この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

サラセミアとは、赤血球の中で酸素を運ぶヘモグロビンの部品(グロビン鎖)が、生まれつき十分につくれないために起こる貧血です。鉄が足りない貧血とは原因が違うので、鉄剤を飲んでも赤血球の小ささは治りません。健康診断で「貧血気味」「赤血球が小さい」と言われ、鉄剤を続けても変わらない方は、鉄欠乏とは別の原因を確かめる意味があります。生まれ持った遺伝子は一生変わりません。一度の検査でわかったことは、ご自身の健康管理だけでなく、これからの妊娠・出産の計画や、ご家族が自分のことを考える手がかりにもなります。このページでは、サラセミアの症状・原因・遺伝のしかたと、αサラセミアの原因遺伝子HBA1・HBA2を調べる遺伝子検査でわかることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
αサラセミアの原因となるHBA1・HBA2の2つの遺伝子を、遺伝子の文字の変化(塩基配列)と、遺伝子ごと欠けていないか(欠失・重複)の両方から調べます。αサラセミアの原因で多いのは遺伝子の欠失なので、この2つを組み合わせて確かめます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
鉄剤で治らない小球性貧血がある方、ご家族やパートナーにサラセミアの方がいる方、東南アジアなどにルーツのある方、前の妊娠で赤ちゃんの胎児水腫を指摘された方、妊娠の前に保因者かどうかを知りたい方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。血液・唾液・頬の粘膜で検査でき、オンライン診療にも対応しています。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。保因者とわかれば、パートナーの検査で赤ちゃんのリスクを具体的に計算できます。意義がまだわからない変化(VUS)が見つかったときの扱いもご説明します。
1. サラセミアとは:鉄ではなく「ヘモグロビンの部品」が足りない貧血
サラセミアは、ヘモグロビンをつくるグロビン鎖という部品が、遺伝子の変化のために十分につくれない遺伝性の貧血です。赤血球は小さく、色の薄いもの(小球性・低色素性)になります。「地中海貧血」とも呼ばれます。
大人のヘモグロビンは、α(アルファ)グロビン鎖2本とβ(ベータ)グロビン鎖2本が組み合わさってできています。どちらの部品が足りないかで、サラセミアは大きく2つに分かれます。
αサラセミアとβサラセミアの違い
🧬 αサラセミアとβサラセミアの違い
※出典:αサラセミアの遺伝子と原因の内訳はGeneReviews[1]、βサラセミアの日本の変化の数はHattori[2]。
このページの検査はαサラセミアを調べるものです。βサラセミアについてはβサラセミアのページ、原因のHBB遺伝子のページで解説しています。サラセミア全体の治療(輸血・鉄を外に出す薬・新しい治療薬)までの詳しい解説は、サラセミア総論をご覧ください。
よく比べられる鎌状赤血球症は、βサラセミアと同じHBB遺伝子の変化で起こる、サラセミアとは別のヘモグロビンの病気です。HBA1・HBA2を調べるこの検査の対象ではありません。
日本人にはどれくらいいるか
日本人のサラセミアを調べた報告では、βサラセミアは一般の人の600〜1,000人に1人、1本の染色体でα遺伝子が1つ欠けたタイプ(-α)は400人に1人とされています[2]。同じ報告では、1本の染色体でα遺伝子が2つとも欠けたタイプ(–)はβサラセミアの約5分の1の頻度で、αサラセミアの患者さんの半数以上が「東南アジア型」の欠失だったとされています。日本ではHbH病の17家系が見つかっていました[2]。
小児慢性特定疾病情報センターは、日本人のαサラセミアの頻度を3,500人に1人程度としています(2014年の情報、2026年10月に確認)。数字が違うのは、どのタイプまで数えるか、どう調べたかが違うためです。1つ欠けただけのタイプは血液検査でもほとんど異常が出ないので、実際には気づかれていない人も多いと考えられます。
マラリアの少なかった日本ではサラセミアはまれな病気ですが、日本のサラセミアの多くは症状がなく、赤血球が小さいこと以外に目立った異常がないとされています。日本のβサラセミアの多くは軽い型で、鉄欠乏性貧血と間違えられやすいとも報告されています[2]。
2. αサラセミアの症状:4つあるα遺伝子のうち、いくつ働かないかで決まる
αサラセミアの重さは、4つあるα遺伝子(両親から2つずつ受け継ぐHBA1・HBA2)のうち、いくつが働かないかでほぼ決まります。1つなら症状はほとんどなく、4つともなければお腹の赤ちゃんが重い貧血になります[1]。
🩸 働かないα遺伝子の数と、αサラセミアの重さ
