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遺伝性非球状赤血球性溶血性貧血(HNSHA)とは?原因遺伝子・症状・診断から最新治療まで遺伝専門医が解説

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

赤血球は、酸素を運ぶことだけに特化するために、核もミトコンドリアも捨ててしまった細胞です。そのぶんエネルギーづくりを限られた代謝経路に全面的に頼っており、その経路を支える酵素が生まれつき足りないと、赤血球は寿命を待たずに壊れてしまいます。これが遺伝性非球状赤血球性溶血性貧血(HNSHA)です。名前に「非球状」と付いているのは、よく似た病気である遺伝性球状赤血球症と違って、顕微鏡で見ても赤血球が丸くならないからです。この記事では、原因となる酵素ごとの特徴、診断で見落としが起きやすいポイント、そして経口薬や遺伝子治療といった新しい治療の流れまでを、遺伝専門医がやさしく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約18分
🩸 赤血球酵素異常症・慢性溶血・遺伝子診断
臨床遺伝専門医監修

Q. 遺伝性非球状赤血球性溶血性貧血とはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. 赤血球の内側ではたらく酵素が生まれつき不足し、赤血球が早く壊れてしまう病気の総称です。球状赤血球症のような形の異常も、サラセミアのようなヘモグロビンの異常も伴いません。代表格はピルビン酸キナーゼ(PK)欠損症で、ほかにグルコース-6-リン酸イソメラーゼ(GPI)欠損症、ヘキソキナーゼ欠損症、G6PD欠損症の慢性型などが含まれます。慢性の貧血・黄疸・脾腫を起こし、治療は輸血や摘脾といった支持療法が中心でしたが、近年は酵素のはたらきを高める経口薬や遺伝子治療の研究が進んでいます。

  • 病気の正体 → 赤血球の「形」でも「ヘモグロビン」でもなく、内部の代謝酵素が原因の溶血性貧血
  • 主な原因遺伝子 → PKLR・GPI・HK1・G6PD・NT5C3A・ALDOA。経路ごとに症状の出かたが変わる
  • 診断の落とし穴 → 輸血後や網赤血球が多い状態では、酵素の活性が正常に見えてしまう
  • 治療の変化 → 輸血・摘脾から、酵素を活性化する経口薬・造血幹細胞移植・遺伝子治療へ
  • 日本の制度 → 小児期は小児慢性特定疾病の対象。成人期の指定難病には現時点で含まれていない

🩸 遺伝性非球状赤血球性溶血性貧血(HNSHA)の基本情報

項目 内容
疾患名 遺伝性非球状赤血球性溶血性貧血/Hereditary nonspherocytic hemolytic anemia/略称 HNSHA(慢性非球状赤血球性溶血性貧血=CNSHAとも呼ばれます)
原因遺伝子 PKLR(ピルビン酸キナーゼ)/GPI(グルコース-6-リン酸イソメラーゼ)/HK1(ヘキソキナーゼ1)/G6PDNT5C3A(ピリミジン-5′-ヌクレオチダーゼ)/ALDOA(アルドラーゼA)ほか
遺伝形式 大半が常染色体潜性(劣性)。G6PD欠損症のみX連鎖潜性(劣性)。膜のリン脂質異常による型では常染色体顕性(優性)の報告があります
OMIM表現型番号 ヘキソキナーゼ欠損症による先天性非球状赤血球性溶血性貧血5型=#235700/アルドラーゼA欠損症(糖原病XII型)=#611881
頻度・報告例数 PK欠損症は10万人〜30万人に1人と推定される最も多い病型。ヘキソキナーゼ欠損症は世界で約37例の報告にとどまります
主な症状 慢性の貧血、黄疸、脾腫、若い年齢からの胆石。新生児期の黄疸が長引くこともあります
診断の決め手 赤血球の酵素活性測定と、原因遺伝子の解析(多遺伝子を一度に調べるパネル検査)の組み合わせ
鑑別すべき疾患 遺伝性球状赤血球症、サラセミア、鎌状赤血球症、不安定ヘモグロビン症、自己免疫性溶血性貧血、後天性の鉛中毒
再発率・保因者 常染色体潜性の病型では、ご両親がともに保因者の場合、次のお子さんが発症する確率は25%、保因者となる確率は50%です
検査上の注意 最近の輸血や網赤血球の増加があると、酵素活性が実際より高く出て見逃されることがあります

各項目の根拠と詳しい解説は、本文の該当セクションをご覧ください。

1. HNSHAとは ─ 「球状にならない」ことが病名になった理由

遺伝性非球状赤血球性溶血性貧血は、ひとつの病気の名前というより、「消去法で残った溶血性貧血の集まり」を指す言葉です。生まれつき赤血球が壊れやすい病気を調べていくとき、医師はまず赤血球の形を見ます。丸くなっていれば遺伝性球状赤血球症、楕円形なら遺伝性楕円赤血球症です。次にヘモグロビンそのものを調べ、サラセミアや異常ヘモグロビン症を確認します。形にもヘモグロビンにも異常がないのに溶血が続いているとき、残る可能性が赤血球の内側ではたらく酵素の異常です。この「形が球状にならない」という消去法の結果が、そのまま病名になりました。

