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ケトン体利用障害(β-ケトチオラーゼ欠損症・SCOT欠損症)の遺伝子検査|くり返す重い自家中毒・ケトアシドーシスの原因を3遺伝子で調べる

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

記事の作り方(編集方針)

ケトン体利用障害(β-ケトチオラーゼ欠損症・SCOT欠損症)の遺伝子検査

ケトン体利用障害の遺伝子検査は、空腹や発熱のときに重いケトアシドーシスをくり返す原因となる「β-ケトチオラーゼ欠損症」と「SCOT欠損症」を、ACAT1・ACAT2・OXCT1の3遺伝子でまとめて調べる検査です。熱や胃腸炎のたびに吐いてぐったりし、点滴を受けながら「自家中毒(ケトン性嘔吐症)ですね」と言われ続けてきたお子さんの中には、まれに、作ったケトン体をエネルギーとして使えない生まれつきの病気が見つかることがあります。原因がわかれば、次に熱が出たときにどう動くかを前もって決められ、症状のないきょうだいも発作の前に調べられます。このページでは、よくある自家中毒との違い、検査でわかること・わからないこと、結果のあとにできることを、臨床遺伝専門医が解説します。

⏱️ 30秒でわかる要約

🧬 Q. ケトン体利用障害の遺伝子検査で何がわかりますか?

ケトン体をエネルギーとして使えないために重いケトアシドーシスを起こすβ-ケトチオラーゼ欠損症(ACAT1)とSCOT欠損症(OXCT1)の原因を、ACAT2を加えた3遺伝子で一度に調べます。

🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?

発熱・胃腸炎・空腹のときに、吐く・息が荒い・ぐったりするケトアシドーシスで入院したことがある方、「自家中毒」とされてきたが発作が重い・くり返す方、きょうだいにこの病気の方がいる方です。

🧬 Q. 費用・日数・検体は?

検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。

🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?

結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。潜性(劣性)遺伝の病気なので、きょうだいや次のお子さんへの影響、意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。

\ 一生変わらない遺伝子を知って、次の発作への備えに /

📅この検査を予約する(遺伝カウンセリングの予約)

検査の前に臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、結果も臨床遺伝専門医が直接ご説明します。

お問い合わせはこちら | 原因が絞れていない方は低血糖症パネルへ

1. ケトン体利用障害とは|作ったケトン体を使えず、重いケトアシドーシスをくり返す病気

ケトン体利用障害は、空腹や病気のときに肝臓で作られるケトン体を、肝臓以外の臓器でエネルギーとして使えない生まれつきの代謝の病気です。使われないケトン体が血液にたまり、血液が強い酸性に傾く「ケトアシドーシス」の発作を起こします[3]。この検査で調べる代表的な病気は、β-ケトチオラーゼ欠損症(ACAT1遺伝子)と、SCOT欠損症(OXCT1遺伝子)の2つです。

ケトン体を細胞に運び込む輸送体の病気(MCT1欠損症、SLC16A1遺伝子)も、ケトン体利用障害の仲間として2014年に報告されました[7]。ただし、SLC16A1はこの検査の対象に入っていません(第3章の選び方の表をご覧ください)。

ケトン体は「肝臓で作り、肝臓以外で使う」:作れない病気との違い

食事からのブドウ糖が足りなくなると、体は脂肪を分解し(β酸化)、肝臓でケトン体を作ります。ケトン体は血液で運ばれ、脳や心臓、筋肉などで再びエネルギーに変えられます。ACAT1遺伝子が作る酵素(T2)は、細胞の中のミトコンドリアで働く酵素です[4]。

空腹・発熱ブドウ糖が不足
▶
肝臓で作る産生(作れない病気)
▶
血液で運ぶMCT1が出入りを担う
▶
肝臓以外で使う利用(このページの病気)

