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がんは遺伝する?遺伝しやすいがんランキングと遺伝する確率・調べ方を臨床遺伝専門医が解説

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・がん薬物療法専門医・総合内科専門医。臓器を限らずがんと遺伝の両方を専門とする立場から、遺伝性腫瘍についての正確な情報をお届けします。

がんそのものが親から子へ遺伝することはありません。遺伝するのは「がんになりやすい体質」で、がんになった人のおよそ5〜10%がこの体質をもっていると考えられています。この記事では、遺伝性の割合が高いがんをデータで並べた「遺伝しやすいがんランキング」を中心に、子に伝わる確率、父方・母方の影響、家族歴のチェックポイント、2026年度の保険制度の変更を含む調べ方までを、臨床遺伝専門医が解説します。家族歴がなくても遺伝性のことがある点も大切です。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 遺伝性腫瘍・BRCA・リンチ症候群
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. がんは遺伝しますか?

A. がんそのものは遺伝しませんが、がんになりやすい体質(生まれつきの遺伝子の変化)は親から子へ受け継がれることがあります。国立がん研究センターは、がんになった人のおよそ5〜10%がこうした生まれつきの変化をもつとしています。変化を受け継いでも、必ずがんになるわけではありません。

  • ➤遺伝しやすいがん → 卵巣がん、乳がん、膵がん、前立腺がん(特に転移性)、大腸がん・子宮体がん、甲状腺髄様がん、網膜芽細胞腫など
  • ➤子に伝わる確率 → 親が病的バリアントをもつ場合、子に受け継がれる確率は2分の1。発症するかは別の話
  • ➤父方・母方 → どちらからも同じ確率で受け継がれる。男性から娘に伝わることもある
  • ➤調べ方 → 血液で調べる遺伝学的検査。2026年度からHBOCでは一部の血縁者も保険の対象に

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1. がんは遺伝するのか?「遺伝する」の正しい意味

結論からいうと、がんという病気そのものは遺伝しません。親から子へ伝わりうるのは、がんを発症しやすくする「生まれつきの遺伝子の変化」です。がんは、細胞の遺伝子に変化が積み重なり、細胞が無秩序に増えるようになって起こる病気です。その変化の多くは生まれた後に、加齢や喫煙、紫外線などの影響で細胞ごとに起こるもので、子どもに受け継がれることはありません。

がんそのものではなく「なりやすい体質」が遺伝する

一方、がんに関わる遺伝子に生まれつきの病的な変化(病的バリアント)をもつ人がいます。この変化は卵子や精子を通じて子どもに受け継がれる可能性があり、受け継いだ人は特定のがんを発症しやすくなります。こうしたがんを遺伝性腫瘍と呼び、遺伝性疾患のひとつとして扱われます。

ただし、生まれつきの変化があるからといって、必ずがんを発症するわけではありません[1]。

がん全体の約5〜10%が遺伝性腫瘍

がんになった人のうち、生まれつきの遺伝子の変化が発症に関わっているのは、およそ5〜10%と考えられています。国立がん研究センターのがん情報サービスは「がんになった人のおよそ5-10%は、がんの発症と関係する生まれつきの遺伝子の変化をもっている」としており[1]、米国国立がん研究所(NCI)も、がん全体の約5〜10%が親から受け継いだ有害な遺伝子の変化によると説明しています[2]。

つまり、がんの大部分は後から生じた変化によるものです。ただし割合はがんの種類で大きく異なり、遺伝性の割合が高いがんもあります。

生殖細胞系列の変化と体細胞の変化の違い

遺伝子の変化には2種類あります。受精卵の段階から全身の細胞がもつ生殖細胞系列の変化は子どもに受け継がれる可能性があり、生まれた後に一部の細胞だけに起こる体細胞の変化は受け継がれません。

詳しくは体細胞変異と生殖細胞系列変異のちがいをご覧ください。

がん遺伝子とがん抑制遺伝子

がん遺伝子のもとになる「がん原遺伝子」は、正常な状態でも細胞を増やす合図を担っている遺伝子で、変化によって働きが過剰になると、細胞の増殖を止められなくなります。がん抑制遺伝子は、細胞の増えすぎを抑えたり、傷ついたDNAを修復したりする遺伝子で、働きが失われるとがんが起こりやすくなります。