この集まりのなかで最も頻度が高いのがピルビン酸キナーゼ(PK)欠損症で、慢性の先天性非球状赤血球性溶血性貧血としては世界で最も多く、有病率は10万人に1人から30万人に1人と推定されています[1]。日本国内でも、赤血球酵素異常症のうち解糖系ではPK異常症とグルコース-6-リン酸イソメラーゼ(GPI)異常症、ペントースリン酸経路ではG6PD異常症、核酸代謝ではピリミジン-5′-ヌクレオチダーゼ(P5N)異常症の頻度が高いとされ、PK異常症はG6PD異常症に次いで多いと位置づけられています[2]。つまりHNSHAは「非常に珍しい病気」ではあるものの、決して机上の存在ではなく、原因不明の貧血として長く見過ごされている方が一定数いると考えられます。

💡 用語解説:溶血と溶血性貧血

溶血とは、赤血球が寿命(およそ120日)を待たずに壊れてしまうことです。壊れた分を骨髄が作って補おうと頑張りますが、追いつかなくなると貧血になります。これが溶血性貧血です。赤血球のなかのヘモグロビンが分解されるとビリルビンという黄色い色素が増えるため、皮膚や白目が黄色くなる黄疸が出ます。また、壊れた赤血球を処理する脾臓が働きづめになって大きくなり(脾腫)、増えたビリルビンが胆汁に混じって固まると、若い年齢でも胆石ができます。貧血・黄疸・脾腫・胆石という4つがセットで現れたら、溶血を疑う——これが診療の出発点です。

なお、HNSHAという言葉と並んで「先天性非球状赤血球性溶血性貧血(CNSHA)」という表現もよく使われます。どちらも同じ状態を指しており、論文や施設によって呼び方が違うだけです。日本の医療現場では、原因となる酵素の名前をとって「PK欠損症」「G6PD欠損症」と個別に呼ぶことのほうが多く、HNSHAという総称は主に鑑別診断の枠組みとして使われています。

2. なぜ赤血球だけが壊れるのか ─ 核もミトコンドリアも捨てた細胞の宿命

なぜ酵素の遺伝子に変化があると、全身の細胞ではなく赤血球だけが壊れるのでしょうか。答えは、赤血球という細胞の極端な「割り切り」にあります。赤血球は骨髄で成熟する最後の段階で、細胞核を抜き取り、ミトコンドリアもリボソームも捨ててしまいます。酸素を運ぶヘモグロビンをできるだけ詰め込み、細い毛細血管を通り抜けられるやわらかさを保つためです。しかしその代償として、赤血球は新しくタンパク質を合成できません。壊れた酵素を作り直すことも、足りない酵素を補うこともできないまま、120日間を生き延びなければならないのです。

ミトコンドリアがないということは、ほかの細胞のように酸素を使って効率よくエネルギーを取り出すことができない、ということでもあります。赤血球が生きるためのエネルギー(ATP)は、酸素を使わない解糖系という経路だけで作られます。ですからこの経路を担う酵素がひとつでも欠けると、ほかの経路で埋め合わせることができません。実際、成熟した赤血球は細胞の形と機能を保つために解糖系で作られるATPに完全に依存しており、エネルギー産生が不十分になると赤血球の恒常性が損なわれ、脾臓で早期に取り除かれてしまいます[3]

🔬 赤血球を支える4つの代謝経路と、そこで起こる病気

解糖系
ATPをつくる
PK・GPI・HK・アルドラーゼA
ペントースリン酸経路
NADPHをつくる
G6PD
グルタチオン代謝
酸化ストレスを消す
還元型グルタチオン
核酸代謝
RNAの残骸を片づける
P5N

どの経路が傷むかによって、症状の出かたも、悪化のきっかけも変わります。

では、エネルギーが足りなくなった赤血球は、どこでどのように壊れるのでしょうか。赤血球は全身をめぐる途中で、脾臓のなかにある細い網の目のような構造を通り抜けなければなりません。この隙間は赤血球の直径よりずっと狭いため、通過するには自分の形をぐにゃりと変える必要があります。ATPが足りないと細胞膜の内外のイオンバランスを保つポンプが十分に働かず、細胞から水分が抜けて硬くなり、この関門を通り抜けられなくなります。壊れるというより、しなやかさを失って脾臓に捕まえられてしまうというイメージが実際に近いでしょう。脾臓が腫れるのは、この処理をずっと続けているからです。摘脾がある程度の効果を持つのも、こうして「壊す場所」を減らせるからにほかなりません。

もうひとつ大事なのが、酸素を運ぶという仕事そのものが赤血球に負担をかけているという事実です。ヘモグロビンと酸素が接している以上、活性酸素が絶えず発生します。これを打ち消すために赤血球はグルタチオンという物質を還元された状態に保ち続けなければならず、その材料であるNADPHはペントースリン酸経路からしか供給されません。エネルギーは解糖系、酸化ストレス対策はペントースリン酸経路——この2本柱のどちらが折れても、赤血球は自分を守れなくなります。

3. 解糖系の酵素欠損症 ─ PK・GPI・ヘキソキナーゼ

ピルビン酸キナーゼ(PK)欠損症 ─ 「数字ほどつらくない貧血」の理由

PKは解糖系の最後の段階を担う酵素で、ホスホエノールピルビン酸をピルビン酸に変えながらATPを作ります。責任遺伝子であるPKLRは1番染色体長腕(1q21)にあり、12個のエキソンからなる約9.5キロベースの遺伝子です。1991年に最初の病的バリアントが報告されて以来、300を超える異なるバリアントが見つかっています[3]。日本国内の患者さんでは約20%が同じ変化を2つ持つホモ接合、約80%が異なる2つの変化を持つ複合ヘテロ接合と報告されており[2]、この組み合わせの多さが症状の幅広さを生んでいます。