作る段階の病気(ケトン体産生異常)では、低血糖なのにケトン体が上がらない発作になり、使う段階の病気(ケトン体利用障害)では、ケトン体がたまるケトアシドーシスの発作になります[3]。血液や尿のケトン体が「高いのか、低いのか」が、検査を選ぶ大きな手がかりです。作る段階の病気を調べる検査は、ケトン体産生異常の遺伝子検査でご案内しています。

β-ケトチオラーゼ欠損症とSCOT欠損症の違い

🧬 ケトン体利用障害の2つの病気

項目 β-ケトチオラーゼ欠損症 SCOT欠損症
原因遺伝子 ACAT1 OXCT1
障害されるもの ケトン体の利用と、アミノ酸のイソロイシンの分解の両方 ケトン体の利用
最初の発作の年齢 中央値12か月。8割以上が2歳までで、生まれてすぐの発症は3.4%(244人の文献解析) 中央値7か月。約70%が1歳まで、約4分の1が新生児期(44人の解析)
発作がないとき 症状はない 症状はない。典型例では、ケトン体が高い状態(持続性ケトーシス)が続く
手がかりになる検査 尿の有機酸分析(チグリルグリシンなど)。ただし変化がわずかな例もある 特有の目印が少なく、診断には酵素の検査か遺伝子の検査が必要
遺伝のしかた 常染色体潜性(劣性)遺伝

※β-ケトチオラーゼ欠損症は文献[1][4]と日本先天代謝異常学会「新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2025」、SCOT欠損症は文献[2]と小児慢性特定疾病情報センターの解説による。

発作の症状ときっかけ:吐く・息が荒い・ぐったりする

発作の多くは生後数か月から2歳ごろ、空腹・発熱・胃腸炎などをきっかけに起こり、嘔吐、速く深い呼吸(多呼吸)、意識がぼんやりするなどの症状を伴うケトアシドーシスになります。発作がないときは症状がありません。これは小児慢性特定疾病情報センターの解説(β-ケトチオラーゼ欠損症・SCOT欠損症)に書かれている特徴です。

日本先天代謝異常学会のガイドライン(2025年版)では、β-ケトチオラーゼ欠損症の典型的な発作で、血液のpHが7.2未満、総ケトン体が7 mmol/Lを超え、遊離脂肪酸と総ケトン体の比が0.3を下回ることが多いとされています。血糖は高いことも低いこともあり、著しい低血糖はまれです。軽い高アンモニア血症を伴うこともあります。

糖尿病ではないのにケトアシドーシスになるのはなぜ

ケトアシドーシスは糖尿病の合併症として知られていますが、ケトン体を使えない病気では、糖尿病がなくてもケトン体がたまって起こります[3]。血糖が高く出ることもあり、ベトナムでβ-ケトチオラーゼ欠損症の41人を調べた研究では、28%で血糖が高く、最大23.3 mmol/Lでした[5]。血糖が高いことだけで、この病気を外すことはできません。

2. よくある「自家中毒(ケトン性嘔吐症・アセトン血性嘔吐症)」との違い|遺伝子検査を考えるのはどんなとき

くり返し吐いて尿にケトン体が出る「自家中毒(アセトン血性嘔吐症・ケトン性嘔吐症)」の多くは、遺伝子の病気ではありません。子どもの低血糖で最も多い原因とされる「ケトン性低血糖症」は、生後6か月ごろから見られ、6〜7歳ごろにおさまるのが典型的とされています。ただし、これはほかの原因の病気を除いたうえでつける診断(除外診断)で、除くべき病気の中にケトン体利用障害が含まれています[8]。

遺伝子検査を考える目安

北米小児消化器栄養学会の合意声明(2008年)は、くり返す嘔吐の子どものうち、次のような場合は代謝の病気の検査を行うよう勧めています[9]。

  • ●発作が、かぜなどの病気・空腹・タンパク質の多い食事をきっかけに起こる
  • ●2歳になる前から発作がある
  • ●低血糖や、アニオンギャップの大きい代謝性アシドーシス(血液が強く酸性に傾く)が見られる
  • ●神経の症状がある