遺伝性腫瘍の多くは、がん抑制遺伝子やDNA修復遺伝子の2コピーのうち片方に、生まれつきの変化がある状態です。残る片方に後から変化が起これば働きが失われるため、がんまでの段差が一段低い状態と考えられています(クヌードソンの「ツーヒット仮説」)。

2. 遺伝しやすいがんランキング|遺伝性の割合が高いがん

公式の「遺伝しやすいがんランキング」はありません。ここでは、各研究・ガイドラインで報告された生殖細胞系列の病的バリアントの頻度や遺伝性腫瘍の特徴を比較し、検索上の「ランキング」という疑問に答える形で整理します。ただし、研究ごとに対象集団、病期、年齢、検査した遺伝子数が異なり、網膜芽細胞腫や甲状腺髄様がんは他のがんと同じ指標で比較できません。そのため、以下は厳密な順位ではなく、遺伝性を考える際の参考比較です。

🧬 遺伝しやすいがん|研究・ガイドライン別の遺伝性割合の目安

参考 がんの種類 遺伝性の割合の目安 主な原因遺伝子・症候群 対象となった研究
1 網膜芽細胞腫(小児) 両眼性は全患者の約4割で、孤発例でも生殖細胞系列RB1病的バリアントの存在確率はほぼ100%。片眼性の一部も遺伝性 RB1 GeneReviews[11]
2 甲状腺髄様がん 遺伝性の割合が高く、全患者にRET検査が推奨される RET(MEN2) 米国甲状腺学会ガイドライン[12]
3 卵巣がん 17.8%(BRCA1 8.3%、BRCA2 3.5%) BRCA1/2、ミスマッチ修復遺伝子 日本人・非選択[5]
4 前立腺がん 転移性で11.8%(限局性では4.6%)/日本人全体で2.9% BRCA2、ATM、HOXB13など 米国・転移性[10]/日本人[6]
5 膵がん 6.7%(BRCA2 2.5%、ATM 1.7%) BRCA2、ATM、BRCA1、PALB2 日本人[7]
6 乳がん 5.7%(40歳未満では15%) BRCA1/2、PALB2、TP53 日本人[4]
7 子宮体がん リンチ症候群関連バリアント5.0% MSH6、MSH2、MLH1など 日本人[8]
8 大腸がん リンチ症候群が約3%(海外の多遺伝子研究)/日本人の解析で1.0% ミスマッチ修復遺伝子、APC 国内ガイドライン[9]/日本人[8]

※研究ごとに対象(国・病期・年齢)や調べた遺伝子の数が異なり、同じ指標を直接比較した順位ではありません。網膜芽細胞腫は両眼性という臨床像、甲状腺髄様がんはRET検査推奨というガイドライン上の位置づけを含む参考比較です。大腸がんは、リンチ症候群以外の遺伝性(家族性大腸腺腫症など)も加わります。

同じがんでも、若い年齢で発症した人や、転移した状態の人ほど、遺伝性の割合が高くなる傾向があります。日本人の乳がん約7,000人の研究では、病的バリアントをもつ人は全体で5.7%、40歳未満で15%、80歳以上で3.2%でした[4]。

卵巣がん・乳がん・前立腺がん・膵がん:BRCA1/2(HBOC)

卵巣がん、乳がん、前立腺がん、膵がんに共通して関わるのが、BRCA1とBRCA2の遺伝子です。この2つの遺伝子に生まれつきの病的バリアントがある状態を遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)と呼びます。卵巣がんは、日本人の非選択の患者さんで17.8%に生まれつきの病的バリアントが見つかっており[5]、遺伝性の割合がとくに高いがんです。

