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ABCB11遺伝子とは?その役割と関連疾患を徹底解説

ABCB11遺伝子の役割と関連疾患

ABCB11遺伝子の基本情報

ABCB11遺伝子は、ヒトの19番染色体(19q13.31)に位置し、ATP結合カセット(ABC)輸送体ファミリーに属する重要な遺伝子です。この遺伝子は、主に肝臓に発現し、胆汁酸を肝細胞から胆管へ輸送する役割を担っています。ABCB11遺伝子によって生成されるタンパク質は、BSEP(Bile Salt Export Pump)と呼ばれ、胆汁酸の輸送を効率的に行うため、正常な消化機能を維持するために欠かせない存在です。

ABCB11遺伝子とは?

ABCB11遺伝子は、肝臓において胆汁酸を輸送するためのタンパク質をコードする重要な遺伝子です。この遺伝子は、ATP結合カセット(ABC)輸送体ファミリーに属しており、主に肝細胞に存在しています。正確に機能することで、胆汁酸は肝臓から胆管へと順調に輸送され、消化の過程で必要不可欠な役割を果たしています。

ABCB11遺伝子に異常が発生すると、胆汁酸の排出が妨げられることがあります。これにより、胆汁が肝臓にうっ滞し、さまざまな肝疾患を引き起こすリスクが高まります。特に、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC2)や良性再発性肝内胆汁うっ滞症(BRIC2)などの疾患は、ABCB11遺伝子の異常と強く関連しています。

このように、ABCB11遺伝子は消化機能や肝機能との関連性が非常に深いため、健康管理や遺伝的リスク評価において注目される存在となっています。遺伝子の理解を深めることで、疾病予防や早期の治療に繋がる可能性があります。

ABCB11遺伝子の位置と構造

ABCB11遺伝子は、ヒトの19番染色体の長腕に位置しています。具体的には、19q13.31の領域に存在します。この遺伝子は約108,000塩基対から成り立っており、全体に28のエクソンが存在します。エクソンとは、遺伝子の中でタンパク質を生成する部分のことで、ABCB11遺伝子の場合、このエクソンが重要な役割を果たします。

その構造は、ATP結合カセット(ABC)輸送体ファミリーに属しており、特有の膜貫通ドメインを持っています。ABCB11遺伝子がコードするBSEPタンパク質は、12個の膜貫通ドメインと2つのヌクレオチド結合ドメイン(NBD)から構成されています。この構造によってABCB11は、エネルギーを利用して胆汁酸を細胞膜を通過させることができます。

膜貫通ドメインは、細胞膜を貫通し、胆汁酸の通路を形成します。一方、NBDはATPを結合し加水分解することで、胆汁酸の輸送に必要なエネルギーを供給します。このような複雑な構造により、BSEPは高い効率性と特異性を持って胆汁酸を輸送することができます。

このようなABCB11遺伝子の位置や構造は、胆汁酸の輸送機能に密接に関与しており、病気の際には、この機構に異常が生じることがあります。遺伝子的な研究によって、これらのメカニズムを解明することが病気の理解や治療に重要です。

ABCB11の機能

ABCB11遺伝子の主な機能は、肝臓で生成された胆汁酸を胆管を通じて腸に輸送することです。このプロセスは、脂肪の消化や吸収に重要な役割を果たします。胆汁酸は食事中の脂肪を乳化させ、腸内での栄養素の吸収を助けるため、正常な消化機能には欠かせません。

具体的には、ABCB11遺伝子がコードするBSEPタンパク質は、肝細胞の毛細胆管側膜に局在し、ATP加水分解のエネルギーを利用して胆汁酸を肝細胞内から胆管腔へと輸送します。この過程は、胆汁酸の腸肝循環において重要な役割を果たしています。

さらに、ABCB11は胆汁酸の濃度を調節する機能も持ち、肝臓の健康を保つために非常に重要です。胆汁酸は肝細胞に対して毒性を持つため、その細胞内濃度を適切に制御することが必要です。BSEPによる効率的な胆汁酸の排出は、肝細胞を胆汁酸の毒性から保護する役割も果たしています。

