に始まる型がもっとも軽いとされています[2]。MPV17による肝脳型では、肝移植を受けなかった79人のうち65人(82%)が亡くなった一方、報告された最年長の方は25歳でした[5]。TK2欠損症の乳児期に始まる型は、数年のうちに呼吸不全に至ることが多いと記載されていますが、これは治療薬が登場する前(2018年)の情報です[3]。
多くの型では、原因そのものを治す治療はまだ確立していません。ただし、TK2欠損症には海外で承認された治療薬があります。治療の動きや、原因がわかったあとにできることは、第6章で詳しくご説明します。
2. ミトコンドリアDNA枯渇症候群の遺伝子検査を受けるとよい人
いくつもの臓器に原因のわからない症状が重なっている方、筋肉や肝臓の検査でミトコンドリアDNAの減少を指摘された方、ご家族が同じ病気と診断された方に向く遺伝子パネル検査です。GeneReviewsは、どの臓器が関わっているか、何歳で始まったか、乳酸値や尿のメチルマロン酸などの一般的な検査の結果から、この病気を疑うとしています[1]。
こんな症状・検査結果があるとき
- ●血液の乳酸値が高いと言われた
- ●一度できるようになったことができなくなった(発達の後戻り)、発達の遅れがある
- ●治りにくいてんかんがある
- ●赤ちゃんのころから肝臓の働きが悪い、肝不全になった
- ●体がやわらかい(筋緊張の低下)、筋力が落ちてきた
- ●まぶたが下がる、目が動きにくい
- ●消化管の動きが悪く、食べてもやせてくる
- ●尿のメチルマロン酸が少し高いと言われ、難聴もある(SUCLA2では、メチルマロン酸の上がり方が典型的なメチルマロン酸血症よりずっと軽く、難聴が約90%にみられます[7])
筋肉・肝臓の検査で「ミトコンドリアDNAが減っている」と言われたとき
症状のある臓器の生検では、ミトコンドリアDNAの枯渇や多重欠失、エネルギーをつくる酵素(電子伝達系)の働きの低下がみられることが多いとされています。ただし生検は体への負担が大きいため、GeneReviewsは、まず血液の白血球のDNAで遺伝子を調べるのが一般的で、ミトコンドリアDNA維持の遺伝子をまとめて調べるパネル検査が、原因を見つけられる可能性がもっとも高いとしています[1]。この検査は、そのためのパネル検査です。
きょうだい・お子さんが同じ病気と診断されたとき
ご家族に原因の遺伝子の変化が見つかっている場合、ほかのきょうだいが同じ変化をもっているか、ご両親が保因者かを確かめることができます。原因がわかっていれば、次のお子さんで同じことが起こる可能性がどれくらいあるか、そして次の妊娠でどう備えられるかを、具体的に考えられるようになります(第4章)。
ご家族が診断され、「自分もなるかもしれない」と不安な方へ(症状のない方の検査)
親御さんやきょうだいがこの病気と診断され、まだ症状のない方の中には、まぶたが少し重い、疲れやすいといった小さな変化のたびに「始まったのでは」と不安を抱えながら暮らしている方もいます。この病気には、POLGで40歳以降に始まる外眼筋麻痺や、TK2欠損症の成人型、MNGIEのように、大人になってから症状が出る型があります[2][3][4]。
当院は、ライフステージごとに患者さんの人生をサポートするという考え方で診療しており、知りたいと願う方を拒むことはしません。遺伝カウンセリングで十分に考えたうえで、ご本人が知りたいと決めた場合は、その意思を尊重して検査まで行います。知らないでいる選択も、同じように尊重します。
ご家族の原因の変化がわかっていれば、その場所をピンポイントで調べられます。受け継いでいないとわかれば、その病気について、ご家族と同じ確率を心配しなくてよくなります(ほかの原因による病気まで否定するものではありません)。受け継いでいるとわかった場合は、POLGならてんかんの薬でバルプロ酸を避ける、合併症を定期的に見張る、MNGIEなら早く対策を始めるなど、第6章の「次にできること」につなげられます。結果を知ったあとの気持ちの変化は、どちらの結果でも起こりえます。当院では、検査の前にも後にも、臨床遺伝専門医との遺伝カウンセリングで、時間をかけて考えていただけます。
なお、日本医学会の「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」(2022年3月改定)は、成年期以降に発症する病気の未成年者への発症前の検査は、原則として本人が成人し自分で判断できるまで延期すべきとしています。小児期に発症する病気では扱いが異なり、早く診断することで健康管理に大きな利益があると期待される場合は、親の代諾による検査が適切とされることもあります。お子さんの検査は、この考え方を踏まえてご相談ください。