同じ声明は、代謝の病気を疑うときは、発作の早い時期、ブドウ糖の点滴を始める前に血液と尿を採ると役に立つとしています[9]。これに加えて、きょうだいに同じような重い発作がある、発作がないときも尿のケトン体が続く(SCOT欠損症の典型例の特徴)、といった場合は、ケトン体利用障害を考える手がかりになります。

尿や血液の検査で目立った異常が出ないことがあるのも、この病気の特徴です。酵素の働きが少し残っている型のβ-ケトチオラーゼ欠損症では、重い発作の最中でも尿の有機酸や血液のアシルカルニチンの変化がわずかだった日本人の例が報告されています[4]。SCOT欠損症は、診断に酵素か遺伝子の検査が必要なため、見逃されている可能性も指摘されています[2]。こうした場合、遺伝子検査が診断を確かめる手段になります。

自家中毒は親のせい?遺伝する?

よくある体質としてのケトン性低血糖症は、今のところ原因となる遺伝子の変化は知られていません[8]。一方、ケトン体利用障害は常染色体潜性(劣性)遺伝の病気で、ご両親がそれぞれ同じ遺伝子の変化を1つずつもつ「保因者」で、ご自身には症状がないのがふつうです。

遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。原因がわかることは、育て方や食べさせ方を責めることではなく、次の発作に備えるための情報を得ることです。

成長すると発作は減る?大人になってからは

β-ケトチオラーゼ欠損症では、10歳を超えると重い発作は起こりにくくなるとされ、成人期の食事制限は不要と考えられています(日本先天代謝異常学会ガイドライン2025年版)。244人の文献解析では、全員が10歳までに発症しており、最も遅い発症は8歳でした。また、発作が2回以上あったのは33.0%でした[1]。この文献解析では、成人になってから初めて発症した例は報告されていません。

3. どんな人がこの検査を受けるとよいか

ケトアシドーシスの発作を起こしたことがあり原因を知りたい方、検査でこの病気を疑われた方、きょうだいにこの病気の方がいる方に向く検査です。病名がつくと、熱や胃腸炎のときに早めに受診してブドウ糖の点滴を受ける、空腹を長くしない、といった対応を、主治医と前もって決めておけます(日本先天代謝異常学会ガイドライン2025年版)。

  • ●発熱・胃腸炎・空腹のときに、吐く・息が荒い・ぐったりするケトアシドーシスで点滴や入院をしたことがある(くり返す場合はとくに)
  • ●血液のケトン体がとても高く、強いアシドーシスと言われた/発作がないときも尿のケトン体が続く
  • ●尿の有機酸分析・血液のアシルカルニチン分析、または新生児マススクリーニングで、この病気を疑われた
  • ●きょうだいがβ-ケトチオラーゼ欠損症・SCOT欠損症と診断されている(症状のないきょうだいを含む)
  • ●ご両親がいとこ同士など血のつながりがあり、お子さんに重い発作がある

血液・尿の検査結果で選ぶ:この検査と、ほかの低血糖パネルの選び分け

発作のときの血液・尿のケトン体が「高くてアシドーシスが強い」ならこの検査、「低血糖なのにケトン体が上がらない」なら別の検査、というのが選び分けの基本です[3]。原因の見当がつかないときは、まとめて調べる検査が向きます。