PK欠損症には、ほかの貧血にはない不思議な特徴があります。それはヘモグロビンの数値がかなり低くても、思ったほど症状が出ないことです。PKが働かないと、その手前にある2,3-ジホスホグリセリン酸(2,3-DPG)という物質が細胞内にたまります。この物質はヘモグロビンが酸素を手放しやすくする働きを持つため、少ない赤血球でも組織に効率よく酸素を届けられるようになるのです。実際、PK欠損症の患者さんは貧血によく耐えるため、輸血をするかどうかはヘモグロビンの数値ではなく、患者さんご本人の体感に基づいて判断するのが原則とされています[3]

💡 用語解説:2,3-DPGと酸素解離曲線

ヘモグロビンは肺で酸素を受け取り、組織で手放します。この「受け取りやすさ・手放しやすさ」のバランスを表したグラフを酸素解離曲線といいます。2,3-DPGはヘモグロビンにくっついて酸素を手放す方向に押すため、この曲線が右にずれます。同じヘモグロビン量でも、より多くの酸素を組織に渡せる状態です。ちなみに胎児ヘモグロビン(HbF)は逆に2,3-DPGの影響を受けにくく、酸素を離しにくい性質を持っています。母体から酸素を奪い取るための、胎児側の工夫です。

GPI欠損症 ─ 貧血に神経の症状が重なることがある理由

グルコース-6-リン酸イソメラーゼ(GPI)は解糖系の2段目を担う酵素で、PK欠損症に次いで2番目に多い解糖系の酵素異常症とされています。原因遺伝子GPIは19番染色体長腕(19q13)にあり、常染色体潜性遺伝の形式をとります[4]。この病気が興味深いのは、同じタンパク質が体のなかでまったく別の顔を持っている点です。GPIは2つ組み合わさった二量体のときは解糖系の酵素として働きますが、1つのまま細胞の外に出ると「ニューロロイキン」と呼ばれる神経栄養因子になり、胎生期の脊髄運動ニューロンや感覚ニューロンの生存を支えます[4]

このため、GPIの変化のしかたによっては、貧血だけでなく知的障害、感覚性・小脳性の運動失調、筋力低下、てんかんといった神経症状を合併することがあります[4]。ただし全例に神経症状が出るわけではありません。生後5か月の男児で、エキソン4のc.301G>A(p.Val101Met)というミスセンス変異と、エキソン10のc.812delGという新規のフレームシフト変異を1つずつ受け継いだ複合ヘテロ接合の症例では、ヘモグロビン62〜91 g/Lの中等度の貧血、大球性の変化、網赤血球の増加、好中球減少を認めたものの、神経学的な異常は伴いませんでした[4]。同じ遺伝子でも、どの部分がどう変わるかで表現型が変わるという、遺伝性疾患の典型的な姿がここにあります。

ヘキソキナーゼ欠損症 ─ 入口が塞がる、最も希少な病型

ヘキソキナーゼは、細胞に取り込んだブドウ糖に最初のリン酸をつける酵素、いわば解糖系の入口です。赤血球型のヘキソキナーゼをつくるHK1遺伝子は10番染色体長腕(10q22)にあり、両方のアレルに病的な変化があると先天性非球状赤血球性溶血性貧血5型(OMIM #235700)を発症します[5]。入口が塞がれるためATPだけでなく解糖系の中間産物も全体的に減り、2,3-DPGも増えません。PK欠損症で見られた「数字より楽」という代償が働かないぶん、同じヘモグロビン値でも症状が強く出やすいと考えられています。

この病型は極めてまれで、世界でこれまでに報告されたのは約37例にとどまります[6]。なお同じHK1遺伝子は、5’非翻訳領域の特定の変化によってシャルコー・マリー・トゥース病4G型(HMSNR)という末梢神経の病気を起こすことも知られており、変化の起きる場所によって血液の病気にも神経の病気にもなる、多面的な遺伝子です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「数字が悪いのに元気」を疑いだと思わないでください】

ヘモグロビンが8 g/dLしかないのに普通に働いている、という方がときどきいらっしゃいます。周囲から「本当は大したことないのでは」と言われて傷ついた、という話も聞きます。けれどもPK欠損症では、2,3-DPGが増えて酸素を渡しやすくなるという体の適応が実際に起きています。数字と体感がずれるのには、きちんとした生化学的な理由があるのです。

同時にこれは、数字が落ち着いているからといって合併症の管理を怠ってよい、という意味ではありません。溶血が続いていれば鉄はたまり続けますし、胆石も進みます。「症状で治療を決める」と「合併症を放っておく」は別のことだと、私はいつもお伝えしています。

4. G6PD欠損症の慢性型 ─ 「発作だけの病気」ではない一群

G6PD欠損症は、赤血球の酵素異常のなかで世界的に最も多い病気です。世界保健機関(WHO)の資料では推定5億人が該当するとされ[7]、日本の公的資料では4億人以上という数字が使われています[8]。G6PD遺伝子はX染色体上にあるため、X染色体を1本しか持たない男性で問題になりやすく、女性のヘテロ接合の方は通常は無症状の保因者です[8]。ただし女性でもX染色体の不活化に偏りがあると、酵素活性の低い赤血球の割合が高くなり、症状が出ることがあります[7]