※数値はGeneReviews(2026年4月更新)に示された平均値です[1]。「-α」は1本の染色体でα遺伝子が1つ欠けた状態、「–」は2つとも欠けた状態、「αα」は2つとも働いている状態を表します。
保因者(サイレントキャリア・αサラセミア形質):ふだんの生活に困ることはほとんどない
働かないα遺伝子が1つか2つの方は、αサラセミアの保因者です。症状はほとんどなく、治療も要りません。ただ、ご自身が元気でも、パートナーも保因者だと、お子さんに重い型が起こることがあります(第4章)。保因者かどうかを知る意味は、ご自身の健康よりも、これからの家族計画のほうにあります。
HbH病:中くらいの貧血と、気をつけたい場面
HbH病では、α鎖が大きく不足し、余ったβ鎖が4本集まった「ヘモグロビンH(HbH)」ができます。特殊な染色をすると、5〜80%の赤血球の中にHbHのかたまり(封入体)が見えます。GeneReviewsによると、HbH病の多くの方は治療なしで過ごせますが、溶血が強くなったときには輸血が必要になることがあります[1]。
欠失ではない種類の変化(たとえば東南アジアに多いHb Constant Springという変化)が組み合わさったHbH病は、より重い傾向があります。1.5〜3.5歳ごろに診断されることが多く、約3分の1が定期的な輸血を必要とするとされています[1]。同じ「HbH病」でも、どの変化の組み合わせかで見通しが変わるため、遺伝子の変化の種類まで確かめることに意味があります。
「サラセミアの寿命」が気になる方も多いと思います。保因者(サイレントキャリア・αサラセミア形質)の方の暮らしは、保因者でない方と変わりません。HbH病は、溶血が強くなる場面への備えや鉄のたまり具合の確認など、病気に合った管理を続けることが大切です。重い型の見通しは、遺伝子の変化の組み合わせによって違います。
Hb Bart’s胎児水腫症候群:お腹の赤ちゃんと、お母さんの体に起こること
4つのα遺伝子がすべて働かないと、お腹の赤ちゃんは胎児期から重い貧血になり、全身がむくむ「胎児水腫」になります。GeneReviewsによると、超音波検査では妊娠22〜28週ごろに全身のむくみ・腹水・胸水などが見られ、早ければ13〜14週ごろに首の後ろのむくみ(NT)の厚さや胎盤の厚さで気づかれることもあります[1]。
この病気はお母さんの体にも負担をかけます。妊娠高血圧腎症、羊水の多すぎ・少なすぎ、出血、早産などの合併症が知られています[1]。妊娠の前に、ご夫婦それぞれが保因者かどうかを知っておく大きな理由のひとつです。
近年は、お腹の中の赤ちゃんに輸血をする「胎児輸血」によって生まれてくる赤ちゃんもいます。生存した69人を集めた国際的な登録研究では、77%が生まれたあとも定期的な輸血を続けており、評価できた55人のうち20%(11人)に6か月以上の重い発達の遅れがありました。胎児期の治療は出産の前後には役立つものの、長期の成長や発達にまで上乗せの効果があるかはわからない、とされています[3]。
3. 鉄剤が効かない理由と、鉄欠乏性貧血との見分け方
サラセミアで赤血球が小さいのは、鉄が足りないからではなく、ヘモグロビンの部品(グロビン鎖)がつくれないからです。そのため、鉄剤を飲んでも赤血球の小ささは治りません。
なぜ「鉄剤は禁忌」と言われるのか
鉄が足りていない場合は、サラセミアの方でも鉄の補充が必要です。問題になるのは、鉄が足りているのに、鉄欠乏性貧血と思って鉄剤を飲み続けることです。鉄剤では赤血球の小ささは治らないうえ、鉄が体にたまる心配があります。GeneReviewsは、HbH病の方では必要のない鉄剤を避けること、そして血液のフェリチンで鉄のたまり具合を定期的に確かめることを勧めています[1]。また、赤血球を傷めやすい酸化作用のある薬も避けるよう勧めています[1]。
「サラセミアだから鉄剤は絶対にだめ」というより、鉄が本当に足りないかを確かめてから使う、と考えると正確です。そのためにも、まず「貧血の原因が鉄欠乏なのか、サラセミアなのか」をはっきりさせることが大切です。
サラセミアインデックス(Mentzer index)と、その限界
💡 用語解説:Mentzer index(メンツァー・インデックス)
赤血球の大きさ(MCV、単位fL)を赤血球の数(100万/μL単位)で割った数字です。1973年にMentzerが提案したもので[5]、13より大きければ鉄欠乏性貧血、13未満ならサラセミアを考える目安として使われてきました[4]。「サラセミアインデックス」と呼ばれることもあります。
ただし、これは目安であって、診断ではありません。サウジアラビアの小児を対象にした研究では、Mentzer indexは信頼できる見分け方とは言えず、とくにαサラセミアが疑われた子どもでは、見つけられた割合(感度)は34%にとどまりました[4]。この研究でも、αサラセミアの確定には遺伝子検査が必要とされています。