🔍 検査結果に合わせた遺伝子検査の選び方

こんなとき 向いている検査
ケトン体が高く、強いケトアシドーシスをくり返す このページの検査(ACAT1・ACAT2・OXCT1)
低血糖なのにケトン体が上がらない ケトン体産生異常の遺伝子検査(HMGCS2・HMGCL)
ケトン体の高い低血糖(ケトン性低血糖)をくり返す 多くは体質によるもの。原因の病気として糖原病(0・III・VI・IX型)などを調べるなら糖原病パネルや低血糖症パネル
尿の有機酸分析でプロピオン酸血症・メチルマロン酸血症などが疑われる プロピオン酸血症の遺伝子検査/メチルマロン酸血症の遺伝子検査
原因の見当がつかない/MCT1欠損症(SLC16A1)も含めて調べたい 低血糖症遺伝子パネル検査(60遺伝子)。ACAT1・ACAT2・OXCT1・SLC16A1をすべて含む
代謝の病気を広く疑う 包括的代謝疾患遺伝子検査(795遺伝子)。ACAT1・OXCT1・SLC16A1を含み、ACAT2は含まない
代謝以外の症状も多く、病気をしぼれない 全エクソーム検査(WES)

※ケトン体産生異常と利用障害の違いは文献[3]、ケトン性低血糖の原因は文献[8]による。遺伝子が含まれるかは当院の各検査ページで確認(2026年10月時点)。低血糖の原因の種類ごとに、脂肪酸β酸化異常症パネル・脂肪酸酸化異常症パネル・高インスリン血症の遺伝子検査・糖新生異常パネル・ガラクトース・フルクトース代謝異常パネル・乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症パネルもあります。どれが合うかは、遺伝カウンセリングで検査結果を見ながら一緒に決めます。

この検査より別の検査が向いている場合

症状のない健康な方が、将来のお子さんのために「保因者かどうか」だけを知りたい場合は、多くの病気をまとめて調べる保因者検査のほうが向いていることがあります(第8章)。また、MCT1欠損症のようにこの検査の対象外の病気が疑われるときは、上の表の検査を選びます。比べるのは検査の種類で、目的に合ったものを選ぶことが大切です。

\ あなたの結果が、症状のないきょうだいを守る手がかりに /

📅この検査を予約する(遺伝カウンセリングの予約)

原因がわかれば、ご家族は同じ場所をピンポイントで調べられます。症状のないご家族の検査も、遺伝カウンセリングのうえでお受けしています。

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4. 新生児マススクリーニングとこの検査

β-ケトチオラーゼ欠損症は、新生児マススクリーニングですべての患者さんを見つけるのが難しいため、「二次対象疾患」とされています(日本先天代謝異常学会ガイドライン2025年版)。アシルカルニチンのC5:1とC5-OHが同時に上がるのが特徴とされる一方で、典型的な上がり方を示さない例が多く、米国でも見逃し(偽陰性)が報告されています。日本で336万人を対象にしたパイロット研究では、この病気は見つかりませんでした。

国が定める標準の新生児マススクリーニング(20疾患)の一覧には、β-ケトチオラーゼ欠損症もSCOT欠損症も入っていません(広島県の案内、2026年9月時点で確認)。「新生児マススクリーニングで異常がなかった」ことは、この病気ではないという意味ではありません。反対に、スクリーニングで再検査や精密検査を勧められた場合は、ACAT1遺伝子の2つの変化を確かめることが診断の決め手のひとつになります(同ガイドライン)。新生児マススクリーニングのしくみは新生児スクリーニングで解説しています。

5. 調べる3つの遺伝子と、わかる病気

この検査では、ACAT1・ACAT2・OXCT1の3遺伝子を一度に調べます。病気の原因として確立しているのはACAT1とOXCT1で、どちらも遺伝形式は常染色体潜性(劣性)遺伝です。

🧬 ケトン体利用障害の遺伝子検査で調べる遺伝子(3遺伝子)

遺伝子 関係する病気 遺伝のしかた 当院の保因者検査
ACAT1 β-ケトチオラーゼ欠損症(ミトコンドリアアセトアセチルCoAチオラーゼ〔T2〕欠損症) 常染色体潜性(劣性) 対象(女性版787・男性版714・女性版1009・男性版911)
ACAT2 細胞質のチオラーゼの遺伝子。「ACAT2欠損症」として報告はあるが、病気との関係を示す根拠は限られる(研究中の遺伝子) 確立していない 対象外
OXCT1 SCOT欠損症(スクシニル-CoA:3-ケト酸CoAトランスフェラーゼ欠損症) 常染色体潜性(劣性) 対象外