日本人の前立腺がん約7,600人ではBRCA2の病的バリアントが1.1%に見つかり[6]、膵がん約1,000人でもBRCA2が最も多い原因遺伝子でした[7]。

大腸がん・子宮体がん:リンチ症候群と家族性大腸腺腫症

大腸がんと子宮体がん(子宮内膜がん)に関わる代表的な遺伝性腫瘍が、リンチ症候群です。日本人約11万人の解析では、大腸がんと子宮体がんの両方にかかった人の24.8%にリンチ症候群に関わるバリアントがあり、バリアントをもつ人は最大12.4年早く診断されていました[8]。

大腸がんには、大腸に数百〜数千のポリープができる家族性大腸腺腫症(FAP)もあります。治療しなければほぼ確実に大腸がんを発症する、浸透率の高い遺伝性腫瘍です[13]。

胃がん:遺伝性びまん性胃がん(CDH1)

胃がんの大部分はピロリ菌感染などが関わる遺伝性ではないものですが、一部に、CDH1遺伝子の変化でびまん性胃がんと乳がん(小葉がん)が起こりやすくなる遺伝性びまん性胃がんがあります。また、リンチ症候群でも胃がんのリスクが上がることが知られています[8]。

甲状腺髄様がん・小児のがん:MEN2、網膜芽細胞腫、リ・フラウメニ症候群

甲状腺がんのうち髄様がんと呼ばれるタイプは、RET遺伝子の変化による多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)として起こることがあり、米国甲状腺学会のガイドラインは、遺伝性ではないように見える患者さんにもRET遺伝子の検査を勧めています[12]。

子どもの眼にできる網膜芽細胞腫は、全体の約6割が片眼性、約4割が両眼性で、両眼性はほぼすべてがRB1遺伝子の生まれつきの変化による遺伝性です[11]。また、リ・フラウメニ症候群は、小児期から成人期にかけて副腎皮質がん、骨肉腫、軟部肉腫、脳腫瘍、乳がんなどが起こりやすい遺伝性腫瘍です[14]。

3. 代表的な遺伝性腫瘍症候群と原因遺伝子一覧

がんになりやすさに関わる代表的な遺伝子には、BRCA1/2、ミスマッチ修復遺伝子(MLH1・MSH2・MSH6・PMS2・EPCAM)、APC、TP53などがあります。遺伝子ごとに起こりやすいがんが決まっており、「遺伝性腫瘍症候群」と呼ばれます。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)

BRCA1またはBRCA2の病的バリアントによって、乳がん・卵巣がんを中心に、膵がん、前立腺がん、男性乳がんなどのリスクが上がります。欧米の約1万人の女性保因者を追跡した研究では、80歳までに乳がんを発症する累積リスクはBRCA1で72%、BRCA2で69%、卵巣がんはBRCA1で44%、BRCA2で17%でした[3]。これは欧米の集団での推定値で、一人ひとりの確率ではありません。

リンチ症候群

DNAの複製ミスを直すミスマッチ修復遺伝子(MLH1・MSH2・MSH6・PMS2)またはEPCAMの変化によって起こります。大腸がんと子宮内膜がんがとくに起こりやすく、そのほか胃、小腸、卵巣、膵臓、胆道、腎盂・尿管、脳、皮膚などのがんのリスクも上がります[21]。皮膚の腫瘍を伴うタイプはミュア・トール症候群と呼ばれます。

家族性大腸腺腫症(FAP)

APC遺伝子の変化によって、10代から大腸に多数の腺腫(ポリープ)ができます。治療をしないと大腸がんはほぼ避けられず、診断の平均年齢は39歳、50歳までに93%が発症するとされます[13]。

リ・フラウメニ症候群

「ゲノムの守護者」と呼ばれるTP53遺伝子の変化によって起こります。生涯にがんを発症するリスクは女性で約90%、男性で約70%と高く、がんの約半数は40歳までに起こるとされます。副腎皮質がん、乳がん、脳腫瘍、骨肉腫、軟部肉腫が中核となるがんです[14]。

