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「対立遺伝子」と「アレル」は、遺伝や遺伝子検査の説明でよく登場しますが、遺伝子・遺伝子座・ヘテロ接合といった似た言葉と混同されやすい用語です。結論から言うと、対立遺伝子(アレル)とは同じ遺伝子座(染色体上の同じ位置)を占める「遺伝子の型(バージョン)」のことです。ヒトの常染色体上の遺伝子座では、通常、父親由来と母親由来の2コピーを持つため、同じ位置に2つの対立遺伝子があります。この記事では、対立遺伝子とアレルの意味、遺伝子・遺伝子座・接合体との違い、ABO式血液型やお酒に弱い体質といった身近な例、顕性・潜性(優性・劣性)、そして病気のリスクアレルとの関わりまで、臨床遺伝専門医の視点でわかりやすく整理します。
Q. 対立遺伝子(アレル)とは何ですか?まず結論だけ知りたいです
A. 対立遺伝子(アレル)とは、同じ遺伝子座(染色体上の同じ位置)を占める、同じ遺伝子の「型(バージョン)」のことです。ヒトの常染色体上の遺伝子座では、通常、父親由来・母親由来の2コピーを持つため、同じ位置に2つの対立遺伝子があります。この2つが同じ型なら「ホモ接合」、異なる型なら「ヘテロ接合」と呼びます。集団全体では、1つの位置に3種類以上の対立遺伝子が存在することもあり(複対立遺伝子)、その代表がABO式血液型です。「アレル」は対立遺伝子の別名で、以前は「アリル」とも呼ばれていました。
- ➤正体 → 同じ遺伝子座を占める、同じ遺伝子の型違い。常染色体上では通常、父母由来の2つを持つ
- ➤遺伝子・遺伝子座との違い → 遺伝子座は「位置」、対立遺伝子はそこに入る「中身(型)」
- ➤ホモ/ヘテロ → 2つのアレルが同じ=ホモ接合、異なる=ヘテロ接合。アレルは「型」、接合は「状態」
- ➤身近な例 → ABO式血液型(複対立遺伝子)、お酒に弱い体質(ALDH2)
- ➤病気との関わり → 発症リスクを高める型を「リスクアレル」と呼ぶ。ただし持っていても発症するとは限らない

1. 対立遺伝子(アレル)とは ─ 遺伝子の「型違い」
対立遺伝子(アレル、allele)とは、染色体上の同じ位置(遺伝子座)を占める、同じ遺伝子の異なる型(バージョン)のことです。ヒトのような二倍体の生物は、父親由来と母親由来のゲノムを1セットずつ受け継ぎます。常染色体上の遺伝子座では通常2コピーを持ち、その同じ遺伝子座に存在する配列型を対立遺伝子と呼びます。2つが同じ型のときホモ接合、異なる型のときヘテロ接合といいます。
対立遺伝子は、その遺伝子座におけるDNA配列の違いによって区別されます。この違いが、つくられるタンパク質の構造や量を変え、結果として体の特徴(表現型)に差をもたらすことがあります。たとえば、タンパク質のアミノ酸が変わって働きが強くなったり弱くなったりする場合もあれば、タンパク質そのものの量が変わる場合もあります。ヒト同士の遺伝的な個性の多くは、こうした対立遺伝子の違いに由来しています。
💡 用語解説:アレルとアリル、呼び方の由来
「アレル」は対立遺伝子の別名で、英語 allele をカタカナにした言葉です。以前は「アリル」と表記されることも多くありましたが、日本遺伝学会は2017年の遺伝学用語の改訂で、座位・遺伝型・アレルといった用語を整理し、「アレル(アリル、アリールも可)」と示しました[1]。本記事でも「アレル=対立遺伝子」として扱います。なお、HLA(ヒト白血球抗原)の検査分野では、日本組織適合性学会が定めるアレル表記の独自ルールが別に用いられます。
対立遺伝子を理解する土台になるのが、相同染色体と遺伝子座(locus)という考え方です。ヒトは同じ大きさ・同じ遺伝子の並びを持つ染色体を父母から1本ずつ受け取り、23対(46本)を持っています。この1対を相同染色体と呼び、相同染色体上の対応する位置が遺伝子座です。ヒトの染色体は、男女に共通する22対の常染色体と、1対の性染色体(女性はXX、男性はXY)からなり、常染色体では父由来・母由来がきれいに対になります。次の章では、この対立遺伝子と、混同されやすい言葉との違いを整理します。
2. 対立遺伝子と「まぎらわしい言葉」との違い
対立遺伝子は、遺伝子・遺伝子座・相同染色体・ヘテロ接合体・対立形質といった言葉と混同されがちです。多くのつまずきは、これらが「位置」なのか「中身」なのか、「モノ」なのか「状態」なのかを区別すると解消します。まず全体像を表で整理します。