多くの方が思い浮かべるG6PD欠損症は、ソラマメを食べたときや特定の薬を飲んだとき、感染症にかかったときに急に溶血が起きるタイプでしょう。しかしG6PD欠損症のごく一部には、きっかけがなくても常に溶血が続いている慢性型が存在します[7]。この慢性型こそが、HNSHAという枠組みに入るG6PD欠損症です。原因となるバリアントは酵素タンパク質が二量体を作る部分や、構造を安定させるNADPの結合部位にあたることが多く、不安定なタンパク質が赤血球の老化とともに急速に失活していくと考えられています。

💡 用語解説:WHOのG6PD分類は2022年に変わりました

古い教科書やインターネット上の記事には「G6PDはクラスI〜Vに分類される」と書かれていますが、これは1985年版の分類です。2022年にWHOは分類を改訂し、クラスA(活性が正常の20%未満で慢性溶血性貧血を伴う)/クラスB(45%未満・新生児黄疸と急性溶血)/クラスC(60%超・溶血なし)/クラスU(臨床的意義が不明)の4区分になりました[7]。旧クラスIIとIIIは活性の重なりが大きかったため統合されてクラスBになり、慢性溶血を起こす旧クラスIはクラスAとして残されています。「クラスI」という表記を見かけたら、現在の「クラスA」のことだとお考えください。この分類は個人ではなく遺伝子バリアントに対して当てはめるものである点にも注意が必要です。

G6PD欠損症で溶血が起きるときには、赤血球のなかで酸化を受けたヘモグロビンが変性して固まり、ハインツ小体と呼ばれる小さな塊が見えるようになります。この塊は赤血球膜にくっついて細胞を硬くするため、脾臓を通り抜けにくくなります。脾臓のマクロファージがハインツ小体の部分だけをかじり取ると、赤血球の縁が欠けた「咬痕赤血球(bite cell)」という形が残ります。特徴的な形の変化が、壊れ方そのものを教えてくれる数少ない例です。なお同じハインツ小体は不安定ヘモグロビン症でも見られるため、この所見だけで原因を特定することはできません。

慢性型のG6PD欠損症では、日常的に貧血・黄疸・脾腫があるうえに、感染や薬をきっかけにさらに強い溶血が重なります。したがって管理の要点は、慢性の貧血に対する葉酸の補充などの支持療法に加えて、溶血発作を誘発する薬剤や食品をあらかじめ避けることです。医療機関を受診するときに「G6PD欠損症がある」と伝えられるようにしておくことが、急な悪化を防ぐいちばん確実な方法になります。

5. 核酸代謝と膜の異常 ─ P5N欠損症・アルドラーゼA欠損症・高PC型

ピリミジン-5′-ヌクレオチダーゼ(P5N)欠損症 ─ 鉛中毒とそっくりになる病気

赤血球になる直前の網赤血球には、まだリボソームRNAの残骸が残っています。これを分解して細胞の外へ出す掃除役がP5Nという酵素で、原因遺伝子NT5C3Aは7番染色体短腕(7p14)にあります[9]。この掃除ができないとピリミジンヌクレオチドが細胞内にたまり、末梢血の塗抹標本で粗大な好塩基性斑点(basophilic stippling)という青紫色の点々として見えるようになります。診断の助けになるのが分光学的な性質で、正常な赤血球の抽出液は主にATPなどアデニンヌクレオチドに由来する257 nm付近に吸収の山を持つのに対し、P5N欠損では蓄積したピリミジンヌクレオチドのために270 nm付近に高い吸収の山が現れます[9]

この酵素はマグネシウムイオンを必要とし、鉛・水銀・銅・ニッケル・カドミウムといった重金属によって強く阻害されます[9]。とくに鉛への曝露はP5Nの活性を下げ、遺伝性の欠損症とよく似た溶血と好塩基性斑点を引き起こします[10]。つまり、好塩基性斑点を見たときに「遺伝性の病気だ」と決めつけると、治療可能な鉛中毒を見落とすことになります。生活環境や職業歴を確認することが、この病型では特に重要です。

アルドラーゼA欠損症 ─ 発熱で筋肉が溶けることがある

アルドラーゼAは解糖系の中盤で糖を切り分ける酵素で、赤血球と骨格筋の主要な型です。原因遺伝子ALDOAは16番染色体短腕(16p11.2)にあり、常染色体潜性遺伝で溶血性貧血を起こします。この病気は糖原病XII型(GSD12、OMIM #611881)とも呼ばれ、筋力低下や易疲労に加えて、発熱時に横紋筋融解症を起こしやすいという特徴があります[11]。古い文献にはALDOAの位置を16番染色体の長腕とする記載も見られますが、現在のヒトゲノム配列に基づく公的データベースの記載は16p11.2です。

興味深いことに、ALDOAの変化がいつも溶血性貧血を伴うとは限りません。発熱で繰り返し横紋筋融解症を起こす3人のきょうだいから、熱に弱いタイプのALDOAの変化が見つかった報告では、溶血性貧血はまったく認められませんでした[12]。体温が上がったときに酵素が失活する現象が筋肉の細胞では起きるのに、赤血球では起きなかったためです。同じ遺伝子の変化が、細胞の種類によって違う結果をもたらす好例といえます。

