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鎌状赤血球症(Sickle Cell Disease: SCD)は、HBB遺伝子のたった1塩基の変異がヘモグロビン分子を変質させ、赤血球を鎌状に変形させる常染色体潜性(劣性)遺伝性血液疾患群です。この形態変化が引き起こす慢性溶血性貧血と血管閉塞性エピソード(VOE)は、激しい急性疼痛・脳卒中・多臓器不全という生涯にわたる重篤な合併症の根本原因となります。2023年末にはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術による世界初のゲノム編集治療薬がFDAに承認され、「根治」の可能性が現実となった歴史的転換期を迎えています。
Q. 鎌状赤血球症とはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです
A. HBB遺伝子の1塩基置換(ミスセンス変異)により、正常なヘモグロビンの代わりに異常ヘモグロビン(HbS)が産生される常染色体潜性遺伝疾患です。HbSは低酸素状態で重合して赤血球を鎌状に変形させ、慢性溶血性貧血・血管閉塞性危機・脳卒中・多臓器障害を引き起こします。世界で約774万人が罹患し、サハラ以南のアフリカを中心に疾病負荷が集中しています。治療はヒドロキシウレアが基盤ですが、2023年にはCRISPR/Cas9遺伝子治療薬も承認されました。
- ➤遺伝子変異の正体 → HBBの第6コドン:グルタミン酸→バリン置換による異常ヘモグロビン(HbS)産生
- ➤遺伝形式と主要サブタイプ → 常染色体潜性(HbSS最重症、HbSC・HbSβサラセミアも疾患表現型)
- ➤世界の疫学 → 2021年時点で罹患者約774万人。サハラ以南アフリカで新生児10万人あたり500〜2,000人
- ➤診断の要点 → 新生児スクリーニング(IEF・HPLC)、確定診断にDNA解析
- ➤最新の治療転換 → CasgevyによるCRISPR/Cas9遺伝子編集治療(2023年FDA承認)
- ➤保因者と家族計画 → 保因者(HbAS)同士のカップルで子どもの発症確率1/4。遺伝カウンセリングが重要
1. 遺伝学的基盤:HBB遺伝子1塩基変異が引き起こす分子の連鎖
鎌状赤血球症の根本原因は、第11染色体に位置するβグロビン遺伝子(HBB)の単一塩基置換(点突然変異)です。具体的には、βグロビン鎖の第6コドンにおいて、親水性アミノ酸であるグルタミン酸をコードするGAGが、疎水性アミノ酸であるバリンをコードするGTGへと置換されます。わずか1文字の変化が、機能するヘモグロビンを根底から変質させるのです。
💡 用語解説:ミスセンス変異(みすせんすへんい)
ミスセンス変異とは、点突然変異の一種で、DNAの1塩基が別の塩基に置き換わった結果、タンパク質中の1つのアミノ酸が別のアミノ酸に変わるものです。鎌状赤血球症はまさにこのタイプで、HBB遺伝子の6番目のアミノ酸が「グルタミン酸(親水性)」から「バリン(疎水性)」に変わります。たった1アミノ酸の違いが、ヘモグロビン分子の性質を根本から変えてしまうのです。
常染色体潜性遺伝とサブタイプの多様性
この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとります。つまり、両親からそれぞれ変異遺伝子を1つずつ受け継いだとき(ホモ接合体:HbSS)に最も重症型の鎌状赤血球貧血を発症します。ただし、一方がHbS遺伝子で、もう一方が別の異常ヘモグロビン遺伝子(HbCなど)やβサラセミア遺伝子である複合ヘテロ接合体も疾患表現型を示します。
💡 用語解説:常染色体潜性(劣性)遺伝