※対象遺伝子は当院の検査内容による。遺伝のしかたは文献[1][2]、ACAT2の扱いは英国の遺伝子パネルの公開データベース(Genomics England PanelApp)による。保因者検査の対象かどうかは当院の各検査ページの遺伝子一覧で確認(2026年10月時点)。

潜性遺伝の病気が起こるのは、ふつう、両親から1つずつ受け継いだ2つの遺伝子の両方に変化があるときです。同じ遺伝子に違う2つの変化がある場合を複合ヘテロ接合といいます。ただしSCOT欠損症では、OXCT1の変化を1つだけもつ方でも、感染などをきっかけに重いケトアシドーシスを起こした例が報告されています[6]。変化が1つだけ見つかったときも、症状とあわせて意味を考えます。

6. この検査でわかること・わからないこと

この検査でわかるのは、3つの遺伝子のタンパク質を作る部分(コード領域)とその境目(スプライス部位)にある小さな変化と、遺伝子の一部や全体の欠失・重複です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。

  • ●調べ方:次世代シークエンサーで配列を読みます。読み取りの質が低い部分は、サンガー法という別の方法で確かめます。
  • ●欠失・重複:遺伝子まるごと1つ分の変化(頬の粘膜と血液の検体)と、2つ以上続くエクソン分の変化(血液の検体のみ)を見つけられます。エクソン1つだけの変化は、見つからないことがあります。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
  • ●見つけられない変化:染色体の一部の入れ替わり(転座・逆位)、繰り返し配列の伸び、遺伝子の働きを調節する領域やエクソンから20塩基以上離れたイントロンの変化、体の一部の細胞だけにある変化(モザイク)は、この検査の対象外です。
  • ●調べていない遺伝子:MCT1欠損症の原因であるSLC16A1は含まれていません[7]。
  • ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうかまだ判断できない変化が見つかることがあります。
  • ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、この検査で検出できない変化が残っている可能性があります。β-ケトチオラーゼ欠損症では、皮膚の細胞などで酵素の働きが正常の20%以下に下がっていることでも診断できるとされています(日本先天代謝異常学会ガイドライン2025年版)。

7. 結果が出たあと

結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。原因の変化が見つかったとき、見つからなかったとき、VUSだったときで、次にできることが違います。

病的変異が見つかったら、次にできること

原因がわかったら、ご本人の発作への備え、症状のないご家族の検査、次のお子さんの計画、の3つが具体的に動き出します。治療や食事の指導、発作のときの対応は、主治医・代謝の専門の医療機関で行われます。当院は、結果の説明と、ご家族・妊娠についてのご相談を担います。

① ご本人(症状がある方):病名が決まり、発作の予防の方針が立てられます。日本先天代謝異常学会のガイドライン(2025年版)では、β-ケトチオラーゼ欠損症について、空腹を避けること、感染症とくに胃腸炎のときは早めに受診してブドウ糖の点滴を受けること(推奨度B)、軽いタンパク質の制限(1日あたり体重1kgにつき1.5〜2.0g)、二次的なカルニチン不足を防ぐL-カルニチンの内服が挙げられています。SCOT欠損症でも、感染時や食事がとれないときの早めのブドウ糖の点滴が予防の中心です(小児慢性特定疾病情報センター)。

見通しについては、β-ケトチオラーゼ欠損症の文献解析で、204人中157人(77.0%)が神経の異常なく正常に発達していました。一方で、報告の時点で235人中21人(8.9%)が亡くなっており、その多くは最初の発作でした[1]。SCOT欠損症の44人の解析では、95%が報告時点で生存していました[2]。最初の発作の前、または早い段階で備えておくことに意味がある病気です。女性の患者さんの出産も報告されており、出産の前後に十分なブドウ糖の点滴を行うことが必要とされています(同ガイドライン)。