血液検査の数字だけでは、αサラセミアかどうかも、何個のα遺伝子が働いていないかもわかりません。鉄剤を飲んでも赤血球の小ささが変わらない、フェリチンが低くないのに赤血球が小さい、という場合は、遺伝子検査で原因を確かめる意味があります。
4. 遺伝のしかた:ご夫婦の組み合わせで赤ちゃんのリスクが変わる
αサラセミアは常染色体潜性(劣性)遺伝の病気です。ご夫婦それぞれの「欠け方のタイプ」の組み合わせで、赤ちゃんに起こりうることが決まります[1]。
2つのタイプ:1つ欠けた「-α」と、2つとも欠けた「–」
α遺伝子は16番染色体の上に、HBA2とHBA1の2つが並んでいます。人は16番染色体を父親と母親から1本ずつ受け継ぐので、α遺伝子は合計4つです。1本の染色体の中で1つだけ欠けたものを「α⁺(アルファプラス)型、-α」、2つとも欠けたものを「α⁰(アルファゼロ)型、–」と呼びます。
よく見つかる欠失には名前がついていて、1つ欠ける型には-α3.7・-α4.2、2つとも欠ける型には–SEA(東南アジア型)・–FIL・–THAI・–MEDなどがあります[1]。欠失の範囲は人によって違い、どの型かで赤ちゃんのリスクの計算が変わります。
ご夫婦がどちらも保因者のときの、お子さん1人ごとの確率
👪 ご夫婦の組み合わせと、お子さん1人ごとの確率
※出典:GeneReviews[1]。確率はお子さん1人ごとのもので、上のお子さんの結果によって下のお子さんの確率は変わりません。
⚠️ 「保因者どうしなら必ず25%で重い型」ではありません
赤ちゃんがHb Bart’s胎児水腫になるのは、ご夫婦の両方が「–」(2つとも欠けた型)を持っているときです。片方が「-α」(1つ欠けた型)だけなら、重い型はHbH病までです。つまり、「保因者かどうか」だけでなく「どの型の保因者か」までわからないと、赤ちゃんのリスクは計算できません。血液検査では、「–/αα」と「-α/-α」はどちらも同じような軽い形質に見えますが、赤ちゃんへのリスクはまったく違います。これを区別できるのが遺伝子検査です。
同じ「形質」でも、中身が違う理由
「-α/-α」は、2本の染色体にそれぞれ1つずつ欠けがある状態で、子どもに渡すのは必ず「-α」です。一方「–/αα」は、片方の染色体に2つの欠けがまとまっていて、2分の1の確率で「–」を子どもに渡します。どちらの染色体にどの変化が乗っているかを確かめるために、ご両親など血縁者の検査が役に立つことがあります。2つの違う変化を1つずつ持つ状態を複合ヘテロ接合といい、2本の染色体それぞれの遺伝子を対立遺伝子(アレル)といいます。
日本ではαサラセミアの患者さんの半数以上が東南アジア型の欠失(–SEA)だったという報告があり[2]、日本人どうしのご夫婦でも「–」の組み合わせが起こらないとは言えません。
5. どんな人がこの検査を受けるとよいか
鉄剤で治らない小球性貧血の原因を確かめたい方と、妊娠の前・妊娠中に赤ちゃんのリスクを知りたい方に向く検査です。見た目や血液検査の数字だけでは判断できないことが多いので、迷ったら遺伝カウンセリングで状況をお聞かせください。
鉄剤で治らない小球性貧血がある方
- ●鉄剤を飲んでも赤血球の小ささ(MCVの低さ)が変わらない方
- ●フェリチンや血清鉄が低くないのに、赤血球が小さい方
- ●健康診断で毎年「赤血球が小さい」と言われる方、Mentzer indexが13未満と言われた方
- ●原因のわからない溶血性貧血、脾臓の腫れ、黄疸がある方
原因がわからないまま、鉄剤を飲んだりやめたりを繰り返す時間を、1回の検査で終わらせられる可能性があります。原因がαサラセミアとわかれば、必要のない鉄剤を避けることができ、ご家族への影響も考えられるようになります。
ご家族・パートナーにサラセミアの方がいる方、東南アジアなどにルーツのある方
ご家族にサラセミアの方がいる場合、ご自身も同じ変化を受け継いでいる可能性があります。また、–SEAなどのαサラセミアの欠失は東南アジアでとても多く、公衆衛生上の大きな課題とされています[1]。ご自身やパートナーのルーツが東南アジア・地中海沿岸・アフリカなどにある方は、妊娠の前に調べておくと計画が立てやすくなります。
妊娠を考えている方・前の妊娠で胎児水腫を指摘された方
妊娠の前に保因者かどうか、そしてどの型の保因者かを知っておけば、パートナーの検査、そして妊娠したときの出生前診断まで計画できます。前の妊娠で赤ちゃんが胎児水腫になり、原因がわからないままの方にとっては、ご夫婦がαサラセミアの保因者かどうかを調べることが、次の妊娠への備えにつながります。原因がわかっていれば、次の妊娠で赤ちゃんに同じことが起きているかを、出生前診断で確かめることができます。原因がわからないままでは、何を調べればよいか決められません。
この検査より別の検査が向いている場合