また、ABCB11は胆汁流量の維持にも寄与しています。胆汁酸の分泌は胆汁流量の主要な駆動力となるため、BSEPの機能は適切な胆汁流量を確保する上で重要です。

ABCB11遺伝子の変異や異常があると、胆汁酸の排出が阻害され、結果的に肝臓に負担がかかることになります。胆汁酸が肝細胞内に蓄積すると、細胞障害や炎症を引き起こし、最終的には肝硬変や肝不全につながる可能性があります。

そのため、この遺伝子の機能を理解することは、肝疾患の予防や早期発見において非常に重要です。ABCB11の機能異常は、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC2)や良性再発性肝内胆汁うっ滞症(BRIC2)などの遺伝性疾患の原因となることが知られており、これらの疾患の診断や治療方針の決定に大きく影響します。

ABCB11遺伝子と関連疾患

ABCB11遺伝子は、主に胆汁酸の輸送を担っており、その変異はさまざまな疾患につながることがあります。特に、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC2)と良性再発性肝内胆汁うっ滞症(BRIC2)は、ABCB11遺伝子の異常が直接的に関連している代表的な疾患です。

進行性家族性肝内胆汁うっ滞症 (PFIC2)

進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC2)は、ABCB11遺伝子の異常によって引き起こされる遺伝性の肝疾患です。この疾患は、胆汁の排出が正常に行われなくなることで、胆汁酸が肝臓に蓄積し、肝機能が徐々に低下していく特徴があります。

PFIC2は、主に幼少期に発症し、特に新生児期から乳幼児期にかけて症状が現れることが多いです。症状としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 重度の掻痒感(かゆみ)
  • 黄疸
  • 肝腫大
  • 成長障害
  • ビタミンD欠乏症による骨軟化症
  • 脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の吸収障害

PFIC2の患者では、血清中の胆汁酸濃度が著しく上昇し、通常の100倍以上に達することもあります。一方で、血清中のγ-GTP(ガンマ-グルタミルトランスペプチダーゼ)値は正常か軽度上昇にとどまることが特徴的です。

診断は、遺伝子検査や肝機能検査を通じて行われます。ABCB11遺伝子の変異を直接確認することで、確定診断が可能です。また、肝生検を行うと、電子顕微鏡下で胆管側膜の微絨毛が消失している(コメット尾状変化)ことが観察されます。

PFIC2の治療法には主に対症療法が含まれますが、病状が重篤な場合は肝移植を検討することもあります。具体的な治療法としては以下のようなものがあります。

  • ウルソデオキシコール酸(UDCA)の投与:胆汁酸の排泄を促進
  • リファンピシンの投与:掻痒感の軽減
  • 脂溶性ビタミンの補充
  • 外科的胆汁誘導術:部分的外胆汁ドレナージ(PEBD)や回腸バイパス術
  • 肝移植:進行例や他の治療法が無効な場合

PFIC2は進行性の疾患であり、早期に適切な治療を開始しないと、肝硬変や肝不全に至る可能性があります。多くの場合、10代までに肝移植が必要となります。

早期の診断と治療が進行を抑える鍵となりますので、家族にこの病歴がある場合は注意深く健康管理を行うことが重要です。また、遺伝カウンセリングを受けることで、将来の妊娠計画や家族の健康管理に役立てることができます。

ABCB11遺伝子変異による病態メカニズム

ABCB11遺伝子の変異は、主に胆汁酸の輸送機能を障害します。この遺伝子は、胆汁酸を肝臓から腸に輸送するためのタンパク質(BSEP)をコードしており、正常な消化と代謝に必要不可欠です。遺伝子の変異により、以下のような病態メカニズムが引き起こされます:

  • 胆汁酸の蓄積:

    ABCB11遺伝子の変異によりBSEPの機能が低下すると、胆汁酸が肝細胞内に蓄積します。これは肝細胞に対して直接的な毒性を持ち、細胞障害を引き起こします。

  • 肝細胞の障害:

    蓄積した胆汁酸は肝細胞膜を傷害し、細胞死(アポトーシス)を誘導します。これにより、慢性的な肝細胞の破壊と再生が繰り返されます。

  • 炎症反応の惹起:

    胆汁酸の蓄積は炎症反応を引き起こし、様々な炎症性サイトカインの産生を促進します。これにより、肝臓内の炎症が持続し、組織障害が進行します。

  • 胆汁流量の低下:

    BSEPを介した胆汁酸の分泌は胆汁流量の主要な駆動力であるため、その機能低下は胆汁流量の著しい減少をもたらします。これにより、胆汁うっ滞が生じます。

  • 繊維化の進行:

    持続的な肝細胞障害と炎症反応は、肝星細胞を活性化し、過剰な細胞外マトリックスの産生を促します。これにより、肝臓の繊維化が進行し、最終的には肝硬変に至ることがあります。

  • 胆管側膜の構造変化:

    BSEP機能の低下により、胆管側膜の微絨毛構造が失われ、いわゆる「コメット尾状変化」が観察されます。これは、PFIC2の特徴的な所見の一つです。

  • 脂溶性ビタミンの吸収障害:

    胆汁酸の腸管への分泌が減少することで、脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の吸収が障害されます。これにより、ビタミン欠乏症のリスクが高まります。

  • 掻痒感の発生:

    胆汁酸やその他の胆汁成分の蓄積は、重度の掻痒感を引き起こします。この症状は患者のQOLを著しく低下させる要因となります。

  • 肝外症状:

    胆汁酸の蓄積は肝臓だけでなく、全身に影響を及ぼす可能性があります。例えば、胆汁酸が血液中に逆流することで、腎臓や中枢神経系にも影響を与える可能性があります。

  • 発がんリスクの上昇:

    持続的な肝細胞障害と炎症は、長期的には肝細胞がんのリスクを上昇させる可能性があります。

このような複雑な病態メカニズムにより、ABCB11遺伝子の変異は単に胆汁酸の輸送障害だけでなく、全身に影響を及ぼす重篤な疾患を引き起こします。そのため、ABCB11遺伝子変異による病態を理解し、早期の診断と適切な治療を受けることが非常に重要です。

BSEP欠損症

BSEP欠損症は、ABCB11遺伝子の変異によって引き起こされる疾患の一つです。この遺伝子は、胆汁酸の輸送を担当するATP結合カセット輸送体の一種であり、肝臓から腸への胆汁酸の正常な排出に不可欠です。

BSEP欠損症の特徴:

  • 発症時期:通常、新生児期や乳児期早期に発症します。
  • 主要症状:
    • 重度の胆汁うっ滞
    • 進行性の肝障害
    • 激しい掻痒感
    • 成長障害
    • 黄疸
  • 生化学的特徴:
    • 血清胆汁酸の著明な上昇(正常値の100倍以上に達することもある)
    • 血清ビリルビンの上昇
    • 血清γ-GTPは正常または軽度上昇
  • 組織学的特徴:
    • 肝細胞内の胆汁うっ滞
    • 巨細胞性肝炎
    • 進行性の肝線維化
  • 遺伝形式:常染色体劣性遺伝。保因者頻度は一般人口の1/112とされています。

BSEP欠損症により胆汁酸が肝臓に蓄積されると、胆汁の流れが悪化し、肝機能が低下することがあります。これに伴い、黄疸、疲労感、皮膚のかゆみといった症状が現れることが多いです。進行すると肝硬変や肝不全のリスクが高まるため、早期の診断と介入が求められます。

診断:

  • 臨床症状の評価
  • 血液検査:胆汁酸、ビリルビン、肝酵素の測定
  • 画像診断:超音波、MRI等
  • 肝生検
  • 遺伝子検査:ABCB11遺伝子の変異解析

治療:

  • 薬物療法:
    • ウルソデオキシコール酸(UDCA):胆汁酸の排泄を促進
    • リファンピシン:掻痒感の軽減
    • 脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の補充
  • 外科的治療:
    • 部分的外胆汁ドレナージ(PEBD)
    • 回腸バイパス術
  • 肝移植:
    • 進行例や他の治療法が無効な場合に検討
  • 新規治療法:
    • オデビキシバット(ASBTインヒビター):腸管での胆汁酸再吸収を阻害
    • マラリキシバット:同様にASBTを阻害

BSEP欠損症は遺伝性の疾患であり、親から子へ遺伝する可能性があります。家族に症状が見られる場合は、専門医の診察を受け、遺伝子検査や適切な治療を検討することが大切です。定期的なフォローアップが必要不可欠であり、患者自身やその家族がしっかりと情報を理解することが疾病管理に役立ちます。