この検査より別の検査が向いている場合
病名がほぼミトコンドリアDNA枯渇症候群にしぼれているなら、16遺伝子にしぼったこの検査が向いています。しぼれていない場合や、ほかの病気も考えられる場合は、次の検査のほうが合うことがあります。比べているのは検査の種類で、どれが合うかは症状とご家族の情報で変わります。
🔍 症状に合わせた検査の選び方
※どの検査が合うかは、遺伝カウンセリングで症状・検査結果・ご家族の情報をうかがって一緒に決めます。
3. 調べる16遺伝子と、それぞれでわかる病気
この検査では、ミトコンドリアDNA枯渇症候群の原因として報告されている16遺伝子をまとめて調べます。遺伝子ごとに、はたらき・主な型・遺伝のしかたが違います。右端の列は、当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)の対象かどうかです。
🧬 対象の16遺伝子
※型・遺伝のしかたはGeneReviewsの総説[1]による。POLG2の潜性の型(乳児期に劇症の肝不全で始まる、ミトコンドリアDNA枯渇症候群16型)はOMIM(618528)による(潜性=常染色体潜性〔劣性〕、顕性=常染色体顕性〔優性〕)。対象遺伝子は2026年10月19日に検査会社の最新の一覧と照合しました(16遺伝子・変更なし)。SUCLA2・SUCLG1はTCA回路異常症遺伝子パネル検査にも含まれています。
4. 遺伝のしかたと遺伝する確率
ミトコンドリアDNA枯渇症候群の多くは常染色体潜性(劣性)遺伝で、ご両親がともに保因者の場合、きょうだいが発症する確率は4分の1です[1]。ただし、一部の遺伝子には顕性(優性)遺伝の型もあり、原因の遺伝子と型によって確率が変わります。
多くは常染色体潜性遺伝(劣性遺伝):きょうだい・次のお子さんは4分の1
常染色体潜性(劣性)遺伝では、お父さんとお母さんから1つずつ、同じ遺伝子の変化を受け継いだときに発症します。ご両親は1つずつ変化をもつ保因者で、ふつうは症状がありません。お子さん(きょうだい)1人ごとに、発症する確率は4分の1、症状のない保因者になる確率は2分の1、どちらの変化も受け継がない確率は4分の1です[1][2]。上のお子さんの結果で、下のお子さんの確率が変わることはありません。
顕性遺伝の型もある遺伝子(POLG・POLG2・RRM2B・SLC25A4・TWNK・OPA1)
常染色体顕性(優性)遺伝の型では、2本ある遺伝子のうち1本の変化で発症しうるため、親が同じ変化をもっていれば、お子さん1人ごとに2分の1の確率で伝わります。たとえばPOLGによる顕性の慢性進行性外眼筋麻痺は40歳以降に始まることが多く、子育てを終えてから親の診断がつくこともあります[1][2]。
⚠️ ご両親に変化が見つからなくても、確率はゼロとは言えません
お子さんで新しく起きた変化と考えられても、ご両親の卵子や精子のもとになる細胞(生殖細胞)にだけ変化がある「性腺モザイク」の可能性が残ります。変化をもつ生殖細胞からできる卵子・精子は2分の1の確率で変化を受け継ぎます。生殖細胞のうちどれくらいが変化をもつかは実際の診療では調べられないため、お子さん1人あたりの確率は『最大で2分の1』とお伝えしています。
「母親から遺伝する」ミトコンドリアDNAの病気とは違う
「ミトコンドリア病は母親から遺伝する」と聞いて、お母さんがご自分を責めてしまうことがあります。ミトコンドリアDNAは卵子から受け継ぐため、ミトコンドリアDNAそのものの変化による病気はお母さんから伝わります(母系遺伝)。一方、ミトコンドリアDNA枯渇症候群の原因は核の遺伝子です。多くはお父さん・お母さんの両方から病的な変化を受け継ぐ潜性遺伝ですが、一部には、一方の親から受け継ぐ場合や、新しく起きた変化による顕性遺伝の型もあります[1]。遺伝のしかたの違いは、遺伝形式の解説で詳しくご紹介しています。
どちらの場合も、遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。原因がわかることは、ご家族が自分を責めることから離れるきっかけにもなります。
結婚・妊娠を考えるとき:パートナーの保因者検査
潜性遺伝の病気が起こるのは、ご夫婦がたまたま同じ遺伝子の変化を1つずつもっていたときです。いとこ婚など、血のつながりのあるご夫婦では、同じ祖先から受け継いだ同じ変化を二人とももっている可能性が高くなります。これは誰の責任でもなく、遺伝のしくみによるものです。