「常染色体」とは性染色体(X・Y)以外の染色体のことです。「潜性(劣性)」とは、2本ある染色体のうち両方に変異がある場合にのみ発症する遺伝形式です。変異を1本だけ持つ人は「保因者(キャリア)」と呼ばれ、通常は無症状です。保因者同士がカップルになった場合、子どもの1/4の確率で発症、1/2の確率で保因者、1/4の確率で変異なし、という組み合わせになります。遺伝の仕組みについてはこちらも参考にどうぞ。
2. 病態生理学:なぜ赤血球は「鎌」になり、血管を詰まらせるのか
🔍 関連記事:胎児ヘモグロビン(HbF)とは/造血幹細胞とは/エピジェネティクスとは
HbSの重合化:脱酸素化がトリガーとなる「鎖の連結」
HbSは肺で酸素と結合しているときは正常に溶解して機能します。問題は末梢組織の毛細血管で酸素を放出した後——脱酸素化状態(デオキシ化)になると、変異によって生じたバリン残基の疎水性領域が隣接するHbS分子と強く相互作用し、細胞内で剛直な多量体(ポリマー)を形成します。このポリマーが赤血球の細胞骨格を内側から歪め、細胞を特徴的な三日月形(鎌状)に変形させます。
初期は可逆的で、肺に戻って再酸素化されると赤血球は元の形に戻ります。しかし幾度もの脱酸素化・再酸素化のサイクルを経るうちに、赤血球の細胞膜は不可逆的な損傷を受け、恒久的に鎌状化したままとなります。正常な赤血球の寿命が約120日であるのに対し、鎌状化した赤血球は通常10〜20日で早期に破壊(溶血)されます。この早期崩壊が、生涯にわたる重度の慢性溶血性貧血の根本原因です。
一酸化窒素(NO)の枯渇と内皮機能障害
慢性的な血管内溶血により赤血球から血漿中に放出された大量の遊離ヘモグロビンは、強力な血管拡張作用を持つ一酸化窒素(NO)を急速に枯渇させます。NOの枯渇は全身の血管内皮機能障害・血管平滑筋の異常収縮・血小板の活性化を引き起こし、肺高血圧症・持続勃起症(プリアピズム)・下腿潰瘍などの重篤な慢性合併症の病態生理学的基盤を形成します。SCDは単なる「赤血球の形の病気」ではなく、全身の微小血管網を障害する多臓器疾患なのです。
3. グローバル疫学:マラリア仮説と世界800万人の現実
🔍 関連記事:女性版拡大保因者検査787/遺伝の仕組みを理解する
なぜアフリカや中東で多いのか:進化的な「生存優位性」
SCDの有病率が地理的に偏っている理由は、熱帯熱マラリアの高度流行地域と見事に一致していることで説明できます。鎌状赤血球形質(HbAS:保因者)を持つ人の赤血球内は、マラリア原虫(Plasmodium falciparum)の増殖に不向きな環境となっており、重症マラリアに対する自然な防御機構を獲得しています。この進化的圧力により、サハラ以南のアフリカ・中東・インド・地中海沿岸諸国・カリブ海地域でHbS変異遺伝子が世代を超えて保存されてきました。
📊 世界の疫学データ(2021年時点)
- ▸ヘモグロビン異常症の保因者:世界人口の約4.5〜5%
- ▸SCD罹患者数:約774万人(2000年比で41.4%増)
- ▸出生有病率(サハラ以南アフリカ):出生10万人あたり500〜2,000人
- ▸米国:約10万人が罹患(90%以上が非ヒスパニック系黒人/アフリカ系アメリカ人)
- ▸インド:保因者約3,000万人、全国平均有病率3.3%、特定地域では最大44%
高所得国vs低所得国:命を分ける医療格差
SCDの管理における最大の公衆衛生上の課題は、高所得国と低・中所得国における死亡率の著しい格差です。サハラ以南のアフリカでは、SCDを罹患した小児の約50%が10歳に達する前に死亡するという過酷な現実があります。一方、米国では普遍的な新生児スクリーニング・ペニシリン予防投与・ヒドロキシウレア療法・定期的な輸血療法により、患者の平均寿命は現在50歳を超えるまで改善されています。