その他の遺伝性腫瘍症候群

📋 そのほかの主な遺伝性腫瘍症候群

症候群 原因遺伝子 起こりやすい腫瘍
フォン・ヒッペル・リンドウ病 VHL 網膜・脳・脊髄の血管芽腫、腎細胞がん、褐色細胞腫、膵腫瘍
多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1) MEN1 副甲状腺、下垂体、膵臓などの内分泌腫瘍
多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2) RET 甲状腺髄様がん、褐色細胞腫
PTEN過誤腫腫瘍症候群(カウデン症候群) PTEN 乳がん、子宮内膜がん、甲状腺がん、腎細胞がん、大腸がん、皮膚・粘膜の過誤腫[15]
ポイツ・ジェガース症候群 STK11 消化管のポリープ、大腸・胃・膵・乳・卵巣のがん、子宮頸部の悪性腺腫[16]
遺伝性びまん性胃がん CDH1 びまん性胃がん、乳がん(小葉がん)
家族性黒色腫 CDKN2A、CDK4 皮膚の悪性黒色腫(CDKN2Aでは膵がんも)
PALB2関連遺伝性乳がん PALB2 乳がん、膵がん

※各症候群の詳細は、それぞれの疾患ページで解説しています。起こりやすいがんの種類と程度は、遺伝子や個人によって異なります。

4. 遺伝しにくいがん|環境要因が主なもの

遺伝の影響が比較的小さく、感染や喫煙など生まれた後の要因が主な原因となるがんもあります。代表的なのが子宮頸がんです。

子宮頸がん:主な原因はHPV感染

WHOは、子宮頸がんのほとんどすべてが発がん性のヒトパピローマウイルス(HPV)感染によって起こるとしています[17]。家族歴よりも、HPVワクチンと定期的な子宮頸がん検診が対策の中心です。

肺がん・食道がん・肝がん:喫煙・飲酒・ウイルス

肺がんや食道がんでは喫煙や飲酒が、肝がんではB型・C型肝炎ウイルスが大きな原因です。家族にこうしたがんが続いても、共通の生活習慣や感染が関わっていることが少なくありません。

「遺伝しにくい」は「遺伝の関与がゼロ」ではない

遺伝しにくいがんでも、遺伝の関与がまったくないわけではありません。たとえばBRCA2の病的バリアントをもつ人では、乳がんや卵巣がん以外のがんのリスクも研究されていますし、リンチ症候群では胃がんのリスクが上がります[8]。「このがんは遺伝しない」と決めつけるのではなく、家族全体でどのようながんが、何歳で起きているかを見ることが大切です。

5. 親ががんだと子どもに遺伝する確率は?

親ががんになったことだけで、子どもに遺伝する確率を決めることはできません。親が遺伝性腫瘍の病的バリアントをもっている場合に限り、その変化が子どもに受け継がれる確率は2分の1(50%)です。親のがんが既知の遺伝性腫瘍によるものでなければ、特定の病的バリアントについて「子どもに50%で受け継がれる」とは考えません。家族性集積には、複数の遺伝要因や共通する環境要因が関わる場合もあります。

親が病的バリアントをもつ遺伝学的検査で判明
▶
子に受け継がれる確率は1/2常染色体顕性遺伝
▶
受け継いでも発症は確率浸透率は遺伝子で異なる
▶
検診・予防で備える早期発見につなげる

病的バリアントが子に伝わる確率は50%(常染色体顕性遺伝)

多くの遺伝性腫瘍は常染色体顕性(優性)遺伝の形式をとります。子どもは両親から1コピーずつ遺伝子を受け取るため、親の一方が病的バリアントをもつ場合、それを受け継ぐ確率は2分の1で、性別によって変わりません[1]。

受け継いでも必ず発症するわけではない:浸透率

病的バリアントをもつ人のうち、実際にがんを発症する人の割合を浸透率といいます。浸透率は遺伝子によって大きく異なり、FAPのようにほぼ100%に近いものから、BRCA2の卵巣がんのように80歳までで2割弱というものまであります[3][13]。「受け継ぐ確率」と「発症する確率」は、別々に考える必要があります。

💡 用語解説:病的バリアントと浸透率

病的バリアントとは、遺伝子の配列の違いのうち、病気の原因になると判断されたものです。浸透率とは、病的バリアントをもつ人のうち、実際にその病気を発症する人の割合をいいます。同じ遺伝子でも、年齢、性別、家族歴、生活習慣などによって発症の起こりやすさは変わります。