🧬 対立遺伝子と、まぎらわしい言葉の違い
| 言葉 | 意味 | 対立遺伝子との関係 |
|---|---|---|
| 遺伝子 | 機能的なRNAやタンパク質の産生に関わるDNA配列の単位 | 対立遺伝子は、その遺伝子の「型違い(バージョン)」 |
| 遺伝子座(locus) | 染色体上の「位置」 | 遺伝子座=場所、対立遺伝子=その場所に入る中身 |
| 相同染色体 | 父母由来の1対の染色体 | 相同染色体の同じ位置にある2つの遺伝子が対立遺伝子 |
| ホモ/ヘテロ接合 | 2つのアレルが同じ/異なるという「状態」 | 対立遺伝子は「型(モノ)」、接合は組み合わせの「状態」 |
| 対立形質 | 見た目に現れる、対になる形質 | 対立形質の違いに、同じ遺伝子座の異なる対立遺伝子が関与することがある |
※以下の各項目で、それぞれの違いをもう少し詳しく説明します。
対立遺伝子と遺伝子の違い
遺伝子が「設計図の単位」だとすれば、対立遺伝子はその設計図の「版(バージョン)」です。たとえば「ある酵素をつくる遺伝子」があるとき、その配列がわずかに違う複数の版が集団の中に存在します。この一つひとつの版が対立遺伝子です。「遺伝子」と言うときは種類を、「対立遺伝子」と言うときは同じ遺伝子の中の型の違いを指している、と考えると整理しやすくなります。身近なところでは、髪や瞳の色、お酒の強さといった体質の個性も、こうした対立遺伝子の違いが関わっています。遺伝子そのものの意味も合わせて確認すると理解が深まります。
対立遺伝子と遺伝子座(locus)の違い
遺伝子座は染色体上の「住所(位置)」、対立遺伝子はその住所に住んでいる「中身」です。同じ住所(遺伝子座)に、父由来と母由来で異なる中身(対立遺伝子)が入ることがあります。地図上の一区画が遺伝子座、そこに建つ建物のバリエーションが対立遺伝子、とイメージすると分かりやすいでしょう。遺伝子座は「9番染色体の長腕34領域(9q34)」のように、染色体上の番地として表されます。詳しくは遺伝子座(locus)とはで解説しています。
対立遺伝子と相同染色体の違い
相同染色体は父母由来の「1対の染色体」、対立遺伝子はその同じ位置にある「1対の遺伝子」です。相同染色体という大きな入れ物の、対応する位置に収まっている2つの遺伝子が対立遺伝子にあたります。ただし、性染色体(男性のXとY)は大部分が相同ではないため、その領域では対立遺伝子という考え方がそのままは当てはまらない、という例外があります。
対立遺伝子とホモ接合・ヘテロ接合の違い
ここは最もつまずきやすいポイントです。対立遺伝子は遺伝子の「型(モノ)」を指し、ホモ接合・ヘテロ接合は2つの型の組み合わせの「状態」を指します。父母から同じ対立遺伝子を受け継いだ状態がホモ接合、異なる対立遺伝子を受け継いだ状態がヘテロ接合です。つまり「AとA」ならホモ接合、「Aとa」ならヘテロ接合であって、AやaそのものがアレルA・アレルaという対立遺伝子です。詳しくはヘテロ接合とはで扱っています。
対立遺伝子と対立形質、遺伝子型・表現型の関係
対立形質とは、丸い豆かしわの豆か、といった見た目に現れる、対になる形質のことです。古典的な単一遺伝子形質では、その形質の違いに同じ遺伝子座の異なる対立遺伝子が関与します。そして、個体がもつ対立遺伝子の組み合わせ(AAやAaなど)を遺伝子型、その結果として実際に現れる特徴を表現型と呼びます。関係を図にすると、次のような流れになります。
(位置)
(A・aの型)
(AA/Aa/aa)
(見た目)
同じ遺伝子座(位置)に、どの対立遺伝子(型)がどう組み合わさるか(遺伝子型)で、最終的な特徴(表現型)が決まる、という流れです。たとえばエンドウの豆で、丸をつくる対立遺伝子をA、しわをつくる対立遺伝子をaとすると、遺伝子型AA・Aaでは丸、aaではしわ、というように、同じ位置のアレルの組み合わせが見た目を左右します。この4つの言葉をセットで押さえると、遺伝の説明がぐっと読み解きやすくなります。
3. 対立遺伝子の具体例 ─ 身近な例で理解する
対立遺伝子は抽象的でイメージしづらい言葉ですが、身近な例に置き換えると腑に落ちます。ここでは、複対立遺伝子の代表であるABO式血液型と、日本人になじみ深いお酒に弱い体質(ALDH2)、そして古典的なメンデルの例を取り上げます。
ABO式血液型 ─ 複対立遺伝子の代表例