6. この検査で調べる遺伝子と、わかる病気
この検査では、αグロビン鎖をつくるHBA1とHBA2の2つの遺伝子を調べます。どちらも16番染色体の短い腕の端近く(16p13.3)にあり、よく似た配列をしています。
🧬 対象遺伝子(2遺伝子)と関係する病気
※病気とOMIM番号はUniProtのHBA1/HBA2の項目(OMIM番号つき)、遺伝のしかたはGeneReviews[1]で確認しました(2026年10月)。Hb Bart’s胎児水腫症候群は、αサラセミアの最も重い型です。
αサラセミアのご家族では、HBA1とHBA2の両方に1つずつ働かない変化がある状態が多く見られます。GeneReviewsによると、αサラセミアと診断された方の98%以上でHBA1・HBA2の病的な変化が見つかり、その約85%はよく知られた欠失、約15%は遺伝子の文字の変化でした[1]。欠失と文字の変化の両方を調べるのは、このためです。
見つかった変化が病気の原因になるかどうかは、国際的な基準で「病的バリアント」「意義不明(VUS)」などに分けて報告します。
7. この検査でわかること・わからないこと
遺伝子の文字の変化と、遺伝子ごとの欠失・重複がわかります。一方、遺伝子の外側にある調節領域の変化など、この検査の方法では見つけられない変化もあります。
わかること
- ●HBA1・HBA2の、遺伝子の文字が1つ変わる変化や、短い挿入・欠失(遺伝子の読み取り部分と、その境目)
- ●遺伝子が丸ごと欠ける・増える変化(欠失・重複)。見つかった欠失・重複は、qPCR法やMLPA法という別の原理の方法でもう一度確かめてから報告します
- ●調べる範囲の99%以上を、同じ場所を20回以上読み取る精度で調べます(読み取りが不十分な場所は、サンガー法という別の方法で補います)
わからないこと
- ●遺伝子の働きを調節する領域(プロモーターなど)や、遺伝子の中でも読み取り部分から離れた場所(深部イントロン)の変化。αサラセミアには、HBA1・HBA2そのものは残っていて、その上流の調節領域だけが欠けるまれなタイプ(1%未満)があり[1]、この検査では見つからないことがあります
- ●エクソン1つ分だけの小さな欠失・重複(ときに見つかることはありますが、いつも見つけられるわけではありません)。2つ以上つながったエクソンの欠失・重複がわかるのは血液の検体のときです
- ●染色体の一部が入れ替わる変化(転座・逆位)や、体の一部の細胞だけにある変化(モザイク)
- ●HBA1とHBA2はとてもよく似た配列のため、ほかのよく似た配列(偽遺伝子など)の影響で、変化を正しく読み取りにくい場所が残ることがあります
- ●HBB遺伝子(βサラセミア・鎌状赤血球症)や、ATRX遺伝子など、ほかの遺伝子の変化
病的な変化が見つからなくても、αサラセミアを完全に否定できるわけではありません。まれな変化や複雑な組み換えは見つからないことがあるため、血液検査の結果やご家族の状況と合わせて考えます。また、病気との関係がまだわからない変化(VUS)が見つかることがあります。
8. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけを郵送やメールでお送りすることはしていません。報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
病的な変化が見つかったとき
何個のα遺伝子が働いていないか、どの型の欠失かがわかり、保因者なのか、HbH病なのかがはっきりします。保因者なら、ご自身の治療は必要ありません。HbH病なら、溶血が強くなる場面への備え、必要のない鉄剤や酸化作用のある薬を避けること、鉄のたまり具合の確認など、これからの管理の方針が立ちます[1]。HbH病の治療では、米国で2025年にミタピバットという薬が大人のαサラセミアの貧血に対して承認されたと、GeneReviews(2026年4月更新)が伝えています[1]。日本で使えるかどうかは、血液内科の主治医にご確認ください。
ご家族への影響と、ご家族の検査
あなたの1回の検査結果は、ご両親・きょうだい・お子さんが自分の状態を知る手がかりになります。ご家族で原因の変化がわかっていれば、血縁者はその変化があるかどうかを確かめることができます。とくに、きょうだいがこれから結婚・妊娠を考えるときに、保因者かどうか、どの型の保因者かを知る手がかりになります。パートナーの方が検査を受ければ、お子さんへのリスクを第4章の表のように具体的に考えられます。
妊娠を考えている方:出生前診断への道筋