ABCB11の診断と治療

ABCB11遺伝子に関連する疾患の診断は、主に臨床症状、生化学的検査、画像診断、遺伝子検査を組み合わせて行われます。医師は、患者の家族歴や症状を考慮しながら、以下のような診断プロセスを進めます。

  • 臨床症状の評価:
    • 黄疸
    • 掻痒感
    • 肝腫大
    • 成長障害
    • 脂溶性ビタミン欠乏症状
  • 血液検査:
    • 血清胆汁酸値(著明に上昇)
    • 血清ビリルビン値
    • 肝機能検査(AST、ALT、ALP)
    • γ-GTP(正常または軽度上昇)
    • 凝固因子(プロトロンビン時間など)
  • 画像診断:
    • 腹部超音波検査
    • MRI/MRCP(磁気共鳴胆管膵管造影)
    • 肝シンチグラフィー
  • 肝生検:
    • 光学顕微鏡検査
    • 電子顕微鏡検査(コメット尾状変化の確認)
  • 遺伝子検査:
    • ABCB11遺伝子の変異解析(全エクソンシーケンス)

これらの検査結果を総合的に評価し、ABCB11関連疾患の診断が行われます。

治療方法は、疾患の重症度や患者の状態に応じて異なります。以下に主な治療戦略を示します。

  • 薬物療法:
    • ウルソデオキシコール酸(UDCA):胆汁酸の排泄を促進し、肝細胞保護作用がある
    • リファンピシン:掻痒感の軽減に効果がある
    • オデビキシバット:腸管でのASBT(回腸胆汁酸トランスポーター)を阻害し、胆汁酸の再吸収を抑制
    • マラリキシバット:同様にASBTを阻害する薬剤
  • 栄養管理:
    • 中鎖脂肪酸(MCT)を主体とした低脂肪食
    • 脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の補充
  • 外科的治療:
    • 部分的外胆汁ドレナージ(PEBD):胆汁を体外に排出し、肝臓への負担を軽減
    • 回腸バイパス術:胆汁酸の再吸収を抑制
  • 肝移植:
    • 進行例や他の治療法が無効な場合に検討
    • PFIC2の場合、多くは10代までに肝移植が必要となる
  • 対症療法:
    • 掻痒感に対する局所療法(保湿剤、抗ヒスタミン薬など)
    • 黄疸に対する光線療法(新生児期)
  • 新規治療法の開発:
    • 遺伝子治療:ABCB11遺伝子を正常な遺伝子に置換する試み
    • 細胞治療:健康な肝細胞や幹細胞を移植する方法

治療においては、定期的なフォローアップが欠かせません。血液検査や画像診断を通じて、肝機能や胆汁うっ滞の状態を継続的に評価し、必要に応じて治療方針を調整します。また、患者のQOL(生活の質)を考慮し、掻痒感や栄養状態の管理にも注意を払います。

さらに、遺伝性疾患であることを考慮し、家族に対する遺伝カウンセリングも重要です。将来の妊娠計画や家族の健康管理に役立てることができます。

ABCB11関連疾患の管理は長期にわたるため、患者と家族の理解と協力が不可欠です。医療チームと密接に連携しながら、患者さん自身が積極的に治療に参加することが、良好な生活の質を保つ鍵となります。

ABCB11の最新研究

ABCB11に関する最新の研究は、その機能や関連疾患に対する理解を深める重要な手助けとなっています。近年、多くの研究者がABCB11遺伝子の変異と肝疾患との関連を解明するための研究を行っています。これにより、特定の変異がどのように病気の発症に寄与するのかが明らかになりつつあります。

最新の研究動向には以下のようなものがあります。

  • 遺伝子変異と表現型の関連性:

    研究者たちは、ABCB11遺伝子の様々な変異と、それに伴う臨床症状(表現型)の関連性を詳細に調査しています。これにより、特定の変異が重症度や予後にどのように影響するかが明らかになりつつあります。

  • 新規治療薬の開発:

    ABCB11の機能を改善または補完する新しい薬剤の開発が進められています。例えば、BSEPの機能を部分的に回復させる化合物や、代替的な胆汁酸排出経路を活性化する薬剤などが研究されています。