この検査の16遺伝子のうち、POLG・TK2・DGUOK・MPV17・TYMP・SUCLA2・FBXL4の7つは、当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)の対象です(当院の遺伝子一覧で確認)。ご家族にこの病気の方がいる場合や、ご自身が保因者とわかった場合は、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかを調べることで、お子さんへの確率を具体的に知ることができます。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」(女性787遺伝子・男性714遺伝子。単独では受けられません)もあります。
5. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、16遺伝子の中の小さな変化(1つの塩基の変化・小さな挿入や欠失)と、遺伝子のまとまった欠失・重複です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
わかること
- ●小さな変化:16遺伝子の、たんぱく質の設計図になる部分(コード領域)と、その境目(スプライス部位)の変化
- ●欠失・重複:遺伝子まるごと、または連続する2つ以上のエクソン(遺伝子の区切り)の欠失・重複。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します
わからないこと(検査の限界)
- ●ミトコンドリアDNAそのものの変化:この検査は核の遺伝子を調べる検査です。ミトコンドリアDNAの変化による病気(母系遺伝の病気)は、ミトコンドリア病の遺伝子検査で調べます
- ●調べていない場所:遺伝子の働きを調節する部分(プロモーター)や、エクソンから20塩基を超えて離れた場所(深いイントロン)の変化
- ●調べていない種類の変化:染色体の転座・逆位、繰り返し配列の伸び(リピート伸長)、1つのエクソンだけの欠失・重複(ときに見つかることはあるが、ふつうは検出できない)
- ●モザイク:体の一部の細胞だけにある変化(体細胞モザイク)を見つけるための検査ではありません
- ●16遺伝子以外:この検査に含まれない遺伝子が原因のこともあります
陰性でも「この病気ではない」とは言い切れない/意義がまだわからない変化(VUS)
原因が見つからなくても、ミトコンドリアDNA枯渇症候群やミトコンドリア病を否定することはできません。また、病気の原因かどうかまだ判断できない変化(VUS:意義がまだわからない変化)が見つかることがあります。調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合(二次的所見)の扱いは、当院の二次的所見の開示方針のとおりです。
💡 用語解説:カバレッジと確認検査
この検査は次世代シークエンサー(NGS)で、調べる範囲の99%以上を20回以上読み取ります(カバレッジ)。同じ場所を何度も読むほど、読み間違いと本当の変化を区別しやすくなります。読み取りの質が低い場所は、サンガー法という別の方法で確かめます。
6. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。陽性・陰性・VUSのそれぞれで、次にできることが違います。
病的変異が見つかったら、次にできること
わかるだけでは意味がありません。原因の遺伝子がわかったあとにできることを、立場ごとにまとめます。治療や管理は、主治医・専門の医療機関で行います(当院は治療を行っていません)。
① ご本人(症状がある方):避けたい薬・使える治療・見張る合併症
⚠️ POLGの変化がわかったら、てんかんの薬を選ぶときに必ず伝えてください
POLG関連疾患では、てんかんの薬のバルプロ酸で急性肝不全が起こり、亡くなる危険が高まることが知られています。米国の添付文書(2023年2月改訂版)は、警告欄と禁忌に、POLGの変化による病気と「POLG関連疾患が疑われる2歳未満のお子さん」を挙げています。GeneReviewsも、POLG関連疾患でのバルプロ酸を絶対的禁忌としています[2]。
米国ミトコンドリア医学会の診療の指針も、POLG関連疾患ではバルプロ酸を避けるよう勧めています[9]。POLGはてんかんの原因として見つかることもあるため、てんかんの遺伝子検査を考えている方にとっても大切な情報です。