酵素ではない例外 ─ 膜のリン脂質が増えるタイプ

HNSHAの大半は酵素の異常ですが、ごくまれに細胞膜の脂質の組成そのものが変わることで溶血が起きる型があります。ドミニカ共和国の大家系で報告された病型では、赤血球膜のホスファチジルコリン(レシチン)の割合が、正常の28.2±1.4%に対して35.5±1.3%まで増えており、遺伝形式は常染色体顕性(優性)でした[13]。血漿の脂質は正常なので、赤血球そのものに組み込まれた変化だと考えられています。

その後の研究では、この高ホスファチジルコリン溶血性貧血と、脱水型の遺伝性有口赤血球症(口唇赤血球症)の赤血球は、どちらも細胞内カリウムが減って脱水し、膜のホスファチジルコリンの相対量が増えており、両者を区別する手立てが見つからなかったと報告されています[14]。かつて別の病気とされていたものが、現在では同じスペクトラムの中に位置づけられつつある——分類そのものが動いている領域です。

6. 症状と合併症 ─ 貧血の数字だけでは測れないもの

HNSHAの症状は、慢性溶血性貧血に共通するものです。日本の診断の手引きでは、貧血・黄疸・脾腫・胆石症といった一般症状に加えて、感染症や妊娠のときに貧血が強まること、新生児期の黄疸が長引いたり強く出たりすることが挙げられています[15]。検査では、ヘモグロビンの低下、網赤血球の増加、間接ビリルビンの上昇、LDHの上昇、ハプトグロビンの低下が見られ、自己免疫性溶血性貧血との区別に用いる直接抗グロブリン試験(クームス試験)は陰性になります[15]

赤血球の形についても、大切な注意点があります。PK欠損症では一般に赤血球の形態異常は認められません。ただし、診断がつかないまま摘脾を受けた患者さんの塗抹標本に有棘赤血球(acanthocyte)が現れた場合は、本症を疑う手がかりになるとされています[15]。つまり有棘赤血球は「最初から見える所見」ではなく、「脾臓を取ったあとに見えてくる所見」なのです。

💡 用語解説:自己溶血試験とDacieの型 ─ 逆に覚えられがちな検査

血液を無菌的に37℃で置いておくと、赤血球が少しずつ壊れます。この壊れ方を見るのが自己溶血試験です。1954年のSelwynとDacieの分類では、自己溶血が著明に増え、ブドウ糖を加えても補正されないのが第II型、自己溶血がそれほど増えずブドウ糖の添加で軽減するのが第I型とされました[16]。日本の診断の手引きでもPK欠損症はDacieの第II型(ブドウ糖では改善せず、ATPの添加で軽減する)と明記されています[15]。I型とII型を取り違えた解説が散見されるため、当院では出典に戻って確認するようにしています。

症状の強さは一生を通じて一定ではなく、いくつかの節目で変わります。まず新生児期です。生まれたばかりの赤ちゃんは肝臓でビリルビンを処理する能力がまだ低いため、溶血が加わると黄疸が長引いたり強く出たりして、光線療法や交換輸血が必要になることがあります[15]。次に感染症のときで、発熱や炎症は溶血を一時的に強めます[15]。そして妊娠期です。妊娠中は循環血液量が増えて相対的に貧血が進むうえ、溶血そのものも強まりやすいため、通常より慎重な管理が必要になります[15]「ふだんは安定しているから大丈夫」ではなく、体に負荷がかかる時期をあらかじめ想定しておくことが、慢性溶血とつきあううえでの要点です。

長期の合併症も見過ごせません。慢性の溶血と無効造血、そして輸血が重なることで鉄過剰が進み、胆石、肺高血圧、髄外造血なども起こりえます[3]。鉄のたまりやすさにはHFE遺伝子の多型が、胆石のできやすさにはUGT1A1遺伝子のプロモーター多型が関わることが指摘されており[3]、同じ病型・同じ変異でも人によって合併症の出かたが違う理由の一端がここにあります。摘脾は遺伝性球状赤血球症ほどの効果は望めないものの、PK異常症でもヘモグロビンにして2 g/dL程度の上昇が期待でき、鉄過剰などの危険が高い例では適応になります[2]

7. 診断の進め方 ─ 酵素活性測定の落とし穴と遺伝子検査

診断は段階的に進みます。まず溶血があることを確認し、直接抗グロブリン試験で自己免疫性の原因を除外します。次に、赤血球膜のタンパク質やヘモグロビンを調べて遺伝性球状赤血球症サラセミア鎌状赤血球症を除外し、そのうえで個別の酵素活性を測定する——これが伝統的な流れです。しかしこの生化学的なアプローチには、実は2つの大きな落とし穴があります。

⚠️ 酵素活性が「正常に見えてしまう」2つの理由

最近の輸血
ドナー由来の健康な赤血球が混じり、
測定値が偽の正常値になる
網赤血球の増加
若い赤血球は酵素活性が高いため、
低下が覆い隠される

どちらも「溶血がある患者さんほど起こりやすい」という、やっかいな性質を持っています。

実際、PKLR遺伝子の分子解析は酵素活性測定の限界を補うために必要とされており、酵素の検査は保因者で偽陽性、最近の輸血や網赤血球の増加で偽陰性になりうると明記されています[3]。そこで現在の標準は、酵素検査と遺伝子検査を「どちらか」ではなく「両方」使う相補的なアプローチです。次世代シークエンサーを用いた解析では、PKLRを含む複数の遺伝子をまとめて調べるパネル検査が遺伝性溶血性貧血の診断に用いられるようになり、診断の遅れや誤診が減り、これまで知られていなかった幅広い表現型が明らかになってきました[3]