通常、1つの遺伝子座には2種類の対立遺伝子を思い浮かべがちですが、集団全体で見ると、1つの遺伝子座に3種類以上の対立遺伝子が存在することがあります。これを複対立遺伝子といいます。その代表がABO式血液型で、A・B・Oという3つの対立遺伝子が関わります。ただし、1人の個体が持つのはこのうち2つです。A・Bの対立遺伝子は赤血球の表面に異なる糖(抗原)を付ける酵素をつくりますが、Oの対立遺伝子はその酵素の働きを失っているため糖が付かない、という違いが型の差になっています。組み合わせ(遺伝子型)と血液型(表現型)の関係は次のとおりです。
🩸 ABO式血液型:遺伝子型と表現型
| 遺伝子型(対立遺伝子の組み合わせ) | 血液型(表現型) | ポイント |
|---|---|---|
| AA、AO | A型 | AはOに対して顕性 |
| BB、BO | B型 | BはOに対して顕性 |
| AB | AB型 | AとBは共優性(両方が現れる) |
| OO | O型 | Oは潜性 |
※AとBはどちらも現れるため「共優性」、AとBはOに対して顕性、という関係が、対立遺伝子の組み合わせで表現型が決まる好例です。
お酒に強い・弱い体質(ALDH2)
お酒に強いか弱いかは、体質=対立遺伝子の型でかなりの部分が決まります。アルコールが分解されてできる有害なアセトアルデヒドを処理する酵素がALDH2で、この遺伝子には活性の高い型(*1)と、活性がほとんどない型(*2/rs671)という対立遺伝子があります。*2型(活性のない型)は東アジアの人々に多く、日本人を含む東アジア系のおよそ30〜50%が少なくとも1つ持っていると報告されています(研究によって幅があります)[2]。
ここで対立遺伝子のおもしろさが表れます。ALDH2は4つの分子が集まって働く(四量体)ため、*2型を1つ持つヘテロ接合(*1/*2)でも、酵素の働きは活性型のおよそ16分の1にまで下がります[2]。*2型を2つ持つホモ接合(*2/*2)では、働きはほぼ完全に失われます。つまり、お酒に「まったく飲めない」「少しは飲めるが弱い」「強い」という段階的な違いが、対立遺伝子の組み合わせで生まれるのです。お酒を飲んだときに顔が赤くなる・動悸・吐き気が出やすい「フラッシング反応」は、活性の低い型のためにアセトアルデヒドがうまく処理されないことで起こります。これは、後で述べる単純な「顕性・潜性」だけでは割り切れない、中間的な現れ方の代表例でもあります。
メンデルのエンドウ ─ 古典的な例
対立遺伝子という考え方のもとになったのが、メンデルがエンドウで行った実験です。しわのある豆かない豆か、といった対立形質に対応する対立遺伝子があり、それらが配偶子(精子・卵子)をつくるときに分かれて別々に伝わる、という規則性が見いだされました。これは、対をなす2つの対立遺伝子が配偶子をつくるときに1つずつに分かれる「分離の法則」として知られています。こうした遺伝の伝わり方の全体像は遺伝形式(顕性・潜性・X連鎖など)で整理しています。
4. 対立遺伝子の分類と「顕性・潜性」
対立遺伝子は、その現れ方や機能によっていくつかに分類されます。ここで、かつて「優性・劣性」と呼ばれていた考え方が、近年「顕性・潜性」へと言い換えられている点をまず押さえておきましょう。
顕性(優性)と潜性(劣性)─ 用語の改訂と本当の意味
ヘテロ接合(Aa)のときに表現型として現れやすい対立遺伝子を顕性(優性)、隠れやすい対立遺伝子を潜性(劣性)といいます。ここで重要なのは、「顕性・潜性」は形質の”表れやすさ”を表す言葉であって、遺伝子の優劣や良し悪しを意味するものではないということです。この誤解を避けるため、日本遺伝学会は2017年の用語改訂で「優性・劣性」を「顕性・潜性」に言い換えることを提案しました[1]。医学分野でも、日本医学会が検討を経て2021年に「顕性遺伝・潜性遺伝」を推奨用語として決定しています[3]。高校生物の教科書や大学入試でも「顕性・潜性」が主に用いられるようになってきました。なお、ある対立遺伝子が顕性になるか潜性になるかは、その遺伝子が「1つ分の働きで足りるかどうか」といった仕組みで決まり、どの形質を観察するかによって見え方が変わることもあります。あらかじめ固定された優劣の順位があるわけではありません。
💡 補足:呼称改訂をめぐる経緯