  • 遺伝子治療の可能性:

    ABCB11遺伝子の正常なコピーを導入する遺伝子治療の研究が進められています。ウイルスベクターを用いた遺伝子導入や、CRISPR-Cas9などのゲノム編集技術を用いた遺伝子修復の可能性が探られています。

  • バイオマーカーの探索:

    ABCB11関連疾患の早期診断や病態進行のモニタリングに役立つ新しいバイオマーカーの探索が行われています。これにより、より正確な診断や治療効果の評価が可能になると期待されています。

  • 細胞モデルの開発:

    患者由来のiPS細胞を用いて、ABCB11変異を持つ肝細胞モデルが作成されています。これらのモデルは、病態メカニズムの解明や新規治療法のスクリーニングに活用されています。

  • 薬物相互作用の研究:

    ABCB11/BSEPは多くの薬物の排泄にも関与しているため、薬物相互作用や薬剤性肝障害との関連性について研究が進められています。

  • エピジェネティクス研究:

    ABCB11遺伝子の発現調節メカニズムに関する研究が進んでおり、エピジェネティックな制御因子の同定や、それらを標的とした治療法の開発が検討されています。

  • 腸内細菌叢との関連:

    胆汁酸代謝と腸内細菌叢の相互作用に注目が集まっており、ABCB11関連疾患における腸内細菌叢の役割や、プロバイオティクスを用いた治療の可能性が研究されています。

これらの研究成果は、ABCB11関連疾患の患者のQOL向上につながる大きな可能性を秘めています。今後、基礎研究の成果が臨床応用へと発展していくことが期待されます。

遺伝子治療の可能性

遺伝子治療は、ABCB11遺伝子に関連する疾患に対して新しい治療の可能性を提供しています。遺伝子治療は、疾患の原因となる遺伝子の変異を修正または補充することで、正常な機能を回復させることを目指します。特に、ABCB11の機能不全が胆汁酸の輸送に影響を与える場合、この治療法が有効であると期待されています。

ABCB11遺伝子治療の主なアプローチには以下のようなものがあります。

  • 遺伝子補充療法:
    • 正常なABCB11遺伝子をウイルスベクター(例:アデノ随伴ウイルス、AAV)に組み込み、肝細胞に導入します。
    • この方法では、機能的なBSEPタンパク質の産生を促し、胆汁酸の排出機能を回復させることを目指します。
  • ゲノム編集技術:
    • CRISPR-Cas9などの最新のゲノム編集技術を用いて、変異したABCB11遺伝子を直接修復する試みが行われています。
    • この方法では、患者自身の遺伝子を修正するため、長期的な効果が期待できます。
  • mRNA療法:
    • 正常なABCB11遺伝子のmRNAを肝細胞に導入し、一時的にBSEPタンパク質を産生させる方法も研究されています。
    • この方法は、反復投与が必要ですが、安全性が高いと考えられています。
  • 幹細胞療法:
    • 患者由来のiPS細胞を用いて、正常なABCB11遺伝子を持つ肝細胞を作製し、それを患者に移植する方法が検討されています。
    • このアプローチは、遺伝子治療と細胞治療を組み合わせたものであり、患者の免疫反応を抑えつつ、長期的な治療効果が期待されています。

遺伝子治療の課題と展望

遺伝子治療は非常に有望なアプローチですが、いくつかの課題が残されています。

  • 安全性:
    • ウイルスベクターを使用する場合、免疫反応やオフターゲット効果(標的外の遺伝子に影響を与える可能性)が懸念されます。
    • 特に肝臓は血流が豊富であり、全身への影響が出る可能性があるため、安全性の確保が重要です。
  • 効率性:
    • 遺伝子導入の効率を高めることが課題です。特に肝細胞全体に均一に遺伝子を導入する必要があります。
  • コスト:
    • 遺伝子治療は現時点では非常に高額であり、多くの患者が利用できるようになるにはコスト削減が求められます。
  • 長期的な効果:
    • 遺伝子治療後の長期的な効果や副作用については、まだ十分なデータが得られていません。長期追跡調査が必要です。

