疾患概要
PARATHYROID CARCINOMA
副甲状腺がんは染色体1q上のCDC73遺伝子の突然変異によって発生する可能性があるため、この疾患には番号記号(#)が割り当てられています。
CDC73遺伝子の突然変異は、副甲状腺癌の多くの症例に関連しており、罹患者の約3分の1では親から受け継がれる生殖細胞系列突然変異として存在します。しかし、この遺伝子の変異を持つ全ての人が副甲状腺癌を発症するわけではなく、他の遺伝的または非遺伝的要因もがんリスクに影響を与えます。残りの3分の2の症例では、生涯にわたって細胞に生じる体細胞変異によって病態が発生します。副甲状腺癌が発生するためには、CDC73遺伝子のもう一方のコピーにも変異が必要で、2つの変異した副甲状腺細胞は機能的なパラフィブロミンを産生せず、制御されない細胞増殖が癌へと進行します。特に副甲状腺機能亢進症-顎腫瘍症候群や家族性孤立性副甲状腺機能亢進症の人々は、副甲状腺癌のリスクが高まります。CDC73遺伝子変異が副甲状腺癌のみを引き起こす理由や、非癌性腫瘍や副甲状腺機能亢進症のみを引き起こすメカニズムは未だ不明です。
副甲状腺がんは、副甲状腺で発生する比較的まれながんで、血液中のカルシウム濃度の異常な上昇を引き起こすことが特徴です。この病気は主に中年期に診断されることが多く、通常は首の領域に位置する4つの副甲状腺のうち1つに影響を及ぼします。副甲状腺がんは、血中の副甲状腺ホルモン(PTH)とカルシウムのレベルの上昇によって初期に発見されることが多いですが、約10%の症例ではホルモン非機能性であり、通常のPTHとカルシウムレベルを維持します。
ホルモン機能性副甲状腺がんの症状:
高カルシウム血症による神経学的な問題(気分の変化、抑うつ)
腎臓や骨格の問題(腎結石、骨粗しょう症、骨折)
消化器系の症状(腹痛、吐き気、嘔吐、体重減少)
一般的な疲労感
ホルモン非機能性副甲状腺がんの症状:
頸部の構造への圧迫による嚥下困難や構音障害
声のかすれや呼吸困難
声帯麻痺
生存率と再発:
副甲状腺がん患者の多くは診断後5年以上生存しますが、この病気は再発する可能性があり、特に最初の3年以内に再発することが一般的です。ホルモン非機能性副甲状腺がんの場合、症状がないため診断が遅れがちであり、これが生存率を低下させる要因となります。
死因:
ホルモン機能性副甲状腺がんでは、長引く高カルシウム血症による臓器不全が主な死因となります。一方、ホルモン非機能性の場合は、腫瘍そのものやその転移が死因となることが多いです。
副甲状腺がんの治療は、主に手術による腫瘍の摘出、高カルシウム血症の管理、および腎機能のサポートを含みます。早期診断と適切な治療計画により、患者の生存率と生活の質を向上させることが可能です。
臨床的特徴
遺伝
一方で、副甲状腺癌の発症リスクを高める生殖細胞の突然変異は、通常、常染色体優性の遺伝パターンに従います。これは、がん自体が遺伝するのではなく、がんを発症する可能性が高くなる遺伝的素因が遺伝することを意味します。親から子へ遺伝するこのタイプの遺伝子変異は、がんのリスクを高めますが、必ずしもすべての遺伝子変異を持つ人ががんを発症するわけではありません。がんの発症には、遺伝的要因の他に、環境要因や生活習慣など、多くの要因が複合的に作用することが知られています。
この情報は、副甲状腺癌に限らず、多くのがんの遺伝的リスクを考慮する際に重要です。遺伝的要因ががんのリスクを高める可能性がある家族では、遺伝カウンセリングや遺伝子検査を通じてリスクを評価し、適切な予防策や早期発見のためのスクリーニングを検討することが推奨されます。
頻度
副甲状腺癌の診断は、しばしば困難であり、良性の副甲状腺腺腫との区別が難しい場合があります。診断の鍵となるのは、臨床的所見、血液検査(特にカルシウムと副甲状腺ホルモン(PTH)のレベル)、画像診断、そして最終的には組織学的検査です。
原因
CDC73遺伝子はパラフィブロミンというタンパク質をコードしており、このタンパク質は腫瘍抑制因子として機能し、細胞の急速な増殖や制御不能な分裂を防ぎます。CDC73遺伝子に変異がある場合、特にその変異が親から受け継がれた生殖細胞系列変異である場合、副甲状腺癌の発生リスクが高まります。CDC73遺伝子変異を持つ患者は、変異を持たない患者に比べて癌の転移リスクが高く、再発リスクも高く、生存率も低下します。
副甲状腺癌のリスクは特定の遺伝的症候群にも関連しています。副甲状腺機能亢進症-顎腫瘍症候群や家族性孤立性副甲状腺機能亢進症の人において、これらの症候群はCDC73遺伝子の突然変異によって引き起こされることが多く、副甲状腺癌の発生リスクを高めます。
遺伝的要因のほかにも、慢性腎不全、甲状腺がん、頸部への放射線治療の既往歴など、遺伝子以外の要因が副甲状腺がんの発症リスクに寄与することが知られています。これらの要因は、副甲状腺がんの発症において複雑な相互作用を持つ可能性があります。
CDC73遺伝子の変異による副甲状腺癌の発症機序の理解は、この病気の診断、治療、および予防において重要な役割を果たします。また、患者とその家族に対する適切な遺伝カウンセリングの提供にも役立ちます。
分子遺伝学
Shattuckら(2003)とWeinsteinとSimonds(2003)による研究は、副甲状腺機能亢進症と副甲状腺がんにおけるCDC73遺伝子の重要な役割を示しています。これらの研究は、CDC73遺伝子の変異が副甲状腺の異常な増殖と関連していることを明らかにしました。
CDC73遺伝子の変異と副甲状腺機能亢進症
Shattuckらによる研究では、家族歴のない原発性副甲状腺機能亢進症(HPRT1)および副甲状腺機能亢進症-顎腫瘍症候群(HPT-JT; HPRT2)の患者において、CDC73遺伝子の体細胞変異と生殖細胞変異が同定されました。この発見は、CDC73遺伝子の変異がこれらの疾患の発症に重要な役割を果たしていることを示しています。
CDC73遺伝子の変異と副甲状腺がん
WeinsteinとSimondsによる研究は、副甲状腺がんにおいてCDC73遺伝子がほとんど常に変異している可能性を示唆しています。Shattuckらの研究結果もこれを支持しており、調査された腫瘍の大部分でCDC73遺伝子の2アレル性不活化の証拠が見られました。この2アレル性不活化は、一般的には遺伝子のヘテロ接合性の消失ではなく、突然変異によって生じることが多いと報告されています。
分子遺伝学的な視点
これらの研究は、CDC73遺伝子の変異が副甲状腺の異常な増殖やがん化の根底にある分子メカニズムの理解を深めるものです。CDC73遺伝子は、腫瘍抑制遺伝子として機能し、その不活化や変異は細胞の増殖制御の喪失につながる可能性があります。副甲状腺がんおよび関連する副甲状腺機能亢進症の診断、治療、および予防戦略の開発において、これらの遺伝子変異の同定は重要な役割を果たすことが期待されています。