ご夫婦の原因の変化がわかっていれば、妊娠したときに、赤ちゃんに同じ変化があるかを調べることができます。GeneReviewsも、病的な変化がわかっていれば出生前の検査ができるとしています[1]。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。出生前診断を行えるかどうかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断しますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。羊水検査・絨毛検査については羊水検査・絨毛検査のページをご覧ください。
日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-Mが行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-M(着床前診断)を考えている方へで解説しています。
なお、当院のNIPTで調べる単一遺伝子(ダイヤモンドプラン・インペリアルプランの対象遺伝子)には、HBA1・HBA2は含まれていません。
病的な変化が見つからなかったとき
赤血球が小さい原因が、αサラセミア以外にあるかを考えます。βサラセミア、鉄欠乏、ほかの遺伝性の貧血などが候補になり、血液検査の結果に応じて次の検査を考えます。第7章のとおり、この検査では見つからないタイプのαサラセミアもあるため、結果は血液の所見と合わせて解釈します。
意義がまだわからない変化(VUS)が見つかったとき
VUSは、病気の原因かどうかが現時点では決められない変化です。VUSだけを根拠に診断したり、ご家族の検査や出生前診断に使ったりはしません。研究が進んで評価が変わることもあります。扱い方はVUS(意義不明変異)の臨床的取り扱いでも解説しています。調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合(二次的所見)の扱いは、当院の二次的所見の開示方針のとおりです。
結果の報告書の言語
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。
9. 日本の制度(2026年10月時点)
サラセミアは、小児慢性特定疾病の対象です(血液疾患の「遺伝性溶血性貧血」に含まれる「サラセミア」)。一方、難病情報センターの指定難病の一覧には、サラセミアの名前は見当たりませんでした(2026年10月に確認)。小児慢性特定疾病の医療費の助成を受けるには、制度の認定の条件を満たす必要があります。
当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
10. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。血液・唾液・頬の粘膜のいずれでも検査でき、オンライン診療にも対応しています。
ご予約
▶
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
▶
検体の採取血液・唾液・頬の粘膜
▶
結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
オンライン診療(ビデオ通話)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただく流れです。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えや品質の問題を防ぐため、キットが届く前にご自身で検体を採取しないでください。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。遺伝カウンセリングについては遺伝カウンセリングとは、遺伝子検査全般のメリット・デメリットは遺伝子検査(遺伝学的検査)とはで解説しています。
11. 院長コラム
🩺 院長コラム【「軽い貧血だから」で終わらせないでほしい理由】
αサラセミアの保因者の方は、ほとんどがお元気です。健康診断で「少し赤血球が小さいですね」と言われるくらいで、鉄剤を飲んで様子を見ることも多いと思います。ご自身の健康だけを考えれば、それで困ることはあまりありません。
けれども、αサラセミアは「どの型の保因者か」によって、お子さんに起こりうることがまったく違う病気です。血液検査では同じように見える2人が、片方はお子さんに重い型が起こりえない組み合わせ、もう片方はパートナー次第で赤ちゃんが胎児水腫になりうる組み合わせ、ということがあります。そして胎児水腫は、赤ちゃんだけでなくお母さんの体にも負担をかけます。だから私は、軽い貧血だからこそ、妊娠の前に一度、遺伝子で確かめておく意味があると考えています。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知ったうえで妊娠を考えたい方には、パートナーの検査から出生前診断まで、当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. サラセミアとは、どんな病気ですか?