それでも米国のSCD患者の平均寿命は一般人口より依然として20年以上短く、QALY(質調整生存年)においては30年以上短いと推定されています。希望のデータとしては、ウガンダのNOHARM試験(10年追跡)が、低リソース環境下でも安価なヒドロキシウレアの継続投与が小児の死亡率を年間1〜2%まで低下させ、自然経過比で少なくとも80%の生存改善をもたらすことを証明しています。
📌 日本での動向:日本では歴史的にSCDは極めて稀でしたが、近年のグローバル化・国際結婚の増加により患者および保因者数は漸増傾向にあります。日本国内で鎌状赤血球網膜症(網膜動脈閉塞症)を引き起こす症例も報告され始めており、血液内科・眼科・救急医が連携する学際的ケア体制の構築が急務となっています。
4. 新生児スクリーニングと診断体系
なぜ早期発見が命を救うのか
SCDは生後数ヶ月で重篤な合併症(肺炎球菌敗血症・脳卒中・急性胸部症候群)を発症する可能性があるため、早期発見と予防的介入が患者の生存率とQOLを決定します。米国では1975年にニューヨーク州でパイロットプログラムが導入され、1986年の画期的な研究(ペニシリン予防投与が肺炎球菌性敗血症発生率を著しく低下させることを証明)を経て、現在は全50州・コロンビア特別区・プエルトリコ等でSCDのNBS(新生児スクリーニング)が義務化されています。
⚠️ 出生前診断について:重要なスタンス
出生前の非侵襲的スクリーニング(NIPT)では、HBB遺伝子の病的変異を一部検出できる場合がありますが、全例での検出が保証されるわけではありません。確定診断が必要な場合は、羊水検査または絨毛検査によるDNA解析が選択肢となります。
出生前診断を受けるかどうかは、十分な情報提供のもとでご家族が決めることです。臨床遺伝専門医や遺伝カウンセリングを通じて、中立的な立場から情報と支援を受けることをお勧めします。
5. 主要な臨床合併症とエビデンスに基づく管理
SCDは血液疾患であると同時に、微小循環系を介して全身のあらゆる臓器を障害する多臓器疾患です。米国血液学会(ASH)および米国国立心肺血液研究所(NHLBI)が策定したエビデンスに基づく診療ガイドラインは、小児から成人まで生涯にわたる包括的な管理を推奨しています。
急性胸部症候群(ACS):最も致死率の高い呼吸器合併症
ACSはSCD患者の主要な入院原因であり、最も致死率の高い合併症です。肺の微小血管における鎌状赤血球の多発的な血管閉塞と急性肺損傷に起因し、急速に進行してARDS(急性呼吸窮迫症候群)様の極度の低酸素状態に陥るリスクがあります。
💡 用語解説:急性胸部症候群(ACS)
胸部画像検査で「新たな肺浸潤影」が認められ、かつ胸痛・38.5℃以上の発熱・頻呼吸・喘鳴・ベースラインからの低酸素血症(SpO2が2%以上の低下、またはPaO2 60mmHg未満)のうち少なくとも1つを伴うものと定義されます。小児では感染症(ウイルスやマイコプラズマ等)が契機となることが多く、成人では全身のVOC(疼痛危機)の波及として現れるケースが多いです。
急性期治療ガイドラインでは、SpO2を92%以上・PaO2を70mmHg以上に維持するための酸素投与が必須です。抗菌薬は市中肺炎・非定型菌をカバーするため、第三世代セファロスポリン+マクロライド系が第一選択とされます。重度の低酸素血症や急激な貧血進行がある場合は単純輸血または交換輸血が救命的に行われます。小児の軽度から中等度のACSに対してはデキサメタゾン静注(0.3mg/kgを12時間ごとに4回)の有効性も示されています。
血管閉塞性疼痛危機(Pain Crisis):最も頻繁な救急受診原因