この用語改訂は日本遺伝学会が提案したものです。なお、当時の報道で共同提案とされた点について、日本人類遺伝学会は「学会として了承した事実はない」との声明を出しています[4]。本記事では、経緯を正確にお伝えするためこの点を明記し、以降は現行の「顕性(優性)・潜性(劣性)」を併記して用います。優性・劣性が「表れやすさ」を表す仕組みの詳細は顕性・潜性とは何かで解説しています。
共優性・不完全優性 ─ 単純な二分法では割り切れない場合
対立遺伝子の現れ方は、顕性・潜性のどちらか、ときれいに二分できるとは限りません。2つの対立遺伝子の特徴がともに現れる場合を共優性といい、先ほどのABO式血液型のAB型がその例です。2つの中間的な表現型が現れる場合を不完全優性といいます。不完全優性の古典的な例としては、赤い花と白い花をかけ合わせると中間のピンクの花になる、といった現象が知られています。ALDH2のように、ヘテロ接合で酵素活性が中間的になる例も、単純な顕性・潜性では説明しきれない現れ方といえます。詳しくは共優性・不完全優性で扱っています。
野生型アレルと変異(バリアント)アレル
集団の多くが持つ標準的な対立遺伝子を野生型アレル、そこに変化が生じてできた対立遺伝子を変異(バリアント)アレルと呼びます。野生型に変異が生じることで、新しい対立遺伝子が生まれます。変異アレルは、新たな体質の個性にとどまることもあれば、病気の原因になることもあります。
機能からみた分類 ─ サイレント変異の落とし穴
対立遺伝子は、遺伝子産物の働きの観点からも分類されます。働きが失われる機能欠失型、逆に新しい働きや過剰な働きを獲得する機能獲得型(gain of function)などです。古くはショウジョウバエの解析から、マラー(Muller)が野生型と比べた活性の違いによって対立遺伝子を次のように整理しました。この考え方は、いまも変異の性質を理解する基礎になっています。
🧬 マラーの分類(野生型と比べた活性による対立遺伝子の型)
| 型 | 意味 |
|---|---|
| アモルフ(機能喪失) | 遺伝子の働きが完全に失われた型 |
| ハイポモルフ(機能低下) | 働きが部分的に低下した型 |
| ハイパーモルフ(機能亢進) | 働きが通常より強まった型 |
| ネオモルフ(新機能獲得) | 本来にはない新しい働きを獲得した型 |
| アンチモルフ(拮抗) | 野生型の働きを妨げる型 |
※機能欠失型はアモルフ・ハイポモルフ、機能獲得型はハイパーモルフ・ネオモルフにおおむね対応します。新しい働きを獲得する型はネオモルフ変異として個別に解説しています。
ここで注意したいのが、アミノ酸配列を変えないサイレント変異(同義変異)です。かつては無害と考えられていましたが、近年では、サイレント変異がmRNAの処理や翻訳、タンパク質の折りたたみに影響して、病気に関わりうることが広く認識されています[5]。「アミノ酸が変わらない=無害」とは限らない、という点は、遺伝子検査で見つかった変化を読み解くうえでも大切です。変異の種類はミスセンス変異・ナンセンス変異・サイレント変異(同義変異)で個別に解説しています。
5. 対立遺伝子と病気の関わり ─ リスクアレルとは
対立遺伝子は、病気のなりやすさとも関わります。ここは、遺伝子検査を考えるときにとくに誤解されやすい部分です。まず言葉を整理しましょう。
リスクアレルとは(メジャー/マイナーアレル・アレル頻度)
ある遺伝子座に複数の対立遺伝子があるとき、集団の中で頻度の高いほうをメジャーアレル、低いほうをマイナーアレルと呼びます。そして、その中で、特定の病気の発症リスクを高めることが分かっている対立遺伝子を「リスクアレル」といいます。ここで最も大切なのは、リスクアレルを持っていても、その病気に必ずなるわけではない、という点です。多くの病気は複数の遺伝子と生活環境が組み合わさって起こる(多因子)ため、リスクアレルは「なりやすさを少し(または大きく)左右する要因の一つ」にすぎません。集団の統計から得られたリスクを、そのまま個人の発症確率として断定することはできません。
💡 用語解説:多型(たけい)・SNPとアレル頻度
集団の中で、ある遺伝子座に複数の対立遺伝子がそれなりの割合で見られる状態を多型(polymorphism)といいます。なかでも1か所の塩基だけが入れ替わったものがSNP(一塩基多型)で、その各タイプがそれぞれ対立遺伝子(アレル)にあたります。ある対立遺伝子が集団の中でどれくらいの割合で見られるかをアレル頻度と呼び、病気と対立遺伝子の関連を調べるゲノムワイド関連解析(GWAS)などで重要な指標になります。