家族にがんが多くても遺伝性とは限らない

がんは身近な病気で、家族や親戚にがんの人が複数いることは珍しくありません。家族は生活習慣を共有していることも多く、同じがんが続いても体質と無関係なことがあります。反対に、家族が少ない・病歴がわからないなどで、遺伝性なのに家族歴がはっきりしないこともあります。

集団の数字を、自分個人の確率に置き換えない

この記事の割合や累積リスクは集団での数字です。「親が乳がんだから、自分は○%の確率でがんになる」と、集団の数字をそのまま自分に当てはめることはできません。個人のリスクは、家系の病歴や遺伝学的検査の結果をもとに評価します。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「50%」という数字の読み方】

「遺伝性のがんは子どもに50%遺伝する」という言葉は、一人歩きしやすい数字です。50%は、親が病的バリアントをもっているとわかった場合に、それが子どもに伝わる確率です。親ががんになったことだけでは、この数字は当てはまりません。

さらに、受け継いだとしても発症するかどうかは浸透率しだいで、検診や予防の手段がある遺伝性腫瘍も少なくありません。数字は怖がるための材料ではなく、備えるための材料として使っていただくことが大切だと考えています。

6. がんはどこまで遺伝する?父方・母方・祖父母・きょうだい

がんになりやすい体質は、父方からも母方からも同じ確率で受け継がれます。祖父母、おじ・おば、いとこの病歴も、遺伝性を考える手がかりになります。遺伝性腫瘍の多くは性別に関係なく受け継がれるため、「母方の乳がんだけが問題」「父方は関係ない」ということはありません。

父方からも母方からも同じ確率で受け継がれる

BRCA1/2の病的バリアントは男性ももっていて、娘や息子に受け継がれます。男性は乳がんや卵巣がんになることが少ないため、父方では目立たないまま受け継がれていることがあります。父方の祖母・叔母の乳がんや卵巣がん、父方の膵がん・前立腺がんも大切な手がかりです。

祖父母・おじ・おば・いとこの病歴も手がかりになる

親・きょうだい(第1度近親者)だけでなく、祖父母・おじ・おば(第2度)、いとこ(第3度)まで、誰が何のがんに何歳でかかったかを整理します。こうした家族歴は、遺伝学的検査を検討する判断材料になります。祖父母ががんでも、途中の親が病的バリアントを受け継いでいなければ、孫に伝わることはありません。

家族歴がなくても遺伝性のことがある

本人の代で新しく生じた新生変異(de novo)による遺伝性腫瘍もあり、FAPで20〜25%、リ・フラウメニ症候群で7〜20%と報告されています[13][14]。この場合も、子どもには2分の1の確率で受け継がれます。

7. 遺伝性腫瘍を疑う家族歴のサイン(セルフチェック)

遺伝性腫瘍では、若くしてがんになる、同じ人が何度もがんになる、家系の中に同じ種類のがんの人が多い、といった特徴がみられます。国立がん研究センターもこうした特徴を挙げています[1]。次のような項目に当てはまる場合は、遺伝の専門医に相談することを検討してください。

✅ 遺伝性腫瘍を考えるきっかけになる家族歴

・本人または家族が、若い年齢(目安として50歳未満)でがんと診断された
・同じ家系(父方または母方の一方)に、同じ種類のがん、または乳がんと卵巣がん、大腸がんと子宮体がんのような関連するがんの人が複数いる
・同じ人が、転移ではない別のがんに2回以上かかった、または両側の乳がんになった
・卵巣がん、膵がん、転移性の前立腺がん、男性の乳がん、トリプルネガティブ乳がんの人がいる
・家族の中に、すでに遺伝性腫瘍の病的バリアントがわかっている人がいる

若い年齢での発症

がんは年齢とともに増える病気のため、若い年齢での発症は生まれつきの体質が関わる可能性を相対的に高めます。日本人の乳がんでは、40歳未満の15%に病的バリアントがありました[4]。