② 症状のないご本人(きょうだい・保因者とわかった方):同じ病気のお子さんのきょうだいは、4分の1の確率で同じ病気、2分の1の確率で保因者です。症状が出ていなくても、新生児マススクリーニングや家族の検査で、発作の前に診断された例が報告されています[1]。SCOT欠損症では、同じ変化をもつ家族の中でも、症状がまったくない方から重い方まで差が大きいことが知られています[11]。保因者とわかった方は、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかを調べることで、お子さんへの確率がわかります(第8章)。

③ 次のお子さんを考えるとき(知ってから選べること):ご両親とも保因者の場合、次のお子さんが同じ病気になる確率は、妊娠のたびに4分の1です。ご家族で原因の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。(羊水検査・絨毛検査)ただし、出生前診断を行えるかは病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断するため、妊娠を考えている段階からご相談ください。生まれたお子さんで、ご家族と同じ変化があるかを早めに調べることもできます。日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-M(着床前遺伝学的検査)が行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-Mを考えている方へで解説しています。何も検査をせずに出産することも、もちろん選べる選択肢のひとつです。

④ ご家族:原因の変化がわかると、ご両親・きょうだい・おじ・おば・いとこなどが、同じ変化をもっているかをピンポイントで調べられます。症状のない方の検査は、ご本人の同意のうえで行います。

⑤ 当院でのその後:結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明し、次にどうするかを一緒に考えます。遺伝カウンセリング料は30分22,000円(税込)です。

陰性・VUSだったとき

原因の変化が見つからなかった場合も、この病気の可能性がゼロになるわけではありません(第6章)。主治医と相談のうえ、酵素の検査や、MCT1欠損症を含む低血糖症パネル、全エクソーム検査などを考えます。VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。目的と別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。

8. 結婚・妊娠を考えるときに:潜性(劣性)遺伝と保因者検査

ケトン体利用障害は常染色体潜性(劣性)遺伝の病気です。ご両親がともに同じ遺伝子の保因者のとき、お子さん1人ごとに、病気になる確率は4分の1、保因者になる確率は2分の1です。保因者は、ふつう症状がありません。

潜性遺伝のしくみと、組み合わせごとの確率

👪 ご両親の組み合わせと、お子さん1人ごとの確率

ご両親の組み合わせ(同じ遺伝子の場合) お子さん
保因者 × 保因者 病気4分の1、保因者2分の1、どちらでもない4分の1
患者さん × 保因者 病気2分の1、保因者2分の1
患者さん × 保因者でない方 全員が保因者(病気にはならない)
同じ遺伝子の患者さん同士 全員が病気

※違う遺伝子の病気の患者さん同士(例:ACAT1とOXCT1)で、それぞれが相手の原因遺伝子の保因者ではない場合、お子さんは両方の遺伝子の保因者になりますが、この組み合わせだけで病気になるわけではありません。くわしくは劣性遺伝(潜性遺伝)と保因者のしくみで解説しています。

いとこ婚など血のつながりのある結婚と、潜性遺伝の病気

いとこ同士など血のつながりのあるご夫婦は、同じ祖先から同じ遺伝子の変化を受け継いでいることがあるため、潜性遺伝の病気がお子さんに起こる可能性が、血縁のないご夫婦より高くなります。米国遺伝カウンセラー学会の推奨(2002年)は、またいとこより近い血縁のご夫婦に対して、家族歴をくわしくうかがい、気になる点があれば確かめること、そのうえで同じ民族の背景をもつほかのご夫婦と同じ検査を提供することを勧めています[10]。

血のつながりのある結婚そのものを否定する必要はありません。確率は病気とご家族ごとに違い、検査でわかることがあります。結婚と遺伝の考え方は結婚前に考えたい遺伝性疾患のリスクでも解説しています。