疾患と関連するアレルの例(APOE ε4・HLA・BRCA)
リスクアレルの代表例が、アルツハイマー病と関連するAPOE遺伝子のε4という対立遺伝子です。APOEにはε2・ε3・ε4の3つの主要な型があり、ε4は保有数が増えるほど遅発性アルツハイマー病のリスクが高まる用量依存的な関連が古くから報告されています[6]。一方、ε2については保護的な関連が報告されています。ただし、ε4を持つことは発症を確定するものではありません。APOE遺伝子型は発症リスクに関わる要因の一つであり、個人の将来を単独で決定するものではありません。
このほか、免疫に関わるHLA(ヒト白血球抗原)の特定の型は、関節リウマチや強直性脊椎炎、セリアック病といった自己免疫の病気のなりやすさと関連することが知られています(これも「関連」であり、個人の発症を確定するものではありません)。また、BRCA1・BRCA2の病的バリアントは、遺伝性乳がん・卵巣がんの発症リスクを高めることが知られています。BRCA1/2関連遺伝性腫瘍の素因は常染色体顕性形式で遺伝しますが、病的バリアントを受け継いだ人が必ずがんを発症するわけではありません。同じ「リスクを高めるアレル」でも、影響の大きさは病気や遺伝子によって幅がある、という点も押さえておきましょう。また、同じリスクアレルでも集団(人種・地域)によって頻度が異なることが知られており、ある集団で高頻度のリスクアレルが、別の集団ではまれ、ということもあります。
両アレル・片アレルの変異と遺伝形式
対立遺伝子は、病気の伝わり方(遺伝形式)とも直結します。2つの対立遺伝子の両方に病的な変化がある(両アレル変異)と発症するタイプが潜性(劣性)遺伝、片方だけ(片アレル変異)でも発症するタイプが顕性(優性)遺伝です。潜性遺伝の病気では、片方だけに変化を持つ人は発症しない「保因者」となります。「潜性(劣性)」は劣っているという意味ではなく、あくまで表現型が現れにくいという意味です。たとえば常染色体潜性遺伝の病気では、両親がともに保因者(片アレルのみに変化を持つ)である場合、子どもがその病気を発症する確率はおよそ4分の1になります。一方、X染色体上の遺伝子では、男性はX染色体を1本しか持たないため、片方の変化だけで症状が出やすい、といった違いもあります。保因者や遺伝する確率の考え方は潜性遺伝(劣性遺伝)と保因者で詳しく解説しています。
🩺 院長コラム【「リスクアレルを持つ」と「発症する」は違う】
遺伝子検査の結果を読むとき、遺伝医学でとくに大切にしているのが、「リスクアレルを持っている」ことと「病気になる」ことを混同しない、という姿勢です。リスクアレルは、あくまで発症のなりやすさを左右する要因の一つです。多くの病気は、複数の遺伝子と生活環境が積み重なって初めて形になります。ある対立遺伝子を持っているという事実だけで、将来が決まるわけではありません。
だからこそ、検査結果は数字や型の名前だけで判断するのではなく、それが「何を意味し、何を意味しないのか」まで含めて理解することが重要だと考えています。何が分かっていて何が分かっていないのかを正確に整理することそのものが、結果を受け取る方への配慮だと考えています。
まとめ ─ 対立遺伝子(アレル)を正しく理解するために
対立遺伝子(アレル)とは、同じ遺伝子座を占める、同じ遺伝子の「型違い」のことでした。ヒトは父母由来で2つずつ持ち、その組み合わせ(遺伝子型)が表現型を決めます。「遺伝子座=位置」「対立遺伝子=中身の型」「ホモ/ヘテロ=組み合わせの状態」を分けて考えると、まぎらわしい言葉の混乱は解消します。
現れ方は顕性(優性)・潜性(劣性)だけでなく、共優性や不完全優性もあり、ABO式血液型やALDH2はその身近な例です。用語は近年「顕性・潜性」へと言い換えが進み、これは「優劣」ではなく「表れやすさ」を表すためでした。そして、病気のなりやすさを左右する対立遺伝子をリスクアレルと呼びますが、持っていても発症するとは限らないという点が、結果を読み解くうえで何より重要です。また、同じ対立遺伝子でも、単独ではなく他の遺伝子や環境との組み合わせで働くことが多く、1つの型だけで体質や病気のすべてが決まるわけではありません。対立遺伝子という基本を押さえておくことは、遺伝や遺伝子検査の情報を、落ち着いて正確に受け止める土台になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 対立遺伝子とアレルは同じ意味ですか?