急性疼痛危機はSCD患者が救急外来を受診する最も一般的な理由です。骨・関節・胸部・腹部など全身あらゆる部位に突発的に発生します。ASHのSCD疼痛管理ガイドラインは、救急外来来院から1時間以内の迅速な疼痛評価と鎮痛薬初回投与を強く推奨しています。また、標準的な薬物療法に加えて、マッサージ・ヨガ・仮想現実(VR)・ガイド付きオーディオビジュアルリラクゼーションなどの非薬物療法の併用も推奨されています。
感染症リスクと機能的無脾症:見えない敵への対策
SCD患者の脾臓は、度重なる微小梗塞により生後数ヶ月から徐々に機能不全に陥り(自家脾摘:Autosplenectomy)、「莢膜を持つ細菌」による劇症感染症リスクが著しく上昇します。脾摘外傷患者と比較して、SCD患者の敗血症による死亡率は約350倍に跳ね上がると推定されており、肺炎球菌・インフルエンザ菌b型・髄膜炎菌が主な起炎菌です。
💊 ペニシリン予防投与
- 生後2ヶ月からペニシリンVの予防的経口投与が標準ケア
- 5歳に達した時点で重症肺炎球菌感染の既往がなければ安全に中止可能
- 中止後も発熱時は即座の受診と広域抗菌薬の経験的投与が必須
💉 ワクチン接種
- 13価肺炎球菌結合型ワクチン→23価肺炎球菌多糖体ワクチン
- 髄膜炎菌結合型ワクチン(A/C/Y/W-135)および血清群B髄膜炎菌ワクチン
- Hibワクチン・毎年の不活化インフルエンザワクチン
脳卒中と無症候性脳梗塞:認知機能を守るための戦略
脳卒中や微小梗塞による認知機能障害は、SCD患者の生涯にわたり最も深刻な中枢神経系合併症です。ASHのガイドラインは「生存すること自体よりも『認知機能を維持して生きること』」に高い価値を置いています。特にHbSSおよびHbSβ0サラセミアの小児患者には、経頭蓋ドップラー超音波(TCD)を用いた定期的な脳血流速度スクリーニングが強く推奨されます。TCDで異常血流速度が検出された場合は、直ちに定期的な交換輸血療法を開始して脳卒中を一次予防することが不可欠です。
臨床的な神経症状を伴わない「無症候性脳梗塞(Silent cerebral infarcts)」の検出も重要です。ASHガイドラインは鎮静を伴わない脳MRI検査を学童期前期に少なくとも1回、成人期にも少なくとも1回実施することを推奨しています。
6. 薬物療法の変遷:ヒドロキシウレアから新薬撤退まで
ヒドロキシウレア:最も歴史のある標準治療薬
ヒドロキシウレアは、SCDに対する最も歴史が長く広範なエビデンスを持つ安価な病態修飾薬です。主たる機序は、γグロビン遺伝子の発現を再活性化し、胎児ヘモグロビン(HbF)の産生を誘導することです。HbFはHbSの重合化を強力に阻害するため、赤血球の鎌状化が根本から抑制されます。
💡 用語解説:胎児ヘモグロビン(HbF)
胎児ヘモグロビン(HbF)は、胎児期に主に使われるヘモグロビンで、生後6ヶ月頃までに成人型ヘモグロビン(HbA)へと置き換わります。HbFはHbSの重合を阻害する特性を持つため、生後しばらくはSCD患者であっても症状が軽い理由の一つです。ヒドロキシウレアはこのHbFの産生を人為的に再活性化することで、SCDの根本的な病態を抑制します。
ヒドロキシウレアは疼痛危機の頻度減少・ACSの予防・輸血依存の軽減・生存率の有意な改善をもたらします。NHLBIおよびASHのガイドラインは、重症度にかかわらず乳幼児期から積極的かつ継続的な導入を強く推奨しています。ウガンダのNOHARM試験の10年追跡データは、低リソース環境でもこの安価な薬剤が劇的な生存改善をもたらすことを実証しています。
L-グルタミン(Endari):酸化ストレスを軽減する第二の選択肢