同じ家系に同じがん・関連するがんが複数

乳がん・卵巣がん・膵がん・前立腺がん(HBOC)、大腸がん・子宮体がん(リンチ症候群)のように、別の臓器のがんが同じ体質でつながっていることがあります。

1人に複数のがん・両側性のがん

転移ではない別のがんに何度もかかる場合や、両側の乳がんも、遺伝性を考えるきっかけです。

まれながん(男性乳がん・卵巣がん・膵がんなど)

NCIは、トリプルネガティブ乳がん、卵巣がん、膵がん、50歳未満の大腸がん、転移性前立腺がん、男性乳がんの人に遺伝学的検査を勧めています[2]。

家族歴がなくても遺伝性腫瘍は否定できない

「家族にがんが多いかどうか」は遺伝性腫瘍を考える重要な手がかりですが、家族歴だけで遺伝性腫瘍の有無を判断することはできません。家系が小さい場合、祖父母やおじ・おばなどの病歴が十分にわからない場合、がんを発症する年齢になる前に亡くなった血縁者がいる場合などには、遺伝性の体質があっても家族歴として表面化しないことがあります[25]。

また、遺伝性腫瘍の原因となる病的バリアントは、必ずしも親から受け継いだものとは限りません。本人で新たに生じるde novo(新生)の病的バリアントによって発症することもあります。たとえば家族性大腸腺腫症(FAP)ではAPC病的バリアントの約20〜25%、リ・フラウメニ症候群ではTP53病的バリアントの約7〜20%がde novoとされています[13][14]。BRCA1/2でもde novo病的バリアントは報告されていますが頻度は低く、12,805例を解析した研究ではBRCA1/2病的バリアント保有者に占めるde novoの割合は約0.3%と推定されました[26]。

したがって、「家族にがんがいないから遺伝性ではない」とは言えません。本人のがんの種類、発症年齢、複数の原発がんの有無なども重要です。遺伝性腫瘍が疑われる場合、原因となる病的バリアントの有無を確認するには遺伝学的検査が必要です。

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8. 遺伝性のがんかどうかを調べる方法

遺伝性のがんかどうかは、血液などで生まれつきの遺伝子の変化を調べる「遺伝学的検査」で確かめます。結果は血縁者にも関わるため、検査の前後に専門医の説明を受けることが大切です。

血液で調べる遺伝学的検査と、腫瘍で調べるがん遺伝子パネル検査の違い

「がんの遺伝子検査」には2種類あります。ひとつは血液などで生まれつきの病的バリアントを調べる遺伝学的検査で、遺伝性腫瘍の診断に使います。

もうひとつは、がん組織の遺伝子を調べて治療薬を選ぶ「がん遺伝子パネル検査」で、標準治療がない、または終わる見込みの固形がんの患者さんなどが保険で受けられます[22]。その過程で生まれつきの病的バリアントの可能性が見つかることもあります。

保険で検査できる条件

BRCA1/2の遺伝学的検査は、2020年度から、乳がんまたは卵巣がんを発症しHBOCが疑われる人の診断に保険が使えるようになり、がんを発症しHBOCと診断された人のリスク低減手術やサーベイランスも保険の対象になりました[18]。治療薬を選ぶための検査としては、一部の乳がん、卵巣がん、膵がん、前立腺がんの患者さんが対象です[19]。

2026年度の診療報酬改定では、血液の検査でHBOCと診断された人の父母・子・きょうだいも、がんを発症していなくてもBRCA1/2検査の保険算定の対象に加わりました[19]。ただし関連学会からは、承認されている検査方法とガイドラインの推奨との間の食い違いについて要望書が出されており[20]、実際にどの検査を保険で受けられるかは、受診する医療機関で確認が必要です(2026年9月時点の情報)。

一方、リンチ症候群では、がんの組織を使うマイクロサテライト不安定性(MSI)検査は保険で受けられますが、生まれつきのミスマッチ修復遺伝子を調べる遺伝学的検査は保険適用外とされています[21]。