ヘモグロビンの部品であるグロビン鎖が、遺伝子の変化のために十分につくれない遺伝性の貧血です。赤血球が小さく色の薄いものになります。αグロビン鎖が足りないものをαサラセミア、βグロビン鎖が足りないものをβサラセミアといい、原因の遺伝子が違います。
Q2. サラセミアはなぜ鉄剤が禁忌と言われるのですか?
サラセミアで赤血球が小さいのは鉄が足りないからではないため、鉄剤では治らず、鉄が足りているのに飲み続けると体に鉄がたまる心配があるからです。鉄が本当に足りないときは補充が必要なので、「鉄が足りないかを確かめてから使う」と考えるのが正確です。
Q3. サラセミアは日本人に何人に1人くらいいますか?
日本人を調べた報告では、βサラセミアは600〜1,000人に1人、α遺伝子が1つ欠けたタイプのαサラセミアは400人に1人とされています。小児慢性特定疾病情報センターは、αサラセミアを3,500人に1人程度としています。数え方や調べ方で数字は変わります。
Q4. 子どもに遺伝する確率は?
αサラセミアは常染色体潜性遺伝で、確率はご夫婦の「欠け方のタイプ」の組み合わせで決まります。たとえば、ご夫婦がどちらもα遺伝子が2つとも欠けた型(–/αα)の保因者なら、お子さん1人ごとにHb Bart’s胎児水腫が25%、保因者が50%、保因者でないが25%です。片方が1つ欠けた型だけなら、重い型はHbH病までです。
Q5. サラセミアの寿命は短いのですか?
保因者(サイレントキャリア・αサラセミア形質)の方の暮らしは、保因者でない方と変わりません。HbH病の多くの方は治療なしで過ごせますが、溶血が強くなる場面への備えや鉄の管理が大切です。重い型の見通しは、遺伝子の変化の組み合わせによって違います。
Q6. サラセミアは指定難病ですか?
サラセミアは小児慢性特定疾病の対象です。一方、難病情報センターの指定難病の一覧には、サラセミアの名前は見当たりませんでした(2026年10月時点)。医療費の助成を受けるには、制度の認定の条件を満たす必要があります。
Q7. αサラセミアの遺伝子検査の費用はいくらですか?
当院のαサラセミア遺伝子検査は税込330,000円で、結果までは2〜3週間です。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
Q8. サラセミアと鎌状赤血球症の違いは何ですか?
どちらもヘモグロビンの病気ですが、鎌状赤血球症は、βサラセミアと同じHBB遺伝子の変化で起こる、サラセミアとは別の病気です。この検査はαサラセミアのHBA1・HBA2を調べるもので、鎌状赤血球症は対象ではありません。
🧬 一度の検査で、ご自身とご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。αサラセミアの原因がわかれば、必要のない鉄剤を避けられるだけでなく、どの型の保因者かがわかり、パートナーの検査や妊娠の計画、ご家族の検査を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
- [1] Tamary H, Greenberg-Kushnir N, Dgany O. Alpha-Thalassemia. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle; 2005 (Updated 2026 Apr 23). [NCBI Bookshelf NBK1435]
- [2] Hattori Y. Thalassemia mutations and their clinical aspects in Japan. Int J Hematol. 2002;76 Suppl 2:90-92. [DOI: 10.1007/BF03165095](PMID: 12430906)
- [3] Songdej D, Babbs C, Higgs DR; BHFS International Consortium. An international registry of survivors with Hb Bart’s hydrops fetalis syndrome. Blood. 2017;129:1251-1259. [DOI: 10.1182/blood-2016-08-697110]
- [4] AlQarni AM, Althumairi A, Alkaltham NK, et al. Diagnostic test performance of the Mentzer index in evaluating Saudi children with microcytosis. Front Med. 2024;11:1361805. [DOI: 10.3389/fmed.2024.1361805]
- [5] Mentzer WC. Differentiation of iron deficiency from thalassaemia trait. Lancet. 1973;1(7808):882. [DOI: 10.1016/S0140-6736(73)91446-3]
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