保因者検査で調べられる遺伝子

当院の拡大版保因者スクリーニングでは、ACAT1が対象に入っています。OXCT1とACAT2は対象外です(各検査ページの遺伝子一覧で確認、2026年10月時点)。ご家族にβ-ケトチオラーゼ欠損症の方がいて、パートナーが保因者かどうかを知りたい場合などに使えます。

ご家族に原因の変化がわかっている方は、その変化だけをピンポイントで調べる方法もあります。どちらが合うかは遺伝カウンセリングでご相談ください。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」(女性787遺伝子・男性714遺伝子、単独では受けられません)もあります。対象の遺伝子は、ご来院時の遺伝カウンセリングでご確認ください。

9. 日本の制度(2026年10月時点)

β-ケトチオラーゼ欠損症は指定難病(告示番号322)です。2017年(平成29年)4月施行の指定難病で新しく加わりました(厚生労働省の疾患概要、日本先天代謝異常学会ガイドライン2025年版)。また、β-ケトチオラーゼ欠損症とSCOT欠損症は、どちらも小児慢性特定疾病の「先天性代謝異常」に含まれています(小児慢性特定疾病情報センター)。

医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。認定の基準や申請の方法は、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。当院の検査と遺伝カウンセリングは、すべて自費診療です。

10. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体

検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は唾液・頬の内側の粘膜・血液のいずれでもよく、オンライン診療でも受けられます。

ご予約
▶
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
▶
検体の採取キットはお支払い後
▶
結果のご説明2〜3週間後・マイページへ

💴 費用・日数・検体

項目 内容
対象遺伝子 ACAT1・ACAT2・OXCT1(3遺伝子)
調べる内容 塩基配列、欠失・挿入(いずれも料金に含まれる)
検査費用 税込330,000円
遺伝カウンセリング料 30分22,000円(税込)※検査費用とは別
結果までの期間 2〜3週間
オプション 至急:結果までの期間が約7日短くなります(55,000円)/VUS除外(無料)
検体 血液(EDTA採血管4ml×2本)、抽出DNA(3μg)、頬の内側の粘膜、唾液
オンライン診療 唾液・頬の粘膜・血液のいずれも可能(血液は全国の提携医療機関で採血)

※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。

この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※

※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。

オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただきます。検体採取キットは検査料金をお支払いいただいた後にお送りします。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える品質を保つため、ご自身の判断で先に検体を採らないでください。

結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の見方は遺伝子検査結果の見かたで解説しています。

\ 人生に一度の遺伝子検査を、ご家族とこれからの計画に /

📅この検査を予約する(遺伝カウンセリングの予約)

ご夫婦とも保因者だった場合、妊娠したときの出生前診断(羊水検査・絨毛検査)まで院内で受けられます。

お問い合わせはこちら | 原因が絞れていない方は低血糖症パネルへ

11. 院長コラム

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「いつもの自家中毒」で終わらせず、次の発熱に備える】

私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。

ケトン体利用障害は潜性遺伝の病気で、ご両親は症状のない保因者であることがほとんどです。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。そしてこの病気は、発作がないときは元気に過ごせるからこそ、原因がわからないまま「いつもの自家中毒」として扱われ続けることがあります。発作の多くは熱や胃腸炎がきっかけです。原因がわかっていれば、次に熱が出たときに早めに受診し、ブドウ糖の点滴を受ける、という動き方を前もって決めておけます。

遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。

わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。症状のないきょうだいの検査も、次の妊娠での出生前診断も、当院で続けてご相談いただけます。どの選択をされても、その選択を尊重します。

よくある質問(FAQ)

Q1. ケトン体利用障害の遺伝子検査で何がわかりますか?