- ●TK2欠損症の治療薬:DNAの材料(デオキシヌクレオシド)を補う治療薬が、米国で2025年11月3日、欧州で2026年3月26日に承認されました。対象は、症状が12歳以前に始まった方です(米国FDA・欧州医薬品庁の公表による)。先に報告された16人の研究では、早く始まった重い型の5人で、治療を受けなかった過去の例より生存と運動の働きがよく、下痢が8人にみられたものの治療をやめる必要はありませんでした[8]。日本で使えるかどうかは2026年10月時点で確認できていないため、主治医・専門の医療機関にご確認ください。
- ●肝移植の考え方は遺伝子で違う:DGUOKでは、神経の症状がない・少ない方では肝移植は禁忌ではないとされ、生後1〜18か月で移植を受けた20人のうち半数は1〜21か月以内に亡くなった一方、生き残った方の多くは発達が良好でした[6]。MPV17では、ほかの臓器にも病気が及ぶため肝移植は議論があり、移植を受けた17人のうち10人(59%)が亡くなっています[5]。
- ●MNGIE(TYMP):同種造血幹細胞移植で血液中の物質の偏りがほぼ正常になり、生着後に症状がよくなった報告がある一方、25人中16人が移植後に亡くなっており、一般的に勧められる段階ではありません。ミトコンドリアの働きを落とす薬(バルプロ酸・フェニトインなど)は避けるよう勧められています。コエンザイムQ10などのサプリメントは、効果が証明されていません[4]。
- ●合併症の見張り:米国ミトコンドリア医学会の指針は、心電図と心エコーを12か月ごとに少なくとも3年(安定していれば2〜3年ごと)、聴力検査を診断時とその後1〜2年ごと、眼科の診察を年1回、HbA1cや甲状腺などの検査を年1回行うことを勧めています[9]。
- ●麻酔・手術・体調をくずしたとき:同じ指針は、ミトコンドリア病の方は麻酔の合併症が起きやすいこと、長い絶食を避けてブドウ糖を含む点滴を使うこと(ケトン食の方などは例外)、病名を書いた緊急時の計画書を持ち歩くことを勧めています[9]。
② 症状のないご本人(保因者だった方)
潜性遺伝の保因者の方は、ふつう症状がなく、ご自身の健康のために特別な治療は必要ありません[1]。大切なのはお子さんへの確率で、パートナーが同じ遺伝子の保因者でなければ、お子さんが発症することはふつうありません。パートナーの検査(保因者検査)で、具体的な確率を知ることができます(第4章)。
③ 次のお子さんを考えるとき:知ってから選べること
ご家族の原因の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。GeneReviewsも、POLGの変化がご家族でわかっていれば、出生前検査や着床前検査が可能としています[2]。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。その病気で出生前診断を行えるかは、病気の重さなどを踏まえて個別に判断するため、妊娠を考えている段階からご相談ください。
日本でも、日本産科婦人科学会の指針(2026年9月改定)にもとづく審査を経て、PGT-M(着床前遺伝学的検査)が行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは「海外でPGT-Mを考えている方へ」で解説しています。出生前診断やPGT-Mを受けずに、そのまま妊娠・出産を迎えることも、もちろん選べる選択肢です。
④ ご家族:症状のないきょうだいの検査
ご家族の中で原因の変化がわかっていると、きょうだい・ご両親・いとこなど血縁の方は、その場所だけをピンポイントで調べられます。MNGIEでは、症状がない・軽いきょうだいを調べることで、早く対策を始められるとされています[4]。顕性遺伝の型では、親御さんやお子さんも検査の対象になります。症状のない方の検査は、ご本人の同意のうえで行います。
⑤ 当院でのその後
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明し、主治医に伝えたいこと、ご家族の検査、次の妊娠への備えなど、次にどうするかを一緒に考えます。遺伝カウンセリング料は30分22,000円(税込)です。
陰性だったとき
16遺伝子に原因が見つからなかった場合は、症状に合わせて、核遺伝子ミトコンドリア病パネル(677遺伝子)、ミトコンドリアDNAそのものを調べるミトコンドリア病の遺伝子検査、全エクソーム検査などを考えます。
意義がまだわからない変化(VUS)が見つかったとき