遺伝子検査には、酵素検査にはない利点があります。輸血の有無に左右されないこと、両方のアレルにある変化を同時に確認できること、そして複合ヘテロ接合のように「異なる2つの変化を1つずつ持つ」パターンを正確に把握できることです。日本のPK異常症の約8割がこのパターンであることを考えると[2]、遺伝子解析の意義は小さくありません。一方で、スプライス部位の変化や深いイントロン内の変化は通常のパネルでは検出しにくく、1つしか変化が見つからない場合にはエクソーム解析など、より広く調べる方法が検討されます。

8. 治療の最前線 ─ 支持療法から代謝を立て直す薬・遺伝子治療へ

長いあいだ、HNSHAの治療は輸血・摘脾・鉄キレート療法・葉酸補充といった支持療法が中心でした。壊れた酵素そのものを治す手段がなかったからです。しかし2010年代後半から、この状況は大きく変わり始めています。

その支持療法も、決して「何もしないこと」ではありません。壊れた赤血球を作り直すために骨髄はふだんの何倍も働いており、その材料となる葉酸が不足しないよう補充を続けます。輸血は、貧血の数値ではなく患者さんご本人の体調をもとに判断されますが[3]、繰り返すうちに体内の鉄が増えていきます。鉄は排泄する仕組みが人間にはほとんどないため、たまり続けると肝臓・心臓・内分泌臓器に沈着します。そこで鉄キレート療法で余分な鉄を体外へ出す治療を並行して行います。慢性溶血の管理とは、貧血そのものよりも、貧血への対処が生む二次的な問題を先回りして防ぐことだと言い換えてもよいくらいです。

酵素のはたらきを高める経口薬

ミタピバットは、赤血球型ピルビン酸キナーゼに直接結合して働きを高める、飲み薬のアロステリック活性化薬です。輸血を定期的に受けていない成人のPK欠損症を対象とした国際共同の第3相試験(ACTIVATE試験)では、1回5 mgを1日2回から開始し、20 mgまたは50 mgの1日2回まで段階的に増量する方法がとられました。その結果、ヘモグロビンの反応が得られたのはミタピバット群40例中16例(40%)で、プラセボ群40例では0例でした[17]。溶血のマーカーも改善し、患者さん自身が報告する症状の評価も良くなっています[17]

💡 用語解説:アロステリック活性化薬とは

酵素には、実際に反応を起こす「活性中心」とは別に、形を変えるためのスイッチのような場所があります。そこに結合して酵素の形を「働きやすい状態」に固定する薬をアロステリック活性化薬と呼びます。壊れた酵素を作り直すのではなく、残っている酵素の性能を引き上げるという発想です。そのため、酵素タンパク質がまったく作られないタイプの変化を両方のアレルに持つ方では効きにくいと考えられており、遺伝子型を確認したうえで治療方針を考えることが重要になります。

この薬は欧州ではPyrukyndという製品名で2022年11月9日から承認されています[18]。ただし日本国内での承認状況については、本記事の作成時点で確認できていません。海外で使える薬がそのまま国内で使えるとは限りませんので、治療の選択肢としてお考えの場合は、実際に治療にあたる血液内科の主治医にご確認ください。

造血幹細胞移植と遺伝子治療

現時点で根本的な治療といえるのは造血幹細胞移植です。血液を作る大もとの細胞をドナー由来のものに入れ替えることで、正常な酵素を持つ赤血球が作られるようになります。ただし移植片対宿主病などのリスクがあるため、重症例や他に現実的な選択肢がない場合に限って検討されます[3]。GPI欠損症では、頻回の輸血でもヘモグロビンが正常域に届かなかった6歳の男児2例に同種造血幹細胞移植を行った報告があります[19]

さらに研究段階として、患者さん自身の造血幹細胞を取り出し、レンチウイルスベクターで正常なPKLR遺伝子を組み込んでから体に戻すという遺伝子治療が進められています。第1相試験には成人2名と小児2名が参加し、続く第2相試験のデザインが規制当局と合意されています[20]。ドナーを必要とせず、移植片対宿主病のリスクもない点が期待されていますが、いずれもまだ臨床試験の段階であり、確立した治療ではないことにご留意ください。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【診断名がついてから、選択肢が生まれる】

この20年で最も変わったのは、「診断をつける意味」だと感じています。かつては原因の酵素が分かっても治療が変わらないことが多く、精密検査をためらう空気がありました。いまは違います。酵素を活性化する薬は遺伝子型によって効きやすさが変わりますし、臨床試験に参加するには確定診断が前提になります。

原因不明の貧血として何年も過ごしてこられた方が、遺伝子解析ではじめて病名にたどり着くことがあります。診断は終わりではなく、選択肢が開く入口です。臨床遺伝専門医としては、その入口までの道のりをできるだけ短くしたいと考えています。

9. 日本の制度と、遺伝の相談 ─ 「移行期の断絶」という課題

日本では、ピルビン酸キナーゼ欠乏性貧血もグルコース-6-リン酸脱水素酵素欠乏症も小児慢性特定疾病として登録されており、18歳未満(引き続き治療が必要な場合は20歳未満)のあいだは医療費の助成を受けられます[2][8]。問題はその先です。成人期の医療費助成にあたる指定難病は、令和6年4月に告示番号339〜341、令和7年4月に342〜348が追加されて計348疾病となりましたが[21]、令和8年4月の時点でもこの348疾病のままで[22]、先天性溶血性貧血はこの中に含まれていません。