L-グルタミン(商品名:Endari)はヒドロキシウレアに次いでSCDの急性合併症減少を適応としてFDAに承認された経口粉末製剤です(5歳以上、HbSSおよびHbSβ0サラセミア適用)。プラセボ対照二重盲検試験において、疼痛危機の年間発生頻度を25%減少(p=0.005)・入院頻度を33%減少(p=0.005)・ACS発生率を60%以上減少(p=0.003)するという有効性が示されました。抗酸化物質であるNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の酸化還元電位を改善し、酸化ストレスによる赤血球膜の損傷を抑制する機序で機能します。
深刻な転換点:新規承認薬の撤退が投げかけた教訓
これら2薬剤の市場撤退・承認取り消しは、ヘモグロビンの酸素親和性調整や単一の接着分子阻害という「病態の一部への介入」が、複雑で多因子的なSCDの微小血管閉塞プロセス全体を制御するには不十分であった可能性を示唆しています。この教訓はヒドロキシウレアやL-グルタミンといった基盤的薬剤の役割を再認識させると同時に、今後の新薬承認に対してより厳格な長期安全性の証明を求める結果となっています。
7. 遺伝子治療の夜明け:CRISPR/Cas9が実現した「根治」の可能性
2023年12月8日、FDAはSCD患者(12歳以上で重度の血管閉塞性イベントの既往があり、ヒドロキシウレア療法に不応・不耐容の患者)を対象に、2種類の画期的な細胞ベースの遺伝子治療薬を同時に承認しました。いずれも患者自身の造血幹細胞を体外に取り出して遺伝子改変を施し、再び体内に戻す自家移植アプローチ(Autologous HSCT)です。
💡 用語解説:造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう)
造血幹細胞とは、骨髄の中に存在し、赤血球・白血球・血小板など血液のすべての細胞を作り出せる「血液の親細胞」です。これを患者から採取して体外で遺伝子改変し、強力な化学療法で骨髄をクリアした後に戻すことで、改変された遺伝子を持つ正常な血液細胞が産生されるようになります。この「自家造血幹細胞移植」アプローチは、免疫拒絶やGVHD(移植片対宿主病)を理論上回避できる革新的な手法です。
Casgevy(エクサガムグロゲン・オートテンパセル):世界初のCRISPR/Cas9治療薬
Casgevyは、2020年にノーベル化学賞を受賞したCRISPR/Cas9遺伝子編集技術を用いた世界初のFDA承認治療薬です。作用機序は変異遺伝子の直接「修正」ではなく、個人の細胞内に眠っている保護的な遺伝子の発現を「復活」させるという発生生物学的なアプローチです。
具体的には、HbFから成人ヘモグロビンへの移行を促進し出生後のHbF産生を強力に抑制している転写因子「BCL11A」の赤血球特異的エンハンサー領域を、CRISPR/Cas9を用いて標的とし切断・破壊します。BCL11Aの発現がダウンレギュレーションされることで、エピジェネティクスな抑制が解除され、HbFの産生が赤血球内で劇的に増加します。
✅ 臨床成績:臨床試験において評価可能であった患者の93.5%(31人中29人)が重度の血管閉塞性危機(VOC)を規定期間中に完全に回避。全例で移植片の生着不全や拒絶反応は発生しなかった。ウイルスベクターを使用せずエレクトロポレーションで送達するため、挿入突然変異(Insertional mutagenesis)に関連した長期的発がんリスクの懸念が最小限に抑えられており、枠組み警告(Boxed warning)は指定されていない。
Lyfgenia(ロボチベゴゲン・オートテンパセル):レンチウイルスベクターによる遺伝子付加
Lyfgeniaは改良されたレンチウイルスベクターを用いた遺伝子付加療法です。正常な成人ヘモグロビンと同様に機能し、HbSの重合化に対する強力な抗鎌状化特性を持つよう設計された「機能的なβグロビン遺伝子変異体(HbAT87Q)」のコピーを患者の造血幹細胞に導入・組み込みます。