VUSは、それだけで診断やご家族の発症リスクの判定には使いません。ただし、その変化の意味を調べるために、ご家族の検査を行うことがあります。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。
結果の報告書について
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の読み方は「遺伝子検査結果の見かた」でご紹介しています。
7. 日本の制度(2026年10月時点)
ミトコンドリア病は指定難病(告示番号21)です。ミトコンドリアDNA枯渇症候群が対象になるかは、難病情報センターが示す診断基準(令和6年4月1日付)と重症度の基準で決まります。
また、ミトコンドリアDNA枯渇症候群は、小児慢性特定疾病(先天性代謝異常・大分類「ミトコンドリア病」)の対象疾病として、小児慢性特定疾病情報センターに掲載されています(2026年10月時点で確認)。医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。認定の基準や申請の方法は、各センターやお住まいの自治体の窓口でご確認ください。
なお、公費で行われる新生児マススクリーニング(先天性代謝異常等検査)の20疾患に、ミトコンドリアDNA枯渇症候群は含まれていません(自治体の案内〔兵庫県、2025年1月更新〕で確認)。スクリーニングで異常がなかったことは、この病気ではないという意味にはなりません。
8. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の粘膜のいずれかで、唾液・頬の粘膜ならオンライン診療でも受けられます。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の提出唾液・頬の粘膜・血液
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
唾液・頬の粘膜・血液のいずれも、オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを受けたあと、検体を当院にお送りいただく形で受けられます。血液の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。オンライン診療の場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。
検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいた後にお送りいたします。ご自身で勝手に検体を採取しないでください。検体の取り違えを防ぎ、検査に必要な品質を保つためです。
検査の前には、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、この検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
9. 院長コラム
🩺 院長コラム【名前がつくと、薬の選び方まで変わる】
ミトコンドリアDNA枯渇症候群は、肝臓・筋肉・脳・消化管と、症状の出る場所が人によってまったく違う病気です。だからこそ、症状だけで病名にたどりつくのは難しく、原因の遺伝子がわかってはじめて見えてくることがあります。たとえばPOLGの変化があるとわかれば、てんかんの薬でバルプロ酸を避けるという、とても具体的な判断につながります。TK2欠損症のように、海外で治療薬が承認された型もあります。名前がつくことは、次の一手を決めることだと考えています。
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
ミトコンドリアの病気と聞くと「母親から遺伝する」と思い込み、お母さんがご自分を責めてしまうことがあります。けれども、この病気の原因は核の遺伝子です。多くはお父さんとお母さんの両方から病的な変化を受け継ぐ潜性遺伝ですが、一部には、一方の親から受け継ぐ場合や、新しく起きた変化による顕性遺伝の型もあります。そしてどんな遺伝子の変化も、誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。ご本人の治療の手がかりにも、きょうだいの検査にも、次のお子さんを考えるときの出生前診断にも、一度わかった原因はずっと使えます。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. ミトコンドリアDNA枯渇症候群は治りますか?