つまり、小児期には助成を受けられていた方が成人になると対象から外れる、いわゆる「移行期の断絶」は、現時点では解消されていません。これは、生涯にわたる輸血や鉄キレート療法、あるいは高額な新規薬剤を続けるうえで、決して小さくない問題です。制度の見直しは定期的に行われていますので、最新の状況はお住まいの自治体の難病相談窓口や、主治医を通じてご確認いただくのが確実です。

ご家族への伝わり方をどう考えるか

HNSHAの大半は常染色体潜性(劣性)遺伝です。ご両親はそれぞれ変化を1つずつ持つ保因者で、ご自身には症状がないのが普通です。次のお子さんが同じ病気になる確率は25%、保因者になる確率は50%、どちらの変化も受け継がない確率は25%になります。顕性・潜性という言葉は近年、優性・劣性に代わって使われるようになった用語で、優れている・劣っているという意味ではありません。

例外はG6PD欠損症で、こちらはX連鎖潜性遺伝のため、伝わり方が母方をたどる形になります[8]。妊娠前や妊娠中にご家族の再発リスクを整理したい場合には、保因者スクリーニング着床前遺伝学的検査(PGT-M)羊水検査絨毛検査といった選択肢があります。どれを選ぶか、あるいは選ばないかはご家族が決めることで、医療者が方向づけるものではありません。臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングでは、こうした選択肢を並べて整理し、ご自身の価値観に沿った判断ができるようお手伝いします。

10. よくある誤解

誤解①「ヘモグロビンが正常に近いから軽症」

PK欠損症では2,3-DPGが増えて酸素を渡しやすくなるため、数値のわりに元気に見えることがあります。逆にヘキソキナーゼ欠損症ではこの代償が働きません。数値だけでも体感だけでも重症度は決まらず、鉄過剰や胆石といった合併症の管理は別に必要です。

誤解②「酵素の検査が正常なら違う病気」

最近輸血を受けていたり、網赤血球が増えていたりすると、酵素活性は実際より高く出ます。溶血が続いている方ほどこの状況になりやすいという、皮肉な性質があります。酵素検査が正常でも、臨床的に疑わしければ遺伝子解析を検討する価値があります。

誤解③「好塩基性斑点があれば遺伝性」

粗大な好塩基性斑点はP5N欠損症の特徴ですが、鉛への曝露でもまったく同じ所見が出ます。こちらは原因を取り除けば改善する後天性の状態です。遺伝性と決めつける前に、生活環境や職業歴の確認が欠かせません。

誤解④「G6PDはクラスI〜Vに分けられる」

これは1985年版の分類です。2022年の改訂でA・B・C・Uの4区分になり、慢性溶血を伴う旧クラスIはクラスAとして残されました。古い分類のまま説明されている資料も多いため、どちらの分類で書かれているかを確認する必要があります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 遺伝性非球状赤血球性溶血性貧血は、遺伝性球状赤血球症とどう違うのですか?

壊れる原因の場所が違います。遺伝性球状赤血球症は赤血球の膜を支える骨組みのタンパク質の異常で、赤血球が丸くなり変形しにくくなって脾臓で壊されます。一方、遺伝性非球状赤血球性溶血性貧血は赤血球の内側ではたらく酵素の異常で、形は正常のままエネルギー不足や酸化ストレスによって壊れます。当院で行っている遺伝性球状赤血球症のパネル検査はANK1・SPTB・SPTA1・SLC4A1・EPB42という膜の遺伝子を対象としており、酵素の遺伝子は含まれていません。

Q2. 酵素の活性を測ったら正常でした。それでも病気の可能性はありますか?

あります。最近赤血球輸血を受けていると、ドナー由来の健康な赤血球が混じるため測定値が実際より高く出ます。また溶血を補うために網赤血球が増えている状態では、若い赤血球の酵素活性が高いことによって低下が覆い隠されてしまいます。どちらも溶血のある方ほど起こりやすい現象です。臨床的に疑わしい場合は、輸血から時間をおいて再検査するか、遺伝子解析を組み合わせて評価します。

Q3. きょうだいや将来の子どもに遺伝しますか?

病型によって異なります。ピルビン酸キナーゼ欠損症をはじめ大半は常染色体潜性遺伝で、ご両親がともに保因者の場合、次のお子さんが発症する確率は25%、保因者となる確率は50%です。ご両親ご自身には症状がないのが普通です。G6PD欠損症だけはX連鎖潜性遺伝のため、伝わり方が異なります。ご家族の状況によって説明の内容が変わりますので、遺伝カウンセリングで家系図を作りながら整理されることをおすすめします。

Q4. 脾臓を取れば治りますか?

治るわけではありません。摘脾は壊れる場所を減らすことで貧血を和らげる方法であり、酵素の異常そのものは残ります。ピルビン酸キナーゼ異常症では遺伝性球状赤血球症ほどの効果は望めませんが、ヘモグロビンにして2 g/dL程度の上昇が期待できるとされ、鉄過剰などの危険が高い例が適応になります。一方で摘脾後は感染症や血栓のリスクが上がるため、適応は慎重に判断されます。

Q5. ミタピバットという薬は日本でも使えますか?

ミタピバットは赤血球のピルビン酸キナーゼを活性化する経口薬で、欧州では2022年11月からPyrukyndという製品名で承認されています。日本国内での承認状況については、本記事の作成時点で確認できていません。海外で承認された薬がそのまま国内で使用できるとは限らないため、治療の可能性については実際に治療にあたる血液内科の主治医にご確認ください。また、酵素タンパク質がまったく作られないタイプの変化を両方のアレルに持つ方では効果が得られにくいと考えられています。

Q6. 血液検査で「好塩基性斑点」と書かれていました。何を意味しますか?