空腹や発熱のときに重いケトアシドーシスを起こすβ-ケトチオラーゼ欠損症(ACAT1遺伝子)とSCOT欠損症(OXCT1遺伝子)の原因となる変化があるかを、ACAT2を加えた3遺伝子で一度に調べます。MCT1欠損症(SLC16A1遺伝子)は対象に含まれません。

Q2. 自家中毒(ケトン性嘔吐症)をくり返す子は、遺伝子検査を受けたほうがよいですか?

多くの自家中毒は遺伝子の病気ではないため、全員に必要な検査ではありません。発作が病気や空腹をきっかけに起こる、2歳になる前から発作がある、強い代謝性アシドーシスや低血糖がある、きょうだいに同じような重い発作がある、といった場合は、代謝の病気を考える手がかりになります。まず主治医の検査結果を見ながら、遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q3. 自家中毒は親のせいですか?遺伝しますか?

親のせいではありません。よくある体質としてのケトン性低血糖症は、今のところ原因となる遺伝子の変化は知られていません。ケトン体利用障害は潜性(劣性)遺伝の病気で、ご両親は症状のない保因者であることがほとんどです。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。

Q4. 血液や尿のケトン体が高いと言われました。どんな病気が考えられますか?

空腹や発熱のときにケトン体が増えるのは体の自然な反応で、多くは病気ではありません。ただし、ケトン体がとても高く強いアシドーシスをくり返す場合は、ケトン体を使えない病気(β-ケトチオラーゼ欠損症・SCOT欠損症・MCT1欠損症)を考えることがあります。ケトン体の高い低血糖をくり返す場合は、糖原病などのほかの病気も考えます。

Q5. β-ケトチオラーゼ欠損症とSCOT欠損症の違いは?

どちらもケトン体を使えない病気ですが、原因の遺伝子が違います。β-ケトチオラーゼ欠損症(ACAT1)はアミノ酸のイソロイシンの分解も障害され、尿の有機酸分析が手がかりになります。SCOT欠損症(OXCT1)は、典型例では発作がないときもケトン体が高い状態が続き、診断には酵素か遺伝子の検査が必要です。

Q6. きょうだいも検査を受けたほうがよいですか?

ご家族で原因の変化がわかっていれば、きょうだいは同じ変化をピンポイントで調べられます。同じ病気のお子さんのきょうだいは、4分の1の確率で同じ病気、2分の1の確率で保因者です。症状がないまま、家族の検査で発作の前に診断された例も報告されています。検査の前に、遺伝カウンセリングで知ることの意味を一緒に考えます。

Q7. いとこ同士の結婚では、子どもに遺伝しやすくなりますか?

血のつながりのあるご夫婦は、同じ祖先から同じ遺伝子の変化を受け継いでいることがあるため、潜性遺伝の病気がお子さんに起こる可能性が、血縁のないご夫婦より高くなります。ただし確率は病気とご家族ごとに違い、結婚そのものを否定する必要はありません。家族歴をくわしくうかがい、保因者検査などで確かめられることがあります。

Q8. 新生児マススクリーニングで異常がなければ心配ありませんか?

異常がなかったことは、この病気ではないという意味ではありません。β-ケトチオラーゼ欠損症は、スクリーニングですべての患者さんを見つけるのが難しいため二次対象疾患とされ、見逃しも報告されています。SCOT欠損症は、国が定める標準の対象疾患(20疾患)に入っていません。発作の様子から疑われる場合は、遺伝子検査で確かめる方法があります。

Q9. 費用はいくらですか?保険は使えますか?

検査費用は税込330,000円で、遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。当院の検査と遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。結果までは2〜3週間で、至急のオプション(55,000円)を使うと約7日短くなります。

🧬 一度の検査で、次の発作への備えとご家族のこれからを

生まれ持った遺伝子は一生変わりません。ケトン体利用障害の原因がわかれば、熱や胃腸炎のときの備えだけでなく、症状のないきょうだいの検査や、次の妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。

お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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