多くの型では、原因そのものを治す治療はまだ確立していません。ただし、TK2欠損症(TK2遺伝子による型)では、症状が12歳以前に始まった方を対象とする治療薬が、米国で2025年11月、欧州で2026年3月に承認されています。日本で使えるかどうかは2026年10月時点で確認できていないため、主治医・専門の医療機関にご確認ください。どの型でも、原因がわかると、避けたい薬や見張るべき合併症を決められます。
Q2. 何歳まで生きられますか?平均寿命はどれくらいですか?
型と原因の遺伝子によって大きく違うため、平均寿命を1つの数字で示すことはできません。乳児期に始まる肝脳型や筋型は重いことが多い一方、POLG遺伝子では40歳以降に始まる型の経過がいちばん軽いとされています。TK2欠損症の見通しは、治療薬の登場によって変わりつつあります。
Q3. 遺伝する確率は?きょうだいも検査したほうがいいですか?
多くは常染色体潜性(劣性)遺伝で、ご両親がともに保因者の場合、きょうだいが発症する確率は4分の1、症状のない保因者になる確率は2分の1です。POLG・TWNKなど一部の遺伝子には顕性(優性)遺伝の型もあり、その場合は親から子へ2分の1の確率で伝わります。MNGIE(TYMP遺伝子)のように、症状がない・軽いきょうだいを早く調べることで、早く対策を始められる病気もあります。
Q4. ミトコンドリア病は母親から遺伝するのですか?母親のせいですか?
ミトコンドリアDNAそのものの病的な変化が親から子へ伝わる場合は、母親から伝わります。ただし、新しく起きた変化による場合もあります。一方、ミトコンドリアDNA枯渇症候群の原因は核の遺伝子です。多くは両親から病的な変化を受け継ぐ潜性遺伝ですが、一部には、一方の親から受け継ぐ場合や、新しく起きた変化による顕性遺伝の型もあります。どの場合も、誰のせいでもありません。
Q5. 血液や唾液の検査でわかりますか?筋肉の検査(筋生検)は必要ですか?
この検査は、血液・唾液・頬の粘膜のいずれかで受けられます。筋肉や肝臓の生検は体への負担が大きいため、まず血液の白血球のDNAで遺伝子を調べるのが一般的とされています。結果や症状によっては、主治医が組織の検査を考えることもあります。
Q6. POLGの変化があると言われました。てんかんの薬で気をつけることはありますか?
あります。POLG関連疾患では、てんかんの薬のバルプロ酸で急性肝不全が起こる危険が高く、使わないよう求められています(米国の添付文書、遺伝性疾患の解説書GeneReviews、米国ミトコンドリア医学会の指針)。てんかんの薬を始めるときや変えるときは、POLGの結果を必ず主治医に伝えてください。
Q7. 大人でも受けられますか?
受けられます。POLG遺伝子では12〜40歳ごろや40歳以降に始まる型があり、TK2欠損症やMNGIEも大人になってから見つかることがあります。まぶたが下がる・目が動きにくい、消化管の動きが悪くやせてきた、ふらつきやしびれがある、といった症状が重なる方は、遺伝カウンセリングでこの検査が合うかを確かめられます。
Q8. 費用はいくらですか?保険は使えますか?
検査費用は税込330,000円で、遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。結果が出るまでの期間は2〜3週間です。
🧬 一度の検査で、ご本人とご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。ミトコンドリアDNA枯渇症候群の原因がわかれば、避けたい薬や見張るべき合併症だけでなく、きょうだいの検査や、次のお子さんを考えるときの計画にも、ずっと使える情報になります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
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参考文献
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