赤血球のなかにRNAの残骸が凝集して見える所見です。ピリミジン-5′-ヌクレオチダーゼ欠損症の特徴的な所見として知られていますが、鉛への曝露でもまったく同じ所見が現れます。鉛はこの酵素の働きを強く抑えるためです。後天性の鉛中毒は原因を取り除くことで改善しうる状態ですので、遺伝性と決めつける前に、生活環境や職業歴について確認することが大切です。

Q7. 成人になると医療費の助成はどうなりますか?

ピルビン酸キナーゼ欠乏性貧血やグルコース-6-リン酸脱水素酵素欠乏症は小児慢性特定疾病として登録されており、小児期には医療費の助成を受けられます。一方、成人期の助成にあたる指定難病は令和8年4月時点で348疾病ですが、先天性溶血性貧血はこの中に含まれていません。したがって成人期には助成の対象から外れることになります。制度は定期的に見直されていますので、最新の状況はお住まいの自治体の難病相談窓口や主治医にご確認ください。

Q8. どの診療科に相談すればよいですか?

日常的な貧血の管理や輸血、鉄キレート療法、摘脾の適応判断は血液内科(お子さんの場合は小児血液科)が担当します。そのうえで、原因遺伝子の特定や、ご家族への伝わり方、次のお子さんの再発リスクといった遺伝に関わる部分については、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングが役に立ちます。当院では遺伝子検査と遺伝カウンセリングを臨床遺伝専門医が担当しており、主治医の治療と並行してご相談いただけます。

🏥 原因のはっきりしない溶血性貧血のご相談

赤血球酵素異常症をはじめとする遺伝性溶血性貧血の遺伝子検査と遺伝カウンセリングは、臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにご相談ください。カタログに掲載のない検査についても対応できる場合があります。

参考文献

  • [1] Diagnosis and management of pyruvate kinase deficiency: international expert guidelines. Lancet Haematol. 2024. [ScienceDirect]
  • [2] ピルビン酸キナーゼ欠乏性貧血 概要(小児慢性特定疾病情報センター). [小児慢性特定疾病情報センター]
  • [3] Molecular heterogeneity of pyruvate kinase deficiency. Haematologica. 2020. [Haematologica]
  • [4] Hereditary nonspherocytic hemolytic anemia caused by glucose-6-phosphate isomerase (GPI) deficiency in a Chinese patient: a case report. BMC Pediatrics. [BMC Pediatrics]
  • [5] Entry – #235700 – ANEMIA, CONGENITAL, NONSPHEROCYTIC HEMOLYTIC, 5; CNSHA5. [OMIM 235700]
  • [6] A Novel Pathogenic Sense Variant in Exon 7 of the HK1 Gene in a Patient with Hexokinase Deficiency and Gilbert Syndrome. [PMC11675319]
  • [7] New WHO classification of genetic variants causing G6PD deficiency. Bull World Health Organ. 2024. [PMC11276151]
  • [8] グルコース-6-リン酸脱水素酵素欠乏症 概要(小児慢性特定疾病情報センター). [小児慢性特定疾病情報センター]
  • [9] P5NT – Overview: Pyrimidine 5′ Nucleotidase, Blood. [Mayo Clinic Laboratories]
  • [10] Effects of low-level lead exposure on pyrimidine 5′-nucleotidase and other erythrocyte enzymes. J Clin Invest. 1975. [PubMed 1184742]
  • [11] Entry – #611881 – GLYCOGEN STORAGE DISEASE XII; GSD12. [OMIM 611881]
  • [12] A Thermolabile Aldolase A Mutant Causes Fever-Induced Recurrent Rhabdomyolysis without Hemolytic Anemia. PLoS Genet. 2014. [PubMed 25392908]
  • [13] Hereditary nonspherocytic hemolytic disease associated with an altered phospholipid composition of the erythrocytes. J Clin Invest. 1968. [PubMed 5653215]
  • [14] Hereditary hemolytic disease with increased red blood cell phosphatidylcholine and dehydration: One, two, or many disorders? Am J Hematol. 1993. [Wiley]
  • [15] ピルビン酸キナーゼ欠乏性貧血 診断の手引き(小児慢性特定疾病情報センター). [小児慢性特定疾病情報センター]
  • [16] Pyruvate Kinase (PK) Deficiency Hereditary Nonspherocytic Hemolytic Anemia. [ScienceDirect]
  • [17] Mitapivat versus Placebo for Pyruvate Kinase Deficiency. N Engl J Med. 2022. [NEJM]
  • [18] EU/3/20/2270 – orphan designation for treatment of pyruvate kinase deficiency. [European Medicines Agency]
  • [19] Hereditary non-spherocytic hemolytic anemia with GPI mutations successfully treated with allogeneic hematopoietic stem cell transplantation: a first report of two cases. Journal of Molecular Medicine. [PubMed 39836218]
  • [20] Pyruvate Kinase Deficiency(RP-L301 臨床試験情報). [Rocket Pharmaceuticals]
  • [21] 指定難病一覧(令和7年4月1日現在). [長野県]
  • [22] 指定難病の概要、診断基準等、臨床調査個人票(告示番号1〜348). [厚生労働省]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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