⚠️ 安全性の課題(Black Box Warning):Lyfgenia投与患者の一部において血液がん(急性骨髄性白血病:AML等)の発症例が報告されており、FDAはこの重篤な発がんリスクに関して厳重な枠組み警告(ブラックボックス警告)をラベルに含めています。
遺伝子治療の大きなハードル
🧪 骨髄破壊的前処置の毒性
改変幹細胞を確実に生着させるため、高用量ブスルファンによる強力な化学療法が必須。重度の口内炎・白血球減少・発熱性好中球減少症などの急性毒性を引き起こす。不可逆的な生殖能力の喪失(不妊症)を高い確率でもたらすため、治療前の卵子・精子凍結保存が不可欠
💰 天文学的な医療費
Casgevyの治療費は1回あたり約220万米ドル(承認当初の推定)。最長1年に及ぶ集中的な医療プロセスが必要で、高度な専門設備を備えた認定施設でのみ実施可能。SCDの疾病負荷の大多数を占めるサハラ以南のアフリカなどへの適用は現状では極めて困難
8. 日本における課題と臨床遺伝専門医の役割
日本では歴史的にSCDは実質的にオーファンドラッグの対象となるレベルの稀少疾患とされてきましたが、近年のグローバル化に伴う国際的な人口移動・国際結婚の増加により、国内でもSCD患者および保因者の数は漸増傾向にあります。市場予測によれば、日本におけるSCD治療市場は2024年から2030年にかけて年平均成長率16.2%で急成長し、2030年までに3億4,750万米ドル規模に達すると見込まれています。
日本国内でも鎌状赤血球網膜症(Sickle Cell Retinopathy: SCR)による網膜動脈閉塞症の発生が報告されています。SCRの病態は単なる物理的閉塞にとどまらず、脱酸素化と血管炎症によるヘモグロビンの重合化・血液粘度の増加・血流速度の低下という複合的な血液凝固系の異常が関与しています。これらの所見は、日本においても遺伝的・人口動態的トレンドを公衆衛生の監視体制や医学教育に組み込み、血液内科医・眼科医・救急医が連携する学際的ケア体制の構築が急務であることを示しています。
9. 遺伝カウンセリングと保因者検査:家族を守るために
SCDは常染色体潜性(劣性)遺伝疾患であるため、保因者(HbAS)同士のカップルが最もリスクの高いペアです。子どもが疾患を発症する確率は理論上1/4(25%)、保因者になる確率は1/2(50%)、変異を持たない確率は1/4(25%)となります。家族歴がなくとも、出身地域(西アフリカ系・カリブ海系・中東系・地中海系・インド系の背景を持つカップル)によってはリスクが相対的に高くなります。
ミネルバクリニックの女性版拡大保因者検査(787遺伝子)および男性版拡大保因者検査(714遺伝子)はHBBを含む多数の常染色体潜性遺伝疾患の保因者状況を妊娠前・妊娠初期に確認できる検査です。米国産婦人科学会(ACOG)はすべての妊娠中・妊娠予定の女性に対し、民族や家族歴にかかわらず保因者検査の提供を推奨しています。
ミネルバクリニックで受けられる関連検査
- ➤女性版拡大保因者検査787遺伝子:HBBを含む787遺伝子をカバー(ACOGが推奨する113遺伝子も完全収載)
- ➤男性版拡大保因者検査714遺伝子:常染色体潜性疾患の保因者状況を網羅的に確認
- ➤羊水検査・絨毛検査:保因者カップルの妊娠中における確定診断の選択肢
- ➤遺伝カウンセリング:検査結果の解釈・家族計画・出生前診断の選択肢について臨床遺伝専門医が中立的な立場でサポート
よくある質問(FAQ)
🏥 鎌状赤血球症・保因者検査のご相談
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参考文献
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