同じ意味です。「アレル(allele)」は対立遺伝子の別名で、以前は「アリル」と表記されることもありました。日本遺伝学会は2017年の遺伝学用語の改訂で、座位・遺伝型・アレルといった用語を整理しています。医学や遺伝学の文章では、対立遺伝子とアレルはほぼ同じ意味で使われます。
Q2. 対立遺伝子と遺伝子座はどう違いますか?
遺伝子座(locus)は染色体上の「位置」を指し、対立遺伝子はその位置に入る「中身(遺伝子の型)」を指します。同じ遺伝子座に、父由来と母由来で異なる対立遺伝子が入ることがあります。地図の一区画が遺伝子座、そこに建つ建物のバリエーションが対立遺伝子、とイメージすると分かりやすいです。
Q3. 対立遺伝子はいくつありますか?
常染色体上の遺伝子座では、1人の個体は通常、父由来・母由来の2つの対立遺伝子を持ちます。ただし集団全体で見ると、1つの遺伝子座に3種類以上の対立遺伝子が存在することもあり、これを複対立遺伝子と呼びます。ABO式血液型(A・B・Oの3つ)が代表例で、1人が持つのはこのうち2つです。
Q4. リスクアレルを持っていたら必ず病気になりますか?
いいえ、必ず病気になるわけではありません。リスクアレルは、その病気の発症の「なりやすさ」を高める対立遺伝子ですが、多くの病気は複数の遺伝子と生活環境が組み合わさって起こります。集団の統計から得られたリスクを、そのまま個人の発症確率として断定することはできません。たとえばアルツハイマー病と関連するAPOE ε4を持っていても、発症するとは限りません。
Q5. 顕性(優性)・潜性(劣性)とは何ですか?
ヘテロ接合のときに表現型として現れやすい対立遺伝子を顕性(優性)、隠れやすい対立遺伝子を潜性(劣性)といいます。これは形質の「表れやすさ」を表す言葉であり、遺伝子の優劣や良し悪しを意味するものではありません。この誤解を避けるため、日本遺伝学会が2017年に「優性・劣性」を「顕性・潜性」へ言い換えることを提案し、日本医学会も2021年に「顕性遺伝・潜性遺伝」を推奨用語としています。
参考文献
- [1] 日本遺伝学会「遺伝学用語改訂について」(2017年9月11日). [日本遺伝学会 PDF]
- [2] Genetically Determined Aldehyde Dehydrogenase 2 Activity …(ALDH2 rs671, 東アジアでの頻度・ヘテロでの活性低下). PLoS One. 2015. [PLOS ONE]
- [3] 日本医学会「優性遺伝と劣性遺伝の推奨用語について」(令和3年/2021年). [日本医学会 PDF]
- [4] 日本人類遺伝学会「『潜性』『顕性』についての報道について」. [日本人類遺伝学会]
- [5] Sauna ZE, Kimchi-Sarfaty C. Understanding the contribution of synonymous mutations to human disease. Nat Rev Genet. 2011;12(10):683-691. [Nature Reviews Genetics|DOI:10.1038/nrg3051]
- [6] Corder EH, et al. Gene dose of apolipoprotein E type 4 allele and the risk of Alzheimer’s disease in late onset families. Science. 1993;261(5123):921-923. [Science]