これらの課題を克服するためには、基礎研究と臨床研究のさらなる進展が必要です。しかしながら、遺伝子治療はABCB11関連疾患の根本的な治療法として大きな期待を集めており、今後の技術革新によって実現可能性が高まると考えられています。

新しい治療薬の開発

ABCB11遺伝子に関連する疾患に対する新しい治療薬の開発も進んでいます。特に、胆汁酸輸送機能を補完または改善する薬剤や、胆汁酸代謝を調節する薬剤が注目されています。

オデビキシバット(Odevixibat)

オデビキシバットは、回腸胆汁酸トランスポーター(ASBT)阻害薬であり、胆汁酸の腸管再吸収を抑制します。これにより、体内の胆汁酸プールサイズを減少させ、肝臓への負担を軽減します。この薬剤はPFIC2などの胆汁うっ滞関連疾患に対して有効性が確認されており、一部では承認されています。

マラリキシバット(Maralixibat)

マラリキシバットもASBT阻害薬であり、オデビキシバットと同様に胆汁酸代謝を調節します。この薬剤は特に小児患者での使用が期待されており、掻痒感や肝機能障害の改善効果が報告されています。

BSEPシャペロン薬

BSEPシャペロン薬は、変異によって機能不全となったBSEPタンパク質を安定化させ、その機能を部分的に回復させることを目的とした薬剤です。このアプローチは、ABCB11遺伝子変異による疾患に対して特異的な治療法となる可能性があります。

胆汁酸代謝調節薬

胆汁酸代謝そのものを調節する薬剤も研究されています。例えば、核内受容体FXR(Farnesoid X Receptor)を活性化することで胆汁酸合成を抑制し、肝臓への負担を軽減する方法があります。FXRアゴニストとして開発されたオベチコール酸(Obeticholic Acid)はすでに一部の肝疾患で使用されており、ABCB11関連疾患への応用も期待されています。

患者支援と日常生活での対策

ABCB11遺伝子関連疾患は慢性的かつ進行性であるため、患者自身や家族による適切な管理とサポートが重要です。また、医師や医療チームとの密接な連携も欠かせません。

日常生活での対策

  • 食事管理:
    • 中鎖脂肪酸(MCT)主体の低脂肪食を心掛けることで脂肪吸収障害を補います。
    • 脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の補充も重要です。
    • アルコール摂取は控えるべきです。アルコールは肝臓への負担を増大させるため避けましょう。
  • 水分補給:
    • 十分な水分摂取は胆汁流動性を改善し、胆汁うっ滞予防に寄与します。
  • 運動:
    • 軽い有酸素運動は代謝改善やストレス軽減につながります。ただし過度な運動は避けましょう。
  • 掻痒感への対策:
    • 掻痒感にはリファンピシンや抗ヒスタミン薬などが処方されることがあります。
    • 保湿剤や冷却ジェルなども症状緩和に役立ちます。
  • 定期的な健康診断:
    • 血液検査や画像診断による定期的なフォローアップが必要です。病状進行や新たな合併症の早期発見につながります。

精神的サポート

  • 患者会への参加:
    • 同じ病気を抱える人々との交流は孤独感や不安感を軽減します。
    • 最新情報や治療法について共有できる場としても有益です。
  • 心理カウンセリング:
    • 長期的な病気管理によるストレスや不安感には専門家による心理カウンセリングがおすすめです。
  • 家族との協力:
    • 家族間で病気について正しい理解を共有し、一緒に管理計画を立てることが大切です。

まとめ

ABCB11遺伝子は胆汁酸輸送において重要な役割を果たしており、その変異は進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC2)や良性再発性肝内胆汁うっ滞症(BRIC2)などの重篤な疾患につながります。これらの疾患は早期診断と適切な治療介入によって予後が大きく改善する可能性があります。

近年では、新しい治療薬や遺伝子治療など革新的なアプローチが研究されており、多くの患者に希望をもたらしています。また、日常生活での適切な管理や精神的サポートも患者さん自身とその家族にとって重要です。

今後さらに研究が進み、新しい治療法や診断技術が開発されることで、多くの患者さんがより良い生活を送れるようになることが期待されます。医師との連携や最新情報へのアクセスを通じて、自身や家族の健康管理に積極的に取り組むことが大切です。

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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