自費の多遺伝子パネル検査

保険の条件に当てはまらない人が体質を調べたい場合は、自費の遺伝学的検査を利用します。多遺伝子パネル検査なら、一つの症候群にしぼりきれない場合も関連遺伝子をまとめて確認できます。ミネルバクリニックでは、がんに関わる154遺伝子を血液で調べる遺伝性がん遺伝子検査を提供しています。

検査の前に遺伝カウンセリングを受ける

結果は陽性・陰性だけでなく、判断できない「VUS(臨床的意義不明のバリアント)」のこともあり、目的とは別の病気に関わる病的バリアント(二次的所見)が見つかることもあります。検査の前に遺伝カウンセリングで、わかること・わからないことと結果後の選択肢を確認しておきましょう。

陰性でも「がんにならない」わけではない

遺伝学的検査で病的バリアントが見つからなくても、「がんにならない」という意味ではありません。陰性は、調べた遺伝子に、その検査で見つけられる病的バリアントがなかったという意味です。一般の人と同じリスクはあり、家族で原因がわかっていない場合の陰性は「遺伝性ではない」とまでは言えません。家族歴が濃ければ、陰性でも家族歴に応じた検診が勧められることがあります。

9. 遺伝性のがん体質がわかったらできること

体質がわかると、早い年齢からの検診、リスクを下げる手術、治療薬の選択、血縁者への情報提供など、具体的な選択肢が生まれます。

検診の開始を早め、頻度を上げる(サーベイランス)

検診の開始年齢や間隔は症候群ごとに決められています。FAPでは10〜15歳から1〜2年ごとの大腸内視鏡検査が[13]、リ・フラウメニ症候群では子どもの頃からの年1回の全身MRIなどが[14]、ポイツ・ジェガース症候群では8歳からの検査が勧められています[16]。

リスク低減手術

HBOCでは、がんを発症する前に卵巣・卵管を切除するリスク低減卵巣卵管摘出術(RRSO)や、リスク低減乳房切除術という選択肢があります。RRSOは、BRCA1/2の病的バリアントをもつ人の卵巣がんのリスクを大きく下げることが、複数の研究をまとめた解析で示されています[24]。時期は年齢や出産の希望、閉経による影響を考え合わせて決めます。

治療選択への活用

体質は治療選択にも関わります。BRCA1/2の病的バリアントがある乳がん・卵巣がん・膵がん・前立腺がんでは、PARP阻害薬が使えるかを判断するためにBRCA1/2検査が行われます[19]。また、リンチ症候群などで見られるマイクロサテライト不安定性が高いがんでは、免疫チェックポイント阻害薬が選択肢になることがあります。

血縁者への情報共有とカスケード検査

家族の誰かに病的バリアントが見つかった場合、同じ変化を受け継いでいる可能性のある血縁者に、順に検査を広げていく方法をカスケード検査といいます。HBOCでは2026年度から、診断された人の父母・子・きょうだいの検査が保険の対象に加わりました[19]。

成人期に発症する病気の子どもへの発症前検査は、原則として本人が成人して自分で判断できるまで延期すべきとされ、子どものうちに発症しうる病気で早い対応に大きな利点がある場合は検討されます[23]。

誰にでも共通するがん予防の生活習慣

遺伝性かどうかにかかわらず、禁煙、節度ある飲酒、バランスのよい食事、適度な運動、適正体重の維持は、がん予防の基本です。体質は変えられなくても、生活習慣と検診は今日から見直せます。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【知ることは、備えることにつながる】

遺伝性腫瘍は、病的バリアントを受け継いだ人が必ずがんを発症することを意味しません。原因となる体質がわかることで、症候群に応じたサーベイランス、リスク低減手術、治療選択などを検討できる場合があります。

病的バリアントが同定された場合、その情報は血縁者のリスク評価やカスケード検査にも利用できます。臨床遺伝学とがん薬物療法の知見を踏まえ、遺伝情報を検診・予防・治療の選択に適切につなげることが重要です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 親ががんだと子どもに遺伝しますか?

がんそのものは遺伝しません。親のがんが遺伝性腫瘍(生まれつきの病的バリアントによるもの)だった場合に限り、その「なりやすい体質」が子どもに2分の1の確率で受け継がれます。

Q2. 遺伝しやすいがんのランキングはありますか?

公式のランキングはありません。患者さんのうち遺伝性の割合が高いがんとしては、網膜芽細胞腫、甲状腺髄様がん、卵巣がんがあり、次いで前立腺がん(特に転移性)、膵がん、乳がん、子宮体がん、大腸がんなどが挙げられます。

Q3. がんが遺伝する確率は何パーセントですか?

がん全体では、およそ5〜10%が生まれつきの遺伝子の変化によるものと考えられています。親が病的バリアントをもっている場合、子どもに受け継がれる確率は50%ですが、受け継いでも発症するかどうかは遺伝子ごとの浸透率によって異なります。

Q4. 父方と母方、どちらのがんが遺伝しやすいですか?

遺伝性腫瘍の多くは常染色体顕性遺伝の形式をとるため、父方からも母方からも同じ確率で受け継がれます。父親から娘にBRCA1/2の病的バリアントが伝わることもあります。

Q5. 祖父母ががんの場合、孫に遺伝しますか?

祖父母のがんが遺伝性だった場合でも、孫に伝わるのは、間の親がその病的バリアントを受け継いでいる場合だけです。親が受け継いでいれば孫に伝わる確率は2分の1、親が受け継いでいなければ孫には伝わりません。

Q6. 遺伝しないがんはありますか?

遺伝の影響が比較的小さいがんはあります。代表的なのは子宮頸がんで、ほとんどがHPV感染によって起こります。ただし、遺伝の関与がまったくないとは言い切れません。

Q7. 自分が「がん家系」か調べる方法はありますか?

まず、父方・母方の両方について、誰が何のがんに何歳でかかったかを整理します。若い年齢での発症や同じ系統のがんの集まりがあれば、遺伝カウンセリングで評価を受け、必要に応じて血液の遺伝学的検査で生まれつきの病的バリアントの有無を調べます。

Q8. 遺伝子検査で陰性ならがんになりませんか?

いいえ。陰性は、調べた遺伝子に、その検査で見つけられる病的バリアントがなかったという意味で、がんにならないという保証ではありません。家族歴が濃い場合は、陰性でも家族歴に応じた検診が勧められることがあります。

Q9. 遺伝性とわかったら、子どもにも検査を受けさせるべきですか?

成人になってから発症する遺伝性腫瘍の発症前検査は、原則として子ども本人が成人して自分で判断できるまで待つことが推奨されています。ただし、FAPやリ・フラウメニ症候群、網膜芽細胞腫など、子どものうちに発症しうる病気で早い対応に利点がある場合は、未成年での検査が検討されます。

まとめ

がんそのものは遺伝しませんが、がんになりやすい体質は受け継がれることがあり、がんになった人のおよそ5〜10%がこうした生まれつきの変化をもっていると考えられています[1]。遺伝性の割合が高いのは、網膜芽細胞腫、甲状腺髄様がん、卵巣がん、転移性の前立腺がん、膵がん、乳がん、子宮体がん、大腸がんなどです。

子に受け継がれる確率は父方・母方を問わず2分の1ですが、受け継いでも必ず発症するわけではなく、集団の数字をそのまま個人の確率に置き換えることはできません。家族歴が気になる場合は、検診や予防の選択肢を専門医と考えていくことが大切です。

🧬 遺伝性のがんが気になる方へ

ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医でがん薬物療法専門医の院長が、家族歴の評価から検査の選び方、結果の説明までを担当します。がんに関わる154遺伝子を調べる遺伝性がん遺伝子検査も、オンライン診療を利用して全国から受けていただけます。

参考文献

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、
臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。
のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、
検査結果の数値そのものだけでなく、
「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、
一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、
日本人として異文化の中で生活した経験があります。
価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。
この経験は現在の診療においても、
「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、
36週6日で一人を死産した経験があります。
その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、
そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。
現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、
出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、
家族の未来に関わる重要な意思決定です。
年齢や統計だけで判断するのではなく、
医学的根拠と心理的支援の両面から、
ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/
日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。
2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、
複数の海外メディア・専門誌で特集掲載
されました。

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